【解決手段】本発明に係る動力伝達装置1は、第1回転軸に連結される筒部材10と、筒部材10に挿通される第2回転軸101と、筒部材10と第2回転軸101との間に形成された作動室Sに交互に配置されたアウタープレート30及びインナープレート40と、を備えた動力伝達装置1であって、アウタープレート30は、筒部材10に固定され、インナープレート40は、インナーハブを介することなく、第2回転軸101に直接固定されていることを特徴とする。
前記筒部材の前記第2回転軸に挿通される反対側の端面に、前記作動室に粘性流体を充填するための粘性流体充填孔と、前記作動室から空気を抜くためのエア抜き孔と、が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、粘性継手では、伝達トルクの特性を得るため、回転軸方向から視てアウタープレートとインナープレートとが重なる領域が一定の大きさ(面積)を有するように設定されている。このため、従来の粘性継手は、回転軸の径方向の長さが比較的長く形成され、粘性継手の大型化及び重量化の要因になっている。
そして、粘性継手が配置される箇所の周辺には、フロアパネル、燃料タンク等の部品が配置されており、大型化した粘性継手が周辺部品のレイアウトの自由度を妨げるという不利益を招いていた。
また、粘性継手の回転軸上に粘性継手の重心が存在しない場合があり、この重心のずれが走行時に不快な振動を発生させる要因となっている。そして、不快な振動は、粘性継手の重心のずれ量と粘性継手の質量とに比例するため、粘性継手の軽量化により、走行時の不快な振動の発生を抑制することが望まれている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、周辺部品のレイアウトの自由度向上と、走行時の不快な振動抑制とを図ることができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る動力伝達装置は、第1回転軸に連結される筒部材と、前記筒部材に挿通される第2回転軸と、前記筒部材と前記第2回転軸との間に形成された作動室に交互に配置されたアウタープレート及びインナープレートと、を備えた動力伝達装置であって、前記アウタープレートは、前記筒部材に固定され、前記インナープレートは、インナーハブを介することなく、前記第2回転軸に直接固定されていることを特徴とする。
【0007】
前記発明に係る動力伝達装置によれば、従来インナープレートと第2回転軸と間に介設されたインナーハブが設けられておらず、インナープレートが第2回転軸に直接固定されている。このため、インナープレート、アウタープレート、及び筒部材を回転軸(第1回転軸及び第2回転軸)の径方向内側に短縮し、粘性継手を構成する部分の小型化を図ることができる。その結果、粘性継手を構成する部分の周辺に他の部品を配置できるスペースが拡大し、周辺部品のレイアウトの自由度を向上させることができる。
また、インナーハブを有していないため、粘性継手を構成する部分が従来の粘性継手よりも軽量化され、走行時の不快な振動の発生を抑制することができるようになっている。
さらに、インナーハブを不要とすることで部品点数の削減を図ることができる
【0008】
また、前記筒部材の前記第2回転軸に挿通される反対側の端面に、前記作動室に粘性流体を充填するための粘性流体充填孔と、前記作動室から空気を抜くためのエア抜き孔と、が設けられていることが好ましい。
【0009】
前記する構成によれば、筒部材が第2回転軸に組み付けられ、第2回転軸に挿通される側の端面が動力伝達装置の本体に覆われている場合であっても、反対側の端面から粘性流体充填孔から粘性流体を作動室に充填しつつ、エア抜き孔を介して作動室のエアを抜くことが可能となる。
【0010】
また、第2回転軸は、終減速装置のドライブピニオンシャフトであること、又は、前記第2回転軸は、トランスファの出力軸であることが好ましい。
【0011】
前記する構成によれば、ドライブピニオンシャフトに粘性継手が設けられた終減速装置、又は、出力軸に粘性継手が設けられたトランスファを提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、周辺部品のレイアウトの自由度向上と、走行時の不快な振動抑制とを図ることができる動力伝達装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(動力伝達装置1)
実施形態に係る動力伝達装置について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、実施形態の動力伝達装置1は、FFベースの四輪駆動車に搭載されており、回転軸線O1を中心として回転する図示しない推進軸(第1回転軸)に連結する粘性継手2と、粘性継手2に挿通されたドライブピニオンシャフト101(第2回転軸)を有する終減速装置100と、を備えている。
【0015】
(粘性継手2)
粘性継手2は、後端側が大きく開口した円筒状のアウターケース(筒部材)10と、そのアウターケース10内に収容された複数のアウタープレート30及び複数のインナープレート40と、アウターケース10の後部に組み付けられるエンドプレート50と、を備えている。
