【解決手段】ガスケット1は、断面が波形状の、環状の金属板21及び該金属板21を覆う膨張黒鉛シート22を有する中芯材2と、この中芯材2の少なくとも上部、下部及び内周側端部を覆うフッ素系樹脂製の被覆材3とを有する構成としてある。
前記被覆材が、前記中芯材の上部、下部、内周側端部及び外周側端部を覆い、該被覆材が、上側シート部、下側シート部及び連結部を有し、前記上側シート部及び下側シート部の外周側縁部どうしが、縫合されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のガスケット。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスケットとして石綿ジョイントシートが使用されていたが、安全性の観点から、近年では、ノンアスベストジョイントシート又はうず巻形ガスケットなどが使用されている。
このノンアスベストジョイントシートとして、金属と膨張黒鉛シートを組み合わせたガスケットなどが挙げられる。特に、石油精製工場や石油化学工場などでは、断面が波形状の金属板の両面に、膨張黒鉛シートを接着したガスケットなどが使用されている。
【0003】
次に、本発明に関連する技術について説明する。
たとえば、特許文献1には、フッ素樹脂に介装されるクッション部材が、バーミキュライトシートで形成されているフッ素樹脂被覆ガスケットが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、同心又はほぼ同心状の波形形状に形成された金属板製のコア層と、その表裏の両面に積層される膨張黒鉛製の表面層とから成る三層構造のシール部を有し、前記シール部の外周端においては、前記コア層が前記表裏の各表面層よりも外径側に突出され、前記シール部の内周端においては、前記表裏の各表面層が前記コア層よりも内径側に突出されて前記コア層を覆う状態に構成されている非石綿ガスケットが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、同心円の波形を付けた金属薄板の谷部に粉体のシール材を充填し、該金属薄板の両面にシール性を有するシートを積層接着したことを特徴とするガスケットの技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、軸心方向視が同心円又はほぼ同心円を呈する状態に断面形状が波形に形成される円環状の金属薄板と、前記金属薄板の両面夫々に積層配備されるPTFEシートとを備えて成るとともに、前記PTFEシートの厚さが、前記金属薄板の波高さ以上で、かつ、前記波高さの2.5倍以下の範囲に設定されているガスケットが開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、両面に波形加工が施されたコルゲート状の金属板の両面に被覆材を貼り合わせてなり、該金属板の一方の面は2山部以上の波形が、他方の面は1山部以上の波形がそれぞれ加工されたものであって、下記(1)〜(4);
(1)該金属板の厚み(t
0)が0.4〜1.2mm、
(2)該波形の高さ(t
1)と該金属板の厚み(t
0)との差(t
1−t
0)が0.2mm以上、
(3)被覆材の厚み(t
2)が0.15〜1.2mm、
(4)被覆材の密度が0.7〜1.35g/cm
3、
を満たすことを特徴とする被覆コルゲートメタルガスケットが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ガスケットの一実施形態]
図1において、本実施形態のガスケット1は、断面が波形状の、環状の金属板21及び該金属板21を覆う膨張黒鉛シート22を有する中芯材2と、この中芯材2の上部、下部及び内周側端部を覆うフッ素系樹脂製の被覆材3とを有している。
なお、本実施形態では、ガスケット1の平面形状を円環状としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、矩形環状や楕円環状などでもよい。
【0016】
(中芯材)
中芯材2は、上述したように、金属板21及び膨張黒鉛シート22を有している。
金属板21は、平面形状が円環状であり(
図1(a)参照)、A−A断面形状が波形状である(
図1(b)参照)。この波形状などについては、後述する。
また、金属板21の材質は、例えばSUS316L、SUS316又はSUS304等のステンレス鋼としてある。ただし、金属板21の材質は、これに限定されるものではなく、たとえば、シールされる流体の種類や温度などにより適宜選択される。
【0017】
この金属板21は、通常、プレス加工により成形される。
