【課題】アーク状態が良好で、スパッタが少なく、湯溜りが安定し、アンダーカットやオーバーラップがない健全な溶接ビードが得られ、スラグ被包性及びスラグ剥離性も良好で、ピットの発生が少なく、均等な脚長の溶接ビードを得ることができる2電極水平すみ肉ガスシールドアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】 2電極水平すみ肉ガスシールドアーク溶接方法において、先行電極に溶接用ソリッドワイヤ、後行電極に溶接用フラックス入りワイヤを用い、溶接用ソリッドワイヤは、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.5〜1.0%、Mn:1.2〜1.8%を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなり、先行電極と後行電極の電極間距離を10〜40mm、先行電極及び後行電極のワイヤ径を1.2〜2.0mmとし、且つ、先行電極のワイヤ径は後行電極のワイヤ径以下で溶接することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶や橋梁の分野ではガスシールドアーク溶接が広く使用されているが、溶接の更なる高能率化の目的から、例えば特許文献1、2に示すような2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接が提案され、長尺ロンジ溶接などに使用されている。この溶接法を用いれば、溶接速度を下げることなく溶着量を確保できるため、高能率な溶接が可能となる。
【0003】
図1に2電極1プール方式の水平すみ肉ガスシールドアーク溶接の状況を示す模式図を示す。
図1に示すように、2電極水平すみ肉ガスシールドアーク溶接で良好なビード形状を得るためには、先行電極ワイヤ1について鉛直方向に対し後方斜め方向に角度θ
1(以下、後退角という。)を持たせ、後行電極ワイヤ2について鉛直方向に対し前方斜め方向に角度θ
2(以下、前進角という。)を持たせ、その2電極間に安定した湯溜り3を形成することが重要である。なお、
図1中において、後行電極ワイヤ2の後方には溶融プール4が形成され、その溶融プール4の表面に溶融スラグ5及び凝固スラグ6が形成される。また
図1には、形成される溶接ビード7や、鋼板表面に塗布した無機ジンクのプライマ8も示している。
【0004】
しかし、2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接では、溶接電流が高電流域(例えば、両極とも溶接電流450A以上)になると、2電極間に形成される湯溜り3の状態及びアーク状態が2電極の強いアーク力の干渉によって不安定となり、溶接ビードのビード形状が乱れ、脚長も不均等な溶接ビードとなる。
【0005】
例えば、溶接速度1.0m/min以上での溶接で健全な溶接ビードを得ようとする場合、溶接電流を高くして溶着量を多く確保するため、高電流域での溶接となり、先行電極ワイヤ1と後行電極ワイヤ2のアーク力が共に強くなるため、それらアーク力によって湯溜り3も不安定となる。さらに、アーク状態も不安定になるため、最終的には湯溜り3自体の変動が非常に大きくなり、良好な溶接ビード7が形成できなくなるという問題点も生じる。また、後行電極の後方にある溶融プール4の表面に形成される溶融スラグ5も安定しないので、凝固してできる凝固スラグ6の被包状態も不均一となる。その結果、
図2に示すように、溶接部内にアンダーカット11やオーバーラッブ12といった欠陥が発生し、スラグ剥離性も不良となり、溶接ビードの脚長も不均等となる。
【0006】
また、近年、耐錆性の目的から、鋼板表面に無機ジンクのプライマ8が塗装されている鋼板(以下、プライマ塗装鋼板という。)が多く使用されている。このようなプライマ塗装鋼板を溶接した場合、
図2に示すように、立板9及び下板10に塗装したプライマ8や鋼板表面の赤錆及び付着する水分が溶接時に蒸気化して蒸気ガスが発生する。このため、ピット13が発生し、この手直し溶接に時間を要するため、生産コストが高くなるという問題がある。
