【課題】生産性・安全性を考慮した方法によって、効率的に樹脂基材の表面に密着性が良好な無電解めっき被膜を形成することができる無電解めっき方法と、当該方法を用いて得られる無電解めっき層付樹脂基材と、金属被膜形成方法と、当該方法を用いて得られる金属張積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、樹脂基材の表面に無電解めっき被膜を形成する無電解めっき方法において、導電率が3.0μS/cm以下の純水を用いて生成された、平均粒径が0.01μm〜100μmのオゾンの微細気泡を含むオゾン水を当該樹脂基材の表面に接触させて、当該基材表面を改質して、厚さ20nm〜200nmの表面改質層を形成した上で、当該表面改質層の表面に無電解めっき被膜を形成する無電解めっき方法を採用する。
前記表面改質層の表面に、0.1μm/h〜5.0μm/hのめっき速度で、前記無電解めっき被膜を形成する請求項1〜請求項5のいずれかに記載の無電解めっき方法。
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の無電解めっき方法を用いて、当該樹脂基材の表面に下地金属層を形成し、当該下地金属層上に電解めっきによりめっきアップ被膜を形成することを特徴とする金属被膜形成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、特許文献1に開示の前処理方法では、オゾン処理によって、樹脂表面と金属被膜との密着性の向上を行うためには、樹脂表面をオゾンと十分に接触させる必要がある。しかし、オゾン水に含まれるオゾンやヒドロキシラジカルなどの活性種は、分解しやすく水溶液中における存在時間が非常に短い。樹脂内部にオゾンが浸透する前に失活してしまうことが多い。そのため、オゾン濃度の高い水溶液を使用する必要がある。
【0011】
しかし、特許文献2において指摘されているように、オゾン濃度の高い水溶液を使用すると、オゾンが樹脂表面に残存し、残存オゾンの強い酸化力によって、無電解めっきによる適切な金属析出が阻害される問題がある。
【0012】
そこで、特許文献2では、残存オゾンを取り除くためのオゾン還元処理が行われているが、作業工程が増加することによる一連のめっき処理が煩雑化する問題がある。また、特許文献2の場合であっても、高いオゾン濃度の水溶液を前処理において使用することから、水溶液中にバブリングされたオゾンが、水面に上昇し、大気中に拡散する問題がある。これにより、作業環境の悪化を招き、作業者の健康被害につながる問題がある。
【0013】
以上のことから、本件発明は、生産性・安全性を考慮した方法によって、樹脂基材の表面に密着性が良好な金属被膜を形成することができる無電解めっき方法と、当該無電解めっき方法を用いて得られる無電解めっき層付樹脂基材と、金属被膜形成方法と、当該金属被膜形成方法を用いて得られる金属張積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本件発明者等は、鋭意研究の結果、新たな樹脂の表面改質方法に想到し、以下の無電解めっき方法と、当該無電解めっき方法を用いて得られる無電解めっき層付樹脂基材と、金属被膜形成方法と、当該金属被膜形成方法を用いて得られる金属張積層体を採用することで、上記課題を解決するに到った。
【0015】
本件発明にかかる無電解めっき方法は、樹脂基材の表面に無電解めっきにより金属層を形成する無電解めっき方法であって、導電率が3.0μS/cm以下、より好ましくは、1.0μS/cm以下の純水を用いて生成した、平均粒径が0.01μm〜100μmのオゾンの微細気泡を含むオゾン水を、当該樹脂基材の表面に接触させて、当該基材表面を改質して、厚さ20nm〜200nmの表面改質層を形成した上で、当該表面改質層の表面に無電解めっきにより無電解めっき被膜を形成することを特徴とする。
【0016】
本件発明にかかる無電解めっき方法において、前記オゾン水のオゾン濃度は、15℃〜40℃の温度条件において、0.1mg/dm
3〜10.0mg/dm
3であることが好ましい。
【0017】
本件発明にかかる無電解めっき方法において、前記オゾン水のオゾン濃度は、15℃〜40℃の温度条件において、0.5mg/dm
3〜2.0mg/dm
3であることがより好ましい。
【0018】
本件発明にかかる無電解めっき方法において、前記樹脂基材と前記オゾン水との接触時間は、1分〜60分であることが好ましい。
【0019】
また、本件発明にかかる無電解めっき方法において、前記オゾン水により処理された後の表面改質層の表面に、アルカリ溶液を接触させた後、当該アルカリ溶液と接触した後の表面改質層の表面に、無電解めっきを行うための金属触媒を吸着させることが好ましい。
【0020】
本件発明にかかる無電解めっき方法において、表面改質層の表面に、0.1μm/h〜5.0μm/hのめっき速度で、無電解めっき被膜を形成することが好ましい。
【0021】
本件発明にかかる無電解めっき方法において、表面改質層の表面に、0.1μm/h〜3.0μm/hのめっき速度で、無電解めっき被膜を形成することがより好ましい。
【0022】
更に、本件発明にかかる無電解めっき方法において、前記樹脂基材は、不飽和結合を有する樹脂基材に適用できる。
【0023】
本件発明にかかる無電解めっき層付樹脂基材は、上述した無電解めっき方法を用いて、無電解めっき被膜を形成したことを特徴とする。
【0024】
本件発明にかかる金属被膜形成方法は、上述した無電解めっき方法を用いて、当該樹脂基材の表面に下地金属層を形成し、当該下地金属層上に電解めっきによりめっきアップ被膜を形成することを特徴とする。
【0025】
本件発明にかかる金属張積層体は、上述した金属被膜形成方法を用いて、樹脂基材の表面に、導電層となる金属被膜を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本件発明にかかる無電解めっき方法によれば、樹脂基材の表面に無電解めっきにより無電解めっき被膜を形成する前段として、当該樹脂基材の表面に、平均粒径が0.01μm〜100μmのオゾンの微細気泡を含むオゾン水を接触させることにより、当該樹脂基材表面全体に粒径の小さいオゾン気泡をムラなく接触させることができる。よって、基材表面は、微細気泡のオゾンとの接触によって、改質処理され、樹脂基材の表面平滑性を維持した上で、無電解めっきにより密着性の高い無電解めっき被膜を形成することができる。
