(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-141888(P2015-141888A)
(43)【公開日】2015年8月3日
(54)【発明の名称】アルカリ電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/06 20060101AFI20150707BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20150707BHJP
H01M 6/08 20060101ALI20150707BHJP
【FI】
H01M4/06 U
H01M4/62 C
H01M6/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-16169(P2014-16169)
(22)【出願日】2014年1月30日
(71)【出願人】
【識別番号】503025395
【氏名又は名称】FDKエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀典
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】野上 武男
(72)【発明者】
【氏名】夏目 祐紀
【テーマコード(参考)】
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5H024AA03
5H024AA14
5H024CC02
5H024CC14
5H024EE09
5H024FF07
5H024HH01
5H024HH02
5H024HH13
5H050AA01
5H050AA02
5H050BA04
5H050CA05
5H050CB13
5H050DA03
5H050DA14
5H050EA23
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】放電特性並びに耐衝撃性に優れたアルカリ電池を提供する。
【解決手段】アルカリ電解液、ゲル化剤、及び亜鉛を主成分とする粉末を含むゲル状の負極(ゲル状の負極合剤23)を備えたアルカリ電池1において、上記粉末として粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含むものを用い、上記ゲル化剤としてアルカリ電解液の吸水倍率が37倍以上である吸水樹脂を含むものを用いる。上記アルカリ電解液は、吸水樹脂を0.7〜1.7質量%の範囲で含むものとする。上記ゲル状の負極は、亜鉛を65〜70質量%の範囲で含むものとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電解液、ゲル化剤、及び亜鉛を主成分とする粉末を含むゲル状の負極を備えたアルカリ電池であって、
前記粉末は、粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含み、
前記ゲル化剤は、前記アルカリ電解液の吸水倍率(40質量%水酸化カリウム水溶液の吸水倍率)が37倍以上である吸水樹脂を含む
ことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
前記アルカリ電解液は、前記吸水樹脂を0.7〜1.7質量%の範囲で含む
ことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記ゲル状の負極は、亜鉛を65〜70質量%の範囲で含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載のアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状の負極を備えたアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、デジタルカメラやビデオカメラ、携帯電話機、スマートフォンなどの電子機器の高性能化及び小型化が進んでおり、こうした電子機器の電源として用いられるアルカリ電池に対する放電性能や耐衝撃性に関して性能向上の要求が高まっている。
【0003】
アルカリ電池の性能改善に関し、例えば、特許文献1には、高負荷放電特性や漏液の発生を抑制すべく、亜鉛合金粉末を含む負極と、正極と、負極と正極との間に配されるセパレータと、電解液とを具備した亜鉛アルカリ電池において、上記亜鉛合金粉末として粒径75μm以下の微粉末を20〜50重量%含むものを用いることが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、アルカリ電池の陰極に用いるゲル化剤を改良することにより、アルカリ電池の放電性能や耐衝撃性の向上、アルカリ電解液の高速充填への対応、電解液の充填量のバラツキの抑制、電池内部の圧力の上昇による電解液の流出や電池の破損防止等を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−294424号公報
