(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-137417(P2015-137417A)
(43)【公開日】2015年7月30日
(54)【発明の名称】コネクタ端子およびコネクタ端子材料
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20150703BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20150703BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20150703BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C22C5/06 C
H01B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-11485(P2014-11485)
(22)【出願日】2014年1月24日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】坂 喜文
(72)【発明者】
【氏名】須永 隆弘
【テーマコード(参考)】
4K044
5G307
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB10
4K044BA06
4K044BA08
4K044BA10
4K044BB03
4K044BB04
4K044BB05
4K044BC01
4K044BC14
4K044CA15
4K044CA18
4K044CA53
5G307BA02
5G307BB02
5G307BB05
5G307BC02
(57)【要約】
【課題】大電流を印加することができるとともに、表面の接触抵抗が低く抑えられたコネクタ端子およびコネクタ端子材料を提供すること。
【解決手段】コネクタ端子材料においては、他の導電性部材と接触する接点部を含む領域の最表面に、銀を主成分としてなる銀部3と、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、銀部3よりも高い硬度を有する合金部4と、が露出されている。合金部4は、銀−スズ合金または銀−インジウム合金よりなることが好ましく、また、銀部3は、最表面に露出した領域と、合金部4に被覆された領域と、に連続して形成されていることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の導電性部材と接触する接点部を含む領域の最表面に、銀を主成分としてなる銀部と、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、前記銀部よりも高い硬度を有する合金部と、が露出されていることを特徴とするコネクタ端子。
【請求項2】
前記合金部は、銀−スズ合金または銀−インジウム合金よりなることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ端子。
【請求項3】
前記銀部は、最表面に露出した領域と、前記合金部に被覆された領域と、に連続して形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ端子。
【請求項4】
前記合金部の平均の厚さは、1μm以下であることを特徴とする請求項3に記載のコネクタ端子。
【請求項5】
前記コネクタ端子は、銅または銅合金を母材としてなり、前記合金部および前記銀部と、前記母材との間に、ニッケルまたはニッケル合金よりなる中間層が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のコネクタ端子。
【請求項6】
前記合金部および前記銀部と、前記コネクタ端子の母材との間に、前記銀部と接触して、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、前記銀部よりも高い硬度を有する中間層を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のコネクタ端子。
【請求項7】
