特開2015-140268(P2015-140268A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2015140268-四塩化チタン製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-140268(P2015-140268A)
(43)【公開日】2015年8月3日
(54)【発明の名称】四塩化チタン製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/02 20060101AFI20150707BHJP
【FI】
   C01G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-12563(P2014-12563)
(22)【出願日】2014年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100123467
【弁理士】
【氏名又は名称】柳舘 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】稗田 浩士
(57)【要約】
【課題】 流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造で問題となる流動層での高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルを解決する。
【解決手段】 流動塩化炉内の流動層2中の高沸点塩化物濃度が安定操業を阻害する危険レベルに接近したときに、炉内雰囲気で難反応性を示す微細粒子を流動層2中へ時限的に直接投入する。投入された微細粒子が炉外へ排出されるときに、流動層2中の高沸点塩化物が微細粒子の表面に付着して炉外へ排出される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造方法において、炉内雰囲気中で難反応性を示す微細粒子を流動塩化炉内の流動層中に投入する四塩化チタン製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の四塩化チタン製造方法において、流動層中の高沸点塩化物濃度が安定操業を阻害する危険レベルに接近したときに、流動層中への微細粒子の投入を時限的に行うことにより、流動層中の高沸点塩化物濃度を安定操業レベル内に維持する四塩化チタン製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の四塩化チタン製造方法において、微細粒子の反応性は、1100℃での塩素との反応におけるギブスの自由エネルギーΔGが60J/mol-Cl以上である四塩化チタン製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の四塩化チタン製造方法において、微細粒子はSiO粒子又はAl粒子である四塩化チタン製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の四塩化チタン製造方法において、微細粒子の粒径は平均粒径(Dp=50)で表して10〜100μmである四塩化チタン製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の四塩化チタン製造方法において、微細粒子の投入量は原料投入量(チタン鉱石粉末及びコークス粉末の合計投入量)に対する比率(重量比)で示して5〜20%である四塩化チタン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタン製造方法に関し、更に詳しくは、流動層での高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルを効果的に解消できる四塩化チタン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属Tiの製造原料である四塩化チタンは、工業的には流動塩化炉を用いた流動塩化法により製造されることが多い。流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造では、原料となるチタン鉱石(天然ルチルや合成ルチル、チタンスラグ)の粉末をコークス粉末と混合した状態で流動塩化炉内に供給すると共に、炉底から塩素ガスを吹き込み、高温下で炉内下部に原料流動層を形成する。これにより、チタン鉱石が塩素ガスにより塩素化され、四塩化チタンガスが生成されて炉頂部から導出される。
【0003】
