【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、総務省、79GHz帯レーダーシステムの高度化に関する研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】レーダ装置は、高周波のレーダ送信信号を送信アンテナから送信する送信部と、レーダ送信信号の送信の実行又は停止を制御する制御部と、レーダ送信信号の送信の停止中に、所定のゲイン値を用いて、入力された熱雑音信号を増幅して量子化する受信部と、熱雑音信号の量子化出力を基に、所定のゲイン値を、熱雑音信号をディザリングさせるためのゲイン値に調整するゲイン制御部と、を備える。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示に係る各実施形態のレーダ装置の内容に至る経緯)
先ず、本開示に係るレーダ装置の各実施形態を説明する前に、各実施形態のレーダ装置の内容に至る経緯について説明する。
【0014】
上述した特許文献1を含む従来技術では、ディザリングを用いてADCにおける信号量子化を高分解能化するために、基準となる外部信号を与える構成が必要となる。例えば特許文献1では所定のディザ信号(ホワイトノイズ)を発生させるノイズジェネレータが設けられる。ノイズジェネレータをレーダ装置の回路部品として設けることは、実験室以外では実使用上において好ましくない。
【0015】
また、ノイズジェネレータを追加する以外に、レーダ装置の送信部から受信部に信号をループバックさせる回路部品及び信号配線が必要となる。ここで、信号をループバックさせる回路部品及び信号配線を用いる場合には、送信部と受信部との間に設けられた信号配線により、レーダ装置における特性劣化を抑圧するための回路配置の事前調整が必要となり、レーダ装置の設計者の作業が煩雑になる。
【0016】
このため、上述した特許文献1を含む従来技術では、レーダ装置において、ディザリングを用いてADCにおける信号量子化を高分解能化するためには、回路の部品点数が増し、回路規模が増大するという課題が生じる。
【0017】
また、周囲の温度が変動すると、レーダ装置のアナログ回路部(例えばVGA)のゲインが変動するので、レーダ装置における受信信号の所望レベルは変動する。このため、ゲインが変動しても、ゲイン変動の影響(例えばレーダ装置の受信特性の劣化)を抑圧するために、ディザリングを用いてADCにおける信号量子化を高分解能化するためのゲインを調整することが必要となる。
【0018】
そこで、以下の各実施形態では、基準となる外部信号を与える回路部品の追加を省略し、温度変動の有無に拘わらず、ディザリングにより信号を高分解能に量子化するためのゲインを調整するレーダ装置の例について、図面を参照して説明する。
【0019】
(各実施形態のレーダ装置に共通するゲイン設定値の基本概念)
先ず、各実施形態のレーダ装置100〜100fに共通するゲイン設定値の基本概念について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、各実施形態のレーダ装置100〜100fにおけるゲイン設定値の基本概念を示す説明図である。
図1の縦軸は信号のレベルを示す。
【0020】
図2は、各実施形態のレーダ装置(例えば第1の実施形態のレーダ装置100)の詳細な内部構成を示すブロック図である。以下、各実施形態のレーダ装置100〜100fの動作の説明では、第1の実施形態のレーダ装置100を例示して説明し、第2の実施形態以降では第1の実施形態と異なる内容について説明し、同一の内容の説明は簡略化又は省略する。
【0021】
図2に示すレーダ装置100は、制御部CNTと、送信アンテナAt−txが接続された送信部TXと、受信アンテナAt−rxが接続された受信部RXと、ゲイン制御部GCNTとを含む構成である。
【0022】
送信部TXは、パルス系列生成部210と、DAC(Digital Analog Converter)220と、ミキサ(MIX)230と、送信アンテナAt−txが接続された電力変換部(PA)240とを含む。受信部RXは、受信アンテナAt−rxが接続されたLNA(Low Noise Amplifier)310と、ミキサ(MIX)320と、VGA(Variable Gain Amplifier)330と、ADC(Analog Digital Converter)340と、相関器350と、コヒーレント加算部360とを含む。ゲイン制御部GCNTは、判断部410と、ゲイン調整部420とを含む。
【0023】
レーダ装置100は、送信部Txが生成した高周波のレーダ送信信号LTXを送信アンテナAt−txから送信し、レーダ送信信号LTXが物体TRGにより反射された反射波信号RRXを受信アンテナAt−rxにおいて受信する。ターゲットとしての物体TRGの位置がレーダ装置100から近ければ反射波信号RRXの電力は大きく、ターゲットとしての物体TRGの位置がレーダ装置100から遠ければ反射波信号RRXの電力は小さい。
【0024】
レーダ装置100から近距離に位置する物体TRGにより反射された反射波信号RRXは、ADC340において飽和せずに、ADC340のダイナミックレンジ、即ち、
図1に示すレベルL1とレベルL0とのレベル差内であれば、相関器350は、反射波信号RRXを検出できる。
【0025】
一方、レーダ装置100から遠距離に位置する物体TRGにより反射された反射波信号RRXは、例えば非特許文献1に示すディザリング、即ち、ADC340の量子化分解能(Nビット)以上の高分解能な信号量子化によって、相関器350は、反射波信号RRXを検出できる。以下、ADC340の量子化分解能を「Nビット」とし、Nは2以上の整数とする。
【0026】
レーダ装置100では、予め想定している近距離からの反射波信号と、予め想定している遠距離からの反射波信号とを検出するために、VGA330のゲイン設定値が最適値に設定される。これにより、レーダ装置100は、ADC340のダイナミックレンジDRG(
図1参照)内において、予め想定している近距離からの反射波信号を飽和させずに受信でき、更に、ディザリングによって反射波信号RRXを高分解能に量子化させるためのレベルの熱雑音(信号)を検出できる。なお、ADC340のダイナミックレンジDRGは、
図1に示すレベルL1とレベルL0との差分により示され、予め規定される所定値である。
【0027】
レーダ装置100のVGA330のゲイン設定値は、周囲の温度変動によって変動することが知られている。例えば
図1では、レーダ装置100における受信信号の所望レベル範囲RSLが、ゲイン設定値の変動に応じて、上下方向に平行移動する。このため、予め想定している近距離からの反射波信号と、予め想定している遠距離からの反射波信号とを検出するためにVGA330のゲイン設定値が最適値に設定された場合でも、ゲイン設定値が変動すると、ゲイン設定値の最適値を再調整する必要がある。
【0028】
レーダ装置100において、ディザリングによって高分解能な量子化を実現させるための熱雑音信号のレベルL2と、レーダ装置100からの最近距離にある物体TRG又は最大反射断面積(RCS:Radar Cross Section)を有する物体TRGにより反射された反射波信号RRXの電力のレベルL3との差分、即ち、レーダ装置100における受信信号の所望レベル範囲RSLは一定である(
図1参照)。
【0029】
このため、レーダ装置100は、
図1に示すレベル範囲RSLをADC340のダイナミックレンジDRGの範囲としてADC340の信号量子化における量子化分解能を選択し、ディザリングによって高分解能な量子化を実現させるための熱雑音信号のレベルL2を与えるためのゲイン設定値を調整する。これにより、レーダ装置100は、レーダ装置100からの最近距離にある物体TRG又は最大反射断面積(RCS)を有する物体TRGにより反射された反射波信号RRXを飽和せずに受信でき、更に、ディザリングによってADC340において入力信号を高分解能に量子化できる。
【0030】
言い換えると、レーダ装置100は、温度変動によりゲイン設定値が変動した場合に、レーダ装置100に入力される信号を無信号状態に制御し、レーダ装置100に入力された熱雑音信号に応じて、熱雑音信号のレベルがディザリングによって反射波信号RRXを高分解能に量子化するためのレベルL2として、VGA330のゲイン設定値を調整する。これにより、レーダ装置100は、ディザリングによってADC340における入力信号を高分解能に量子化でき、更に、レーダ装置100からの最近距離にある物体TRG又は最大反射断面積(RCS)を有する物体TRGにより反射された反射波信号RRXを飽和させずに受信できる。
【0031】
なお、レーダ装置100では、レーダ装置100における受信信号の所望レベル範囲RSLがADC340のダイナミックレンジDRG内に収まるためには、ディザリングによってADC340における入力信号を高分解能に量子化するための熱雑音信号のレベルL2ができる限り小さくなることが好ましい。このため、レーダ装置100は、熱雑音のレベルL2を与えるためのVGA330のゲイン設定値に所定のマージンを付加しても良い(後述する
図5(B)参照)。
【0032】
以下、各実施形態のレーダ装置100〜100fの具体的な内部構成及び動作について、詳細に説明する。
【0033】
(第1の実施形態)
制御部CNTは、レーダ装置100におけるレーダ送信信号LTXの送信の実行又は停止を制御する。具体的には、制御部CNTは、例えばレーダ装置100の周囲の温度の変動が検出された場合には、送信部TXに対してレーダ送信信号LTXの送信を停止するための制御信号を出力し、ゲイン制御部GCNTに対してVGA330のゲイン設定値を調整するための制御信号を出力し、更に、受信部RXに対して熱雑音信号の検出処理を実行するための制御信号を出力する。
【0034】
一方、制御部CNTは、例えばレーダ装置100の周囲の温度の変動が検出されない場合には、レーダ送信信号LTXの送信を実行するための制御信号を送信部TXに対して出力し、レーダ送信信号LTXが物体TRGにより反射された反射波信号RRXの検出処理を実行するための制御信号を受信部RXに対して出力する。なお、レーダ装置100の周囲の温度の変動の検出結果は、レーダ装置100自体が検出しても良いし、レーダ装置100に入力された外部信号(不図示)により検出しても良い。