最表面の少なくとも一部に、銀を主成分としてなる銀部と、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、前記銀部よりも高い硬度を有する合金部と、が露出されていることを特徴とするコネクタ端子材料。
【請求項8】
前記合金部は、銀−スズ合金または銀−インジウム合金よりなることを特徴とする請求項7に記載のコネクタ端子材料。
【請求項9】
前記銀部は、最表面に露出した領域と、前記合金部に被覆された領域と、に連続して形成されていることを特徴とする請求項7または8に記載のコネクタ端子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ端子およびコネクタ端子材料に関し、さらに詳しくは銀を含む金属層を表面に有するコネクタ端子およびコネクタ端子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカーや、電気自動車等で高出力モータが使用されるようになっている。通電量が大きい高出力モータ用のコネクタ端子等では、コネクタ端子に大電流が流れるので、発熱量が大きくなる。また、電流容量に合わせてコネクタ端子も大きくなるため、挿入力が大きくなり、挿入時のコネクタ端子表面へのダメージも大きくなる。
【0003】
従来、自動車の電気部品等を接続するコネクタ端子としては、一般に、銅または銅合金などの母材の表面にスズめっきなどのめっきが施されたものが用いられていた。しかし、従来のスズめっき端子は、このような大電流で使用される場合には、耐熱性が不十分であり、挿抜も困難である。そこで、大電流が印加されるコネクタ端子として、スズめっき端子の代わりに銀めっき端子が用いられる。銀は低い抵抗率を有し、通電時の温度上昇が低く抑えられるとともに、高い融点を有し、発熱が生じる環境でも好適に使用することができる。また、銀めっきは、耐腐食性も非常に高い。
【0004】
しかし、銀は、非常に軟らかいうえ、凝着を起こしやすい性質を有するので、表面において高い摩擦係数を示す。また、銀は再結晶によって結晶粒が粗大化しやすい性質があり、銀めっきを施した端子を高温環境下で使用すると、結晶粒の成長による硬度の低下や、摩擦係数の上昇という問題が発生する。
【0005】
銀の有するこのような問題点を補うこと等を目的として、銀めっき層を複数の層より構成することが検討されてきた。例えば特許文献1では、母材からの銅成分の拡散の抑制に効果を有する結晶粒径の大きい軟質銀めっき層を下層とし、耐磨耗性の向上に効果を有する結晶粒径の小さい硬質銀めっき層を上層とした、2層の銀めっきを端子表面に形成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−169408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、銀表面の摩擦係数はスズなどの金属と比較して高い。よって、銀めっき端子では、上記特許文献1のような2層構造をとったとしても、銀自体の軟らかさと凝着しやすさによって、表面の摩擦係数が大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、大電流を印加することができるとともに、表面の接触抵抗が低く抑えられたコネクタ端子およびコネクタ端子材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるコネクタ端子は他の導電性部材と接触する接点部を含む領域の最表面に、銀を主成分としてなる銀部と、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、前記銀部よりも高い硬度を有する合金部と、が露出されていることを要旨とする。
【0010】
ここで、前記合金部は、銀−スズ合金または銀−インジウム合金よりなることが好ましい。
【0011】
また、前記銀部は、最表面に露出した領域と、前記合金部に被覆された領域とに、連続して形成されているとよい。
【0012】
この場合に、前記合金部の平均の厚さは、1μm以下であるとよい。
【0013】
そして、前記コネクタ端子は、銅または銅合金を母材としてなり、前記合金部および前記銀部と、前記母材との間に、ニッケルまたはニッケル合金よりなる下地層が形成されていることが好ましい。
【0014】
