(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-142313(P2015-142313A)
(43)【公開日】2015年8月3日
(54)【発明の名称】移動体端末試験装置および試験方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/00 20150101AFI20150707BHJP
H04W 24/06 20090101ALI20150707BHJP
【FI】
H04B17/00 D
H04W24/06
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-15359(P2014-15359)
(22)【出願日】2014年1月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】荒井 滋春
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健悟
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 俊行
(72)【発明者】
【氏名】上沢 貴秋
(72)【発明者】
【氏名】深澤 孝治
【テーマコード(参考)】
5K042
5K067
【Fターム(参考)】
5K042AA06
5K042CA02
5K042CA13
5K042CA23
5K042DA22
5K042EA13
5K042HA01
5K067AA21
5K067BB04
5K067EE02
5K067EE10
5K067LL08
(57)【要約】
【課題】HST試験等の際に、試験対象の移動体端末が出力するUL(アップリンク)信号の周波数変動をリアルタイムに且つ長時間にわたって測定できるようにする。
【解決手段】周波数変動付与手段25aは、送信部22が移動体端末1に送信するDL(ダウンリンク)信号に、高速移動物体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬する所定の周波数変動を付与する。このDL信号を受けた移動体端末1が出力するUL信号を受信部24が受信し、ベースバンド信号に変換する。周波数変動検出手段25bは、このベースバンド信号からUL信号の周波数変動を検出する。この検出された周波数変動に基づいて、周波数補正手段25cは、受信部24でベースバンド信号を得るために用いるローカル信号の周波数を補正し、変動特性表示手段33は、移動体端末1から送信されたUL信号の周波数変動の特性を表示部40に表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象の移動体端末にダウンリンク信号を送信する送信部(22)および前記ダウンリンク信号を受けた移動体端末が出力するアップリンク信号を受信し、ベースバンド信号に変換する受信部(24)を含む送受信部(21)と、
前記送受信部を介して移動体端末との間で基地局を模した信号授受を行い、移動体端末の試験に必要な処理を行なう試験処理部(30)と、
試験結果を表示するための表示部(40)とを有する移動体端末試験装置において、
前記送信部が移動体端末に送信するダウンリンク信号に、高速移動物体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬する所定の周波数変動を付与する周波数変動付与手段(25a)と、
前記所定の周波数変動が付与されたダウンリンク信号が前記送信部から送信されているときに、前記受信部で得られるベースバンド信号を受けて、アップリンク信号の周波数変動を検出する周波数変動検出手段(25b)と、
前記周波数変動検出手段によって検出される周波数変動に応じて前記受信部で前記ベースバンド信号を得るために用いるローカル信号の周波数を補正する周波数補正手段(25c)と、
前記周波数変動検出手段によって検出される周波数変動に基づいて、前記所定の周波数変動が与えられたダウンリンク信号に対して移動体端末から送信されたアップリンク信号の周波数変動の特性を前記表示部に表示する変動特性表示手段(33)とが備えられていることを特徴とする移動体端末試験装置。
【請求項2】
前記周波数補正手段は、前記ローカル信号の周波数補正の間隔を可変できるように構成され、前記周波数変動付与手段によりダウンリンク信号に前記所定の周波数変動が付与される場合には該所定の周波数変動の変化率に対応する第1の間隔で前記ローカル信号の周波数補正を行い、前記周波数変動付与手段による所定の周波数変動が付与されない場合には、前記第1の間隔より広い第2の間隔で前記ローカル信号の周波数補正を行なうことを特徴とする請求項1記載の移動体端末試験装置。
【請求項3】
