【実施例】
【0016】
実施例では、前面が開口した箱状のボックス本体12と、ボックス本体12の前面にヒンジ14を介して接続することでボックス本体12の前面開口を開閉可能に配設されたリッド16とを有するボックス10(
図5参照)に、ロック装置20を適用する場合を説明する。ロック装置20は、後方に開口する略トレイ状に形成されて、リッド16の表面を構成する表板部17と、この表板部17の後方開口を塞ぐように取り付けられ、リッド16の裏面を構成する裏板部18との間に画成される装置収容空間16aに配設される(
図1参照)。そして、ロック装置20は、リッド16の左右の側面に開設された閂開口16bの夫々から、進退移動するロック部材22が突出するよう構成される。ロック装置20は、ロック部材22をボックス本体12の左右の側壁上部に形成された対応の係合開口(係合対象)13に挿入することで、リッド16をボックス本体12の前面開口を塞いだ閉成姿勢で回動規制するようになっている。また、ロック装置20は、使用者の操作によりロック部材22を係合開口13から抜き出すことで、リッド16の回動規制を解除して、リッド16の開放姿勢への姿勢変位を許容するよう構成される。
【0017】
図1および
図2に示すように、前記ロック装置20は、リッド16に対してスライド移動可能に配設された複数本(実施例では2本)のロック部材22を備えている。各ロック部材22は、該ロック部材22が係合開口13に係合可能なロック位置(
図3(a)および
図4(a))と係合開口13から外れるロック解除位置(
図3(b)および
図4(b))との間で往復移動可能に、板状のベース部材24に支持されている。また、ロック装置20は、使用者の操作によりロック部材22を係合開口13から退避するロック解除方向(ロック位置からロック解除位置)に移動させる作動部26を備えている。更に、ロック装置20は、ロック部材22を係合開口13に進入させるロック方向(ロック解除位置からロック位置)へ向けて移動するよう付勢する付勢手段28を備えている。ここで、ロック装置20は、ロック部材22、作動部26、付勢手段28および後述する緩衝機構56,58などが、ベース部材24に支持されており、ベース部材24を介して着脱などが可能な一体的なユニットとして構成されている。
【0018】
図2に示すように、前記ロック部材22は、該ロック部材22の移動に伴い係合開口13に係脱し得る一端部に設けられた閂部30と、この閂部30に連ねて形成されて、曲げ変形可能な可撓性を有したラック部32とを備えている。また、ロック部材22は、閂部30と反対側の他端部に、ラック部32に連ねて設けられ、作動部26に接続される接続部34と、閂部30とラック部32との間に設けられた中継部36とを備え、実施例では、閂部30とラック部32とが中継部36を介して連なっている。ロック装置20において左右2本のロック部材22,22は、一部範囲で互いのラック部32,32が噛み合うように合掌状に重なると共に、該ロック部材22,22の移動に伴い曲げ変形可能に形成されたラック部32,32を湾曲変形させることで閂部30,30側が相反する左右方向に分岐するように配設されている。実施例のロック装置20は、同一形状の2本のロック部材22,22がベース部材24に左右対称な関係で配置されている。
【0019】
前記閂部30は、その断面がほぼ矩形状の棒状部分であって、係合開口13に挿入されたロック位置で係合開口13に引っ掛かったり、係合開口13への係脱に際してボックス本体12等に干渉しても実質的に変形しない剛体として構成されている。また、閂部30は、前側から後側に向かうにつれて他端部側に傾斜するテーパ面30aを有し、開放したリッド16を閉じる際に、ボックス本体12の側壁に当接したテーパ面30aによってロック部材22がロック位置からロック解除位置に向けて移動するよう案内される。ラック部32は、閂部30よりも薄肉にすることで曲げ変形可能に形成された基部32aと、この基部32aに突出形成された歯部32bとを有し、基部30aの一面に並ぶ歯部32bを湾曲部分の外側にして曲げ変形される。中継部36は、ラック部32の基部32aと同じ厚みのベース部分から歯部32bと同じ高さで突条が突出する断面ほぼ「T」字状に形成され、ラック部32と比べて変形し難く構成される。また、中継部36は、閂部30に直線的に繋がって閂部30の往復移動方向に延在している。
【0020】