【0007】
これら問題を解決する方法として、特許文献3には、2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接において、先行電極及び後行電極に用いるフラックス入りワイヤの含有成分を限定することにより、プライマ塗装鋼板を用いた場合の耐気孔性を改善する方法が開示されている。しかし、特許文献3に開示されたフラックス入りワイヤでは、溶接速度が1.0m/min以上になると、溶融プール4の表面を被包する溶融スラグ5が不足するため、凝固スラグ6が溶接ビード7を均一に被包することができず、ピット13の発生を十分に抑えることができないという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、軟鋼及び490N/mm
2級高張力鋼板をはじめとする各種鋼板を溶接する上で、前記課題を解決するため、無機ジンクなどのプライマ塗装鋼板を用いて2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接の施工条件について種々検討した。その結果、先行電極用のワイヤとして溶接用ソリッドワイヤ、後行電極用のワイヤとして溶接用フラックス入りワイヤを用いることで、後行電極ワイヤの溶接用フラックス入りワイヤから発生する溶融スラグを溶接ビードの表面に均一被包させ、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状を良好にすることができることを見出した。
【0015】
また、先行電極ワイヤの溶接用ソリッドワイヤから発生するアーク力が強いので、先行電極ワイヤと後行電極ワイヤ間に形成される湯溜り内で激しい撹拌作用が発生し、プライマから発生する蒸気ガスを湯溜り外に多量に放出することを促すことができることを見出した。また、溶接用ソリッドワイヤのC、Si、Mnの成分を限定することで、溶融池の攪拌作用を高めるとともに湯溜りの粘性を調整して湯溜りの不安定化が抑えられ、脱酸不足によるピットの発生を抑えることができることも見出した。
【0016】
さらに、溶接用ソリッドワイヤは、溶接用フラックス入りワイヤに比べて溶融金属の酸素量が少ないので、先行電極ワイヤに溶接用ソリッドワイヤを用いた場合、2電極ともに溶接用フラックス入りワイヤを用いた場合に比べて湯溜り内の酸素量が下がり、後行電極ワイヤの後方に形成される溶融プールの表面張力が上がるので、溶接ビードの垂れが少なくなり、立板側の溶接ビード端部及び下板側の溶接ビード端部が均等な溶接ビードが得られることを見出した。
【0017】
また、先行電極ワイヤと後行電極ワイヤとの電極間距離(アーク発生点の間隔)、先行電極ワイヤのワイヤ径を後行電極ワイヤのワイヤ径以下とすることによって、溶接時のアーク及び湯溜りを安定させてスパッタを低減し、アンダーカットやオーバーラップがない健全な溶接ビードが得られ、スラグ剥離性も良好にできることを見出した。
【0018】
以下に、本発明における2電極水平すみ肉ガスシールドアーク溶接方法の各溶接施工条件の限定理由を述べる。以下、組成における質量%は、単に%と記載する。
【0019】
[先行電極に溶接用ソリッドワイヤ、後行電極に溶接用フラックス入りワイヤを用いる]
溶接用ソリッドワイヤは、溶接用フラックス入りワイヤに比べて溶融金属の酸素量が少ない。無機ジンクなどのプライマ塗装鋼板を用いた2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接で先行電極に溶接用ソリッドワイヤを用いると、先行電極及び後行電極ともに溶接用フラックス入りワイヤを用いた場合に比べて湯溜り内の酸素量が下がり、後行電極ワイヤの後方に形成される溶融プールの表面張力が上がるので、溶接ビードの垂れが少なくなり、脚長が均等な溶接ビードを得ることができる。また、先行電極の溶接用ソリッドワイヤからのアーク力が強いので、2電極間に形成される湯溜りが激しく攪拌され、無機ジンクなどのプライマ塗装鋼板から発生した蒸気ガスが湯溜り外に放出されるので、ピットを低減することができる。
