特開2015-145431(P2015-145431A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東洋新薬の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-145431(P2015-145431A)
(43)【公開日】2015年8月13日
(54)【発明の名称】ホスホジエステラーゼ3阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20150717BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20150717BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20150717BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150717BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20150717BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150717BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20150717BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150717BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150717BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61P9/04
   A61P9/10
   A61P3/10
   A61P19/02
   A61P35/00
   A61K31/7048
   A61P29/00 101
   A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-101230(P2015-101230)
(22)【出願日】2015年5月18日
(62)【分割の表示】特願2012-18693(P2012-18693)の分割
【原出願日】2012年1月31日
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(72)【発明者】
【氏名】神谷 智康
(72)【発明者】
【氏名】高野 晃
(72)【発明者】
【氏名】松塚 裕樹
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA20
4C086ZA36
4C086ZA37
4C086ZA96
4C086ZB15
4C086ZB26
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】ホスホジエステラーゼ3を阻害する効果に優れた新たな有効成分を提供し、これを含有するホスホジエステラーゼ3阻害剤を提供する。
【解決手段】葛花処理物又は葛花に含有されるイソフラボンをホスホジエステラーゼ3阻害剤の有効成分として用いる。その葛花処理物は、葛花から得られたイソフラボン含有組成物からなることが好ましい。このホスホジエステラーゼ3阻害剤は、ホスホジエステラーゼ3Bの阻害のために好適に用いられる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
又は、下記式(2):
【化2】
で表わされる化合物又はその配糖体を有効成分とすることを特徴とするホスホジエステラーゼ3阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葛花処理物を有効成分として含有するホスホジエステラーゼ3阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホジエステラーゼ(PDE)は、細胞内シグナル分子であるサイクリックAMP(cAMP)やサイクリックGMP(cGMP)の環状リン酸ジエステルを加水分解する酵素であり、それらの細胞内濃度をコントロールしている。哺乳類ではPDE1〜11の11種類のアイソザイムがあり、更にそれぞれのサブタイプが存在し、細胞内シグナル伝達の様々な場面に関与している。また、アイソザイムやそれぞれのサブタイプによって組織局在に特異性がみられることが知られている。このホスホジエステラーゼ(PDE)の活性を阻害する阻害剤は、cAMPやcGMPの細胞内濃度を直接的に制御でき、アイソザイムやそれぞれのサブタイプに応じた選択性をともなうことから、副作用の少ない治療薬等として、医薬や保健健康分野への応用が期待されている。
【0003】
このうちホスホジエステラーゼ3(PDE3)は、主に血小板・心臓・血管平滑筋に存在し、その阻害剤として、急性心不全治療薬であるミルリノンや、慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善薬であるシロスタゾールなどが知られている。
【0004】
また、下記特許文献1には、非インスリン依存性糖尿病に罹患した又は罹患する危険状態にある患者に相乗作用量の(1)スルホニル尿素、非スルホニル尿素K+ATPチャンネルブロッカー、又はスルホニル尿素及び非スルホニル尿素K+ATPチャンネルブロッカーと、(2)cAMPホスホジエステラーゼ3型阻害剤とを投与する段階を含む非インスリン依存性真性糖尿病の治療方法の発明が開示され、スルホニル尿素薬であるグリブリドとPDE3阻害剤であるミルリノンとの併用により、ラットインスリン産生細胞からのインスリンの分泌を相乗的に亢進できることが記載されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)又はその他の抗リウマチ薬又は抗関節炎薬で治療することのできる疾患の有効な治療における、PDE4又はPDE3/4阻害剤及び疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)又はその他の抗リウマチ又は抗関節炎薬の複合使用の発明が開示され、抗リウマチ薬であるメトトレキサートとPDE3/4阻害剤であるプーマフェントリン(Pumafentrine)との併用により、マウスのコラーゲン誘発関節炎の症状を相乗的に改善できることが記載されている。
