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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-141856(P2015-141856A)
(43)【公開日】2015年8月3日
(54)【発明の名称】撚り線導体および絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/08 20060101AFI20150707BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20150707BHJP
【FI】
   H01B5/08
   H01B7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-15083(P2014-15083)
(22)【出願日】2014年1月30日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今里 文敏
【テーマコード(参考)】
5G307
5G309
【Fターム(参考)】
5G307EA02
5G307EB06
5G307EF10
5G309RA15
(57)【要約】
【課題】端子保持力を向上させることができ、断面の外形を円形状にすることができる撚り線導体、また、これを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】撚り線導体1は、複数本の第1導体素線21と複数本の第2導体素線22とが混在した状態で撚り合わされている。そして、第1導体素線21の断面形状および第2導体素線22の断面形状は、いずれも非円形状であり、かつ、互いに相似する。絶縁電線は、撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体とを有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の第1導体素線と複数本の第2導体素線とが混在した状態で撚り合わされており、
上記第1導体素線の断面形状および上記第2導体素線の断面形状は、いずれも非円形状であり、かつ、互いに相似することを特徴とする撚り線導体。
【請求項2】
上記第1導体素線および上記第2導体素線は、いずれも、円形状の断面を有する素線本体部と、該素線本体部の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部とを有していることを特徴とする請求項1に記載の撚り線導体。
【請求項3】
上記突出部を複数有しており、上記素線本体部の周方向に各突出部が等間隔で配置されていることを特徴とする請求項2に記載の撚り線導体。
【請求項4】
撚り線導体の中心に配置された1本の第1導体素線と、
該第1導体素線の外周に複数本の第2導体素線が撚り合わされてなる第1層と、
該第1層の外周に、上記第1導体素線と上記第2導体素線とが互いに交互に配置されて撚り合わされてなる第2層とを有しており、
上記第1導体素線の断面積は、上記第2導体素線の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の撚り線導体。
【請求項5】
上記第1導体素線および上記第2導体素線は、いずれもアルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の撚り線導体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の撚り線導体と、該撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有することを特徴とする絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚り線導体および絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の分野において、複数本の導体素線を撚り合わせてなる撚り線導体と、撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有する絶縁電線が知られている。上記撚り線導体の導体素線は、一般的には、真円の断面形状を有していることが多い(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−045510号公報(図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、真円の断面形状を有する複数本の導体素線からなる撚り線導体が端子によりかしめられた場合、導体素線の断面形状が真円であるため、各導体素線に均一にかしめ荷重が加わらず、撚り線導体の外周面に近い外側の導体素線に荷重が集中する。その結果、外側の導体素線が大きく塑性変形するのに対し、外側の導体素線よりも内側にある導体素線は、塑性変形し難い。そのため、撚り線導体に端子がかしめられた後、撚り線導体に引張荷重がかかると、内側の導体素線が滑り、端子から導体素線が抜け、端子保持力が低下するという問題が生じる。
【0005】
上記問題を回避するため、導体素線の断面形状を真円と異なる形状とすることが考えられる。ところが、非円形状の断面を有する導体素線は、撚り線導体の断面の外形が円形状となるように撚り合わせることが難しい。