前記変動特性表示手段は、
前記周波数変動付与手段によってダウンリンク信号に付与された所定の周波数変動の特性を、前記アップリンク信号の周波数変動の特性と対比可能に表示することを特徴とする請求項1または請求項2記載の移動体端末試験装置。
【請求項4】
前記送受信部は、試験対象の移動体端末との間でCDMA方式による通信を行なうように構成されており、
前記周波数変動検出手段は、前記受信部においてコード逆拡散されて直交復調処理を受けることで得られるベースバンド信号のうち、特定チャネルのパイロット信号に対する周波数変動を検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の移動体試験装置。
【請求項5】
高速移動物体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬する所定の周波数変動を付与されたダウンリンク信号を試験対象の移動体端末に送信する段階と、
前記所定の周波数変動が付与されたダウンリンク信号を受けた移動体端末が出力するアップリンク信号を受信し、ベースバンド信号に変換する段階と、
前記ベースバンド信号からアップリンク信号の周波数変動を検出する段階と、
前記検出された周波数変動に応じて前記ベースバンド信号を得るために用いるローカル信号の周波数を補正する段階と、
前記検出された周波数変動に基づいて、前記所定の周波数変動が与えられたダウンリンク信号に対して移動体端末から送信されたアップリンク信号の周波数変動の特性を表示する段階とを含む移動体端末試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やスマートフォン等の移動体端末の試験を行なう技術に関し、特に、高速移動中の移動体端末が基地局からのダウンリンク(以下、DLと記す)信号を受ける際にドップラ効果の影響によるDL信号の受信周波数の変動に対してどのような応答を示すかの試験を、リアルタイムに行なうための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信における通信規格3GPPには、基地局からのDL信号の周波数が大きく変動する状況での試験が規定されている。
【0003】
その一例としてHST(High Speed Train)試験がある。HST試験は、新幹線等のような高速移動物体により移動体端末が高速移動する状況を、フェージングシミュレータを有する試験装置により再現し、移動体端末との間で正しく通信できるか否かを確認する試験である。
【0004】
この場合、ドップラ効果により、移動体端末が基地局に近づく状況ではDL信号に対する移動体端末の受信周波数が高くなり、移動体端末が基地局から遠ざかる状況ではDL信号に対する移動体端末の受信周波数が低くなる。
【0005】
ここで、移動体端末が基地局へ送信するアップリンク(以下、ULと記す)の送信周波数はDL信号の受信周波数を基に端末内部で決定されるが、その周波数決定処理の具体的な構成については3GPP規格では規定されておらず、端末メーカによって異なる。
【0006】
このため、上記ドップラ効果と同等な周波数変動を与えたDL信号を所定位置に固定された試験対象の移動体端末に送信し、そのDL信号に対して移動体端末から送信されるUL信号を受信し、その波形データを記憶し、その記憶した波形データを解析してUL信号の周波数変動を把握し、DL信号に与えた周波数変動とUL信号の波形データから求めた周波数変動とを対比することで、移動体端末の周波数追従性を確認できる。
【0007】
なお、フェージングシミュレータを用いて移動体端末の試験を行なう技術に関しては、
例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−198135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のように、移動体端末からのUL信号の波形データを記憶し、その波形データを解析して周波数変動を求める処理では、リアルタイムに周波数変動データが得られず、試験を効率的に行なうことができない。また、波形データを記憶するメモリの容量に制限があるため、長時間の周波数変動を測定することが困難となる。
【0010】
本発明は、この問題を解決し、HST試験等の際に、UL信号の周波数変動をリアルタイムに且つ長時間にわたって測定できる移動体端末試験装置および試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の移動体端末試験装置は、
試験対象の移動体端末にダウンリンク信号を送信する送信部(22)および前記ダウンリンク信号を受けた移動体端末が出力するアップリンク信号を受信し、ベースバンド信号に変換する受信部(24)を含む送受信部(21)と、
