【課題】生成するカーボンナノチューブの長さの基板間均一性及び基板内均一性を格段に向上でき、ひいては大量生産性を飛躍的に高めることができるカーボンナノチューブの製造装置を提供する。
【解決手段】表面に触媒を担持した複数の基板X上に炭素源を含む原料ガスを供給し、化学気相成長法により前記基板X上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置1であって、一端側から前記原料ガスを供給し、他端側から化学気相成長法による反応後ガスを排出する筒状の反応炉2と、前記反応炉2内に軸方向に沿って装填され、前記基板Xの一半側外縁部と係合可能な機構を有し、前記複数の基板Xを軸方向に沿って並列するよう保持する基板ホルダー5とを備え、前記基板ホルダー5の係合機構が、複数の基板Xを反応炉2内の原料ガスの流れ方向と垂直面に対して傾斜させるよう構成されるカーボンナノチューブの製造装置。
表面に触媒を担持した複数の基板上に炭素源を含む原料ガスを供給し、化学気相成長法により前記基板上にカーボンナノチューブを成長させるカーボンナノチューブの製造装置であって、
一端側から前記原料ガスを供給し、他端側から化学気相成長法による反応後のガスを排出する筒状の反応炉と、
前記反応炉内に軸方向に沿って装填され、前記基板の一半側外縁部と係合可能な機構を有し、前記複数の基板を軸方向に沿って並列するよう保持する基板ホルダーとを備え、
前記基板ホルダーの係合機構が、複数の基板を反応炉内の原料ガスの流れ方向と垂直面に対して傾斜させるよう構成されていることを特徴とするカーボンナノチューブの製造装置。
前記基板ホルダーが、係合機構周辺に原料ガスの流れを前記複数の基板間に向けるよう基板と同様に傾斜した複数のフィンを有している請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
前記基板ホルダーの係合機構が、前記複数の基板の間隔を原料ガスの流れ方向上流側から下流側に向かって漸次大きくするよう構成されている請求項1、請求項2又は請求項3に記載のカーボンナノチューブの製造装置。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素によって作られる六員環のネットワークが一層又は多層の管状に形成された物質であり、近年、特異な電子挙動を示すことや、軽量でありながら鋼鉄の数十倍もの強度を有すること等が注目され、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料、及び生体関連材料などへの応用が期待され、その用途、品質、量産性などに対する検討が精力的に進められている。
【0003】
このCNTの製造方法としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)が提案されており、中でもCVD法が量産性に好適とされている。このCVD法によるCNTの製造方法としては、例えば特開2009−174093号公報に記載のものが挙げられ、その模式図を
図7に示す。この従来のCNT製造方法は、加熱手段を有する筒状の反応炉、この反応炉の一端に配設され、反応炉内に原料ガスを供給するガス導入制御装置、反応炉の他端に配設され、反応炉内のガス排気を制御するガス排気制御装置等を備える製造装置を用い、反応炉内に触媒を担持した複数の基板を軸方向に沿って平行に立設するよう支持し、反応炉内を所定温度に制御しつつ、ガス排気制御装置で原料ガスを反応炉内に導入し、ガス排気制御装置で反応後ガスを排気することで、化学気相成長法(CVD法)によりCNTを製造するものである。
【0004】
しかし、前記従来のCNT製造方法では、前記基板が原料ガスの流れに対して略垂直に配設されることから、反応炉内の上流側の基板により原料ガスの流れが阻害され、原料ガスが反応炉の軸方向の一端側から他端側へスムーズに流れない。そのため、前記従来のCNT製造方法では、軸方向に並列した各基板間で供給される原料ガスが不均一となり、各基板間で生成されるCNTの長さにムラが生じる。加えて、前記従来のCNT製造方法では、基板と基板との間には原料ガスが入りづらくなる。そのため、単一の基板内でも供給される原料ガスが不均一となり、各基板の面内でも生成されるCNTの長さにムラが生じる。その結果、前記従来のCNT製造方法では、生成されるCNTのムラを低減するためには、反応炉内に装填する基板の枚数を減らす必要があり、1回のプロセスで得られるCNTの量が減少するという不都合が生じている。
【0005】
