特開2015-144812(P2015-144812A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-144812(P2015-144812A)
(43)【公開日】2015年8月13日
(54)【発明の名称】靴における多層繊維材料
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20150717BHJP
【FI】
   A43B23/02 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】34
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-12156(P2015-12156)
(22)【出願日】2015年1月26日
(31)【優先権主張番号】14/165,499
(32)【優先日】2014年1月27日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】510204998
【氏名又は名称】アディダス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100147762
【弁理士】
【氏名又は名称】藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ タリアー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート レイマー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー エドワード ホームズ
(72)【発明者】
【氏名】マーク アンドリュー ヘンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】スチュワート デビット レインハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘイコ スクラブ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー チャプデレーヌ
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050HA21
4F050HA23
4F050HA26
4F050HA56
4F050HA57
4F050HA60
4F050HA63
(57)【要約】      (修正有)
【課題】靴上部体、に使用するための、非常に軽量でかつ引張り強さが向上された材料の提供。
【解決手段】多層繊維材料10の実施形態を示す。これらの実施形態では、材料10は、第1の外側層12と、第1の一方向に配向された繊維の層(すなわち、不織繊維層)14と、第1の繊維層14に対して第1の角度で配向された、第2の一方向に配向された繊維の層(すなわち、不織繊維層)16と、第1の繊維層14に対して第2の角度で配向された、第3の一方向に配向された繊維の層(すなわち、不織繊維層)18と、第2の外側層20とを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一方向に配向された複数の繊維を各繊維層が含む少なくとも3つの不織繊維層であって、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの第1の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−25°から−65°の範囲内で角度を形成し、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの第2の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して+25°から+65°の範囲内で角度を形成する、少なくとも3つの不織繊維層と、
(b)素地材料と
を含む多層材料で形成された少なくとも1つの部分を備える、靴上部体であって、
前記多層材料が、立体型上に延伸されたときに前記多層材料が変形することを可能にする伸縮特性を備える、靴上部体。
【請求項2】
前記素地材料が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの1つの不織繊維層の側に付着される第1の外側層と、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層の側に付着される第2の外側層とを含む、請求項1に記載の靴上部体。
【請求項3】
前記第1の外側層および前記第2の外側層が、熱可塑性ポリウレタン、他のポリウレタン、シリコーン、エチレンプロピレンジエン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマー、ポリ乳酸、ポリアミド、およびポリエチレンから成る群から選択された材料で形成される、請求項2に記載の靴上部体。
【請求項4】
前記第1の外側層および前記第2の外側層のうちの少なくとも一方が、熱可塑性ポリウレタンで形成されかつスクリーン印刷を含む、請求項2に記載の靴上部体。
【請求項5】
前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第1の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−30°から−60°の範囲内で角度を形成し、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第2の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して+30°から+60°の範囲内で角度を形成する、請求項1に記載の靴上部体。
【請求項6】
前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第1の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−40°から−50°の範囲内で角度を形成し、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第2の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して+40°から+50°の範囲内で角度を形成する、請求項1に記載の靴上部体。
【請求項7】
前記繊維が、超高分子量ポリエチレン、他のポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、玄武岩、アラミド、炭素、ポリマー/炭素複合材、液晶ポリマー、および高性能フィルムから成る群から選択された材料で形成される、請求項1に記載の靴上部体。
