【解決手段】車両のステアリングホイールと連動して回転するステアリングシャフトと、転動輪を転動させるラック軸に対して回転することにより駆動力を加えるピニオンシャフトと、ステアリングシャフトからピニオンシャフト間に作用するトルクを検出するトルクセンサ109と、ラック軸に駆動力を加える電動モータ110と、トルクセンサ109にて検出された検出トルクに基づいて電動モータ110へ供給する目標電流のベースとなるベース電流を算出するとともに、検出トルクの特定周波数成分と逆位相となる変化量に基づいて転動輪側からステアリングホイール側へ伝わる外乱トルクを抑制するためのシミー補償電流を決定し、ベース電流とシミー補償電流とに基づいて目標電流を設定する目標電流算出部20と、を備える。
前記抑制電流決定手段は、前記変化量に基づいて前記抑制電流のベースとなる抑制ベース電流を算出するとともに、当該抑制ベース電流を補正する補正係数を決定し、当該抑制ベース電流と当該補正係数とに基づいて当該抑制電流を決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、車両の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車1に適用した構成を例示している。
【0010】
ステアリング装置100は、自動車1の進行方向を変えるために運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0011】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左右の前輪150のそれぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。これらラック軸105、ピニオンシャフト106などが、ステアリングホイール101の回転操作力を前輪150の転動力として伝達する伝達機構として機能する。ピニオンシャフト106は、前輪150を転動させるラック軸105に対して、回転することにより前輪150を転動させる駆動力を加える。
【0012】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を有している。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。そして、ステアリングギヤボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に基づいて、言い換えればトーションバー112の捩れ量に基づいて、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクおよび/または前輪150を介してピニオンシャフト106に伝わる外乱トルクを検出する検出手段の一例としてのトルクセンサ109が設けられている。言い換えれば、トルクセンサ109は、トーションバー112にはたらくトルクを検出する。また、トルクセンサ109は、ステアリングシャフト102からピニオンシャフト106間に作用するトルクを検出する。
【0013】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを有している。減速機構111は、例えば、ピニオンシャフト106に固定されたウォームホイール(不図示)と、電動モータ110の出力軸に固定されたウォームギヤ(不図示)などから構成される。電動モータ110は、ピニオンシャフト106に回転駆動力を加えることにより、ラック軸105に前輪150を転動させる駆動力を加える。本実施の形態に係る電動モータ110は、3相ブラシレスモータであることを例示することができる。
【0014】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10には、上述したトルクセンサ109からの出力信号が入力される。また、制御装置10には、自動車に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170などからの出力信号が入力される。
【0015】
以上のように構成されたステアリング装置100は、トルクセンサ109が検出した検出トルクに基づいて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0016】
次に、制御装置10について説明する。
図2は、制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等からなる算術論理演算回路である。
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された検出トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Tdと、車速センサ170にて検出された車速Vcが出力信号に変換された車速信号vなどが入力される。
【0017】
そして、制御装置10は、トルク信号Tdおよび車速信号vに基づいて電動モータ110が供給するのに必要となる目標電流Itを算出(設定)する目標電流設定手段の一例としての目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流Itに基づいてフィードバック制御などを行う制御部30とを有している。
