特開2015-137310(P2015-137310A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オートネットワーク技術研究所の特許一覧 ▶ 住友電装株式会社の特許一覧 ▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特開2015-137310ポリウレタン組成物およびこれを用いた絶縁電線
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-137310(P2015-137310A)
(43)【公開日】2015年7月30日
(54)【発明の名称】ポリウレタン組成物およびこれを用いた絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20150703BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20150703BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20150703BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20150703BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08K5/18
   H01B7/02 Z
   H01B3/30 B
   H01B3/30 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-9649(P2014-9649)
(22)【出願日】2014年1月22日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】村尾 諭
【テーマコード(参考)】
4J002
5G305
5G309
【Fターム(参考)】
4J002CK031
4J002CK041
4J002CK051
4J002EN066
4J002FD070
4J002FD200
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ01
5G305AA02
5G305AB17
5G305AB24
5G305BA12
5G305CA18
5G305CA45
5G305CB16
5G305CD09
5G305CD13
5G305CD15
5G305DA23
5G309RA15
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れるポリウレタン組成物およびこれを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ジ(4−オクチルフェニル)アミンと、を含有するポリウレタン組成物とする。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ポリカーボネート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーであることが好ましい。また、150℃で10000時間放置した後にJIS C3005に準拠して測定される破断伸びが23℃において100%以上であることが好ましい。そして、このようなポリウレタン組成物を電線導体の外周に被覆して絶縁電線を形成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ジ(4−オクチルフェニル)アミンと、を含有することを特徴とするポリウレタン組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、ポリカーボネート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン組成物。
【請求項3】
150℃で10000時間放置した後にJIS C3005に準拠して測定される破断伸びが、23℃において100%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリウレタン組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物を電線導体の外周に被覆してなることを特徴とする絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン組成物およびこれを用いた絶縁電線に関し、さらに詳しくは、耐熱性に優れるポリウレタン組成物およびこれを用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、柔軟性、耐摩耗性に優れ、電線被覆材の材料として用いられている。耐熱性が要求される場合には、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに対し、酸化防止剤が添加されることがある。例えば特許文献1には、熱分解に対するポリウレタン組成物の安定化のために、フェノール系酸化防止剤を添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−531801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車のなかでも電気自動車やハイブリッド自動車の電源ケーブルに用いられる絶縁電線は、通電する電流が大きく、絶縁被覆材にはより高い耐熱性が要求される。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、柔軟性、耐摩耗性の面では優れるが、耐熱性の面では十分ではない。このため、より高い耐熱性が要求される部分で用いられる場合には、酸化防止剤が配合される。しかし、フェノール系酸化防止剤では、ポリウレタン組成物の耐熱性を向上させる効果が十分ではなかった。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、耐熱性に優れるポリウレタン組成物およびこれを用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係るポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ジ(4−オクチルフェニル)アミンと、を含有することを要旨とするものである。
【0007】
この場合、前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ポリカーボネート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーであることが好ましい。また、150℃で10000時間放置した後にJIS C3005に準拠して測定される破断伸びが、23℃において100%以上であることが好ましい。
【0008】
そして、本発明に係る絶縁電線は、上記のポリウレタン組成物を電線導体の外周に被覆してなることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るポリウレタン組成物によれば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ジ(4−オクチルフェニル)アミンと、を含有することから、より高い耐熱性を有する。このため、電気自動車やハイブリッド自動車の電源ケーブルの被覆材として用いたときにも、耐熱性を満足できる。
【0010】
この場合、前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーがポリカーボネート系の熱可塑性ポリウレタンエラストマーであると、耐熱性に特に優れる。また、150℃で10000時間放置した後にJIS C3005に準拠して測定される破断伸びが23℃において100%以上であると、耐熱性に特に優れる。
【0011】
そして、本発明に係る絶縁電線によれば、上記のポリウレタン組成物を電線導体の外周に被覆してなることから、より高い耐熱性を有する。このため、電気自動車やハイブリッド自動車の電源ケーブルとして用いたときにも、耐熱性を満足できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明に係るポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ジ(4−オクチルフェニル)アミンと、を含有する。
【0014】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、アクリル系、脂肪族系のものなどが挙げられる。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、これらのうちの1種を用いてもよいし、これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、より耐熱性に優れるなどの観点から、ポリカーボネート系のものがより好ましい。