図2に示すように、前記作動部26は、ロック部材22の接続部34が取り付けられる取付片38と、この取付片38から上方に延びる連結片40と、この連結片40の上端に設けられ、リッド16の表板部17に開設された操作開口16cに臨む操作片42とを備えている。取付片38および連結片40は、左右方向を厚み方向とした姿勢で形成された板状片であり、取付片38が連結片40より後側に位置するように前後にずらして配置されている。取付片38の左右の両側面には、上下に並べて2つの取付ボス38aが突出形成されており、ロック部材22における接続部34に上下に並べて形成された2つの取付孔34aを取付ボス38aに夫々嵌め合わせて、ロック部材22と作動部26とが接続される。すなわち、2本のロック部材22,22は、作動部26を介して接続部34,34(他端部)が互いに繋がることになる。操作片42は、連結片40より前方に延出する板状片であり、ロック装置20をロック解除操作する際に使用者がつかむ部分となる。そして、作動部26は、リッド16に固定されるベース部材24に対して上下方向にスライド移動可能に配設されている。
【0021】
実施例では、付勢手段28としてコイルばねが用いられ、作動部26の下端に形成された受け片44と、ベース部材24の前面下部に受け片44と対向するよう突出形成された受け壁25との間に、付勢手段28が介挿される。なお、受け片44および受け壁25には、ほぼ柱状の受けボス44a,25aが形成されており、この受けボス44a,25aを付勢手段28のコイルに嵌め合わせて、付勢手段28を位置決めしている。作動部26は、付勢手段28により常に上方(ロック部材22のロック方向)に向けて弾力が付加されており、作動部26を操作していない自由状態において、付勢手段28により作動部26が上部位置とされると共に両ロック部材22,22がロック位置に保持される(
図3(a)参照)。
【0022】
前記ロック部材22は、閂部30および中継部36を該閂部30が係合開口13に対して進退移動する方向となる左右方向に延在させる一方で、ラック部32を前後を軸とする円弧状に湾曲変形することで、接続部34を上下方向に延在させた状態で配設される。
図4に示すように、ラック部32は、湾曲部分における閂部30側の端部が、該閂部30を通る左右方向(閂部30の往復移動方向)に沿う仮想ライン(第1ラインという)L1に接すると共に、湾曲部分における接続部34側の端部が、接続部34を通る上下方向(作動部26の往復移動方向)に沿う仮想ライン(第2ラインという)L2に接するように構成される。そして、ラック部32の湾曲部分は、第1ラインL1と第2ラインL2との交点に向けて凸になる円弧状に延在している。また、ラック部32は、閂部30側の端部に、第1ラインL1に沿った第1直線部分が生じ、接続部34側の端部に、第2ラインL2に沿った第2直線部分が生じて、この第2直線部分で隣り合うロック部材22,22のラック部32,32が互いに噛み合うようになっている。そして、ラック部32は、閂部30および接続部34の移動につれて該ラック部32の中で湾曲部分が移り変わり、これにより一方の直線部分が短くなると共に他方の直線部分が長くなるように全体として変形するよう構成される。なお、ラック部32は、理想的な条件において、ベース部材24に対する湾曲部分の相対的な位置関係および湾曲部分の形状が変化しないように構成されている。
【0023】
図3および
図4に示すように、前記ロック部材22は、ベース部材24の前面に設けられて、ロック部材22との当接により該ロック部材22の移動経路を規定する案内手段によって保持されている。なお、案内手段は、左右のロック部材22,22に対応して、後述する緩衝機構の配設部位を除いて基本的に左右対称な関係で設けられている。実施例では、案内手段として、夫々のラック部32の湾曲部分を案内する湾曲案内片46,48と、夫々のラック部32の第1直線部分を案内する第1案内片50,50と、対向するラック部32,32が噛み合う第2直線部分を案内する第2案内片52とを備えている。
【0024】
前記湾曲案内片として、ラック部32における湾曲部分の凸側になる歯部32bに当接可能に配置される凸側湾曲案内片46と、この凸側湾曲案内片46に対してラック部32の通過可能な隙間をあけて離間配置され、ラック部32における湾曲部分の凹側となる基部32aに当接可能な凹側湾曲案内片48とが設けられる。実施例の凸側湾曲案内片46および凹側湾曲案内片48は、第1ラインL1と第2ラインL2とがなす角の中央を通る仮想ライン(第3ラインという)L3上に中心があって第1ラインL1と第2ラインL2とに内接する円弧に相似する形状で延在するよう形成されている。凸側湾曲案内片46は、閂部30のロック解除位置への移動に伴うラック部32における湾曲部分の内側方への移動を規制し、作動部26の上方位置への移動に伴うラック部32における湾曲部分の上方移動を規制するようになっている。凹側湾曲案内片48は、閂部30のロック位置への移動に伴うラック部32における湾曲部分の外側方への移動を規制し、作動部26の下方位置への移動に伴うラック部32における湾曲部分の下方移動を規制するようになっている。そして、凸側湾曲案内片46および凹側湾曲案内片48は、理想的な条件において、前記第3ラインL3上に中心を有する円弧軌跡でラック部32を湾曲するように案内している。凹側湾曲案内片48は、閂部30側の端部がラック部32の第1直線部分の延在経路から下方へ外れるように湾曲しており、ラック部32との摺接負荷を軽減するようになっている。