【0020】
先行電極及び後行電極ともに溶接用フラックス入りワイヤを用いた場合、湯溜り中の酸素量が多くなるので、溶接ビードが垂れやすくなり、溶接ビードの脚長が不均等となる。また、先行電極のアークが溶接用ソリッドワイヤを用いた場合より弱いので、2電極間の湯溜りが十分に攪拌されず、ピットの発生を十分に抑えることができない。
【0021】
先行電極及び後行電極ともに溶接用ソリッドワイヤを用いた場合、先行電極のアークと後行電極のアークとの相互干渉によってアーク状態が不安定となり、スパッタが多発する。また、後行電極のアークが強いので、溶接ビードが凸状になり、ビード形状が不良になる。さらに、両電極から供給されるスラグ形成剤が極めて少ないので、溶融スラグが溶融プールを全面被包できず、溶接ビードの垂れを支えきれなくなり、溶接ビードの脚長が不均等となるとともに、スラグ被包性及びスラグ剥離性も不良となる。
【0022】
先行電極に溶接用フラックス入りワイヤ、後行電極に溶接用ソリッドワイヤを用いた場合、ビード形状を整える働きをする後行電極に溶接用ソリッドワイヤを用いているので、後行電極からのアークが強く、溶接ビードが凸状となり、ビード形状が不良となる。また、溶融スラグが溶融プール全面に均一に被包できないので、溶接ビードの脚長も不均等となり、スラグ被包性及びスラグ剥離性が不良となる。
【0023】
したがって、先行電極には溶接用ソリッドワイヤ、後行電極には溶接用フラックス入りワイヤを用いるものとする。
【0024】
[先行電極の溶接用ソリッドワイヤのC:0.03〜0.10%]
Cはアーク状態への影響が大きく、先行電極の溶接用ソリッドワイヤのCが0.03%未満では、アークが弱く、湯溜り内において十分な撹拌作用が得られないためピットが発生する。一方、先行電極の溶接用ソリッドワイヤのCが0.10%を超えると、アークが強くなりすぎて湯溜りが安定せずスパッタ発生量が多くなり、ビード形状も不良となる。したがって、先行電極の溶接用ソリッドワイヤのCは0.03〜0.10%とする。
【0025】
[先行電極の溶接用ソリッドワイヤのSi:0.5〜1.0%]
Siは、脱酸作用の強い元素であり、溶融金属の脱酸によって湯溜りの攪拌作用が高まることから、ガスの放出を促進する効果がある。また、アークを安定にする効果がある。Siが0.5%未満であると、アークが不安定になるとともに湯溜りの攪拌作用が低下することからピットが発生する。一方、Siが1.0%を超えると、湯溜りの粘性が高くなりプライマから発生するガスを放出できなくなってピットの発生量が多くなる。したがって、先行電極の溶接用ソリッドワイヤのSiは0.5〜1.0%とする。
【0026】
[先行電極の溶接用ソリッドワイヤのMn:1.2〜1.8%]
MnもSi同様脱酸作用のある元素であり、溶融金属の脱酸によって湯溜りの攪拌作用が高まることから、ガスの放出を促進する効果がある。また、湯溜りの粘性を高めて安定に形成し、ビード形状が良好で均等な脚長を得ることができる。Mnが1.2%未満では、湯溜りの攪拌作用が低下することからピットが発生する。また、湯溜りの変動が大きくなり、ビード形状が不良で均等な脚長が得られない。一方、Mnが1.8%を超えると、湯溜りの粘性が高くなりすぎて湯溜りの形成が不安定になり、ビード形状も不良となる。したがって、先行電極の溶接用ソリッドワイヤのMnは1.2〜1.8%とする。
【0027】
なお、溶接用ソリッドワイヤの残部は、Fe及び不可避不純物である。そして、ワイヤ表面に銅めっきを0.2〜1μm施した溶接用ソリッドワイヤを用いることによってさらにアークが安定する。
【0028】
[先行電極と後行電極の電極間距離:10〜40mm]
