(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-137413(P2015-137413A)
(43)【公開日】2015年7月30日
(54)【発明の名称】マーキング方法、金属製品、およびマーキングシステム
(51)【国際特許分類】
C25F 3/00 20060101AFI20150703BHJP
B23K 26/361 20140101ALI20150703BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20150703BHJP
【FI】
C25F3/00 C
B23K26/361
B23K26/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-11119(P2014-11119)
(22)【出願日】2014年1月24日
(71)【出願人】
【識別番号】592249496
【氏名又は名称】オーウエル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504459467
【氏名又は名称】有限会社Seed
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 大
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 雅宣
(72)【発明者】
【氏名】的場 敏浩
(72)【発明者】
【氏名】高山 真一
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD03
4E168DA23
4E168DA28
4E168JA11
(57)【要約】
【課題】マーキングの微細化を図ることが可能なマーキング方法を提供する。
【解決手段】マーキング方法は、金属の表面50aに塗膜51を形成する工程と、塗膜51を部分的に除去してパターニングする工程と、パターニングされた塗膜51aをマスクとして、電解により金属の表面50aにマーキングする工程と、パターニングされた塗膜51aを除去する工程とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を部分的に除去してパターニングする工程と、
パターニングされた前記塗膜をマスクとして、電解により前記金属の表面にマーキングする工程と、
パターニングされた前記塗膜を除去する工程とを備えることを特徴とするマーキング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマーキング方法において、
前記塗膜のパターニングはレーザにより行われることを特徴とするマーキング方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマーキング方法において、
前記塗膜はシロキサン結合を有する化合物を含むことを特徴とするマーキング方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のマーキング方法によりマーキングが施されていることを特徴とする金属製品。
【請求項5】
金属の表面に塗膜を形成する塗膜形成装置と、
前記塗膜を部分的に除去してパターニングするパターン形成装置と、
パターニングされた前記塗膜をマスクとして、電解により前記金属の表面にマーキングするマーキング装置と、
パターニングされた前記塗膜を除去する除去装置とを備えることを特徴とするマーキングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーキング方法、金属製品、およびマーキングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属の表面に対してマーキングする電解マーキング方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的に、従来の電解マーキング方法は、所定のパターンが形成されたステンシル(版)を金属の表面に配置する工程と、電解液を浸み込ませたマーキングヘッドをステンシルに押し当てる工程と、金属とマーキングヘッドとの間で通電させる工程とを備えている。これにより、ステンシルに形成されたパターンに対応する領域の金属が電解されることによって、金属の表面にマーキングが施される。ここで、ステンシルは、たとえばフィルム状物品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−167700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の電解マーキング方法では、ステンシルに形成されるパターンの微細化を図ることが困難であることから、マーキングの微細化を図ることが困難である。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、マーキングの微細化を図ることが可能なマーキング方法、金属製品、およびマーキングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるマーキング方法は、金属の表面に塗膜を形成する工程と、塗膜を部分的に除去してパターニングする工程と、パターニングされた塗膜をマスクとして、電解により金属の表面にマーキングする工程と、パターニングされた塗膜を除去する工程とを備える。
