【0023】
(成形用植物繊維強化熱可塑性樹脂材)
本発明の成形用植物繊維強化熱可塑性樹脂材は、原料としてパーム果実抽出残渣及び/又はパーム空果房由来の植物繊維と、熱可塑性樹脂を含有するものであるが、これらを混練したものや混練したものをペレタイザー等でペレット化したものも含むものである。
本発明の成形用植物繊維強化熱可塑性樹脂材は、パーム果実抽出残渣及び/又はパーム空果房由来の植物繊維の重量比率が5〜50重量%が好ましく、より好ましくは30〜40重量%である。パーム果実抽出残渣とパーム空果房を併用する場合、両者の配合比率は任意に設定することができる。また、熱可塑性樹脂の重量比率は50〜95重量%が好ましく、より好ましくは60〜70重量%である。
植物繊維量が多すぎると粘性が高くなりすぎ、成形性が低下する場合がある。また、植物繊維量が少なすぎると熱可塑性樹脂の割合が多くなるために材料原価が高くなり、植物繊維を利用する効果が低下する場合がある。
植物繊維強化熱可塑性樹脂材の水分量は0.3重量%以下、好ましくは0.25重量%以下である。水分量が多すぎると、成形時に配合した植物繊維の熱分解が生じ着色が大きくなる場合がある。
本発明に用いることができる熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂,ポリエステル樹脂,ポリアミド樹脂,ABS樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリアセタール樹脂が挙げられ、これらの1種または2種以上を併用して用いることができる。この中でも、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
また、衝撃性あるいは曲げ強度を改善する目的の場合、無水マレイン酸をグラフト重合した変性ポリプロピレン等を本発明の成形用植物繊維強化熱可塑性樹脂材に対して、0.1〜20重量%の範囲で加えることが好ましい。
なお、本発明の植物繊維強化熱可塑性樹脂材には、成形の妨げにならない範囲で、他の繊維強化材や充填剤を添加することができる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例を記載する。なお、例中の%は特に断りのない限り、重量基準を意味するものとする。
【0032】
(比較例1〜2)
10mmから50mmの繊維長のEFB繊維を1mmから5mmの繊維長分布になるように粉砕した。平均繊維長は3.41mm,アスペクト比は28.4であった。EFB繊維は残留している水可溶成分を除去するため、40gのEFB繊維に対して1000mlのビーカーに蒸留水800mlを加え、ヒータで加熱・攪拌しながら温水(80℃)による洗浄を行った。洗浄を行った後、EFB繊維を濾別・乾燥した。洗浄処理後のEFB繊維中の不純物の重量は8%減少した。さらにEFB繊維をオーブンにて24時間,80℃で加熱乾燥した。
次に
図1に示すような1軸混練機にEFB繊維およびポリプロピレン樹脂を重量比で40:60として混合しながら200℃に加熱・押出し、ペレットを作製した。このときのペレットの水分は0.8%であった。
このペレットを2g秤量し、熱プレス成形を行った。熱プレス条件は圧力100kgf/cm2,保持時間10分,温度200℃,240℃,260℃で行った。
各条件で調製した成形体の加熱分解性をみるため、成形体の色調評価を行った。
色調評価はパネラー10名が目視で確認し、表1の基準に基づき、加熱前のEFB繊維の色調を5点とし、着色度合に応じて1〜5点の点数をつけその平均値を算出した。平均値が3.5点以上のものを色調として合格と判断した。
【0033】
(表1)色調評価基準
【0034】
(表2)色調評価結果
【0035】
表2の結果より、比較例1や2は色調評価が3.5点未満となり、ペレットの水分が0.8%であると熱プレス成形温度を200℃から240℃や260℃に上げた場合、加熱分解が生じる結果となった。
【0036】
(実施例1〜2、比較例3〜4)
比較例1と同様にEFB繊維中の水可溶成分を除去したEFB繊維を用意し,EFB繊維を真空加熱乾燥装置により100℃,5hr,5torrにて、水分量1%以下に乾燥した。乾燥直後のEFB繊維とポリプロピレンを40:60の重量比で混合・押出し、ペレットを作製した。ペレット作製後、ペレットは真空加熱乾燥装置により100℃,5hr,5torrにて乾燥を行った。ペレットは乾燥後、室内(25℃,湿度55%)で、0分,20分,40分,60分に放置し、続いて熱プレス成形を行った。熱プレス条件は圧力100kgf/cm
2,保持時間10分,温度260℃とした。なお、0分,20分,40分,60分放置後のペレットの水分値は、それぞれ、0%、0.25%、0.35%、0.42%であった。色調評価した結果を表3に示した。
【0037】
(表3)色調評価結果
【0038】
表3より、乾燥後のペレットを室内で0分及び20分放置した後成形したものが、色調評価が3.5点以上であり良好であった。0分のものは、200℃で成形したものと同様の色調評価であり、また、パネラー10名による焦げに伴う不快な臭気の有無を評価したところ、いずれも不快な臭気が認められないという結果になった。
