【実施例】
【0031】
(実施例1)
実施例1の絶縁電線について、
図1を用いて説明する。
図1に示すように、本例の絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周に押出被覆された電気絶縁性の絶縁体3とを有している。導体2は、NiめっきまたはNi合金めっきが施されている。
【0032】
本例では、具体的には、導体2は、Niめっきが施された複数の素線20が撚り合わされてなる撚り線から構成されている。素線20は、軟銅線である。なお、撚り線は、複数の素線20が撚り合わされた後、導体断面が円形状となるように圧縮されたものを示している。
【0033】
絶縁電線1において、絶縁体3は、繰り返し単位内にスルホニル基を有するスルホニル基含有樹脂を少なくとも含有する樹脂組成物より構成されている。本例では、スルホニル基含有樹脂は、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、および、ポリフェニルサルホンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0034】
以下、構成の異なる絶縁電線の試料を複数作製し、各種評価を行った。その実験例について説明する。
【0035】
(実験例)
<材料準備>
絶縁体を構成する樹脂組成物の材料として、以下のものを準備した。
−スルホニル基含有樹脂−
・ポリサルホン(PSU)(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製、「ユーデルP−1700NT」)
・ポリエーテルサルホン(PES)(住友化学社製、「スミカエクセル4100G」)
・ポリフェニルサルホン(PPSU)(BASF社製、「ウルトラゾーンP3010」)
−芳香族ポリエステル−
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)(ポリプラスチックス社製、「ジュラネックス800FP」)
・ポリブチレンナフタレート(PBN)(帝人化成社製、「TQB−OT」)
・ポリエチレンナフタレート(PEN)(帝人化成社製、「テオネックスTN−8065S」)
−ポリエステル系エラストマー−
・ポリエステル系エラストマー(1)(東レ・デュポン社製、「ハイトレル5557」)
・ポリエステル系エラストマー(2)(東レ・デュポン社製、「ハイトレル7277」)
・ポリエステル系エラストマー(3)(東洋紡社製、「ペルプレンEN−2034」)
【0036】
<絶縁電線の作製>
後述の各表に示される所定の配合割合にて、上記準備した各材料を二軸混練機により混練し、各樹脂組成物を調製した。この際、ヘッド付近の樹脂組成物の温度が、押出成形に最適な温度となるように混練を行った。なお、本例では、押出成形時の温度は約270℃〜320℃程度である。次いで、混練した各樹脂組成物を、押出成形機を用いて導体の外周に押出被覆し、各絶縁体を形成した。押出成形では、直径が、それぞれ1.1mmのダイス、0.75mmのニップルを使用した。導体には、各表に示される所定のめっきが施された7本の軟銅線が撚り合されてなる撚り線、あるいは、めっきが施されていない7本の軟銅線が撚り合されてなる撚り線を用いた。導体断面積は0.35mm
2である。また、絶縁体の厚みは0.2mmである。これにより、試料1〜32の絶縁電線を作製した。
【0037】
<押出被覆後の導体観察>
得られた絶縁電線の絶縁体から導体を抜き取り、押出被覆後の導体の外観を観察した。絶縁体の押出被覆時における高温の成形温度により導体のめっきが溶融したことによるめっきの剥がれや素線間の溶着が観察された場合を不合格として「C」とした。これらの現象が観察されなかった場合を合格として「A」とした。
【0038】
<高温油中に浸漬後の導体観察>
得られた絶縁電線の絶縁体から導体を抜き取った。次いで、抜き取った導体を、120℃で1000時間、ATF(日産純正 ATF:NS−3)に浸漬させた後、導体表面を観察した。導体表面が腐食により著しく変色した場合を不合格として「C」とした。導体表面が変色せず、腐食しなかった場合を合格として「A」とした。
【0039】
<高温耐油性>