【0027】
本件発明では、微細気泡を含むオゾン水との接触により、樹脂基材の表面に形成される表面改質層の厚さを20nm〜200nmとすることにより、当該表面改質層の表面に無電解めっきにより形成される無電解めっき被膜との密着性を確保することができる。
【0028】
特に、本件発明では、微細気泡状態のオゾンを含むオゾン水は、導電率が3.0μS/cm以下、より好ましくは、1.0μS/cm以下の純水を用いて生成したものであるため、効率的にオゾン濃度が0.5mg/dm
3〜2.0mg/dm
3のオゾン水を得ることが可能となる。当該濃度のオゾン水は、低濃度であるが、微細気泡状態のオゾンは、水に長時間にわたって滞留するため、樹脂基材の表面と十分に接触して改質処理を行うことができ、生産効率の向上、及び、生産環境の安全性を向上させることができる。
【0029】
また、かかる微細気泡を含むオゾン水を用いた樹脂表面の改質方法では、エッチング処理と異なり、樹脂の表面の平滑性を維持することが可能である。従って、本件発明にかかる無電解めっき方法によれば、樹脂基材の表面形状によらず、簡易な方法で樹脂の表面全体を改質することができ、樹脂の表面平滑性を維持した上で、密着性の高い無電解めっき被膜を形成することができる。
【0030】
本件発明にかかる無電解めっき層付樹脂基材によれば、上述した無電解めっき方法を用いて、無電解めっき被膜を形成したものであるため、樹脂基材の表面が複雑な形状であっても、当該樹脂基材の表面全体に密着性の高い無電解めっき被膜を備えたものとすることができる。
【0031】
本件発明にかかる金属被膜形成方法によれば、本件発明にかかる無電解めっき方法を用いて、樹脂基材の表面に下地金属層を形成し、当該下地金属層上に電解めっきによりめっきアップ被膜を形成するため、樹脂基材の表面平滑性を維持した上で、樹脂基材との密着性が高く、且つ、表面が平滑な下地金属層を形成することができる。このため、下地金属層上に表面が平滑なめっきアップ被膜を形成することができる。
【0032】
また、本件発明にかかる金属張積層体によれば、上述の金属被膜形成方法を用いて樹脂基材の表面に、導電層となる金属被膜を設けたものであるので、導体回路表面が平滑なプリント基板の提供を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本件発明にかかる「無電解めっき方法」、「無電解めっき層付樹脂基材」、「金属被膜形成方法」及び「金属張積層体」の好ましい実施の形態を説明する。
【0035】
<本件発明にかかる無電解めっき方法の形態>
まず、本件発明にかかる無電解めっき方法について説明する。本件発明にかかる無電解めっき方法は、樹脂基材の表面に無電解めっきにより無電解めっき被膜を形成する無電解めっき方法に関するものであり、被めっき物である樹脂基材の表面に、導電率が3.0μS/cm以下、より好ましくは1.0μS/cm以下の純水を用いて生成された、平均粒径が0.01μm〜100μmのオゾンの微細気泡を含むオゾン水(以下、単に「微細オゾン気泡含有水」と称する。)を接触させて、基材表面を改質して、厚さ20nm〜200nmの表面改質層を形成した上で、無電解めっきにより当該表面改質層の表面に無電解めっき被膜を形成することを特徴としたものである。
【0036】
本件発明にかかる無電解めっき方法では、樹脂基材は、不飽和結合を有する樹脂を採用する。不飽和結合とは、C=O結合、C=C結合、C=N結合、C≡C結合などをいい、このような不飽和結合を有する高分子樹脂としては、ポリイミド樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AN樹脂、エポキシ樹脂、PMMA樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。
【0037】
本件発明における表面改質処理は、樹脂を構成する高分子が有する各種の官能基に対して攻撃性の高い微細オゾン気泡含有水を採用しているため、微細オゾン気泡含有水中のオゾンによる酸化によって基材表面の樹脂の少なくとも一部の不飽和結合が切断され、オゾニド、メチロール基、或いは、カルボニル基などを生成することができる。これにより、樹脂の表面を化学的に改質している。
【0038】
本件発明の表面改質処理では、従来のエッチング処理と異なり、樹脂の表面を溶解するのではなく、微細オゾン気泡含有水を用いて樹脂の表面を化学的に改質する手法を採用しているため、樹脂の表面の平滑性を維持することができる。そのため、表面をほとんど粗化することなく、樹脂の表面と無電解めっき被膜との密着性を高めることができる。
【0039】
本件発明において、樹脂基材の表面に微細オゾン気泡含有水を接触させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、樹脂基材を微細オゾン気泡含有水に浸漬することにより樹脂基材の表面に微細オゾン気泡含有水を接触させる方法を採用することができる。樹脂基材を微細オゾン気泡含有水に浸漬させることにより、簡素な方法で、上述したように樹脂基材の表面全体にムラなく微細オゾン気泡含有水を接触させることができる。
【0040】
本件発明において、微細オゾン気泡含有水は、導電率が3.0μS/cm以下の純水を用いて生成されたものをいう。なぜなら、導電率が3.0μS/cmより高い水を用いてオゾン水を生成した場合には、微細気泡状態のオゾンの生成効率が著しく低下し、適正なオゾン濃度の水溶液を得るには実用に適さないという問題が生じるからである。より好ましい純水の導電率は、2.0μS/cmである。この範囲となると、微細気泡状態のオゾンの生成効率は、極めて安定化するため好ましい。なお、ここで、下限値を設けていないが、0.1μS/cmを下限値とすることができる。ただし、導電率の下限値は0.1μS/cmを下回るものであってもよい。