【特許文献2】特開2006−49306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、特許文献1では、負極材料の亜鉛合金粉末として比表面積の大きな微粉末を用いることにより高負荷放電特性の向上を図っているが、微粉末を用いることで亜鉛粒子同士が接触しにくくなるため耐衝撃性は低下する。また、耐衝撃性の低下を補完すべく、特許文献2のようにゲル化剤(吸水樹脂)を添加すれば亜鉛の流動性が低下して放電性能に影響が生じる。
【0007】
本発明はこうした観点に基づきなされたものであり、アルカリ電池の性能向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一つは、アルカリ電解液、ゲル化剤、及び亜鉛を主成分とする粉末を含むゲル状の負極を備えたアルカリ電池であって、前記粉末は、粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含み、前記ゲル化剤は、前記アルカリ電解液の吸水倍率(40質量%水酸化カリウム水溶液の吸水倍率)が37倍以上である吸水樹脂を含むことを特徴としている。
【0009】
また本発明の他の一つは、上記アルカリ電池であって、前記アルカリ電解液は、前記吸水樹脂を0.7〜1.7質量%の範囲で含むことを特徴としている。
【0010】
また本発明の他の一つは、上記アルカリ電池であって、前記ゲル状の負極は、亜鉛を65〜70質量%の範囲で含むことを特徴としている。
【0011】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アルカリ電池の性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一般的な円筒形アルカリ電池の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明の適用の対象となる一般的な円筒形アルカリ電池(LR6型(単三形)アルカリ電池)の構成(以下、アルカリ電池1と称する。)を例示している。尚、同図ではアルカリ電池1を縦断面図(円筒軸の延長方向を上下(縦)方向としたときの断面図)として示している。
【0015】
同図に示すように、アルカリ電池1は、有底筒状の金属製の電池缶(以下、正極缶11と称する。)、正極缶11に挿入される正極合剤21、正極合剤21の内周側に設けられる有底円筒状のセパレータ22、セパレータ22の内周側に充填される負極合剤23、正極缶11の開口部に樹脂製の封口ガスケット35を介して嵌着される負極端子板32、及び負極端子板32の内側にスポット溶接等によって固設される、真鍮等の素材からなる棒状の負極集電子31を備えている。正極合剤21、セパレータ22、及び負極合剤23は、アルカリ電池1の発電要素20を構成している。
【0016】
正極缶11は導電性であり、例えば、ニッケルメッキ鋼板等の金属材をプレス加工することにより形成したものである。正極缶11は、正極集電体と正極端子の機能を兼ねており、その底部に凸状の正極端子部12が一体形成されている。
【0017】
正極合剤21は、正極活物質としての電解二酸化マンガン(EMD)、導電材としての黒鉛、及び水酸化カリウム(KOH)を主成分とするアルカリ電解液を、ポリアクリル酸などのバインダーとともに混合し、その混合物を圧延、解砕、造粒、分級等の工程にて処理した後、圧縮して中空円筒状(環状)に成形したものである。同図に示すように、正極缶11内には、中空円筒状のペレットからなる複数の正極合剤21が、正極缶11の円筒軸と同軸になるように、上下方向に積層されて圧入されている。
図1のアルカリ電池1では、正極缶11内に3つの正極合剤21を圧入している。
【0018】
負極合剤23は、水酸化カリウム(KOH)を主成分とするアルカリ電解液とゲル化剤とを含むゲル状の電解液に、負極活物質としての亜鉛合金粉末を分散させたものである。ゲル化剤は、耐アルカリ性の高吸水性高分子からなる吸水樹脂を含む。本実施形態のアルカリ電池1においては、ゲル化剤として、架橋型のポリアクリル酸塩(例えば、特開2006−493306号公報を参照)を用いている。亜鉛合金粉末は、ガスアトマイズ法や遠心噴霧法によって造粉されたものであり、亜鉛、ガスの発生の抑制(漏液防止)等を目的として添加される合金成分(ビスマス、アルミニウム、インジウム等)を含む。負極集電子31は負極合剤23の中心部に貫入されている。