さらに、前記従来のCNT製造方法で用いる筒状反応炉は、ヒーターを備える反応炉の壁面に近いほど高温となり、中心軸に行くほど低温になるのは構造上不可避である。そのため、前記従来のCNT製造方法は、反応炉内に基板を軸方向と垂直に立設する関係上、同一基板内でも反応炉の壁面に近い外縁部と反応炉の中心軸に近い中央部とで温度差が生じる。その結果、基板内における反応速度が異なり、この点でも同一基板におけるCNTの長さが不揃いになるという不都合もある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、当該CNTの製造装置の実施の形態を、適宜図面を参照しつつ詳説する。
【0016】
<第一実施形態>
図1のCNT製造装置1は、表面に触媒を担持した1又は複数の基板X上に原料ガスを供給することで、CVD法により前記基板X上にカーボンナノチューブを生成するものである。
図1のCNTの製造装置1は、具体的には反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4及び基板ホルダー5を主に備えている。
【0017】
(基板)
前記基板Xは、平板形状を有し、表面に触媒を担持している。この触媒に原料ガスが接触することで、基板Xの表面に垂直に配向したCNTが成長する。
【0018】
基板Xの材質としては、特に限定されないが、例えば石英ガラス、酸化膜付きシリコン等を用いることができる。基板Xの形状としては、特に限定されないが、例えば円形のものを用いることができる。基板Xの大きさとしては、特に限定されない。円形の基板を用いる場合、基板Xの直径としては、例えば3インチ以上5インチ以下のものを用いることができる。
【0019】
前記触媒としては、例えば鉄、ニッケル、コバルト、チタン、白金等が挙げられる。前記触媒は、蒸着、スパッタリング、ディッピング等により基板X上に担持できる。触媒は基板X上に層状に形成してもよい。触媒は、基板Xの片面に担持してもよいし、両面に同種または面毎に異なる触媒を担持してもよい。
【0020】
(反応炉)
反応炉2は、その内部に複数の基板を装填し、CVD法によりCNTを成長させる容器であり、チャンバー2a及びヒーター2bを備える。
【0021】
チャンバー2aは、基板Xを内部に収容することができ、原料ガスを内部に導入できる。チャンバー2aの材質としては、使用する原料ガスに対する耐食性やチャンバー2aの加熱温度に耐えるものであれば特に限定されないが、例えば石英ガラスやセラミック、SiC等を用いることができる。チャンバー2aの形状としては、複数の基板Xを収容できる筒状であれば特に限定されないが、円筒状のものを好適に用いることができる。チャンバー2aは、チャンバー2a内に導入されたガスが外に拡散しないように密閉されていることが好ましい。
【0022】
ヒーター2bは、チャンバー2aを加熱し、CNTが成長可能な温度を維持する。ヒーター2bとしては、例えば軸を通る平面で円筒を2分割した形状を有し、チャンバー2aの外側を上下から覆うように配設されているものを用いることができる。ヒーター2bの種類は特に制限されないが、例えば抵抗加熱式ヒーターが挙げられる。
【0023】
チャンバー2a内の加熱温度の上限としては、1300℃が好ましく、1000℃がより好ましく、900℃がさらに好ましい。一方、チャンバー2a内の加熱温度の下限としては、500℃が好ましく、700℃がより好ましく、800℃がさらに好ましい。チャンバー2a内の加熱温度が前記上限を超えると、反応速度が速くなり、得られるCNTの密度が小さくなるおそれがある。逆に、チャンバー2a内の加熱温度が前記下限未満であると、CNTの成長速度が遅くなり生産性が劣るおそれがある。チャンバー2a内の加熱温度が前記範囲であることにより、CNTをより効率よく成長させることができる。
【0024】
(原料ガス供給手段)
原料ガス供給手段3は、CNTの成長に必要な原料ガスを反応炉2に供給する。前記原料ガスとしては、例えば炭素源を含む化合物が挙げられる。前記炭素源を含む化合物としては、例えばアセチレン(C
2H
2)、メタン(C
2H
4)等の有機化合物が挙げられ、アセチレンが好ましい。アセチレンを用いることで、酸素等の支燃性ガスを用いなくても熱分解反応が自発的に継続することができる。
【0025】
また、原料ガス供給手段3は、通常、炭素源となる原料ガス以外に反応速度を制御するため窒素(N
2)、水素(H
2)等のキャリアガスを混合して供給する。このキャリアガスの供給量を調整することで原料ガスの分解速度を制御できる。また、キャリアガスを混合せず、原料ガスのみを供給することも可能である。この場合、原料ガスが分解し生成されるカーボンが過剰となり、基板XにCNTの成長を阻害するアモルファスカーボンが堆積しないように原料ガスの流量、CNTの成長時間等を調整する必要がある。
