【実施例】
【0030】
〔1〕製剤例1〜3および比較例1〜2の調製
製剤例1
メスフラスコに2−[[[2−[(ヒドロキシアセチル)アミノ]−4−ピリジニル]メチル]チオ]−N−[4−(トリフルオロメトキシ)フェニル]−3−ピリジンカルボキサミド(以下「化合物A」とする。)0.025gを入れ、0.4%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)水溶液0.5mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。つぎに滅菌済み50%トレハロース水溶液0.8mLを加え、スターラーで撹拌後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液2mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0031】
製剤例2
メスフラスコに化合物A0.125gを入れ、0.4%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)水溶液0.5mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。つぎに50%トレハロース水溶液0.8mLを加え、スターラーで撹拌後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液2mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0032】
製剤例3
メスフラスコに化合物0.250gを入れ、0.4%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)水溶液0.5mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。つぎに滅菌済み50%トレハロース水溶液0.8mLを加え、スターラーで撹拌後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液2mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0033】
比較例1
メスフラスコに化合物A0.125gを入れ、0.4%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)水溶液0.5mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。つぎに50%トレハロース水溶液0.8mLを加え、スターラーで撹拌後、注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0034】
比較例2
メスフラスコに化合物A0.125gを入れ、0.4%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)水溶液0.5mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。つぎに1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.8mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。しかしながら、得られた注射剤は凝集物を含む不均一な懸濁液となったため、その後の溶出試験には使用できなかった。
【0035】
〔2〕製剤例1〜3および比較例1〜2で得られた各注射剤の溶出試験
1%モノステアリン酸ポリエチレングリコール(MYS40)含有10mM中性リン酸緩衝液(ダルベッコPBS)50mLを入れたガラス試験管に、製剤例1〜3、比較例1で得られた各注射剤を0.02mLずつ加え、37℃にて緩やかに振とうした。溶出試験開始1日後および3日後に1mLの溶出液を回収し、マイクロプレートリーダーを用いて270nm吸光度から溶出液中の化合物Aの濃度を算出した。なお、検量線には0.000313、0.000625、0.00125、0.0025、0.005および0.01mg/mLの化合物Aを1%MYS40含有10mM中性リン酸緩衝液(ダルベッコPBS)に溶解させた溶液を用いた。これらの試験結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1より、製剤例1〜3はいずれも、薬剤(化合物A)について良好な徐放化効果(薬物放出率)を示すのに対し、ジェランガムを含まない比較例1は薬物徐放性が良好ではなく、また、トレハロースを含まない比較例2は凝集物を含み、注射剤としては適用できない。
【0038】
〔3〕製剤例4〜8の調製
製剤例4
メスフラスコに化合物A50mgを入れ、50%トレハロース水溶液0.2mLに加えてスターラーおよび超音波処理にて撹拌分散した後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.8mLを加え、再度撹拌分散して注射剤を調製した。
【0039】
製剤例5
メスフラスコに化合物A50mgを入れ、25%トレハロース水溶液0.2mLに加えてスターラーおよび超音波処理にて撹拌分散した後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.8mLを加え、再度撹拌分散して注射剤を調製した。
【0040】
製剤例6
メスフラスコに化合物A50mgを入れ、50%トレハロース水溶液0.1mLに加えてスターラーおよび超音波処理にて撹拌分散した後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.9mLを加え、再度撹拌分散して注射剤を調製した。
【0041】
製剤例7
メスフラスコに化合物A50mgを入れ、50%トレハロース水溶液0.1mLに加えてスターラーおよび超音波処理にて撹拌分散した後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.6mLおよび注射用水0.3mLを加え、再度撹拌分散して注射剤を調製した。
【0042】
製剤例8
メスフラスコに化合物A50mgを入れ、50%トレハロース水溶液を0.1mLに加えてスターラーおよび超音波処理にて撹拌分散した後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.4mLおよび注射用水0.5mLを加え、再度撹拌分散して注射剤を調製した。
【0043】
〔4〕製剤例4〜8で得られた各注射剤の溶出試験
1%モノステアリン酸ポリエチレングリコール(MYS40)含有10mM中性リン酸緩衝液(ダルベッコPBS)50mLを入れたガラス試験管に、製剤例4〜8で得られた各注射剤を0.02mLずつ加え、37℃にて緩やかに振とうした。溶出試験開始1日後、3日後および7日後に0.18mLの溶出液を回収し、マイクロプレートリーダーを用いて270nm吸光度から溶出液中の化合物Aの濃度を算出した。なお、検量線には0.0008、0.004および0.02mg/mLの化合物Aを1%MYS40含有10mM中性リン酸緩衝液(ダルベッコPBS)に溶解させた溶液を用いた。これらの試験結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2より、製剤例4〜8はいずれも、薬剤(化合物A)について良好な徐放化効果(薬物放出率)を示した。
【0046】
〔5〕製剤例9および10の調製
製剤例9
メスフラスコにシロリムス30mgを入れ、50%トレハロース水溶液0.1mLに加えてスターラーおよび超音波処理にて分散させた後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.9mLを加え、再度撹拌分散して注射剤を得た。