【0019】
以上の構成からなるアルカリ電池1について、放電性能(重負荷放電性能)並びに耐衝撃性の改善効果を検証すべく、以下の試験1〜4を行った。
【0020】
<試験1>
試験1では、負極合剤23(以下、「ゲル状の負極」とも称する。)の亜鉛合金粉末の粒度として適切な範囲を検証すべく、負極合剤23の亜鉛合金粉末の粒度を変えた(粒度が75μm以下の粒子の含有率を23〜43質量%の範囲で変化させた)複数種のアルカリ電池1を作製し、夫々の放電性能を比較した。放電性能の比較は、デジタルカメラの使用時等における重負荷放電を想定したサイクル放電試験(1500mWで2秒放電、650mWで28秒放電のサイクルを1時間当たり10回(1時間当たりの休止時間55分))を室温(20℃)下で行い、終止電圧(1.05V)に至るまでのサイクル数を計数し、これを比較することにより行った。尚、アルカリ電池1は種類ごとに5個ずつ作成し、サイクル数の比較は夫々について計数したサイクル数の平均値を比較することにより行った。
【0021】
ゲル化剤の吸水樹脂としてはいずれのアルカリ電池1についても吸水倍率(=(吸水後質量−吸水前質量)/(吸水前質量))が40倍(40質量%水酸化カリウム水溶液の吸水倍率)のものを用いた。ゲル状の電解液における吸水樹脂とアルカリ電解液との比(吸水樹脂/アルカリ電解液(質量%))はいずれのアルカリ電池1についても1.2質量%とした。亜鉛の含有率、即ち、負極合剤23(ゲル状の負極)に含まれる亜鉛とゲル状の負極合剤23(ゲル状の負極)との比(亜鉛/ゲル状の負極(質量%))は、いずれのアルカリ電池1についても67質量%とした。
【0022】
表1に各アルカリ電池1の放電性能を比較した結果を示す。尚、表中の「判定」には、サイクル数が120サイクル以上であれば「○」を、120サイクル未満であれば「×」を記載した。
【0023】
【表1】
表1に示すように、負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含むものを用いて作製したアルカリ電池1(試作No.2〜4)については良好な放電性能が得られた。これは負極合剤23に粒径の小さな亜鉛合金粉末を用いることによりアルカリ電解液の供給がスムーズになるためと考えられる。
【0024】
負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を43質量%含むもの(試作No.5)については負極合剤23の流動性が低下しアルカリ電池1を作製することができなかった。
【0025】
<試験2>
続いて、ゲル化剤の吸水樹脂の吸水倍率として適切な範囲を検証すべく、吸水樹脂の吸水倍率を変化させた(吸水倍率を35〜43倍の範囲で変化させた)複数種のアルカリ電池1を作製し、夫々の耐衝撃性を比較した。耐衝撃性の比較は、アルカリ電池1の正極缶11の軸方向が地面と水平になるように1mの高さに支持し、その位置からコンクリートの床に自由落下させた後、短絡時最大電流を計測し、これを比較することにより行った。尚、アルカリ電池1は種類ごとに10個ずつ作成し、短絡時最大電流の比較は夫々について計測した短絡時最大電流の平均値を比較することにより行った。
【0026】
負極合剤23の亜鉛合金粉末としては、いずれのアルカリ電池1についても粒度が75μm以下の粒子を33質量%含むものを用いた。ゲル状の電解液における吸水樹脂とアルカリ電解液との比(吸水樹脂/アルカリ電解液(質量%))はいずれのアルカリ電池1についても1.2質量%とした。負極合剤23(ゲル状の負極)に含まれる亜鉛とゲル状の負極合剤23との比(亜鉛/ゲル状の負極(質量%))はいずれのアルカリ電池1についても67質量%とした。
【0027】
表2に各アルカリ電池1の耐衝撃性を比較した結果を示す。尚、表中の「判定」には、短絡時最大電流が15A以上であれば「○」を、15A未満であれば「×」を記載した。
【0028】
【表2】
表2に示すように、吸水樹脂の吸水倍率を37〜43倍の範囲としたアルカリ電池1(試作No.7〜9)は、吸水樹脂の吸水倍率を35倍としたアルカリ電池1(試作No.6)と比較して耐衝撃性が高くなった。このように吸水樹脂の吸水倍率が37倍以上において耐衝撃性として良好な結果となるのは、吸水倍率が高いと吸水樹脂が柔軟になり、大きく膨らむことにより落下時の衝撃を吸収するからであると考えられる。
【0029】
<試験3>