前記送受信部を介して移動体端末との間で基地局を模した信号授受を行い、移動体端末の試験に必要な処理を行なう試験処理部(30)と、
試験結果を表示するための表示部(40)とを有する移動体端末試験装置において、
前記送信部が移動体端末に送信するダウンリンク信号に、高速移動物体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬する所定の周波数変動を付与する周波数変動付与手段(25a)と、
前記所定の周波数変動が付与されたダウンリンク信号が前記送信部から送信されているときに、前記受信部で得られるベースバンド信号を受けて、アップリンク信号の周波数変動を検出する周波数変動検出手段(25b)と、
前記周波数変動検出手段によって検出される周波数変動に応じて前記受信部で前記ベースバンド信号を得るために用いるローカル信号の周波数を補正する周波数補正手段(25c)と、
前記周波数変動検出手段によって検出される周波数変動に基づいて、前記所定の周波数変動が与えられたダウンリンク信号に対して移動体端末から送信されたアップリンク信号の周波数変動の特性を前記表示部に表示する変動特性表示手段(33)とが備えられている。
【0012】
また、本発明の請求項2の移動体試験装置は、請求項1記載の移動体端末試験装置において、
前記周波数補正手段は、前記ローカル信号の周波数補正の間隔を可変できるように構成され、前記周波数変動付与手段によりダウンリンク信号に前記所定の周波数変動が付与される場合には該所定の周波数変動の変化率に対応する第1の間隔で前記ローカル信号の周波数補正を行い、前記周波数変動付与手段による所定の周波数変動が付与されない場合には、前記第1の間隔より広い第2の間隔で前記ローカル信号の周波数補正を行なうことを特徴としている。
【0013】
また、本発明の請求項3の移動体試験装置は、請求項1または請求項2記載の移動体端末試験装置において、
前記変動特性表示手段は、
前記周波数変動付与手段によってダウンリンク信号に付与された所定の周波数変動の特性を、前記アップリンク信号の周波数変動の特性と対比可能に表示することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4の移動体端末試験装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の移動体試験装置において、
前記送受信部は、試験対象の移動体端末との間でCDMA方式による通信を行なうように構成されており、
前記周波数変動検出手段は、前記受信部においてコード逆拡散されて直交復調処理を受けることで得られるベースバンド信号のうち、特定チャネルのパイロット信号に対する周波数変動を検出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項4の移動体端末試験方法は、
高速移動物体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬する所定の周波数変動を付与されたダウンリンク信号を試験対象の移動体端末に送信する段階と、
前記所定の周波数変動が付与されたダウンリンク信号を受けた移動体端末が出力するアップリンク信号を受信し、ベースバンド信号に変換する段階と、
前記ベースバンド信号からアップリンク信号の周波数変動を検出する段階と、
前記検出された周波数変動に応じて前記ベースバンド信号を得るために用いるローカル信号の周波数を補正する段階と、
前記検出された周波数変動に基づいて、前記所定の周波数変動が与えられたダウンリンク信号に対して移動体端末から送信されたアップリンク信号の周波数変動の特性を表示する段階とを含んでいる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明では、高速移動物体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬する所定の周波数変動を付与されたダウンリンク信号を試験対象の移動体端末に送信し、このダウンリンク信号を受けた移動体端末が出力するアップリンク信号を受信し、ベースバンド信号に変換し、そのベースバンド信号からアップリンク信号の周波数変動を検出し、検出した周波数変動に応じてベースバンド信号を得るために用いるローカル信号の周波数を補正するとともに、その検出された周波数変動に基づいて、所定の周波数変動が与えられたダウンリンク信号に対して移動体端末から送信されたアップリンク信号の周波数変動の特性を表示するようにしている。
【0017】