【0047】
製剤例10
メスフラスコにシロリムス30mgを入れ、50%トレハロース水溶液0.6mLに加えてスターラーおよび超音波処理にて分散させた後、1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.4mLを加え、再度撹拌分散して注射剤を得た。
【0048】
〔6〕製剤例9および10で得られた各注射剤の溶出試験
0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)含有中性リン酸緩衝液12mLを入れたガラス試験管に、製剤例9、10で得られた各注射剤を0.015mLずつ加え、37℃にて緩やかに振とうした。溶出試験開始1日後に溶出液を10mL回収し、UPLCを用いて溶出液中のシロリムス濃度を算出した。これらの試験結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3より、製剤例9および10は、薬剤(シロリムス)について良好な徐放化効果(薬物放出率)を示した。
【0051】
〔7〕製剤例11〜13の調製
製剤例11
滅菌済みメスフラスコに化合物A0.3gを入れ、滅菌済み20%トレハロース水溶液3.75mLを加え、スターラーおよび超音波処理にて撹拌後、滅菌済み1%脱アシル型ジェランガム水溶液9mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で15mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0052】
製剤例12
滅菌済みメスフラスコに化合物A0.25gを入れ、滅菌済み0.4%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)水溶液0.5mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。さらに滅菌済み50%トレハロース水溶液0.8mLを加え、スターラーで撹拌後、滅菌済み1%脱アシル型ジェランガム水溶液2mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0053】
製剤例13
滅菌済みメスフラスコにシロリムス1gを入れ、滅菌済み20%トレハロース水溶液2mLを加え、スターラーおよび超音波処理にて撹拌後、滅菌済み1%脱アシル型ジェランガム水溶液3mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0054】
〔8〕in vivoにおける薬物放出特性試験
製剤例11〜13で得られた各注射剤を50μLずつ26ゲージの針を用いて日本白色ウサギの硝子体に投与した(N=4)。投与後経時的に(4週間後、12週間後、24週間後)ウサギから硝子体及び網脈絡膜を採取し、LC−MS/MSを用いて薬物濃度を測定した。これらの薬物放出特性試験の結果を表4〜6に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
本注射剤(製剤例11〜13)は、硝子体注射後、4週間に渡って一定以上の網脈絡膜中薬剤濃度を維持し、投与4週後では硝子体中に77%以上の薬剤が残存し、投与12週後でも硝子体中に68%以上の薬剤が残存していることから、薬物徐放効果を長期間持続することが予想される。また、製剤例11、12と製剤例13では含有する薬物が異なることから、本注射剤は種々の薬物を用いても共通する徐放効果を奏することが示唆された。
【0059】
〔8〕製剤例11で得られた注射剤のデポ形成能
製剤例11の注射剤をウサギの硝子体内へ注射投与し、その4週間後に眼球を摘出し、ドライアイスで眼球を凍結し、剃刀を用いて毛様体扁平部から前眼部を除去した。さらに攝子などを用いて凍結状態で網脈絡膜と硝子体とを分離し、硝子体融解後に硝子体中のデポを撮影した。この結果を
図1に示す。なお、
図1中のアスタリスクは、硝子体ゲルの破砕のために用いたビーズ(直径3mm)を示す。
【0060】
図1に示されるように、硝子体中にはデポが形成されており(中央やや左側に見える白色状物)、本発明の注射剤が硝子体液に接触してデポを形成することが確認された。
【0061】
〔8〕製剤例14〜19の調製
製剤例14
メスフラスコにベタメタゾン50mgを入れ、50%トレハロース水溶液1mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。1%脱アシル型ジェランガム水溶液3mLを加えて再度スターラーで撹拌し、さらに注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0062】
製剤例15〜19
製剤例14のベタメタゾン50mgに代えてジクロフェナク50mg、インドメタシン50mg、ブリンゾラミド50mg、アゼラスチン50mg、IgG(from human serum)50mgを用い、製剤例14と同様の操作を行って、製剤例15〜19の各注射剤を調製した。
【0063】
製剤例14〜19の各注射剤の配合組成を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
〔9〕デポ形成確認試験
1%モノステアリン酸ポリエチレングリコール(MYS40)含有10mM中性リン酸緩衝液(ダルベッコPBS)15mLを入れたガラス試験管に、製剤例14〜19の各注射剤を0.020mLずつ37℃にて添加した。製剤例14〜19の注射剤を入れた各試験管にはどれも、白色のデポが形成されていることを目視で確認した。
【0066】
〔10〕製剤例20〜23の調製
製剤例20
サンプル瓶にベタメタゾン50mgを入れ、50%トレハロース水溶液0.05mLを加え、スターラーと超音波で分散させた。1%脱アシル型ジェランガム水溶液4mLを加えて再度スターラーで撹拌し、均一になった後にメスフラスコに移し、注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。なお、調製途中で固化した場合は、適宜50℃への加温を行った。
【0067】
製剤例21
ベタメタゾン1.5gを50%トレハロース水溶液2mLに、メノウ乳鉢を用いて分散させた。1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.15mLを加えてボルテックスあるいはペンシルミキサーで撹拌し、均一になった後にメスフラスコに移し、さらに50%トレハロース水溶液2mLを共洗いしながら加え、注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0068】
製剤例22
ベタメタゾン3gを50%トレハロース水溶液5mLに、メノウ乳鉢を用いて分散させた。1%脱アシル型ジェランガム水溶液1mLを加えてボルテックスあるいはペンシルミキサーで撹拌し、均一になった後にメスフラスコに移し、注射用水で10mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0069】
製剤例23
ベタメタゾン2gを50%トレハロース水溶液2mLに、メノウ乳鉢を用いて分散し、さらに1%脱アシル型ジェランガム水溶液0.5mLを加えて混合した。メスフラスコに移し、ペンシルミキサーで撹拌しながらさらに50%トレハロース水溶液2mLを共洗いしながら加え、注射用水で5mLにメスアップして注射剤を調製した。
【0070】
製剤例20〜23の各注射剤の配合組成を表8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
〔11〕デポ形成確認試験
ダルベッコPBS15mLを入れたガラス試験管に、製剤例20〜23の各注射剤を0.020mLずつ37℃にて添加した。製剤例20〜23の注射剤を入れた各試験管にはどれも、白色のデポが形成されていることを目視で確認した。