特開2015-141854(P2015-141854A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-141854(P2015-141854A)
(43)【公開日】2015年8月3日
(54)【発明の名称】撚り線導体および絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/08 20060101AFI20150707BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20150707BHJP
【FI】
   H01B5/08
   H01B7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-15081(P2014-15081)
(22)【出願日】2014年1月30日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今里 文敏
(72)【発明者】
【氏名】大塚 保之
(72)【発明者】
【氏名】田口 欣司
(72)【発明者】
【氏名】山田 健介
【テーマコード(参考)】
5G307
5G309
【Fターム(参考)】
5G307EA02
5G307EA08
5G307EE03
5G307EF10
5G309LA03
(57)【要約】
【課題】導体素線の滑りが抑制され、端子保持力を向上可能な撚り線導体、また、これを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】撚り線導体1は、複数本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1導体部2を有している。第1導体素線20は、円形状の断面を有する素線本体部201と、素線本体部201の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部202とを有している。絶縁電線は、撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体とを有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の第1導体素線が撚り合わされてなる第1導体部を有しており、
上記第1導体素線は、円形状の断面を有する素線本体部と、該素線本体部の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部とを有していることを特徴とする撚り線導体。
【請求項2】
上記突出部を複数有しており、上記素線本体部の周方向に各突出部が等間隔で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の撚り線導体。
【請求項3】
上記突出部を2〜9つ有していることを特徴とする請求項2に記載の撚り線導体。
【請求項4】
上記素線本体部の直径に対する上記突出部の突出高さの比率は、2〜12%の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の撚り線導体。
【請求項5】
上記素線本体部の直径は、0.1〜0.5mmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の撚り線導体。
【請求項6】
上記第1導体部の外周に複数本の第2導体素線が撚り合わされてなる第2導体層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撚り線導体。
【請求項7】
上記第2導体素線の断面形状は、台形状または円形状であることを特徴とする請求項6に記載の撚り線導体。
【請求項8】
上記第1導体素線を19本以上有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の撚り線導体。
【請求項9】
上記第1導体素線と上記第2導体素線とを合計で19本以上有することを特徴とする請求項6または7に記載の撚り線導体。
【請求項10】
上記第1導体素線は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の撚り線導体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の撚り線導体と、該撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有することを特徴とする絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚り線導体および絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の分野において、複数本の導体素線を撚り合わせてなる撚り線導体と、撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有する絶縁電線が知られている。