【請求項8】
実質的に前記靴上部体の全てが、前記多層材料で形成される、請求項1に記載の靴上部体。
【請求項9】
前記少なくとも3つの不織繊維層が、前記多層材料の通気性を向上させるために穿孔される、請求項8に記載の靴上部体。
【請求項10】
前記多層材料から湿気を移すためのウィッキングライニングをさらに含む、請求項8に記載の靴上部体。
【請求項11】
前記多層材料が、前記多層材料から湿気を引き離すための親水性層をさらに含む、請求項8に記載の靴上部体。
【請求項12】
踵領域、足中央領域、およびつま先領域のうちの少なくとも1つが、追加的な前記多層材料の層を含む、請求項1に記載の靴上部体。
【請求項13】
前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの少なくとも1つの不織繊維層内の前記繊維が、 高い耐久性または延伸制限の方向と一致される、請求項1に記載の靴上部体。
【請求項14】
(a)通気性材料で形成された第1の部分と、
(b)多層材料で形成された第2の部分と
を備える靴上部体であって、前記多層材料が、
(i)一方向に配向された複数の繊維を各繊維層が含む少なくとも3つの不織繊維層であって、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの第1の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−25°から−65°の範囲内で角度を形成し、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの第2の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して+25°から+65°の範囲内で角度を形成する、少なくとも3つの不織繊維層と、
(ii)素地材料と
を含み、
前記多層材料が、立体型上に延伸されたときに前記多層材料が変形することを可能にする伸縮特性を備える、靴上部体。
【請求項15】
前記素地材料が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの1つの不織繊維層の側に付着される第1の外側層と、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層の側に付着される第2の外側層とを含む、請求項14に記載の靴上部体。
【請求項16】
前記第1の外側層および前記第2の外側層が、熱可塑性ポリウレタン、他のポリウレタン、シリコーン、エチレンプロピレンジエン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマー、ポリ乳酸、ポリアミド、およびポリエチレンから成る群から選択された材料で形成される、請求項15に記載の靴上部体。
【請求項17】
前記第1の外側層および前記第2の外側層のうちの少なくとも一方が、熱可塑性ポリウレタンで形成されかつスクリーン印刷を含む、請求項15に記載の靴上部体。
【請求項18】
前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第1の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−30°から−60°の範囲内で角度を形成し、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第2の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して+30°から+60°の範囲内で角度を形成する、請求項14に記載の靴上部体。
【請求項19】
前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第1の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−40°から−50°の範囲内で角度を形成し、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの前記第2の不織繊維層内の前記繊維が、前記少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して+40°から+50°の範囲内で角度を形成する、請求項14に記載の靴上部体。
【請求項20】
前記繊維が、超高分子量ポリエチレン、他のポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、玄武岩、アラミド、炭素、ポリマー/炭素複合材、液晶ポリマー、および高性能フィルムから成る群から選択された材料で形成される、請求項14に記載の靴上部体。
【請求項21】
踵領域、足中央領域、およびつま先領域のうちの少なくとも1つが、追加的な前記多層材料の層を含む、請求項14に記載の靴上部体。
【請求項22】
前記3つの不織繊維層のうちの少なくとも1つの不織繊維層内の前記繊維が、高い耐久性または延伸制限の方向と一致される、請求項14に記載の靴上部体。
【請求項23】
(a)靴上部体と、
(b)前記靴上部体に結合された靴底体と
を備える靴であって、
前記靴上部体および前記靴底体のうちの少なくとも一方の一部分が、多層材料を含み、前記多層材料が、
(i)一方向に配向された複数の繊維を含む少なくとも1つの不織繊維層と、
(ii)素地材料と
を含み、
前記多層材料が、立体型上に延伸されたときに前記多層材料が変形することを可能にする伸縮特性を備える、靴。
【請求項24】
(a)靴上部体と、
(b)前記靴上部体に結合された靴底体と
を備える靴であって、
前記靴上部体および前記靴底体のうちの少なくとも一方の一部分が、多層材料を含み、前記多層材料が、
(i)一方向に配向された複数の繊維を各繊維層が含む不織繊維層であって、前記不織繊維層のうちの1つの不織繊維層内の前記繊維が、前記不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−25°から−65°の範囲内で角度を形成する不織繊維層と、
(ii)素地材料と
を含み、
前記多層材料が、立体型上に延伸されたときに前記多層材料が変形することを可能にする伸縮特性を備える、靴。
【請求項25】
前記素地材料が、前記不織繊維層のうちの1つの不織繊維層の側に付着される第1の外側層と、前記不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層の側に付着される第2の外側層とを含む、請求項24に記載の靴。
【請求項26】