また、前記コネクタ端子は、前記合金部および前記銀部と、前記コネクタ端子の母材との間に、前記銀部と接触して、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、前記銀部よりも高い硬度を有する中間層を有することが好ましい。
【0015】
本発明にかかるコネクタ端子材料は、最表面の少なくとも一部に、銀を主成分としてなる銀部と、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、前記銀部よりも高い硬度を有する合金部と、が露出されていることを要旨とする。
【0016】
ここで、前記合金部は、銀−スズ合金または銀−インジウム合金よりなることが好ましい。
【0017】
また、前記銀部は、最表面に露出した領域と、前記合金部に被覆された領域とに、連続して形成されているとよい。
【発明の効果】
【0018】
上記発明にかかるコネクタ端子においては、接点部を含む領域に、銀部に加え、銀よりも硬い合金部が露出されている。銀は、高温でも軟化しにくく、かつ低い接触抵抗を維持するので、上記コネクタ端子は、銀部を有することで、大電流を印加するのに適したものとなっている。一方、合金部は、その硬さのために、銀部よりも低い摩擦係数を与え、また表面における凝着も小さい。よって、合金部が最表面に露出されることで、銀部表面における摩擦係数の高さおよび凝着しやすさを補い、接点部全体として、低い摩擦係数が与えられる。
【0019】
ここで、合金部が、銀−スズ合金または銀−インジウム合金よりなる場合には、合金部の寄与によって、表面の摩擦係数を低下させやすい。また、銀とスズまたはインジウムとの合金化によって、合金部を容易に形成できる。
【0020】
また、銀部が、最表面に露出した領域と、合金部に被覆された領域とに、連続して形成されている場合には、銀部を層状に形成した後に、その表面に、合金部を構成する金属間化合物を部分的に配置すること、あるいは金属間化合物を形成する銀以外の金属を部分的に配置してから合金化させることで、容易に合金部と銀部の両方が露出した表面を形成することができる。また、銀部に対する合金部の体積比が小さくなるので、高温等の影響で、コネクタ端子材料の最表面全体が合金となり、銀部が消失する事態を避けやすい。
【0021】
この場合に、合金部の平均の厚さが、1μm以下であれば、上記のような方法で、合金部と銀部の両方が露出した表面を容易に形成することができる。
【0022】
そして、コネクタ端子が、銅または銅合金を母材としてなる場合に、合金部および銀部と、母材との間に、ニッケルまたはニッケル合金よりなる下地層が形成されていれば、母材から合金部および/または銀部に母材中の銅原子が拡散し、最表面で酸化されて接触抵抗を上昇させることが防止される。
【0023】
また、コネクタ端子が、合金部および銀部と、コネクタ端子の母材との間に、銀部と接触して、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物よりなり、銀部よりも高い硬度を有する中間層を有する場合には、銀部が著しく摩耗され、銀部の内側の層が露出されたとしても、硬く摩耗を受けにくい合金よりなる中間層によって、相手側導電性部材との電気的接触を確保することができる。
【0024】
上記発明にかかるコネクタ端子材料を用いて、銀部と合金部を接点部に含むコネクタ端子を形成すれば、銀部の寄与によって、大電流の印加に適したコネクタ端子となるとともに、合金部の寄与によって、低い摩擦係数を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるコネクタ端子材料を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【
図2】上記コネクタ端子材料の変形例を示す断面図であり、(a)と(b)はそれぞれ別の例を示している。
【
図3】本発明の一実施形態にかかるコネクタ端子を示す断面図である。円で囲んだ図は、接点部の拡大斜視図である。
【
図4】実施例1の試料片の表面を観察したSEM像である。
【
図5】実施例1および比較例1の試料片に対する摩擦係数の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0027】
(コネクタ端子材料)
図1に、本発明の一実施形態にかかるコネクタ端子材料1の構成を模式的に示す。コネクタ端子材料1は、母材2の表面の少なくとも一部の領域に、銀部3と合金部4とを有する。コネクタ端子材料1の最表面には、銀部3と合金部4の両方が露出されている。
