【実施例】
【0037】
(実施例1)
上記コネクタピン用Cu−Fe系合金線材の実施例を、
図1を用いて説明する。コネクタピン用Cu−Fe系合金線材(以下、適宜「線材」と省略することがある。)は、10質量%以上のFeを含有し、残部がCu及び不可避不純物よりなる化学成分を有しているまた、
図1に示すように、線材は、Feを主成分とし、伸線方向に伸びた繊維状を呈するFe系粒子がCuを主成分とするCu系母相に分布している金属組織を有している。そして、Fe系粒子は、伸線方向と直角な方向に測定して得られる幅の平均値が0.5μm以下であり、かつ、伸線方向と平行な方向に測定して得られる長さの平均値が4μm以上である。以下、線材の作製方法及び詳細な構成について説明する。
【0038】
<コネクタピン用Cu−Fe系合金線材の作製方法>
線材は、従来公知の銅合金線材と同様の工程により作製することができる。すなわち、線材は、化学成分を所望の比率に調整したビレットを鋳造した後、熱間押出や熱間引抜などの熱間加工、溶体化処理や時効処理等のための熱処理及び冷間加工を適宜組み合わせることにより作製することができる。また、線材の作製工程は、Cu系母相中に、略柱状のFe系粒子が伸線方向に連なって分布する金属組織を生じさせるために、最終工程(伸線加工工程)において、冷間引抜または冷間圧延等の冷間加工を行う必要がある。
【0039】
また、上記金属組織をより効率的に生じさせるためには、伸線加工工程に供する中間材に急冷処理を施すように作製工程が構成されていることが好ましい。
【0040】
本例においては、Feを50質量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる試験材1と、C2600−H材よりなる試験材2との2種類の試験材を作製した。なお、試験材1及び試験材2は、一辺が0.64mmの正方形状断面を有する角線である。
【0041】
これらの試験材を用いて金属組織観察、機械特性及び導電率の評価を行った。以下に、その詳細について説明する。
【0042】
<金属組織観察>
・Fe系粒子の形態観察
まず、試験材1を伸線方向に沿って切断し、露出した断面を研磨した。その後、当該断面を電子顕微鏡により観察した。これにより得られた断面の電子顕微鏡写真を
図1に示す。
図1より知られるように、試験材1に含まれるFe系粒子は、伸線方向に伸びた繊維状を呈していた。
【0043】
・Fe系粒子の寸法分布の評価
集束イオンビーム−走査型電子顕微鏡複合装置(FIB−SEM、FEI社製「Helion NanoLab600」)を用いて、FIB加工による断面形成とSEMによる断面観察とを繰り返し行い、多数のSEM像を取得した。次いで、得られた多数のSEM像を再構成し、金属組織の3次元像を作成した。そして、得られた3次元像に基づいて、個々のFe系粒子の上記幅及び上記長さを測定し、これらの平均値を算出した。
【0044】
本例においては、縦10μm×横10μmの正方形状の視野を伸線方向に沿って0.2μm間隔で掘り下げることにより、直方体状の上記3次元像を作成した。そして、試験材1の3次元像中に存在する全てのFe系粒子について上記幅及び上記長さの測定を行った。その結果、3次元像中の全てのFe系粒子は、上記幅が0.1〜0.5μmの範囲内であり、かつ、上記長さが4〜30μmの範囲内であった。
【0045】
<機械特性評価>
・引張試験
JIS Z 2241に準じた方法により、試験材1及び試験材2の引張試験を行った。
【0046】
表1に、引張試験により得られた各試験材の引張強さ及び0.2%耐力を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より知られるように、試験材1の引張強さは700MPa以上であり、従来の銅合金(C2600−H材)よりなる試験材2に比べて高い強度を示した。
【0049】
・剛性評価
線材を用いて作製したコネクタピンの剛性を評価するため、以下の方法により剛性評価を行った。
【0050】
まず、試験材が水平となるようにして試験材の一方の端部をバイスにより固定し、他方の端部をバイスから突出させた。次いで、試験材の突出部分における、バイスから3mm離れた位置にプッシュプルゲージを上方から当接させた。その後、プッシュプルゲージを一定速度で鉛直下方に移動させ、試験材が変形した時点でプッシュプルゲージを停止させ、試験を完了した。以上の試験において、プッシュプルゲージに加わった最大荷重を測定した。なお、各々の試験材について10回の測定を行った。
【0051】
10回の測定により得られた最大荷重の平均値、最小値及び最大値を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2より知られるように、試験材1は、従来の銅合金(C2600−H材)よりなる試験材2に比べて最大荷重が大きくなった。
