【解決手段】モールド樹脂部4は、基部41と複数の可撓性を有する分岐部42とを有する。基部41は、端子付電線200における芯線21と端子3との接続部を覆う部分を含む。複数の分岐部42は、それぞれ絶縁被覆22の表面に沿うとともに絶縁被覆22の周方向において間隔を空けて並ぶ状態で基部41から分岐して形成されている。
前記モールド樹脂部の前記分岐部各々は、前記基部に連なる根元部側からその反対の先端部側へ幅が先細りに形成されている、請求項1または請求項2に記載の樹脂成形端子付電線。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される端子付電線は、電線の端部と端子とが接続された部分において防水性が求められる場合がある。この場合、例えば、端子における電線との接続部から電線の絶縁被覆の部分までに亘る止水領域を密封する樹脂成形部であるモールド樹脂部が設けられる。モールド樹脂部は、モールドコネクタなどとも称される。
【0003】
モールド樹脂部は、端子付電線の止水領域をインサート部としてインサート成形された合成樹脂の部材である。そして、モールド樹脂部は、端子付電線の接続相手となる機器を収容する筐体の枠部に嵌め入れられる。これにより、モールド樹脂部は、端子付電線と筐体との間の隙間を埋める。
【0004】
モールド樹脂部は、電線と端子との接続部への液体の浸入を防ぎ、さらに、端子付電線と機器を収容する筐体の枠部との隙間から筐体内への液体の浸入を防ぐ。以下の説明において、インサート成形によりモールド樹脂部が形成された端子付電線のことを樹脂成形端子付電線と称する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
端子付電線に形成されたモールド樹脂部は、筐体の枠部に嵌め入れられた状態で端子付電線を一定の位置で保持する電線保持部材でもある。そのため、モールド樹脂部は、端子付電線の保持に必要な硬さの部材である必要がある。
【0007】
ところで、樹脂成形端子付電線が、振動などによって頻繁に電線が曲がる、または電線が大きな曲率で曲がるなどの厳しい曲げ条件の下で使用される場合がある。この場合、電線の絶縁被覆が、硬いモールド樹脂部における一端の内縁部と接触する部分において応力が集中することによって損傷しやすくなる。
【0008】
例えば、端子付電線の電線において、厳しい曲げ条件に対応するためにより柔らかく薄い絶縁被覆が採用された場合に、電線の損傷が懸念される。
【0009】
一方、モールド樹脂部が、電線の絶縁被覆に接する内縁部を形成する柔らかな合成樹脂の部分と、その他の硬い合成樹脂の部分とを有する場合、電線の絶縁被覆に応力集中が生じにくい。しかしながら、いわゆる二色成形によって2種類の合成樹脂を成形するよりも簡易にモールド樹脂部を成形できることが望ましい。
【0010】
本発明は、端子付電線の保持に必要な硬さを有しながら電線への応力集中を回避できるモールド樹脂部を簡易に成形できる樹脂成形端子付電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1態様に係る樹脂成形端子付電線は、端子付電線とモールド樹脂部とを備えている。上記端子付電線は、絶縁電線および上記絶縁電線の芯線の端部に接続された端子を有している。上記モールド樹脂部は、上記端子付電線の一部をインサート部とするインサート成形により形成された部材である。上記モールド樹脂部は、基部と複数の可撓性を有する分岐部とを有している。上記基部は、上記端子付電線における上記芯線と上記端子との接続部を覆う部分を含む。複数の上記分岐部は、それぞれ上記絶縁電線の絶縁被覆の表面に沿うとともに上記絶縁被覆の周方向において間隔を空けて並ぶ状態で上記基部から分岐して形成されている。
【0012】
第2態様に係る樹脂成形端子付電線は、第1態様に係る樹脂成形端子付電線の一態様である。第2態様に係る樹脂成形端子付電線において、上記モールド樹脂部の上記分岐部各々は、当該分岐部を横断して形成され隣接する部分よりも厚みの小さな横断薄肉部を含む。
【0013】
第3態様に係る樹脂成形端子付電線は、第1態様または第2態様に係る樹脂成形端子付電線の一態様である。第3態様に係る樹脂成形端子付電線において、上記モールド樹脂部の上記分岐部各々は、上記基部に連なる根元部側からその反対の先端部側へ幅が先細りに形成されている。