導体素線の材質としては、導電性に優れた銅が広く使用されている。最近では、絶縁電線の軽量化を図るため、銅よりも軽量なアルミニウムが使用されるようになっている。上記絶縁電線は、通常、電線端末部の絶縁体が剥ぎ取られ、露出した撚り線導体に端子の圧着部が圧着される。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム合金からなる導体素線を複数本撚り合わせてなる撚り線導体を有する絶縁電線の電線端末部に、セレーションが形成された圧着部を有する端子を圧着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5316914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術は、以下の点で問題がある。すなわち、自動車等の車両に搭載される絶縁電線は、振動や屈曲が加えられる部位へ配策される機会が多い。この場合、撚り線導体の疲労強度を向上させるため、導体素線を構成する金属材料の強度を向上させる手法がとられることがある。このような手法がとられた場合、導体素線は、延性が小さくなるので、硬くなる傾向がある。その結果、撚り線導体に端子がかしめられた際に、導体素線の変形が不均一となり、撚り線導体の外周面に近い外側の導体素線ばかりが変形し、外側の導体素線よりも内側にある導体素線は、塑性変形し難い。そのため、撚り線導体に端子がかしめられた後、撚り線導体に引張荷重がかかると、内側の導体素線が滑り、端子から導体素線が抜け、端子保持力が低下するという問題が生じる。この問題は、導体素線の本数が多くなるほど大きくなる。
【0006】
なお、圧着部の表面にセレーションが形成されている場合でも、導体素線の材質が硬くなれば、上述した滑り現象が生じる。そのため、端子側の工夫だけでは限界がある。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、導体素線の滑りが抑制され、端子保持力を向上可能な撚り線導体、また、これを用いた絶縁電線を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、複数本の第1導体素線が撚り合わされてなる第1導体部を有しており、
上記第1導体素線は、円形状の断面を有する素線本体部と、該素線本体部の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部とを有していることを特徴とする撚り線導体にある。
【0009】
本発明の他の態様は、上記撚り線導体と、該撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有することを特徴とする絶縁電線にある。
【発明の効果】
【0010】
上記撚り線導体は、複数本の第1導体素線が撚り合わされてなる第1導体部を有しており、第1導体素線は、円形状の断面を有する素線本体部と、この素線本体部の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部とを有している。
【0011】
そのため、上記撚り線導体に端子がかしめられた場合に、上記突出部により、隣接する第1導体素線同士の間で引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、第1導体素線の材質が比較的硬い場合であっても、撚り線導体の外周面に近い外側の第1導体素線ばかりではなく、内側の第1導体素線も塑性変形しやすくなる。それ故、撚り線導体に引張荷重がかかった場合に、内側の第1導体素線の滑りが抑制され、端子から第1導体素線が抜け難くなり、端子保持力が向上する。
【0012】
よって、上記撚り線導体によれば、第1導体素線の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができる。
【0013】
また、上記絶縁電線は、上記撚り線導体と、この撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有している。
【0014】
よって、上記絶縁電線によれば、電線端末部の絶縁体が剥ぎ取られ、露出した撚り線導体に端子がかしめられた際に、上述した第1導体素線の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の撚り線導体が有する第1導体素線の外観斜視図である。
図2】実施例1の撚り線導体の断面図である。
図3】実施例2の撚り線導体の断面図である。
図4】実施例3の撚り線導体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記撚り線導体は、複数本の第1導体素線が撚り合わされてなる第1導体部を有している。第1導体部は、素線本体部と、突出部とを有している。
【0017】