また、金属板21は、上面側に複数の山部(すなわち、波形状による山部)が成形されており、下面側に複数の山部が成形されている。これらの山部は、上方又は下方から見ると、同心円状となる。なお、山部の数量は、これに限定されるものではなく、一方の面側に一つ以上の山部が成形され、かつ、他方の面側に二つ以上の山部が成形されていればよい。
【0018】
膨張黒鉛シート22は、膨張黒鉛を主成分として含有するシートであり、成形された金属板21を覆っている。すなわち、円環状の一対の膨張黒鉛シート22は、金属板21の上面及び下面にそれぞれ積層され、さらに、内周側の縁部どうしが接合され、かつ、外周側の縁部どうしが接合されている。したがって、金属板21は、一対の膨張黒鉛シート22によって、密封された状態で覆われている。この膨張黒鉛シート22の厚さなどについては、後述する。
なお、膨張黒鉛シート22の積層及び接合には、通常、接着剤などが用いられる。
また、円環状の一対の膨張黒鉛シート22は、金属板21の上面及び下面にほぼ密着した状態で積層されるので、中芯材2は、A−A断面形状が波形状である(
図1(b)参照)。
【0019】
(被覆材)
被覆材3は、上述したように、フッ素系樹脂製の成形品であり、上側シート部31、下側シート部32及び連結部33を有している。上側シート部31及び下側シート部32は、ほぼ同じ大きさの円環状としてある。また、連結部33は、二つの傾斜部を有しており、上側シート部31及び下側シート部32の内周側縁部どうしを連結している。
この被覆材3は、中芯材2の上部、下部及び内周側端部を覆っている。また、被覆材3は、通常、中芯材2の外周側端部が突き出た状態で、中芯材2を収容している。
【0020】
なお、ガスケット1は、
図1(b)に示すように、中芯材2の谷部と上側シート部31との間に、及び、中芯材2の谷部と下側シート部32との間に、空隙を有している。
また、被覆材3は、中芯材2の波形状の山部とほぼ接触しているが、ガスケット1が締め付けられていない状態では、被覆材3は、中芯材2の波形状の山部から離れていてもよい。そして、ガスケット1が締め付けられている状態では、被覆材3は、中芯材2の山部と接触し、また、締付面圧に応じて中芯材2が変形するので、山部は微小距離だけ移動する。
【0021】
ここで、好ましくは、被覆材3のフッ素系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であるとよい。このようにすると、被覆材3の耐薬品性を向上させることができ、ガスケット1の耐薬品性を向上させることができる。
また、ガスケット1は、上述したフッ素樹脂被覆ガスケット、すなわち、クッション部材が、無機繊維とアラミド繊維に無機充填材を加え、バインダーとして耐油性合成ゴムを配合した、石綿を含まないNA
(非石綿)ジョイントシートである、フッ素樹脂被覆ガスケットと比べると、耐熱性(使用温度範囲:−100℃〜260℃)を向上させることができる。
なお、上記のフッ素系樹脂として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の他に、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)などが挙げられる。
【0022】
次に、上述した金属板21の形状(波形状)、膨張黒鉛シート22の厚さ、並びに、被覆材3の上側シート部31及び下側シート部32の厚さなどについて説明する。
(1)金属板21の厚さ(t
0)は、通常、0.4〜1.2mmである。
この(1)の要件は、ガスケット1を締め付けた際、金属板21が適度な反発弾性力を発生させるための要件の一つであり、この(1)の要件、並びに、後述する(2)の要件及び(3)の要件を満足することによって、金属板21は、適度な反発弾性力を発生させることができる。
なお、上記の数値限定の理由は、t
0が0.4mm未満であると、所定の締付面圧まで締め付けた際、金属板21が塑性変形して反発弾性力がなくなってしまうからである。また、t
0が1.2mmを超えると、所定の締付面圧で締め付けた際、必要な変形量が確保できなくなるからである。
また、t
0は、金属板21自体の厚さであり(
図1(b)参照)、金属板21のどの箇所においても、ほぼ同じとしてある。
【0023】
(2)金属板21の波形の高さ(t
1)と金属板21の厚み(t
0)との差(t
1−t
0)は、通常、0.2mm以上である。
この(2)の要件は、上述したように、ガスケット1を締め付けた際、金属板21が適度な反発弾性力を発生させるための要件の一つである。
なお、上記の数値限定の理由は、(t
1−t
0)が0.2mm未満であると、金属板21の山部の曲率半径が大きくなりすぎて、シールに必要な反発弾性力を発生させることができなくなるからである。
また、波形の高さ(t