【0028】
母材2は、コネクタ端子材料1の基板となるものであり、どのような金属材料より構成されてもよい。端子母材として最も一般的に用いられる銅または銅合金を好適な材料として例示することができる。
【0029】
銀部3は、銀を主成分とする金属層であれば、純銀のみならず、酸化によって表面の接触抵抗を上昇させない程度であれば、少量の添加元素を含有していてもよい。一般に、ビッカース硬さが100あるいは150未満の銀層が軟質銀層と称され、それ以上の硬さを有する銀層が硬質銀層と称されるが、ここでは、銀部3は、軟質銀としての性質を有することが好ましい。硬質銀の場合は、その硬度を高めるために、セレンやアンチモン等の元素が添加されることが一般的であるが、これらの添加元素は、表面で酸化され、接触抵抗を上昇させやすいからである。
【0030】
合金部4は、銀と、銀以外の金属元素との金属間化合物(銀合金)よりなる。そして、合金部4は、銀部3よりも高い硬度を有する。合金部4の硬度は、ビッカース硬さで150以上であることが好ましい。合金部4は、銀部3よりも硬いという条件を満たせば、どのような銀合金よりなってもよいが、端子接点部を構成した際に、低い摩擦係数と、銀部3における良好な電気的接触を妨げない程度に低い接触抵抗を与えることが好ましく、また、銀部3とともに最表面に露出させて形成することが容易であることが好ましい。これらの観点から、合金部4を構成する好適な銀合金として、銀−スズ合金および銀−インジウム合金を挙げることができる。なかでも、銀−スズ合金を特に好適に採用することができる。銀−スズ合金の具体的な組成としては、Ag
3Sn〜Ag
5Snを挙げることができる。
【0031】
コネクタ端子材料1の最表面に合金部4と銀部3の両方が露出していることで、コネクタ端子材料1を用いてコネクタ端子を形成すれば、大電流印加用として好適に用いることができ、しかも、銀のみが最表面に露出されている場合と比較して、接点部表面の摩擦係数が低減されたコネクタ端子を得ることができる。銀が高い融点を有することに起因し、銀部3は、高温でも軟化されにくく、高い機械的強度を維持する。また、銀は低い抵抗率を有するため、大電流を印加しても温度が上昇されにくいうえ、高温でも酸化されにくい性質を有するので、温度が上昇しても、表面の接触抵抗が低く維持される。このような特性を有する銀部3を最表面に有することで、コネクタ端子材料1は、大電流用端子を形成するのに好適に用いることができる。一方、合金部4は、銀よりも硬い銀合金よりなるため、その表面は、銀よりも低い摩擦係数を有し、また凝着を起こしくい。このような特性を有する合金部4が、コネクタ端子材料1の最表面に銀部3とともに露出されていることで、銀部3表面の摩擦係数の高さと凝着しやすさを補って、コネクタ端子材料1全体として、低い摩擦係数が得られ、また凝着の発生が抑制される。これにより、コネクタ端子材料1を用いてコネクタ端子を形成すれば、最表面に銀のみが露出されている場合と比較して、端子の挿入に要する力(挿入力)が小さくて済むとともに、表面の摩耗が抑制される。
【0032】
図1(a)に示したように、コネクタ端子材料1の最表面に、銀部3と合金部4が混在して露出していれば、銀部3と合金部4は厚さ方向にどのように分布していてもよいが、
図1(b)のような厚さ方向の分布を好適なものとして挙げることができる。つまり、銀部3が、最表面に露出した領域のみならず、合金部4の下側(母材2側)の合金部4に被覆された領域にも存在し、両領域にわたって銀部3が一体に連続している。換言すると、略均一な厚さを有して層状に形成された銀部3の最表面部を、厚み方向および面内方向の一部の領域にわたって置換して、合金部4が配置されている。このように、合金部4が銀部3の表層のごく一部の領域にのみ形成されることで、合金部4が銀部3と略同じ厚さを有して形成される場合等と比較して、銀部3に対する合金部4の体積比が小さくなっている。これにより、仮にコネクタ端子材料1が通電によって非常に高温に加熱された場合等に、合金部4を形成する銀以外の金属原子が銀部3にまで拡散して、銀部3を構成する銀原子との合金化を起こしたとしても、合金化されない銀部3が消失されずに最表面に残されやすい。これによって、銀部3の寄与による低い接触抵抗が維持されやすくなっている。
