特開2015-137896(P2015-137896A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 盛岡セイコー工業株式会社の特許一覧

特開2015-137896時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計
<>
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000003
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000004
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000005
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000006
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000007
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000008
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000009
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000010
  • 特開2015137896-時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-137896(P2015-137896A)
(43)【公開日】2015年7月30日
(54)【発明の名称】時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/34 20060101AFI20150703BHJP
【FI】
   G04B17/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-8823(P2014-8823)
(22)【出願日】2014年1月21日
(71)【出願人】
【識別番号】305018823
【氏名又は名称】盛岡セイコー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】井畑 貴吉
(72)【発明者】
【氏名】高野 健志
(72)【発明者】
【氏名】堀切 和幸
(72)【発明者】
【氏名】福士 毅
(57)【要約】
【課題】短時間で簡単に接着することができる時計部品用接着剤、この時計部品用接着剤を使用したムーブメントおよび時計を提供する。
【解決手段】時計部品用接着剤80は、ひげぜんまい40が固定されるひげ持70の被固定部71aに形成された凹部75に挿入可能とされ、凹部75の内形状に対応した外形状を有する接着剤体81を備える。接着剤体81は、ひげ持70の凹部75に挿入されて、ひげぜんまい40の外端部45をひげ持70の被固定部71aに固定する。接着剤体81には、ひげぜんまい40の外端部45を収納する収納部85が形成されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一時計部品が固定される第二時計部品の被固定部に形成された凹部に挿入可能とされ、前記凹部の内形状に対応した外形状を有する接着剤体を備えたことを特徴とする時計部品用接着剤。
【請求項2】
前記第一時計部品がひげぜんまいであり、前記第二時計部品が前記ひげぜんまいの外端部を配置可能な切欠部を有する筒状のひげ持であり、
前記接着剤体は、前記ひげ持の前記凹部に挿入されて、前記ひげぜんまいの前記外端部を前記ひげ持の前記被固定部に固定することを特徴とする請求項1に記載の時計部品用接着剤。
【請求項3】
前記接着剤体には、前記ひげぜんまいの前記外端部を収納する収納部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の時計部品用接着剤。
【請求項4】
前記収納部は、前記接着剤体を前記ひげ持の前記凹部に挿入配置したときに、前記切欠部に対応する位置において、前記ひげ持の中心軸と交差するとともに前記ひげ持の径方向に沿うように形成された溝部であることを特徴とする請求項3に記載の時計部品用接着剤。
【請求項5】