【0016】
図2に示すように、アウターケース10の内周面の中央部には、径方向内側に突出して比較的小径に形成された小径部12が設けられている。
小径部12の前方には、アウターケース10の内周面とドライブピニオンシャフト101の外周面との間に嵌め込まれたラジアルボールベアリング11が配置され、アウターケース10の前部がドライブピニオンシャフト101に対して回転自在に支持されている。
ラジアルボールベアリング11の前方には、アウターケース10の内周面の凹部10aに嵌られたスナップリング13が設けられている。そして、スナップリング13と小径部12とがラジアルボールベアリング11の外輪を挟み、ラジアルボールベアリング11が前後方向へ変位しないようになっている。
【0017】
ラジアルボールベアリング11よりも前方に突出するドライブピニオンシャフト101の先端部には、2つのワッシャー8、8を介してロックナット9が螺合され、アウターケース10がドライブピニオンシャフト101から抜脱しないようになっている。
【0018】
アウターケース10の後側の内径は、ドライブピニオンシャフト101の外径よりも極めて大きく、アウターケース10の内周面とドライブピニオンシャフト101の外周面との間に、円環状の空間である作動室Sが形成されている。
アウターケース10の後側の内周面には、径方向内側に突出する第1スプライン孔14が形成されている。一方で、ドライブピニオンシャフト101の外周面には、径方向外側に突出する第2スプライン軸15が形成されている。
【0019】
アウターケース10の後部の内周面には、ドライブピニオンシャフト101に遊嵌するリング状のエンドプレート50が嵌められており、作動室Sの後方が閉塞されている。
なお、エンドプレート50の後面には、アウターケース10の内周面の凹部10bに嵌合されたスナップリング51が当接し、エンドプレート50が後方に移動しないようになっている。
また、エンドプレート50の内周面には、ドライブピニオンシャフト101に外嵌されたニードルベアリング52が内嵌されている。このため、アウターケース10の後部がエンドプレート50、ニードルベアリング52を介してドライブピニオンシャフト101に対して回転自在に支持されている。なお、ニードルベアリング52は、サークリップ53により脱落防止されている。
【0020】
アウターケース10の前端面には、後方に向かって貫通して作動室Sに連通するシリコーンオイル充填孔20及びエア抜き孔21が形成されている。
シリコーンオイル充填孔20は、アウターケース10の前方から作動室S内にシリコーンオイル(粘性流体)を充填するための孔である。シリコーンオイル充填孔20には雌ねじが螺設されており、シリコーンオイルの充填後に螺合されたボルト24により、シリコーンオイル充填孔20が塞がれている。
エア抜き孔21は、シリコーンオイルの充填時に作動室Sの空気を抜くための孔であり、シリコーンオイルの充填後に圧入された鋼球25により塞がれている。
また、
図3に示すように、シリコーンオイル充填孔20とエア抜き孔21とは、アウターケース10の前端面に連結されるフランジ201に覆われない位置に設けられている。
【0021】
そのほか、作動室Sに充填されたシリコーンオイルが漏出することを防止するため、小径部12の内周面の凹部10cと、エンドプレート50の内周面の凹部10dとには、Xリング16、17が嵌められている。エンドプレート50の外周面の凹部10eには、Oリング18が嵌められている。
【0022】
図3に示すように、アウターケース10の前端面には、回転軸線O1周りに等間隔で配置された4つのボルト締結穴22が形成されている。
図4に示すように、ボルト締結穴22には、雌ねじ22aが形成されている。そして、プロペラシャフトに連結する十字軸ジョイントのフランジ201(
図3参照)を貫通するボルト(不図示)がボルト締結穴22の雌ねじ22aに螺合することで、プロペラシャフト(不図示)がアウターケース10に連結するようになっている。
【0023】
アウタープレート30とインナープレート40とは、作動室S内で軸方向に極小の隙間をあけつつ交互に配置される円盤状の部材である。
アウタープレート30の外周部には、第1スプライン軸31が形成されている。そして、第1スプライン軸31が、アウターケース10の第1スプライン孔14にスプライン嵌合し、アウターケース10とアウタープレート30とが一体になっている。
また、インナープレート40の内周部に、第2スプライン孔41が形成されている。第2スプライン孔41が第2スプライン軸15にスプライン嵌合し、ドライブピニオンシャフト101とインナープレート40とが一体になっている。
【0024】
また、アウタープレート30の径とインナープレート40の径とは、回転軸線O1の方向から視て重なる領域が一定の大きさ(面積)を有するように設定されている。