【0041】
また、本件発明において、微細オゾン気泡含有水は、オゾンが微細気泡の状態で存在する水溶液をいう。ここで、微細気泡の状態のオゾンとは、水溶液中に存在するオゾン気泡の平均粒径が0.01μm〜100μmである微細気泡状のオゾンを指す。なぜなら、オゾン気泡の平均粒径が0.01μm未満である場合には、当該オゾン気泡の粒径を測定することが困難となる。従って、ここでは、オゾン気泡の平均粒径の下限値は、0.01μmとしているが、0.01μmより小さいオゾン気泡を含むことができる。また、オゾン気泡の平均粒径が100μmを超える場合には、オゾン気泡の粒径が大きすぎて水溶液中にオゾン気泡が滞留しがたくなり、水面より大気中に拡散してしまう問題があるからである。水面から大気中へのオゾンの拡散が生じやすくなると、適正な樹脂の表面改質を行うために、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度を高くする必要が生じる。オゾン濃度が高くなると、大気中へのオゾン拡散量の増大を招き、生産環境の安全性確保が困難となる問題がある。
【0042】
本件発明において、樹脂基材の表面に微細オゾン気泡含有水を接触させて、当該基材表面を改質して形成される表面改質層の厚さは、20nm〜200nmである。表面改質層の厚さが20nm未満である場合には、樹脂基材の表面を十分に改質できていないこととなり、無電解めっきにより当該表面改質層の表面に形成される無電解めっき被膜との間に十分な密着強度を安定的に確保することができなくなる。一方、表面改質層を200nmを超える厚さとしても、無電解めっきにより表面改質層の表面に形成される無電解めっき被膜との間の密着強度の更なる向上が期待できないからである。即ち、樹脂基材と無電解めっき被膜との間で密着強度に関与する表面改質層の厚さは、表面改質層に対する無電解めっきの侵入深さとの関係から一定の限界があり、必要以上の深さに樹脂基材の表面を改質することは、単に生産効率の低下を招くにすぎなくなるからである。
【0043】
また、本件発明において、微細オゾン気泡含有水中のオゾン濃度は、15℃〜40℃の温度条件において、0.1mg/dm
3〜10.0mg/dm
3の範囲とすることが好ましい。オゾン濃度が0.1mg/dm
3未満である場合には、樹脂基材の表面と微細オゾン気泡含有水との接触時間を調整しても、樹脂基材の表面と微細気泡の状態のオゾンとの接触が十分ではなく、樹脂の表面に上述した厚さの表面改質層を形成することが困難となる。一方、オゾン濃度が10.0mg/dm
3を超える場合には、微細気泡の状態のオゾンが水溶液中に滞留しがたくなり、大気中へのオゾン拡散量の増大を招来するから好ましくない。
【0044】
さらに、より好ましくは、生産効率の向上、及び、生産環境における作業者の健康面を考慮し、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度は、15℃〜40℃の温度条件において、0.3mg/dm
3〜2.0mg/dm
3の範囲を採用する。本件出願にかかる無電解めっき方法においては、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度の範囲をこのような低濃度に設定しても、水溶液中に滞留した微細気泡の状態のオゾンが、効率的に樹脂基材の表面と接触して、樹脂表面を改質して、上述した厚さの表面改質層を円滑に形成することができる。また、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度をかかる低濃度に設定することにより、作業者の人体への被害を著しく抑制することができる。
【0045】
さらに、本件発明において、樹脂基材の表面と、微細オゾン気泡含有水との接触時間は、樹脂基材の表面をムラなく改質し、20nm〜200nmの厚さの表面改質層を形成することができる時間の範囲内であればよい。上述したように、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が、15℃〜40℃の温度条件において、0.1mg/dm
3〜10.0mg/dm
3の範囲である場合、1分〜60分とする。当該接触時間が1分未満の場合、樹脂基材の表面を均一に改質できない場合がある。一方、当該接触時間が60分以上を超える場合、微細オゾン気泡含有水中のオゾン濃度によっては、樹脂基材との反応が進行しすぎる結果、表面の樹脂基材が劣化して強度低下を引き起こす恐れがあるため好ましくない。また、15℃〜40℃の温度条件において、0.5mg/dm
3〜2.0mg/dm
3の範囲のオゾン濃度の微細オゾン気泡含有水を用いた場合、当該接触時間を1分〜10分とすることがより好ましい。樹脂基材の種類によっては、このような短い接触時間であっても十分に樹脂基材の表面を改質することができ、且つ、表面改質層の劣化を確実に防止することができるからである。また、工業的な生産効率の向上を図ることができる点で有利となる。
【0046】
上述した微細オゾン気泡含有水の生成方法として、例えば、酸素ガス(O
2)を、無声放電等の周知のオゾン化原理によってオゾン化して、発生したオゾンを水中に導出する方法がある。以下に、微細オゾン気泡含有水を生成する装置の一例としての具体例を
図1の概略図を参照して説明する。
【0047】
図1に示すオゾン水生成装置1は、酸素ボンベや酸素濃縮装置などの外部酸素供給源3から供給される酸素ガス(O
2)を用いて、水槽5内に貯留された純水を微細オゾン気泡含有水2とする装置である。
【0048】
このオゾン水生成装置1は、オゾンを発生させる手段と、発生したオゾンを微細気泡化する手段とを備えている。具体的に、
図1のオゾン水生成装置1において用いられるオゾンを発生させる手段は、高電圧を発生する高電圧発生器と、この高電圧発生器により出力される高電圧を用いて無声放電を行う放電部とから構成される。なお、当該オゾンを発生させる構成は、上述の無声放電方式によるものに限定されるものではなく、電気分解方式や、紫外線ランプ方式などの既存の技術を採用してもよい。ただし、工業的生産性を考慮すると、
図1の装置のように無声放電方式を採用することが好ましい。