前記収納部は、前記接着剤体を前記ひげ持の前記凹部に挿入配置したときに、前記切欠部に対応する位置において、前記ひげ持の中心軸と交差するとともに前記ひげ持の径方向に沿うように前記接着剤体を貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項3に記載の時計部品用接着剤。
【請求項6】
前記接着剤体は、第一接着剤体と第二接着剤体とに分割形成され、
前記収納部は、前記第一接着剤体および前記第二接着剤体の少なくともいずれか一方に形成されていることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の時計部品用接着剤。
【請求項7】
前記接着剤体は、前記凹部への挿入方向下流側の端部が先細りに形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の時計部品用接着剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の時計部品用接着剤によって、前記第一時計部品と前記第二時計部品とが固定されていることを特徴とするムーブメント。
【請求項9】
請求項8に記載のムーブメントを備えたことを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、時計部品用接着剤、ムーブメントおよび時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械式時計は、表輪列を構成する香箱車、二番車、三番車および四番車の回転を制御するための脱進調速装置を備えている。一般的な脱進調速装置は、がんぎ車と、アンクルと、てんぷとにより形成されている。
また、てんぷは、てん輪と、てん輪の回転中心となるてん真と、アルキメデス曲線に沿うように渦巻状に形成され拡縮によりてん輪を所定の振動周期で往復回転させるひげぜんまいと、ひげぜんまいの内端部をてん真に固定するためのひげ玉と、ひげぜんまいの外端部をてんぷ受けに固定するためのひげ持と、により形成されている。
【0003】
てんぷの振動周期は、時計の精度に関わるため、予め決められた規定値内に設定されていることが重要である。てんぷの振動周期は、ひげぜんまいのばね定数に依存する。また、ひげぜんまいのばね定数は、例えばひげ持によるひげぜんまいの外端部の固定位置によって変化する。
【0004】
例えば特許文献1には、ひげ持受に取り付けられたひげ持と、内端部がひげ玉に固定され、外端部がひげ持に固定されたひげぜんまいと、を備え、ひげ持の位置を調整可能に構成したひげ持調整機構付の機械式時計が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、ひげ持の位置を調整することによりひげぜんまいの元形状の調整を容易に行うことができるとされている。
【0005】
ところで、一般にひげぜんまいの外端部は、ひげ持に対して接着剤により固定される。接着剤としては、例えば、固化した熱可塑性の接着剤の塊を粉砕してペレット状にした接着剤粒子(接着剤体)が採用される。
【0006】
具体的には、以下のようにして、ひげぜんまいの外端部がひげ持に対して接着剤粒子により固定される。
まず、作業者は、熱可塑性の接着剤の塊を粉砕して形成されたペレット状の接着剤粒子から、凹部に挿入可能な大きさの接着剤粒子を選定する。続いて、作業者は、ひげ持の被固定部に形成された凹部に、選定した接着剤粒子を挿入して充填する。続いて、作業者は、手作業によりひげ持の被固定部とひげぜんまいの外端部との位置合わせを行いつつ、接着剤粒子を溶融および再度固化させる。これにより、ひげぜんまいの外端部は、ひげ持に対して位置合わせされた状態で接着剤粒子により固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第01/09687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術にあっては、固化した熱可塑性の接着剤を粉砕して接着剤体を形成するため、接着剤体の外形状にばらつきが生じることになる。このため、ひげ持の被固定部に形成された凹部に挿入可能な接着剤体を選定する必要があり、選定するための時間を要するとともに作業が煩雑である。また、選定された接着剤体が大きすぎた場合には、接着剤体を溶融するための時間が増大する。さらに、ひげ持の被固定部とひげぜんまいの外端部との位置合わせを行いつつ、接着剤体を溶融および再度固化させる必要があるため、作業が煩雑である。