ここで、素線本体部は、円形状の断面を有している。なお、上記断面は、素線軸方向に垂直な断面をいう。また、上記円形状とは、真円のみならず、実質的に真円と認められる、真円と同等の形状を有する範囲までを含む意味である。厳密に真円に製造するのは難易度が高いし、また、真円と同等の形状を有している場合でも、上述した作用効果が得られるためである。
【0018】
突出部は、素線本体部の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びている。つまり、突出部は、素線本体部の周表面に素線軸方向に沿って線状に突出している。したがって、第1導体素線は、断面で見た場合に、円形状の素線本体部の円周部から径外方に突出部の断面を構成する突起部が突出した断面形状とされている。このような第1導体素線は、伸線加工時のダイス穴の形状を第1導体素線の断面の外形と同じ形状とすることにより製造することができる。上記撚り線導体は、従来の導体素線の伸線工程で使用されていた真円形状のダイス穴を有するダイスを、上記のような断面形状のダイス穴を有するダイスに変更するだけで形成することができるため、製造工程を増加させずに済む利点がある。
【0019】
なお、第1導体部は、断面で見た場合に、複数本の第1導体素線が同心円状に配置されて構成されていてもよいし、複数本の第1導体素線がランダムに集合されて構成されていてもよい。
【0020】
上記撚り線導体において、第1導体素線は、突出部を1つまたは複数有することができる。第1導体素線は、好ましくは、突出部を複数有しているとよい。この場合には、撚り線導体に端子がかしめられた場合に、複数の突出部により、隣接する第1導体素線同士の間でより一層引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、内側の第1導体素線がより変形しやすくなり、内側の第1導体素線の滑りがより一層抑制されやすくなる。それ故、端子保持力がより一層向上する。また、第1導体素線の表面のひずみが大きくなるので、各第1導体素線がより大きく変形しやすくなる。そのため、第1導体素線の表面に形成された酸化被膜が壊れやすく、各第1導体素線同士の電気的接触が得られやすくなる。それ故、撚り線導体の電気接続特性が安定化しやすい。
【0021】
第1導体素線が突出部を複数有している場合、各突出部は、素線本体部の周方向に等間隔で配置されているとよい。この場合には、上記作用効果が得られやすくなる。
【0022】
第1導体素線は、具体的には、突出部を2〜9つ有する構成とすることができる。この場合には、端子保持力の向上効果を確実なものとすることができる。また、上述した電気接続特性をより安定化させやすくなる。突出部は、端子保持力の向上、かしめ時に第1導体素線の表面におけるひずみが増大するなどの観点から、好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上とすることができる。また、突出部は、製造性の向上、隣接する突出部間の隙間を確保するなどの観点から、好ましくは8つ以下、より好ましくは6つ以下とすることができる。
【0023】
素線本体部の直径に対する突出部の突出高さの比率は、具体的には、2〜12%の範囲内とすることができる。この場合には、端子保持力の向上効果を確実なものとすることができる。また、上述した電気接続特性をより安定化させやすくなる。突出部は、端子保持力の向上、かしめ時に第1導体素線の表面におけるひずみが増大するなどの観点から、好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上とすることができる。また、突出部は、製造性の向上、隣接する突出部間の隙間を確保するなどの観点から、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下とすることができる。
【0024】
素線本体部の直径は、具体的には、0.1〜0.5mmの範囲内とすることができる。この場合には、自動車用電線に用いて好適な撚り線導体が得られる。素線本体部の直径は、好ましくは、0.15〜0.45mmの範囲内にあるとよい。
【0025】
上記撚り線導体は、上記作用効果が得られる範囲内であれば、第1導体素線以外にも他の導体素線を有することができる。
【0026】
例えば、上記撚り線導体は、第1導体部の外周に複数本の第2導体素線が撚り合わされてなる第2導体層を有することができる。この場合には、第2導体層を構成する第2導体素線の断面形状を適切な形状に調整することにより、第1導体部の断面の外形に現れる表面凹凸を減少させ、撚り線導体の断面の外形を円に近い形状とすることが可能になる。そのため、外周に絶縁体をより一層被覆しやすい撚り線導体を得やすくなる。
【0027】
第2導体素線の断面形状は、第1導体素線の断面形状と異なる形状を有する構成とすることが好ましい。具体的には、第2導体素線の断面形状は、台形状または円形状とすることができる。この場合には、撚り線導体の断面の外形が一層円に近い形状になりやすい。そのため、絶縁電線に適用したときに絶縁体の厚みを薄肉化しやすくなる。
【0028】
