【実施例】
【0036】
以下、実施例の撚り線導体および絶縁電線について、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0037】
(実施例1)
実施例1の撚り線導体および絶縁電線について、
図1および
図2を用いて説明する。
図1および
図2に示すように、本例の撚り線導体1は、複数本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1導体部2を有している。第1導体素線20は、円形状の断面を有する素線本体部201と、素線本体部201の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部202とを有している。以下、これを詳説する。
【0038】
本例において、第1導体素線20は、突出部202を複数有しており、素線本体部201の周方向に各突出部202が等間隔で配置されている。より具体的には、第1導体素線20は、突出部202を4つ有している。各突出部202は、素線本体部201の周方向を4等分した位置にそれぞれ配置されている。なお、突出部202の断面は、半円状とされている。
【0039】
また、素線本体部201の直径Rに対する突出部202の突出高さhの比率は、2〜12%の範囲内とされている。素線本体部201の直径Rは、具体的には、0.32mmであり、本例の撚り線導体1は、自動車用電線に好適に用いられる。また、第1導体素線20は、アルミニウム合金からなる。
【0040】
撚り線導体1は、具体的には、第1導体部2を構成する19本の第1導体素線20から構成されている。より具体的には、第1導体部2は、撚り線導体1の中心に配置された1本の第1導体素線20と、この中心の第1導体素線20の外周に6本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1層210と、この第1層210の外周に12本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第2層220とを有している。なお、本例において、複数の第1導体素線20は、いずれも同一のものである。
【0041】
一方、本例の絶縁電線(不図示)は、上記撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体(不図示)とを有している。本例において、絶縁体は、具体的には、塩化ビニル樹脂より構成されている。
【0042】
次に、本例の撚り線導体、絶縁電線の作用効果について説明する。
【0043】
本例の撚り線導体1は、複数本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1導体部2を有しており、第1導体素線20は、円形状の断面を有する素線本体部201と、この素線本体部201の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部202とを有している。
【0044】
そのため、撚り線導体1に端子がかしめられた場合に、突出部202により、隣接する第1導体素線20同士の間で引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、第1導体素線20の材質が比較的硬い場合であっても、撚り線導体1の外周面に近い外側の第1導体素線20ばかりではなく、内側の第1導体素線20も塑性変形しやすくなる。それ故、撚り線導体1に引張荷重がかかった場合に、内側の第1導体素線の滑りが抑制され、端子から第1導体素線20が抜け難くなり、端子保持力が向上する。
【0045】
よって、撚り線導体1によれば、第1導体素線20の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができる。
【0046】
また、本例では、第1導体素線20が突出部202を複数有しており、各突出部202は、素線本体部201の周方向に等間隔で配置されている。そのため、上記作用効果が一層向上する。さらに、第1導体素線20の表面のひずみが大きくなるので、各第1導体素線20がより大きく変形しやすくなる。そのため、第1導体素線20の表面に形成された酸化被膜が壊れやすく、各第1導体素線20同士の電気的接触が得られやすくなる。それ故、撚り線導体1の電気接続特性が安定化しやすい。
【0047】
また、第1導体素線20は、突出部202を2〜9つの範囲内、具体的には4つ有しているので、端子保持力の向上効果を確実なものとすることができる。また、上述した電気接続特性をより安定化させやすい。また、第1導体素線20は、素線本体部201の直径Rに対する突出部202の突出高さhの比率が、2〜12%の範囲内とされているので、これによっても端子保持力の向上効果、電気接続特性の安定化を図ることができる。
【0048】