【0006】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、端子保持力を向上させることができ、断面の外形を円形状にすることができる撚り線導体、また、これを用いた絶縁電線を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数本の第1導体素線と複数本の第2導体素線とが混在した状態で撚り合わされており、
上記第1導体素線の断面形状および上記第2導体素線の断面形状は、いずれも非円形状であり、かつ、互いに相似することを特徴とする撚り線導体にある。
【0008】
本発明の他の態様は、上記撚り線導体と、該撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有することを特徴とする絶縁電線にある。
【発明の効果】
【0009】
上記撚り線導体は、複数本の第1導体素線と複数本の第2導体素線とが混在した状態で撚り合わされている。そして、第1導体素線の断面形状および第2導体素線の断面形状はは、いずれも非円形状である。
【0010】
そのため、上記撚り線導体は、端子がかしめられた場合に、真円の断面形状を有する複数本の導体素線からなる撚り線導体に比べ、隣接する各導体素線同士の間で引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、撚り線導体の外周面に近い外側の各導体素線ばかりではなく、内側の各導体素線も塑性変形しやすくなる。それ故、撚り線導体に引張荷重がかかった場合に、内側の各導体素線の滑りが抑制され、端子から各導体素線が抜け難くなり、端子保持力が向上する。
【0011】
さらに、上記撚り線導体は、第1導体素線の断面形状および第2導体素線の断面形状が互いに相似する。そのため、第1導体素線および第2導体素線のうち、断面積の大きい方が配置されて形成された隙間に、断面積の小さい方が充填される。それ故、撚り線導体の断面の外形が円形状になりやすい。
【0012】
よって、上記撚り線導体によれば、端子保持力を向上させることができ、断面の外形を円形状にすることができる。
【0013】
また、上記絶縁電線は、上記撚り線導体と、この撚り線導体の外周に被覆された絶縁体とを有している。
【0014】
よって、上記絶縁電線は、電線端末部の絶縁体が剥ぎ取られ、露出した撚り線導体に端子がかしめられた際に、端子保持力を向上させることができる。さらに、上記絶縁電線は、撚り線導体の断面の外形が円形状であるため、撚り線導体の外周に被覆される絶縁体の厚みを薄肉化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の撚り線導体が有する第1導体素線および第2導体素線の形態を説明するための説明図である。
図2】実施例1の撚り線導体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記撚り線導体は、複数本の第1導体素線と複数本の第2導体素線とが混在した状態で撚り合わされている。
【0017】
ここで、第1導体素線の断面形状および第2導体素線の断面形状は、いずれも非円形状である。つまり、第1導体素線および第2導体素線は、いずれも円形状とは異なる断面形状を有している。なお、上記断面は、素線軸方向に垂直な断面をいう。
【0018】
また、第1導体素線の断面形状および第2導体素線の断面形状は、互いに相似する。したがって、一方の導体素線の断面形状は、他方の導体素線の断面形状を拡大、または、縮小した形状になっている。
【0019】
第1導体素線および第2導体素線は、具体的には、いずれも、円形状の断面を有する素線本体部と、素線本体部の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部とを有している構成とすることができる。なお、上記円形状とは、真円のみならず、実質的に真円と認められる、真円と同等の形状を有する範囲までを含む意味である。
【0020】
この場合、突出部は、円形状の断面を有する素線本体部の周表面に素線軸方向に沿って線状に突出している。したがって、第1導体素線および第2導体素線は、いずれも、断面で見た場合に、円形状の素線本体部の円周部から径外方に突出部の断面を構成する突起部が突出する非円形状の断面形状となる。そのため、撚り線導体に端子がかしめられた場合に、突出部により、隣接する各導体素線同士の間で引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、撚り線導体の外周面に近い外側の各導体素線ばかりではなく、外側の各導体素線よりも内側にある各導体素線も塑性変形しやすい。それ故、撚り線導体に引張荷重がかかった場合に、内側の各導体素線の滑りが抑制され、端子から各導体素線が抜け難くなる。よって、この場合は、端子保持力が一層向上する。
【0021】
なお、素線本体部と突出部とを有する第1導体素線および第2導体素線は、伸線加工時のダイス穴の形状を各導体素線の断面の外形と同じ形状とすることにより製造することができる。上記撚り線導体は、従来の導体素線の伸線工程で使用されていた真円形状のダイス穴を有するダイスを、上記のような断面形状のダイス穴を有するダイスに変更するだけで形成することができるため、製造工程を増加させずに済む利点がある。
【0022】