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みたものであって、短時間で簡単に接着することができる時計部品用接着剤、この時計部品用接着剤を使用したムーブメントおよび時計の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の時計部品用接着剤は、第一時計部品が固定される第二時計部品の被固定部に形成された凹部に挿入可能とされ、前記凹部の内形状に対応した外形状を有する接着剤体を備えたことを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、接着剤体は、凹部の内形状に対応した外形状を有するので、従来技術のように接着剤体の選定を行う必要がない。また、第二時計部品の被固定部の凹部に適した大きさの接着剤体を充填できるので、接着剤体を溶融するのに時間が増大するのを防止できる。したがって、第一時計部品を第二時計部品に対して、短時間で簡単に接着することができる。
【0012】
また、前記第一時計部品がひげぜんまいであり、前記第二時計部品が前記ひげぜんまいの外端部を配置可能な切欠部を有する筒状のひげ持であり、前記接着剤体は、前記ひげ持の前記凹部に挿入されて、前記ひげぜんまいの前記外端部を前記ひげ持の前記被固定部に固定することを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、従来技術のように接着剤体の選定を行うことなく、ひげ持の凹部に適した大きさの接着剤体を挿入できる。したがって、ひげぜんまいの外端部をひげ持に対して、短時間で簡単に接着することができる。
【0014】
また、前記接着剤体には、前記ひげぜんまいの前記外端部を収納する収納部が形成されていることを特徴としている。
【0015】
本発明によれば、ひげ持の被固定部の凹部に挿入された接着剤体の収納部にひげぜんまいの外端部を配置することにより、ひげ持に対してひげぜんまいの外端部が位置決めされた状態で、接着剤体を溶融および固化できる。したがって、従来技術のように、手作業によりひげ持に対するひげぜんまいの外端部の位置決めを行う必要がないので、ひげぜんまいの外端部をひげ持に対して容易に位置決めしつつ、短時間で簡単に接着することができる。
【0016】
また、前記収納部は、前記接着剤体を前記ひげ持の前記凹部に挿入配置したときに、前記切欠部に対応する位置において、前記ひげ持の中心軸と交差するとともに前記ひげ持の径方向に沿うように形成された溝部であることを特徴としている。
【0017】
本発明によれば、収納部は、ひげ持の中心軸と交差するとともにひげ持の径方向に沿うように形成された溝部であるので、溝部にひげぜんまいの外端部を配置しつつ接着剤体を溶融および固化することにより、ひげ持の中心に位置するようにひげぜんまいの外端部を接着することができる。したがって、ひげぜんまいのばね定数および拡縮時の周期を高精度に設定できる。
【0018】
また、前記収納部は、前記接着剤体を前記ひげ持の前記凹部に挿入配置したときに、前記切欠部に対応する位置において、前記ひげ持の中心軸と交差するとともに前記ひげ持の径方向に沿うように前記接着剤体を貫通する貫通孔であることを特徴としている。
【0019】
本発明によれば、収納部は、ひげ持の中心軸と交差するとともにひげ持の径方向に沿うように接着剤体を貫通する貫通孔であるので、貫通孔にひげぜんまいの外端部を配置しつつ接着剤体を溶融および固化することにより、ひげ持の中心に位置するようにひげぜんまいの外端部を接着することができる。したがって、ひげぜんまいのばね定数および拡縮時の周期を高精度に設定できる。
【0020】
また、前記接着剤体は、第一接着剤体と第二接着剤体とに分割形成され、前記収納部は、前記第一接着剤体および前記第二接着剤体の少なくともいずれか一方に形成されていることを特徴としている。
【0021】
本発明によれば、第一接着剤体と第二接着剤体との間にひげぜんまいの外端部を配置しつつ、第一接着剤体と第二接着剤体とにより固定できる。したがって、ひげぜんまいの外端部の全周囲にわたって、溶融した第一接着剤体および第二接着剤体を密着させて強固に固定することができる。
【0022】
また、前記接着剤体は、前記凹部への挿入方向下流側の端部が先細りに形成されていることを特徴としている。
【0023】
本発明によれば、接着剤体は、凹部への挿入方向下流側の端部が先細りに形成されているので、凹部に対して接着剤体を容易に挿入できる。したがって、ひげぜんまいの外端部をひげ持に対して固定する際の作業時間をさらに短縮することができる。
【0024】
また、本発明のムーブメントは、上述の時計部品用接着剤によって、前記第一時計部品と前記第二時計部品とが固定されていることを特徴としている。