第2導体素線の断面形状が台形状である場合、より具体的には、第2導体層は、上記台形の上底および下底のうち、短い方が内方、長い方が外方になるように第1導体部の外周に複数本の第2導体素線が撚り合わされている構成とすることができる。この場合には、隣り合う第2導体素線同士の間にほとんど空隙がない状態で撚り線導体の周方向に第2導体素線が配置される。そのため、撚り線導体の断面の外形がより一層円に近い形状になりやすい。そのため、絶縁電線に適用したときに絶縁体の厚みを薄肉化する上で有利である。
【0029】
上記撚り線導体が第1導体素線のみから構成されている場合、上記撚り線導体は、第1導体素線を19本以上有する構成とすることができる。この場合には、第1導体素線を上述した断面形状としたことによる作用効果を十分に発揮することができる。なお、この場合、絶縁電線のサイズアップ抑制、製造のしやすさなどの観点から、上記撚り線導体は、第1導体素線を61本以下有する構成とすることができる。
【0030】
上記撚り線導体が第1導体素線と第2導体素線とから構成されている場合、上記撚り線導体は、第1導体素線と第2導体素線とを合計で19本以上有する構成とすることができる。この場合には、第1導体素線を上述した断面形状としたことによる作用効果を十分に発揮することができる。なお、この場合、絶縁電線のサイズアップ抑制、製造のしやすさなどの観点から、上記撚り線導体は、第1導体素線と第2導体素線とを合計で61本以下有する構成とすることができる。
【0031】
第1導体素線は、具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などより構成することができる。好ましくは、第1導体素線は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されているとよい。アルミニウムまたはアルミニウム合金は、表面に硬い酸化被膜を有している。しかし、上記撚り線導体は、第1導体素線における素線本体部の周表面に突出部を有しているため、端子でかしめられた場合に、第1導体素線の表面のひずみが大きくなる。そのため、かしめ力によって各第1導体素線がより大きく変形しやすく、これによりアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第1導体素線表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなり、各第1導体素線同士の電気的接触が十分に得られる。したがって、第1導体素線がアルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されている場合でも、電気接続特性を安定化させやすい。
【0032】
また、アルミニウムまたはアルミニウム合金は、銅または銅合金に比べ、軽量であるので、上記撚り線導体の軽量化を図ることができる。さらに、端子の圧着部に特殊なセレーションが形成されていない場合でも、圧着部のかしめ時に酸化被膜が確実に破壊される。そのため、銅または銅合金からなる導体素線が撚り合わされてなる撚り線導体に適用される端子と共通の端子を用いることが可能となる。
【0033】
第2導体層を有する場合、第2導体素線は、具体的には、異種金属間の腐食が生じ難いなどの観点から、第1導体素線と同じ材質であることが好ましい。第2導体素線は、より具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などより構成することができる。好ましくは、第2導体素線は、軽量化、上記作用効果が十分に発揮されるなどの観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されているとよい。
【0034】
上記絶縁電線は、上記撚り線導体の外周に絶縁体を有している。絶縁体としては、電気絶縁性を有する各種の樹脂やゴム(エラストマー含む)を用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。絶縁体としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホンなどを例示することができる。絶縁体は、1層から構成されていてもよいし、2層以上から構成されていてもよい。なお、絶縁体には、一般的に電線に利用される各種の添加剤が1種または2種以上含有されていてもよい。上記添加剤としては、具体的には、充填剤、難燃剤、酸化防止剤、老化防止剤、滑剤、可塑剤、銅害防止剤、顔料などを例示することができる。
【0035】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例の撚り線導体および絶縁電線について、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0037】
(実施例1)