【0025】
前記ベース部材24の前面には、各ロック部材22に対応して、左右方向に延在する一対の第1案内片50,50が上下に離間して対向配置されている。一対の第1案内片50,50は、ラック部32の第1直線部分および中継部36を間に挟んで、該第1直線部分および中継部36の上下方向の移動を規制するようになっている。なお、ロック装置20には、上下2条の第1案内片50,50の組が、左右のロック部材22,22に対応して、ベース部材24の左右に離間して2組設けられている。また、ベース部材24の前面には、上下方向に延在する一対の第2案内片52,52が左右に離間して対向配置されている。一対の第2案内片52,52は、重なったラック部32,32の第2直線部分および接続部34,34を間に挟んで、左右のロック部材22,22におけるラック部32,32の第2直線部分および接続部34,34の左右方向の移動を規制するようになっている。更に、ベース部材24の前面側縁部には、左右のロック部材22,22の夫々に対応して、左右方向に延在する一対の閂部案内片54,54が上下に離間して対向配置され、一対の閂部案内片54,54の間に閂部30を挟んで、該閂部30の上下方向の移動を規制するようになっている。このように、第1案内片50,50によって、ラック部32の第1直線部分から閂部30に至る経路を真っ直ぐになるよう規定している。また、第2案内片52,52によって、ラック部32の第2直線部分が真っ直ぐになるよう規定すると共に、該第2直線部分において噛み合う左右のラック部32,32を保持するようになっている。
【0026】
前記ロック部材22は、ラック部32を弾性変形させた状態で配設される。ロック部材22は、ラック部32を伸ばした直線的な状態、またはラック部32が曲がっている場合であっても配設状態の湾曲部分よりも曲がりが小さい形状(元形状という)で形成される。そして、ラック部32は、ベース部材24に配設した際に元形状よりも大きく湾曲させるように弾性変形することで、元形状に復帰する方向に反力がかかるようになっている。すなわち、ロック部材22は、湾曲変形したラック部32の反力により上方に向けて付勢されて、中継部36が上側の第1案内片50に押し付けられると共に、閂部30が上側の閂部案内片54に押し付けられる。また、左右のロック部材22,22は、湾曲変形したラック部32,32の反力により第2直線部分が互いに近接するように付勢されて、互いの歯部32b,32bの噛み合い状態が積極的に保持される。実施例のロック部材22は、閂部30、中継部36、ラック部32および接続部34の順に連ねて合成樹脂で一体成形して、単一の部材として構成している。
【0027】
図3に示すように、前記ロック装置20は、付勢手段28の付勢によるロック方向へのロック部材22の移動速度を調節する緩衝機構を備えている。緩衝機構は、制動力を付与し得る緩衝手段56と、ロック部材22の往復移動方向に往復移動可能に配設された回転軸58aに回転可能に支持され、一方のラック部32の歯部32bに噛み合う伝達ギヤ58とを備えている。実施例では、緩衝手段56としてロータリーダンパーが用いられ、ベース部材24に開設されたダンパー開口24aに外郭を嵌め合わせて、ロータに繋がる作動ギヤ56aをベース部材24の前側に臨ませた状態で配設される。緩衝手段56は、一方のロック部材22において閂部30からラック部32の湾曲部分に至るまでの左右方向に延在する部分に隣り合わせてベース部材24に設置され、実施例では中継部36およびラック部32の第1直線部分の上側に配置されている。また、ベース部材24の前面には、該前面に相対するように延在する壁を有する庇状の保持片24bが緩衝手段56に隣接して形成され、保持片24bおよび該保持片24bに相対するベース部材24の夫々に、左右方向に長手が延在する長孔状の軸開口24cが前後対称な関係で形成されている。伝達ギヤ58は、一方のロック部材22においてラック部32の第1直線部分上側に、緩衝手段56の作動ギヤ56aに対してロック部材22のロック解除位置側に並べて配置される。伝達ギヤ58は、回転軸58aが前後の軸開口24cに回転可能に保持されて、ラック部32の第1直線部分に位置する歯部32bに常に噛み合うように配設されている。