【0035】
送信部TXは、レーダ送信信号LTXの送信の実行中には、所定の送信符号系列を高周波のレーダ送信信号LTXに変換して送信アンテナAt−txから送信する。
【0036】
パルス系列生成部210は、レーダ装置100の周囲の温度の変動が検出されない場合に制御部CNTが出力した制御信号に応じて、所定の送信周期毎に、所定の符号系列(例えば単一のパルス系列)を生成してDAC220に出力する。
【0037】
DAC220は、パルス系列生成部210が生成したデジタルの送信符号系列(送信信号)をアナログの送信信号にDA変換してミキサ230に出力する。ミキサ230は、不図示のローカル信号発振器から出力されたローカル信号を用いて、DAC220が出力した送信信号を高周波のレーダ送信信号LTXに変換して電力増幅部240に出力する。電力増幅部240は、レーダ送信信号LTXの電力を増幅して送信アンテナAt−txから送信する。レーダ送信信号LTXが物体TRGにより反射された反射波信号RRXは、受信アンテナAt−rxにおいて受信される。
【0038】
受信部RXは、レーダ送信信号LTXの送信の実行中には、レーダ送信信号LTXが物体TRGにより反射された反射波信号RRXを受信アンテナAt−rxにおいて受信し、増幅及び量子化した反射波信号RRXを基に、物体TRGの有無を検出する。また、受信部RXは、レーダ送信信号LTXの送信の停止中には、所定のゲイン値を用いて、レーダ装置100に入力された熱雑音信号を増幅して量子化する。なお、レーダ送信信号LTXの送信の停止中には、受信部RXの出力はゲイン制御部GCNTに入力される。
【0039】
LNA310は、受信アンテナAt−rxにおいて受信された反射波信号RRXの電力を増幅してミキサ320に出力する。ミキサ320は、不図示のローカル信号発振器から出力されたローカル信号を用いて、受信アンテナAt−rxにおいて受信された高周波の反射波信号RRXをベースバンド信号に変換してVGA330に出力する。
【0040】
VGA330は、ゲイン制御部GCNTにより設定されたゲイン設定値(例えば初期値G0又は変更後のゲイン設定値G)を用いて、ミキサ320の出力信号(例えば反射波信号RRXに対応するベースバンド信号又は熱雑音信号)のレベルを増幅してADC340に出力する。
【0041】
ADC340は、所定の量子化分解能(Nビット)を用いて、VGA330の出力信号(アナログ信号)をデジタル信号にAD変換(例えばサンプル処理、量子化処理)して相関器350に出力する。なお、ADC340の出力信号は、例えばレーダ装置100の周囲の温度の変動が検出された場合に制御部CNTが出力した制御信号に応じて、相関器350及び判断部410の両方に入力される。また、ADC340の出力信号は、例えばレーダ装置100の周囲の温度の変動が検出されない場合に制御部CNTが出力した制御信号に応じて、相関器350に入力される。
【0042】
相関器350は、レーダ送信信号LTXの送信周期毎に、パルス系列生成部210が生成した送信符号系列(送信信号)とADC340が出力したデジタル信号との自己相関値を演算してコヒーレント加算部360に出力する。コヒーレント加算部360は、所定のコヒーレント加算回数(例えば10000回)分の各送信周期にわたって相関器350が演算した相関演算値をコヒーレント加算し、ピーク相関演算値が検出された遅延時間を基にして、物体TRGとレーダ装置100との間の距離を測定(測距)する。
【0043】
なお、
図2に示すレーダ装置100は、説明を簡単にするために、送信アンテナAt−txが接続された送信部TXと受信アンテナAt−rxが接続された受信部RXとは1つである例を説明したが、複数設けられても良い。例えば、レーダ装置100が、送信アンテナが接続された送信部を複数有する場合には、所定方向にレーダ送信信号の指向性を形成したレーダ送信ビームを送信できる。
【0044】
また、レーダ装置100が、受信アンテナが接続された受信部を複数有し、更に、各受信部のコヒーレント加算部の後段に1つの到来方向推定部を有する場合には、レーダ装置100から物体TRGに向かう方位の推定値を演算できる。
【0045】
また、レーダ装置100は、コヒーレント加算部360における相関器350の相関演算結果の所定回数にわたるコヒーレント加算結果によって、ターゲットとしての物体TRGの測距精度又は方位推定精度を向上できる。
【0046】
ゲイン制御部GCNTは、レーダ送信信号LTXの送信の停止中には、ADC340の出力信号、即ち、レーダ装置100に入力された熱雑音信号の量子化出力を用いて、VGA330に設定されているゲイン設定値の調整の要否を判断する。
【0047】
判断部410は、例えばレーダ装置100の周囲の温度の変動が検出された場合に制御部CNTが出力した制御信号に応じて、ADC340の出力信号、即ちADC340における熱雑音信号の量子化出力を用いて、レーダ装置100に入力された熱雑音信号がディザリングされたか否かを判断する。即ち、判断部410は、レーダ装置100に熱雑音信号が入力されている状態において、熱雑音信号のディザリングが成功したか否かを判断する。判断部410の判断結果はゲイン調整部420に入力される。なお、判断部410の具体的な内部構成については、
図3(A)を参照して後述する。
【0048】
ゲイン調整部420は、例えばレーダ装置100の周囲の温度の変動が検出された場合に制御部CNTが出力した制御信号に応じて、判断部410の判断結果を用いて、VGA330に設定されているゲイン設定値を調整する。例えば、ゲイン調整部420は、熱雑音信号のディザリングが成功したと判断部410により判断された場合には、現在のVGA330に設定されているゲイン設定値に維持する。一方、ゲイン調整部420は、熱雑音信号のディザリングが失敗したと判断部410により判断された場合には、現在のVGA330に設定されているゲイン設定値を、一定のゲイン増加値ΔG(
図9参照)を加算したゲイン設定値に調整する。本実施形態のゲイン調整部420の動作手順については、
図9を参照して後述する。
【0049】
なお、本実施形態を含む各実施形態において、ゲイン制御部GCNTの各部が動作する前提としては、制御部CNTが出力した制御信号に応じて、送信部TXがレーダ送信信号LTXの送信を停止している状態であって、更に、レーダ装置100の周囲に他のレーダ装置が存在しないために外部から信号が入力されない状態とする。従って、レーダ装置100には熱雑音信号が入力された状態となる。熱雑音信号のレベルに応じて、レーダ装置100の受信部RXの各部のコモン電圧が設定され、ADC340は、コモン電圧に熱雑音信号のレベルが加わった信号に対して量子化する。
【0050】
(第1の実施形態の判断部)
次に、第1の実施形態のレーダ装置100における判断部410の構成及び動作についいて、
図3(A)、
図3(B)、
図4〜
図8を参照して説明する。
図3(A)は、第1の実施形態のレーダ装置100の判断部410の詳細な内部構成を示すブロック図である。
図3(B)は、入力されるNビット量子化データと第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との対応関係を示す図である。
【0051】
図3(A)に示す判断部410は、第1(N−1)ビット変換部510と、第2(N−1)ビット変換部520と、第1コヒーレント加算部512と、第2コヒーレント加算部522と、第1正規化部514と、第2正規化部524と、比較部530とを有する。Nビットの量子化分解能を有するADC340の量子化出力は、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520に入力される。また、以下の説明において、ADC340の量子化出力は0〜2
N−1の整数とする。
【0052】
第1(N−1)ビット変換部510は、ADC340の量子化出力データを、ADC340の量子化出力データと同一値、又はADC340の量子化出力データより1少ない偶数値に変換する。
【0053】
第2(N−1)ビット変換部520は、ADC340の量子化出力データを、ADC340の量子化出力データと同一値、又はADC340の量子化出力データより1少ない奇数値に変換する。
【0054】
ここで、判断部410に入力されたNビットの量子化出力データと第1(N−1)ビット変換部510の出力と第2(N−1)ビット変換部520の出力との対応関係について、
図3(B)を参照して説明する。
図3(B)ではN=8、即ち、8ビットの量子化分解能によってADC340において量子化されたデータ(0〜255)が示されている。
【0055】
例えばN(=8)ビットの量子化出力データが偶数値(0,2,4,…,254)である場合には、第1(N−1)ビット変換部510は、入力された量子化データと同一値(0,2,4,…,254)を第1コヒーレント加算部512に出力する。
【0056】
また、N(=8)ビットの量子化出力データが奇数値(1,3,5,…,255)である場合には、第1(N−1)ビット変換部510は、入力された量子化データより1小さい偶数値(0,2,4,…254)を第1コヒーレント加算部512に出力する。
【0057】
一方、N(=8)ビットの量子化出力データが偶数値(0,2,4,…,254)である場合には、第2(N−1)ビット変換部520は、入力された量子化データより1小さい奇数値(−1,1,3,…255)を第2コヒーレント加算部522に出力する。
【0058】
また、N(=8)ビットの量子化出力データが奇数値(1,3,5,…,255)である場合には、第2(N−1)ビット変換部520は、入力された量子化データと同一値(1,3,5,…255)を第2コヒーレント加算部522に出力する。
【0059】
第1コヒーレント加算部512は、第1(N−1)ビット変換部510における量子化ビットデータの変換結果を所定回数(例えば10000回)、コヒーレント加算して第1正規化部514に出力する。なお、第1コヒーレント加算部512におけるコヒーレント加算の所定回数は、コヒーレント加算部360における加算回数と同一であることが好ましいが、熱雑音信号のコヒーレント加算に関しては少なくとも1つのサンプルポイントにおいてコヒーレント加算されれば良いので、コヒーレント加算部360における加算回数より少なくても良い。