つまり、HST等の試験のために解析が必要なアップリンク信号の周波数変動を、その周波数変動によるベースバンド信号の周波数ずれを補正するためのデータとして検出し、これに基づいて周波数変動特性を表示するので、アップリンク信号の波形データを記憶して解析を行なう必要がなく、HST等の試験をリアルタイムに且つ長時間にわたって連続的に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】ダウンリンク信号に付与する周波数変動の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した移動体端末試験装置(以下、単に試験装置と記す)20の構成を示している。
【0020】
試験装置20は、送受信部21、試験処理部30および表示部40を有している。送受信部21は、送信部22、結合器23、受信部24および通信制御部25によって構成されている。
【0021】
送信部22は、試験処理部30からの指示を受けた通信制御部25からベースバンド信号および制御信号等を受けて、試験に必要な高周波のダウンリンク(DL)信号を生成し、結合器23を介して試験対象の移動体端末1に送信する。
【0022】
送信部22の構成は、通信制御部25から入力するベースバンド信号を直交変調処理して移動体端末1との通信に用いる高周波帯のDL信号を生成するが、その途中で周波数変換を行なう場合もある。また、通信方式固有の処理が含まれる場合もある。例えば、CDMA方式では、ベースバンド信号に対してコード拡散処理を行なってから直交変調処理を行なう。なお、送信部22は、周波数変換用のローカル信号や直交変調処理に用いるローカル信号の周波数を変化させることでDL信号の周波数を変化させることができるように構成されている。
【0023】
送信部22から結合器23を介して出力されるDL信号は、移動体端末1で受信され、それに対する応答としてアップリンク(UL)信号が移動体端末1から出力されて、結合器23を介して受信部24に入力される。
【0024】
受信部24は、入力されるUL信号を受信し、周波数変換処理および直交復調処理によりベースバンド信号へ変換する。より具体的に言えば、CDMA方式であれば、
図2のようにUL信号(コード拡散処理を受けているUL信号)をヘテロダイン方式の周波数変換器24aに入力して所定の中間周波数帯に周波数変換し、その中間周波数帯の信号を、逆拡散処理器24bにより拡散前の信号に戻し、これを直交復調器24cに与えてベースバンド信号に変換している。上記CDMA方式のようにコード逆拡散処理を行なうと逆拡散前の広い帯域幅(約4MHz)が15kHz程度の狭い帯域幅に戻り、しかも周波数変動量は維持されるので、15kHz程度の幅の信号で数10Hz〜数100Hzの周波数変動を検出すればよく、広い帯域のまま数10Hz〜数100Hzの周波数変動を検出する場合と比べて変動検出が容易となる。
【0025】
その他の方式、例えばLTEでは、周波数時間分割方式に対応した前処理を行って直交復調処理を行い、試験対象の移動体端末1から送信されたUL信号をベースバンド信号に変換する。
【0026】
なお、ベースバンド信号は互いに直交するI、Qの信号であり、そのI信号の値とQ信号の値で決まる直交座標上の点がデータのシンボル座標となる。例えばCDMA方式のUL信号に含まれるパイロット信号(UL−DPCCH)のようにIとQが一定(例えばI=Q=1)で常時出力される信号を受信する場合に、受信周波数ずれが無ければ、ローカル信号の周期(サンプリング周期)毎に得られるシンボル点の座標位置は(I、Q)の位置で変化せずシンボル同期状態となるが、受信周波数ずれがあればそのずれた周波数でIとQの値が変化し、シンボル点の座標が移動する。
【0027】
したがって、このパイロット信号のように定常的に出力されているベースバンド信号から得られるシンボル点の動きを監視することで受信信号に対する受信部24のシンボル同期がとれているか否かを把握でき、シンボル同期がとれていない場合、ローカル信号の周波数を補正することで同期状態を維持することができる。CDMA以外の方式でも、UL信号中の定常的に出力されている信号を用いることで上記周波数変動の検出が可能である。
【0028】
ここで、シンボル点の位置が測定間隔ΔT(秒)の間にΔθ(ラジアン)変化したとすれば、周波数ずれΔF(Hz)は、
ΔF=Δθ/(2πΔT)
と表される。
【0029】
例えば、測定間隔ΔTを10ミリ秒とし、位相変化Δθをそれぞれπ/2、π、2πとすれば、周波数ずれΔFは、それぞれ25Hz、50Hz、100Hzとなる。
【0030】