また、制御装置10は、電動モータ110の回転速度Nmを算出するモータ回転速度算出部70を備えている。モータ回転速度算出部70は、3相ブラシレスモータである電動モータ110の回転子(ロータ)の回転位置を検出するレゾルバからの出力信号を基に電動モータ110の回転速度Nmを算出し、その回転速度Nmが出力信号に変換された回転速度信号Nmsを出力する。
【0018】
次に、目標電流算出部20について詳述する。
図3は、目標電流算出部20の概略構成図である。
目標電流算出部20は、目標電流Itを設定する上で基準となるベース電流Ibを算出するベース電流算出手段の一例としてのベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部22と、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部23とを備えている。また、目標電流算出部20は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23にて算出された値に基づいて仮の目標電流である仮目標電流Itfを決定する仮目標電流決定部25を備えている。また、目標電流算出部20は、トルクセンサ109にて検出された検出トルクTの位相を補償する位相補償部26を備えている。また、目標電流算出部20は、シミー現象に起因するステアリングホイールの回転方向の振動を抑制する電流である抑制電流の一例としてのシミー補償電流Irを算出するシミー補償電流算出部27と、仮目標電流決定部25にて決定された仮目標電流Itfおよびシミー補償電流算出部27にて算出されたシミー補償電流Irに基づいて最終的に目標電流Itを決定する最終目標電流決定部28と、を備えている。
なお、目標電流算出部20には、トルク信号Td、車速信号v、回転速度信号Nms、などが入力される。
【0019】
図4は、検出トルクTおよび車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース電流算出部21は、位相補償部26にてトルク信号Tdが位相補償されたトルク信号Tsと、車速センサ170からの車速信号vとに基づいてベース電流Ibを算出する。つまり、ベース電流算出部21は、位相補償された検出トルクTと、車速Vcとに応じたベース電流Ibを算出する。なお、ベース電流算出部21は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された検出トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とベース電流Ibとの対応を示す
図4に例示した制御マップに、検出トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)を代入することによりベース電流Ibを算出する。
【0020】
イナーシャ補償電流算出部22は、トルク信号Tsと、車速信号vとに基づいて電動モータ110およびシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出する。つまり、イナーシャ補償電流算出部22は、検出トルクT(トルク信号Ts)と、車速Vc(車速信号v)とに応じたイナーシャ補償電流Isを算出する。なお、イナーシャ補償電流算出部22は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、検出トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とイナーシャ補償電流Isとの対応を示す制御マップに、検出トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)を代入することによりイナーシャ補償電流Isを算出する。
【0021】
ダンパー補償電流算出部23は、トルク信号Tsと、車速信号vと、電動モータ110の回転速度信号Nmsとに基づいて、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出する。つまり、ダンパー補償電流算出部23は、検出トルクT(トルク信号Ts)と、車速Vc(車速信号v)と、電動モータ110の回転速度Nm(回転速度信号Nms)に応じたダンパー補償電流Idを算出する。なお、ダンパー補償電流算出部23は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、検出トルクT(トルク信号Ts)、車速Vc(車速信号v)および回転速度Nm(回転速度信号Nms)と、ダンパー補償電流Idとの対応を示す制御マップに、検出トルクT(トルク信号Ts)、車速Vc(車速信号v)および回転速度Nm(回転速度信号Nms)を代入することによりダンパー補償電流Idを算出する。
【0022】
仮目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流Isおよびダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて仮目標電流Itfを決定する。仮目標電流決定部25は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た電流を仮目標電流Itfとして決定する。