実施例1の撚り線導体および絶縁電線について、図1および図2を用いて説明する。図1および図2に示すように、本例の撚り線導体1は、複数本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1導体部2を有している。第1導体素線20は、円形状の断面を有する素線本体部201と、素線本体部201の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部202とを有している。以下、これを詳説する。
【0038】
本例において、第1導体素線20は、突出部202を複数有しており、素線本体部201の周方向に各突出部202が等間隔で配置されている。より具体的には、第1導体素線20は、突出部202を4つ有している。各突出部202は、素線本体部201の周方向を4等分した位置にそれぞれ配置されている。なお、突出部202の断面は、半円状とされている。
【0039】
また、素線本体部201の直径Rに対する突出部202の突出高さhの比率は、2〜12%の範囲内とされている。素線本体部201の直径Rは、具体的には、0.32mmであり、本例の撚り線導体1は、自動車用電線に好適に用いられる。また、第1導体素線20は、アルミニウム合金からなる。
【0040】
撚り線導体1は、具体的には、第1導体部2を構成する19本の第1導体素線20から構成されている。より具体的には、第1導体部2は、撚り線導体1の中心に配置された1本の第1導体素線20と、この中心の第1導体素線20の外周に6本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1層210と、この第1層210の外周に12本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第2層220とを有している。なお、本例において、複数の第1導体素線20は、いずれも同一のものである。
【0041】
一方、本例の絶縁電線(不図示)は、上記撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体(不図示)とを有している。本例において、絶縁体は、具体的には、塩化ビニル樹脂より構成されている。
【0042】
次に、本例の撚り線導体、絶縁電線の作用効果について説明する。
【0043】
本例の撚り線導体1は、複数本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1導体部2を有しており、第1導体素線20は、円形状の断面を有する素線本体部201と、この素線本体部201の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部202とを有している。
【0044】
そのため、撚り線導体1に端子がかしめられた場合に、突出部202により、隣接する第1導体素線20同士の間で引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、第1導体素線20の材質が比較的硬い場合であっても、撚り線導体1の外周面に近い外側の第1導体素線20ばかりではなく、内側の第1導体素線20も塑性変形しやすくなる。それ故、撚り線導体1に引張荷重がかかった場合に、内側の第1導体素線の滑りが抑制され、端子から第1導体素線20が抜け難くなり、端子保持力が向上する。
【0045】
よって、撚り線導体1によれば、第1導体素線20の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができる。
【0046】
また、本例では、第1導体素線20が突出部202を複数有しており、各突出部202は、素線本体部201の周方向に等間隔で配置されている。そのため、上記作用効果が一層向上する。さらに、第1導体素線20の表面のひずみが大きくなるので、各第1導体素線20がより大きく変形しやすくなる。そのため、第1導体素線20の表面に形成された酸化被膜が壊れやすく、各第1導体素線20同士の電気的接触が得られやすくなる。それ故、撚り線導体1の電気接続特性が安定化しやすい。
【0047】
また、第1導体素線20は、突出部202を2〜9つの範囲内、具体的には4つ有しているので、端子保持力の向上効果を確実なものとすることができる。また、上述した電気接続特性をより安定化させやすい。また、第1導体素線20は、素線本体部201の直径Rに対する突出部202の突出高さhの比率が、2〜12%の範囲内とされているので、これによっても端子保持力の向上効果、電気接続特性の安定化を図ることができる。
【0048】
また、撚り線導体1は、第1導体素線20がアルミニウム合金より構成されている。アルミニウム合金は、表面に硬い酸化被膜を有している。しかし、撚り線導体1は、第1導体素線20における素線本体部201の周表面に突出部202を有しているため、端子でかしめられた場合に、第1導体素線20の表面のひずみが大きくなる。そのため、かしめ力によって各第1導体素線20がより大きく変形しやすく、これによりアルミニウム合金からなる第1導体素線20表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなる。その結果、各第1導体素線20同士の電気的接触が十分に得られる。したがって、第1導体素線20がアルミニウム合金より構成されている場合でも、電気接続特性を安定化させやすい。