【0049】
そして、
図1のオゾン水生成装置1において、発生したオゾンを微細気泡化する手段は、上述の放電部において生成されたオゾンを圧縮するオゾン加圧部と、多孔質フィルタを備えたフィルタ部とから構成される。フィルタ部は、オゾン加圧部にて圧縮オゾンガスとされたオゾンガスと水槽5内の純水と混合して、微細オゾン気泡含有水を生成する。
【0050】
上述の放電部は、外部酸素供給源3から酸素ガスが供給されて、当該酸素をオゾン化する。
図1のオゾン水生成装置1は、当該放電部に供給される酸素ガスの流量を制御する酸素流量調整器を備えているため、放電部に供給される酸素ガスの流量は、任意に変更することができる。
図1のオゾン水生成装置1において、放電部に供給される酸素ガスの流量は、50cc/min〜120cc/minとすることが好ましく、70cc/min〜100cc/minとすることがより好ましい。放電部に供給される酸素ガスの流量が70cc/minより低い場合や、100cc/minを超える場合には、生成されるオゾンガスの濃度が低下する傾向にあるからである。
【0051】
上述のオゾン加圧部は、オゾンガス供給圧力を調整する圧力調整手段を備えており、例えば0.05MPa〜0.25MPaの範囲内で調整可能とされる。また、フィルタ部には、水槽5内の純水をフィルタ部内に取り込む取水部6と、フィルタ部にて微細化された微細気泡状態のオゾンを含んだオゾン水を水槽5に返送するオゾン水放出部7とを備えた各水ライン8が接続されている。
【0052】
以上の構成により、
図1のオゾン水生成装置1を用いた微細オゾン気泡含有水の生成手順について説明する。まず、導電率が3.0μS/cm以下の純水を水槽5内に所定量貯留し、高電圧発生器によって高電圧が印加された放電部に、外部酸素供給源3から所定の供給圧力で酸素ガスを供給する。その後、オゾン水生成装置1は、内蔵されたポンプを運転して取水部6より水槽5内の純水をフィルタ部に取り込む。放電部において生成されたオゾンは、オゾン加圧部において、所定圧力で圧縮されて、フィルタ部に加圧供給される。フィルタ部の多孔質フィルタを通過したオゾンガスは、水槽5内から取り込まれた純水に供給される。これにより、平均粒径が0.01μm〜100μmである微細気泡の状態のオゾンを含んだ微細オゾン気泡含有水が生成され、水ライン8を介してオゾン水放出部7より水槽5内に放出される。オゾン水生成装置1が運転されることにより、水槽5内の純水は、時間の経過と共にマイクロバブル化されたオゾンの量が増加していき、所定時間経過後には、所定のオゾン濃度に安定した微細オゾン気泡含有水が得られる。
【0053】
図1のオゾン水生成装置1によれば、供給する酸素ガスの流量や、オゾンガスの供給圧力を調整することにより、オゾンガス発生量を任意に調整することができる。
図1のオゾン水生成装置1では、装置の前面に設けられた操作パネル4にて、オゾンガス発生量を調整可能とされている。上述の
図1に示すオゾン水生成装置1は、微細オゾン気泡含有水を生成するときに適用可能な装置の一例に過ぎない。そのため、本件発明において使用する微細オゾン気泡含有水は、
図1のオゾン水生成装置1を用いて生成した微細オゾン気泡含有水に限定されない。
【0054】
本件発明では、樹脂基材に対して、微細オゾン気泡含有水による表面改質処理を行って、樹脂基材の表面に表面改質処理層を形成した後、当該樹脂基材の表面に、アルカリ溶液を接触させてアルカリ処理を行い、アルカリ処理を行った後の樹脂基材の表面に、無電解めっきを行うための金属触媒を吸着させてもよい。アルカリ処理を行うことにより、樹脂基材の表面へのパラジウム等の触媒の吸着性を高めて、樹脂基材の表面に金属触媒を吸着させることで、後段の無電解めっき被膜の形成を好適に行うことができる。
【0055】
本件発明では、樹脂基材に対して、上述した表面改質処理及びアルカリ処理、金属触媒吸着処理を施した上で、樹脂基材の表面に無電解めっき被膜を形成する。本件発明において、当該無電解めっきにより樹脂基材の表面に無電解めっき被膜を形成する工程は、無電解めっき浴の組成を調整することにより、樹脂基材の表面改質層の表面に、0.1μm/h〜5.0μm/hのめっき速度で、無電解めっき被膜を形成することが好ましく、めっき速度を0.1μm/h〜3.0μm/hとすることがさらに好ましい。当該めっき速度を5.0μm/hより速い速度で行うと、無電解めっき被膜を形成する金属が樹脂基材の表面改質層の内部に入り込むことが困難となり、当該無電解めっき被膜の密着強度を十分に確保することができないという問題がある。当該めっき速度が0.1μm/hよりも遅くしても、表面改質層の内部に入り込んでいく金属の量は増加せず、工業的生産性を考慮すると実用的でないからである。
【0056】
本件発明において、無電解めっき浴は、還元剤としてホルムアルデヒドを用いたものではなく、ジアルデヒドや、次亜リン酸などを採用したホルムアルデヒドフリーの無電解めっき浴であることが好ましい。特にジアルデヒドを還元剤として用いた無電解めっき浴は、他の還元剤を用いた無電解めっき浴と比べて、上述したようにめっき速度を小さく制御することができる点で有利だからである。
【0057】
なお、本件発明は、無電解めっきプロセスにより、樹脂基材の表面に化学的に析出することが可能な金属であれば、銅、ニッケル、コバルト、スズ等、いかなる金属を用いてもよい。また、無電解めっき浴の組成等については、上述したように、還元剤として上述のホルムアルデヒドフリーの無電解めっき浴を用いて、めっき速度を上述の範囲に調整することができるものであれば、特に限定はなく、従来公知の無電解めっき浴を含め、あらゆる無電解めっき浴を適用することができる。
【0058】
また、本件発明では、無電解めっきを施す前後に樹脂基材に対して施す前処理及び後処理として、上述した表面改質処理を施すことが必須である点を除いては、前処理、後処理等については特に限定はなく、無電解めっき工程の前後に通常行われる各種前処理、後処理を樹脂基材に施してもよい。
【0059】