【発明の効果】
【0014】
上記の各態様において、モールド樹脂部における複数の分岐部が、絶縁電線における絶縁被覆の表面に沿うとともに絶縁被覆の周方向において間隔を空けて並ぶ状態で基部から分岐して形成されている。
【0015】
上記の各態様によれば、硬い基部と可撓性を有する複数の分岐部とを、同じ合成樹脂材料を用いた1回のインサート成形によって一体に成形することができる。
【0016】
例えば、基部が比較的大きな厚みで1つの塊状に形成されることにより、端子付電線の保持に必要な基部の硬さを確保できる。
【0017】
一方、絶縁被覆の表面に沿う分岐部各々が、絶縁電線の長手方向に沿う細い形状に形成されることにより、絶縁電線の曲げ変形に追随して撓みやすい分岐部を形成することができる。分岐部各々が絶縁電線の曲げに追随して撓めば、絶縁電線における絶縁被覆の局所への応力集中を回避できる。
【0018】
従って、上記の各態様によれば、端子付電線の保持に必要な硬さを有しながら絶縁電線の絶縁被覆への応力集中を回避できるモールド樹脂部を簡易に成形できる樹脂成形端子付電線を提供することが可能となる。
【0019】
また、第2態様において、分岐部各々は、隣接する部分よりも厚みの小さな横断薄肉部において撓みやすい。これにより、硬い基部と同じ材料を用いてより撓みやすい分岐部を成形することができる。
【0020】
また、第3態様において、分岐部各々は、基部に連なる根元部側からその反対の先端部側へ幅が先細りに形成されている。この場合、分岐部は、根元部側の部分よりも先端部側の部分の方がより大きく撓みやすい。
【0021】
従って、分岐部によって外側面が支えられた絶縁電線は、曲げ方向の外力を受けた場合に、基部によって固定された部位からそれより離れた部位へ徐々に大きく変形する。これにより、分岐部から絶縁電線の絶縁被覆へ加わる応力が、分岐部の根元部から先端部に亘る広範囲に分散される。その結果、絶縁電線の絶縁被覆への応力集中をより確実に回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付の図面を参照しながら、実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。以下に示される各実施形態に係る樹脂成形端子付電線は、自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスまたはその構成部品である。
【0024】
<第1実施形態>
まず、
図1〜4を参照しつつ、第1実施形態に係る樹脂成形端子付電線1について説明する。
図1が示すように、樹脂成形端子付電線1は、端子付電線200とモールド樹脂部4とを備えている。
【0025】
図3,4が示すように、端子付電線200は、絶縁電線2および絶縁電線2の端部に接続された端子3を有している。絶縁電線2は、線状の導体である芯線21とその芯線21の周囲を覆う絶縁被覆22とを有している。芯線21は、例えば銅またはアルミニウムを主成分とする金属の線材である。絶縁被覆22は、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンまたはシリコン系樹脂などの合成樹脂の被覆である。
【0026】
端子3は、絶縁電線2における芯線21の端部に接続されている。端子3は、例えば銅を主成分とする金属の基材とその表面に形成された錫などの金属のメッキとを有する板材で構成されている。
【0027】
端子3は、端子付電線200の接続先に接続可能な接点部31と、芯線21に接続された芯線接続部32とを有している。
図1〜4が示す例では、接点部31は、ネジなどの固定部材が通される貫通孔310が形成された平板状の部分である。
【0028】
また、
図1〜4が示す例では、芯線21の端部は、端子3の芯線接続部32に対して超音波溶接などの溶接によって接続されている。しかしながら、端子3の芯線接続部32が、芯線21の端部に対して圧着されていることも考えられる。
【0029】
以下の説明において、端子付電線200における芯線21と芯線接続部32とが接続された部分のことを芯線−端子接続部201と称する。なお、本実施形態における端子3は、平板状の端子であるが、端子3が、折り曲げ加工が施された板材で構成されていることも考えられる。