前記第1の外側層および前記第2の外側層が、熱可塑性ポリウレタン、他のポリウレタン、シリコーン、エチレンプロピレンジエン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマー、ポリ乳酸、ポリアミド、およびポリエチレンから成る群から選択された材料で形成される、請求項25に記載の靴。
【請求項27】
前記第1の外側層および前記第2の外側層のうちの少なくとも一方が、熱可塑性ポリウレタンで形成されかつスクリーン印刷を含む、請求項25に記載の靴。
【請求項28】
前記不織繊維層のうちの1つの不織繊維層内の前記繊維が、前記不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−30°から−60°の範囲内で角度を形成する、請求項24に記載の靴。
【請求項29】
前記不織繊維層のうちの1つの不織繊維層内の前記繊維が、前記不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の前記繊維に対して−40°から−50°の角度を形成する、請求項24に記載の靴。
【請求項30】
前記繊維が、超高分子量ポリエチレン、他のポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、玄武岩、アラミド、炭素、ポリマー/炭素複合材、液晶ポリマー、および高性能フィルムから成る群から選択された材料で形成される、請求項24に記載の靴。
【請求項31】
実質的に前記靴上部体の全てが、前記多層材料で形成される、請求項24に記載の靴。
【請求項32】
踵領域、足中央領域、およびつま先領域のうちの少なくとも1つが、追加的な前記多層材料の層を含む、請求項24に記載の靴。
【請求項33】
前記不織繊維層のうちの少なくとも1つの不織繊維層内の前記繊維が、高い耐久性または延伸制限の方向と一致される、請求項24に記載の靴。
【請求項34】
前記多層材料が、前記靴底体における底板を形成する、請求項24に記載の靴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴、より詳細には靴上部体、に使用するための、非常に軽量でかつ引張り強さが向上された材料に関する。
【背景技術】
【0002】
長年にわたり、航空宇宙産業、自動車産業、海運産業、アパレル産業、スポーツ用品産業、光ファイバー産業、工業安全装置産業、軍事および警察産業、ならびに電子産業を含むがそれらに限定されない様々な産業における品質、安全性、および能率性を向上させるために、より軽量でより頑丈な材料を開発することが必要とされてきた。
【0003】
1950年代以来、何分の1かの重量で鋼鉄の何倍もの強度を有する高性能繊維の開発において、多くの画期的躍進がなされてきた。そのような高性能繊維の例には、ポリエステル繊維(Dacron(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、ナイロン繊維、アラミド繊維(Kevlar(登録商標)、Techora(登録商標)、およびTwaron(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、炭素繊維、超高分子量ポリエチレン(ultra high molecular weight polyethylene、「UHMWPE」)(Ceran(登録商標)、Dyneema(登録商標)、およびSpectra(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、液晶ポリマー(liquid crystal polymer、「LCP」)(Vectran(登録商標)の商品名で販売されている製品など)およびポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(poly(p-phenylene-2, 6-benzobisoxazole)、「PBO」)(Zylon(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、ならびにポリエチレンナフタレートPEN繊維(Pentex(登録商標)の商品名で販売されている製品など)が含まれるが、それらに限定されない。長年にわたり、これらの高性能繊維は、多層複合材および積層構造体を形成するために、織ったまたは織らない配列で使用されてきた。
【0004】
例えば、WO2012/018959は、織構成での高性能繊維の使用に関する問題について説明している。具体的には、織る工程が繊維に縮れを生じさせ、その縮れにより、繊維の強度および長期性能を大幅に低下させる応力集中ならびに摩耗点がもたらされる。
【0005】
米国特許第5,333,568号もまた、織構成に関する縮れの問題について説明しているが、一方で、一方向押出し繊維の強化シートを利用する強化不織積層材について説明しており、その強化不織積層材では、1枚または複数枚の強化シートが、ポリエステルフィルム製の外側層に積層される1枚または複数枚のユニテープ(uni-tape)を形成する。各繊維は、弾性ポリマー母材を介してユニテープに一様に埋め込まれる。高性能繊維の低い伸縮性により、積層材は、繊維配向の方向に加えられた荷重の下では延伸しないようになる。耐延伸性は、積層材が荷重下で変形することなしに柔軟でなければならない帆などの用途にとっては重要なパラメータであるが、そうした耐延伸性は、立体物体を形成するためにある程度の材料の変形が必要とされる工程で積層材が使用される場合には、問題となる。
【0006】
多くの場合、米国特許第5,333,568号で説明される材料は、ポリエステル製の2つの外側層の間にUHMWPE繊維製の2つまたは4つの層を挟んで製造され、ここで、各繊維は、様々な重量で、非バイアス(0°/90°)およびバイアス(0°/90°/+45°/−45°)の構成に重ね合わせられる。UHMWPE繊維層とともに使用されてきた他の外側層材料には、弾性熱硬化性ポリマー(ウレタンおよびシリコーンなど)、熱可塑性プラスチック(ナイロンなど)、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性ポリウレタン、および熱溶解接着剤(ポリオレフィンおよびポリアミドなど)が含まれる。
【0007】
これらの材料は、非常に軽量でかつ高い引張り強度を有しているが、しわ、騒音、不快な質感、ならびに伸縮性および柔軟性の欠如に関する問題を有する。要するに、この材料は、カサカサ音を立てるプラスチック袋の見た目と手触りを有する。さらに、使用に際して、この材料は、縫い目の強さ、編み目の剪断強さ、糸の強さ、耐UV性、および延伸性に欠けることが多い。例えば、図1および図2は、米国特許第5,333,568号で説明される材料を用いて形成された靴28を示す。これらの図に示されるように、米国特許第5,333,568号で説明される材料が立体的な靴上部体26を形成するための靴型上に配置される場合、この材料は、立体的な靴上部体の形状を作り出すための靴型上に延伸することができなかった。それどころか、この材料は、靴上部体26に必要とされる丸みを帯びた形状を形成するために、複数の箇所で切断および縫合されなければならなかった。