【0060】
第2コヒーレント加算部522は、第2(N−1)ビット変換部520における量子化ビットデータの変換結果を所定回数(例えば10000回)、コヒーレント加算して第2正規化部524に出力する。なお、第2コヒーレント加算部522におけるコヒーレント加算の所定回数は、コヒーレント加算部360における加算回数と同一であることが好ましいが、熱雑音信号のコヒーレント加算に関しては少なくとも1つのサンプルポイントにおいてコヒーレント加算されれば良いので、コヒーレント加算部360における加算回数より少なくても良い。
【0061】
第1正規化部514は、第1コヒーレント加算部512のコヒーレント加算結果をコヒーレント加算回数(例えば10000)で除算することで正規化する。第1正規化部514は、第1コヒーレント加算部512の出力の正規化結果を比較部530に出力する。
【0062】
第2正規化部524は、第2コヒーレント加算部522のコヒーレント加算結果をコヒーレント加算回数(例えば10000)において除算することで正規化する。第2正規化部524は、第2コヒーレント加算部522の出力の正規化結果を比較部530に出力する。
【0063】
比較部530は、第1正規化部514及び第2正規化部524の各正規化結果の差分を演算し、各正規化結果の差分と所定の閾値(例えば0.5)とを比較する。比較部530は、第1正規化部514及び第2正規化部524の各正規化出力の差分が所定の閾値より大きいと判断した場合には(
図6又は
図7参照)、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のディザリングが失敗したと判断し、判断結果をゲイン調整部420に出力する。
【0064】
一方、比較部530は、第1正規化部514及び第2正規化部524の各正規化出力の差分が所定の閾値より小さいと判断した場合には(
図8参照)、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したと判断し、判断結果をゲイン調整部420に出力する。
【0065】
ここで、本実施形態のレーダ装置100のADC340の量子化分解能はNビットであるため、ADC340は、(N+1)ビットの量子化分解能によって入力信号を量子化するために適切な熱雑音が入力されているか否かを判断することは困難である。
【0066】
そこで、本実施形態の判断部410は、仮想的に(N−1)ビットの量子化分解能を有し、更に、ビット変換方法が異なる2つのビット変換部(具体的には、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520)を設ける。判断部410は、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520の各ビット変換出力のコヒーレント加算結果の正規化出力を用いて、(N−1)ビットの量子化分解能を仮想的に有する判断部410の量子化ビットデータの出力結果においてNビットの量子化分解能が得られたか否かを判断する。
【0067】
言い換えると、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520の各ビット変換出力のコヒーレント加算結果の正規化出力の差分が同程度(例えば所定の閾値(例えば0.5)未満)である場合には、仮想的に(N−1)ビットの量子化分解能を有する判断部410において、Nビットの量子化分解能による信号(データ)の量子化ができたと判断できる。即ち、判断部410は、Nビットの量子化分解能を有するADC340において、(N+1)ビットの量子化分解能によって入力信号をディザリングさせるためのゲイン設定値がVGA330に設定されていると判断できる。
【0068】
図4(A)は、ADC340の量子化分解能がNビットである場合の1LSBの振幅Xnとディザリングを成功させるための熱雑音信号の振幅Znとの関係を示す模式図である。
図4(B)は、ADC340の量子化分解能が(N−1)ビットである場合の1LSBの振幅Xn−1とディザリングを成功させるための熱雑音信号の振幅Zn−1との関係を示す模式図である。
図4(A)又は
図4(B)では、レベルCNCを中心として変動する熱雑音信号が入力された場合に、ディザリングが成功する振幅、即ち、ゲイン調整後の振幅Zn又は振幅Zn−1の幅が示されている。
【0069】
図4(A)又は
図4(B)に示す各目盛りの間隔は、Nビット又は(N−1)ビットの量子化分解能を有するADCにおける1LSB(Least Significant Bit)を示す。従って、
図4(A)に示す幅Xnは、Nビットの量子化分解能を有するADCにおける1LSBの振幅を示し、
図4(B)に示す幅Xn−1は、(N−1)ビットの量子化分解能を有するADCにおける1LSBの振幅を示す。
【0070】
また、
図4(A)及び
図4(B)においてレベルCNCを中心として変動する熱雑音信号が入力された場合に、ディザリングが成功する振幅Zn,Zn−1と、1LSBの振幅Xn,Xn−1との間には、数式(1)が成立する。ここで、振幅Xnと振幅Xn−1との間には数式(2)が成立するので、数式(1)及び数式(2)により、振幅Znと振幅Zn−1との間には数式(3)が成立する。即ち、ゲイン調整部420は、数式(3)を考慮して、判断部410の判断結果を用いてゲイン設定値を調整する。
【0074】
図5(A)は、ADC340の量子化分解能がNビットであって熱雑音信号のレベルが1LSBの中心である場合に、ディザリングを成功させるための熱雑音信号の振幅Znを示す模式図である。
図5(B)は、ADC340の量子化分解能がNビットであって熱雑音信号のレベルが1LSBの下限近くである場合に、ディザリングを成功させるための熱雑音信号の振幅Zn’を示す模式図である。
【0075】
図5(A)又は
図5(B)では、レベルCNCを中心として変動する熱雑音信号が入力された場合に、ディザリングが成功する振幅Zn又は振幅Zn’の幅が示されている。
図4(A)又は
図4(B)と同様に、
図5(A)又は
図5(B)に示す各目盛りの間隔は、Nビットの量子化分解能を有するADCにおける1LSBを示す。
【0076】
図5(A)では、熱雑音信号の中心のレベルCNCは目盛り間の中心であるため、熱雑音信号は同図の上から第2番目の目盛りに対応するレベルと第5番目の目盛りに対応するレベルとの間において変動する。
【0077】
一方、
図5(B)では、熱雑音信号の中心のレベルCNCは目盛り間の中心ではなく下限に近いので、熱雑音信号は同図の上から第2番目の目盛りに対応するレベルと第6番目の目盛りに対応するレベルとの間において変動する。
【0078】
このため、ゲイン調整部420は、中心のレベルCNCの熱雑音信号がNビットの量子化分解能を有するADC340に入力される場合に、熱雑音信号の中心が目盛り間の中心又は下限にあることを考慮して、
図5(A)に示す振幅Znに所定の振幅のマージンを加算した振幅Zn’に対応したゲイン設定値に調整する。
【0079】
入力される熱雑音が、中心のレベルCNCを含むコード値とその前後±1のコード値に跨る状態が最適状態であると仮定する。つまり、
図5(A)では、中心のレベルCNCが量子化値100であるため、量子化値99から量子化値101に跨る状態が最適状態である。
【0080】
さらに、入力される熱雑音の中心のレベルCNCと、熱雑音の上側の振幅がその一つ上のコードに跨るための振幅の大きさと、に関して考える。
【0081】
図5(A)では中心のレベルCNCが目盛りの中央レベルであるため、中心のレベルCNCは量子化値100、熱雑音の上側(量子化値99側)の振幅Zn/2が1つ上のコード値として量子化値99に跨るためには、Zn/2≧d1の関係が必要になる。なお、
図5(A)では、中心のレベルCNCが量子化値100の中央部分に位置するため、d1=Xn/2となる。
【0082】
また、
図5(B)では、中心のレベルCNCが目盛り(量子化値100)の下限付近に位置するため、熱雑音の上側(99ビット側)の振幅Zn’/2が1つ上のコード値として量子化値99に跨るためには、Zn’/2≧d’1の関係が必要になる。
【0083】
ここで、中心のレベルCNCが量子化値100の下限付近に位置すると、d’1=2d1とみなせるため、Zn/2=d1、Zn’/2=d’1であれば、d’1=2d1より、Zn’=2Zn=2×(Zn−1)/2、即ち、振幅Zn−1に対応したゲイン設定値に調整する(数式(4)参照)。
【0085】
図6は、熱雑音信号のレベル自体が十分に小さい場合における、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520の各出力の一例とディザリングの成否結果とを示す説明図である。
図6では、熱雑音信号のレベル自体が十分に小さく、熱雑音信号の中心のレベルCNCはNビットの量子化分解能における目盛り100の中心である。
【0086】
入力された熱雑音信号の量子化出力データが100であるため、
図3(B)に従うと、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力は、100となる。従って、
図6の上段において、コヒーレント加算回数が10である場合には、第1正規化部514の正規化出力は(100+100+100+100+100+100+100+100+100+100)/10=100となる。
【0087】
同様に、入力された熱雑音信号の量子化出力データが100であるため、
図3(B)に従うと、第2(N−1)ビット変換部510のビット変換出力は、99となる。従って、
図6の下段において、コヒーレント加算回数が10である場合には、第2正規化部524の正規化出力は(99+99+99+99+99+99+99+99+99+99)/10=99となる。
【0088】
従って、比較部530は、第1正規化部514の出力と第2正規化部524との出力との差分の絶対値(=1)は所定の閾値(=0.5)より大きいと判断し、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のディザリングが失敗したと判断し、判断結果をゲイン調整部420に出力する。即ち、比較部530は、レーダ装置100に入力された熱雑音信号はディザリングが失敗し、熱雑音信号を(N+1)ビットの量子化分解能によって量子化できるためのゲイン設定値がVGA330に設定されていないと判断する。