シミー補償電流算出部27については後で詳述する。
【0023】
最終目標電流決定部28は、仮目標電流決定部25にて決定された仮目標電流Itfおよびシミー補償電流算出部27にて算出されたシミー補償電流Irに基づいて最終的に目標電流Itを決定する。本実施の形態に係る最終目標電流決定部28は、仮目標電流決定部25にて決定された仮目標電流Itfにシミー補償電流算出部27にて算出されたシミー補償電流Irを加算して得た電流を目標電流Itとして決定する。
【0024】
次に、制御部30について詳述する。
図5は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、
図5に示すように、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流Imを検出するモータ電流検出部33とを有している。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itと、モータ電流検出部33にて検出された電動モータ110へ供給される実電流Imとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを有している。
【0025】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itとモータ電流検出部33にて検出された実電流Imとの偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを有している。
【0026】
フィードバック(F/B)処理部42は、目標電流Itと実電流Imとが一致するようにフィードバック制御を行うものであり、例えば、偏差演算部41にて算出された偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算する。
PWM信号生成部60は、フィードバック制御部40からの出力値に基づいて電動モータ110をPWM(パルス幅変調)駆動するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力する。
【0027】
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
モータ電流検出部33は、モータ駆動部32に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から電動モータ110に流れる実電流Imの値を検出する。
【0028】
次に、シミー補償電流算出部27について詳述する。
シミー現象が発生した場合には、前輪150から、ラック軸105、ピニオンシャフト106、ステアリングシャフト102などを介してステアリングホイール101に振動が伝わる。
シミー補償電流算出部27は、このシミー現象に起因してステアリングホイール101に伝わる振動を電動モータ110にて打ち消すための電流であるシミー補償電流Irを算出する。つまり、シミー補償電流Irは、シミー現象に起因して、前輪150、ラック軸105などを介してピニオンシャフト106に伝達される回転トルクとは逆方向の回転トルクを加えるように電動モータ110が駆動するための電流である。
【0029】
図6は、シミー補償電流算出部27の概略構成図である。
シミー補償電流算出部27は、トルクセンサ109による検出トルクTのうち所定範囲の周波数帯域の成分を抽出する抽出手段の一例としてのシミー周期抽出処理部271と、シミー周期抽出処理部271にて抽出された検出トルクと逆位相となるトルク変化量を演算する演算手段の一例としてのトルク変化量演算処理部272と、を備えている。また、シミー補償電流算出部27は、トルク変化量演算処理部272にて演算されたトルク変化量に基づいてシミー補償電流Irのベースとなるシミー補償ベース電流Irbを算出する抑制電流決定手段の一例としてのシミー補償ベース電流算出部273と、操舵フィーリングの悪化を抑制するフィール悪化抑制処理部274と、を備えている。
【0030】
図7は、バンドパスフィルタを示す概略図である。
図7において、横軸は周波数であり、縦軸はゲインである。
シミー周期抽出処理部271は、トルクセンサ109からのトルク信号Tdのうちで、予め定められた所定範囲の周波数帯域の信号のみを通し、他の周波数の信号は通さない(減衰させる)ことで、シミー現象に起因する振動の周波数の信号を抽出する。シミー周期抽出処理部271は、
図7に示した特性のバンドパスフィルタを有することを例示することができる。バンドパスフィルタは、例えばアナログ回路で構成可能である。シミー現象により発生する振動の周波数は、車種や仕様に応じて異なることから、上述した所定範囲の周波数帯域は、車種や仕様に応じて予め設定される。
【0031】
シミー周期抽出処理部271は、演算処理を行うことで、検出トルクTのうち、シミー現象に起因する振動の周波数成分を抽出してもよい。例えば、シミー周期抽出処理部271は、一定時間(例えば4ミリ秒)ごとに、トルクセンサ109による検出トルクTを読み込み、所定範囲の周波数帯域の成分を抽出すればよい。
【0032】
