【実施例】
【0041】
[合成例1]
トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−イル−メチルネオペンタノエートの合成
8−ヒドロキシメチル−トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン(製品名:TCD-Alcohol M、サプライヤー:Oxea社)840gおよび十分な量のネオペンタン酸をトルエンに溶解し、これに酸触媒を添加して、加熱還流し常法のエステル化反応により、1200g(収率95%、純度99.7%)を無色の液状物として得た。
【0042】
[合成例2]
トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−イル−メチル−n−ペンタノエートの合成
合成例1のネオペンタン酸をn−ペンタン酸とする以外は、合成例1と同様に反応させることにより、1162g(収率92%、純度99.2%)を無色の液状物として得た。
【0043】
[合成例3]
トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−イル−メチルイソブタノエートの合成
合成例1のネオペンタン酸をイソブタン酸とする以外は、合成例1と同様に反応させることにより、1075g(収率90%、純度99.3%)を無色の液状物として得た。
【0044】
[合成例4]
トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−イル−メチルイソノナノエートの合成
合成例1のネオペンタン酸をイソノナン酸とする以外は、合成例1と同様に反応させることにより、1455g(収率94%、純度99.6%)を無色の液状物として得る。
【0045】
[合成例5]
トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−イル−メチルイソステアレートの合成
合成例1のネオペンタン酸をイソステアリン酸とする以外は、合成例1と同様に反応させることにより、2076g(収率95%、純度99.7%)を無色の液状物として得た。
【0046】
[合成例6]
トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−イル−メチルベヘナートの合成
合成例1のネオペンタン酸をベヘン酸とする以外は、合成例1と同様に反応させることにより得られる。
【0047】
[合成例7]
トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカ−8−イル−メチル−2−エチルヘキサノエートの合成
合成例1のネオペンタン酸を2−エチルヘキサン酸とする以外は、合成例1と同様に反応させることにより得られる。
【0048】
[合成例8]
3,8−ビス−(ネオペンタノイルオキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンの合成
3,8−ビス−(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン(CAS:26896-48-0、製品名:TCD-Alcohol DM、サプライヤー:Oxea社)840g、および十分な量のネオペンタン酸をトルエンに溶解し、これに酸触媒を添加して、加熱還流し常法のエステル化反応により、1420g(収率91%、純度99.4%)を無色の液状物として得た。
【0049】
[合成例A]
トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−イル−メチルアセテートの合成
8−ヒドロキシメチル−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(製品名:TCD-Alcohol M、サプライヤー:Oxea社)50g、および無水酢酸とピリジンとの混合物(モル比1:1)50gを95から100℃で還流し常法のエステル化反応により60g(収率95%、純度99.5%)を無色の液状物として得た。
【0050】
合成例1〜5および8で得られたエステル化合物の物性値を以下に示す。
なお、本明細書において、各トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンエステル化合物を以下の略号を使用して表す。
合成例1 TCDNP ネオペンタン酸とTCD-Alcohol Mのエステル
合成例2 TCDP n−ペンタン酸とTCD-Alcohol Mのエステル
合成例3 TCDIB イソブタン酸とTCD-Alcohol Mのエステル
合成例4 TCDIN イソノナン酸とTCD-Alcohol Mのエステル