以上に述べてきたように、本件発明にかかる無電解めっき方法によれば、樹脂基材の表面に無電解めっき被膜を形成する前段として、当該樹脂基材の表面に、平均粒径が0.01μm〜100μmのオゾンの微細気泡を含むオゾン水を接触させることにより、樹脂基材の表面形状によることなく、当該樹脂基材表面全体に粒径の小さいオゾン気泡をムラなく接触させることができる。よって、基材表面は、微細気泡のオゾンとの接触によって、ムラなく改質処理され、樹脂基材の表面平滑性を維持した上で、無電解めっきにより密着性の高い無電解めっき層を形成することができる。
【0060】
本件発明では、微細気泡を含むオゾン水との接触により、樹脂基材の表面に形成される表面改質層の厚さを20nm〜200nmとすることにより、当該表面改質層の表面に無電解めっき被膜との密着性を確保することができる。
【0061】
特に、本件発明では、微細気泡状態のオゾンを含むオゾン水は、導電率が3.0μS/cm以下の純水を用いて生成したものであるため、効率的にオゾン濃度が0.5mg/dm
3〜2.0mg/dm
3のオゾン水を得ることが可能となる。当該濃度のオゾン水は、低濃度であるが、微細気泡状態のオゾンは、水に長時間にわたって滞留するため、樹脂基材の表面と十分に接触して改質処理を行うことができ、生産効率の向上、及び、生産環境の安全性を向上させることができる。また、かかる微細気泡を含むオゾン水を用いた樹脂表面の改質方法では、エッチング処理と異なり、樹脂の表面の平滑性を維持することが可能である。
【0062】
<本件発明にかかる無電解めっき層付樹脂基材の形態>
次に、本件発明にかかる無電解めっき層付樹脂基材について説明する。本件発明にかかる無電解めっき層付樹脂基材は、詳細は上述した無電解めっき方法を用いて、樹脂基材の表面に無電解めっき被膜を形成したことを特徴とする。
【0063】
本件発明にかかる無電解めっき層付樹脂基材は、上述した無電解めっき方法により、樹脂基材の表面に無電解めっき被膜を形成する点を特徴としているが、当該無電解めっき方法は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0064】
本件発明にかかる無電解めっき層付樹脂基材によれば、上述した無電解めっき方法を用いて、樹脂基材の表面に無電解めっき被膜を形成したものであるため、複雑な形状を有する樹脂基材であっても、その凹凸奥部にまで支障なく微細気泡状態のオゾンを行き渡らせて表面改質処理を行って、支障なく樹脂基材の表面全体に無電解めっき層を形成することが可能となる。このように、表面が複雑な凹凸形状を有する樹脂基材であっても支障なく樹脂基材の表面全体に無電解めっき被膜を形成することができる無電解めっき方法は、以下に説明する金属被膜形成方法において好適である。
【0065】
<本件発明にかかる金属被膜形成方法の形態>
次に、本件発明にかかる金属被膜形成方法について説明する。本件発明にかかる金属被膜形成方法は、樹脂基材の表面に上述した無電解めっき方法を用いて、下地金属層(無電解めっき被膜)を形成し、当該下地金属層上に電解めっきによりめっきアップ被膜を形成することを特徴とする。
【0066】
本件発明にかかる金属被膜形成方法は、上述した本件発明にかかる無電解めっき方法を用いて、樹脂基材の表面に下地金属層を形成するという点を特徴としているが、当該無電解めっき方法は上述したとおりであるため、ここでは、説明を省略する。また、めっきアップ被膜を形成する際に用いる電解めっき方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の電解めっき方法を含め、あらゆる電解めっき方法を採用することができる。
【0067】
本件発明にかかる金属被膜形成方法によれば、上述した本件発明にかかる無電解めっき方法を用いて、樹脂基材の表面に下地金属層を形成し、当該下地金属層上に電解めっきによりめっきアップ被膜を形成するため、樹脂基材の表面平滑性を維持した上で、樹脂基材との密着性が高く、且つ、表面が平滑な下地金属層を形成することができる。このため、下地金属層上に表面が平滑なめっきアップ被膜を形成することができる。
【0068】
<本件発明にかかる金属張積層体の形態>
次に、本件発明にかかる金属張積層体について説明する。本件発明にかかる金属張積層体は、上述した金属被膜形成方法を用いて、樹脂基材の表面に、導電層となる金属被膜を設けたことを特徴とする。
【0069】
本件発明にかかる金属張積層体は、上述した本件発明にかかる金属被膜形成方法を用いて、樹脂基材の表面に導電層となる金属被膜を設けたことを特徴としているが、当該金属被膜形成方法は、上述したとおりであるため、ここでは、説明を省略する。樹脂基材の表面に密着性の高い無電解めっき被膜を形成して、当該無電解めっき被膜の上に電気めっきによりめっきアップ被膜を形成する本件発明は、例えば、導体回路表面が平滑なプリント基板の提供を実現する場合において、特に有利となる。
【0070】
以上の如く本件発明にかかる実施の形態としての無電解めっき方法、無電解めっき層付き樹脂基材、金属被膜形成方法及び金属張積層体について説明したが、上述した実施の形態は本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本件発明にかかる無電解めっき方法を用いて無電解めっき被膜を形成した実施例1と、当該無電解めっき方法を用いて下地金属層(無電解めっき層)を形成し、当該下地金属層上に電解めっきによりめっきアップ被膜を形成した実施例2及び実施例3について説明する。以下に、各実施例について順に説明する。
【0072】
[実施例1]
実施例1では、樹脂基材としてポリイミド樹脂フィルムを用い、表面を改質処理して表面改質層を形成した上で、当該表面改質層の表面に無電解めっき層(無電解めっき被膜)としてのCuNiP層を形成した。
【0073】
具体的に、実施例1では、(1)表面改質工程、(2)アルカリ処理工程、(3)コンディショニング工程、(4)触媒付与工程、(5)還元処理工程、(6)無電解めっき工程、(7)熱処理工程を順に行った。以下、各工程について説明する。
【0074】
(1)表面改質工程