【0028】
前記伝達ギヤ58は、回転軸58aが軸開口24cに案内されて、全体として緩衝手段56の作動ギヤ56aに対して接離するよう移動可能であり、作動ギヤ56aに近接する位置で該作動ギヤ56aに噛み合い(
図3(a)および
図4(a)参照)、作動ギヤ56aから離間する位置で該作動ギヤ56aから外れるようになっている。緩衝機構は、ラック部32に噛み合った伝達ギヤ58が作動ギヤ56aに噛み合うことで、緩衝手段56によってロック部材22の移動に負荷がかかるよう構成される。伝達ギヤ58は、閂部30が係合開口13に係合するロック方向へのロック部材22の移動に伴い、伝達ギヤ58が緩衝手段56の作動ギヤ56aに近接移動して、該作動ギヤ56aに噛み合うようになっており、ロック部材22がロック位置にある状態で伝達ギヤ58と作動ギヤ56aとが噛み合っている。また、伝達ギヤ58は、閂部30が係合開口13から外れるロック解除方向へのロック部材22の移動に伴い、軸開口24cに回転軸58aが案内されて緩衝手段56の作動ギヤ56aから離間移動して、作動ギヤ56aから外れるようになっている。すなわち、緩衝機構は、付勢手段28の付勢によるロック部材22のロック方向の移動に際して、伝達ギヤ58が緩衝手段56の作動ギヤ56aに繋がって緩衝手段56によりロック部材22の移動が制動される。これに対して、緩衝機構は、ロック部材22のロック解除方向へのスライド移動に際して、伝達ギヤ58が緩衝手段56の作動ギヤ56aから外れて、緩衝手段56の制動力がロック部材22にかからないようになっている。
【0029】
〔実施例の作用〕
次に、実施例に係るロック装置20の作用について説明する。使用者が作動部26の操作片42を付勢手段28の付勢に抗して押し下げることで、左右のロック部材22,22の接続部34,34が作動部26に下方へ引っ張られ、これに伴いラック部32,32が湾曲変形しつつ閂部30,30が内側方へ移動される。ここで、左右のロック部材22,22は、作動部26を介して互いに繋がっていると共に、ラック部32,32の第2直線部分で互いに噛み合っているので、左右の閂部30,30がロック位置からロック解除位置に向けて同期して移動し、各閂部30が係合開口13から外れてリッド16の開放が許容される。そして、リッド16の開放姿勢で使用者が操作片42を離せば、作動部26が付勢手段28に付勢されて下方位置から上方位置に移動する。上方に移動する作動部26に左右のロック部材22,22の接続部34,34が上方に押されることで、これに伴いラック部32,32が湾曲変形しつつ閂部30,30が外側方へ移動される。前述の如く、左右のロック部材22,22は、作動部26を介して互いに繋がっていると共に、ラック部32,32の第2直線部分で互いに噛み合っているので、左右の閂部30,30がロック解除位置からロック位置に向けて同期して移動し、ロック位置で保持される。
【0030】
前記リッド16を開放姿勢から閉成姿勢に戻す際には、左右のロック部材22,22の閂部30,30がボックス本体12の側壁に夫々当接することで、左右のロック部材22,22がロック位置からロック解除位置に向けて押し込まれる。閂部30のロック解除方向への移動に伴い、ラック部32が湾曲変形しつつ接続部34が下方へ移動し、接続部34に引っ張られて作動部26が付勢手段28の付勢に抗して上方位置から下方位置に移動する。ここで、左右のロック部材22,22は、作動部26を介して互いに繋がっていると共に、ラック部32,32の第2直線部分で互いに噛み合っているので、左右の閂部30,30がロック位置からロック解除位置に向けて同期して移動し、各閂部30が装置収容空間16aに退避してリッド16の閉成が許容される。そして、左右の閂部30,30が対応の係合開口13に挿入されて該閂部30,30へのロック解除方向への押圧が解除されると、付勢手段28の付勢により左右のロック部材22,22がロック解除位置からロック位置に向けて同期して移動し、ロック位置で保持される。一方の閂部30だけがロック解除位置に向けて押された場合であっても、ロック解除位置に向けた一方のロック部材22の移動に伴い、ラック部32の第2直線部分で歯部32bが互いに噛み合った他方のロック部材22におけるラック部32の第2直線部分も下方へ移動される。すなわち、他方のロック部材22についても、上下に延在する第2直線部分で互いに噛み合うラック部32,32によって、一方のロック部材22のロック解除方向への移動に連動し、左右の閂部30,30を同期してロック解除位置に移動させることができる。また、一方の閂部30へのロック解除位置に向けた押圧状態が解除されると、付勢手段28の付勢により、ラック部32,32の第2直線部分で噛み合った左右のロック部材22,22が同期してロック位置に移動される。このように、ロック装置20は、一方のロック部材22だけが押される場合であっても、該一方のロック部材22に連動して他方のロック部材22もロック解除位置およびロック位置に移動することができる。