また、本発明の時計は、第一時計部品と第二時計部品とが固定されている上述のムーブメントを備えたことを特徴としている。
【0025】
本発明によれば、第一時計部品を第二時計部品に対して短時間で簡単に接着することができるので、低コストなムーブメントおよび時計を提供できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、接着剤体は、凹部の内形状に対応した外形状を有するので、従来技術のように接着剤体の選定を行う必要がない。また、第二時計部品の被固定部の凹部に適した大きさの接着剤体を充填できるので、接着剤体を溶融するのに時間が増大するのを防止できる。したがって、第一時計部品を第二時計部品に対して、短時間で簡単に接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態に係る時計の外観図である。
図2】実施形態に係るムーブメントを表側から見たときの平面図である。
図3】実施形態に係るてんぷの平面図である。
図4図3のA−A線に沿った断面図である。
図5】実施形態に係るひげ持の説明図である。
図6】実施形態に係る時計部品用接着剤の外観斜視図である。
図7】実施形態の第一変形例に係る時計部品用接着剤の外観斜視図である。
図8】実施形態の第二変形例に係る時計部品用接着剤の外観斜視図である。
図9】実施形態の第三変形例に係る時計部品用接着剤の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
以下では、機械式の腕時計(請求項の「時計」に相当、以下、単に「時計」という。)、この時計に組み込まれたムーブメントおよびムーブメントを構成するてんぷについて説明したあと、時計部品用接着剤の詳細について説明する。
【0029】
(時計)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側、すなわち文字板と反対の側をムーブメントの「表側」と称する。
【0030】
図1は、実施形態に係る時計1の外観図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋、およびガラス2からなる時計ケース3内に、ムーブメント100と、時に関する情報を示す目盛り等を有する文字板11と、時を示す時針12、分を示す分針13および秒を示す秒針14を含む指針と、を備えている。文字板11には、日付を表す数字を明示させる日窓11aが開口している。これにより、時計1は、時刻に加え、日付を確認することが可能とされている。
【0031】
図2は、ムーブメント100を表側から見たときの平面図である。なお、図2では、図面を見やすくするため、ムーブメント100を構成する時計部品のうち一部の図示を省略しているとともに、各時計部品を簡略化して図示している。
図2に示すように、機械式時計のムーブメント100は、基板を構成する地板144を有している。地板144の巻真案内穴102には、巻真110が回転可能に組み込まれている。この巻真110は、おしどり103、かんぬき105、かんぬきばね107および裏押さえ109等を含む切換装置によって、巻真110の軸線方向の位置が決められている。
そして巻真110を回転させると、つづみ車(不図示)の回転を介してきち車112が回転する。きち車112の回転により丸穴車114および角穴車116が順に回転し、香箱車120に収容されたぜんまい(不図示)が巻き上げられる。
【0032】
香箱車120は、軸部である香箱真の両端に突設されたほぞ(不図示)が、それぞれ地板144と香箱受134とに枢支されることにより、地板144と香箱受134との間で回転可能に支持されている。二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130は、それぞれの軸部の両端に突設されたほぞ(不図示)が、それぞれ地板144と輪列受136とに枢支されることにより、地板144と輪列受136との間で回転可能に支持されている。
ぜんまいの復元力により香箱車120が回転すると、香箱車120の回転により二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130が順に回転する。これら香箱車120、二番車124、三番車126および四番車128は、表輪列を構成する。
【0033】
二番車124が回転すると、その回転に基づいて筒かな(不図示)が同時に回転し、この筒かなに取り付けられた分針13(図1参照)が「分」を表示するようになっている。