【0026】
原料ガスの供給量は反応炉2の大きさによるが、例えば4インチの基板を25枚装填できる反応炉2において、原料ガス供給量の下限としては、1000sccm(Standard cc per min、標準状態(25℃、1気圧)における体積流量)が好ましく、1600sccmがより好ましい。原料ガス供給量が前記下限未満である場合、炭素の供給量が不足し、CNTの成長速度が不十分となるおそれがある。一方、原料ガス供給量の上限としては、2500sccmが好ましく、2000sccmがより好ましい。原料ガス供給量が前記上限を超える場合、炭素の供給量が過剰となり、アモルファスカーボンが基板Xに堆積し易くなるおそれがある。
【0027】
原料ガスとキャリアガスとを加えた総供給量の上限としては10000sccmが好ましく、5000sccmがより好ましく、3000sccmがさらに好ましい。一方、前記総供給量の下限としては2000sccmが好ましく、2250sccmがより好ましく、2500sccmがさらに好ましい。前記総供給量が前記上限を超えると、原料ガスが反応炉2内に滞留しにくくなりCNTの成長が遅くなるおそれがある。逆に、前記総供給量が前記下限未満であると原料ガスが少ないためにCNTの成長が遅くなるおそれがある。前記総供給量を前記範囲内とすることで、CNTの生産効率を高めることができる。
【0028】
また原料ガス供給量に対するキャリアガス供給量の下限としては、200体積%が好ましく、300体積%がより好ましい。キャリアガス供給量が前記下限未満である場合、原料ガスの分解速度が速くなりすぎ、原料ガス供給の上流側の基板と下流側の基板とで均質なCNTを得られないおそれがある。一方、キャリアガス供給量の上限としては、900体積%が好ましく、800体積%がより好ましい。キャリアガス供給量が前記上限を超える場合、原料ガスの分解速度が遅くなりすぎ、CNTの成長速度が不十分となるおそれがある。
【0029】
原料ガス供給手段3は、原料ガス導入管6によってチャンバー2aの軸方向の一端側に接続されている。これにより原料ガス供給手段3は、反応炉2に原料ガスを供給することができる。
【0030】
原料ガス導入管6の材質としては、原料ガス等に対する耐食性や反応炉2の温度に耐える耐熱性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば石英ガラス、SiC等が挙げられる。
【0031】
(排気手段)
排気手段4は、排気管7を介してチャンバー2aの他端側に接続され、反応炉2内のガスの排気を行うことができる。排気手段4は、例えばロータリーポンプ等の真空ポンプを有してもよい。排気手段4により反応炉2からの排気量を調整することで、反応炉2内の圧力を制御することができる。
【0032】
(基板ホルダー)
基板ホルダー5は、反応炉2のチャンバー2a内に軸方向に沿って配設され、複数の基板Xを軸方向に沿って並列するよう保持するものである。基板ホルダー5は、具体的には支持枠体9と、この支持枠体9に形成される係合機構8を有する。
【0033】
基板ホルダー5を構成する支持枠体9は、反応炉2のチャンバー2a内の底部に軸方向に沿って平行に配設される2本の棒状体からなる。この支持枠体9の材料としては、耐熱性を有すれば特に限定されず、例えば石英、SiC、セラミックス等が挙げられる。
【0034】
係合機構8は、支持枠体9に付設され、基板Xの一半側(下側)外縁部と係合できるよう構成されている。係合機構8は、具体的には、複数の基板Xを反応炉2の軸方向に沿って所定間隔で並列するよう保持でき、かつ基板Xを所定の姿勢で係止できるよう基板Xの下方の外縁部が挿入可能な複数の溝部からなる。この溝部は、
図2に示すように、支持枠体9の軸方向と垂直面mを基準としてその側壁面が所定角度で傾斜するよう穿設されており、挿入した基板Xが反応炉2の中心軸方向と垂直面mに対して原料ガスの流れ方向側に傾斜するように構成されている。この基板Xの傾斜姿勢は、
図1(b)に示すように、詳細には表面における係合機構8の支持個所の中央Yを通る接線Zを回転中心とし、他半側(上側)外縁部のうち中央Yと対向する位置(基板Xの表面の中心を基準とする点対称位置)Pを原料ガスの流れ方向(反応炉2の中心軸方向のうちの他端向き方向)側に傾斜している。
【0035】