【0008】
米国特許第5,935,678号は、一方向に配向された高性能繊維束の第1および第2の配列を含むシート形状の積層構造体について説明している。第2の繊維束の配列は、ある角度で交差するようにして第1の繊維束の配列に貼り合わせられる。第1および第2の繊維束の配列を互いに付着させるために、交差して貼り合わせられた第1および第2の繊維束の配列の間にポリマー膜が存在する。この設計は、耐衝撃積層構造体(ballistic laminate structure)として使用するための剛性構造を提供するが、立体物体を形成するためにある程度の材料の変形が必要とされる工程で積層材が使用される場合には、問題となる。
【0009】
米国特許出願公開第2013/0219600号は、樹脂および/または溶加材で含浸されかつ様々な角度で配向されたアラミド/ポリエチレン繊維の2つまたは4つの不織繊維シートから構成された多層不織布材料について説明しており、この多層不織布材料は、防護服を製造するために使用される。重ね合わせられた不織布層は、防護服に使用するための柔軟な材料を提供する手段として、互いに結合または接着されない。この設計は、衣服に使用するために必要な柔軟性を提供するが、米国特許第5,333,568号で教示された柔軟な設計に似ており、したがって、やはり立体物体を形成するためにある程度の材料の変形を必要とする工程で積層材が使用される場合に、必要な柔軟性を提供しない。さらに、各布層は互いに結合または接着されないので、この材料は、たとえあるにしても最小限の層間剥離強さしか有さない。
【0010】
したがって、各層が一方向性高性能繊維を含み、この一方向性高性能繊維が、立体物体を形成するためにある程度の材料の変形が必要とされる工程で構造体を使用することができるように高い引張り強さとある程度の伸縮性とを有する非常に軽量な材料を提供する、不織多層複合材および/または積層構造体を提供することが望ましい。また、そのような材料の高い強度および軽量さを生かすために、そのような多層材料を戦略的な位置において靴、特に靴上部体に組み込むことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2012/018959
【特許文献2】米国特許第5,333,568号
【特許文献3】米国特許第5,935,678号
【特許文献4】米国特許出願公開第2013/0219600号
【特許文献5】米国特許第5,470,632号
【発明の概要】
【0012】
本特許証で使用される「発明(invention)」および「本発明(the invention、this invention、the present invention)」という用語は、本特許証および以下の特許請求の範囲の全主題に広範に言及するように意図されている。それらの用語を含む記述は、本明細書で説明される主題を限定するように、または以下の特許請求の範囲に記載の意図もしくは範囲を限定するように理解されるべきではない。本特許証に含まれる本発明の実施形態は、以下の特許請求の範囲によって定義されるものであり、この発明の概要によって定義されるものではない。この発明の概要は、本発明の様々な態様の大まかな概要であり、発明を実施するための形態において以下でさらに説明される概念のうちのいくつかを紹介するものである。この発明の概要は、特許請求の範囲に記載された主題の主要なまたは不可欠な特徴を特定するように意図されたものではなく、また、特許請求の範囲に記載の主題の範囲を決定するために独立して使用されるように意図されたものでもない。主題は、本特許の明細書、いずれかまたは全ての図面、および各請求項全体のうちの適切な部分を参照することによって理解されるべきである。
【0013】
本発明の特定の実施形態によれば、靴上部体が、多層材料で形成された少なくとも1つの部分を備え、この多層材料は、一方向に配向された複数の繊維を各繊維層が含む少なくとも3つの不織繊維層であって、少なくとも3つの不織繊維層のうちの第1の不織繊維層内の繊維が、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して−25°から−65°の範囲内で角度を形成し、また少なくとも3つの不織繊維層のうちの第2の不織繊維層内の繊維が、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して+25°から+65°の範囲内で角度を形成する、少なくとも3つの不織繊維層と、素地材料とを含み、ここで多層材料は、立体型上に延伸されたときに多層材料が変形することを可能にする伸縮特性を備える。
【0014】
いくつかの実施形態では、靴上部体は、通気性材料で形成された第1の部分と、多層材料で形成された第2の部分とを備える。
【0015】
いくつかの実施形態では、素地材料は、少なくとも3つの不織繊維層のうちの1つの不織繊維層の側に付着される第1の外側層と、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層の側に付着される第2の外側層とを含む。第1の外側層および第2の外側層は、熱可塑性ポリウレタン、他のポリウレタン、シリコーン、エチレンプロピレンジエン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマー、ポリ乳酸、ポリアミド、およびポリエチレンから成る群から選択された材料で形成されうる。第1の外側層および第2の外側層のうちの少なくとも一方は、熱可塑性ポリウレタンで形成されかつスクリーン印刷を含みうる。
【0016】
いくつかの実施形態では、少なくとも3つの不織繊維層のうちの第1の不織繊維層内の繊維は、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して−30°から−60°の範囲内で角度を形成し、少なくとも3つの不織繊維層のうちの第2の不織繊維層内の繊維は、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して+30°から+60°の範囲内で角度を形成する。他の実施形態では、少なくとも3つの不織繊維層のうちの第1の不織繊維層内の繊維は、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して−40°から−50°の範囲内で角度を形成し、少なくとも3つの不織繊維層のうちの第2の不織繊維層内の繊維は、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して+40°から+50°の範囲内で角度を形成する。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、繊維は、超高分子量ポリエチレン、他のポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、玄武岩、アラミド、炭素、ポリマー/炭素複合材、液晶ポリマー、および高性能フィルムから成る群から選択された材料で形成される。