また、筒かなの回転に基づいて日の裏車(不図示)の回転を介して筒車(不図示)が回転し、この筒車に取り付けられた時針12(図1参照)が「時」を表示するようになっている。
【0034】
表輪列の回転を制御するための脱進調速装置140は、がんぎ車130、アンクル142およびてんぷ10により構成されている。
がんぎ車130の外周には歯132が形成されている。アンクル142は、地板144とアンクル受138との間で回転可能に支持されており、一対のつめ石142a,142bを備えている。アンクル142の一方のつめ石142aが、がんぎ車130の歯132に係合した状態で、がんぎ車130は一時的に停止している。
てんぷ10は、てんぷ受104と地板144との間において回転可能に支持されている。てんぷ10は、一定周期で往復回転することにより、アンクル142の一方のつめ石142aおよび他方のつめ石142bを、がんぎ車130の歯132に交互に係合および解除させ、がんぎ車130を一定速度で脱進させている。
【0035】
このような構成のもと、巻真110を用いて香箱車120に収容された不図示のぜんまいを巻き上げた後、このぜんまいが巻き戻される際の回転力により、香箱車120が回転する。香箱車120が回転することにより、これと噛合う二番車124が回転する。二番車124が回転すると、これに噛合う三番車126が回転する。三番車126が回転すると、これに噛合う四番車128が回転する。四番車128が回転すると、脱進調速装置140が駆動する。脱進調速装置140が駆動することにより、四番車128が一分間に一回転するように制御されるとともに、二番車124が一時間に一回転するように制御される。
【0036】
図3は、てんぷの平面図であり、ムーブメント100(図2参照)の表側から見た状態を図示している。なお、図3においては、てんぷ受104、後述するひげ持受60およびひげ持70を二点鎖線で図示している。
図3に示すように、てんぷ10は、主にてん輪20と、てん真30と、ひげぜんまい40と、ひげ玉50と、ひげ持受60と、ひげ持70と、を備えている。なお、以下のてんぷ10の説明では、てんぷ10が往復回転する際の回転中心を中心軸Oとし、中心軸Oに沿う方向を軸方向といい、中心軸Oと直交する方向を径方向といい、中心軸O周りに周回する方向を周方向という。
図4は、図3のA−A線に沿った断面図である。なお、図4において、地板144を挟んで紙面上側がムーブメント100(図2参照)の表側となっており、地板144を挟んで紙面下側がムーブメント100の裏側となっている。
【0037】
てん輪20は、例えば真鍮等の金属材料により略円環状に形成された環状部21と、環状部21の内周面から中心軸Oに向かって径方向に沿うように延設された四本のアーム部23と、により形成されている。
てん輪20の環状部21は、中心軸Oと同軸に配置されている。
四本のアーム部23は、それぞれ周方向に90°ピッチとなるように、略等間隔に形成されている。図4に示すように、四本のアーム部23の連結部25には、中心軸Oと同軸の嵌合孔25aが形成されている。連結部25の嵌合孔25aは、てん真30のてん輪固定部31に例えば外嵌圧入されている。これにより、てん輪20は、てん真30に外嵌固定されて、てん真30とともに回転可能とされている。
【0038】
てん真30は、例えば真鍮等の金属材料により形成された棒状の軸部材であって、てん真30の中心軸は、てんぷ10の回転中心である中心軸Oと一致している。
てん真30は、てん輪固定部31と、てん輪固定部31よりもてんぷ受104側(図4における上側)に形成されたひげ玉固定部32と、を備えている。てん輪固定部31およびひげ玉固定部32は、それぞれ中心軸Oと同軸の円柱状に形成されている。
また、てん真30は、軸方向の両端に、先細りに形成されたほぞ33を備えている。てん真30は、一方のほぞ33aがてんぷ受104に不図示の軸受を介して枢支され、他方のほぞ33bが地板144に不図示の軸受を介して枢支されることにより、中心軸O周りに回転可能となっている。
【0039】
てん真30は、軸方向におけるてん輪20よりも地板144側(図4における下側)に、筒形の振り座35を備えている。振り座35には、径方向に張り出したフランジ部36が形成されている。フランジ部36における径方向の外側には、所定の位置に不図示の振り石が設けられている。振り石は、てんぷ10の往復回転の周期と同期してアンクル142(図2参照)を往復運動させ、つめ石142a,142b(図2参照)をがんぎ車130の歯132(図2参照)に対して交互に係脱させている。