合成例5 TCDIS イソステアリン酸とTCD-Alcohol Mのエステル
合成例8 TCDDNP ネオペンタン酸とTCD-Alcohol DMのジエステル
【0051】
<光沢性(屈折率)>
アッベ屈折計NTR−2T((株)アタゴ)を用いて20℃で測定し、屈折率とした。
【0052】
【表1】
【0053】
ネオペンタン酸イソデシル:商品名 ネオライト 100P(サプライヤー:高級アルコール工業社)
イソノナン酸イソトリデシル:商品名 KAK139(サプライヤー:高級アルコール工業社)
ネオペンタン酸イソステアリル:商品名 ネオライト 180P(サプライヤー:高級アルコール工業社)
テトライソステアリン酸ペンタエリスリチル:商品名KAK PTI(サプライヤー:高級アルコール工業社)
【0054】
表1に示されるように、式(I)の化合物は、化粧料に用いられる一般的エステルと比較して、屈折率が高い。したがって、式(I)の化合物は、光沢性の求められる化粧品への使用に適している。
【0055】
<粘度、すべり性>
エステル化合物の粘度を、ブルックフィールド粘度計 DV‐II+ (スピンドルNo.2、12rpm、25℃)を用いて測定した。比較として、化粧料に用いられる一般的な油剤の粘度も測定した。
エステル化合物のすべり性を、摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社)と検出部用治具(該テスターの付属品、人間の指を想定し、凸凹を施したシリコーンゴム)及び人工皮革(人工皮革サプラーレ、出光テクノファイン社製)を用いて測定した。人工皮革上に、エステル化合物を0.1ミリリットル滴下した。上記治具を人工皮革の表面の油剤を滴下した部位に当てた。皮革、油剤及び治具の温度を恒温槽において25℃に調節した。次いで、該治具を1mm/秒の速度で同一部位を1往復し(治具の移動距離は1往復で約80mmである)、1往復の平均摩擦係数(MIU)及び平均摩擦係数の変動値(MMD)を測定した。該測定を3回実施しMIU及びMMDの平均値を求め、すべり性の指標とした。また、比較として、粘度測定に使用した各種エステル化合物のMIU及びMMDも測定した。
結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
粘度とすべり性(MIU)との関係を
図1に示す。
TCDNPやTCDINは、同程度の粘度であるスクワラン(商品名:オリーブスクワラン、サプライヤー:高級アルコール工業社)、ホホバ種子油(商品名:エコオイル RS、サプライヤー:高級アルコール工業社)よりもすべり易さに優れている。式(I)の化合物は、粘度がある割にはすべり易いことが理解できる。
また、TCDNPは、ジメチコンと同等のすべり易さを有している。
したがって、スキンケア製品、メイクアップ製品やヘアケア製品などの幅広い処方への配合が可能である。
【0058】
<各種油剤との相溶性>
合成例1および8で得られたTCDNP、TCDDNPそれぞれと、各油性基剤とを重量比9:1または1:1で、80〜90℃の湯浴中で約30分間攪拌しながら溶解した後、50℃まで攪拌しながら冷却し、25℃の恒温室に保存した。1週間後の状態を目視により相溶性を評価した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示されるように、TCDNPおよびTCDDNPは、グリセリン(商品名:トリオール VE、サプライヤー:高級アルコール工業社)以外との相溶性に優れる。したがって、処方設計する際に油剤選びが容易であり、スキンケア・メイクアップ・ヘアケアなど幅広い処方への配合が可能である。
【0061】
<紫外線吸収剤の溶解性>
化粧品において用いられる一般的な紫外線吸収剤であるユビナール N 539 T(化粧品の成分表示名称: オクトクリレン、サプライヤー:BASF社)、および難溶解の紫外線吸収剤として知られ、溶解する油剤の限られているチノソーブ S(化粧品の成分表示名称: ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、サプライヤー:BASF社)の溶解性について、各油性基材とを室温(25℃)にて攪拌しながら溶解した後、25℃の恒温室にて保存した。1週間後の状態を目視により評価した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
式(I)の化合物は、化粧料成分として、紫外線吸収剤の溶解性が高いと言われているアジピン酸ジイソブチル(商品名:KAK DIBA、サプライヤー:高級アルコール工業社)、コハク酸ジエチルヘキシル(商品名:KAK DIOS、サプライヤー:高級アルコール工業社)と同等の溶解能を持つ。したがって、紫外線吸収剤を用いる処方設計が容易となり、幅広い処方が可能となる。