【0089】
図7は、熱雑音信号のレベルの変動幅が十分に小さい場合の、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520の各出力の一例とディザリングの成否結果とを示す説明図である。
図7では、熱雑音信号のレベルの変動幅が十分に小さく、熱雑音信号は、中心のレベルCNCがNビットの量子化分解能における目盛り100を中心として、目盛り99〜101にわたって変動している。
【0090】
入力された熱雑音信号の量子化出力データの中心のレベルCNCが100であるため、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力は、
図3(B)に従うと、100又は102となる。従って、
図7の上段において、コヒーレント加算回数が10である場合には、第1正規化部514の正規化出力は(100+100+102+100+100+100+100+100+100+100)/10=100.2となる。
【0091】
同様に、入力された熱雑音信号の量子化出力データの中心のレベルCNCが100であるため、第2(N−1)ビット変換部510のビット変換出力は、
図3(B)に従うと、99又は101となる。従って、
図7の下段において、コヒーレント加算回数が10である場合には、第2正規化部524の正規化出力は(101+99+101+101+101+101+101+101+101+101)/10=100.8となる。
【0092】
従って、比較部530は、第1正規化部514の出力と第2正規化部524との出力との差分の絶対値(=0.6)は所定の閾値(=0.5)より大きいと判断し、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のディザリングが失敗したと判断し、判断結果をゲイン調整部420に出力する。即ち、比較部530は、レーダ装置100に入力された熱雑音信号はディザリングが失敗し、熱雑音信号を(N+1)ビットの量子化分解能によって量子化できるためのゲイン設定値がVGA330に設定されていないと判断する。
【0093】
図8は、熱雑音信号のレベルの変動幅が十分に大きい場合の、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520の各出力の一例とディザリングの成否結果とを示す説明図である。
図8では、熱雑音信号のレベルの変動幅が十分に大きく、熱雑音信号は、中心のレベルCNCがNビットの量子化分解能における目盛り100を中心として、目盛り98〜102にわたって変動している。
【0094】
入力された熱雑音信号の量子化出力データの中心のレベルCNCが100であるため、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力は、
図3(B)に従うと、100又は102となる。従って、
図8の上段において、コヒーレント加算回数が10である場合には、第1正規化部514の正規化出力は(100+100+102+100+102+100+102+100+102+100)/10=100.8となる。
【0095】
同様に、入力された熱雑音信号の量子化出力データの中心のレベルCNCが100であるため、第2(N−1)ビット変換部510のビット変換出力は、
図3(B)に従うと、99又は101となる。従って、
図8の下段において、コヒーレント加算回数が10である場合には、第2正規化部524の正規化出力は(101+99+101+101+101+101+101+99+101+101)/10=100.6となる。
【0096】
従って、比較部530は、第1正規化部514の出力と第2正規化部524との出力との差分の絶対値(=0.2)は所定の閾値(=0.5)より小さいと判断し、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したと判断し、判断結果をゲイン調整部420に出力する。即ち、比較部530は、レーダ装置100に入力された熱雑音信号はディザリングが成功し、熱雑音信号を(N+1)ビットの量子化分解能によって量子化できるためのゲイン設定値がVGA330に設定されていると判断する。
【0097】
次に、本実施形態のレーダ装置100におけるゲイン調整部420の動作手順について、
図9を参照して説明する。
図9は、第1の実施形態のレーダ装置100のゲイン調整部420の動作手順を具体的に説明するフローチャートである。
図9に示すフローチャートの説明の前提として、送信部TXは、制御部CNTが出力した制御信号に応じて、レーダ送信信号LTXの送信を停止する。
【0098】
図9において、ゲイン調整部420は、レーダ装置100のVGA330のゲイン設定値Gとして所定値(例えば初期値G0)をVGA330に設定する(S11,S12)。なお、本実施形態では、ADC340の入力信号をディザリングさせるための熱雑音信号のレベルの下限に対応するゲイン設定値が設定されることが好ましいので(
図1参照)、ゲイン設定値Gの初期値は、ゲイン調整部420により設定されるゲイン設定値の最小値である。
【0099】
ゲイン調整部420は、VGA330のゲイン設定値がステップS12において設定されたゲイン設定値である場合に、判断部410の判断結果を基に、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したか否かを判断する(S13)。
【0100】
具体的には、ゲイン調整部420は、判断部410が出力した判断結果として、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力との差分が所定の閾値(例えば0.5)未満であると判断した場合には(S13、YES)、ステップS12において設定されたゲイン設定値Gを用いることを決定する(S14)。ステップS14の後、
図9に示すゲイン調整部420の動作は終了する。
【0101】
なお、ゲイン調整部420は、数式(3)を考慮して(
図4(A)及び
図4(B)参照)、ステップS12において設定されたゲイン設定値Gの半分の値をゲイン設定値として用いても良いし、数式(4)を考慮して(
図5(A)及び
図5(B)参照)、ステップS12において設定されたゲイン設定値Gを、
図5(B)に示すマージンを含めた振幅に対応するゲイン設定値として用いても良い。
【0102】
一方、ゲイン調整部420は、判断部410が出力した判断結果として、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力との差分が所定の閾値(例えば0.5)以上であると判断した場合には(S13、NO)、ステップS12において設定されたゲイン設定値Gに所定のゲイン増加値ΔGを加算する(S15、G=G+ΔG)。
【0103】
ゲイン調整部420は、ステップS15における加算後のゲイン設定値G(=G+ΔG)を用いて、判断部410の判断結果を基に、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したと判断するまで、ステップS12、ステップS13及びステップS15の各処理を繰り返す。
【0104】
以上により、本実施形態のレーダ装置100は、判断部410における熱雑音信号の量子化出力を用いて、レーダ送信信号LTXの送信を停止している間に入力された熱雑音信号ADCがディザリングされたか否かを判断し、判断部410における判断結果に応じて、ディザリングによるADC340の入力信号を高分解能に量子化させるためのゲイン設定値に調整する。
【0105】
これにより、レーダ装置100は、周囲の温度変動が無い場合にはVGA330のゲイン設定値が変動しないので、レーダ送信信号LTXの送信を停止している間に入力された熱雑音信号の変動幅は小さく、VGA330に設定されたゲイン設定値により、熱雑音信号をディザリングできる。
【0106】
また、レーダ装置100は、周囲の温度変動がある場合にはVGA330のゲイン設定値が変動するが、レーダ送信信号LTXの送信を停止している間に入力された熱雑音信号の変動幅も大きくなるので、判断部410における第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力との差分が所定の閾値未満となるゲイン設定値をVGA330に設定することで、ADC340に入力された熱雑音信号を高分解能にディザリングできる。
【0107】
即ち、レーダ装置100は、周囲の温度変動があったとしても、ディザリングによりADC340の入力信号を高分解能に量子化するためのゲイン設定値を調整できる。
【0108】
また、レーダ装置100は、判断部410において、受信部RXのコヒーレント加算部360と同一のコヒーレント加算回数、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力とをコヒーレント加算するので、VGA330のゲイン設定値として、例えば経験的に定められたゲイン設定値よりも、ADC340に入力された熱雑音信号を高分解能にディザリングさせるための最適なゲイン設定値に調整できる。
【0109】
また、レーダ装置100は、上述した特許文献1において基準となる外部信号を与えるための回路部品(例えばノイズジェネレータ)の追加を省略して、判断部410を設けることで、簡易な回路構成によって、VGA330のゲイン設定値として、ADC340に入力された熱雑音信号を高分解能にディザリングさせるための最適なゲイン設定値に調整できる。
【0110】
なお、
図1において、レーダ装置100における受信信号の所望レベル範囲RSLがADC340のダイナミックレンジDRGより大きい場合には、一度にADC340のダイナミックレンジDRGを超える信号の受信は困難となる。このため、レーダ装置100は、
図1に示すレーダ装置100における受信信号の所望レベル範囲RSLを複数(例えば2つ)に分割し、更に、分離した信号のレベル範囲を時間的に交互に設定してADC340のダイナミックレンジDRG内のレベルの信号を個別に受信する。