チタン鉱石には不純物としてCaOやMgOなどの金属酸化物が含まれている。これらの不純物は、炉内で塩化されることによりCaClやMgClなどの塩化物を生成する。これらの塩化物は、沸点が高い高沸点塩化物であることから、炉内温度領域(1000〜1100℃)でも気体にならず、液体として存在し、流動塩化炉の運転時間が長くなるにつれて蓄積が進む。流動層中で液体として存在する高沸点塩化物は粒子同士を凝集させる作用があるため、高沸点塩化物の蓄積は粒子の流動不良を引き起こす原因になる。
【0004】
そして、粒子の凝集や焼結といった流動不良トラブルに陥ると、反応性が低下するために、塩素ガスが未反応のまま系外へ排出されることがある。系外へ排出された塩素ガスは短期的には排ガス処理設備で中和処理されるが、長期間放置できる事態ではないため、長期的には流動塩化炉への塩素ガスの供給を停止し、代わりにドライエア又は酸素ガスを炉内に供給してコークスを燃焼させ、炉内温度を上昇させることにより反応性を改善する対策が講じられるが、コークスロスや塩素ガス再供給までの間が生産ロスとなることによる経済的損失は避け得ない。
【0005】
高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルは、以前はチタン鉱石の品質が高く、不純物濃度が低かったために実質的な問題に至ることは少なかった。しかし、近年の世界的なチタン鉱石の需要逼迫状況に伴って鉱石価格が高騰し、従来より純度の低いチタン鉱石を使用していかざるを得なくなった。これに伴ってチタン鉱石中の不純物濃度が高くなり、その結果として高沸点塩化物の蓄積が顕著化し、流動不良トラブルによる経済的損失が問題化してきた。
【0006】
このような高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルとは別に、流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造では、流動層中の難反応性物質の蓄積による反応性低下の問題がある。これは、流動塩化炉を長期にわたって運転し続けると、チタン鉱石中に含まれる不純物のうち、炉内温度域でも塩素ガスと反応し難い成分が、難反応性物質として流動層中に蓄積して、反応性を低下させる現象である。
【0007】
流動層中に蓄積する代表的な難反応性物質はSiOである。難反応性物質の主成分であるSiOは、チタン鉱石からだけでなく、流動塩化炉の炉内面に設置された耐火レンガからも物理的な磨耗によって流動層中に持ち込まれる。そして、流動層中の難反応性物質が所定の比率以上に多くなった場合は、流動層全体の反応性が著しく低下する。
【0008】
後者の問題、すなわち流動層中の難反応性物質の蓄積による反応性低下の問題に対しては、流動層を構成する粒子物質を定期的に抜き取り、代わりに反応性を有する原料粉末及びコークス粉末を流動層中に供給することの有効性が特許文献1により提示されている。後で詳しく述べるが、この流動粒子物質の抜き取り対策は、前者の問題、すなわち流動層中の高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルに対しては、必ずしも最善と言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−109322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造で問題となる流動層での高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルを効果的に解決できる四塩化チタン製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造操業に長年従事しており、流動層中の難反応性物質の蓄積による反応性の低下を解消するために、流動塩化炉から抜取られた流動層粒子に着目して調査を行った。流動層粒子を抜き取ると、流動層に蓄積したSiOなどの難反応性物質が炉内から排除されることにより、高い反応性を維持することができるが、それ以外にも、炉外へ抜き取られた難反応性物質粒子の表面にCaClやMgClなどの高沸点塩化物が付着していることが認められたため、高沸点塩化物が炉外へ排出されることによる流動性の改善、これによる反応性の向上も合わせて期待できることが判明した。
【0012】
すなわち、流動層粒子の抜き取りは、流動層中の難反応性物質の蓄積による反応性の低下を解消するのに有効なだけでなく、高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルの解消にも有効なことが判明したのである。
【0013】
