【課題を解決するための手段】
【0010】
この技術的課題を解決するために、本発明は、L−リボザイムがL−RNAの標的配列の範囲内でL−RNAを切断することができる、製薬組成物を製造するためのL−リボザイムの使用を教示し、特に、L−RNAを含む治療分子の投与に基づく望ましくない生理学的副反応、特に内在性RNA(調節RNAを含む)との免疫反応および/または望ましくない酵素反応に対処するための製薬組成物を製造するためのL−リボザイムの使用を教示する。
【0011】
始めに、本発明は、従来の推測とは異なり、シュピーゲルマーが副作用のないものとは必ずしも限らず、有機体中で自然に生じる核酸を切断し、したがって予想不能な副作用を生み出す可能性があるという意外な認識に基づく。本発明は、この認識に基づき、投与されるシュピーゲルマーを特異的に切断し、それにより特に望ましくない副反応に関わるシュピーゲルマーの生理学的効力をなくすL−リボザイムを利用可能にするという技術的な教示を基礎とする。シュピーゲルマーの例としては以下のものがある。シュピーゲルマーNOXC89、NOXA42、NOXA50、NOXB11、N0XA12、NOXE36、NOXF37(すべてNOXXON AG)、Eli Lilly & Co.のシュピーゲルマー、NU172(ARCA biopharma Inc.)、ARCHEMIX、ARC1905、ARC1779、ARC183、ARC184、E10030、NU172、REG2、REGl(すべてArchemix Corp.)、AS1411、AS1405(どちらもAntisoma Research Ltd.)、DsiRNA(Dicerna Pharmaceuticals Inc.)、RNAアプタマーBEXCORE(BexCore Inc.)、ELAN(Elan Corp Plc.)、またはMacugen。したがって、シュピーゲルマーを投与したときに、望ましくない副反応の観察の過程でそのようなリボザイムを投与するにより、望ましくない副作用の原因を代謝から迅速に、効果的に、高い選択性で取り除くことができ、他方でまたL−リボザイムの投与の副作用の危険は非常に低い。これは、L−ヌクレオチドからL−リボザイムが構成されていることに基づくだけでなく、さらに、L−リボザイムの高い選択性、すなわちシュピーゲルマーの標的配列に向けられる高い選択性にも基づく。その結果、治療分野で使用されるシュピーゲルマーに対する高い有効性および高い選択性をもつ解毒剤が得られ、シュピーゲルマーの望ましくない副反応を効果的に、迅速に、副作用なしで防ぐことができる。
【0012】
基本的には、D−ヌクレオチドから構成されたものであれL−ヌクレオチドから構成されたものであれ各RNA分子に対して、特異的なリボザイムを形成することができ、このリボザイムは、RNA分子の標的配列を切断し、したがってそれを切断する。すなわち、リボザイムの重要な特性は、標的配列へのリボザイムの配列特異的結合である。しかし、これはまた、各任意の標的配列に関してリボザイムの部分配列を生成することができることを意味する。これは、切断箇所を含むリボザイムの部分配列が標的配列とハイブリダイゼーションすることによって行われる。したがって、本発明の範囲内では、特定のリボザイム部分配列のみを特定の標的配列に関して構造的に提供することは妥当でない。したがって、実施例で提示する標的配列およびリボザイム部分配列は例にすぎず、当業者は、シュピーゲルマーの各所与の標的配列に関して適切なリボザイム部分配列、すなわちハイブリダイゼーションするリボザイム部分配列を容易に特定し、リボザイム部分配列に関する情報に基づいて、当技術分野で一般的な手段を用いてリボザイムを合成することができる。
【0013】
基本的には、治療分子がシュピーゲルマーでよく、またはL−RNAがアプタマーと共有結合することができる。後者は、例えばヌクレアーゼに対して安定なアプタマーの場合に行うことができる。ここで、治療分野での本発明の利点は、L−RNAを切断することによってヌクレアーゼに対するアプタマーを得ることができることにあり、このとき、最終的には、やはり副作用を引き起こす可能性があるアプタマーも血清から比較的短時間で排除することができる。
【0014】
しかしまた、L−リボザイムをアプタマーまたは抗体と共有結合させることもできる。この場合、例えば、細胞表面とのアプタマーまたは抗体の相互作用によりL−リボザイムとアプタマーまたは抗体からなる全体構造が細胞内に導入されるようにアプタマーまたは抗体が選択される。
【0015】
好ましくは、L−リボザイムはハンマーヘッド型リボザイムである。ハンマーヘッド型リボザイムは、とりわけトリプレットGUH(Hはグアニンでなく、好ましくはCである)またはデュプレットUH(Hは同上)を有する保存領域を有する。前者については