【0018】
いくつかの実施形態では、実質的に靴上部体の全てが、多層材料で形成される。少なくとも3つの不織繊維層は、多層材料の通気性を向上させるために穿孔されうる。靴上部体は、多層材料から湿気を移すためのウィッキングライニング(wicking lining)をさらに含みうる。他の実施形態では、靴上部体は、多層材料から湿気を引き離すための親水性層をさらに含みうる。
【0019】
特定の実施形態では、踵領域、足中央領域、およびつま先領域のうちの少なくとも1つが、追加的な多層材料の層を含む。
【0020】
少なくとも3つの不織繊維層のうちの少なくとも1つの不織繊維層内の繊維は、高い耐久性または延伸制限の方向と一致されうる。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、靴が、靴上部体、および靴上部体に結合された靴底体を備え、靴上部体および靴底体のうちの少なくとも一方の一部分が、多層材料を含み、この多層材料は、一方向に配向された複数の繊維を含む少なくとも1つの不織繊維層、および素地材料を含み、ここで、多層材料は、立体型上に延伸されたときに多層材料が変形することを可能にする伸縮特性を備える。
【0022】
いくつかの実施形態では、靴が、靴上部体、および靴上部体に結合された靴底体を備え、靴上部体および靴底体のうちの少なくとも一方の一部分が、多層材料を含み、この多層材料は、一方向に配向された複数の繊維を各繊維層が含む不織繊維層であって、不織繊維層のうちの1つの不織繊維層内の繊維が、不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して−25°から−65°の範囲内で角度を形成する不織繊維層、および素地材料を含み、ここで、多層材料は、立体型上に延伸されたときに多層材料が変形することを可能にする伸縮特性を備える。
【0023】
いくつかの実施形態では、素地材料は、不織繊維層のうちの1つの不織繊維層の側に付着される第1の外側層と、不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層の側に付着される第2の外側層とを含む。第1の外側層および第2の外側層は、熱可塑性ポリウレタン、他のポリウレタン、シリコーン、エチレンプロピレンジエン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマー、ポリ乳酸、ポリアミド、およびポリエチレンから成る群から選択された材料で形成されうる。第1の外側層および第2の外側層のうちの少なくとも一方は、熱可塑性ポリウレタンで形成されかつスクリーン印刷を含みうる。
【0024】
いくつかの実施形態では、不織繊維層のうちの第1の不織繊維層内の繊維は、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して−30°から−60°の範囲内で角度を形成する。別の実施形態では、不織繊維層のうちの第1の不織繊維層内の繊維は、少なくとも3つの不織繊維層のうちの別の1つの不織繊維層内の繊維に対して−40°から−50°の範囲内で角度を形成する。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、繊維は、超高分子量ポリエチレン、他のポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、玄武岩、アラミド、炭素、ポリマー/炭素複合材、液晶ポリマー、および高性能フィルムから成る群から選択された材料で形成される。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、実質的に靴上部体の全てが、多層材料で形成される。いくつかの実施形態によれば、多層材料は、靴底体における底板を形成する。特定の実施形態では、踵領域、足中央領域、およびつま先領域のうちの少なくとも1つが、追加的な多層材料の層を含む。
【0027】
少なくとも3つの不織繊維層のうちの少なくとも1つの不織繊維層内の繊維は、高い耐久性または延伸制限の方向と一致されうる。
【0028】
以下の発明を実施するための形態では、以下の図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】0°/90°の配置の2つの繊維層と2つのポリエステル製外側層とを含む従来の多層繊維材料を有して形成された靴の側面図である。
図2図1の靴の斜視図である。
図3】本発明の特定の実施形態による、各繊維層の間に−40°/0°/40°の配置を有する多層繊維材料の形成工程の一例の分解上面図である。
図4】本発明の特定の実施形態による、各繊維層の間に−50°/0°/50°の配置を有する多層繊維材料の形成工程の分解上面図である。
図5】本発明の特定の実施形態による、各繊維層の間に−40°/0°/40°の配置を有する多層繊維材料の形成工程の分解上面図である。
図6】本発明の特定の実施形態による、各繊維層の間に−50°/0°/50°の配置を有する多層繊維材料の形成工程の分解上面図である。
図7a】立体型上に延伸されている本発明の特定の実施形態による多層繊維材料の左側面図である。
図7b】立体型上に延伸されている本発明の特定の実施形態による多層繊維材料の右側面図である。
図7c】立体型上に延伸されている本発明の特定の実施形態による多層繊維材料の正面図である。
図8】本発明の特定の実施形態による、多層繊維を有して形成された靴の斜視図である。
図9】本発明の特定の実施形態による、靴上部体の特定の部分に多層繊維を組み込んで形成された靴の側面図である。
図10図9の靴の斜視図である。
図11】本発明の特定の実施形態による、靴上部体の特定の部分に多層繊維を組み込んで形成された靴の側面図である。
図12図11の靴の斜視図である。
図13】本発明の特定の実施形態による、靴底体の特定の部分に多層繊維を組み込んで形成された靴の底面図である。
図14】本発明の特定の実施形態による、靴上部体の特定の部分に多層繊維を組み込んで形成された靴の側面図である。