実施例1における表面改質工程は、樹脂基材の表面と微細オゾン気泡含有水とを接触させ、樹脂基材の表面を改質する工程である。実施例1では、樹脂基材を微細オゾン気泡含有水に5分間浸漬することにより、樹脂基材の表面を改質して表面改質層を形成した。
【0075】
この表面改質工程で使用した微細オゾン気泡含有水は、水道水をイオン交換樹脂によって処理したイオン交換水を用いて、上述のオゾン水生成装置1により生成した。具体的には、イオン交換樹脂によって処理された導電率が0.1μS/cmのイオン交換水を、水槽5に30L貯留し、上述のオゾン水生成装置1を用いて、供給する酸素ガスの流量が90cc/min、オゾンガス供給圧力が0.08MPaとして、水槽5内の水に微細気泡状態のオゾンを供給した。実施例1では、水槽5内の微細オゾン気泡含有水に、樹脂基材を5分間浸漬して表面の改質処理を行った。当該改質処理を行っている際の水槽5内の微細オゾン気泡含有水は、オゾン濃度が、25℃の温度条件で、1.0mg/dm
3〜1.5mg/dm
3であった。なお、微細オゾン気泡含有水による樹脂基材の表面改質処理後は、ドライヤー乾燥を行った。
【0076】
(2)アルカリ処理工程
次に、アルカリ処理工程において、表面に改質層が形成された樹脂基材を、65℃に調整した50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水洗する。これにより、樹脂基材の表面が清浄化される。
【0077】
(3)コンディショニング工程
そして、コンディショニング工程において、アルカリ処理後の樹脂基材を、45℃に調整した市販のコンディショニング液(ロームアンドハース社製:クリーナーコンディショナー231)に2分間浸漬した後、水洗する。これにより、樹脂基材の表面は、金属触媒が吸着しやすい状態に調整される。
【0078】
(4)触媒付与工程
次に、触媒付与工程において、樹脂基材を、45℃に調整した0.3g/Lの塩化パラジウム(II)水溶液に2分間浸漬した後、水洗する。これにより、樹脂基材の表面にパラジウム金属触媒が付与される。
【0079】
(5)還元処理工程
そして、還元処理工程において、45℃に調整した20g/Lの次亜リン酸ナトリウム水溶液に樹脂基材を1分間浸漬する。これにより、還元処理工程において触媒が付与された樹脂基材の表面が活性化される。
【0080】
(6)無電解めっき工程
無電解めっき工程では、無電解CuNiPめっき浴に樹脂基材を6分間浸漬して、樹脂基材の表面に下地金属層(無電解めっき層)としてのCuNiP層を形成した。このとき、めっき浴の温度は45℃とし、pHは9.0に調整した。なお、pH調整剤として、水酸化ナトリウムを用いた。実施例1では、無電解めっきにより、樹脂基材の表面上に、下地金属層としてのCuNiP層を平均厚さが0.2μmになるまで析出させた。実施例1では、下地金属層の析出時間として6分を要したため、めっき速度は、2.0μm/hであった。当該無電解めっき後、水洗し、ドライヤー乾燥した。
【0081】
実施例1では、次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする次の組成を有するCuNiPめっき浴を採用した。
[無電解CuNiPめっき浴]
クエン酸三ナトリウム無水和物: 15g/dm
3
硫酸銅五水和物: 7g/dm
3
硫酸ニッケル六水和物: 3g/dm
3
ホウ酸: 15g/dm
3
市販の濡れ剤(エアープロダクツアンドケミカルズ社製のサーフィノール465):
100mg/dm
3
次亜リン酸ナトリウム一水和物: 20g/dm
3
【0082】
(7)熱処理工程
無電解めっきによりCuNiP層が形成された樹脂基材に対して、120℃で30分間熱処理を施した。これにより、樹脂基材表面と下地金属層(無電解めっき層)との密着性を強化し、余分な水分を除去処理することができる。
【0083】
[実施例2]
実施例2は、上述した実施例1と無電解めっきのめっき浴の組成を変更することで、めっき速度の条件を変えて行ったものである。実施例2は、実施例1において詳述した(1)表面改質工程〜(7)熱処理工程とほぼ同様の工程を順に行うことにより、樹脂基材の表面に金属層を形成した。実施例2における(6)無電解めっき工程では、実施例1におけるめっき速度と異なる条件で無電解めっき処理を行うため、次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする次の組成を有するCuNiPめっき浴を採用した。
[無電解CuNiPめっき浴]
クエン酸三ナトリウム無水和物: 15g/dm
3
硫酸銅五水和物: 3g/dm
3
硫酸ニッケル六水和物: 7g/dm
3
ホウ酸: 25g/dm
3
市販の濡れ剤(エアープロダクツアンドケミカルズ社製のサーフィノール465):
100mg/dm
3
次亜リン酸ナトリウム一水和物: 25g/dm
3
【0084】
実施例2では、無電解めっきにより、樹脂基材の表面上に、下地金属層としてのCuNiP層を平均厚さが0.2μmになるまで析出させた。実施例2では、下地金属層の析出時間として3分を要したため、めっき速度は、4.1μm/hであった。当該無電解めっき後、水洗し、ドライヤー乾燥した。
【0085】
[実施例3]
実施例3では、樹脂基材としてポリイミド樹脂フィルムを用い、表面を改質処理して表面改質層を形成した上で、当該表面改質層の表面に無電解めっきにより下地金属層としてのCuNiP層を形成し、その後、下地金属層の上に電解めっきによりめっきアップ被膜としての銅層を形成した。
【0086】
実施例3において、樹脂基材の表面を改質処理して表面改質層を形成し、当該表面改質層の表面に無電解めっきにより下地金属層としてのCuNiP層を形成する工程、すなわち、(1)表面改質工程〜(7)熱処理工程については、基本的に上述した実施例1と同様である。実施例3は、実施例1と、樹脂基材の表面の改質に用いる微細オゾン気泡含有水の条件が異なる。具体的には、実施例3では、イオン交換樹脂によって処理された導電率が0.1μS/cmのイオン交換水を用いて生成した微細オゾン気泡含有水を採用した。実施例3では、樹脂基材をオゾン水生成装置1の稼働から15分経過後の水槽5内の微細オゾン気泡含有水内に浸漬して、5分間、表面の改質処理を行った。改質処理を行っている間の水槽5内の微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度は、25℃の温度条件で、0.90mg/dm