図1を参照されたい。後者については、Usman,N.他、The Journal of Clinical Investigation,106(10):1197−1201(2000)(非特許文献9)を参照されたい。ここで、ヌクレオチドN’およびNは、標的配列の条件に従ってStem I〜IIIの範囲内で選択される任意の塩基である。本質的には、ある標的配列に対してL−リボザイムを構成するとき、まず、例えばシュピーゲルマーの標的配列を規定する。この標的配列は、トリプレットGUHまたはデュプレットUHを含まなければならない。次いで、トリプレットGUHまたはデュプレットUHの両端に、典型的にはそれぞれ4〜10個または4〜11個、特に6〜8個または6〜9個のヌクレオチドが付加され、その配列は標的配列の配列に相当する。すなわち、11〜23個のヌクレオチドを含有する、トリプレットGUHまたはデュプレットUHを含む標的配列のコピーを得る。次いで、
図1で見られるように、コピーの両端の間に触媒ハンマーヘッド配列が追加される。適切な触媒ハンマーヘッド配列の例は以下のものである。
5’−CUGANGAGN’CN’NNNNNGNCGAAAC−3’、または
5’−CUGANGAGN’CN’NNNNNGNCGAAAN−3’
(N=任意の塩基。
図1において、対置するNとN’は、強制的に同じ塩基対から形成されるか、または異なる塩基対から形成される)。
【0016】
これに続いて、3’末端では、トリプレットGUHまたはデュプレットUHの5’側での標的配列を補完して配列中にヌクレオチドが位置し、5’末端では、トリプレットGUHまたはデュプレットUHの3’側での標的配列に対応して配列中にヌクレオチドが位置する。
【0017】
好ましい実施形態では、触媒ハンマーヘッドは、配列
5’−CUGANGAGNUCGGAAACGACGAAAC−3’、または
5’−CUGANGAGNUCGGAAACGACGAAAN−3’
(N=任意の塩基。ここで、
図1において、対置するNとN’は、強制的に同じ塩基対から形成されるか、または異なる塩基対から形成される)である。さらに、触媒ハンマーヘッド配列の5’末端に、配列
3’−(N)
4〜6GGUAUAGAGUGCUGAAUCC−5’
を設けることができ、それにより比較的低いMgイオン濃度しか必要としないハンマーヘッド型リボザイムが得られる。
【0018】
この製薬組成物は、少なくともL−RNAの投与量に相当する投与量、好ましくは分子数またはモルに関してL−RNAの投与量の2〜10倍に相当する投与量でL−リボザイムを含有する。L−RNAの投与量に比べた過剰投与が、すべての排除すべきL−RNAを確実に反応させて除去するために推奨される。ここで、本発明に従って提供される絶対投与量は、提示される相対量比で、厳密に所与のL−RNA投与量に適合され、したがってL−RNAに関する所与の投与量を知っていれば当業者が容易に決定して用意することができるものである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、製薬組成物が、さらに、標的配列の範囲内で二本鎖L−RNAを溶解することができる核酸、特に5〜20merを含有する。これは、標的配列に隣接する部分配列とハイブリダイゼーションする配列である。それにより、L−RNAの立体構造に基づき、通常は空間配置上の理由から到達することができないL−RNAのGUC領域にL−リボザイムが到達することができるようになる。
【0020】
さらに、本発明は、L−RNAを含む治療分子の投与に基づく望ましくない生理学的副反応、特に免疫反応に対処するための、L−リボザイムを含む製薬組成物に関する。
【0021】
この製薬組成物に関して、すべての前述および後述の実施形態が同様に当てはまる。
【0022】
最後に、本発明は、そのような製薬組成物を製造するための方法であって、L−ヌクレオチドからなる配列が生成されて合成され、その配列が、L−リボヌクレオチドからなる所定の配列を切断することができ、特にトリプレットGUCと、トリプレットの5’側および3’側に付加されたその他の点では任意の配列とを含む配列を切断することができ、L−リボザイムが、薬理学的に有効な量で、投与のために準備されている方法に関する。ここで、L−リボザイムは、典型的には生薬補助剤および/または担持剤と混合される。
【0023】
基本的には、1つまたは複数の生理学的に許容できる補助剤および/または担持剤をL−リボザイムと混合することができ、混合物は、生薬的に、局所または全身投与、特に経口投与、非経口投与用、または目標臓器への点滴もしくは注入用、注射用(例えば、経静脈投与(i.v.)、筋肉内投与(i.m.)、嚢内、または腰椎内)、歯周ポケット(歯根と歯肉の間の空間)への投与用、および/または吸入用に準備される。添加剤および/または補助剤の選択は、選択される投与形態に応じてなされる。ここで、本発明による製薬組成物の生薬投与は、当技術分野で一般的な方法で行うことができる。イオン結合のための対イオンとしては、例えばMg
++、Mn
++、Ca
++、CaCl
+、Na
+、K
+、Li
+、またはシクロヘキシルアンモニウム、またはCl
−、Br