反応炉2の中心軸と垂直面mに対する基板Xの表面の平均傾斜角度αの下限としては、10°が好ましく、20°がより好ましい。一方、前記平均傾斜角度αの上限としては、45°が好ましく、40°がより好ましい。基板Xの平均傾斜角度αが前記下限未満であると、反応炉2内の上流側の基板Xにより原料ガスの流れGが阻害され、下流側の基板Xに十分な量の原料ガスが供給されないおそれがある。逆に、前記平均傾斜角度αが前記上限を超えると、基板Xの設置枚数が減少し、量産性が低下するおそれがある。
【0036】
反応炉2の中心軸と平行線を基準とする複数の基板Xの平均間隔dの上限としては、3cmが好ましく、2cmがより好ましく、1.7cmがさらに好ましい。一方、複数の基板Xの前記平均間隔dの下限としては、0.5cmが好ましく、1cmがより好ましく、1.3cmがさらに好ましい。基板Xの平均間隔dが前記下限未満であると、原料ガスを複数の基板X間に十分供給できにくくなる。逆に、基板Xの平均間隔dが前記上限を超えると、反応炉2内に配設できる基板Xの枚数が少なくなる。基板Xの平均間隔dを前記範囲とすることで、より多くの基板XでCNTを均一に成長させることができる。
【0037】
反応炉2内に装填する基板Xの枚数の下限としては、15枚が好ましく、25枚がより好ましい。一方、装填する基板Xの枚数の上限としては、50枚が好ましく、40枚がより好ましい。装填する枚数が前記下限未満であると、一回のプロセスで得られるCNTの量が少なく、生産効率が向上しないおそれがある。逆に、装填する枚数が前記上限を超えると、全ての基板Xに原料ガスを均等に供給することが困難になるか、又は反応炉2の巨大化を招来するおそれがある。
【0038】
(利点)
当該カーボンナノチューブの製造装置1は、反応炉2の中心軸と垂直面mを基準とし、複数の基板Xの他半側外縁部(上方)が原料ガスの流れ方向側に傾斜していることから、反応炉2内での原料ガスの一端側から他端側へのスムーズな流れが向上し、下流側の基板Xへの原料ガスの供給が促進される。そのため、当該カーボンナノチューブの製造装置1は、反応炉2内の軸方向に並列する複数の基板Xへの原料ガスの供給量の均一化が促進され、生成するCNTの長さの各基板間の均一性を向上することができる。また、当該カーボンナノチューブの製造装置1は、基板Xの他半側外縁部を反応炉2内の原料ガスの流れ方向側に傾斜させることで、基板Xの一半側外縁部に比べて他半側外縁部周辺における原料ガスの流速がより速くなり、このような基板Xの一半側の原料ガスの流速と他半側の原料ガスの流速との差に起因して圧力差が生じ、この一半側と他半側の圧力差により基板間に原料ガスが流れ込みやすくなる。従って、当該カーボンナノチューブの製造装置1は、CNTの長さの基板間均一性及び基板内均一性をさらに向上することができる。さらに、当該カーボンナノチューブの製造装置1は、複数の基板Xが上述のように傾斜していることから、基板Xが基板ホルダー5に保持された状態における基板Xの起立高さ(基板の最上部と最下部との鉛直方向の距離)が減少する。これにより、反応炉2内における壁面近くと中心軸との温度差に起因する同一基板内の外縁部と中心部との温度差を低減でき、その結果、同一基板内におけるCNTの長さの均一性も向上することができる。従って、当該カーボンナノチューブの製造装置1は、1回のプロセスで所定長さのCNTを生成可能な基板の枚数を増やすことができ、CNTの量産性が飛躍的に高められる。
【0039】
<第二実施形態>
図3のCNTの製造装置11は、反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4及び基板ホルダー12を主に備えている。基板ホルダー12は、支持枠体9、係合機構8及び阻害機構13を備えている。この反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4、基板ホルダー12の支持枠体9及び係合機構8は、前記第一実施形態のCNTの製造装置1と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0040】
阻害機構13は、板状体からなり、係合機構8の周辺、詳細には基板ホルダー5の支持枠体9の一半側(下方)に垂設される。かかる阻害機構13は、基板ホルダー5の係合機構8周辺における原料ガスの流れGをより遅くし、上述の基板Xの一半側の原料ガスの流速と他半側の原料ガスの流速との差をより大きくし、ひいては基板X間への原料ガスの流入をさらに高めることができる。
【0041】