【0064】
[実施例1]
下記表5の各組成からなるリップスティックの製造を、常法により行った。各成分を所定量で混合し、次いで約110℃で攪拌しながら溶解して均一な混合物とした。この混合物を約30℃に冷却して、実施例1および比較例1のリップスティックを得た。実施例1には、合成例1で得られたエステル(TCDNP)を用いた。
【0065】
[評価]
リップスティックの物性を以下のように測定した。結果を表5に示す。
<保存安定性>
所定のガラス容器の底へペーパーを敷き、その上にリップスティックを置き、45℃のインキュベータに24時間保管した。保管後、リップスティックのみを取り出し、発汗によりペーパーに浸み込んだ油剤の量と保存前の重量を計量し、下記の計算式にて発汗率を求め、3段階評価により評価した。
計算式:(ペーパーに吸収された油の重さ/リップスティックの重さ)X100=発汗率(%)
A:0.5%以下(発汗していない)
B:0.5%〜1.0%(やや発汗を確認するが、実使用に問題ない)
C:1.0%以上(明らかに発汗を確認でき、実使用に問題あり)
【0066】
<付着性>
摩擦感テスターKES-SE(カトーテック株式会社)の試料台に人工皮革を置き、センサーの治具にリップスティックを取り付け、稼働。1往復〜3往復と稼働し、リップスティックが付着した人工皮革の重量と稼働前との重量差を付着量とした。1〜3往復の付着量の平均値を以下の評価基準で評価した。
A:5mg以上 (良好な付着性)
B:4〜5mg (適度な付着性)
C:4mg以下 (付着性に劣り、実使用に不適)
【0067】
<光沢性>
パラフィン紙に一定の厚さ・面積になるよう試料を塗布し、Glossymeter GL200(Courage + Khazaka electronic GmbH 製)にて(入射角60°−反射角60°)測定した。光沢度は、3回測定した平均値とし、下記の評価基準に基づき評価した。
A:光沢度60以上
B:光沢度が50〜60
C:光沢度50以下
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示されるように、比較例1のリップスティックと比較して、実施例1のリップスティックは、保存安定性および光沢性に優れ、付着性が一段と高い。
比較例1のリップスティックは、すべり性は良好であるが、付着感が十分ではない。その理由として、付着性を向上させるためには、オイルゲル化剤(Sylvaclear A200V)の濃度を減らさなくてはならず、そのオイルゲル化剤を減らすことで、口紅としての保存安定性が悪くなる(発汗が見られる)。一方、保存安定性を向上(発汗を抑制)するにはオイルゲル化剤の濃度を上げなくてはならないため、付着性が犠牲になっていた。
さらに、付着性が劣ると唇の光沢感も弱くなることから、付着後の唇のツヤ(光沢性)についても課題であった。
これに対し、式(I)の化合物を配合することにより、オイルゲル化剤(Sylvaclear A200V)の濃度を減らすことができるため、付着性が向上し、さらにオイルゲル化剤(Sylvaclear A200V)の濃度が減らされたにもかかわらず、保存安定性も光沢性も向上するという効果を奏した。
【0070】
[実施例2〜6]
合成例2〜5および8で得られたエステル化合物を用いて、下記表6の組成のリップスティックを実施例1と同様に製造した。
実施例1と同様に物性値を評価した。結果を表7に示す。
【0071】
[比較例2]
エステル化合物を含まない、下記表6の組成のリップスティックを実施例1と同様に製造した。
【0072】
[比較例A]
合成例Aで得られたエステル(RがC1のアルキル基である式(I)のTCDエステル)は、においが強く使用に耐えられなかったため、リップスティックの物性値の評価は行わなかった。
【0073】
【表6】
【0074】
実施例2:合成例2のエステル(n−ペンタン酸とTCD-Alcohol Mのエステル)
実施例3:合成例3のエステル(イソブタン酸とTCD-Alcohol Mのエステル)
実施例4:合成例4のエステル(イソノナン酸とTCD-Alcohol Mのエステル)
実施例5:合成例5のエステル(イソステアリン酸とTCD-Alcohol Mのエステル)
実施例6:合成例8のエステル(ネオペンタン酸とTCD-Alcohol DMのジエステル)
【0075】
【表7】
【0076】
本願のいずれのTCDエステルは、化粧品において実使用可能であることが確認できた。また、保存安定性、付着性の観点から、脂肪酸の炭素数5〜18であるTCDエステル(RがC4〜17の直鎖または分岐鎖アルキル基である式(I)TCDエステル)が好ましい。さらに、ネオペンタン酸とTCD-Alcohol DMのエステル(ジエステル)においても、良好な結果が得られた。