3〜1.18mg/dm
3であった。
【0087】
実施例3では、実施例1において詳述した(7)熱処理工程終了後、下地金属層としてのCuNiP層の上に電解めっきによりめっきアップ被膜としての銅層を形成する。以下に(8)電解めっき工程として説明する。
【0088】
(8)電解めっき工程
実施例3では、当該電解めっき工程において、市販の硫酸銅めっき浴(荏原ユージライト社製:キューブライト21)を用い、液温25℃、電流密度3A/dm
2で40分間電解し、厚さ20μmの電解銅被膜を形成した。
【0089】
(9)熱処理工程
以上のように下地金属層としてのCuNiP層上に、めっきアップ被膜としての銅層が積層された樹脂基材に対して、120℃で30分間熱処理を施した。これにより、樹脂基材表面と下地金属層やめっきアップ被膜との密着性を強化し、余分な水分を除去処理することができる。
【0090】
[実施例4]
実施例4は、実施例3における樹脂基材を浸漬する微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度の条件を変えて行ったものである。当該微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度以外の条件については、実施例3と同様の条件で行った。具体的に、実施例4は、オゾン水生成装置1の稼働から35分経過後の水槽5内の微細オゾン気泡含有水中に樹脂基材を浸漬して、オゾン水生成装置1を継続して稼働させながら5分間、改質処理を行った。樹脂基材の表面の改質処理中における水槽5内の微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度は、25℃の温度条件で1.61mg/dm
3〜1.65mg/dm
3であった。
【0091】
以下に、上述した実施例3及び実施例4と比較するために、樹脂基材の改質に用いる微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が異なる比較例を示す。
【0092】
[比較例1]
比較例1は、上述の実施例1及び実施例2における樹脂基材を改質する微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が異なる以外は、同様の条件で行った。具体的に、比較例1は、オゾン水生成装置1の稼働から5分経過後の水槽5内の微細オゾン気泡含有水中に樹脂基材を浸漬して、オゾン水生成装置1を継続して稼働させながら5分間、改質処理を行った。樹脂基材の表面の改質処理中における水槽5内の微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度は、25℃の温度条件で0.21mg/dm
3〜0.59mg/dm
3であった。
【0093】
[比較例2]
比較例2は、上述の実施例3における樹脂基材を浸漬する微細オゾン気泡含有水の生成に用いる純水の条件が異なる以外は、同様の条件で行った。具体的には、比較例2は、導電率が200μS/cmの水道水(純水)を用いて微細オゾン気泡含有水を生成した。比較例2は、オゾン水生成装置1の稼働から15分経過後の水槽5内の微細オゾン気泡含有水中に樹脂基材を浸漬して、オゾン水生成装置1を継続して稼働させながら5分間、改質処理を行った。樹脂基材の表面の改質処理中における水槽5内の微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度は、25℃の温度条件で0.85mg/dm
3〜0.86mg/dm
3であった。
【0094】
[評価]
上述した実施例1については、金属層が形成された樹脂基材の断面について画像を確認することにより評価した。また、実施例1と実施例2については、樹脂基材上に形成された無電解めっき層の密着強度について評価し、実施例3と実施例4及び比較例1と比較例2については、樹脂基材上に形成されためっきアップ被膜の密着強度について評価を行った。以下、1.評価方法、2.評価結果、3.考察の順に述べる。
【0095】
1.評価方法
(1)無電解めっき層(無電解めっき被膜)が形成された樹脂基材の断面
上述した実施例について、透過型電子顕微鏡(TEM。日本電子製の電界放出形透過電子顕微鏡JEM−2100F)を用いて、金属層が形成された樹脂基材の断面画像を得た。
【0096】
(2)樹脂基材上に形成された無電解めっき被膜又はめっきアップ被膜の密着強度
上述した実施例1、実施例2に対して、樹脂基材上に形成された無電解めっき被膜の密着強度の測定を、JIS C 6481に準拠してピールせん断試験により行った。実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2に対して、樹脂基材上に形成されためっきアップ被膜の密着強度の測定を行った。具体的には、各樹脂基材上に形成された無電解めっき被膜又はめっきアップ被膜に10mm幅の長尺な切り込みを入れてその10mm幅の短冊の端部を樹脂基材からはがした。そして、垂直引き剥がし試験機(東洋精機製作所製のストログラフE2−F)を用いて、当該短冊の端部を樹脂基材に対して垂直な方向に引き剥がし、無電解めっき被膜又はめっきアップ被膜の密着強度を求めた。
【0097】
2.評価結果
(1)無電解めっき被膜が形成された樹脂基材の断面
当該実施例1において得られた無電解めっき被膜が形成された樹脂基材の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した写真を
図2に示す。
図3は、
図2の部分拡大図を示す。これによると、樹脂基材の表面に厚さ140.1nmの表面改質層が形成されていることが確認できる。さらに、当該表面改質層の表面に無電解めっき被膜が形成されていることが確認できる。
【0098】
(2)樹脂基材上に形成された無電解めっき被膜又はめっきアップ被膜の密着強度