トルク変化量演算処理部272は、シミー周期抽出処理部271にて抽出された検出トルクTと逆位相となるトルク変化量を演算する。例えば、トルク変化量演算処理部272は、シミー周期抽出処理部271にて抽出された後の検出トルクTを2回微分する演算処理を行い、検出トルクTと逆位相となるトルク変化量として、シミー周期抽出処理部271にて抽出された特定周波数成分を2回微分した2回微分値を演算する。
【0033】
図8は、トルク変化量演算処理部272が行う演算処理を示すフローチャートである。
トルク変化量演算処理部272は、
図8に示す演算処理を一定時間(例えば4ミリ秒)ごとに繰り返し実行する。
図8を参照すると、トルク変化量演算処理部272は、シミー周期抽出処理部271にて抽出された後の検出トルクTである抽出トルクを読み込み(ステップ101)、今回のルーチンで読み込んだ抽出トルクと前回のルーチンで読み込んだ抽出トルクとに基づいて前回から今回までの抽出トルクの1回微分値(抽出トルクの変化速度)(以下、「今回の1回微分値」と称す。)を算出する(ステップ102)。その後、前回のルーチンで読み込んだ抽出トルクと前々回のルーチンで読み込んだ抽出トルクとに基づいて前々回から前回までの抽出トルクの1回微分値(抽出トルクの変化速度)(以下、「前回の1回微分値」と称す。)を算出する(ステップ103)。そして、その後、ステップ102にて算出した今回の1回微分値とステップ103にて算出した前回の1回微分値とに基づいて抽出トルクの2回微分値(抽出トルクの変化加速度)(抽出トルクと逆位相となるトルク変化量)を算出する(ステップ104)。
なお、今回のルーチンのステップ103の処理においては、前回のルーチンのステップ102にて算出した抽出トルクの1回微分値を用いてもよい。
【0034】
シミー補償ベース電流算出部273は、トルク変化量演算処理部272にて算出された抽出トルクと逆位相となるトルク変化量に基づいてシミー補償電流Irのベースとなるシミー補償ベース電流Irbを算出する。つまり、シミー補償ベース電流算出部273は、抽出トルクと逆位相となるトルク変化量に応じたシミー補償ベース電流Irbを算出する。
図9は、抽出トルクと逆位相となるトルク変化量とシミー補償ベース電流Irbとの対応を示す制御マップの概略図である。シミー補償ベース電流算出部273は、一定時間(例えば4ミリ秒)ごとに、抽出トルクと逆位相となるトルク変化量(例えば抽出トルクの2回微分値)を読み込むと共に、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、抽出トルクと逆位相となるトルク変化量とシミー補償ベース電流Irbとの対応を示す
図9に例示した制御マップに、読み込んだ抽出トルクと逆位相となるトルク変化量を代入することによりシミー補償ベース電流Irbを算出する。
【0035】
フィール悪化抑制処理部274は、シミー補償ベース電流算出部273にて算出されたシミー補償ベース電流Irbを補正することにより最終的なシミー補償電流Irを算出する。より具体的には、フィール悪化抑制処理部274は、車速Vcに応じた車速相当補正係数αs、電動モータ110の回転速度Nmに応じた回転速度相当補正係数αm、検出トルクTに応じたトルク相当補正係数αtを算出すると共に、これらの補正係数をシミー補償ベース電流Irbに乗算することによりシミー補償電流Irを算出する。
【0036】
図10(a)は、車速Vcと車速相当補正係数αsとの対応を示す制御マップの概略図である。
図10(b)は、電動モータ110の回転速度Nmと回転速度相当補正係数αmとの対応を示す制御マップの概略図である。
図10(c)は、検出トルクTとトルク相当補正係数αtとの対応を示す制御マップの概略図である。
【0037】
フィール悪化抑制処理部274は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速Vcと車速相当補正係数αsとの対応を示す
図10(a)に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速相当補正係数αsを算出する。
また、フィール悪化抑制処理部274は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、電動モータ110の回転速度Nmと回転速度相当補正係数αmとの対応を示す
図10(b)に例示した制御マップに、回転速度Nmを代入することにより回転速度相当補正係数αmを算出する。
また、フィール悪化抑制処理部274は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、検出トルクTとトルク相当補正係数αtとの対応を示す
図10(c)に例示した制御マップに、検出トルクTを代入することによりトルク相当補正係数αtを算出する。
【0038】
そして、フィール悪化抑制処理部274は、シミー補償ベース電流Irbに、車速相当補正係数αs、回転速度相当補正係数αmおよびトルク相当補正係数αtを乗算することによりシミー補償電流Irを算出する。
【0039】
図11は、フィール悪化抑制処理部274が行う演算処理を示すフローチャートである。
フィール悪化抑制処理部274は、
図11に示す演算処理を一定時間(例えば4ミリ秒)ごとに繰り返し実行する。
【0040】