【0040】
てんぷ10は、てん輪20よりもてんぷ受104側(図4における上側)に、ひげぜんまい40を備えている。
図3に示すように、ひげぜんまい40は、例えば鉄やニッケル等の金属材料からなる薄板ばねであり、複数の巻き数をもった渦巻状のひげぜんまい本体部41と、ひげぜんまい本体部41の外周側の円弧部42と、により形成されている。ひげぜんまい40は、ひげぜんまい本体部41の渦巻形状が、いわゆるアルキメデス曲線に沿うように形成されている。これにより、ひげぜんまい40を軸方向から見たときに、径方向に隣り合うひげぜんまい本体部41同士が略等間隔となるように配置される。
ひげぜんまい本体部41の内端部43(すなわちひげぜんまい40の内端部43)は、ひげ玉50に対して例えば溶接により固定される。ひげぜんまい40は、内端部43をひげ玉50に溶接することにより、ひげ玉50を介しててん真30に連結される。
【0041】
円弧部42は、ひげぜんまい本体部41の外周側において、ひげぜんまい本体部41よりも大きな曲率半径を有するように形成されている。円弧部42の外端部45(すなわちひげぜんまい40の外端部45)は、ひげ持70に対して時計部品用接着剤80により固定されている。なお、ひげ持70および時計部品用接着剤80については後に詳述する。
【0042】
ひげ玉50は、例えばニッケルやニッケル合金等の金属材料により形成された環状の部材であり、筒部51と、ひげぜんまい40の内端部43が固定される支持部53と、により形成されている。
ひげ玉50は、例えば筒部51がてん真30に外嵌圧入されて固定されている。
支持部53は、筒部51のてんぷ受104側(図4参照)の端部において、径方向の外側に突出形成されている。支持部53の外側面は、ひげぜんまい40の内端部43が溶接等により固定される固定面55となっている。
【0043】
ひげぜんまい40の外端部45は、ひげ持受60により支持されたひげ持70に固定される。これにより、ひげぜんまい40の外端部45は、ひげ持70およびひげ持受60を介して、てんぷ受104に連結される。
【0044】
図5は、ひげ持70および時計部品用接着剤80の説明図であって、図5(a)は、ひげぜんまい40(図4参照)の径方向外側から見たときの側面図であり、図5(b)は、地板144(図4参照)側から見たときの平面図である。なお、図5では、ひげぜんまい40の内端部43を二点鎖線で図示している。
図5(a)および図5(b)に示すように、ひげ持70は、例えばニッケルやニッケル合金等の金属材料により、先端部71に凹部75を有する円筒状に形成されている。なお、以下では、ひげ持70の中心軸をCとして説明する。
【0045】
ひげ持70の先端部71は、基端側から先端側に向かって漸次縮径するテーパ状に形成されている。ひげ持70の先端部71に形成された凹部75は、ひげぜんまい40の軸方向の幅よりも深くなるように形成されている。凹部75の底部は、例えばすり鉢状に形成されている。凹部75には、時計部品用接着剤80が挿入される。ひげ持70の先端部71は、時計部品用接着剤80を介してひげぜんまい40の外端部45が固定される被固定部71aとなっている。
【0046】
ひげ持70の先端部71には、切欠部77が形成されている。切欠部77は、中心軸を挟んでひげ持70の径方向の両側において、ひげ持70の軸方向から見て径方向に沿うように、先端部71の開口縁部が切り欠かれて形成されている。切欠部77の内形は、ひげ持70の径方向の外側から見たとき、ひげぜんまい40の外端部45の外形よりも大きくなっている。切欠部77内には、ひげぜんまい40の外端部45が配置される。
ひげ持70の基端部72は、例えばひげ持受60(図4参照)に対して接着剤により固定されている。
【0047】
図6は、実施形態に係る時計部品用接着剤80の外観斜視図である。なお、図6では、時計部品用接着剤80が中心軸Cと同軸に配置されている状態を図示している。
続いて、実施形態に係る時計部品用接着剤80の詳細について説明する。
図5および図6に示すように、時計部品用接着剤80は、ひげ持70に形成された凹部75の内形状に対応した外形状を有するペレット状の接着剤体81からなり、例えば虫体被覆物等の天然樹脂、またはフェノール樹脂やポリアミド樹脂、エチレン酢酸ビニル等からなる合成樹脂等の材料を主成分とする熱可塑性の接着剤である。
接着剤体81は、全体として円柱状に形成されており、ひげ持70の中心軸Cに沿う挿入方向(図6における矢印参照)に沿って移動されて、ひげ持70の中心軸Cと同軸となるように凹部75内に挿入配置される。