図15図14の靴の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、本発明の実施形態の主題について、法的要件を満たすために具体的に説明するが、この説明は、必ずしも特許請求の範囲に記載の範囲を限定するように意図されたものではない。特許請求の範囲に記載の主題は、他の方法で具現化されてもよく、異なる要素またはステップを含んでいてもよく、他の既存のまたは将来の技術と関連して使用されてもよい。この説明は、個々のステップまたは要素の配置の順序について明確に説明されている場合を除いては、種々のステップもしくは要素の間のいかなる特定の順序または配列をも暗示するものとして解釈するべきでない。
【0031】
本発明の実施形態は、軽量で、引張り強さが高く、立体物体を形成するためにある程度の材料の変形を必要とする工程で使用するためのある程度の伸縮性を有する、繊維材料を提供する。繊維材料は、3つの繊維層および2つの外側層を有するものとして論述されるが、決してそのように限定されるものではない。むしろ、繊維材料の実施形態は、所望の特性を有する立体物体を得るために、必要または要望に応じて、任意の適切な数の繊維層および/または他の層を含むことができる。
【0032】
図3図6は、多層繊維材料10の実施形態を示す。これらの実施形態では、材料10は、第1の外側層12と、第1の一方向に配向された繊維の層(すなわち、不織繊維層)14と、第1の繊維層14に対して第1の角度で配向された、第2の一方向に配向された繊維の層(すなわち、不織繊維層)16と、第1の繊維層14に対して第2の角度で配向された、第3の一方向に配向された繊維の層(すなわち、不織繊維層)18と、第2の外側層20とを含む。
【0033】
図3図6に示された実施形態は、材料10が3つの繊維層を含むことを示しているが、材料10は、1つの不織繊維層14、16、もしくは18、不織繊維層の任意の組み合わせにおいて任意の適切な角度で互いに対して配向された2つの不織繊維層、または4つ以上の不織繊維層を含むがこれらに限定されない任意の適切な層の組み合わせを含むことができる。
【0034】
特定の実施形態によれば、第1および第2の外側層12、20(すなわち、素地材料)は、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane、「TPU」)で形成される。TPUは、繊維配向の方向と一致しないいずれかの方向に荷重が加えられたときに材料10が延伸できるようにする、優れた伸縮特性を提供する。TPU材料によって提供される延伸量は、荷重が加えられる方向と繊維配向の方向との間の角度が大きくなるにつれて増大する。言い換えれば、荷重が加えられる方向が繊維配向の方向からほんの少しの角度しか離れていない場合には、材料10はわずかな量だけ延伸することになるが、荷重が加えられる方向と繊維配向の方向との間でこの角度が広くなるにつれて、延伸量は増大する。他の外側層材料には、ポリウレタン(polyurethane、「PU」)、シリコーン、エチレンプロピレンジエン(ethylene propylene diene、「EPDM」)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride、「PVC」)、熱可塑性エラストマー(thermoplastic elastomer、「TPE」)、ポリ乳酸(polylactic acid、「PLA」)、ポリアミド(polyamide、「PA」)、およびポリエチレン(polyethylene、「PE])、または他の適切な材料が含まれうる。第1および第2の外側層12、20は、所望の特性を得るために、同一の材料でも異なる材料でも形成することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、第1、第2、および第3の繊維層14、16、18の繊維は、UHMWPEで形成される。特定の実施形態では、UHMWPE繊維は、鋼鉄よりも最高で15倍強く、しかしアラミドなどの材料よりも最高で40%軽量とされうる。UHMWPE繊維は、伸縮性がほとんどなく、また、非常に破損しづらい。他の繊維材料は、ポリエステル繊維(Dacron(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、ナイロン繊維、玄武岩などの天然繊維、アラミド繊維(Kevlar(登録商標)、Techora(登録商標)、およびTwaron(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、炭素繊維、高性能フィルム(ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate、「PEN」)フィルム、およびMylar(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、ポリマー/炭素複合材(単層カーボンナノチューブ(single-wall carbon nanotube、「SWCNT」)またはグラフェンなど)を含むことができ、また、ポリビニルアルコール/炭素および/またはポリアクリロニトリル/炭素の組み合わせ、液晶ポリマー(liquid crystal polymer、「LCP」)(Vectran(登録商標)の商品名で販売されている製品など)およびポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)((poly(p-phenylene-2, 6-benzobisoxazole)、「PBO」)(Zylon(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、ポリエチレン(Ceran(登録商標)、Dyneema(登録商標)、およびSpectra(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、ならびにPEN繊維(Pentex(登録商標)の商品名で販売されている製品など)、または他の適切な材料を含むことができるが、それらに限定されない。第1、第2、および第3の繊維層14、16、18は、所望の特性を得るために、同一の材料でも異なる材料でも形成することができる。
【0036】
特定の実施形態では、個々の繊維層内の繊維は、同一の特性を備えた同一の材料で形成されうる。他の実施形態では、個々の繊維層のうちの1つまたは複数が、少なくとも2種類の異なる材料で形成された繊維を含みうる。繊維は、個々の繊維層の材料特性を変化させるために、個々の繊維層内でゾーンを形成するようにまたは特定の順序で配列されうる。
【0037】
特定の実施形態では、繊維は、1デニール未満の厚さを有する。材料10の引裂き強さは、各繊維層14、16、18間の交差点の密度または数に影響される。繊維の直径を小さくすること、および/または一定の領域における糸の本数を多くすることにより、より高い交差密度が得られる。しかし、所望の特性を得るために、種々の繊維層14、16、18において様々な繊維の厚さおよび密度を使用できることは、当業者には理解されよう。