1)は、上側の山部の頂点と下側の山部の頂点との高低差(見かけ厚さとも呼ばれる。)である(
図1(b)参照)。
【0024】
(3)金属板21の波ピッチ(P)は、通常、2.2〜4.2mmである。
この(3)の要件は、上述したように、ガスケット1を締め付けた際、金属板21が適度な反発弾性力を発生させるための要件の一つである。
なお、上記の数値限定の理由は、Pが2.2mm未満であると、金属板21の山部の曲率半径が小さくなりすぎて、弾性変形しにくくなるからである。また、Pが4.2mmを超えると、金属板21の山部の曲率半径が大きくなりすぎて、シールに必要な反発弾性力を発生させることができなくなるからである。
また、波ピッチは、通常、等ピッチであるが、これに限定されるものではない。また、山部の数量は、金属板21の幅(=(外径―内径)/2)に応じて適宜設定される。
【0025】
(4)膨張黒鉛シート22の厚さ(t
2)は、通常、0.15〜1.5mmであり、好ましくは、0.3〜1.2mmである。
このようにすると、金属板21の山部による面圧集中の効果を発揮できる。また、被覆材3の上側シート部31及び下側シート部32に対して緩衝材として機能し、上側シート部31及び下側シート部32へのダメージを抑制することができる。
なお、上記の数値限定の理由は、t
2が0.15mm未満であると、緩衝材として機能することができなくなるからである。また、t
2が1.5mmを超えると、金属板21の山部による面圧集中の影響を緩和してしまい、シール性が低下してしまうからであり、また、金属板21の反発弾性力を低減させるからである。
また、膨張黒鉛シート22の厚さ(t
2)は、金属板21の上面及び下面を覆う部分の厚さであり(
図1(b)参照)、この部分のどの箇所においても、ほぼ同じとしてある。
【0026】
(5)膨張黒鉛シート22の密度は、通常、0.7〜2.1g/cm
3である。
このようにすると、膨張黒鉛シート22は、上側シート部31及び下側シート部32に対する緩衝材として適度に機能することができる。
なお、上記の数値限定の理由は、膨張黒鉛シート22の密度が0.7g/cm
3未満であると、柔らかすぎて緩衝材としての機能することができないからである。また、膨張黒鉛シート22の密度が2.1g/cm
3を超えると、硬すぎて緩衝材としての機能することができないからである。
【0027】
(6)被覆材3の上側シート部31及び下側シート部32の厚さ(T)は、通常、0.15〜1.0mmであり、好ましくは、0.3〜0.8mmである。
このようにすると、フランジ面の歪や粗さを吸収することができ、かつ、金属板21の山部による面圧集中の効果を発揮できる。
なお、上記の数値限定の理由は、Tが0.15mm未満であると、フランジ面の歪や粗さを吸収することができなくなるからである。また、Tが1.0mmを超えると、金属板21の山部による面圧集中の効果を発揮できなくなるからである。
【0028】
ここで、好ましくは、膨張黒鉛シート22の厚さ(t
2)が、0.3〜1.2mmであり、かつ、被覆材3の上側シート部31及び下側シート部32の厚さ(T)が、0.3〜0.8mmであるとよい。
このようにすると、膨張黒鉛シート22が被覆材3に対してより良好に緩衝材として機能するとともに、金属板21の山部による面圧集中の効果をより発揮することができる。また、金属板21の山部による面圧集中の効果によって、より低い締付面圧で良好にシールすることができる。
【0029】
次に、上記構成のガスケット1の使用状態などについて、図面を参照して説明する。
図2において、ガスケット1は、所定の締付面圧(本実施形態では、19.6N/mm
2)で締め付けられた状態で、一対のフランジ4の間に取り付けられている。そして、ガスケット1の内周側には、流体があり、この流体は、ガスケット1の被覆材3と接する。
ここで、ガスケット1は、被覆材3によって、耐薬品性を向上させることができ、また、上述したフッ素樹脂被覆ガスケットと比べると、耐熱性を向上させることができる。
【0030】
さらに、ガスケット1は、シール性を向上させることができる。すなわち、中芯材2の金属板21の山部による面圧集中、及び、反発弾性力によって、低い締付面圧でシールすることができる。すなわち、ガスケット1は、たとえば、19.6N/mm
2といった低い締付面圧であっても、良好にシールすることができる。
また、ガスケット1は、中芯材2の膨張黒鉛シート22が、被覆材3(上側シート部31及び下側シート部32)と金属板21との間に存在し、緩衝材として機能する。すなわち、金属板21の山部上の膨張黒鉛シート22の部分が変形するので、金属板21の山部からの反発弾性力が、均一化された状態で、上側シート部31及び下側シート部32に作用する。これにより、ガスケット1は、低い締付面圧でシールすることができ、また、シールの信頼性(たとえば、長期間にわたりシール性が維持されるといった信頼性)などを向上させることができる。さらに、上側シート部31及び下側シート部32は、膨張黒鉛シート22を介して金属板21の山部によって押圧されるので、上側シート部31及び下側シート部32へのダメージを抑制することができる。