【0111】
レーダ装置100は、レーダ装置100における受信信号の所望レベル範囲RSLの分割数に応じて、分割した信号のレベル範囲に対応する最適なゲイン設定値を用いる。
【0112】
例えば、レーダ装置100は、小さい方のレベル範囲において熱雑音信号を受信し、本実施形態の方法を用いて設定された最適なゲイン設定値を、分割した信号のレベル範囲に対応する各ゲイン設定値として用いる。
【0113】
また、レーダ装置100は、受信信号のレベルが大きい方のレベル範囲では、大きい方のレベル範囲において入力された熱雑音信号に対応して設定された最適なゲイン設定値に、所定のオフセット値を加算することにより、VGA330のゲイン設定値を設定できる。
【0114】
なお、上述した本実施形態では、判断部410は、ADC340に入力された熱雑音信号がディザリングされたか否かを、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力との差分と所定の閾値との比較結果により判断した。
【0115】
また、判断部410は、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力の四捨五入結果と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力との各四捨五入結果とが同一であるか否かに応じて、ADC340に入力された熱雑音信号がディザリングされたか否かを判断しても良い。
【0116】
例えば、第1の例では、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力を100、第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力を101とする。判断部410は、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力の四捨五入結果(100)と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力の四捨五入結果(101)とが一致しないので、ADC340に入力された熱雑音信号のディザリングが失敗したと判断する。
【0117】
例えば、第2の例では、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力を100.2、第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力を100.8とする。判断部410は、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力の四捨五入結果(100)と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力の四捨五入結果(101)とが一致しないので、ADC340に入力された熱雑音信号のディザリングが失敗したと判断する。
【0118】
例えば、第3の例では、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力を100.8、第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力を100.6とする。判断部410は、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力の四捨五入結果(101)と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力の四捨五入結果(101)とが一致するので、ADC340に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したと判断する。
【0119】
また、上述した本実施形態において、
図3(B)では、入力された熱雑音信号の量子化出力が0である場合には、第2(N−1)ビット変換部520の変換出力は−1となっているが、第2(N−1)ビット変換部520は、入力された量子化出力データをクリッピングして0を出力しても良い。
【0120】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のレーダ装置100aと第1の実施形態のレーダ装置100との違いは、判断部の構成及び動作である。このため、本実施形態では、レーダ装置100aとレーダ装置100との構成及び動作の説明において、同一の内容の説明は簡略化又は省略し、異なる内容について説明する。例えば、判断部410aの構成及び動作の説明において、判断部410の構成及び動作と異なる内容について説明する。
【0121】
(第2の実施形態の判断部)
図10は、第2の実施形態のレーダ装置100aの判断部410aの詳細な内部構成を示すブロック図である。
図10に示す判断部410aは、第1(N−1)ビット変換部510と、第2(N−1)ビット変換部520と、減算器540と、コヒーレント加算部512aと、正規化部514aと、閾値判断部530aとを有する。
【0122】
第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力とが減算器540に入力される。減算器540は、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力とを減算し、減算結果をコヒーレント加算部512aに出力する。
【0123】
コヒーレント加算部512aは、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分を所定回数(例えば10000回)、コヒーレント加算して正規化部514aに出力する。なお、コヒーレント加算部512aにおけるコヒーレント加算の所定回数は、コヒーレント加算部360における加算回数と同一であることが好ましいが、熱雑音信号のコヒーレント加算に関しては少なくとも1つのサンプルポイントにおいてコヒーレント加算されれば良いので、コヒーレント加算部360における加算回数より少なくても良い。
【0124】
正規化部514aは、コヒーレント加算部512aのコヒーレント加算結果をコヒーレント加算回数(例えば10000)において除算することで正規化する。正規化部514aは、コヒーレント加算部512aの出力の正規化結果を閾値判断部530aに出力する。
【0125】
閾値判断部530aは、正規化部514aの正規化出力と所定の閾値(例えば0.5)とを比較する。閾値判断部530aは、正規化部514aの正規化出力が所定の閾値より大きいと判断した場合には(
図6又は
図7参照)、レーダ装置100aに入力された熱雑音信号のディザリングが失敗したと判断し、判断結果をゲイン調整部420aに出力する。
【0126】
一方、閾値判断部530aは、正規化部514aの正規化出力が所定の閾値より小さいと判断した場合には(
図8参照)、レーダ装置100aに入力された熱雑音信号のディザリングが成功したと判断し、判断結果をゲイン調整部420aに出力する。なお、ゲイン調整部420aの動作は第1の実施形態のレーダ装置100のゲイン調整部420と同一であるため、説明を省略する(
図9参照)。
【0127】
以上により、本実施形態のレーダ装置100aは、第1の実施形態のレーダ装置100と同様の効果が得られ、更に、レーダ装置100aの回路規模をレーダ装置100の回路規模に比べて削減できる。
【0128】
例えば、第1の実施形態では、判断部410においてコヒーレント加算部が2つあり、各コヒーレント加算部において(N−1)ビットのデータをC回(Cは1以上の整数、C=2
N)コヒーレント加算する場合には、コヒーレント加算部の回路規模として、少なくとも(N−1)×Cビットのバッファが必要となる。
【0129】
一方、本実施形態では、判断部410aの減算器540において第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力とが減算されるので、熱雑音信号のレベルが減算値となる。例えば減算値としての熱雑音信号が4ビット程度であれば、4ビットの熱雑音信号をC回コヒーレント加算する程度のバッファがあれば良い。
【0130】
例えばN=8、C=256(=2
8)では、第1の実施形態の判断部410では(8−1)+8−15ビットのバッファが2個必要となるが、本実施形態の判断部410aでは4+8=12ビットのバッファが1個で足りる。即ち、本実施形態の判断部410aでは、コヒーレント加算部に必要なバッファの数を削減でき、更に、コヒーレント加算部における加算器のビット数を低減できるので、レーダ装置100aの回路規模をレーダ装置100の回路規模に比べて大幅に削減できる。
【0131】
また、第1の実施形態の判断部410の比較部530は、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力と第2(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力との差分を演算する。このため、比較部530では15ビットの減算器が必要となる。これに対して、本実施形態の判断部410aの減算器540は、8ビットの減算器であれば、十分である。従って、減算器の回路規模の観点からも、本実施形態のレーダ装置100aは、第1の実施形態のレーダ装置100に比べて、回路規模を一層削減できる。
【0132】
(第3の実施形態)
第3の実施形態のレーダ装置100bと第2の実施形態のレーダ装置100aとの違いは、判断部の構成及び動作である。このため、本実施形態では、レーダ装置100bとレーダ装置100aとの構成及び動作の説明において、同一の内容の説明は簡略化又は省略し、異なる内容について説明する。例えば、判断部410bの構成及び動作の説明において、判断部410aの構成及び動作と異なる内容について説明する。
【0133】
(第3の実施形態の判断部)
図11(A)は、入力されるNビット量子化データと、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と、第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力と、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分との対応関係を示す図である。