しかしながら、流動層粒子の抜き取りは、難反応性物質を選択的に除去できるものではなく、未反応のチタン鉱石粒子及びコークス粒子も同時に除去してしまうため、原料ロスが生じるのを避け得ない。高沸点塩化物の蓄積による流動不良トラブルは、原料調達コストの高騰に伴う原料品質の低級化により顕著化する問題であるため、原料ロスは致命的な問題となる。加えて、流動層中の高沸点塩化物濃度が高い場合は、大量の流動層粒子を短期間で抜取る必要が生じる。この場合、流動層量が減少(すなわち反応領域が減少)することによる未反応塩素の発生リスクが高くなることに加え、もとの流動層量に戻すために常温の原料を大量投入する必要があり、それらを1000〜1100℃まで昇温するためのドライエアや酸素が必要となるため、さらなるコスト悪化を引き起こす。
【0014】
このような事情から、本発明者は流動層粒子の抜き取り、特に難反応性物質粒子の除去が高沸点塩化物の除去に有効なことを念頭に置きつつ、新たな高沸点塩化物の除去法について鋭意検討した。その結果、これまでは炉外への抜き取り対象とされていた難反応性物質粒子を逆に炉内へ投入するのが有効なこと、より詳しくは、難反応性物質粒子のなかでも粒径が小さな微細粒子を流動塩化炉内へ積極的に投入するのが有効なことを本発明者は知見した。
【0015】
すなわち、本発明者の調査検討によると、液相の高沸点塩化物は徐々に炉内に蓄積するものの、投入鉱石中のCaO量やMgO量対比で算出すると、その大半が炉外へ排出されていること。難反応性物質粒子についても、流動塩化炉の運転継続に伴って炉内に蓄積するのは事実であるが、炉内に蓄積するのは比較的粒径が大きい粗大粒子であり、粒径が小さい微細粒子は炉外へ排出されていること。そして、炉外へ排出される高沸点塩化物は、同じく炉外へ排出される微細粒子の表面に付着していることから、その微細粒子が高沸点塩化物の効果的なキャリアとなっている事実を本発明者は突き止めた。
【0016】
したがって、流動塩化炉外へ排出されるような微細な難反応性物質粒子を炉内へ積極的に投入すると、それら微細粒子の炉内蓄積がないばかりか、微細粒子表面に液相の高沸点塩化物が付着して微細粒子と共に炉外へ排出されることにより、高沸点塩化物が炉外へ効果的に排出されることになるのである。
【0017】
本発明の四塩化チタン製造方法はかかる知見を基礎として完成されたものであり、流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造方法において、炉内雰囲気中で難反応性を示す微細粒子を流動塩化炉内の流動層中に投入するものである。
【0018】
本発明の四塩化チタン製造方法においては、流動層中に投入された難反応性の微細粒子は難反応性ゆえに分解せず、また微細粒子であるゆえに粒子状態のまま炉外へ排出され、その排出過程で表面に液相の高沸点塩化物を付着させる。これにより、流動層中の高沸点塩化物の炉外への排出が促進され、その高沸点塩化物濃度の上昇が抑制される。また、原料ロスや難反応性微細粒子の炉内蓄積といった二次的弊害がなく、効率が高い。
【0019】
本発明の四塩化チタン製造方法において重要な因子は、微細粒子の反応性、粒径及び投入形態(投入箇所、投入時期、投入量など)である。以下にこれらの因子について詳述する。
【0020】
〔反応性〕
流動塩化炉運転中の炉内雰囲気、特に流動層中の雰囲気は温度が1000〜1100℃で、塩素濃度が95%以上という高温高塩素の高反応性雰囲気である。本発明においては、流動層中に投入された微細粒子がこの雰囲気中で出来るだけ分解反応しないことが重要である。流動層中に投入された微細粒子が分解反応を起こすと、高沸点塩化物に対する付着性を失い、キャリアとして機能し難くなるだけでなく、自らも塩化物を生じ、特にCaやMgを含む場合は高沸点塩化物濃度を高める原因となる。
【0021】
流動層雰囲気中での微細粒子の反応性を具体的に示すと、1100℃における塩素との反応においてギブスの自由エネルギーΔGが60J/mol-Cl以上であることが望ましく、70J/mol-Cl以上がより望ましい。この指標ΔGは大きいほどよいので、上限は存在しない。これを満足する粒子物質としては、例えばSiO及びAlがある。ちなみに、これらのΔGはSiOで91J/mol-Cl程度、Alで72J/mol-Cl程度である。
【0022】
〔粒径〕
流動塩化炉の運転中に投入された微細粒子が高沸点塩化物のキャリアとして機能するためには出来るだけ多く炉外へ排出されることが必要である。この観点から、その微細粒子の粒径は小さいことが必要であり、具体的には平均粒径(Dp=50)で表して100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。粒径の下限については、粒径が小さすぎると投入後直ちに流動層上端に達してしまい、高沸点塩化物のキャリアとしての機能を十分に果たすことができなくなってしまうため、平均粒径(Dp=50)で表して10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。