【0030】
モールド樹脂部4は、端子付電線200の一部をインサート部とするインサート成形により形成された部材である。モールド樹脂部4は、基部41と、それぞれ可撓性を有する複数の分岐部42とを有している。
【0031】
モールド樹脂部4は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラートまたはポリアミドなどの合成樹脂の成形部材である。基部41の材料と分岐部42各々の材料とは同じである。
【0032】
基部41は、芯線−端子接続部201を覆う一塊の形状であることによって硬質な部分となっている。一方、分岐部42各々は、基部41から分岐して基部41よりも細く形成されていることによって可撓性を有する部分となっている。
【0033】
図1には、外力が加わることによって曲がる絶縁電線2と、絶縁電線2の曲げ変形に追随して撓む分岐部42とが、仮想線(二点鎖線)で描かれている。
【0034】
基部41は、端子付電線200における芯線−端子接続部201を覆う部分を含む。基部41は、モールド樹脂部4における端子3の接点部31側の端から中間位置までの部分である。より具体的には、基部41は、端子付電線200における接点部31と芯線接続部32との間の部分から絶縁被覆22の端部までに亘って形成されている。
【0035】
本実施形態においては、基部41は、間隔を空けて並列に並ぶ複数の端子付電線200における全ての芯線−端子接続部201を一括して覆っている。モールド樹脂部4は、並列に並ぶ複数の端子付電線200の両端部または一方の端部に形成される。
【0036】
基部41は、端子3の接続相手となる機器を収容する筐体の枠部に嵌め入れ可能な部分である。基部41は、筐体の枠部に嵌め入れられることにより、端子付電線200と筐体との間の隙間を埋める。
【0037】
一方、複数の分岐部42は、基部41から分岐して形成されている。分岐部42各々は、モールド樹脂部4における端子3の接点部31側に対して反対側の端から中間位置までの部分である。
【0038】
分岐部42各々は、絶縁被覆22の表面に沿うとともに絶縁被覆22の周方向において間隔を空けて並ぶ状態で形成されている。即ち、1本の絶縁電線2ごとに、その絶縁電線2の絶縁被覆22の部分の外周面に沿う複数の分岐部42が形成されている。
【0039】
図1,2が示す例では、1本の絶縁電線2ごとに4つの分岐部42が、絶縁被覆22の全周方向を4等分する位置各々に、即ち、周方向における90度のピッチで形成されている。
【0040】
また、本実施形態のモールド樹脂部4において、分岐部42各々は、基部41に連なる根元部421側からその反対の先端部422側へ幅が先細りに形成されている。
【0041】
さらに、本実施形態のモールド樹脂部4において、分岐部42各々は、当該分岐部42を横断して形成された1つ以上の横断薄肉部423を含む。分岐部42各々において、横断薄肉部423は、隣接する部分よりも厚みの小さな部分である。
図1,2が示す例では、分岐部42各々には、3つの横断薄肉部423が形成されている。
【0042】
<効果>
樹脂成形端子付電線1が採用されれば、硬い基部41と可撓性を有する複数の分岐部42とを、同じ合成樹脂材料を用いた1回のインサート成形によって一体に成形することができる。
【0043】
例えば、基部41が比較的大きな厚みで1つの塊状に形成されることにより、端子付電線200の保持に必要な基部41の硬さを確保できる。
【0044】
一方、絶縁被覆22の表面に沿う分岐部42各々が、絶縁電線2の長手方向に沿う細長い形状に形成されることにより、絶縁電線2の曲げ変形に追随して撓みやすい分岐部42を形成することができる。
【0045】
分岐部42各々が絶縁電線2の曲げに追随して撓めば、絶縁電線2における絶縁被覆22の局所への応力集中を回避できる。
【0046】
従って、樹脂成形端子付電線1が採用されれば、端子付電線200の保持に必要な硬さを有しながら絶縁電線2の絶縁被覆22への応力集中を回避できるモールド樹脂部4を簡易に成形できる。
【0047】