2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接で安定した湯溜りを形成するためには、先行電極と後行電極の電極間距離(アーク発生点の間隔)を適正にする必要がある。先行電極と後行電極の電極間距離が10mm未満であると、2電極間に安定した湯溜りが形成されず、ビード形状が不良になる。さらに、先行電極のアークと後行電極のアークとの相互干渉によってアークが不安定になるので、スパッタ発生量及び鋼板へのスパッタ付着量も多くなる。一方、先行電極と後行電極の電極間距離が40mmを超えると、1プールの湯溜りが形成されず、先行電極で溶融したあとに凝固した金属の上に後行電極のアークが発生することになるので、アークが不安定となり、スパッタ発生量及び鋼板へのスパッタ付着量が多くなるとともに、ビード形状も不良となる。したがって、先行電極と後行電極の電極間距離は10〜40mmとする。
【0029】
[先行電極及び後行電極のワイヤ径:1.2〜2.0mm、且つ、先行電極のワイヤ径は後行電極のワイヤ径以下]
一般の船舶及び橋梁などの溶接構造物では、水平すみ肉溶接ビードの脚長は4mm超が必要とされ、先行電極及び後行電極のワイヤ径についても、脚長及び溶接速度に適応したワイヤ径を選定する必要がある。先行電極及び後行電極のワイヤ径が1.2mm未満であると、目標とする脚長(4mm以上)を確保するためにはワイヤ送給速度を上限近くまで上げなければならず、アークが不安定になり、スパッタの発生量が多くなり、ビード形状も不良となる。一方、先行電極及び後行電極のワイヤ径が2.0mmを超えると、通常のワイヤ送給装置ではワイヤが送給できず、専用のワイヤ送給装置を設置しなければならないので、設備コストが高くなる。さらに、先行電極のワイヤ径が後行電極のワイヤ径を超えると、アークの広がりが小さくなり、湯溜りが安定しないので、ビード形状が不良となる。したがって、先行電極及び後行電極のワイヤ径は1.2〜2.0mmとし、且つ、先行電極のワイヤ径は後行電極のワイヤ径以下とする。
【0030】
また、健全なビード外観を得るために先行電極及び後行電極の下板に対するトーチ角度を40〜60°、溶接進行方向に対する先行電極の後退角を1〜25°、溶接進行方向に対する後行電極の前進角を1〜25°にすることが好ましい。さらに、先行電極のアーク電圧は、スパッタ発生量を低減するためにフラックス入りワイヤ同士の組合せよりもアーク電圧を低くして、アークをいわゆる埋もれアークにすることが望ましい。
【0031】
[スラグ形成剤の合計:3.5〜8.5%]
前述の施工条件で2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接を行うことで、アーク及び湯溜りが安定し、スパッタ発生量及び鋼板へのスパッタ付着量が少なく、スラグ被包性、スラグ剥離性が良好で、アンダーカットやオーバーラップのない均等な脚長の溶接ビードが得ることができ、溶接の高能率化を達成することができる。一方、黒皮鋼板での溶接の場合、更にスパッタ発生量と鋼板へのスパッタ付着量低減、スラグ被包性及びスラグ剥離性並びにビード形状を良好にするためには、後行電極に用いる溶接用フラックス入りワイヤのスラグ形成剤量を限定する必要がある。
【0032】
溶接用フラックス入りワイヤのスラグ形成剤は、2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接で溶接ビードが形成される際、溶融スラグとなって溶接ビード全面を被包し、溶接ビードのビード形状を整えるとともに、溶融された金属が下板側に流れるのを防止し、溶接ビードの脚長を均等にする作用がある。ワイヤ全質量に対して、スラグ形成剤の合計が3.5%未満であると、スラグ生成量が不足して溶接ビード全面を均一に被包できないので、ビード形状が不良になるとともに、溶融スラグが溶接ビードに焼き付き、スラグ剥離性も不良となる。また、高電流高速度の溶接条件時にはスパッタ発生量が多くなり、鋼板への付着量も多くなる。一方、スラグ形成剤の合計がワイヤ全質量に対して8.5%を超えると、スラグ過多となってスラグ被包にムラが発生し、ビード形状が不良になる。したがって、溶接用フラックス入りワイヤにおけるフラックスに含まれるスラグ形成剤の合計はワイヤ全質量に対して3.5〜8.5%とする。