【0038】
各繊維層14、16、18は、各繊維を樹脂で被覆し、そして各繊維が側面に沿って密着して一方向性テープを形成するように樹脂で被覆した繊維を型を通じて並行に引っ張ることにより、形成することができる。各繊維層14、16、18の形成に関する1つの実現性についてのさらなる説明が、米国特許第5,333,568号および米国特許第5,470,632号に見られ、それぞれの特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
図3図6に示されるように、3つの繊維層14、16、18は、(−40°/0°/40°)から(−50°/0°/50°)の範囲内で規則的なパターンに配置される。言い換えれば、図3および図5に示された例では、第2の繊維層16は、第2の繊維層16内の繊維が第1の繊維層14内の繊維に対して−40°の角度を形成するように、第1の繊維層14に隣接して位置決めされ、第3の繊維層18は、第3の繊維層18内の繊維が第1の繊維層14内の繊維に対して+40°の角度を形成するように、第1の繊維層14の反対側に隣接して位置決めされる。特定の実施形態では、材料10における少なくとも3つの繊維層の配置は、(−25°から−65°)/0°/(+25°から+65°)の範囲、(−30°から−60°)/0°/(+30°から+60°)の範囲、(−35°から−55°)/0°/(+35°から+55°)の範囲、または(−40°から−50°)/0°/(+40°から+50°)の範囲に及びうる。さらに、これらの範囲内での各繊維層の配向は、図3図6に示される(−40°/0°/40°)および(−50°/0°/50°)の実施形態のように対称であってもよいが、これらの範囲内での各繊維層の配向が(43°/0°/−50°)または他の非対称な変形形態などの非対称の配向にされうる実施形態を有することも可能である。同様の範囲は、材料10における2つの繊維層または4つ以上の繊維層の配置に使用することができる。
【0040】
(−90°/0°/45°)の非対称パターンなどの他のパターンが試験されたが、しわやひだなしに材料10を立体物体に形成できるようにするのに適切な延伸量を提供するものではなかった。繊維を結合して各繊維層14、16、18の一方向性テープを形成する繊維上の樹脂被覆はまた、繊維層14、16、18を互いに接着するために、熱および/または圧力で活性化されてもよい。
【0041】
図3図6に示されるように、外側層12、20(すなわち、素地材料)は、3つの繊維層14、16、18の上方および下方に配置される。外側層12、20を繊維層16および18に接合するために、熱および/または圧力に加えて、接着剤が使用されうる。得られる材料10は、平面的な複合材シートである。
【0042】
外側層12、20がTPUで形成される実施形態では、得られる材料10は、良好な外観および感触を有し、また、外側層12、20は、他のTPU層および/または他のTPU要素などの他の要素に容易に接続することができる表面を提供する。例えば、履物の場合、材料10は、ヒールカウンター、ミッドソール、またはTPU箔に容易に接続することができる。
【0043】
特定の例示的な実施形態による材料10の特徴を以下に明記する。しかし、当業者であれば、以下の表に示されていない材料10の他の組み合わせおよび/または特性が存在しうることを理解するはずであるため、これらの特徴は例に過ぎない。
【0044】
【表1】
【0045】
上記の表に記載された値は、材料10の2つの実施形態の単一試料を試験することで得られた試験結果を表す。これらの実施形態の追加的な試料に対する試験結果は、上記の表に示された値よりも高いまたは低い値をもたらす可能性がある。
【0046】
比較として、−90°/0°/45°ポリエステル製外側層および−90°/0°/45°TPU製外側層において実証された伸縮量は、0°方向および90°方向の両方においてほぼ同一であり、また、引張り強さの量も、0°方向および90°方向の両方において同一である。したがって、上記の表で説明される材料10の実施形態において0°方向対90°方向で示された伸縮性と引張り強さとの間の差異は、各繊維層間の角度が変更されるにつれて本明細書で説明される材料10の様々な実施形態によって示されるはずである材料特性の変化を表す。
【0047】
上記の表における値は、材料10の種々の実施形態によって得られうる結果の全範囲を表すものではないが、これらの結果は、90°方向における伸縮性利得の大きさが、相当する大きさの90°方向における引張り強さ損失を生じさせていないことを示している。実際のところ、90°方向における伸縮性の増加量は、90度方向における引張り強さ損失のおおよそ2倍である。この驚くべき結果は、伸縮性および引張り強さが逆比的かつ直線的には相関しないことを証明しているが、むしろ、材料10の引張り強さ特性を過度に犠牲にすることなしに伸縮性を最大限に高められることを示している。
【0048】
TPUで形成された外側層12、20の使用はまた、図8に示されるように、容易に印刷または着色することが可能な表面を提供する。材料10は通常半透明の外観を有するので、材料10の内側を形成することになる側に印刷を施すことができ、この印刷は、材料10を通して目に見えるようになる。結果として、材料10自体が、印刷を保護するための被覆として機能する。他の実施形態では、印刷は、材料10の外側を形成することになる側に施される場合があり、また、印刷を保護するために、追加的な被覆層が適用されうる。TPU製表面への印刷は、スクリーン印刷を含むがこれに限定されない既知の方法で達成することができる。
【0049】
他の実施形態では、図5図6に示されるように、印刷または着色された追加的な織物層22が、材料10に含まれうる。層22は、外側層12、20のどちらかに接着される外側層を形成するか、または、層12、14、16、18、20のうちのいずれかの層の間に配置されうる。
【0050】
繊維層14、16、18は通常、通気性を少しも持たないので、材料の通気性を向上させるために、好ましくは繊維と繊維との間で、繊維層14、16、18の穿孔が含まれうる。他の実施形態では、図7a〜図7cおよび図9図10に示されるように、材料10から、材料10に隣接して配置されうる通気性のあるメッシュ領域などの材料10で形成されていない他の領域に湿気を移すために、ウィッキングライニングが含まれうる。さらに他の実施形態では、材料10は、材料10から汗または他の湿気を引き離すように設計された親水性層を含みうる。材料10は、その通気性を向上させるために、これらの実施形態のうちの1つ、全て、または任意の実施形態の組み合わせを含むことができる。
【0051】