また、撚り線導体1は、第1導体素線20がアルミニウム合金より構成されている。アルミニウム合金は、表面に硬い酸化被膜を有している。しかし、撚り線導体1は、第1導体素線20における素線本体部201の周表面に突出部202を有しているため、端子でかしめられた場合に、第1導体素線20の表面のひずみが大きくなる。そのため、かしめ力によって各第1導体素線20がより大きく変形しやすく、これによりアルミニウム合金からなる第1導体素線20表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなる。その結果、各第1導体素線20同士の電気的接触が十分に得られる。したがって、第1導体素線20がアルミニウム合金より構成されている場合でも、電気接続特性を安定化させやすい。
【0049】
また、アルミニウム合金は、銅または銅合金に比べ、軽量であるので、撚り線導体1の軽量化を図ることができる。さらに、端子の圧着部に特殊なセレーションが形成されていない場合でも、圧着部のかしめ時に酸化被膜が確実に破壊される。そのため、銅または銅合金からなる導体素線が撚り合わされてなる撚り線導体に適用される端子と共通の端子を用いることが可能となる。
【0050】
一方、本例の絶縁電線は、撚り線導体1と、この撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体とを有している。
【0051】
よって、本例の絶縁電線によれば、電線端末部の絶縁体が剥ぎ取られ、露出した撚り線導体1に端子がかしめられた際に、上述した第1導体素線20の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができる。また、上述したように第1導体素線20がアルミニウム合金より構成されている場合でも、アルミニウム合金からなる第1導体素線20表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなり、各第1導体素線20同士の電気的接触が十分に得られる。そのため、本例の絶縁電線は、電気接続特性を安定化させやすい。
【0052】
(実施例2)
実施例2の撚り線導体1は、
図3に示すように、第1導体部2の外周に複数本の第2導体素線30が撚り合わされてなる第2導体層3を有している点で、実施例1の撚り線導体1と大きく異なっている。なお、第2導体素線30は、第1導体素線20と同じアルミニウム合金からなる。
【0053】
本例の撚り線導体1において、第1導体部2は、具体的には、撚り線導体1の中心に配置された1本の第1導体素線20と、この中心の第1導体素線20の外周に6本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1層210とを有している。また、第2導体層3を構成する第2導体素線30の断面形状は、台形状とされている。つまり、本例では、第2導体素線30の断面形状は、第1導体素線20の断面形状と異なる形状とされている。
【0054】
第2導体層3は、より具体的には、台形の上底および下底のうち、短い方が内方、長い方が外方になるように第1導体部2の外周に12本の第2導体素線30が撚り合されて構成されている。なお、上記台形の断面形状の大きさは、隣接する台形間にほとんど空隙が生じないような大きさとされている。本例では、撚り線導体1は、具体的には、第1導体素線20と第2導体素線30とを合計で19本有している。その他の構成は、実施例1の撚り線導体1と同様である。
【0055】
本例の撚り線導体1は、第1導体部2の外周に第2導体層3を有している。そして、第2導体層3を構成する第2導体素線30の断面形状は、台形状とされている。そのため、隣り合う第2導体素線30同士の間にほとんど空隙がない状態で撚り線導体1の周方向に第2導体素線30が配置される。それ故、本例の撚り線導体1は、
図3に示されるように、撚り線導体1の断面の外形がより一層円に近い形状になりやすい。そのため、本例の撚り線導体1は、絶縁電線に適用したときに絶縁体の厚みを薄肉化する上で有利である。その他の作用効果は、実施例1の撚り線導体1と同様である。
【0056】
一方、本例の絶縁電線(不図示)は、上記撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体(不図示)とを有している。その他の構成は、実施例1の絶縁電線と同様である。本例の絶縁電線も、実施例1の絶縁電線と同様の作用効果が得られる。
【0057】
(実施例3)
実施例3の撚り線導体1は、
図4に示すように、第2導体層3を構成する第2導体素線30の断面形状が円形状とされている点で、実施例2の撚り線導体1と相違している。なお、第2導体素線30の直径は、0.32mmである。その他の構成は、実施例2の撚り線導体1と同様である。
【0058】
本例の撚り線導体1は、実施例2の撚り線導体1ほどではないものの、実施例1の撚り線導体1に比べ、撚り線導体1の断面形状が円に近い形状になりやすい。その他の作用効果は、実施例2の撚り線導体1と同様である。
【0059】
一方、本例の絶縁電線(不図示)は、上記撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体(不図示)とを有している。その他の構成は、実施例2の絶縁電線と同様である。本例の絶縁電線も、実施例2の絶縁電線と同様の作用効果が得られる。
【0060】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