第1導体素線および第2導体素線が素線本体部と突出部とを有する場合、各導体素線は、突出部を1つまたは複数有することができる。第1導体素線および第2導体素線は、好ましくは、突出部を複数有しているとよい。この場合には、撚り線導体に端子がかしめられた場合に、複数の突出部により、隣接する各導体素線同士の間でより一層引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、内側の各導体素線がより変形しやすくなり、内側の各導体素線の滑りがより一層抑制されやすくなる。それ故、端子保持力がより一層向上する。また、各導体素線の表面のひずみが大きくなるので、各導体素線がより大きく変形しやすくなる。そのため、各導体素線の表面に形成された酸化被膜が壊れやすく、各導体素線同士の電気的接触が得られやすくなる。それ故、撚り線導体の電気接続特性が安定化しやすい。
【0023】
第1導体素線および第2導体素線が突出部を複数有している場合、各突出部は、素線本体部の周方向に等間隔で配置されているとよい。この場合には、上記作用効果が得られやすくなる。
【0024】
第1導体素線および第2導体素線は、具体的には、突出部を2〜9つ有する構成とすることができる。この場合には、端子保持力の向上効果を確実なものとすることができる。また、上述した電気接続特性をより安定化させやすくなる。突出部は、端子保持力の向上、かしめ時に各導体素線の表面におけるひずみが増大するなどの観点から、好ましくは3つ以上、より好ましくは4つ以上とすることができる。また、突出部は、製造性の向上、隣接する突出部間の隙間を確保するなどの観点から、好ましくは8つ以下、より好ましくは6つ以下とすることができる。
【0025】
上記撚り線導体は、具体的には、撚り線導体の中心に配置された1本の第1導体素線と、この第1導体素線の外周に複数本の第2導体素線が撚り合わされてなる第1層と、この第1層の外周に、第1導体素線と第2導体素線とが互いに交互に配置されて撚り合わされてなる第2層とを有しており、第1導体素線の断面積が、第2導体素線の断面積よりも大きい構成とすることができる。
【0026】
この場合には、撚り線導体の中心に配置された1本の第1導体素線を中心として同心円状に第1層、第2層を配置しやすくなる。また、太径の第1導体素線同士の間に形成される隙間が、細径の第2導体素線によって充填されやすい。そのため、撚り線導体の断面の外形をより一層円形状にしやすくなる。それ故、この場合には、絶縁体の厚みをより一層薄肉化しやすくなる。また、絶縁電線の電線径のサイズアップも抑制しやすくなる。
【0027】
第1導体素線における素線本体部の直径は、具体的には、好ましくは、0.2〜0.5mmの範囲内、より好ましくは、0.32〜0.42mmの範囲内とすることができる。また、第2導体素線における素線本体部の直径は、具体的には、好ましくは、0.1〜0.25mmの範囲内、より好ましくは、0.16〜0.21mmの範囲内とすることができる。この場合には、自動車用電線に用いて好適な撚り線導体が得られる。
【0028】
上記撚り線導体は、第1導体素線と第2導体素線とを合計で19本以上有する構成とすることができる。この場合には、第1導体素線と第2導体素線とを上述した断面形状としたことによる作用効果を十分に発揮することができる。なお、この場合、絶縁電線のサイズアップ抑制、製造のしやすさなどの観点から、上記撚り線導体は、第1導体素線と第2導体素線とを合計で61本以下有する構成とすることができる。
【0029】
第1導体素線および第2導体素線は、具体的には、いずれも、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などより構成することができる。好ましくは、第1導体素線および第2導体素線は、いずれも、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されているとよい。アルミニウムまたはアルミニウム合金は、銅または銅合金に比べ、軽量であるので、撚り線導体の軽量化を図ることができる。また、第1導体素線および第2導体素線が素線本体部と突出部とを有する場合に、以下の利点がある。
【0030】
すなわち、アルミニウムまたはアルミニウム合金は、表面に硬い酸化被膜を有している。しかし、素線本体部の周表面に突出部を有している場合には、端子でかしめられた際に、各導体素線の表面のひずみが大きくなる。そのため、かしめ力によって各導体素線がより大きく変形しやすく、これにより各導体素線表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなる。その結果、各導体素線同士の電気的接触が十分に得られる。したがって、各導体素線がアルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されている場合でも、撚り線導体の電気接続特性が安定化しやすい。
【0031】
上記絶縁電線は、上記撚り線導体の外周に絶縁体を有している。絶縁体としては、電気絶縁性を有する各種の樹脂やゴム(エラストマー含む)を用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。絶縁体としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホンなどを例示することができる。絶縁体は、1層から構成されていてもよいし、2層以上から構成されていてもよい。なお、絶縁体には、一般的に電線に利用される各種の添加剤が1種または2種以上含有されていてもよい。上記添加剤としては、具体的には、充填剤、難燃剤、酸化防止剤、老化防止剤、滑剤、可塑剤、銅害防止剤、顔料などを例示することができる。