ここで、実施形態に係る粘性継手2では、従来の粘性継手が備えていたインナーハブを不要としている。このため、アウタープレート30とインナープレート40とは、従来のものよりも径方向内側に短縮しているとともに、アウタープレート30とインナープレート40との外周側に配置されるアウターケース10も従来のものよりも径方向内側に短縮している。
【0025】
以上、上記した粘性継手2によれば、例えば、車両の前輪が空転するときなど、アウタープレート30の回転数とインナープレート40の回転数との間に回転数差が生じた場合に、シリコーンオイルにせん断力が作用するようになる。そして、シリコーンオイルの粘性によりインナープレート40が回転し、ドライブピニオンシャフト101に動力が伝達するようになっている。
【0026】
(終減速装置100)
図1に示すように、終減速装置100は、ドライブピニオンシャフト101に入力された回転軸線O1周りの回転運動を回転軸線O2周りの回転運動に変換し、左右の後輪に伝達する装置である。
終減速装置100は、前後方向に延在するドライブピニオンシャフト101と、そのドライブピニオンシャフト101を収容するキャリア107と、ドライブピニオンシャフト101の後端に形成されたドライブピニオンギヤ102と、ドライブピニオンギヤ102に噛合して回転軸線O2周りに回転するリングギヤ103と、リングギヤ103と一体に回転するデフケース104と、キャリア107の後部に固定されるとともにキャリアとでデフケース104を挟持するリアカバー108と、を備えている。
【0027】
デフケース104内には、デフケース104に固定されたピニオンシャフト109を中心として回転自在になっているピニオンギヤ105と、ピニオンギヤ105の左右両側に配置されてピニオンギヤ105に噛合するサイドギヤ106、106とが設けられている。
そして、デフケース104のボス部104a、104aに外嵌された軸受110、110が、キャリア107とリアカバー108とに挟持され、デフケース104が回転軸線O2周りに回転自在になっている。
【0028】
つぎに、動力伝達装置1の組み立て工程について、図面を参照しながら説明する。
最初に、
図5に示すように、アウターケース10の前方の開口を上方に向けて、作業台200にアウターケース10を載置する。
そして、アウターケース10の前方の開口からアウターケース10内にXリング16、ラジアルボールベアリング11、スナップリング13を順に入れる。
Xリング16については、小径部12の凹部10cに嵌め込み、Xリング16を固定する。ラジアルボールベアリング11については、アウターケース10の内周面にラジアルボールベアリング11を嵌め込むとともに、ラジアルボールベアリング11の外輪を小径部12の前面に当接させる。
スナップリング13については、アウターケース10の凹部10aに嵌め込むことで、スナップリング13をラジアルボールベアリング11の外輪に当接させる。これにより、小径部12とスナップリング13とによりラジアルボールベアリング11が挟持される。
【0029】
つぎに、
図6に示すように、アウターケース10の後方の開口を上方に向けて、作業台200にアウターケース10を載置する。
そして、アウターケース10の後方の開口から作動室S内にアウタープレート30とインナープレート40とを交互に入れる。
アウタープレート30については、アウタープレート30の第1スプライン軸31をアウターケース10の第1スプライン孔14に嵌合させ、アウタープレート30をアウターケース10に固定する。一方で、インナープレート40については、アウタープレート30上に重ねて配置する。
【0030】
なお、インナープレート40は何ら固定されていないため、インナープレート40が周方向に回動し、位相がずれてしまうおそれがある。
このような場合には、棒状の治具をシリコーンオイル充填孔20又はエア抜き孔21に挿通することで作動室S内に延在させ、そして、作動室S内に延在する治具にインナープレート40のスリット等を挿通させてもよい。これによれば、インナープレート40が治具に係止して、インナープレート40の位相のずれを防止できる。
【0031】
つぎに、
図7に示すように、アウターケース10の後方の開口からエンドプレート50を入れて、アウターケース10の内周面にエンドプレート50を嵌め込む。
エンドプレート50の嵌め込み後、アウターケース10の後部の凹部10bにスナップリング51を嵌め込み、エンドプレート50を固定する。
なお、エンドプレート50には、予め、ニードルベアリング52と、サークリップ53を内嵌しておくとともに、凹部10d、10eにXリング17、Oリング18を嵌めておく。
【0032】
つぎに、終減速装置100の組み付けを行う。ドライブピニオンシャフト101の先端側から、シム111、第1テーパベアリング112、コラプサブルスペーサ113を外嵌する(
図8参照)。
そして、キャリア107の後方の開口部に、ドライブピニオンシャフト101の先端部を向けて挿入し、第1テーパベアリング112をキャリア107に内嵌させる。このため、ドライブピニオンシャフト101がキャリア107に仮固定されて、ドライブピニオンシャフト101がキャリア107の内部を挿通した状態になる。