図11(B)は、第3の実施形態のレーダ装置100bの判断部410bの詳細な内部構成を示すブロック図である。
図11(B)に示す判断部410bは、Nビットカウンタ550と、正規化部514bと、閾値判断部530bとを有する。
【0134】
図11(A)では、
図3(B)に示すN=8、即ち、8ビットの量子化分解能によってADC340において量子化されたデータ(0〜255)に対応して、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と、第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力と、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分が示されている。
【0135】
例えばN(=8)ビットの量子化出力データが偶数値(0,2,4,…,254)である場合には、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分は「+1」となる。一方、N(=8)ビットの量子化出力データが奇数値(1,3,5,…,255)である場合には、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分は「−1」となる。
【0136】
従って、N(=8)ビットの量子化出力データの上から第N番目のビット、即ち、最下位ビットが「+1」である場合には、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分は「−1」となり、最下位のビットが「0」である場合には、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分は「+1」となる。
【0137】
Nビットカウンタ550は、入力された量子化データに対し、上から第N番目のビット、即ち、最下位ビットの「+1」又は「0」の回数をカウントする。Nビットカウンタ550は、例えばレーダ装置100bにおけるコヒーレント加算部360のコヒーレント加算回数(C回)と同数回、カウントする。また、Nビットカウンタ550は、C回のコヒーレント加算回数において、入力された量子化データの最下位ビットが「+1」又は「0」のいずれかの回数をカウントしても良い。
【0138】
例えばC=100回として、Nビットカウンタ550は、入力された量子化データの最下位ビットが「+1」を53回、「0」を47回カウントする。Nビットカウンタ550は、最下位ビットが「+1」に対応して、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分の合計値として「−1」×53=−53と算出する。同様に、Nビットカウンタ550は、最下位ビットが「0」に対応して、第1(N−1)ビット変換部510のビット変換出力と第2(N−1)ビット変換部520のビット変換出力との差分の合計値として「+1」×47=47と算出する。
【0139】
更に、Nビットカウンタ550は、合計C(=100)回の最下位ビットのカウンタ結果として、「−53+47」=−6を正規化部514bに出力する。即ち、Nビットカウンタ550は、第2の実施形態のレーダ装置100aの判断部410aの第1(N−1)ビット変換部510と第2(N−1)ビット変換部520と減算器540と同様に動作する。
【0140】
なお、Nビットカウンタ550は、入力された量子化データの最下位ビットが「+1」又は「0」のいずれか(例えば「+1」)の回数をカウントする場合には、「+1」の回数をNHとすると、{−NH+(C−NH)}={−53+(100−47})=−6を正規化部514bに出力する。
【0141】
正規化部514b及び閾値判断部530bの動作は、第2の実施形態のレーダ装置100aの判断部410aの正規化部514a及び閾値判断部530aの動作と同一であるため、正規化部514b及び閾値判断部530bの動作の説明を省略する。
【0142】
以上により、本実施形態のレーダ装置100bは、第1の実施形態のレーダ装置100と同様の効果が得られ、更に、第2の実施形態のレーダ装置100aの回路規模に比べて、一層削減できる。
【0143】
(第4の実施形態)
第1の実施形態では、判断部410は、レーダ装置100がレーダ送信信号LTXの送信を停止し、反射波信号RRXの受信が無い状態において、VGA330に設定されたゲイン設定値に応じて、ADC340に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したか否かを判断した。しかし、熱雑音信号のレベルが大きすぎると、判断部410におけるコヒーレント加算結果が安定せずに変動する。
【0144】
第4の実施形態では、判断部410cは、第1の実施形態と同様な状態において、VGA330に設定されたゲイン設定値に応じて、ADC340に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したか否かを判断し、更に、ADC340に入力される熱雑音信号のレベルが大きすぎるか否かを判断する。
【0145】
第4の実施形態のレーダ装置100cと第1の実施形態のレーダ装置100との違いは、判断部の構成及び動作とゲイン調整部の動作である。このため、本実施形態では、レーダ装置100cとレーダ装置100との構成及び動作の説明において、同一の内容の説明は簡略化又は省略し、異なる内容について説明する。例えば、判断部410cの構成及び動作とゲイン調整部420cの動作の説明において、判断部410の構成及び動作とゲイン調整部420の動作と異なる内容について説明する。
【0146】
(第4の実施形態の判断部)
図12は、第4の実施形態のレーダ装置100cの判断部410cの詳細な内部構成を示すブロック図である。
図12に示す判断部410cは、第1(N−1)ビット変換部510と、第2(N−1)ビット変換部520と、第1コヒーレント加算部512と、第2コヒーレント加算部522と、第1正規化部514と、第2正規化部524と、比較部530と、第1安定度判断部516と、第2安定度判断部526とを有する。
【0147】
第1安定度判断部516は、第1正規化部514の正規化出力、即ち、第1コヒーレント加算部512におけるコヒーレント加算回数Cのコヒーレント加算結果の正規化出力を、P回取得する。第1安定度判断部516は、P個の第1正規化部514の正規化出力がどの程度ばらついているかを解析し、P個の第1正規化部514の正規化出力が全て所定の基準値(安定度判断閾値)以内であるか否かを判断する。
【0148】
例えばP(=10)個の第1正規化部514の正規化出力が{100.1,100.3,99.9,100.0,100.3,100.1,99.9,99.8,100.1,99.9}とし、100を中心に変動している。ここで、所定の安定度判断閾値を0.5とすると、第1安定度判断部516は、P(=10)個の第1正規化部514の正規化出力の全てが「100−0.5=99.5」から「100+0.5=100.5」の範囲に含まれるか否かを判断する。
【0149】
第1安定度判断部516は、P(=10)個の第1正規化部514の正規化出力の全てが「100−0.5=99.5」から「100+0.5=100.5」の範囲に含まれると判断した場合には、ADC340に入力される熱雑音信号のレベルは安定しており大きすぎることはないと判断する。
【0150】
一方、第1安定度判断部516は、P(=10)個の第1正規化部514の正規化出力の全てが「100−0.5=99.5」から「100+0.5=100.5」の範囲に含まれず、「100.5」を超えると判断した場合には、ADC340に入力される熱雑音信号のレベルが大きすぎると判断する。
【0151】
第2安定度判断部526は、第2正規化部524の正規化出力、即ち、第2コヒーレント加算部522におけるコヒーレント加算回数Cのコヒーレント加算結果の正規化出力を、P回取得する。第2安定度判断部526は、P個の第2正規化部524の正規化出力がどの程度ばらついているかを解析し、P個の第2正規化部524の正規化出力が全て所定の基準値(安定度判断閾値)以内であるか否かを判断する。第2安定度判断部526における判断例については第1安定度判断部516と同様のため、説明を省略する。
【0152】
次に、本実施形態のレーダ装置100cにおけるゲイン調整部420cの動作手順について、
図13を参照して説明する。
図13は、第4の実施形態のレーダ装置100cのゲイン調整部420cの動作手順を具体的に説明するフローチャートである。
図13に示すフローチャートの説明の前提として、送信部TXは、制御部CNTが出力した制御信号に応じて、レーダ送信信号LTXの送信を停止している。なお、
図13に示すフローチャートの説明では、
図9に示すフローチャートの説明と同一の内容については説明を省略又は簡略化し、異なる内容について説明する。
【0153】
図13において、ゲイン調整部420cは、判断部410cの比較部530が出力した判断結果として、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力と第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力との差分が所定の閾値(例えば0.5)未満であると判断する(S13、YES)。
【0154】
更に、ゲイン調整部420cは、少なくとも第1安定度判断部516及び第2安定度判断部526のうちいずれか又は両方の判断結果を基に、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のレベルが大きすぎるか否かを判断する(S16)。
【0155】
具体的には、ゲイン調整部420cは、P個の第1正規化部514或いは第2正規化部524の正規化出力の全て、又は、P個の第1正規化部514及び第2正規化部524の正規化出力の全てが所定値を中心として所定の安定度判断閾値内に含まれるか否かを判断する。
【0156】