しかしながら、室内の暴露時間が40分以上と長くなると、焦げによる変色が進み色調評価が40分で2.4点、60分で1.4点と悪くなり、また、パネラー10名による焦げに伴う不快な臭気の有無を評価したところ、いずれも不快な臭気が認められるという結果になった。以上の結果より、ペレットに吸着している水分が植物繊維の熱分解温度を低下させていることが認められ、ペレットの水分を少なくとも0.3%以下に除去することで成形温度を200℃から260℃に上昇できることが明らかになった。
【0039】
(試験例1)
減圧加熱乾燥後に室内に放置した際のEFB繊維1gおよびEFB繊維・ポリプロピレンのペレット1g(植物繊維重量比率40%)の重量変化を測定した。減圧加熱乾燥条件は100℃,5hr, 5torrの条件とし、重量測定は25℃,湿度55%に保った室内に置いた電子天秤で重量変化を測定した。
図2は室内放置時間とEFB繊維およびEFB繊維・ポリプロピレンペレットの重量変化の関係を示した図である。
図2からわかるように、EFB繊維は乾燥後7重量%、EFB繊維・ポリプロピレンのペレットは0.75重量%、吸湿による重量増加が認められた。また、EFB繊維、EFB繊維・ポリプロピレンペレット共に大気暴露直後に急速に吸湿していることが判明した。特に20分後から60分後の吸湿量が大きかった。
図2から判断すると、EFB繊維・ポリプロピレンペレットは重量比で0.3重量%以上の水分を吸湿すると、熱分解が生じ始めることが判明した。これはペレットのEFB繊維重量が40%であることから、EFB繊維単体において0.75重量%の水分が吸着することに相当する。0.75重量%の水分は乾燥後EFB繊維においては、5分以内に吸収されるため、200℃以上の成形でEFB繊維・ポリプロピレンが熱分解を避けるためには厳密な水分吸着量の管理が必要であると判断される。
【0040】
(実施例3〜6、比較例5〜8)
植物繊維の洗浄処理と金型付着成分(ヤニ成分)との関係を調べた。
EFB繊維あるいはMF繊維を未洗浄あるいは洗浄した後、60℃、2時間オーブンで乾燥し、その後室温で1日放置した。放置後のEFB繊維あるいはMF繊維の水分量は7%であった。平均繊維長は3.41mm,アスペクト比は28.4であった。
なお、植物繊維の洗浄条件は水で洗浄する場合は、80℃で行い、植物繊維と水の重量比は1:20とした。アセトンで洗浄する場合は25℃で行い、植物繊維とアセトンの重量比は1:20とした。
次に実施例1の方法に従い、洗浄あるいは未洗浄のEFB繊維あるいはMF繊維と、ポリプロピレンを混錬し、40%の植物繊維・ポリプロピレンペレットを作製した。ペレットを乾燥する場合、真空加熱乾燥装置により100℃,5hr,5torrにて乾燥を行った。作製したペレットに対して熱プレス成形を行った。熱プレス条件は圧力100kgf/cm
2,保持時間10分,温度260℃とした。
なお、各植物繊維の洗浄方法、乾燥処理の有無及びペレットの水分値を表4に示した。
成形時には金型とペレットの間にアルミ箔シートを置いた。成形後に、成形体からアルミ箔シートを剥がし、その重量を測定した。ヤニ成分が付着すると、アルミ箔シートの重量は増加する。そこで、成形前後のアルミ箔シートの重量差を測定し、ヤニ成分(mass change:重量変化率)とした。Mass changeの値が、1.5×10
-4以下である場合、目視でヤニ成分の付着量が認められず、ヤニ成分の付着量が少なく良好であると判断される。
EFB繊維の結果(実施例3〜4、比較例5〜6)を
図3に、MF繊維の結果(実施例5〜6、比較例7〜8)を
図4に示した。
【0041】
(表4)植物繊維処理一覧
【0042】
200℃,260℃の両方の成形条件において、EFB繊維,MF繊維いずれも、Mass changeの値が1.5×10
-4以下となり、ヤニ成分は大きく減少した。これにより、 MF繊維およびEFB繊維の両方において、温水またはアセトンによる植物繊維の洗浄処理,ペレットの真空乾燥処理がヤニ成分の減少に大きく影響することが判明した。
【0043】
(実施例7、比較例9)MF繊維、バガス繊維を配合したポリプロピレン樹脂のMFRの比較
本発明のMF繊維:ポリプロピレンを40:60で配合した樹脂材とバガス繊維:ポリプロピレンを40:60で配合した樹脂材についてMFR(メルトフローレート)を測定した。MFRは樹脂の流動性を表し、JISK7210:1999に定めた方法に従い、シリンダー中で樹脂により決められた温度、例えば一般的なポリエチレンなどでは190℃、ポリプロピレンでは230℃に加熱した樹脂に2160gf/cm
2の荷重をかけたとき、決められた細孔(オリフィス)から10分間に流れ出る流量(g/10min)で表す。
MFR値は高くなるほど流動性が良いことを示し、樹脂の成形性が良好となる。
MFRを測定した結果を表5に示した。
【0044】
(表5)MFR測定結果
【0045】
表5の結果のように、MF繊維を配合したものは、バガス繊維を配合したものよりもMFR値が高くなり、バガス繊維よりも樹脂の成形性が優位に高いことが示された。
【0046】
(実施例8〜9、比較例10)
繊維長の異なるEFB繊維、MF繊維とバガス繊維を原料として、実施例1と同様にして調製した成形体の表面の粗さ(Rz値)を測定した。
表面の粗さRz値(10点平均、単位μm)は、測定機器として小型表面粗さ測定器 SJ-301型(株式会社ミツトヨ製)を用い、測定区間7.2mmで測定した。結果を表6に示した。
【0047】
(表6)表面粗さ(Rz値)の比較
*平均繊維長3mm
【0048】
表6のように、EFB繊維やMF繊維を配合したものは、バガス繊維よりもRz値が低くなり、表面がより滑らかになり、成形体の品質として良好になることが示された。