【0032】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例の撚り線導体および絶縁電線について、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0034】
(実施例1)
実施例1の撚り線導体および絶縁電線について、図1および図2を用いて説明する。図1および図2に示すように、本例の撚り線導体1は、複数本の第1導体素線21と複数本の第2導体素線22とが混在した状態で撚り合わされている。第1導体素線21の断面形状および第2導体素線22の断面形状は、いずれも非円形状であり、かつ、互いに相似する。以下、これを詳説する。
【0035】
本例において、第1導体素線21および第2導体素線22は、いずれも、円形状の断面を有する素線本体部201と、素線本体部201の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部202とを有している。第1導体素線21および第2導体素線22は、いずれも突出部202を複数有しており、素線本体部201の周方向に各突出部202が等間隔で配置されている。より具体的には、第1導体素線21および第2導体素線22は、いずれも突出部202を4つ有している。各突出部202は、素線本体部201の周方向を4等分した位置にそれぞれ配置されている。なお、突出部202の断面は、半円状とされている。
【0036】
第1導体素線21は、具体的には、素線本体部201の直径Rが0.32mmであり、素線本体部201の直径Rに対する突出部202の突出高さhの比率は10%である。第2導体素線は、具体的には、素線本体部201の直径Rが0.16mmであり、素線本体部201の直径Rに対する突出部202の突出高さhの比率は10%である。また、第1導体素線21および第2導体素線22は、いずれもアルミニウム合金からなる。
【0037】
撚り線導体1は、具体的には、撚り線導体1の中心に配置された1本の第1導体素線21と、この第1導体素線21の外周に複数本の第2導体素線22が撚り合わされてなる第1層31と、この第1層31の外周に、第1導体素線21と第2導体素線22とが互いに交互に配置されて撚り合わされてなる第2層32とを有している。また、第1導体素線21の断面積は、第2導体素線22の断面積よりも大きい。本例では、第1層31は、6本の第2導体素線22を有している。第2層32は、6本の第1導体素線21と、6本の第2導体素線22とを有している。したがって、本例では、撚り線導体1は、第1導体素線21と第2導体素線22とを合計で19本有している。
【0038】
一方、本例の絶縁電線(不図示)は、撚り線導体1と、撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体(不図示)とを有している。本例において、絶縁体は、具体的には、塩化ビニル樹脂より構成されている。
【0039】
次に、本例の撚り線導体、絶縁電線の作用効果について説明する。
【0040】
本例の撚り線導体1は、複数本の第1導体素線21と複数本の第2導体素線22とが混在した状態で撚り合わされている。そして、第1導体素線21の断面形状および第2導体素線22の断面形状は、いずれも非円形状である。
【0041】
そのため、撚り線導体1は、端子がかしめられた場合に、真円の断面形状を有する複数本の導体素線からなる撚り線導体に比べ、隣接する各導体素線21、22同士の間で引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、撚り線導体1の外周面に近い外側の各導体素線21、22ばかりではなく、内側の各導体素線21、22も塑性変形しやすくなる。それ故、撚り線導体1に引張荷重がかかった場合に、内側の各導体素線21、22の滑りが抑制され、端子から各導体素線21、22が抜け難くなり、端子保持力が向上する。
【0042】
さらに、撚り線導体1は、第1導体素線21の断面形状および第2導体素線22の断面形状が互いに相似する。そのため、第1導体素線21および第2導体素線22のうち、断面積の大きい方が配置されて形成された隙間に、断面積の小さい方が充填される。なお、本例において、上記断面積の大きい方は第1導体素線21であり、上記断面積の小さい方は第2導体素線22である。それ故、撚り線導体1は、撚り線導体1の断面の外形が円形状になりやすい。
【0043】
よって、撚り線導体1によれば、端子保持力を向上させることができ、断面の外形を円形状にすることができる。
【0044】
また、本例では、第1導体素線21および第2導体素線22は、いずれも、円形状の断面を有する素線本体部201と、素線本体部201の周表面から外方に突出するとともに素線軸方向に延びる突出部202とを有している。したがって、第1導体素線21および第2導体素線22は、いずれも、断面で見た場合に、円形状の素線本体部201の円周部から径外方に突出部202の断面を構成する突起部が突出する非円形状の断面形状となる。そのため、撚り線導体1に端子がかしめられた場合に、突出部202により、隣接する各導体素線21、22同士の間で引っ掛かりが生じやすくなる。その結果、撚り線導体1の外周面に近い外側の各導体素線21、22ばかりではなく、外側の各導体素線21、22よりも内側にある各導体素線21、22も塑性変形しやすい。それ故、撚り線導体1に引張荷重がかかった場合に、内側の各導体素線21、22の滑りが抑制され、端子から各導体素線21、22が抜け難くなる。よって、撚り線導体1は、端子保持力が一層向上する。
【0045】