【0033】
なお、スラグ形成剤は、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、Na
2O、K
2O、Al
2O
3、FeO、Fe
2O
3、MgOなどの酸化物及びCaF
2、K
2SiF
6、Na
3AlF
6などの弗化物などの合計をいう。
【0034】
以上、本発明の後行電極に用いる溶接用フラックス入りワイヤの構成成分の限定理由を述べたが、残部は、鋼製外皮成分のC、Si、Mn、Fe、フラックス中の鉄粉、合金粉及び不可避不純物である。鉄粉は、溶着速度を高める目的から適量添加することができる。また、合金粉は、Si、Mn、Ti、Al、Mgなどの金属粉や、Fe−Si、Fe−Mn、Fe−Si−Mn、Fe−Al、Fe−Tiなどの鉄合金粉などをいい、溶接金属の機械的性質の向上などの目的から適量添加することができる。
【0035】
なお、前記の鋼製外皮は、フラックス充填した後の伸線加工性に優れる熱間圧延鋼帯で、鋼製外皮全質量に対して、質量%で、C:0.10%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.20〜0.80%、P:0.050%以下、S:0.050%以下のものが適しており、特に、Cが0.005〜0.03%のものは、スパッタ低減及び低ヒューム化にも有効である。
【0036】
また、溶接用フラックス入りワイヤのワイヤ断面形状は、かしめタイプまたはシームレスタイプのどちらでもよいが、ワイヤ表面に銅めっきを施すことができるシームレスタイプは、チップの摩耗が少なく、安定したアークが長時間維持することができ、溶接の高能率化を図ることができる。また、ワイヤに継ぎ目が無いので、吸湿性に優れており、長期間保管することができる。
【0037】
さらに、溶接用フラックス入りワイヤ中の水素量及び窒素量は、耐気孔性及び溶接金属の衝撃靭性の低下を防止するため、ワイヤ全質量に対して40ppm以下にするのが望ましい。
【0038】
また、スラグ剥離剤として、SをFeSなどの形態で故意に添加するのは有効であるが、Sがワイヤ全質量に対して質量%で0.030%を超えると、スラグ被包性が悪くなり、ビード形状が不良となる。
【0039】
本発明の2電極水平すみ肉ガスシールドアーク溶接方法で使用するシールドガスはCO
2ガスとする。
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0041】
熱間圧延鋼帯の軟鋼外皮(C:0.02%、Si:0.01%、Mn:0.35%、Al:0.02%、N:0.0015%)に、表1に示すスラグ形成剤の含有率からなる各種フラックスをフラックス充填率17%で充填し、鋼製外皮の端面同士を溶接してシームレス状にした後、各種ワイヤ径に縮径した溶接用フラックス入りワイヤを各種試作した。
【0042】
また、表2に示す各種試作した溶接用ソリッドワイヤの成分を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1に示す溶接用フラックス入りワイヤを後行電極に用い、表2に示す溶接用ソリッドワイヤと組み合わせて表3に示す溶接施工条件で、2電極1プール方式での水平すみ肉ガスシールドアーク溶接(1パス両側同時溶接)を行い、溶接作業性を調査した。なお、シールドガスはCO
2ガスを使用し、ガス流量25リットル/minで、溶接長750mmで溶接を行った。
【0046】
【表3】
【0047】
試験体は、490N/mm
2級高張力鋼表面に無機ジンクプライマを塗装した鋼板(プライマ膜厚は側面約15μm、端面はフライス加工、鋼板寸法:板幅100mm×長さ1000mm×板厚12mm)を用い、下板と立板との隙間がない状態でT字に組んだものを使用した。
【0048】