特定の実施形態では、材料10は次いで、立体物体を形成するために、特定の構造に延伸される。例えば、図7a〜図7cに示されるように、材料10は、立体型124の形状に合うように、延伸を通じて変形される。これらの実施形態では、型124は、靴128のための靴上部体126を形成するために使用される靴型である。しかし、材料10は、滑らかな外観を有して材料10を型124に合わせるために材料10の多少の変形が必要とされるいかなる立体型124にも合うように使用されうることが、当業者には理解されるであろう。
【0052】
立体型124上に材料10を延伸することによる材料10の変形を通じて形成された完成した立体製品が、図8に示されている。図8に示された製品は靴128であるが、上述の材料10は、材料10を適切な立体物体に延伸および変形させるための任意の立体型124とともに使用されうることが、当業者には理解されるであろう。図8に示されるように、また、図1図2と比較すると、材料10は、求められる立体形状を得るために材料10を切断または縫合する必要なしに、滑らかな表面外観を有する。これらの実施形態では、靴上部体126の足中央領域130および踵領域132の安定化のために、追加的な材料10の層が加えられうる。
【0053】
特定の実施形態では、靴上部体126全体を材料10で形成するのではなく、材料10は、材料10の高い強度および軽量さを生かすための戦略的な位置において、靴上部体126に組み込まれうる。さらに、材料10内の繊維の方向性は、靴上部体126において特定の特性を得るために使用されうる。例えば、所望の特性を得るために、1つまたは複数の繊維方向が、高い耐久性または延伸制限の方向と一致されうる。
【0054】
例えば、一方向性繊維材料10は、メッシュ材料、革材料、または合成材料などの他の材料と組み合わせることができ、また、これらの他の材料の上および/または隣に配置することができる。一方向性繊維材料10が使用される領域または層はまた、軽量な材料を提供することに加えて、他の目的に役立つことができる。例えば、材料10は、靴128の耐久性、安定性、延伸制限、および立体形状の構造を提供するために使用されうる。
【0055】
さらに、例えば、材料の延伸が特定の1つの方向だけに制限されるように1つの一方向性繊維層だけが存在する特定の領域において、靴128上で様々な一方向性繊維材料10を使用することができる。例えば、延伸性に乏しい(−90°/0°/45°などの)材料を、靴128のうちの隣同士になる領域において、本明細書で説明された材料10の実施形態と組み合わせることができる。
【0056】
靴228の特定の実施形態では、図9図10に示されるように、材料10は、靴上部体226の足中央領域230および踵領域232に組み込まれるが、靴上部体226の足前方領域234は、通気性材料238で形成される。より高い強度が求められる領域に材料10を戦略的に配置すること、および、強度がそれほど重要でない領域に通気性材料238を使用することにより、靴上部体226は、材料10の高強度でかつ軽量という特性がより重要な特性とされる場所にそれらの特性を利用すると同時に、高度に通気性のある靴を維持する。図9図10に示されるように、2つの材料10、238は、材料10および通気性材料238の両方において整合印刷ディテールによって混合され、それにより継ぎ目のない見た目が生み出される。通気性材料238は、メッシュ、ポリエステル、ポリアミド、およびスパンデックス/エラステインを含むことができるが、それらに限定されない。
【0057】
図11図12は、靴328の靴上部体326に材料10を戦略的に組み込むさらなる実施形態の例として、靴上部体326の足前方領域334および足中央領域330での材料10の使用を示している。これらの実施形態では、足中央領域330およびつま先領域336の安定化のために、追加的な別個の材料10の層が加えられうる。
【0058】
戦略的な位置での材料10の使用は、靴上部体に限定されるものではない。例えば図13に示されるように、材料10は、靴328の靴底体342において棒ばねまたは底板340を形成するために使用されうる。材料10は、底部が曲げられたときに繊維が張力をもたらすように実装される。材料10の高い強度および軽量性により、プラスチックで従来形成されていた構成要素の代わりに本繊維製品を使用することが可能になる。
【0059】
上述の靴128の機械的態様に加えて、材料10は、靴底体342(底板を含む)の伸びおよび曲げの挙動を制御するために通常使用されるいかなる機械的用途にも使用することができる。そのような用途において材料10を使用することの利点は、足前方領域および足中央領域の自由な動きを得ることができ、それが同時に曲げ挙動を制限することである。要するに、大抵の従来の用途とは異なり、材料10は、特定の望ましくない動きを制限しながらも他の望ましい動きを可能にするように構成される。したがって、靴底体342に材料10を戦略的に使用することにより、重量が増すことなしに安定性が向上される。
【0060】
さらに他の実施形態では、材料10は、他の材料で形成された靴上部体426の一部分を覆って組み込まれ、また、靴紐444を補強するために使用されうる。これらの実施形態では、材料10は、複数の好ましい繊維方向を得るために、角度をつけて材料10自体が重なるように折り畳まれる。
【0061】
図に示されたまたは上述された様々な構成要素の配置だけでなく、図示または説明されていない構成要素およびステップも想定される。同様に、いくつかの特徴および部分的組み合わせが有益であり、また、他の特徴および部分的組み合わせに関係なく利用することができる。本発明の実施形態は、例示的かつ非限定的な目的のために説明されてきた。また、本特許の読者には、代替的な実施形態が明らかになるであろう。したがって、本発明は、上述されたまたは図に示された実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載の範囲から逸脱することなく様々な実施形態および修正形態を作成することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 多層繊維材料、一方向性繊維材料、材料
12 第1の外側層
14 第1の繊維層
16 第2の繊維層
18 第3の繊維層
20 第2の外側層
22 織物層
26 靴上部体
28 靴
124 立体型
126 靴上部体
128 靴
130 足中央領域
132 踵領域
226 靴上部体
228 靴
230 足中央領域
232 踵領域
234 足前方領域
238 通気性材料
326 靴上部体
328 靴
330 足中央領域
334 足前方領域
336 つま先領域
340 底板
342 靴底体
426 靴上部体
444 靴紐
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【外国語明細書】
2015144812000001.pdf