【0054】
以上の機械特性評価の結果から、線材よりなるコネクタピンは、従来の銅合金よりなるコネクタピンに比べて高い剛性を有するものとなることがわかる。
【0055】
<導電率測定>
4端子法を用いて試験材1及び試験材2の導電率を測定した。その結果、試験材1の導電率は30.9%IACSであり、試験材2の導電率は28%IACSであった。この結果から、線材よりなるコネクタピンは、従来の銅合金と同等以上の導電率を示すことがわかる。
【0056】
次に、本例の作用効果を説明する。コネクタピン用Cu−Fe系合金線材は、10質量%以上のFeを含有し、残部がCu及び不可避不純物よりなる化学成分を有している。そのため、線材は、従来の銅合金と同等以下の材料コストを容易に実現できる。
【0057】
また、線材は、Feを主成分とし、伸線方向に伸びた繊維状を呈するFe系粒子がCuを主成分とするCu系母相に分布している金属組織を有している。また、Fe系粒子の幅の平均値及び長さの平均値が上記特定の範囲内である。そのため、線材は、優れた曲げ加工性を示し、曲げ加工に伴う割れの発生を抑制することができる。
【0058】
また、線材は、Cuを主成分とするCu系母相を有しているため、はんだ濡れ性を向上させるためのSnめっき処理が可能である。それ故、線材は、コネクタピンに要求される電気的特性を満足することができる。
【0059】
また、線材は、特定の化学成分と、上述した金属組織との両方を具備していることにより、従来の銅合金よりも高い強度を有するものとなり易い。
【0060】
また、線材は、引張強さが700MPa以上である。そのため、線材は、従来の銅合金よりなる線材よりも線径を細くしても、コネクタピンの素材として十分な強度を有し、ひいてはコネクタ全体の小型化、軽量化に有利なものとなる。
【0061】
また、線材は、導電率が30%IACS以上である。そのため、線材は、コネクタピンに要求される導電率を満足でき、コネクタピンの素材として好適に用いることができる。
【0062】
以上のように、コネクタピン用Cu−Fe系合金線材は、加工性と強度の双方に優れ、材料コストの安価なものとなる。
【0063】
(実施例2)
本例は、上記コネクタピン用Cu−Fe系合金線材を用いて作製したコネクタピン11を有するコネクタ10の例である。
図2及び
図3に示すように、コネクタ10は、凹部41を備えたハウジング4と、ハウジング4を貫通して配置された複数のコネクタピン11とを有している。そして、コネクタピン11は、実施例1における試験材1に相当する線材より形成されている。
【0064】
ハウジング4は、
図2及び
図3に示すように略直方体状を呈しており、コネクタピン11が貫通する底壁部42と、底壁部42の外周縁部から立設された側壁部43とを有している。そして、底壁部42及び側壁部43により囲まれた空間が凹部41を構成している。
【0065】
コネクタピン11は、
図2及び
図3に示すように略棒状を呈しており、その一端に端子接続部111を有し、他端にはんだ付け部112を有している。本例のコネクタピン11は、
図3に示すように、凹部41内に配置された端子接続部111を基端として底壁部42へ向けて延設されている。また、コネクタピン11は、底壁部42を貫通してハウジング4の外方へ突出し、底壁部42とはんだ付け部112との間において90°曲げ加工が施され、コネクタピン11の長手方向と直角方向に屈曲される。すなわち、本例のコネクタピン11は、コネクタ10に配設された状態において、端子接続部111とはんだ付け部112とが互いに直角方向となるように屈曲されている。
【0066】
かかる構成において、90°曲げ加工により形成される屈曲部113の表面を観察したところ、90°曲げ加工に伴う割れやクラックの発生は認められなかった。このように、コネクタピン用Cu−Fe系合金線材1は、コネクタピン11の素材として好適に用いることができる。
【0067】
なお、本例においては、0.64mm角の正方形状断面を有する線材1を用いてコネクタピン11を形成したが、例えば
図4〜
図6に示すように、断面形状を種々の形状に変形することも可能である。コネクタピン11の断面形状としては、例えば、略円形、略長方形(
図4参照)、台形(
図5参照)、あるいは四角形状の断面において、互いに向かい合う端面の中央部を内側に窪ませた形状(
図6参照)等が考えられる。
【0068】
図4に示す断面形状が長方形状を呈するコネクタピン11(11b)は、伸線方向の断面における長辺114に対応する面同士が互いに向かい合うようにして複数のコネクタピン11bを一列に配列することにより、正方形状の断面を有するコネクタピン11に比べて配置スペースを省スペース化することができる。その結果、コネクタ10全体の小型化、軽量化をより容易に行うことができる。