続いて、ゲル状の電解液における吸水樹脂とアルカリ電解液との比(吸水樹脂/アルカリ電解液(質量%))として適切な範囲を検証すべく、上記比を変化させた(0.5〜2.0質量%の範囲で変化させた)複数種のアルカリ電池1を作製し、夫々の耐衝撃性を比較した。耐衝撃性の比較は試験2と同様の方法で行った。試験2と同様にアルカリ電池1は種類ごとに5個ずつ作成し、サイクル数の比較は夫々について計数したサイクル数の平均値を比較することにより行った。
【0030】
負極合剤23の亜鉛合金粉末としては、いずれのアルカリ電池1についても粒度が75μm以下の粒子を33質量%含むものを用いた。ゲル化剤の吸水樹脂としてはいずれのアルカリ電池1についても吸水倍率が40倍のものを用いた。負極合剤23(ゲル状の負極)に含まれる亜鉛とゲル状の負極合剤23との比(亜鉛/ゲル状の負極(質量%))はいずれのアルカリ電池1についても67質量%とした。
【0031】
表3に各アルカリ電池1の放電性能を比較した結果を示す。尚、表中の「判定」には、短絡時最大電流が15A以上であれば「○」を、15A未満であれば「×」を記載した。
【0032】
【表3】
表3に示すように、ゲル状の電解液における吸水樹脂とアルカリ電解液との比(吸水樹脂/アルカリ電解液(質量%))を0.7〜1.7質量%の範囲としたアルカリ電池1(試作No.11〜13)については、上記比を0.5質量%としたアルカリ電池1(試作No.10)と比較して耐衝撃性が高くなった。
【0033】
また、上記比を2.0質量%とした場合(試作No.14)は負極合剤23の流動性が低くアルカリ電池1を作製することができなかった。
【0034】
<試験4>
続いて、亜鉛の含有率、即ち、負極合剤23(ゲル状の負極)に含まれる亜鉛とゲル状の負極合剤23との比(亜鉛/ゲル状の負極(質量%))として適切な範囲を検証すべく、上記比を変化させた(63〜72質量%の範囲で変化させた)複数種のアルカリ電池1を作製し、夫々の放電性能を比較した。放電性能の比較は試験1と同様の方法で行った。
【0035】
負極合剤23の亜鉛合金粉末としては、いずれのアルカリ電池1についても粒度が75μm以下の粒子を33質量%含むものを用いた。ゲル化剤の吸水樹脂としてはいずれのアルカリ電池1についても吸水倍率が40倍のものを用いた。ゲル状の電解液における吸水樹脂とアルカリ電解液との比(吸水樹脂/アルカリ電解液(質量%))はいずれのアルカリ電池1についても1.2質量%とした。
【0036】
表4に各アルカリ電池1の放電性能を比較した結果を示す。尚、表中の「判定」には、サイクル数が120サイクル以上であれば「○」を、120サイクル未満であれば「×」を記載した。
【0037】
【表4】
表4に示すように、負極合剤23(ゲル状の負極)に含まれる亜鉛とゲル状の負極合剤23との比(亜鉛/ゲル状の負極(質量%))が65〜70質量%の範囲のアルカリ電池1(試作No.16〜18)については、上記比を63質量%(試作No.15)としたアルカリ電池1に比べて良好な放電性能が得られた。
【0038】
上記比を72質量%としたアルカリ電池1(試作No.19)については負極合剤23の流動性が低下し、アルカリ電池1を作製することができなかった。
【0039】
<効果>
試験1より、負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含むものを用いることで良好な放電性能を有するアルカリ電池1が得られることがわかった。また、試験2より、吸水樹脂の吸水倍率を37倍以上とすることでアルカリ電池1の耐衝撃性が高くなることがわかった。このため、負極合剤23の亜鉛合金粉末として粒度が75μm以下の粒子を25〜40質量%の範囲で含み、かつ、吸水樹脂の吸水倍率を37倍以上とすることで、放電性能及び耐衝撃性に優れたアルカリ電池1が得られることがわかった。また試験3より、ゲル状の電解液における吸水樹脂とアルカリ電解液との比(吸水樹脂/アルカリ電解液(質量%))を0.7〜1.7質量%の範囲とすることで、アルカリ電池1の耐衝撃性が向上することがわかった。また、試験4より、負極合剤23(ゲル状の負極)に含まれる亜鉛とゲル状の負極合剤23(ゲル状の負極)との比(亜鉛/ゲル状の負極(質量%))を65〜70質量%の範囲とすることで、良好な放電性能が得られることがわかった。
【0040】
尚、以上の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 アルカリ電池、11 正極缶、12 正極端子部、20 発電要素、21 正極合剤、22 セパレータ、23 負極合剤、31 負極集電子、32 負極端子板、35 封口ガスケット