阻害機構13の材質については、特に限定されず、前記支持枠体9及び前記係合機構8と同様のものを用いることができる。阻害機構13の形状としては、係合機構8の周辺の原料ガスの流れGを阻害し、原料ガスの流速を低下させるものであれば特に限定されないが、長方形、扇形等の平面形状を有する板状体や、これらに孔を設けた形状、厚みを増しブロック状とした板状体、球体、楕円球体、半球体、多面体等の立体的な形状などが採用される。さらに、支持枠体9の表面に凹凸を形成することで阻害機構13を形成することもできる。上記凹凸の表面に沿って流れる流体は抵抗を受けるため、上記凹凸により原料ガスの流れGを遅くすることができる。上記凹凸は支持枠体9全体に形成されてもよく、一部のみに形成されてもよい。
【0042】
阻害機構13が長方形板状体で基板Xが円形板状体である場合、基板Xに対する阻害機構13の面積比の上限としては、40%が好ましく、30%がより好ましい。一方、前記面積比の下限としては、5%が好ましく、10%が好ましい。阻害機構13の基板Xに対する面積比が前記上限を超えると、阻害機構13の専有面積が増大し、反応炉2の巨大化を招来する。逆に、阻害機構13の基板Xに対する面積比が前記下限未満であると、阻害機構13による係合機構8周辺の原料ガスの流れを阻害する働きが不十分となるおそれがある。なお、複数の阻害機構13を配設する場合、それぞれの阻害機構13が同一形状である必要は無く、互いに形状、大きさ等が異なっていてもよい。
【0043】
阻害機構13の配設位置及び配設される数については、係合機構8の近傍で、基板Xの下側を流れる原料ガスを阻害し、流速を低下させるものであれば、特に限定されない。例えば、
図3に示すように2本の支持枠体9の下側に架け渡すよう垂下する手段、2本の支持枠体9のそれぞれに板状の阻害機構13を1つずつ配設する手段、支持枠体9の下側に突起等を形成する手段等が採用される。
【0044】
阻害機構13の連結手段については、CNT成長中に阻害機構13が基板ホルダー12から脱落しないものであれば特に限定されず、例えば基板ホルダー12と阻害機構13とを一体成形する手段、基板ホルダー12と阻害機構13とを別体として形成した後に接着、クリップ、接続部品等の保持具を別途用いて阻害機構13を基板ホルダー12に固定する手段等が採用される。
【0045】
<第三実施形態>
図4のCNTの製造装置21は、反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4及び基板ホルダー22を主に備えている。基板ホルダー22は、支持枠体9、係合機構8及びフィン23を備えている。この反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4、基板ホルダー22の支持枠体9及び係合機構8は、前記第一実施形態のCNTの製造装置1と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0046】
フィン23は、板状体からなり、係合機構8の周辺、詳細には基板ホルダー5の支持枠体9の一半側(下方)に基板Xと同様に傾斜させて垂設される。このように、係合機構8周辺に原料ガスの流れGを複数の基板X間に向けるよう基板Xと同様に傾斜した複数のフィンを有することでも、基板X間に流入する原料ガスを多くすることができ、加えて、このフィン23で他半側へ原料ガスを導入することからも、上述の基板Xの一半側と他半側との原料ガスの流量差が大きくなり、ひいては上述の基板X間への原料ガス導入量の増大効果が促進される。
【0047】
フィン23の材質については、特に限定されず、前記支持枠体9と同様のものを用いることができる。フィン23の形状としては、原料ガスを基板Xの間に導入できるものであれば特に限定されないが、長方形、扇形等の平面形状が挙げられる。
【0048】
フィン23が長方形板状体で基板Xが円形板状体である場合、基板Xに対するフィン23の面積比の上限としては、50%が好ましく、40%がより好ましい。一方、前記面積比の下限としては、10%が好ましく、15%がより好ましい。フィン23の基板Xに対する面積比が前記上限を超えると、フィン23の専有面積が増大し、反応炉2の巨大化を招来する。逆に、フィン23の基板Xに対する面積比が前記下限未満であると、フィン23の基板X間への原料ガス導入作用が不十分となるおそれがある。なお、複数のフィン23を配設する場合、それぞれのフィン23が同一形状である必要は無く、互いに形状、大きさ等が異なっていてもよい。
【0049】
反応炉2の中心軸と垂直面mに対するフィン23の表面の平均傾斜角度βの下限としては、45°が好ましく、50°がより好ましい。一方、前記平均傾斜角度βの上限としては、80°が好ましく、70°がより好ましい。フィン23の平均傾斜角度βが前記下限未満であると、反応ガスが基板Xの間に十分に導入されないおそれがある。逆に、前記平均傾斜角度βが前記上限を超えると、反応炉2内の原料ガスの他半側(下方)の流れが大きく阻害され、下流側の基板X間に導入される原料ガスの量が低下するおそれがある。また、フィン23の傾斜角度βと、基板Xの傾斜角度αが一致している必要はない。