【0008】
このように、金属の表面に直接塗膜を形成し、その塗膜をパターニングすることにより、従来のステンシルを用いる場合に比べて、パターンの微細化を図ることができるので、マーキングの微細化を図ることができる。
【0009】
上記マーキング方法において、塗膜のパターニングはレーザにより行われていてもよい。
【0010】
上記マーキング方法において、塗膜はシロキサン結合を有する化合物を含んでいてもよい。
【0011】
また、本発明による金属製品は、上記したいずれか1つのマーキング方法によりマーキングが施されている。
【0012】
このように構成することによって、マーキングを微細化した金属製品を得ることができる。
【0013】
また、本発明によるマーキングシステムは、金属の表面に塗膜を形成する塗膜形成装置と、塗膜を部分的に除去してパターニングするパターン形成装置と、パターニングされた塗膜をマスクとして、電解により金属の表面にマーキングするマーキング装置と、パターニングされた塗膜を除去する除去装置とを備える。
【0014】
このように、金属の表面に直接塗膜を形成し、その塗膜をパターニングすることにより、従来のステンシルを用いる場合に比べて、パターンの微細化を図ることができるので、マーキングの微細化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマーキング方法、金属製品、およびマーキングシステムによれば、マーキングの微細化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態によるマーキングシステムの全体構成を示したブロック図である。
【
図2】金属製品に塗膜が形成された状態を模式的に示した断面図である。
【
図3】レーザにより塗膜がパターニングされた状態を模式的に示した断面図である。
【
図4】マーキング装置によりマーキングを行っている状態を模式的に示した断面図である。
【
図5】金属製品にマーキングが施された状態を模式的に示した断面図である。
【
図6】パターニングされた塗膜が金属製品から除去された状態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
−マーキングシステム−
まず、
図1〜
図6を参照して、本実施形態によるマーキングシステム100について説明する。
【0019】
マーキングシステム100は、
図1に示すように、塗膜形成装置1と、パターン形成装置2と、マーキング装置3と、除去装置4とを備えている。このマーキングシステム100は、金属製品50の表面50a(
図2参照)に対して電解(電気分解)によりマーキングを施すように構成されている。金属製品50は、たとえば、ステンレス製の医療用器具(メスや剪刀、鉗子など)である。マーキングシステム100は、金属製品50に二次元コードなどをマーキング可能に構成されている。
【0020】
塗膜形成装置1は、金属製品50の表面50aに塗膜51(
図2参照)を形成するように構成されている。この塗膜形成装置1は、たとえば、塗料を塗布するエアスプレー、および、塗布された塗膜51を加熱して硬化させる加熱装置などを含んでいる。なお、エアスプレーは、吐出量および空気圧などを調整することにより塗膜51の厚みを調整可能である。
【0021】
塗膜51は、5〜500μm程度、好ましくは7〜20μm程度の厚みを有しており、金属表面に対して電解によりマーキングする際のレジスト膜として機能する。このため、塗膜51は、金属製品50の表面50aの所定領域に形成されている。なお、所定領域は、平面的に見て表面50aに施されるマーキングを取り囲む領域である。塗膜51は、表面粗さの小さい金属表面に対して高い吸着性を有するとともに、高い電気絶縁性および耐電圧性を有する。また、塗膜51は、パターン形成装置2により溶融されることによって、除去可能に構成されている。すなわち、塗膜51は、電解によりマーキングする際のレジスト膜として要求される特性を有している。
【0022】
具体的には、塗膜51は、たとえば、シロキサン結合を主鎖とする架橋密度の高い三次元架橋構造を有する化合物を含んでいる。この塗膜51を形成するための塗料としては、たとえば、シリコン系塗料であり、好ましくはシロキサン結合を含むゾルゲル法による有機無機ハイブリッド塗料などが挙げられる。
【0023】
パターン形成装置2は、たとえばCO
2レーザマーカであり、塗膜51を部分的に除去してパターニングするように構成されている。具体的には、パターン形成装置2は、塗膜51にレーザL(