実施例1と実施例2において、各樹脂基材上に形成された無電解めっき被膜の密着強度を表1に示す。また、当該表1には、実施例3、実施例4と比較例1及び比較例2において、各樹脂基材上に形成されためっきアップ被膜の密着強度をあわせて示す。
【0100】
樹脂基材の表面改質処理に用いた微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が0.5mg/dm
3以下であった比較例1は、樹脂基材表面にめっきアップ被膜が形成されていない未析出部が多く存在していたため、密着強度を測定することはできなかった。比較例2は、樹脂基材の表面改質処理に用いた微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が0.8mg/dm
3以上ではあったが、樹脂基材表面にめっきアップ皮膜が形成されていない未析出部が存在していたため、密着強度を測定することはできなかった。これに対して、本件発明にかかる表面改質処理を施した実施例1〜実施例4については、いずれも0.6kN/m以上の密着強度を有する無電解めっき被膜又はめっきアップ被膜が形成されたことを確認した。
【0101】
3.考察
(1)めっき速度について
上述した評価結果から、無電解めっきにおけるめっき速度を2.0μm/hとした実施例1の密着強度は1.01kN/mであるのに対し、無電解めっきにおけるめっき速度を4.1μm/hとした実施例2の密着強度は、0.60kN/mであった。このことから、当該めっき速度を4.0μm/hより遅い速度で行うことで、無電解めっき被膜を形成する金属が樹脂基材の表面改質層の内部により一層入り込み易くなり、当該無電解めっき被膜の密着強度の向上を測ることが可能となることが分かる。
【0102】
(2)微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度について
上述した評価結果から、樹脂基材の表面改質処理に用いた微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が樹脂基材の表面に形成されるめっきアップ被膜や無電解めっき被膜の密着強度に影響を与えることが分かる。上述の各実施例及び比較例1のように樹脂基材の表面の改質処理時間が5分である場合には、表面改質処理に用いる微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が0.5mg/dm
3以下であると、樹脂基材の表面全体を十分に改質処理することができず、樹脂基材の表面に形成された表面改質層と無電解めっき被膜との間に十分なアンカー効果が得られていない。微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が0.5mg/dm
3以下の場合であっても、改質処理時間をさらに長く設定することによって、十分に樹脂基材の表面を微細オゾン気泡によって改質処理することが可能となるが、実用的な生産効率を考慮すると、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が0.5mg/dm
3以上とすることが望ましい。
【0103】
(3)微細オゾン気泡含有水に用いる水の導電率について
上述した評価結果から、樹脂基材の表面改質処理に用いた微細オゾン気泡含有水は、用いる水の導電率によって、樹脂基材の表面に形成されるめっきアップ被膜や無電解めっき被膜の密着強度に影響を与えることが分かる。上述の実施例1〜実施例4のように、樹脂基材の表面改質処理に用いた微細オゾン気泡含有水を、導電率が0.1μS/cmの水を使って作製した場合には、0.6kN/m以上の密着強度でめっき被膜を形成することが可能となることが分かる。これに対し、比較例2のように、樹脂基材の表面改質処理に用いた微細オゾン気泡含有水を、導電率が200μS/cmの水を使って作製した場合には、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度が0.8mg/dm
3以上と高くても、めっきアップ被膜や無電解めっき被膜を樹脂基材の表面全体に析出させることができない。
【0104】
従って、微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度と、用いる水の導電率を考慮すると、樹脂基材の表面改質処理に用いる微細オゾン気泡含有水は、導電率が3.0μS/cm以下の水を用いて、0.5mg/dm
3以上のオゾン濃度としたものを用いることが望ましいことが分かる。
【0105】
なお、上述した実施例3や実施例4では、イオン交換水を用いて微細オゾン気泡含有水を生成しているのに対し、比較例2では、水道水を用いて微細オゾン気泡含有水を生成しているため、水道水に含まれる塩素成分がオゾンの生成効率に影響を及ぼしているのかが問題となる。
【0106】
塩素成分の存在によるオゾン生成効率の影響については、微細オゾン気泡含有水の生成に用いる純水の条件を変えて比較することにより考察することができる。ここでは具体的に、実施例4において用いたイオン交換水と、導電率が40μS/cmの水道水と、実施例4において用いたイオン交換水に塩素を添加した水溶液についてオゾン濃度を検討した。いずれの純水を用いた場合においても、実施例4の場合と同様に、オゾン水生成装置1の稼働開始から35分後の微細オゾン気泡含有水のオゾン濃度を測定して比較した。比較結果を表2に示す。
【0108】
表2に示すように、イオン交換水を用いて生成した実施例4の微細オゾン気泡含有水は、上述したようにオゾン濃度が1.61mg/dm
3であった。これに対し、導電率が40μS/cmの水道水を用いて、実施例4とその他の条件を同一として生成した微細オゾン気泡含有水は、塩素が含まれているにもかかわらず、オゾン濃度が1.64mg/dm
3であった。また、実施例4において用いたイオン交換水に塩素を添加して塩素濃度5ppmの水溶液を用いて、実施例4とその他の条件を同一として生成した微細オゾン気泡含有水は、オゾン濃度が実施例4とほぼ変わらない1.52mg/dm
3であった。以上のことから、塩素成分の存在によってオゾン生成効率には、影響を及ぼしていないことがいえる。