【0031】
なお、本実施形態のガスケット1は、締付面圧19.6N/mm
2で使用した際、2MPaの内圧に対して、漏洩量はほぼゼロという極めて優れたシール性を発揮することができた。
このガスケット1において、金属板21は、材質がSUS316であり、板厚t
0=0.8mm、波高さt
1=1.0〜1.2mm、波ピッチP=3.2mmであった。また、膨張黒鉛シート22は、密度1.1g/cm
3、厚さt
2=0.38mmであった。さらに、被覆材3は、材質がPTFEであり、上側シート部31及び下側シート部32の厚さT=0.4mmであった。
【0032】
以上説明したように、本実施形態のガスケット1によれば、耐薬品性、耐熱性及びシール性などを向上させることができる。
また、本実施形態は、様々な応用例を有している。
次に、本実施形態の応用例について、図面を参照して説明する。
【0033】
<ガスケットの応用例>
図3において、本応用例のガスケット1aは、上述したガスケット1と比べると、被覆材3aが、中芯材2の上部、下部、内周側端部及び外周側端部を覆い、さらに、上側シート部31a、下側シート部32a及び連結部33を有し、上側シート部31a及び下側シート部32aの外周側縁部どうしが縫合されている点などが相違する。なお、本応用例の他の構成は、ガスケット1とほぼ同様としてある。
したがって、
図3において、
図1と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0034】
被覆材3aは、実施形態の被覆材3と比べると、上側シート部31a及び下側シート部32aの外径が大きい構造としてある。この外径は、中芯材2の上部、下部、内周側端部及び外周側端部を覆うことが可能な大きさ、すなわち、上側シート部31a及び下側シート部32aの外周側縁部どうしを重ね合せるための重ね合せ代(重ね合せ部分)を有する大きさとしてある。
そして、被覆材3aは、中芯材2を収容した後、上側シート部31a及び下側シート部32aの外周側縁部どうしが、重ね合せられ、さらに、樹脂製などの糸5によって縫合されている。すなわち、被覆材3aは、外周側において、中芯材2をほぼ密封している。
【0035】
このようにすると、外周側からガスケット1aに流体がかかっても、被覆材3aは、外周側において、中芯材2をほぼ密封しているので、中芯材2が濡れて侵されるといった不具合をほぼ防止することができる。
また、真空配管(図示せず)に使用されても、被覆材3aが内周側に引き込まれない構造となるので、引き込まれるリスクを回避することができる。
さらに、被覆材3aの上側シート部31aや下側シート部32aのめくれが発生しない構造となるので、フランジ間の隙間が小さい場合であっても、容易に装着することができる。
また、温度上昇により、被覆材3a内の圧力が上昇しても、被覆材3aの外周側において、外気と連通しているので、内部の圧力上昇によって、被覆材3aが破損するといった不具合を確実に回避することができる。
【0036】
このように、本応用例のガスケット1は、上述した実施形態のガスケット1とほぼ同様の効果を奏するとともに、安全性や作業性などを向上させることができる。
なお、本応用例は、上側シート部31a及び下側シート部32aの外周側縁部どうしが縫合されている構成としてあるが、これに限定されるものではない。たとえば、図示してないが、上側シート部31a及び下側シート部32aの外周側縁部どうしを、溶着や接着などによって、密封状態で接合してもよい。このようにすると、外周側からガスケット1aに流体がかかっても、被覆材3aは、外周側において、中芯材2を密封しているので、中芯材2が濡れて侵されるといった不具合を防止することができる。
【0037】
以上、本発明のガスケットについて、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係るガスケットは、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、ガスケット1、1aは、連結部33が二つの傾斜部を有する構成としてあるが、これに限定されるものではない。たとえば、図示してないが、二つの傾斜部の代わりに、A−A断面がほぼ半円状の湾曲部、あるいは、円筒の内周側の側面と対応する形状の側壁部を有する構成であってもよい。このようにすると、流体が連結部33の近傍に滞留するといった不具合を回避することができる。