図3参照)を照射することにより、レーザLが照射された塗膜51を溶融させて除去するように構成されている。また、パターン形成装置2は、塗膜51の面上でレーザLを走査させることにより、所定のパターンを形成するようになっている。これにより、平面的に見て、塗膜51が形成された所定領域内において、所定のパターンが形成された領域の表面50aが露出されている。
【0024】
なお、所定のパターンは、表面50aに施されるマーキングと対応する形状であり、たとえば二次元コードを表す形状である。すなわち、パターン形成装置2は、マーキングが施される部分の塗膜51を除去し、その部分の表面50aを露出させるように構成されている。つまり、パターン形成装置2は、金属製品50の表面50aにパターニングされた塗膜51a(
図3参照)を形成するために設けられている。
【0025】
また、パターン形成装置2は、レーザLを出力する発振器、および、そのレーザLを塗膜51に照射させる偏向ミラーなどを含んでいる。このパターン形成装置2は、塗膜51に所定のパターンが適切に形成されるように、レーザ出力、Qスイッチ周波数および走査速度などが設定される。
【0026】
マーキング装置3は、パターニングされた塗膜51aをマスクとして、電解により金属表面にマーキングするように構成されている。このマーキング装置3は、マーキングヘッド31および交流電源32などを含んでいる。マーキングヘッド31には、電解液31a(
図4参照)を浸み込ませることが可能なフェルト(図示省略)などが設けられている。交流電源32は、金属製品50とマーキングヘッド31との間で通電させるために設けられている。
【0027】
そして、マーキング装置3では、電解液31aを浸み込ませたマーキングヘッド31がパターニングされた塗膜51aに押し当てられた状態で、交流電源32により通電されるようになっている。これにより、金属製品50の表面50aに着色領域50b(
図5参照)が形成されることによって、表面50aに所定のパターンと対応する形状のマーキングが施される。
【0028】
除去装置4は、苛性ソーダなどを用いたアルカリ洗浄を行うことにより、パターニングされた塗膜51aを金属製品50の表面50a(
図6参照)から除去するように構成されている。
【0029】
−マーキング方法−
次に、
図1〜
図6を参照して、マーキングシステム100のマーキング方法について説明する。
【0030】
まず、
図2に示すように、金属製品50の表面50aに塗膜51が形成される。具体的には、塗膜形成装置1(
図1参照)のエアスプレーにより、表面50aの所定領域に塗料が塗布される。そして、塗膜形成装置1の加熱装置により、その塗膜51が加熱されて硬化される。
【0031】
なお、塗膜51を形成するための塗料は、たとえば、シリコン系塗料であり、好ましくはシロキサン結合を含むゾルゲル法による有機無機ハイブリッド塗料であり、塗膜51の厚みは、たとえば10〜15μmである。また、塗膜51を加熱する条件は、たとえば、温度が160℃であり、時間が20分である。
【0032】
次に、
図3に示すように、パターン形成装置2(
図1参照)により、塗膜51にレーザLが照射される。これにより、塗膜51が部分的に除去されてパターニングされる。これにより、金属製品50の表面50aにパターニングされた塗膜51aが形成される。塗膜51に形成されるパターンは、平面的に見て、表面50aに施されるマーキングと対応する形状であり、たとえば、データマトリクスやQRコード(登録商標)などの二次元コードを表す形状である。なお、パターン形成装置2は、たとえば、株式会社キーエンス製のML−Z9510であり、レーザ出力条件が70%である。
【0033】
次に、
図4に示すように、マーキング装置3(
図1参照)により、パターニングされた塗膜51aをマスクとして、電解により表面50aにマーキングが施される。具体的には、パターニングされた塗膜51aにマーキングヘッド31が押し当てられる。すなわち、マーキングヘッド31がパターニングされた塗膜51aを介して表面50aと対向するように配置される。マーキングヘッド31には、電解液31aを浸み込ませたフェルト(図示省略)が設けられている。そして、交流電源32により、金属製品50とマーキングヘッド31との間で通電される。これにより、金属製品50が陽極になっている場合に、表面50aから電解液31aに金属イオンが溶け出し、電解液31a中の金属イオンが化学反応により着色される。そして、交流電源32の極性が切り替わり、金属製品50が陰極になった場合に、着色された金属イオンが表面50aに戻される。
【0034】
このため、
図5に示すように、金属製品50の表面50aに着色領域50bが形成され、表面50aにパターンと対応する形状のマーキングが施される。たとえば、金属製品50の表面50aには、二次元コードのマーキングが施される。なお、この交流電源32を用いたマーキングでは、電解液31aに溶け出した金属イオンが表面50aに戻されるため、マーキングが施された状態において表面50aがほぼ平坦になっている。