【0049】
また、アルミニウム合金は、銅または銅合金に比べ、軽量であるので、撚り線導体1の軽量化を図ることができる。さらに、端子の圧着部に特殊なセレーションが形成されていない場合でも、圧着部のかしめ時に酸化被膜が確実に破壊される。そのため、銅または銅合金からなる導体素線が撚り合わされてなる撚り線導体に適用される端子と共通の端子を用いることが可能となる。
【0050】
一方、本例の絶縁電線は、撚り線導体1と、この撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体とを有している。
【0051】
よって、本例の絶縁電線によれば、電線端末部の絶縁体が剥ぎ取られ、露出した撚り線導体1に端子がかしめられた際に、上述した第1導体素線20の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができる。また、上述したように第1導体素線20がアルミニウム合金より構成されている場合でも、アルミニウム合金からなる第1導体素線20表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなり、各第1導体素線20同士の電気的接触が十分に得られる。そのため、本例の絶縁電線は、電気接続特性を安定化させやすい。
【0052】
(実施例2)
実施例2の撚り線導体1は、図3に示すように、第1導体部2の外周に複数本の第2導体素線30が撚り合わされてなる第2導体層3を有している点で、実施例1の撚り線導体1と大きく異なっている。なお、第2導体素線30は、第1導体素線20と同じアルミニウム合金からなる。
【0053】
本例の撚り線導体1において、第1導体部2は、具体的には、撚り線導体1の中心に配置された1本の第1導体素線20と、この中心の第1導体素線20の外周に6本の第1導体素線20が撚り合わされてなる第1層210とを有している。また、第2導体層3を構成する第2導体素線30の断面形状は、台形状とされている。つまり、本例では、第2導体素線30の断面形状は、第1導体素線20の断面形状と異なる形状とされている。
【0054】
第2導体層3は、より具体的には、台形の上底および下底のうち、短い方が内方、長い方が外方になるように第1導体部2の外周に12本の第2導体素線30が撚り合されて構成されている。なお、上記台形の断面形状の大きさは、隣接する台形間にほとんど空隙が生じないような大きさとされている。本例では、撚り線導体1は、具体的には、第1導体素線20と第2導体素線30とを合計で19本有している。その他の構成は、実施例1の撚り線導体1と同様である。
【0055】
本例の撚り線導体1は、第1導体部2の外周に第2導体層3を有している。そして、第2導体層3を構成する第2導体素線30の断面形状は、台形状とされている。そのため、隣り合う第2導体素線30同士の間にほとんど空隙がない状態で撚り線導体1の周方向に第2導体素線30が配置される。それ故、本例の撚り線導体1は、図3に示されるように、撚り線導体1の断面の外形がより一層円に近い形状になりやすい。そのため、本例の撚り線導体1は、絶縁電線に適用したときに絶縁体の厚みを薄肉化する上で有利である。その他の作用効果は、実施例1の撚り線導体1と同様である。
【0056】
一方、本例の絶縁電線(不図示)は、上記撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体(不図示)とを有している。その他の構成は、実施例1の絶縁電線と同様である。本例の絶縁電線も、実施例1の絶縁電線と同様の作用効果が得られる。
【0057】
(実施例3)
実施例3の撚り線導体1は、図4に示すように、第2導体層3を構成する第2導体素線30の断面形状が円形状とされている点で、実施例2の撚り線導体1と相違している。なお、第2導体素線30の直径は、0.32mmである。その他の構成は、実施例2の撚り線導体1と同様である。
【0058】
本例の撚り線導体1は、実施例2の撚り線導体1ほどではないものの、実施例1の撚り線導体1に比べ、撚り線導体1の断面形状が円に近い形状になりやすい。その他の作用効果は、実施例2の撚り線導体1と同様である。
【0059】
一方、本例の絶縁電線(不図示)は、上記撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体(不図示)とを有している。その他の構成は、実施例2の絶縁電線と同様である。本例の絶縁電線も、実施例2の絶縁電線と同様の作用効果が得られる。
【0060】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
【0061】
−撚り線導体の作製−