【0033】
上記のような、合金部4が銀部3の厚み方向および面内方向の一部を占める構造は、例えば、銀部3を電解めっき法等によって層状に形成した後に、その銀部3の表面の一部を被覆するように、合金部4を構成する銀合金を配置すればよい。あるいは、同様に形成した銀層の表面の一部を被覆するように、銀との合金化によってその銀合金を形成する金属(以下、合金形成金属と称する)を配置したうえで、適宜加熱等を行って、銀層を構成する銀との間で、合金化反応を起こさせ、所定の銀合金とすればよい。銀合金または合金形成金属を、銀層の表面の一部を被覆するように配置する方法としては、溶融金属またはめっき液等、銀合金または合金形成金属を含む液体を銀層の表面に噴霧する方法(噴霧法)、パターンめっきを行う方法等が挙げられる。これらのうち、簡便性の観点からは、めっき液を用いた無電解噴霧が好ましい。また、同様に簡便性の観点から、銀合金を直接噴霧するよりも、合金形成金属を噴霧してから合金化させる方が好ましい。
【0034】
合金部4が、銀−スズ合金または銀−インジウム合金よりなる場合には、上記のように銀層を形成した上に、それぞれスズめっき液またはインジウムめっき液を無電解噴霧することで、合金部4が銀部3の厚み方向および面内方向の一部を占める上記のような構造を容易に形成することができる。スズおよびインジウムは、室温で容易に銀との間に合金化反応を起こすので、特に加熱等を行わなくても、噴霧されたスズまたはインジウムが、周囲を囲む銀と合金化し、銀−スズ合金または銀−インジウム合金を形成するからである。
【0035】
このように、噴霧法によって合金部4を形成する場合には、合金部4の平均の厚さを1μm以下とすることが好ましい。1μm程度の厚さの合金部4であれば、噴霧法によって、容易に形成することができる。厚い合金部4の場合は、同様に噴霧法を用いて形成することは難しい。一方、摩擦係数低減の効果を十分に発揮させる観点から、合金部4の平均の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。なお、合金部4が形成されていない部位における銀部3の厚さは、大電流印加時に低接触抵抗を維持する効果を十分に得る観点から、1μm以上であることが好ましい。一方、材料コスト抑制等の観点から、銀部3の厚さは、10μm以下であることが好ましい。
【0036】
上記のように、噴霧法等を用いて先に形成しておいた銀層の表面の一部に銀合金または合金形成金属を配置する方法以外に、銀部3と合金部4がともに最表面に露出した構造を形成する方法としては、ブラスト法を用いるものが挙げられる。つまり、例えば、合金部4を構成する銀合金または合金形成金属よりなる微粒子を、母材2の表面に散布し、その上に、微粒子の頂部が露出するような厚さで、銀部3を形成すればよい。そして、微粒子が合金形成金属よりなる場合には、適宜加熱等を行って、銀との合金化を起こせばよい。
【0037】
コネクタ端子材料1の最表面は、銀部3と合金部4の両方が混在して露出されていれば、銀部3と合金部4がどのようなパターンをとって最表面上に分布していてもよい。例えば、
図1(a)に示すように、合金部4が島状に点在し、その周囲を銀部3が取り囲んでいる構造を挙げることができる。あるいは、銀部3と合金部4がまだら状に入り組んだパターンをとっていてもよい。
【0038】
コネクタ端子材料1の最表面において、銀部3と合金部4は、どのような径および間隔を有する領域としてそれぞれ露出されていてもよいが、上記のように、噴霧法によって合金部4を形成する場合には、最表面上における合金部4のピッチ(合金部4が露出した領域の重心の間を結ぶ距離の平均値)が500μm以下である構造を好適に形成することができる。また、後述するように、本コネクタ端子材料1を用いてコネクタ端子を形成する場合に、接点部内に銀部3と合金部4の両方が露出されていることが好ましく、自動車用に使用される汎用的なコネクタ端子の接点部の大きさを考慮すると、合金部4のピッチが500μm以下であれば、この条件を満たす観点からも好適である。
【0039】
また、コネクタ端子材料1の最表面における合金部4の露出率(最表面全体の面積に対する合金部4の露出面積の割合)は、5〜30%の範囲にあることが好ましい。この範囲よりも合金部4の露出率が低いと、合金部4による摩擦係数低減の効果が得られにくくなる。一方この範囲よりも合金部4の露出率が高いと、銀部3の露出率が小さくなることにより、表面の接触抵抗が大きくなりやすくなる。