【0061】
−撚り線導体の作製−
表1に示すように、直径0.32mmの円形状の断面を有する素線本体部と、表1に示した数の突出部とを有する第1導体素線を
図2に示すように19本撚り合わせることにより、試料1〜試料5の撚り線導体を作製した。なお、第1導体素線は、いずれも純度99.7%のアルミニウムにFeおよびMgを添加して引張強さを120MPaとしたアルミニウム合金からなる。また、試料1〜試料5において、第1導体素線の各突出部は、いずれも素線本体部の周方向に等間隔で配置されている。また、素線本体部の直径に対する突出部の突出高さの比率は、いずれも10%である。
【0062】
次に、表1に示すように、直径0.32mmの円形状の断面を有する素線本体部と、4つの突出部とを有する第1導体素線を
図2に示すように19本撚り合わせることにより、試料6〜試料9の撚り線導体を作製した。なお、第1導体素線は、いずれも純度99.7%のアルミニウムにFeおよびMgを添加して引張強さを120MPaとしたアルミニウム合金からなる。また、試料6〜試料9において、第1導体素線の4つの突出部は、素線本体部の周方向に等間隔で配置されている。また、試料6〜試料9において、素線本体部の直径に対する突出部の突出高さの比率は、表1に示される通りである。
【0063】
なお、比較のため、突出部を有さず、円形状の断面を有する素線本体部からなる導体素線を用いた点以外は同様にして、比較試料の撚り線導体を作製した。
【0064】
−絶縁電線の作製−
試料1〜試料9、比較試料の撚り線導体の外周に、それぞれ塩化ビニル樹脂を押し出し被覆することにより、試料W1〜試料W9、比較試料Wの絶縁電線を作製した。
【0065】
−端子保持力および電気接続性−
各絶縁電線に端子を圧着し、端子を固定した状態で絶縁電線を引っ張った際の端子保持力と、端子と絶縁電線との接触部における電気抵抗(電気接続性)とを評価した。なお、端子の圧着は、圧着前の撚り線導体の断面積を100とした場合に、圧着後の撚り線導体の断面積が約60程度となるように行った。
【0066】
上記評価において、第1導体素線の滑りがなく、端子保持力が60N以上であった場合を「A」、第1導体素線の滑りがほとんどなく、端子保持力が50N以上60N未満であった場合を「B」、第1導体素線の滑りが発生し、端子保持力が50N未満であった場合を「C」とした。また、接触部における電気抵抗が1mΩ以下であった場合を「A」、接触部における電気抵抗が1mΩ超3mΩ以下であった場合を「B」、接触部における電気抵抗が3mΩ以上であった場合を「C」とした。
【0067】
表1に、作製した各撚り線導体、各絶縁電線の詳細構成、評価結果をまとめて示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1によれば、以下のことがわかる。すなわち、比較試料の撚り線導体は、導体素線が突出部を有していない。そのため、比較試料Wの絶縁電線は、撚り線導体に端子がかしめられた後、撚り線導体に引張荷重がかかると、内側の導体素線が滑り、端子から導体素線が抜け、端子保持力が低下した。また、比較試料Wの撚り線導体は、内側の導体素線が塑性変形し難かったため、アルミニウム合金からなる導体素線表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れ難く、電気抵抗が高くなった。そのため、比較試料Wの絶縁電線は、電気接続性が悪かった。
【0070】
これらに対し、試料1〜試料9の撚り線導体は、第1導体素線が突出部を有している。そのため、試料W1〜試料W9の絶縁電線は、撚り線導体に端子がかしめられた後、撚り線導体に引張荷重がかかった場合でも、内側の第1導体素線の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができた。また、試料W1〜試料9Wの絶縁電線は、電気抵抗が低く、良好な電気接続性を有していた。これは、試料1〜試料9の撚り線導体は、複数の突出部により、第1導体素線の表面のひずみが大きくなり、第1導体素線がより大きく変形しやすかったため、アルミニウム合金からなる第1導体素線の表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなり、各第1導体素線同士の電気的接触が十分に得られたためである。
【0071】
また、第1導体素線が突出部を2〜9つ有する場合、および、素線本体部の直径に対する突出部の突出高さの比率が2〜12%の範囲内にある場合には、ともに、端子保持力の向上効果を確実なものとすることができ、電気接続特性をより安定化させやすくなることが確認された。
【0072】
なお、突出部を9つ有する場合および突出高さの比率が12%の場合には、突出部の高さが、設計した形状よりも1割以上小さく作製される傾向が見られた。したがって、製造性の向上などの観点から、突出部は、好ましくは8つ以下とするのがよいといえる。また、同様の観点から、上記突出高さの比率は、好ましくは12%未満とするのがよいといえる。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。