【0033】
つぎに、キャリア107から突出するドライブピニオンシャフト101に、第2テーパベアリング114、ナット115、オイルシール116を順に外嵌する。
第2テーパベアリング114については、キャリア107とドライブピニオンシャフト101との間に嵌め込み、第2テーパベアリング114を固定する。これにより、ドライブピニオンシャフト101が第1テーパベアリング112と第2テーパベアリング114とに回転自在に支持される。
ナット115については、ドライブピニオンシャフト101に螺設された雄ねじに螺合させる。これにより、ドライブピニオンシャフト101がキャリア107から抜脱しないようになる。
オイルシール116については、キャリア107の開口に内嵌して固定する。
【0034】
つぎに、ドライブピニオンシャフト101の上方に粘性継手2を配置するとともに、粘性継手2の後部にドライブピニオンシャフト101を挿入し、ドライブピニオンシャフト101の第2スプライン軸15をインナープレート40の第2スプライン孔41に嵌合させる。
また、ドライブピニオンシャフト101の第2径部101aがラジアルボールベアリング11の内輪に当接する程度挿入する。
これによれば、
図9に示すように、ドライブピニオンシャフト101にインナープレート40が固定されるとともに、ドライブピニオンシャフト101に、ニードルベアリング52とラジアルボールベアリング11とが外嵌されて、ドライブピニオンシャフト101に対して粘性継手2が回転自在に支持される。
【0035】
つぎに、ワッシャー8、8をドライブピニオンシャフト101の先端部に挿入させるとともに、ロックナット9をドライブピニオンシャフト101の先端部に螺合してワッシャー8、8を締め付ける。これによれば、ラジアルボールベアリング11の内輪が先端側から押圧され、ラジアルボールベアリング11の内輪がドライブピニオンシャフト101の第2径部101aと、ワッシャー8、8とに挟持されて、ドライブピニオンシャフト101から、粘性継手2が抜脱しないようになる。
【0036】
つぎに、シリコーンオイル充填孔20にシリコーンオイルを流し込み、シリコーンオイルを作動室Sに充填する。シリコーンオイルが作動室S内に溜まるにつれて、作動室S内の空気が上方に押し出されて、エア抜き孔21から空気が抜ける。
シリコーンオイルの充填が完了した後に、シリコーンオイル充填孔20にボルト24を螺嵌するとともにエア抜き孔21に鋼球25を圧入し、作動室Sを封止する。
【0037】
つぎに、デフケース104内に、ピニオンギヤ105、サイドギヤ106、ピニオンシャフト109の組み付けを行う。その後に、各部品が組み付けられたデフケース104にリングギヤ103を外嵌してボルト(不図示)で固定するとともに、デフケース104のボス部104aに軸受110、110を外嵌する(
図1参照)。
【0038】
つぎに、
図10に示すように、キャリア107の後端を上方に向けて配置する。
そして、キャリア107の溝部107a、107aにデフケース104に外嵌された軸受110、110を嵌め込み、リングギヤ103をドライブピニオンギヤ102に歯合させる。また、キャリア107の溝部107aと軸受110との間には、シム121を介設し、デフケース104が左右方向に位置ずれしないようにする。
【0039】
つぎに、デフケース104の上方からリアカバー108を被せ、リアカバー108の溝部108a(
図1参照)に軸受110を嵌め、図示しないボルトでキャリア107にリアカバー108を固定する。そして、キャリア107とリアカバー108との組み合わせにより形成された左右の開口部にオイルシール120(
図1参照)を嵌合し、動力伝達装置1の組み立てが終了する。
【0040】
以上、実施形態に係る動力伝達装置1によれば、従来備え付けられていたインナーハブを用いていないため、アウタープレート30とインナープレート40とアウターケース10とが径方向内側に縮径し、粘性継手2の小型化及び軽量化を図ることができる。
その結果、粘性継手2の周辺に他の部品を配置できるスペースが拡大されて、周辺部品のレイアウトの自由度を向上させることができるとともに、走行時の不快な振動の発生を抑制することができるようになっている。
また、インナーハブが不要となるため、部品点数の削減も図ることができる
【0041】
また、実施形態に係る動力伝達装置1によれば、アウターケース10の後端面が終減速装置100に覆われているものの、アウターケース10の前面に設けられたシリコーンオイル充填孔20及びエア抜き孔21によりシリコーンオイルを充填することができるため、充填作業を良好に行うことができる。
【0042】
以上、実施形態に係る動力伝達装置1について説明したが、本発明は実施形態で説明した例に限定されるものでなく、適宜変更してもよいものである。
たとえば、実施形態では、粘性継手2が終減速装置100のドライブピニオンシャフト101に設けられた例を挙げて説明したが、本発明は、終減速装置100のドライブピニオンシャフト101に替えて、トランスファの出力軸に粘性継手が設けられた動力伝達装置であってもよい。