【0040】
合金部4および銀部3の両方で相手側導電部材等と接触しやすくする観点から、コネクタ端子材料1の最表面は平滑であることが好ましく、合金部4と銀部3の間の高低差は小さい方が好ましい。上記のように、銀層の上に、スズやインジウム等の合金形成金属を含む液体を噴霧してから合金化させる方法によって合金部4を形成する場合には、合金部4を銀部3に対してほぼ平滑に形成することができる。
【0041】
本コネクタ端子材料1は、最表面に銀部3と合金部4が露出した構造を有していれば、母材2と銀部3および合金部4の間に、別の金属よりなる層を適宜有していてもよい。例えば、
図2(a)に示すように、母材2の表面に接触して、ニッケルまたはニッケル合金よりなるニッケル下地層5が形成されていてもよい。ニッケル下地層5は、コネクタ端子材料1が高温に晒された際に、母材2を構成する銅原子が銀部3や合金部4に拡散するのを抑制することができる。銀部3や合金部4に拡散した銅原子がコネクタ端子材料1の最表面に達して酸化されると、接触抵抗を上昇させてしまう。ニッケル下地層5の厚さは、銅原子の拡散防止を達成できる必要十分な厚さとして、0.5〜1μmの範囲にあることが好ましい。
【0042】
また、本コネクタ端子材料1においては、
図2(b)に示すように、銀部3の下層(母材2側)に、銀部3と接触して、合金中間層6が設けられてもよい。合金中間層6は、銀と銀以外の金属元素よりなる金属間化合物(銀合金)よりなり、銀部3よりも高い硬度を有する。合金中間層6は、最表面に露出する合金部4と同じ銀合金より形成されても、異なる銀合金より形成されてもよいが、コネクタ端子材料1の製造の簡便性等の観点から、同じ銀合金よりなることが好ましい。つまり、例えば合金部4が銀−スズ合金よりなる場合、合金中間層6も銀−スズ合金よりなることが好ましい。
【0043】
合金中間層6が形成されていると、銀部3が激しく摩耗するようなことがあった場合に、高い硬度を有する合金中間層6は、摩耗を受けにくく、最表面に露出することになる。合金中間層6は、銀合金であり、ある程度低い接触抵抗を与えるので、銀部3の摩耗によって合金中間層6露出したとしても、合金中間層6によって相手側導電性部材等との電気的接触が確保される。合金中間層6の厚さは、このような効果が得られる必要十分な厚さとして、1〜45μmの範囲にあることが好ましい。
【0044】
ただし、合金中間層6を形成する銀以外の金属である合金形成金属が銀部3に拡散されるような高温の状態においては、合金中間層6から拡散した合金形成金属が、銀部3を構成する銀との間に銀合金を形成し、最表面に露出される銀部3が合金化しない銀のままで残されにくくなるので、合金中間層6を設けることは好ましくない。例えば、合金中間層6が銀−スズ合金よりなる場合に、コネクタ端子材料1が使用中におおむね120℃以上に加熱されることが想定されるようであれば、合金中間層6は設けない方がよい。120℃未満でしか使用されないのであれば、上記のように、銀部3の摩耗時に電気的接触を確保する観点から、合金中間層6を設ければよい。
【0045】
(コネクタ端子)
次に、本発明の一実施形態にかかるコネクタ端子について説明する。このコネクタ端子は、上記で説明した本発明の実施形態にかかるコネクタ端子材料1より形成され、他の導電性部材と電気的に接触する接点部の最表面に、銀部3と合金部4とが露出されている。
【0046】
コネクタ端子は、どのような形状を有していてもよいが、一例として、メス型コネクタ端子10の構成を
図3に示す。メス型コネクタ端子10は、公知のメス型コネクタ端子と同様の形状を有する。すなわち、メス型コネクタ端子10の挟圧部15は、前方が開口した四角筒状に形成され、挟圧部15内にオス型コネクタ端子19が挿入される。メス型コネクタ端子10の底面板11の内側には、内側後方へ折り返された形状の弾性接触片12が形成されている。弾性接触片12はオス型コネクタ端子19に上向きの力を加える。そして、天井板の弾性接触片12と相対する表面が内部対向接触面14とされ、オス型コネクタ端子19が弾性接触片12によって内部対向接触面14に押し付けられることにより、オス型コネクタ端子19が弾性接触片12と内部対向接触面14の間に挟圧保持される。