【0048】
接着剤体81の軸方向における一端部は、時計部品用接着剤80を凹部75に挿入するときの挿入方向下流側の端部82となっており、すり鉢状に形成された凹部75の底部に対応して先細りに形成されている。これにより、時計部品用接着剤80は、凹部75への時計部品用接着剤80の挿入時に、開口縁部に引っ掛かることなく、挿入方向下流側の端部82によって凹部75内に案内される。
【0049】
また、接着剤体81の挿入方向上流側の端部83には、ひげぜんまい40の外端部45を収納する収納部85が形成されている。
本実施形態の収納部85は、接着剤体81をひげ持70の凹部75に挿入配置したときに、ひげ持70の切欠部77に対応する位置において、ひげ持70の中心軸Cと交差するとともにひげ持70の径方向に沿うように形成された溝部85Aとなっている。
溝部85Aの内形は、ひげ持70の径方向の外側から見たとき、ひげぜんまい40の外端部45の外形とほぼ同等となっている。すなわち、溝部85Aの幅は、ひげぜんまい40の外端部45における径方向に沿う厚さとほぼ同一となっている。また、溝部85Aの深さは、ひげぜんまい40の外端部45における軸方向に沿う幅とほぼ同一となっている。ひげぜんまい40の外端部45は、溝部85Aに挿入配置されることにより、溝部85A内に収納されるとともに、溝部85Aによって位置決めされる。
【0050】
時計部品用接着剤80の製造方法は特に限定されないが、本実施形態の時計部品用接着剤80は、例えばいわゆるスクリーン印刷により形成される。
具体的には、まず、接着剤体81の外形に対応して形成された複数の凹部を有するマスクを用意する。次いで、マスクの凹部に対して、接着剤原料を溶融させつつスキージ等により充填する。次いで、凹部に充填された接着剤原料を冷却して固化させる。最後に、マスクの凹部から固化した接着剤原料を取り出す。以上により、ペレット状の接着剤体81からなる時計部品用接着剤80を形成することができる。なお、収納部85である溝部85Aは、雄型を使用して形成してもよいし、切削等の機械加工により形成してもよい。
【0051】
本実施形態によれば、接着剤体81は、ひげ持70の凹部75の内形状に対応した外形状を有するので、従来技術のように接着剤体81の選定を行う必要がない。また、ひげ持70の被固定部71aの凹部75に適した大きさの接着剤体81を充填できるので、接着剤体81を溶融するのに時間が増大するのを防止できる。したがって、ひげぜんまい40をひげ持70の被固定部71aに対して、短時間で簡単に接着することができる。
【0052】
また、従来技術のように接着剤体81の選定を行うことなく、ひげ持70の凹部75に適した大きさの接着剤体81を挿入できる。したがって、ひげぜんまい40の外端部45をひげ持70に対して、短時間で簡単に接着することができる。
【0053】
また、ひげ持70の被固定部71aの凹部75に挿入された接着剤体81の収納部85に、ひげぜんまい40の外端部45を配置することにより、ひげ持70に対してひげぜんまい40の外端部45が位置決めされた状態で、接着剤体81を溶融および固化できる。したがって、従来技術のように、手作業によりひげ持70に対するひげぜんまい40の外端部45の位置決めを行う必要がないので、ひげぜんまい40の外端部45をひげ持70に対して容易に位置決めしつつ、短時間で簡単に接着することができる。
【0054】
また、収納部85は、ひげ持70の中心軸Cと交差するとともにひげ持70の径方向に沿うように形成された溝部85Aであるので、溝部85Aにひげぜんまい40の外端部45を配置しつつ接着剤体81を溶融および固化することにより、ひげ持70の中心に位置するようにひげぜんまい40の外端部45を接着することができる。したがって、ひげぜんまい40のばね定数および拡縮時の周期を高精度に設定できる。
【0055】
また、接着剤体81は、凹部75への挿入方向下流側の端部82が先細りに形成されているので、凹部75に対して接着剤体81を容易に挿入できる。したがって、ひげぜんまい40の外端部45をひげ持70に対して固定する際の作業時間をさらに短縮することができる。
【0056】
また、本実施形態のムーブメント100および時計1によれば、ひげぜんまい40の外端部45をひげ持70に対して短時間で簡単に接着することができるので、低コストなムーブメント100および時計1を提供できる。
【0057】
なお、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0058】