通信制御部25は、試験処理部30からの指示を受け、送信部22および受信部24に対する各種制御を行なう。この通信制御部25には、前記したHST試験を行なう際に、DL信号に周波数変動を付与する周波数変動付与手段25aが設けられている。周波数変動付与手段25aは、試験処理部30から指定された試験内容にしたがって、送信部22内での周波数変換処理や直交変調処理に用いるローカル信号の周波数に所定の変動を与えることで、高速移動物体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬する所定の周波数変動をDL信号に付与する。
【0031】
また、通信制御部25には、周波数変動付与手段25aによって所定の周波数変動が付与されたDL信号が送信部22から送信されているときに、受信部24で得られるベースバンド信号を受けて、そのUL信号の周波数変動を検出する周波数変動検出手段25bと、その検出された周波数変動に応じて受信部24内でベースバンド信号を得るために周波数変換処理や直交復調処理で用いるローカル信号の周波数を補正する周波数補正手段25cが設けられている。
【0032】
より具体的に言えば、周波数変動検出手段25bは、前記したようにベースバンド信号から得られるシンボル点の動きを監視して、UL信号の周波数変動を検出し、周波数補正手段25cは、そのシンボル同期状態が維持されるように受信部24の内部での周波数変換処理や直交復調処理に用いるローカル信号の周波数を補正する。実際には、この周波数変動は800MHz〜2GHzの間に割当てられている送受信周波数に比べて数100Hz程度と格段に小さいので、周波数補正処理は、直交復調処理に用いる比較的周波数が低いローカル信号に対して行なうことになる。
【0033】
なお、周波数変動検出手段25bおよび周波数補正手段25cは、上記したHST試験のように、DL信号に意図的に周波数変動を付与して試験を行なうモードだけでなく、DL信号に意図的な周波数変動が付与されない状態で受信周波数ずれを補正するモードの場合にも機能するように構成されている。
【0034】
ただし、DL信号に周波数変動が付与されない状態で受信周波数ずれを補正するモードの場合には、その補正の間隔を短くすると過補正となってかえって周波数の暴れが大きくなってしまうので、例えば数秒程度の長い間隔で緩やかに補正する必要がある。
【0035】
これに対し、HST試験のように短時間に比較的大きな周波数変動が想定される場合には、数秒程度の間隔では補正が間に合わない。
【0036】
これに対処するための方法として、試験モードに応じて周波数変動検出手段25bの周波数変動検出の間隔および周波数補正手段25cの周波数補正の間隔を連動的に変更できるようにする方法と、周波数変動検出の間隔は試験モードに依らずに短い値に固定しておき、周波数補正の間隔だけを試験モードに応じて可変できるようにする方法が採用できる。
【0037】
前者の方法では、周波数変動が付与されるモードの場合、周波数変動検出および周波数補正をその付与する周波数変動の変化率に応じた短い第1の間隔(例えば10ミリ秒)で行い、周波数変動が付与されないモードの場合、周波数変動検出および周波数補正を第1の間隔より長い第2の間隔(例えば数秒)で行う。
【0038】
後者の方法では、周波数変動が付与されるモードの場合、周波数変動検出および周波数補正を前記第1の間隔(例えば10ミリ秒)で行い、周波数変動が付与されないモードの場合、周波数変動検出は第1の間隔のままで、周波数補正を第1の間隔より長い第2の間隔(例えば数秒)で行う。つまり、少なくとも周波数補正手段25cの補正間隔については、試験モードに応じて可変できるようにすればよいことになる。
【0039】
試験処理部30は、送受信部21を介して移動体端末1との間で基地局を模した通信を行い、移動体端末1の試験に必要な種々の処理を行なうが、ここでは、前記したHST試験を行なうための構成について説明する。
【0040】
試験処理部30には、移動体端末の各種試験に必要な手順や条件等のデータを記述したシナリオ情報を記憶し、このシナリオ情報にしたがって処理を実行するシナリオ処理部31が設けられている。このシナリオ情報はユーザーが任意に生成することができ、ユーザーが図示しない操作部によって所望の試験内容に対応するシナリオ情報を指定することで、シナリオ処理部31が処理を実行し、その試験に必要なデータが出力される。
【0041】
HST試験に関するシナリオ情報をより具体的に言えば、DL信号に付与する周波数変動情報を送受信部21に指定して、その周波数変動が付加されたDL信号を送信させる。
【0042】
ここで、例えば、新幹線等のように高速走行する高速移動体とともに移動体端末が基地局に対して接近、離反する状況を模擬するHST試験で、周波数ftのDL信号を、時速vで基地局に近づく移動体端末が受ける際の受信周波数frは、
fr=ft・c/(c−v) (Hz)
で表される。ただしcは電磁波の速度で3×10
8m/秒である。
【0043】