【0047】
弾性接触片12のオス型コネクタ端子19に接する部分には、エンボス部13が形成されている。エンボス部13は頂点を含む接点部でオス型コネクタ端子19と接触する。
【0048】
メス型コネクタ端子10の少なくともエンボス部13の頂部を含む領域に、
図3中拡大斜視図で示したように、銀部3と合金部4が形成されている。そして、エンボス部13のうち、実質的にオス型コネクタ端子19と接触する接点部内に、銀部3と合金部4の両方が露出されている。つまり、コネクタ端子材料1において、
図1(a)のように、合金部4が銀部3に囲まれて島状に点在している場合には、エンボス部13上の接点部の表面に少なくとも1つの合金部4が含まれている。これにより、エンボス部13の接点部が、銀部3と合金部4の両方で雄型コネクタ端子19と接触し、メス型コネクタ端子10とオス型コネクタ端子19の間に、高温まで低い接触抵抗が維持されるとともに、低い摩擦係数が与えられる。もし、接点部内に銀部3しか露出されていなければ、摩擦係数が高くなりやすく、合金部4しか露出されていなければ、特に高温において、合金部4の酸化によって接触抵抗が高くなりやすくなる。
【0049】
銀部3と合金部4がともに露出された構造は、メス型コネクタ端子10のエンボス部13上のみならず、メス型コネクタ端子10のさらに広い範囲に形成されていてもよい。最も広い場合にメス型コネクタ端子10の表面全体に形成されていてもよい。また、オス型コネクタ端子19の表面にも同様の構造が形成されていてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0051】
[試料の作製]
(実施例1)
清浄な銅合金母材の表面に、厚さ1μmのニッケル下地層を、電解めっき法によって形成した。この表面に、厚さ5μmの軟質銀層を電解めっき法によって形成した。ここに、スズめっき液を無電解で噴霧した。このようにして得た試料片を、実施例1にかかる試料片とした。
【0052】
(比較例1)
実施例1の試料片において、スズめっき液を噴霧する前の、ニッケル下地層および軟質銀層を形成した状態の試料片を、比較例1にかかる試料片とした。
【0053】
[試験方法]
(表面構造の評価)
実施例1にかかる試料片について、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、表面の観察を行った。
【0054】
(摩擦係数の評価)
実施例1および比較例1にかかる試料片に対して、摩擦係数の測定を行った。つまり、実施例1の試料片を用いて、平板型部材と、半径3mmのエンボス型部材を作製した。そして、平板型部材とエンボス型部材を鉛直方向に接触させて保持し、ピエゾアクチュエータを用いて鉛直方向に5Nの荷重を印加しながら、10mm/min.の速度でエンボス型部材を水平方向に引張り、ロードセルを使用して接点部に働く摩擦力を測定した。摩擦力を荷重で割った値を摩擦係数とした。比較例1の試料についても、同様に平板型部材とエンボス型部材を作製し、摩擦係数を測定した。
【0055】
[試験結果および考察]
(表面構造の評価)
図4に、実施例1にかかる試料片表面のSEM観察像を示す。ここれを見ると、銀−スズ合金に帰属される暗く観察される領域と、銀に帰属される明るく観察される領域とが表面に混在して露出されている。表面全体において、銀−スズ合金が露出されている領域の割合は、15%となっている。
【0056】
(摩擦係数の評価)
図5に、実施例1および比較例1の試料片に対する摩擦係数の測定結果を示す。これによると、比較例1にかかる軟質銀のみが露出された試料においては、1.0〜1.2の摩擦係数が観察されているのに対し、実施例1の銀と銀−スズ合金がともに露出された試料においては、0.4〜0.6と、比較例1の場合の半分以下の低い摩擦係数が得られている。このことは、試料片の最表面に、軟らかく、高い摩擦係数を与える銀だけでなく、硬い銀−スズ合金が露出されていることで、試料片全体として、低い摩擦係数が得られることを示している。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 コネクタ端子材料
2 母材
3 銀部
4 合金部
5 ニッケル下地層
6 合金中間層
10 メス型コネクタ端子
12 弾性接触片
13 エンボス部
19 オス型コネクタ端子