また、本例では、第1導体素線21および第2導体素線22は、突出部202を複数有しており、各突出部202は、素線本体部201の周方向に等間隔で配置されている。そのため、上記作用効果が一層向上する。さらに、各導体素線21、22の表面のひずみが大きくなるので、各導体素線21、22がより大きく変形しやすくなる。そのため、各導体素線21、22の表面に形成された酸化被膜が壊れやすく、各導体素線21、22同士の電気的接触が得られやすくなる。それ故、撚り線導体1の電気接続特性が安定化しやすい。
【0046】
また、本例では、撚り線導体1は、撚り線導体1の中心に配置された1本の第1導体素線21と、この第1導体素線21の外周に複数本の第2導体素線22が撚り合わされてなる第1層31と、この第1層31の外周に、第1導体素線21と第2導体素線22とが互いに交互に配置されて撚り合わされてなる第2層32とを有している。また、第1導体素線21の断面積は、第2導体素線22の断面積よりも大きい。
【0047】
そのため、撚り線導体1は、撚り線導体1の中心に配置された1本の第1導体素線21を中心として同心円状に第1層31、第2層32を配置しやすくなる。また、太径の第1導体素線21同士の間に形成される隙間が、細径の第2導体素線22によって充填されやすい。そのため、撚り線導体1の断面の外形をより一層円形状にしやすくなる。それ故、撚り線導体1は、絶縁体の厚みをより一層薄肉化しやすくなる。また、絶縁電線の電線径のサイズアップも抑制しやすくなる。
【0048】
また、本例では、撚り線導体1は、第1導体素線21および第2導体素線22がアルミニウム合金より構成されている。さらに、上述したように、素線本体部201の周表面には突出部202を有している。したがって、撚り線導体1は、端子でかしめられた際に、各導体素線21、22の表面のひずみが大きくなる。そのため、かしめ力によって各導体素線21、22がより大きく変形しやすく、これにより各導体素線21、22表面に形成されている硬い酸化被膜が壊れやすくなる。その結果、各導体素線21、22同士の電気的接触が十分に得られる。したがって、各導体素線21、22がアルミニウム合金より構成されている場合でも、撚り線導体1の電気接続特性が安定化しやすい。また、アルミニウム合金は、銅または銅合金に比べ、軽量であるので、撚り線導体1の軽量化を図ることができる。
【0049】
一方、本例の絶縁電線は、撚り線導体1と、この撚り線導体1の外周に被覆された絶縁体とを有している。
【0050】
よって、本例の絶縁電線は、電線端末部の絶縁体が剥ぎ取られ、露出した撚り線導体1に端子がかしめられた際に、端子保持力を向上させることができる。さらに、本例の絶縁電線は、撚り線導体1の断面の外形が円形状であるため、撚り線導体1の外周に被覆される絶縁体の厚みを薄肉化することができる。
【0051】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
【0052】
−撚り線導体の作製−
試料1の撚り線導体として、実施例1の撚り線導体に従う撚り線導体を作製した。また、直径0.32mmの真円状の断面を有する導体素線を19本撚り合わせることにより、比較試料1の撚り線導体を作製した。また、実施例1で説明した第1導体素線のみを19本撚り合わせることにより、比較試料2の撚り線導体を作製した。なお、各導体素線は、いずれも純度99.7%のアルミニウムにFeおよびMgを添加して引張強さを120MPaとしたアルミニウム合金からなる。
【0053】
−絶縁電線の作製−
試料1、比較試料1、および、比較試料2の撚り線導体の外周に、それぞれ塩化ビニル樹脂を押し出し被覆することにより、試料W1、比較試料W1、および、比較試料W2の絶縁電線を作製した。
【0054】
−端子保持力および電気接続性−
各絶縁電線に端子を圧着し、端子を固定した状態で絶縁電線を引っ張った際の端子保持力と、端子と絶縁電線との接触部における電気抵抗(電気接続性)とを評価した。なお、端子の圧着は、圧着前の撚り線導体の断面積を100とした場合に、圧着後の撚り線導体の断面積が約60程度となるように行った。
【0055】
上記評価において、導体素線の滑りがなく、端子保持力が60N以上であった場合を「A」、導体素線の滑りがほとんどなく、端子保持力が50N以上60N未満であった場合を「B」、導体素線の滑りが発生し、端子保持力が50N未満であった場合を「C」とした。また、接触部における電気抵抗が1mΩ以下であった場合を「A」、接触部における電気抵抗が1mΩ超3mΩ以下であった場合を「B」、接触部における電気抵抗が3mΩ以上であった場合を「C」とした。
【0056】
上記評価の結果、比較試料W1の絶縁電線は、端子保持力の評価が「C」、接触部における電気抵抗の評価が「C」であった。比較試料W2の絶縁電線は、端子保持力の評価が「A」、接触部における電気抵抗の評価が「A」であった。これらに対し、試料W1の絶縁電線は、端子保持力の評価が「A」、接触部における電気抵抗の評価が「A」であった。
【0057】
−断面観察−
各絶縁電線を、電線軸方向と垂直に切断し、各撚り線導体の断面を観察した。その結果、比較試料W2の絶縁電線が有する比較試料2の撚り線導体は、第1導体素線のみから撚り合わされているので、断面の外形が円形状ではなかった。これに対し、試料W1の絶縁電線が有する試料1の撚り線導体は、図2に示されるように、断面の外形が円形状であり、さらに各導体素線が同心円状に配置されていることが確認された。
【0058】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 撚り線導体
21 第1導体素線
22 第2導体素線
図1
図2