具体的に言えば、移動体端末の移動速度vを時速300km、DL信号の周波数ftを2GHzとして受信周波数frを求めると、約2000000555(Hz)となり、送信周波数に対して約555Hz高い周波数にシフトする。
【0044】
逆に、周波数ftのDL信号を、時速vで基地局から遠ざかる移動体端末が受ける際の受信周波数frは、
fr=ft・c/(c+v) (Hz)
で表され、上記同様の数値例で受信周波数frを求めると、送信周波数2GHzに対して約555Hz低い周波数にシフトする。
【0045】
したがって、これを模擬するためには、
図3に示すように、送信部22から出力するDL信号の周波数f(DL)を、正規の周波数f
0(=2GHz)に対してΔf(=555Hz)だけ高く設定した状態を一定期間T1継続し、その後に正規の周波数f
0まで所定の変化率で連続的に下げ、さらにその変化率を維持したまま正規の周波数f
0よりにΔf′(=555Hz)だけ低い周波数まで連続的に下げ、以後はその周波数で一定期間T2保つことになる。なお、電磁波の速度cに比べて移動体端末の速度vが格段に小さいので、移動体端末が近づいているときのシフト周波数Δfと移動体端末が遠ざかっているときのシフト周波数Δf′はほぼ等しくなる。
【0046】
変動モデル記憶手段32には、移動速度や通信周波数等をパラメータとして
図3に示したような周波数変動モデルが複数種類記憶されており、シナリオ処理部31が試験に用いる周波数変動モデルを指定すると、変動モデル記憶手段32から指定された周波数変動モデルに対応したパラメータが読み出されて通信制御部25に与えられ、所望の周波数変動が付与されることになる。
【0047】
また、変動特性表示手段33は、通信制御部25の周波数変動検出手段25bによって時系列に検出される周波数変動のデータを記憶しつつ、所定の周波数変動が与えられたDL信号に対して移動体端末1から送信されたUL信号の周波数変動の特性を表示部40に表示する。なお、この場合に記憶するデータは周波数の変動量を表すデータであって、前記したように10ミリ秒程度の間隔で得られるので、長時間の測定でも少ないメモリ容量で記憶可能である。
【0048】
また、この変動特性表示手段33は、UL信号の周波数変動の特性のみを表示するモードと、周波数変動付与手段25aによってDL信号に付与された所定の周波数変動の特性を、UL信号の周波数変動の特性と対比可能に表示するモードも有しており、どちらのモードで表示するかは、図示しない操作部を介したユーザーからの指定により決まる。
【0049】
図4は、表示部40に表示された周波数変動特性の一例を示すものであり、DL信号に付与した周波数変動特性AとUL信号の周波数変動特性Bとを比較すると、特性Aの周波数変動に対して特性Bの周波数変動が抑圧されていることがわかる。
【0050】
また、
図4の特性Cは、他装置によってUL信号の波形データを所得して綿密なFFT解析して得られた特性であり、実施例の試験装置20によって得られた周波数変動特性Bが、この特性Cとほぼ一致しており、移動体端末1のHST試験を十分な精度で行なえることがわかる。なお、
図4の特性Cは、実施例の試験装置20によって得られた周波数変動特性Bとの対比のために記載したものであり、実施例の試験装置20が表示部40に表示する特性ではない。
【0051】
また、
図4に示した各特性は、ドップラシフトが無い状態におけるDL信号、UL信号の正規の周波数を基準(中心)としてグラフ上に重ねたものであり、実周波数はDL信号の周波数とUL信号の周波数の差だけ上下に離間しており、その離間した状態で特性を表示しても両者の対比が可能である。
【0052】
また、この試験装置20では、UL信号を受信して得られるベースバンド信号からその周波数変動を検出し、その変動特性を表示するようにしているので、波形データを所得して綿密なFFT解析して周波数変動特性を求める必要がなく、リアルタイムにHST試験結果を得ることができ、試験効率が格段に向上する。
【0053】
なお、図示しないが、移動体端末のメーカや機種によって同一の周波数変動特性Aに対して周波数変動特性Bが異なることがわかっており、機種ごとにHST試験の異なる結果が得られていることから、上記のような波形データに対する綿密な解析を行なわなくても、HST試験に対する各移動体端末の特性の違いを正しく把握できることが確認された。
【符号の説明】
【0054】
20……移動体端末試験装置、21……送受信部、22……送信部、23……結合器、24……受信部、25……通信制御部、25a……周波数変動付与手段、25b……周波数変動検出手段、25c……周波数補正手段、30……試験処理部、31……シナリオ処理部、32……変動モデル記憶手段、33……変動特性表示手段、40……表示部