実施形態の時計部品用接着剤80は、第二時計部品であるひげ持70に対して第一時計部品であるひげぜんまい40を固定するために使用されていた。これに対して、時計部品用接着剤80により固定される部品は、ひげ持70およびひげぜんまい40に限定されない。
【0059】
また、実施形態に係る時計部品用接着剤80の接着剤体81は、いわゆるスクリーン印刷により製造されていたが、時計部品用接着剤80の製造方法は実施形態に限定されない。したがって、例えば、接着剤原料を定量供給可能なディスペンサ等を使用して接着剤体81を形成してもよいし、例えば、圧粉成型により接着剤体81を形成してもよい。
【0060】
また、実施形態に係る時計部品用接着剤80の接着剤体81は、挿入方向下流側の端部82が、テーパ面を有する先細りに形成されていた。これに対して、接着剤体81は、挿入方向下流側の端部82は、先細りに形成されることなく、例えば平坦に形成されていてもよい。
【0061】
図7は、実施形態の第一変形例に係る時計部品用接着剤80の外観斜視図である。なお、図7では、時計部品用接着剤80が中心軸Cと同軸に配置されている状態を図示している。
図7に示す実施形態の第一変形例に係る時計部品用接着剤80のように、接着剤体81が収納部85(図6参照)を有していなくてもよい。この場合においても、実施形態と同様に、接着剤体81の選定を行う必要がない。また、ひげ持70の凹部75に適した大きさの接着剤体81を充填できる。したがって、上述の実施形態と同様に、ひげぜんまい40をひげ持70に対して、短時間で簡単に接着することができる。
【0062】
図8は、実施形態の第二変形例に係る時計部品用接着剤80の外観斜視図である。なお、図8では、時計部品用接着剤80が中心軸Cと同軸に配置されている状態を図示している。
実施形態では、収納部85が、ひげ持70の切欠部77に対応する位置において、ひげ持70の中心軸Cと交差するとともにひげ持70の径方向に沿うように形成された溝部85Aとなっていた(図5参照)。
これに対して、例えば、図8に示すように、収納部85が貫通孔85Bであってもよい。貫通孔85Bは、ひげ持70の切欠部77(図5参照)に対応する位置において、中心軸Cと交差するとともに、ひげ持70の径方向に沿うように接着剤体81を貫通している。この場合においても、貫通孔85Bにひげぜんまい40の外端部45を配置しつつ接着剤体81を溶融および固化することにより、実施形態と同様にひげ持70の中心に位置するように、ひげぜんまい40の外端部45をひげ持70の被固定部71aに対して接着することができる。したがって、ひげぜんまい40のばね定数および拡縮時の周期を高精度に設定できる。
【0063】
図9は、実施形態の第三変形例に係る時計部品用接着剤80の外観斜視図である。なお、図9では、時計部品用接着剤80が中心軸Cと同軸に配置されている状態を図示している。
図9に示す実施形態の第三変形例に係る時計部品用接着剤80のように、接着剤体81が、第一接着剤体81Aと第二接着剤体81Bとに分割形成されていてもよい。
第一接着剤体81Aと第二接着剤体81Bとには、それぞれ溝部85Cが形成されている。溝部85Cは、軸方向において互いに対向するように形成されており、第一接着剤体81Aと第二接着剤体81Bとが合体することで、貫通孔が形成されるようになっている。なお、図9に示す例において、溝部85Cは、第一接着剤体81Aと第二接着剤体81Bとに形成されているが、第一接着剤体81Aおよび第二接着剤体81Bの少なくともいずれか一方に形成されていればよい。
実施形態の第三変形例によれば、第一接着剤体81Aと第二接着剤体81Bとの間にひげぜんまい40の外端部45を配置しつつ、第一接着剤体81Aと第二接着剤体81Bとにより固定できる。したがって、ひげぜんまい40の外端部45の全周囲にわたって、溶融した第一接着剤体81Aおよび第二接着剤体81Bを密着させて強固に固定することができる。
【0064】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0065】
1・・・時計 40・・・ひげぜんまい(第一時計部品) 45・・・外端部 70・・・ひげ持(第二時計部品) 71a・・・被固定部 75・・・凹部 80・・・時計部品用接着剤 81・・・接着剤体 81A・・・第一接着剤体 81B・・・第二接着剤体 85・・・収納部 85A,85C・・・溝部(収納部) 85B・・・貫通孔(収納部) 100・・・ムーブメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9