また、モールド樹脂部4において、分岐部42各々は、隣接する部分よりも厚みの小さな横断薄肉部423において撓みやすい。これにより、硬い基部41と同じ材料を用いてより撓みやすい分岐部42を成形することができる。
【0048】
また、分岐部42各々は、根元部421側から先端部422側へ幅が先細りに形成されている。この場合、分岐部42は、根元部421側の部分よりも先端部422側の部分の方がより大きく撓みやすい。
【0049】
従って、分岐部42によって外側面が支えられた絶縁電線2は、曲げ方向の外力を受けた場合に、基部41によって固定された部位からそれより離れた部位へ徐々に大きく変形する。これにより、分岐部42から絶縁被覆22へ加わる応力が、分岐部42の根元部421から先端部422に亘る広範囲に分散される。その結果、絶縁電線2の絶縁被覆22への応力集中をより確実に回避できる。
【0050】
<第2実施形態>
次に、
図5,6を参照しつつ、第2実施形態に係る樹脂成形端子付電線1Aについて説明する。樹脂成形端子付電線1Aは、
図1,2が示す樹脂成形端子付電線1Aと比較して、モールド樹脂部における分岐部各々の形状が異なる。
【0051】
図5は樹脂成形端子付電線1Aの側面図である。
図6は樹脂成形端子付電線1Aの平面図である。
図5,6において、
図1〜4に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、樹脂成形端子付電線1Aにおける樹脂成形端子付電線1と異なる点について説明する。
【0052】
樹脂成形端子付電線1Aは、端子付電線200とその一部を覆うモールド樹脂部4Aとを有している。モールド樹脂部4Aも、モールド樹脂部4と同様にインサート成形により形成された部材である。モールド樹脂部4Aは、基部41と、それぞれ可撓性を有する複数の分岐部42Aとを有している。
【0053】
複数の分岐部42Aは、基部41から分岐して形成されている。分岐部42A各々は、絶縁被覆22の表面に沿うとともに絶縁被覆22の周方向において間隔を空けて並ぶ状態で形成されている。
【0054】
モールド樹脂部4Aにおいて、分岐部42A各々は、基部41に連なる根元部421側からその反対の先端部422側へ幅が先細りに形成されている。この点は、モールド樹脂部4の分岐部42と同様である。
【0055】
モールド樹脂部4Aにおいて、分岐部42A各々は、根元部421から先端部422側から先端部422側へ厚みが徐々に小さくなる形状で形成されており、横断薄肉部423を含まない。この点は、モールド樹脂部4の分岐部42と異なっている。
【0056】
モールド樹脂部4Aの分岐部42Aも、モールド樹脂部4の分岐部42と同様に、根元部421側の部分よりも先端部422側の部分の方がより大きく撓みやすい。
【0057】
樹脂成形端子付電線1Aが採用される場合も、樹脂成形端子付電線1が採用される場合と同様の効果が得られる。
【0058】
<応用例>
樹脂成形端子付電線1,1Aにおいて、モールド樹脂部4,4Aは、3本の端子付電線200における全ての芯線−端子接続部201を一括して覆っている。しかしながら、樹脂成形端子付電線1,1Aに含まれる端子付電線200が1本であることも考えられる。この場合、モールド樹脂部4,4Aは、1本の端子付電線200における芯線−端子接続部201を覆う形状に成形される。
【0059】
また、樹脂成形端子付電線1,1Aにおいて、モールド樹脂部4,4Aが、2本の端子付電線200または4本以上の端子付電線200における全ての芯線−端子接続部201を一括して覆う形状に成形されることも考えられる。
【0060】
また、樹脂成形端子付電線1,1Aにおいて、絶縁電線2の絶縁被覆22の外周面に接着剤の層が形成されていることが考えられる。この接着剤の層は、絶縁被覆22におけるモールド樹脂部4,4Aの基部41で覆われる端部の外周面に、その全周方向に亘って形成される。
【0061】
接着剤の層は、絶縁被覆22の外周面とモールド樹脂部4,4Aの基部41の内側面との間に隙間が生じることを防ぐ。
【0062】
なお、本発明に係る樹脂成形端子付電線は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態および応用例を自由に組み合わせること、或いは各実施形態および応用例を適宜、変形するまたは一部を省略することによって構成されることも可能である。