図11を参照すると、フィール悪化抑制処理部274は、先ず、シミー補償ベース電流算出部273が算出したシミー補償ベース電流Irbを読み込む(ステップ201)。
その後、フィール悪化抑制処理部274は、車速センサ170にて検出された車速Vcを読み込むと共に、
図10(a)に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速相当補正係数αsを算出する(ステップ202)。
その後、フィール悪化抑制処理部274は、モータ回転速度算出部70が算出した電動モータ110の回転速度Nmを読み込むと共に、
図10(b)に例示した制御マップに、回転速度Nmを代入することにより回転速度相当補正係数αmを算出する(ステップ203)。
【0041】
その後、フィール悪化抑制処理部274は、検出トルクTを読み込むと共に、
図10(c)に例示した制御マップに、検出トルクTを代入することによりトルク相当補正係数αtを算出する(ステップ204)。
その後、フィール悪化抑制処理部274は、ステップ201にて読み込まれたシミー補償ベース電流Irbに、ステップ202,203,204にて算出された車速相当補正係数αs,回転速度相当補正係数αm,トルク相当補正係数αtをそれぞれ乗算することにより、シミー補償電流Irを算出する(Ir=Irb×αs×αm×αt)(ステップ205)。
【0042】
フィール悪化抑制処理部274は、上述した手順にて算出したシミー補償電流IrをRAMなどの記憶領域に記憶する。
そして、最終目標電流決定部28は、RAMなどの記憶領域に記憶された、仮目標電流Itfとシミー補償電流Irとを加算した値を目標電流Itとして決定する。
【0043】
なお、以上のように構成された目標電流算出部20においては、常に、仮目標電流Itfにシミー補償電流Irを加算した電流が目標電流Itとして決定される。それゆえ、シミー現象が発生していない場合にはシミー補償電流Irを零とすることが望ましい。
かかる事項に鑑み、シミー現象が発生するのは車速Vcが特定の速度領域であると考えられるため、
図10(a)に例示した制御マップにおいては、車速相当補正係数αsを、車速Vcが特定の速度領域(例えば、80km/h〜120km/h)である場合に1とし、車速Vcが特定の速度領域以外は1よりも小さい値とした。
【0044】
また、シミー現象が発生した場合には電動モータ110が特定の回転速度Nmを中心とする所定の回転速度範囲になると考えられるため、
図10(b)に例示した制御マップにおいては、電動モータ110の回転速度Nmが所定の回転速度範囲である場合に回転速度相当補正係数αmを1とし、所定の回転速度範囲以外は1よりも小さい値となるような山形状とした。
また、シミー現象が発生した場合にトルクセンサ109にて検出される検出トルクTは特定のトルクを中心とする所定範囲であると考えられるため、
図10(c)に例示した制御マップにおいては、検出トルクTが所定範囲である場合にトルク相当補正係数αtを1とし、所定範囲以外は1よりも小さい値となるような山形状とした。
【0045】
以上のように構成されたステアリング装置100においては、シミー現象に起因してステアリングホイール101に伝わる振動を電動モータ110にて打ち消すための電流であるシミー補償電流Irが目標電流Itに含まれるので、シミー現象に起因する振動が運転者に伝わることを抑制することができる。また、シミー現象が発生していない場合には、シミー補償電流Irが小さくなるので、シミー現象が発生していないにも拘わらずシミー補償電流Irが目標電流Itに含まれることに起因して操舵フィーリングが悪化することを抑制することができる。
【0046】
また、上述したシミー補償電流算出部27においては、シミー補償ベース電流算出部273が算出する、シミー補償電流Irのベースとなるシミー補償ベース電流Irbは、トルク変化量演算処理部272にて演算された抽出トルクと逆位相となるトルク変化量に応じた値である。また、
図4および
図9に示すように、トルクセンサ109にて検出された検出トルクTとトルク変化量とが逆位相(逆符号(一方がプラスである場合は他方がマイナス))である場合には、ベース電流Ibとシミー補償ベース電流Irbとは逆符号(一方がプラスである場合は他方がマイナス)である。それゆえ、シミー補償電流算出部27は、シミー現象に起因して運転者に伝わる振動を電動モータ110にて打ち消すための電流を、精度高く算出することができる。
【0047】
なお、上述した実施形態においては、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクおよび前輪150を介してピニオンシャフト106に伝わる外乱トルクを検出するトルクセンサ109として、トーションバー112の捩れ量を基に検出するセンサを用いているが特に限定されない。例えば、磁歪に起因する磁気特性の変化に基づいてトルクを検出する磁歪式のセンサであってもよい。
また、上述した実施形態においては、シミー現象に起因する振動を抑制する制御を、ピニオン型の電動パワーステアリングに適用した場合について説明したが、特に限定されない。ダブルピニオン型やラックアシスト型など他の形式の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。