【0023】
〔投入形態〕
流動塩化炉の運転中、流動層は炉内下部に形成され、その流動層で生成された四塩化チタンガスが炉内を上昇して炉頂部から炉外へ排出される。流動層より上に微細粒子が投入された場合、その粒子は炉内の上昇気流にのって流動層と接触することなく炉外へ排出されるため、キャリアとして十分に機能しなくなる。このため、その微細粒子は流動層中に直接投入することが好ましく、具体的には、原料投入経路とは別の専用経路により、窒素ガス又はドライエアなどのキャリアガスを用いて流動層中に直接投入を行うのが好ましい。
【0024】
また、効率は低下するが、難反応性微細粒子を原料粉末(チタン鉱石粉末及びコークス粉末)と混ぜて原料投入経路により流動層中に投入することも可能である。
【0025】
投入時期については、流動層中の高沸点塩化物濃度を指標として、これが検出されたときであればいつでも投入してよい。この投入期間は、例えば数時間から数日間である。
【0026】
投入期間中の投入量(厳密には投入速度で単位時間あたりの投入量)は、少なすぎると高沸点塩化物濃度を低下させる効果が小さく、多すぎるとチタン鉱石の塩化反応が阻害される懸念が生じるので、原料投入量(チタン鉱石粉末及びコークス粉末の合計投入量)に対する比率(重量比)で表して5〜20%が好ましい。原料投入は通常、連続的であるが、難反応性微細粒子の投入は連続的でも断続的でもよい。投入量に1日あたりの投入時間を乗じ、これに更に投入期間(日数)を乗じたものが投入総量となる。投入総量は、高沸点塩化物の低下させるべき濃度に概ね対応する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の四塩化チタン製造方法は、流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタンの製造操業において、難反応性物質粒子を炉外へ排出されるような微細粒子の形態で流動層中に投入することにより、流動層中の高沸点塩化物を、難反応性物質粒子の炉内蓄積を伴うことなく、また原料ロスを伴うことなく炉外へ効率的に排出することができる。したがって、流動層中の高沸点塩化物による流動不良トラブルを効率的に回避でき、操業効率の向上、経済性の向上に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に用いられる流動塩化炉の概略構成図で縦断立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
本実施形態の四塩化チタン製造方法に使用される流動塩化炉は、図1に示すように、円筒形状の炉体1の下部内に向けて原料粉末としてのチタン鉱石粉末をコークス粉末と共に連続投入すると共に、炉底から炉内に塩素ガスを連続的に吹き込むことにより、炉体1の下部内に流動層2を形成する。流動層2では1000〜1100℃の高温下でチタン鉱石が塩化処理されることにより、四塩化チタンガスが生成される。生成した四塩化チタンガスは炉頂から炉外へ逐次排出される。
【0031】
チタン鉱石は不純物としてCaOやMgOなどの金属酸化物を含んでいる。これらの不純物は反応性物質であるため、炉内で塩化されることによりCaClやMgClなどの高沸点塩化物を生じ、これが液相状態で流動層2中に蓄積して流動不良トラブルの原因となることは前述したとおりである。これとは別に、チタン鉱石や炉内耐火物から持ち込まれるSiOやAlなどの難反応性物質粒子も不純物として流動層2中に蓄積する。
【0032】
本実施形態の四塩化チタン製造方法では、流動塩化炉の運転中、流動層2中の高沸点塩化物濃度をモニターし、ここではCaClの濃度により代表させる。このCaCl濃度の上限が5質量%であり、これを超えると粒子の凝集や焼結により流動不良トラブルが生じることは前述したとおりである。そこでCaCl濃度のモニター値がこの上限に近づくと、炉体1内の流動層2に直結する微細粒子供給管3から、SiOなどの難反応性微細粒子を窒素ガス又はドライエアをキャリアガスとして流動層2中に直接投入する。
【0033】
流動層2中に投入された難反応性微細粒子は、分解することなく炉体1内を上昇して四塩化チタンガスと共に炉頂から炉体1外へ排出される。このとき、難反応性微細粒子は流動層2中の高沸点塩化物を表面に付着させて炉体1外へ排出されるので、流動層2中の高沸点塩化物濃度の低下に寄与する。
【0034】