表1に示すように、直径0.32mmの円形状の断面を有する素線本体部と、表1に示した数の突出部とを有する第1導体素線を図2に示すように19本撚り合わせることにより、試料1〜試料5の撚り線導体を作製した。なお、第1導体素線は、いずれも純度99.7%のアルミニウムにFeおよびMgを添加して引張強さを120MPaとしたアルミニウム合金からなる。また、試料1〜試料5において、第1導体素線の各突出部は、いずれも素線本体部の周方向に等間隔で配置されている。また、素線本体部の直径に対する突出部の突出高さの比率は、いずれも10%である。
【0062】
次に、表1に示すように、直径0.32mmの円形状の断面を有する素線本体部と、4つの突出部とを有する第1導体素線を図2に示すように19本撚り合わせることにより、試料6〜試料9の撚り線導体を作製した。なお、第1導体素線は、いずれも純度99.7%のアルミニウムにFeおよびMgを添加して引張強さを120MPaとしたアルミニウム合金からなる。また、試料6〜試料9において、第1導体素線の4つの突出部は、素線本体部の周方向に等間隔で配置されている。また、試料6〜試料9において、素線本体部の直径に対する突出部の突出高さの比率は、表1に示される通りである。
【0063】
なお、比較のため、突出部を有さず、円形状の断面を有する素線本体部からなる導体素線を用いた点以外は同様にして、比較試料の撚り線導体を作製した。
【0064】
−絶縁電線の作製−
試料1〜試料9、比較試料の撚り線導体の外周に、それぞれ塩化ビニル樹脂を押し出し被覆することにより、試料W1〜試料W9、比較試料Wの絶縁電線を作製した。
【0065】
−端子保持力および電気接続性−
各絶縁電線に端子を圧着し、端子を固定した状態で絶縁電線を引っ張った際の端子保持力と、端子と絶縁電線との接触部における電気抵抗(電気接続性)とを評価した。なお、端子の圧着は、圧着前の撚り線導体の断面積を100とした場合に、圧着後の撚り線導体の断面積が約60程度となるように行った。
【0066】
上記評価において、第1導体素線の滑りがなく、端子保持力が60N以上であった場合を「A」、第1導体素線の滑りがほとんどなく、端子保持力が50N以上60N未満であった場合を「B」、第1導体素線の滑りが発生し、端子保持力が50N未満であった場合を「C」とした。また、接触部における電気抵抗が1mΩ以下であった場合を「A」、接触部における電気抵抗が1mΩ超3mΩ以下であった場合を「B」、接触部における電気抵抗が3mΩ以上であった場合を「C」とした。
【0067】
表1に、作製した各撚り線導体、各絶縁電線の詳細構成、評価結果をまとめて示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1によれば、以下のことがわかる。すなわち、比較試料の撚り線導体は、導体素線が突出部を有していない。そのため、比較試料Wの絶縁電線は、撚り線導体に端子がかしめられた後、撚り線導体に引張荷重がかかると、内側の導体素線が滑り、端子から導体素線が抜け、端子保持力が低下した。また、比較試料Wの撚り線導体は、内側の導体素線が塑性変形し難かったため、アルミニウム合金からなる導体素線表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れ難く、電気抵抗が高くなった。そのため、比較試料Wの絶縁電線は、電気接続性が悪かった。
【0070】
これらに対し、試料1〜試料9の撚り線導体は、第1導体素線が突出部を有している。そのため、試料W1〜試料W9の絶縁電線は、撚り線導体に端子がかしめられた後、撚り線導体に引張荷重がかかった場合でも、内側の第1導体素線の滑りが抑制され、端子保持力を向上させることができた。また、試料W1〜試料9Wの絶縁電線は、電気抵抗が低く、良好な電気接続性を有していた。これは、試料1〜試料9の撚り線導体は、複数の突出部により、第1導体素線の表面のひずみが大きくなり、第1導体素線がより大きく変形しやすかったため、アルミニウム合金からなる第1導体素線の表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなり、各第1導体素線同士の電気的接触が十分に得られたためである。
【0071】
また、第1導体素線が突出部を2〜9つ有する場合、および、素線本体部の直径に対する突出部の突出高さの比率が2〜12%の範囲内にある場合には、ともに、端子保持力の向上効果を確実なものとすることができ、電気接続特性をより安定化させやすくなることが確認された。
【0072】
なお、突出部を9つ有する場合および突出高さの比率が12%の場合には、突出部の高さが、設計した形状よりも1割以上小さく作製される傾向が見られた。したがって、製造性の向上などの観点から、突出部は、好ましくは8つ以下とするのがよいといえる。また、同様の観点から、上記突出高さの比率は、好ましくは12%未満とするのがよいといえる。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 撚り線導体
2 第1導体部
20 第1導体素線
201 素線本体部
202 突出部
図1
図2
図3
図4