一方、イソブタン酸のTCDエステル(RがC3の分岐鎖アルキル基である式(I)TCDエステル)は、多少においがあったが、化粧品において実使用可能であると判断され、他のTCDエステルは、においが無いかまたは非常に弱く、あらゆる化粧品への適用に適している。
【0077】
[実施例7〜9]
実施例1および比較例2におけるベース油剤(イソノナン酸イソトリデシル)に代えて、以下の油剤を用いて、ベース油剤によるTCDエステルの添加効果を実施例1と同様に評価した。
【表8】
【0078】
リンゴ酸ジイソステアリル(商品名:ハイマレート DIS、サプライヤー:高級アルコール工業社)
エチルヘキサン酸セチル(商品名:CEH、サプライヤー:高級アルコール工業社)
ミリスチン酸オクチルドデシル(商品名:ODM、サプライヤー:高級アルコール工業社)
ジカプリン酸ネオペンチルグリコール(商品名:NPDC、サプライヤー:高級アルコール工業社)
【0079】
TCDNP無配合の場合は、それぞれのベース油剤において保存安定性・付着性に劣るが、TCDNPを配合することで保存安定性・付着性が向上。このことから、ベース油剤に関係なくTCDNPを配合することで従来処方よりも改善されることが確認できた。
【0080】
[比較例6]
エステル化合物の効果を評価すべく、TCDNPに代えて、同一の炭素数を有するラウリルアルコールとネオペンタン酸とのエステルを用いて、実施例1と同様にリップスティックを調製し、その物性値を比較して評価した。結果を表9に示す。
【0081】
【表9】
【0082】
表9の結果から、環状構造を有しないエステルであるネオペンタン酸ラウリルと比較して、環状構造を有するTCDNPが、優れた保存安定性、付着性、光沢性を与えることが確認できた。
【0083】
以下に、TCDエステルを用いた、メイクアップ製品、スキンケア製品、ヘアケア製品などの化粧品の処方例を示す。
【0084】
<メイクアップ製品>
【表10】
【0085】
【表11】
【0086】
【表12】
【0087】
【表13】
【0088】
【表14】
【0089】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良いため、リップグロスなどの多種の油剤が配合される処方へも配合可能であり、付着性・光沢性などが向上する。
(イソステアリン酸ポリグリセリル−2/ダイマージリノール酸)コポリマー(商品名:ハイルーセント ISDA、サプライヤー:高級アルコール工業社)
ダイマージリノール酸水添ヒマシ油:(商品名:リソカスタ DA−L、サプライヤー:高級アルコール工業社)
ヘキサイソノナン酸ジペンタエリスリチル(商品名:ハイルーセント DPIN6、サプライヤー:高級アルコール工業社)
【0090】
【表15】
【0091】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良く、紫外線吸収剤との溶解性もあるため、ファンデーションへの活用が可能である。
【0092】
【表16】
【0093】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良く、アイシャドウへの活用も可能である。
【0094】
<スキンケア製品>
【表17】
【0095】
【表18】
【0096】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良いため、クレンジング化粧料への活用が可能である。
【0097】
【表19】
【0098】
【表20】
【0099】
【表21】
【0100】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良く、紫外線吸収剤との溶解性もあるため、UV化粧料へも活用が可能である。
【0101】
【表22】
【0102】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良く、植物油を配合した美容オイルへも活用が可能である。
【0103】
<ヘアケア製品>
【表23】
【0104】
【表24】
【0105】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良く、エタノールを配合したヘアミストへも活用が可能である。
【0106】
【表25】
【0107】
【表26】
【0108】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良く、ヘアトリートメントへも活用が可能。
【0109】
【表27】
【0110】
TCDエステルは、様々な油剤との相溶性が良く、植物油やシリコーン油を配合したヘアオイルへも活用が可能。