【0035】
その後、
図6に示すように、除去装置4(
図1参照)により、パターニングされた塗膜51aが金属製品50の表面50aから除去される。
【0036】
以上により、表面50aに形成された着色領域50bによるマーキングが施された金属製品50が得られる。
【0037】
−効果−
本実施形態では、上記のように、金属製品50の表面50aに直接塗膜51を形成し、その塗膜51をレーザLによりパターニングすることによって、従来のステンシルを用いる場合に比べて、パターンの微細化を図ることができるので、マーキングの微細化を図ることができる。したがって、マーキングすることが可能な領域が小さい金属製品50であっても、適切にマーキングを施すことができる。なお、パターンの最小セルサイズ(パターンを構成する最小単位の正方形領域の一辺の長さ)は、たとえば30μm程度である。
【0038】
また、本実施形態では、金属表面に直接塗布された塗膜51をパターニングし、そのパターニングされた塗膜51aをマスクとして電解によるマーキングを行うことによって、金属表面が湾曲している場合であっても、金属表面に対してマスクを追従させることができるとともに、金属表面に対してマスクがずれるのを防止することができる。これにより、金属表面が湾曲している場合であっても、電解によるマーキングを適切に行うことができる。
【0039】
また、本実施形態では、マーキングが施された状態において表面50aがほぼ平坦であることによって、金属表面に凹部を形成してマーキングする場合に比べて、金属製品50を洗浄しやすくすることができる。
【0040】
また、本実施形態では、電解によりマーキングを行うことによって、打刻式のマーキングやレーザマーキングを行う場合に比べて、金属製品50の表面50aに対するダメージを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、金属製品50に二次元コードのマーキングを施すことによって、金属製品50を容易に識別することができるので、金属製品50の使用履歴などを容易に管理することができる。すなわち、金属製品50のトレーサビリティを向上させることができる。
【0042】
このように、本実施形態の特徴である湾曲面への追従性の高さや洗浄のしやすさ、また、金属表面へのダメージの少なさは、剪刀や鉗子など医療用鋼製器具へのマーキングに特に適している。
【0043】
また、本実施形態では、塗膜51がシロキサン結合を有する化合物を含むことによって、電解によりマーキングする際のレジスト膜として要求される条件を満たすことができる。
【0044】
−他の実施形態−
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0045】
たとえば、本実施形態では、レーザLにより塗膜51をパターニングする例を示したが、これに限らず、フォトリソグラフィ技術を用いて塗膜をパターニングするようにしてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、金属製品50がステンレス製である例を示したが、これに限らず、金属製品がチタンなどのその他の金属製であってもよい。
【0047】
また、本実施形態では、金属製品50が医療用器具である例を示したが、これに限らず、金属製品が食品加工用器具などであってもよい。
【0048】
また、本実施形態では、金属製品50に二次元コードがマーキングされる例を示したが、これに限らず、金属製品に文字や図形などがマーキングされるようにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態では、エアスプレーにより塗膜51を形成する例を示したが、これに限らず、その他の塗装方法により塗膜を形成するようにしてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、パターン形成装置2がCO
2レーザマーカである例を示したが、これに限らず、パターン形成装置がファイバレーザマーカなどのその他のレーザマーカであってもよい。
【0051】
また、本実施形態では、マーキング装置3が交流電源32を含む例を示したが、これに限らず、マーキング装置が直流電源を含んでいてもよい。すなわち、金属表面に凹部または凸部を形成してマーキングするようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、マーキング方法、金属製品、およびマーキングシステムに利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 塗膜形成装置
2 パターン形成装置
3 マーキング装置
4 除去装置
50 金属製品
50a 表面
51 塗膜
51a パターニングされた塗膜
100 マーキングシステム