流動塩化炉の運転中は、炉体1の頂部から延出する四塩化チタン取り出し管において四塩化チタンガス中の塩素ガス濃度をモニターし、塩素ガス濃度のモニター値により流動層2の反応性を監視する。四塩化チタンガス中の塩素ガス濃度が上昇し、流動層2の反応性の悪化が認められると、炉底部のガス供給経路を通して、ドライエア又は酸素ガスなどの酸化促進ガスを流動層2中に直接吹き込むことにより、流動層2中のコークスを燃焼させて流動層2の反応性を改善する。また必要に応じて流動層2を構成する粒子物質を炉体1外へ抜き取ることによって、流動層2の反応性を改善する。
【0035】
ここにおける流動層2の反応性悪化は、チタン鉱石粉末や炉体1の内壁を構成する耐火物から持ち込まれる粒径の大きい難反応性粗大粒子が流動層2中に蓄積することが主因であり、一方、流動層2中の高沸点塩化物濃度の上昇に起因する流動不良トラブル、これによる流動層2の反応性低下は、流動層2中への難反応性微細粒子の直接投入により効果的に回避される。
【実施例】
【0036】
次に、上述した四塩化チタン製造方法の有効性、すなわち流動層中へ難反応性微細粒子を直接投入することの効果を実際に調査した結果について説明する。
【0037】
流動塩化炉を用いた流動塩化法による四塩化チタン製造の実操業において、流動層中の高沸点塩化物濃度としてCaCl濃度をモニターした。流動塩化炉の運転期間が長くなるにつれて、このCaCl濃度が上昇した。CaCl濃度のモニター値が予め設定した対策開始濃度に達すると、流動層中へ難反応性微細粒子として平均粒径(Dp=50)が50μmのSiO粒子を投入した。
【0038】
投入に使用したキャリアガスは窒素ガスである。投入量は原料投入量(チタン鉱石粉末及びコークス粉末の合計投入量)に対する比率(重量比)で10%とした。また投入時間は1日あたり5時間とした。投入期間は3日間として流動層中のCaCl濃度の推移を調査した。対策開始濃度は、数日から10日(ここでは1週間)放置すると上限に達する濃度を目安として設定した。
【0039】
平均粒径(Dp=50)が100μmのSiO粒子、及び平均粒径(Dp=50)が50μmのAl粒子についても同様の調査を行った。流動層中のCaCl濃度の推移を、未対策(未投入)の場合も含めて表1に示す。表中のCaCl濃度は、粒子投入開始前の濃度、すなわち対策開始濃度を100とした比率で表されている。
【0040】
【表1】


【0041】
未対策(未投入)の場合は流動層中のCaCl濃度が日毎に上昇し、3日後には4割上昇し、1週間後には上限に到達することが予測される。平均粒径(Dp=50)が50μmのSiO粒子を投入した場合は、流動層中のCaCl濃度が低下し、1日後には3割近く、3日後には5割以上低下した。平均粒径(Dp=50)が100μmのSiO粒子を投入した場合もCaCl濃度は低下したが、その程度は平均粒径(Dp=50)が50μmのSiO粒子を投入した場合に比べると小さい。平均粒径(Dp=50)が50μmのAl粒子を投入した場合は、CaCl濃度が低下したものの、その程度は平均粒径(Dp=50)が100μmのSiO粒子を投入した場合よりも更に小さい。
【0042】
この第1の比較試験からは、難反応性微細粒子の投入は流動層中のCaCl濃度低下に有効であること、難反応性微細粒子の粒径は100μmより50μmの方が望ましいこと、粒子物質としてはAlよりSiOの方が有効であることが分かる。AlよりSiOの方が有効な理由としては、AlはSiOと比べて塩素に対する反応性が高いために、Alの微細粒子の一部が塩素との反応によりAlClとなって揮発したためであると考えられる。
【0043】
第2の比較試験として、平均粒径(Dp=50)が50μmのSiO粒子を投入するにあたり、投入量(原料投入量に対する重量比率)を5%から20%にわたって種々変更した。投入量(原料投入量に対する重量比率)以外の条件は、第1の比較試験のときと同じである。試験結果を表2に示す。
【0044】
【表2】



【0045】
SiO粒子の投入量(原料投入量に対する重量比率)が5%から20%までの範囲内において、流動層中のCaCl濃度の低下効果が見られる。その効果は投入量が多いほど顕著な傾向を見せるが、20%を超えるとチタン鉱石の塩素化反応が阻害される兆候が見られた。
【0046】
第3の比較試験として、SiO粒子の投入量(原料投入量に対する重量比率)を10%として、1日あたりの投入時間を1時間から7時間にわたって種々変更した。他の条件は第1の比較試験及び第2の比較試験のときと同じである。結果を表3に示す。SiO粒子の投入時間が長くなるにつれて投入総量が増加するので、流動層中のCaCl濃度低下が進む傾向があるが、5時間程度で飽和することが分かる。このため、1日あたりの投入時間は5時間以上が好ましいということになるが、極端に長くする必要もないということでもある。
【0047】
【表3】




【符号の説明】
【0048】
1 炉体
2 流動層
3 微細粒子供給管
図1