【0050】
また、フィン23の配設位置及び配設される数については、基板Xの下側を流れる原料ガスを基板Xの間に導入するものであれば特に限定されないが、基板Xの枚数とフィン23の枚数をほぼ同数とすることで、全ての基板Xの間に効率よく原料ガスを導入できる。また、複数の基板X間のうち原料ガスの流れの後方、つまり反応炉2の他端側の基板X間への原料ガスの流入が低下することから、フィン23は列設された複数の基板Xの原料ガスの流れ方向後方に設置することも好ましい。
【0051】
フィン23の連結手段については、CNT成長中にフィン23が基板ホルダー22から脱落しないものであれば特に限定されず、例えば基板ホルダー22とフィン23とを一体成形する手段、基板ホルダー22とフィン23とを別体として形成した後に接着等で基板ホルダー22に固定する手段、クリップ、接続金具等の保持具を別途用いてフィン23を基板ホルダー22に固定する手段等が採用される。
【0052】
<第四実施形態>
図5のCNTの製造装置31は、反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4及び基板ホルダー5を主に備えている。基板ホルダー5は、支持枠体9及び係合機構8を備えている。この反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4及び基板ホルダー5は、前記第一実施形態のCNTの製造装置1と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0053】
当該CNTの製造装置31では、
図5に示すように基板Xの間隔が原料ガスの流れ方向上流側ではより小さく、下流側に向かって漸次大きくなるよう構成されている。これにより、原料ガス中の炭素源の濃度が低下する反応炉2内の下流側の基板Xにより多くの原料ガスを供給することができ、その結果CNTの長さの基板間均一性をさらに向上することができる。
【0054】
<第五実施形態>
図6のCNTの製造装置41は、反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4及び基板ホルダー5を主に備えている。基板ホルダー5は、支持枠体9及び係合機構8を備えている。この反応炉2、原料ガス供給手段3、排気手段4及び基板ホルダー5は、前記第一実施形態のCNTの製造装置1と同様であるので同一番号を付して説明を省略する。
【0055】
当該CNTの製造装置41は、基板Xごとに傾斜角度αが原料ガスの流れ方向上流側から原料ガス下流側に向かって漸次大きくなるよう構成されている。このように、基板Xの傾斜角度αを原料ガス下流側に向かって漸増することで、原料ガスの下流側の流れGをよりスムーズにし、下流側の基板X間により原料ガスを流すことができる。従って、基板Xに供給される原料ガスの量をより適切なものとでき、CNTの基板X間均一性及び基板Xの面内均一性をさらに向上させることができる。
【0056】
なお、基板Xの傾斜角度αの増加率の下限としては、0.5%が好ましく、0.7%がより好ましい。一方、前記傾斜角度αの増加率の上限としては、1.1%が好ましく、0.9%がより好ましい。傾斜角度αの増加率を前記範囲内とすることで、全ての基板Xの傾斜角度αを適切なものとしつつ、原料ガスをよりスムーズに流すことができる。
【0057】
<その他の実施形態>
当該カーボンナノチューブの製造装置は、上記実施形態に限定されるものではない。つまり、上記実施形態では基板ホルダーが反応炉の下部に装填され、基板の下側の外縁部を保持するものについて説明したが、基板ホルダーが反応炉の上部等に装填され、基板の上側等の外縁部を保持するものでもよい。この場合、基板の下側等(つまり、保持箇所の対向位置)を原料ガスの流れ方向側に傾斜させるとよい。この場合、阻害機構又はフィンは基板ホルダーの上側等に配設される。加えて、基板ホルダーは、基板の一半側外縁部を保持するものを説明したが、同時に他半側外縁部も保持してもよい。この場合でも、他半側外縁部の保持はサポート的なもののため、傾斜方向は一半側外縁部を保持する場合と変わらない。
【0058】
複数の基盤の傾斜方向は、一様であるものに限定されず、種々の方向に傾斜してもよい。この場合も、原料ガスの流れをスムーズにし、下流側の基盤X間に原料ガスの供給が促進される。
【0059】
基板ホルダーの支持枠体の形状も、上記実施形態に限定されず、例えば3本以上の枠体や、板状のものもなども使用できる。