得られた絶縁電線を、120℃で所定時間、ATF(日産純正 ATF:NS−3)に浸漬させた。次いで、電線径と同じ径を有するマンドレルに上記絶縁電線を巻き付け、その状態にて絶縁電線に1kVを1分間印加するという耐電圧試験を行った。1000時間以上2000時間未満の浸漬条件で絶縁破壊せず、耐電圧試験に耐えることができた場合を合格として「A」とした。2000時間以上の浸漬条件で絶縁破壊せず、耐電圧試験に耐えることができた場合を合格として「A+」とした。1000時間未満の浸漬条件で絶縁破壊し、耐電圧試験に耐えることができなかった場合を不合格として「C」とした。
【0040】
<耐摩耗性>
ISO6722に準拠し、ブレード往復法により、得られた絶縁電線の耐摩耗性を評価した。すなわち、各試料の絶縁電線から長さ600mmの試験片を採取した。次いで、23℃の環境下、軸方向に15mm以上の長さ、毎分60回の速さにて、試験片の絶縁体表面上でブレードを往復させた。この際、ブレードにかかる荷重は7Nとした。そして、ブレードが導体に接するまでの往復回数を測定した。各試験片あたりの試験回数は4回である。試験回数4回で測定されたブレードの往復回数の最小値が200回以上500回未満であった場合を合格として「A」とした。上記最小値が500回以上であった場合を合格として「A+」とした。上記最小値が200回未満であった場合を不合格として「C」とした。
【0041】
表1〜表4に、各絶縁電線の絶縁体に用いた樹脂組成物の配合(質量部)、導体に施されためっきの種類、各評価結果をまとめて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
表1〜表4によれば、次のことがわかる。すなわち、試料30の絶縁電線は、導体のめっき種が電気Snめっきである。そのため、絶縁体の押出被覆時における高温の成形温度によって導体のSnめっきが溶融し、その結果、めっきの剥がれや素線間の溶着が生じた。
【0047】
試料31の絶縁電線は、導体のめっき種が無電解Snめっきである。そのため、試料30と同様の結果であった。
【0048】
試料32の絶縁電線は、導体にめっきが施されていない。そのため、導体の耐腐食性が低下し、高温油中で導体表面が変色し、腐食が発生した。
【0049】
これらに対し、試料1〜試料29の絶縁電線は、導体の外周に押出被覆された絶縁体が、繰り返し単位内にスルホニル基を有するスルホニル基含有樹脂を少なくとも含有する樹脂組成物より構成されている。スルホニル基含有樹脂は、良好な高温耐油性、耐摩耗性を有している。そのため、試料1〜試料29の絶縁電線は、絶縁体の高温耐油性および耐摩耗性が良好であった。
【0050】
特に、スルホニル基含有樹脂がポリフェニルサルホンを含んでいる場合には、絶縁体の高温耐油性をさらに向上可能なことがわかる。また、樹脂組成物が芳香族ポリエステルをさらに含有する場合には、絶縁体の高温耐油性、耐摩耗性をさらに向上させやすくなることがわかる。また、樹脂組成物中に、芳香族ポリエステルとともにポリエステル系エラストマーが配合されている場合には、絶縁体の物性低下を抑制しつつ、絶縁体の伸びを向上させることができた。これは、スルホニル基含有樹脂とポリエステル系エラストマーとの相溶性が改善されたためである。
【0051】
また、試料1〜試料29の絶縁電線のうち、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部中におけるスルホニル基含有樹脂と芳香族ポリエステルとの質量比が99:1〜60:40の範囲内であるものは、絶縁体の優れた高温耐油性、耐摩耗性が確保されやすいことが確認された。
【0052】
また、試料1〜試料29の絶縁電線のうち、樹脂組成物が芳香族ポリエステルおよびポリエステル系エラストマーの双方をさらに含有し、かつ、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部中におけるポリエステル系エラストマーの含有量が50質量部以下のものは、絶縁体の高温耐油性、耐摩耗性が確保されやすいことが確認された。また、絶縁体の伸びも向上させることが可能であった。
【0053】
また、試料1〜試料29の絶縁電線は、Niめっきが施された導体を用いている。そのため、絶縁体の押出被覆時における成形温度が比較的高くても、その際の高温の成形温度によって導体に施されためっきが溶融し難く、めっきの剥がれや素線間の溶着が生じ難かった。また、試料1〜試料29の絶縁電線は、導体に施されたNiめっきが溶融し難いため、高温油に曝されても導体が腐食し難かった。
【0054】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。