−、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、プトレシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミンなどがある。適切な固体状または液体状の生薬調剤形態としては、例えば、顆粒、粉末、糖衣錠、錠剤、(マイクロ)カプセル、座薬、シロップ、ジュース、懸濁液、エマルジョン、滴剤、または注射溶液(経静脈投与(i.v.)、腹腔内投与(i.p.)、筋肉内投与(i.m.)、皮下投与(s.c.))、または霧化(エーロゾル)、乾燥粉末吸入用の調剤形態、経皮システム、および作用剤の遅延解放を伴う薬剤があり、その製造においては、一般的な補助剤、例えば担持剤、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨張剤、滑沢剤、潤滑剤、調味料、甘味料、溶解補助剤が使用される。また、例えば吸入用の調剤を製造するために、作用剤を、好ましくは生分解性ナノカプセルとしてカプセル化することもできる。補助剤としては、例えば、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール、および他の糖、滑石粉、乳タンパク質、ゼラチン、澱粉、セルロース、およびその誘導体、動物油および植物油、例えば肝油、ヒマワリ油、落花生油、またはゴマ油、ポリエチレングリコールおよび溶剤、例えば滅菌水、および1価または2価アルコール、例えばグリセリンが挙げられる。本発明による製薬組成物は、少なくとも1つの本発明に従って使用される物質の組合せを、既定の投与量で、製薬的に適切であり生理学的に許容できる担体、および場合によっては既定の投与量でのさらなる適切な作用剤、添加剤、または補助剤と混合し、望ましい投与形態にすることによって製造可能である。希釈剤としては、ポリグリコール、水、および緩衝溶液がある。適切な緩衝物質は、例えばN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン、N−ベンジルフェンエチルアミン、ジエチルアミン、リン酸塩、炭酸水素ナトリウム、または炭酸ナトリウムである。しかしまた、希釈剤なしで用いることもできる。生理学的に許容できる塩は、無機酸または有機酸、例えば乳酸、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、p−トルオールスルホン酸との塩、または無機もしくは有機塩基、例えばNaOH、KOH、Mg(OH)
2/ジエタノールアミン、エチレンジアミンとの塩、またはアミノ酸、例えばアルギニン、リジン、グルタミン酸などとの塩、または無機塩、例えばCaCl
2、NaCl、またはその遊離イオン、例えばCa
2+、Na
+、Cl
−、SO
42−、もしくはそれらに対応する塩、およびMg
++またはMn
++の遊離イオンとの塩、またはそれらの組合せである。これらは標準的な方法に従って製造される。好ましくは、5〜9の範囲、特に6〜8の範囲のpH値に調整される。
【0024】
遺伝子をコード化する内在性標的D−RNAの標的配列をL−リボザイムが切断することができる、少なくとも1つの内在性遺伝子の過剰発現を伴う疾患の治療または予防のための製薬組成物を製造するためのL−リボザイムの使用を含む本発明の変形形態が、独自の意義をもつ。それ以外は、上記の実施形態が同様に当てはまる。これに関係して、微生物の遺伝子をコード化する標的D−RNAの標的配列をL−リボザイムが切断することができる、哺乳類の微生物感染に関わる疾患の治療または予防のための製薬組成物を製造するためのL−リボザイムの使用を含む本発明の上述の態様のさらなる変形形態が重要である。対象となる微生物としては、とりわけウィルス、バクテリア、および菌類を挙げることができる。基本的には、少なくとも一部は分かっている遺伝子配列を有する任意の微生物を切断するためにリボザイムを使用することができ、ここで切断のための遺伝子配列の領域が選択され、これは例えば、微生物の活動および/またはその複製能力を弱化または抑制し、かつ/または細胞表面への結合を弱化または抑制する。
【0025】
この変形形態では、例えばD−RNA、特にmRNAまたは調節RNA、さらにはsiRNA、microRNA、shRNA、ncRNA、tRNA、rRNAなどの切断にもL−リボザイムを使用することができることが活用される。それにより、遺伝子またはそれによってコード化されたタンパク質を抑制することができる。これは、罹患していない有機体の発現に比べて特定の遺伝子の過剰発現を伴うすべての疾患に関して治療上有用である。
【0026】
この変形形態は、一方では、標的配列の切断が非常に高い特異性で行われ、したがってまた調節系とのその他の干渉が生じないという利点を有する。さらに、例えばsiRNAなど阻害D−核酸の使用に関わる副作用が確実に回避される。
【0027】
以下、図面および実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。