溶接試験の評価は、各試験のアーク安定性、スパッタ発生量、2電極間の湯溜りの安定性、スラグ被包性、スラグ剥離性、ピット発生数、ビード形状、脚長(実測値)について調査した。それら結果を表4にまとめて示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表3及び表4中No.1〜8が本発明例、No.9〜18は比較例である。
【0051】
本発明例であるNo.1〜6は、先行電極に溶接用ソリッドワイヤ、後行電極に溶接用フラックス入りワイヤを用い、溶接用ソリッドワイヤの化学成分(C、Si、Mn量)が適正範囲で、先行電極と後行電極の電極間距離を10〜40mm、先行電極及び後行電極のワイヤ径を1.2〜2.0mmとし、且つ、先行電極のワイヤ径は後行電極のワイヤ径以下で後行電極の溶接用フラックス入りワイヤのスラグ形成剤の合計量が適正範囲であるので、アークが安定し、電極間の湯溜り、スラグ被包性およびスラグ剥離性が良好で、スパッタ発生量及び鋼板へのスパッタ付着量が少なく、アンダーカットやオーバーラップがない健全な溶接ビードを得ることができ、ピットの発生も無く極めて良好な結果であった。
【0052】
なお、No.7は、後行電極に用いた溶接用フラックス入りワイヤ(FC4)のスラグ形成剤が少ないので、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状がやや悪かったが、溶接部の品質上の問題は無かった。また、No.8は、後行電極に用いた溶接用フラックス入りワイヤ(FC5)のスラグ形成剤が多いのでスラグ被包性、ビード形状がやや悪かったが、溶接部の品質上の問題は無かった。
【0053】
比較例中No.9は、先行電極に溶接用フラックス入りワイヤ、後行電極に溶接用ソリッドワイヤを用いたので、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良で、脚長も不均等であった。
【0054】
No.10は、先行電極の溶接用ソリッドワイヤ(SW6)のCが少ないので、アークが弱く湯溜りでの十分な撹拌作用が得られずピットが発生した。また、溶接用フラックス入りワイヤ(FC4)のスラグ形成剤が少ないので、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良であった。
【0055】
No.11は、先行電極の溶接用ソリッドワイヤ(SW7)のCが多いので、アークが強くスパッタ発生量が多く、湯溜りも安定化しなかったのでビード形状も不良であった。
【0056】
No.12は、先行電極の溶接用ソリッドワイヤ(SW8)のSiが少ないので、アークが不安定でピットも発生した。また、溶接用フラックス入りワイヤ(FC5)のスラグ形成剤が多いので、スラグ被包性及びビード形状が不良であった。
【0057】
No.13は、先行電極の溶接用ソリッドワイヤ(SW9)のSiが多いので、ピットが発生した。また、先行電極及び後行電極のワイヤ径が小さいので、アークが不安定となり、スパッタが多発し、ビード形状も不良であった。
【0058】
No.14は、先行電極の溶接用ソリッドワイヤ(SW10)のMnが少ないので、湯溜りの変動が大きくなり、ビード形状が不良で均等な脚長も得られなかった。また、ピットも発生した。
【0059】
No.15は、先行電極の溶接用ソリッドワイヤ(SW11)のMnが多いので、湯溜りの形成が不安定になり、ビード形状も不良であった。
【0060】
No.16は、先行電極と後行電極の電極間距離が短いので、アーク状態及び湯溜り状態が不安定となり、スパッタが多発し、ビード形状も不良であった。また、後行電極のワイヤ径が2.4mmであるので、専用の溶接電源及びワイヤ送給装置が必要となった。
【0061】
No.17は、先行電極と後行電極の電極間距離が長いので、アーク状態及び湯溜り状態が不安定となり、スパッタが多発し、ビード形状も不良であった。
【0062】
No.18は、先行電極のワイヤ径が後行電極のワイヤ径を超えているので、湯溜り状態が不安定となり、ビード形状も不良であった。