【0015】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ポリオールとポリイソシアネートの反応により得られる。ポリオールとしては、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、脂肪族ポリオールなどが挙げられる。
【0016】
ポリカーボネートポリオールは、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのジオールと、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートまたはホスゲンと、の反応により得ることができる。
【0017】
ポリエステルポリオールは、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのジオールと、アジピン酸、無水フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロキシフタル酸などのジカルボン酸あるいはカプロラクトンと、の反応により得ることができる。
【0018】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0019】
アクリルポリオールは、アリル型アルコールと、アルキル(メタ)アクリレートと、任意のビニルモノマーと、を共重合することにより得ることができる。また、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと、アルキル(メタ)アクリレートと、任意のビニルモノマーと、を共重合することにより得ることができる。
【0020】
ポリイソシアネートとしては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族イソシアネート、これらの共重合物、ブロック体などが挙げられる。
【0021】
ポリウレタン組成物において、ジ(4−オクチルフェニル)アミンの含有量は、特に限定されるものではないが、熱可塑性ポリウレタンエラストマー100質量部に対し、0.005〜20質量部の範囲で配合すればよい。ジ(4−オクチルフェニル)アミンの含有量は、より好ましくは、0.01〜10質量部の範囲内、さらに好ましくは0.05〜5質量部の範囲内である。
【0022】
ポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ジ(4−オクチルフェニル)アミンに加えて、難燃剤、顔料、酸化防止剤、金属不活性化剤、滑剤などを適宜含有していてもよい。難燃剤としては、水酸化マグネシウム、臭素系難燃剤など、公知の難燃剤を用いることができる。
【0023】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。これらのうちの1種をジ(4−オクチルフェニル)アミンと組み合わせて用いてもよいし、これらのうちの2種以上をジ(4−オクチルフェニル)アミンと組み合わせて用いてもよい。
【0024】
フェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピノキ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもいずれでも良い。
【0025】
リン系酸化防止剤としては、ジフェニルノニルフェニルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
【0026】
硫黄系酸化防止剤としては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、4−メルカプトメチルベンズイミダゾール、5−メルカプトメチルベンズイミダゾール、これらの亜鉛塩などが挙げられる。
【0027】
金属不活性剤は、金属イオンと反応してキレート化合物等の不活性な物質を作る化合物や、金属表面に接触した際に金属表面を保護可能な化合物等を用いることができる。金属不活性剤は、具体的には3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール及びそのアシル化誘導体等のアミノトリアゾール系化合物、1,2,3−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物、デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジン等が挙げられる。これらは単独で使用しても2種以上を併用してもいずれでもよい。
【0028】
ポリウレタン組成物において、酸化防止剤の含有量は、特に限定されるものではないが、熱可塑性ポリウレタンエラストマー100質量部に対し、0.01〜10質量部の範囲で配合すればよい。また、金属不活性剤の含有量は、特に限定されるものではないが、熱可塑性ポリウレタンエラストマー100質量部に対し、0.01〜10質量部の範囲で配合すればよい。
【0029】
本発明に係るポリウレタン組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、ジ(4−オクチルフェニル)アミンと、必要に応じて添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより得ることができる。
【0030】
本発明に係るポリウレタン組成物は、耐熱性の観点から、150℃で10000時間放置した後にJIS C3005に準拠して測定される破断伸びが、23℃において100%以上であることが好ましい。
【0031】
次に、本発明に係る絶縁電線について説明する。
【0032】
本発明に係る絶縁電線は、本発明に係るポリウレタン組成物を絶縁被覆材の材料として用いたものである。絶縁電線の構成としては、導体の外周に直接、絶縁被覆材が被覆されていても良いし、導体とこの絶縁被覆材との間に、他の中間部材、例えば、シールド導体や他の絶縁体などが介在されていても良い。
【0033】
導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、適宜定めることができる。また、絶縁被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0034】
上記絶縁電線は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて溶融混練した本発明に係るポリウレタン組成物を、通常の押出成形機などを用いて導体の外周に押出被覆するなどして製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0036】
(供試材料)
・熱可塑性ポリウレタンエラストマー:DICバイエルポリマー「バンデックスT9290」(ポリカーボネート系)
・ジ(4−オクチルフェニル)アミン:精工化学「ノンフレックスOD−3」
・フェノール系酸化防止剤1:BASF「イルガノックス1010」
・フェノール系酸化防止剤2:BASF「イルガノックス245」
【0037】
(ポリウレタン組成物の調製および絶縁電線の作製)
表1に記載の組成(質量部)となるように各成分を混合することにより、ポリウレタン組成物を調製した。次いで、φ0.85mmの銅線の外周に上記のポリウレタン組成物を押出成形機で押出成形することにより、絶縁電線を作製した。
【0038】
(耐熱性試験)
作製した絶縁電線から銅線を抜き取り、長さ150mm、外径2.85mm、内径0.85mmの管状試験片を作製した。得られた管状試験片を所定の温度(160℃、170℃、180℃)で所定時間放置した後、熱老化させた管状試験片を用い、JIS C3005に準拠して、引張試験を行った。熱老化後の23℃における破断伸びが100%となる加熱時間を各加熱温度で求め、温度と時間の関係(アレニウスプロット)から、10000時間熱老化させた熱老化後の23℃における破断伸びが100%となる加熱温度を算出した。得られた温度を耐熱温度と評価した。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに対し酸化防止剤を配合しない比較例1や、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに対しフェノール系酸化防止剤を配合する比較例2,3よりも、熱可塑性ポリウレタンエラストマーに対しジ(4−オクチルフェニル)アミンを配合する実施例のほうが、より耐熱性に優れることがわかる。また、実施例では、10000時間熱老化後の破断伸びが100%となる温度が150℃であり、150℃耐熱性を満足するのに対し、比較例ではこれを満足しないことがわかる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。