ゲイン調整部420cは、P個の第1正規化部514或いは第2正規化部524の正規化出力の全て、又は、P個の第1正規化部514及び第2正規化部524の正規化出力の全てが所定値を中心として所定の安定度判断閾値内に含まれると判断した場合には(S16、YES)、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のレベルが大きすぎることはないので、ステップS12において設定されたゲイン設定値Gを用いることを決定する(S14)。
【0157】
一方、ゲイン調整部420cは、P個の第1正規化部514或いは第2正規化部524の正規化出力の全て、又は、P個の第1正規化部514及び第2正規化部524の正規化出力の全てが所定値を中心として所定の安定度判断閾値内に含まれず(S16、NO)、所定値と安定度判断閾値との加算結果を超えると判断した場合には、レーダ装置100に入力された熱雑音信号のレベルが大きすぎるので、ステップS14において加算されるゲイン増加値ΔGを半分の値(ΔG/2)に変更してVGA330のゲイン設定値(例えばG=G+ΔG/2)を設定する(S17)。
【0158】
以上により、本実施形態のレーダ装置100cは、レーダ装置100cがレーダ送信信号LTXの送信を停止し、反射波信号RRXの受信が無い状態において、VGA330に設定されたゲイン設定値に応じて、ADC340に入力された熱雑音信号のディザリングが成功したか否かを判断でき、更に、ADC340に入力される熱雑音信号のレベルが大きすぎないか、即ち、熱雑音信号のレベルが安定しているか否かを判断できる。
【0159】
これにより、レーダ装置100cは、第1の実施形態のレーダ装置100と同様の効果が得られ、更に、VGA330に設定されるゲイン設定値を求めるための試行回数(例えば
図13に示すステップS13〜ステップS17の各処理回数)を削減できる。
【0160】
なお、熱雑音信号のレベルの安定度を判断する場合に、第1正規化部514に入力される第1コヒーレント加算部512のコヒーレント加算回数、及び第2正規化部524に入力される第2コヒーレント加算部522のコヒーレント加算回数は、レーダ装置100cのコヒーレント加算部360におけるコヒーレント加算回数と同一値又はコヒーレント加算回数未満でも良い。
【0161】
(第5の実施形態)
第1〜第4の各実施形態では、レーダ装置の周囲に他のレーダ装置が存在しないために外部からレベルの大きな信号(例えばバースト信号)が入力されない状態が前提である。
【0162】
第5の実施形態では、判断部410dは、例えばレーダ装置100dの周囲に他のレーダ装置が存在する場合に、外部からのバースト信号を検出する。
【0163】
第5の実施形態のレーダ装置100dと第1の実施形態のレーダ装置100との違いは、判断部の構成及び動作とゲイン調整部の動作である。このため、本実施形態では、レーダ装置100dとレーダ装置100との構成及び動作の説明において、同一の内容の説明は簡略化又は省略し、異なる内容について説明する。例えば、判断部410dの構成及び動作とゲイン調整部420dの説明において、判断部410の構成及び動作とゲイン調整部420の動作と異なる内容について説明する。
【0164】
(第5の実施形態の判断部)
図14は、第5の実施形態のレーダ装置100dの判断部410dの詳細な内部構成を示すブロック図である。
図14に示す判断部410dは、第1(N−1)ビット変換部510と、第2(N−1)ビット変換部520と、第1コヒーレント加算部512と、第2コヒーレント加算部522と、第1正規化部514と、第2正規化部524と、比較部530と、第1バースト検出部518と、第2バースト検出部528とを有する。
【0165】
第1バースト検出部518は、第1正規化部514の正規化出力、即ち、第1コヒーレント加算部512におけるコヒーレント加算回数Cのコヒーレント加算結果の正規化出力を取得する。第1バースト検出部518は、第1正規化部514の正規化出力、即ち、第1コヒーレント加算部512におけるコヒーレント加算回数Cのコヒーレント加算結果の正規化出力を基に、レーダ装置100dにバースト信号が入力されたか否かを判断する。
なお、第1バースト検出部518の説明を簡単にするために、バースト信号がレーダ装置100dに入力されておらず、熱雑音信号が入力されている状態について、以下に説明する。また、熱雑音信号の中心のレベルを100とする。
【0166】
熱雑音信号はガウシアン分布に従うので、熱雑音信号の平均値は100の近傍となる。もし、バースト信号が入力されると、熱雑音信号の中心のレベルが一時的に大きく変動し、例えば、150となる。
【0167】
第1バースト検出部518は、所定のバースト信号検出閾値を30とすると、第1正規化部514の正規化出力、即ち、第1コヒーレント加算部512におけるコヒーレント加算回数Cのコヒーレント加算結果の正規化出力が100を中心にして70(=100−30)から130(=100+30)の範囲に含まれるか否かを判断する。例えば大きな値のレベルとして150が検出された場合には、第1バースト検出部518は、バースト信号が入力されたことを検出できる。
【0168】
第2バースト検出部528は、第2正規化部524の正規化出力、即ち、第2コヒーレント加算部522におけるコヒーレント加算回数Cのコヒーレント加算結果の正規化出力を取得する。第2バースト検出部528は、第2正規化部524の正規化出力、即ち、第2コヒーレント加算部522におけるコヒーレント加算回数Cのコヒーレント加算結果の正規化出力を基に、レーダ装置100dにバースト信号が入力されたか否かを判断する。第2バースト検出部528における判断例については第1バースト検出部518と同様のため、説明を省略する。
【0169】
ゲイン調整部420dは、判断部410dの判断結果として外部からのバースト信号が検出された場合には、バースト信号が検出された期間において熱雑音信号のディザリングの成否の判断結果を無効化し、バースト信号が検出されない期間において熱雑音信号のディザリングの成否の判断結果を用いて、ゲイン設定値を再調整する。
【0170】
以上により、本実施形態のレーダ装置100dは、判断部410dの第1バースト検出部518及び第2バースト検出部528において、第1正規化部514の正規化出力及び第2正規化部524の正規化出力を基に、例えばレーダ装置100dの周囲に他のレーダ装置が存在する場合に外部からのバースト信号を検出できる。
【0171】
これにより、レーダ装置100dは、第1の実施形態のレーダ装置100と同様の効果が得られ、更に、バースト信号が検出された期間では判断部410dの判断結果を無効化し、バースト信号が検出されない期間において判断部410dの判断結果を用いてゲイン設定値を調整するので、バースト信号が検出された場合でも、VGA330のゲイン設定値の最適値を設定できる。
【0172】
なお、バースト信号の検出では、第1正規化部514に入力される第1コヒーレント加算部512のコヒーレント加算回数、及び第2正規化部524に入力される第2コヒーレント加算部522のコヒーレント加算回数は、レーダ装置100dのコヒーレント加算部360におけるコヒーレント加算回数と同一値又はコヒーレント加算回数未満でも良い。
【0173】
(第6の実施形態)
第6の実施形態のレーダ装置100eと第3の実施形態のレーダ装置100bとの違いは、判断部の構成及び動作とゲイン調整部の動作である。このため、本実施形態では、レーダ装置100eとレーダ装置100bとの構成及び動作の説明において、同一の内容の説明は簡略化又は省略し、異なる内容について説明する。例えば、判断部410eの構成及び動作とゲイン調整部420eの動作の説明において、判断部410bの構成及び動作とゲイン調整部420bと異なる内容について説明する
【0174】
(第6の実施形態の判断部)
図15は、第6の実施形態のレーダ装置100eの判断部410eの詳細な内部構成を示すブロック図である。
図15に示す判断部410eは、第3の実施形態の判断部410bの構成、即ち、Nビットカウンタと正規化部と閾値判断部とをk個含む。
【0175】
具体的には、判断部410eは、Nビットカウンタ5501と、(N−1)ビットカウンタ5502と、(N−2)ビットカウンタ5503と、〜、(N−k+1)ビットカウンタ550kと、k個の正規化部514e1,514e2,514e3〜514kと、k個の閾値判断部530e1,530e2,530e3〜530kとを有する。
【0176】
Nビットカウンタ5501は、入力された量子化データに対し、上から第N番目のビット、即ち、最下位ビットの「+1」又は「0」の回数をカウントする。
【0177】
(N−1)ビットカウンタ5502は、入力された量子化データに対し、上から第(N−1)番目のビット、即ち、最下位ビットの1つ上の桁のビットの「+1」又は「0」の回数をカウントする。
【0178】
(N−2)ビットカウンタ5503は、入力された量子化データに対し、上から第(N−2)番目のビット、即ち、最下位ビットの2つ上の桁のビットの「+1」又は「0」の回数をカウントする。
【0179】
同様に、(N−k+1)ビットカウンタ550kは、入力された量子化データに対し、上から第(N−k+1)番目のビット、即ち、最下位ビットの(k−1)個、上の桁のビットの「+1」又は「0」の回数をカウントする。
【0180】
Nビットカウンタ5501は、上から第N番目のビットの「+1」又は「0」の回数をカウントすることにより、Nビットの量子化分解能を有するADC340が(N+1)ビットの量子化分解能によって量子化できているか否かを判断する。つまり、Nビットカウンタ5501と正規化部514e1と閾値判断部530e1とは、ゲイン調整部420eが設定したいゲイン設定値より6dB大きなゲイン設定値がVGA330に設定された状態において、熱雑音信号がディザリングされたか否かを判断する。
【0181】
Nビットカウンタ5502は、上から第(N−1)番目のビットの「+1」又は「0」の回数をカウントすることにより、Nビットの量子化分解能を有するADC340がNビットの量子化分解能によって量子化できているか否かを判断する。つまり、(N−1)ビットカウンタ5502と正規化部514e2と閾値判断部530e2とは、ゲイン調整部420eが設定したいゲイン設定値より12dB大きなゲイン設定値がVGA330に設定された状態において、熱雑音信号がディザリングされたか否かを判断する。