【0031】
前記ラック部32,32が上下方向に延在する一部範囲で合掌状に重なって噛み合った左右のロック部材22,22を、ラック部32,32を互いに離間するように湾曲変形することで、閂部30側が異なる向きになるよう分岐した状態で配設することができる。ロック部材22は、閂部30側または接続部34側からの押し引きに伴いラック部32が変形して前記直線部分が長短することで、接続部34側の上下方向の移動を閂部30側の左右方向の移動に変換し得ると共に、閂部30側の左右方向の移動を接続部34側の上下方向の移動に変換し得る。すなわち、互いに回動可能に接続されるリンクによって力を伝達するリンク機構と異なり、ロック部材22の各部30,32,34,36が一体的に繋がっていても、湾曲して延在すると共に変形可能なラック部32によって閂部30および接続部34の何れか一方の移動につれて他方を移動させるように力の向きを変えて伝達することができる。このように、ロック装置20は、部材間を回動等の変位可能に接続するリンク構造などの接続構造を必要としないから、構成を簡易にすることができる。そして、ロック部材22は、各部30,32,34,36が一体的に繋がっているから、各部30,32,34,36の接続部位で生じるガタツキ、部材間の干渉に伴う作動不良や破損、部材間の遊びに起因する異音の発生などの不具合を回避できる。しかも、ロック部材22は、各部30,32,34,36が一体的に繋がっているので、接続した部材間の遊びに起因する左右の閂部30,30の同期ズレが生じない。
【0032】
左右のロック部材22,22は、ラック部32,32の一部範囲で互いに噛み合っているので、1つのロック部材22がロック解除方向に移動すれば、他のロック部材22も同期してロック解除方向に移動させることができ、1つのロック部材22がロック方向に移動すれば、他のロック部材22も同期してロック方向に移動させることができる。しかも、左右のロック部材22,22は、ラック部32,32が歯部32b,32bで互いに噛み合って連動する構成であるから同期ずれを防止することができる。更に、左右のロック部材22,22は、閂部30,30と反対側の接続部34,34が作動部26を介して繋げられているので、同期ずれをより確実に防止できると共に、ロック部材22,22におけるラック部32,32での噛み合い状態を保つことができる。また、ラック部32,32が互いに噛み合う範囲で隣り合う2本のロック部材22,22は、該ロック部材22の移動に伴い曲げ変形可能に形成された夫々のラック部32,32を湾曲変形させて閂部30,30側が相反する方向に分岐するよう配設してあるので、ロック部材22,22の移動に伴い互いのラック部32,32が合流または分岐する際に互いがずれることを防止できる。しかも、ロック部材22は、各部30,32,34,36を一体成形した1つの部材であるから、構成をより簡易できると共に、部品点数を削減できる。
【0033】
前記ロック装置20は、作動部26が上方移動した際に、凸側湾曲案内片46にラック部32の湾曲部分凸側が当接することで、湾曲部分の異常な変形が規制され、該湾曲部分が所定の円弧状を保つにように案内される。また、作動部26が上方移動した際には、ラック部32の第1直線部分や中継部36が上側の第1案内片50に当接することで、ラック部32の第1直線部分および中継部36の異常な変形が規制され、第1直線部分が直線を保つように案内される。閂部30がロック解除位置に押された際には、凸側湾曲案内片46にラック部32の湾曲部分凸側が当接することで、湾曲部分の異常な変形が規制され、該湾曲部分が所定の円弧状を保つにように案内される。作動部26が下方移動した際には、凹側湾曲案内片48にラック部32の湾曲部分凹側が当接することで、湾曲部分の異常な変形が規制され、該湾曲部分が所定の円弧状を保つにように案内される。また、作動部26が下方移動した際には、ラック部32の第1直線部分や中継部36が下側の第1案内片50に当接することで、ラック部32の第1直線部分および中継部36の異常な変形が規制され、第1直線部分が直線を保つように案内される。そして、左右のロック部材22,22において互いに噛み合うラック部32,32の第2直線部分および接続部34,34は、一対の第2案内片52,52の間に保持されているから、左右方向への移動が規制され、第2直線部分が互いに噛み合いつつ直線状態を保つように案内される。このように、ロック装置20は、ロック部材22に当接可能な案内手段46,48,50,52によって該ロック部材22の移動経路を規定することで、ロック部材22をよりスムーズに移動させることができる。
【0034】
前記ラック部32は、湾曲部分を弾性変形させた状態で配設されている。すなわち、ラック部32には、湾曲部分が開く方向に常に反力がかかっており、この反力により閂部30側が上方に付勢される。これにより、ロック部材22は、ラック部32の第1直線部分を上側の第1案内片50に押し付けて位置規制できると共に、第2直線部分を相手側の第2直線部分に押し付けることができる。また、閂部30は、上側の閂部案内片54に押し付けられて位置規制される。このように、ロック装置20は、弾性変形したラック部32からかかる反力によって、ロック部材22のベース部材24に対するガタツキを抑えることができ、異音の発生を抑えることができる。
【0035】
前記ロック装置20は、ロック部材22が付勢手段28に付勢されてロック方向に移動する際に、伝達ギヤ58が緩衝手段56に係合して、ラック部32に噛み合う伝達ギヤ58を介して緩衝手段56によりロック部材22を制動することができる。すなわち、ロック部材22のロック位置に向けた移動を減速することができ、ロック部材22と他の部材との衝突による打音の発生を防止することができる。また、ロック部材22をロック解除方向に移動する際には、伝達ギヤ58が緩衝手段56から外れて緩衝手段56の制動力がロック部材22にかからないので、ロック解除に要する操作力の増加を回避できる。
【0036】
(変更例)
前述した構成に限定されず、例えば以下のようにも変更することが可能である。
(1)ロック部材22は、2本に限られず、3本以上であってもよい。ロック部材22が3本以上ある構成では、
図6に示す変更例のロック装置のように、2本のロック部材22,22の間に挟まれるロック部材22は、ラック部32,32が両面に設けられている。
(2)全てのロック部材22のラック部32を湾曲変形した状態で配設する構成に限られず、
図6に示す変更例のロック装置のように、ラック部32を直線的に延在するように配設してもよい。なお、ラック部32を直線的に延在するように配設するロック部材22は、ラック部32が曲げ変形しない剛体としてもよい。
(3)実施例では、ロック部材22の各部を一体成形したが、別体に形成した各部を剛接合することで一体的に繋げる構成であってもよい。ここで、「一体的に繋がる」とは、ロック部材22を構成する各部を一体成形したものであること(実施例)や、または各部が別体であっても、隣り合う部分が固定的に接続されることをいう。すなわち、ロック部材22は、各部を軸支等の変動する構造により接続するものではない。なお、ロック部材22は、接続部34や中継部36を省略してもよい。
(4)実施例では、2本のロック部材22,22が対称である構成を説明したが、これに限られず、一方のロック部材22が他方のロック部材22より長かったり、ラック部32の湾曲部分の形状が相違したりするなど、非対称の構成であってもよい。
(5)ラック部32を予め湾曲した状態で形成し、ラック部32の反力がかからない構成としてもよい。
(6)ロック装置の操作構成は、実施例に限定されず、操作片を回動するノブ式や、摘みを回す形式や、ボタンと押圧する形式など、各種構成を採用し得る。また、作動部を操作する構成ではなく、ロック部材22に操作部を設けてロック部材22を直接操作する構成など、操作部を設ける部分も特に限定されない。
(7)案内手段としては、壁状の案内片に限られず、柱形状、ラック部32に噛み合う歯車やロック部材22に当接する回転体など、その他のものであってもよい。
(8)緩衝手段56が伝達ギヤ58を介さずラック部32に直接噛み合っていてもよく、緩衝機構を省略することもできる。
(9)付勢手段28を省略して、ロック部材22をロック解除する際に移動させるだけでなく、ロック部材22をロックする際にも使用者が操作する構成であってもよい。
(10)実施例ではロック装置をボックスに適用する例を説明したが、グローブボックスや、コンソールボックスのコンソールリッドを開放規制する場合や、小物入れの蓋を開放規制する場合など、各種の車両搭載装置に本発明に係るロック装置を適用可能である。