【0182】
Nビットカウンタ5503は、上から第(N−2)番目のビットの「+1」又は「0」の回数をカウントすることにより、Nビットの量子化分解能を有するADC340が(N−1)ビットの量子化分解能によって量子化できているか否かを判断する。つまり、(N−2)ビットカウンタ5503と正規化部514e3と閾値判断部530e3とは、ゲイン調整部420eが設定したいゲイン設定値より18dB大きなゲイン設定値がVGA330に設定された状態において、熱雑音信号がディザリングされたか否かを判断する。
【0183】
同様に、(N−k+1)ビットカウンタ550kは、上から第(N−k+1)番目のビットの「+1」又は「0」の回数をカウントすることにより、Nビットの量子化分解能を有するADC340が(N−k+2)ビットの量子化分解能によって量子化できているか否かを判断する。つまり、(N−k+1)ビットカウンタ550kと正規化部514ekと閾値判断部530ekとは、ゲイン調整部420eが設定したいゲイン設定値より6×k[dB]大きなゲイン設定値がVGA330に設定された状態において、熱雑音信号がディザリングされたか否かを判断する。
【0184】
ゲイン調整部420eは、判断部410eの判断結果として、Nビットカウンタ5501〜(N−k+1)ビットカウンタ550kに対応する各閾値判断部530e1〜530ekのうちいずれかの閾値判断部(例えば閾値判断部530ek)が熱雑音信号のディザリングが成功したと判断した場合に、VGA330に設定するゲイン設定値を6×k[dB]を設定する。
【0185】
以上により、本実施形態のレーダ装置100eは、Nビットカウンタと正規化部と閾値判断部とをk個含む判断部410eにおいて、入力された量子化データに対し、上から第N番目〜第(N−k+1)番目のビットの「+1」又は「0」である回数のカウント結果を用いて、熱雑音信号がディザリングされたと判断した閾値判断部に応じて、VGA330に設定するゲイン設定値を設定する。
【0186】
これにより、レーダ装置100eは、第1の実施形態のレーダ装置100と同様の効果が得られ、更に、第1の実施形態のレーダ装置100に比べて、VGA330に設定されるゲイン設定値を求めるための試行回数(例えば
図9に示すステップS13〜ステップS15の各処理の処理回数)を一層削減できる。
【0187】
より具体的には、第1の実施形態のレーダ装置100は、ステップS13において比較部530において第1正規化部514の正規化出力と第2正規化部524の正規化出力との差分が閾値未満である場合には、熱雑音信号をディザリングさせるためのゲイン設定値が設定されていないとして、VGA330に設定されるゲイン設定値に所定のゲイン増加値を加算して、熱雑音信号をディザリングさせるためのゲイン設定値が設定されるまで、ゲイン設定値の探索を繰り返す。
【0188】
ところが、本実施形態のレーダ装置100eは、判断部410eが1度に合計k回のゲイン設定値を探索するので、VGA330に設定するゲイン設定値を探索するための試行回数をk分の1に削減できる。
【0189】
(第7の実施形態)
第7の実施形態のレーダ装置100fと第1の実施形態のレーダ装置100との違いは、判断部の構成及び動作とゲイン調整部の動作である。このため、本実施形態では、レーダ装置100fとレーダ装置100との構成及び動作の説明において、同一の内容の説明は簡略化又は省略し、異なる内容について説明する。例えば、判断部410fの構成及び動作とゲイン調整部420fの動作の説明において、判断部410の構成及び動作とゲイン調整部420と異なる内容について説明する。
【0190】
図16は、第7の実施形態のレーダ装置100fの判断部410fの詳細な内部構成を示すブロック図である。
図16に示す判断部410fは、飽和検出部560と、第1(N−1)ビット変換部510と、第2(N−1)ビット変換部520と、第1コヒーレント加算部512と、第2コヒーレント加算部522と、第1正規化部514と、第2正規化部524と、比較部530とを有する。Nビットの量子化分解能を有するADC340の量子化出力は、飽和検出部560を介して、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520に入力される。
【0191】
図17は、ADC340の量子化分解能がNビットであって熱雑音信号以外にバースト信号が入力された場合の、第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520の各出力の一例とディザリングの成否結果とを示す説明図である。
図17では、レーダ装置100fに熱雑音信号とバースト信号とが入力されており、バースト信号は飽和していない状態である。
【0192】
図17に示す第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力は、センター電圧Vc、即ち、熱雑音信号がレーダ装置100fに入力されている状態における中心電圧に対し、バースト信号の成分(Vb−Vc)が加算された値Vbになる。なお、
図17において、ビットの値が小さい程、電力値は大きくなる。
【0193】
言い換えると、第1(N−1)ビット変換部510のコヒーレント加算結果の正規化出力は、(100+98+100+100+100)/5=498/5=99.6(〜Vb)となり、第2(N−1)ビット変換部520のコヒーレント加算結果の正規化出力は、(99+99+101+99+101)/5=499/5=99.8(〜Vb)となる。
【0194】
従って、比較部530は、第1正規化部514の出力と第2正規化部524との出力との差分を求めるので、飽和していないバースト信号が検出された場合でも、第1正規化部514の出力と第2正規化部524との出力との差分の絶対値(=0.2)が所定の閾値(=0.5)より小さいと判断した場合には、レーダ装置100fに入力された熱雑音信号のディザリングが成功したと判断し、判断結果をゲイン調整部420に出力する。即ち、比較部530は、レーダ装置100に入力された熱雑音信号はディザリングが成功し、熱雑音信号を(N+1)ビットの量子化分解能によって量子化できるためのゲイン設定値がVGA330に設定されていると判断できる。
【0195】
ところが、レーダ装置100fに入力されたバースト信号が飽和していると、飽和しているバースト信号の影響により、判断部401fにおける判断結果の精度が劣化する。
図18に、バースト信号が飽和している第1(N−1)ビット変換部510及び第2(N−1)ビット変換部520の出力を示す。Vbは飽和しているため、ビット変換後の電力値が最大の値として、0、1、2のいずれかに変換される。
図18は、ADCの分解能がNビットであって入力されたバースト信号が飽和している場合の、第1(N−1)ビット変換部及び第2(N−1)ビット変換部の各出力の一例とディザリングの成否結果とを示す説明図である。
【0196】
第1(N−1)ビット変換部510では、検出されたバースト信号は、全て1となり、第2(N−1)ビット変換部520では、0また2となる。比較部530は、差分の絶対値が0.8となるため、所定の閾値0.5より大きいため、ディザリングは失敗したと判断する。
このため、レーダ装置100fは、熱雑音信号以外に入力された外部信号(例えばバースト信号)が飽和しているか否かを検出し、入力された外部信号が飽和している場合には、判断部410fにおける判断処理を停止させる。
【0197】
飽和検出部560は、入力された量子化出力データが飽和しているか否か、即ち、入力された量子化出力データがADC340のダイナミックレンジ内を超えているか否かを検出する。飽和検出部560は、入力された量子化出力データが飽和していることを検出した場合には、例えば入力された量子化出力データの飽和を検出したことを制御部CNTに通知する。制御部CNTは、飽和検出部560からの通知に応じて、判断部410fに入力された量子化出力データの飽和が検出されなくなるまで、判断部410fにおける熱雑音信号のディザリングの成否の判断処理を停止させる。
【0198】
なお、飽和検出部560は、入力された量子化出力データが飽和していることを検出した場合に、入力された量子化出力データの飽和を検出したことを示す飽和フラグをメモリ(不図示)に一時的に記憶しても良い。制御部CNTは、レーダ送信信号LTXの送信を停止している間、常時又は定期的にメモリに飽和フラグが記憶されていないか確認する。制御部CNTは、メモリに飽和フラグが記憶されていることを検出した場合には、判断部410fに入力された量子化出力データの飽和が検出されなくなるまで、判断部410fにおける熱雑音信号のディザリングの成否の判断処理を停止させる。
【0199】
以上により、本実施形態のレーダ装置100fは、レーダ送信信号LTXの送信が停止している間に、熱雑音信号以外に入力された量子化出力データ(例えばバースト信号の成分)が飽和しているか否か、即ち、入力された量子化出力データがADC340のダイナミックレンジ内を超えているか否かを検出する。レーダ装置100fは、熱雑音信号以外に入力された外部信号(例えばバースト信号)が飽和しているか否かを検出し、入力された外部信号が飽和している場合には、判断部410fにおける判断処理を停止させる。
【0200】
これにより、レーダ装置100fは、第1の実施形態のレーダ装置100の効果が得られ、更に、他のレーダ装置から送信される外部信号(例えばバースト信号)が飽和しているか否かの検出結果に応じて、判断部410fにおける判断処理の実行又は停止を制御できる。即ち、レーダ装置100fは、他のレーダ装置から送信される外部信号の影響を受けずに、レーダ送信信号LTXの送信の停止中に入力される熱雑音信号のディザリングの成否によってVGA330に設定するゲイン設定値を調整できる。
【0201】
以上、図面を参照して各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0202】
また、上述した各実施形態では、本開示はハードウェアで構成する場合を例にとって説明したが、本開示はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。