【0006】
更に、下記特許文献3には、ホスホジエステラーゼIII B(PDE3B)阻害剤を有効成分とするシスプラチン効果増強剤の発明が開示され、抗癌剤であるシスプラチンとPDE3阻害剤であるシロスタゾールとの併用により、担癌マウスの腫瘍体積の増大を相乗的に抑制できることが記載されている。
【0007】
一方、葛はマメ科の大形蔓性の植物であり、その根から採取される葛澱粉は、古くから和菓子の原料として用いられている。また、その根および花は、それぞれ葛根および葛花と称し、解熱薬、鎮痛薬、鎮痙薬、発汗などの症状に対する漢方薬の原料として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−354568号公報
【特許文献2】特表2005−508983号公報
【特許文献3】特開2009−242378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ホスホジエステラーゼ阻害剤(PDE阻害剤)の医薬や保健健康分野への応用を更に広げるためには、副作用の恐れの少ない新たな有効成分の開発が望まれる。そこで本発明の目的は、ホスホジエステラーゼ3を阻害する効果に優れた新たな有効成分を提供し、これを含有するホスホジエステラーゼ3阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、葛の花部、特にその熱水抽出画分やイソフラボン画分に高いホスホジエステラーゼ3阻害活性を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の構成を有するホスホジエステラーゼ3阻害剤を提供する。
[1]葛花処理物を有効成分として含有することを特徴とするホスホジエステラーゼ3阻害剤。
[2]前記葛花処理物は、葛花から得られたイソフラボン含有組成物からなる前記[1]記載のホスホジエステラーゼ3阻害剤。
[3]ホスホジエステラーゼ3Bの阻害のために用いられる前記[1]又は[2]記載のホスホジエステラーゼ3阻害剤。
[4]下記式(1):
【化1】
又は、下記式(2):
【化2】
で表わされる化合物又はその配糖体を有効成分として含有することを特徴とするホスホジエステラーゼ3阻害剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、葛花処理物又は葛花に含有されるイソフラボンを有効成分とすることにより、副作用の恐れの少ないホスホジエステラーゼ3阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のホスホジエステラーゼ3阻害剤(以下「PDE3阻害剤」とする)の好ましい実施形態を説明する。まず、本発明のPDE3阻害剤の有効成分である葛花処理物について説明する。
【0014】
葛の花部である葛花は、フラボノイド類、特にイソフラボン類を豊富に含有している。本発明においては、蕾から全開した花までのいずれの段階で採取した葛花を用いてもよく、各段階で採取した葛花を混合して用いてもよい。葛の種類としては、特に制限はないが、プエラリア・トムソニイ(Pueraria thomsonii)、プエラリア・ロバータ(Pueraria lobata)、プエラリア・スンバーギアナ(Pueraria thunbergiana)等を例示でき、プエラリア・トムソニイ(Pueraria thomsonii)を用いることが好ましい。
【0015】
本明細書において「葛花処理物」とは、上記葛花の処理物であって、例えば、乾燥処理、粉砕処理、抽出処理などの処理を施して得られたものを含む。また、イソフラボン類等の特定の成分の含有量を高めるように、抽出、濃縮、分画、分離、精製などの処理を施して得られた処理物を含む。
【0016】
以下、葛花処理物として葛花乾燥物、葛花粉末(乾燥粉末および抽出物粉末)、及び葛花抽出物の調製方法について説明する。
【0017】
葛花乾燥物は、葛花、好ましくは蕾の段階の葛花を、日干し、熱風乾燥などの方法により乾燥することで得ることができる。水分含有量としては、10質量%またはそれ以下となるまで乾燥させることが好ましい。
【0018】
葛花粉末(乾燥粉末)は、上記葛花乾燥物を粉砕して得ることができる。粉末化は、当業者が通常用いる方法、例えば、ボールミル、ハンマーミル、ローラーミルなどを用いて行うことができる。あるいは、葛花粉末(乾燥粉末)は、採取した葛花を、マスコロイダー、スライサー、コミトロールなどを用いて破砕して葛花破砕物を得、この葛花破砕物を乾燥することによっても得ることができる。
【0019】
葛花抽出物は、例えば、葛花、葛花破砕物、葛花乾燥物、または葛花粉末(乾燥粉末)、好ましくは葛花乾燥粉末などの葛花乾燥物に溶媒を添加し、必要に応じて加温して、抽出を行い、遠心分離または濾過により抽出液を回収することによって得ることができる。
【0020】
葛花抽出物を得るために用い得る溶媒としては、水、有機溶媒、含水有機溶媒などが挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどが挙げられる。これらの中で好ましくは極性有機溶媒、より好ましくはエタノール、n−ブタノール、メタノール、アセトン、プロピレングリコール、および酢酸エチルであり、最も好ましくはエタノールである。
【0021】
抽出方法としては、加温抽出法、超臨界抽出法などが挙げられる。これらの抽出方法において、必要に応じて加圧して加温を行ってもよい。加温する場合、葛花に添加した溶媒が揮発するのを防ぐ必要がある。加温する場合、抽出温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、最も好ましくは90℃以上であり、好ましくは130℃以下、より好ましくは100℃以下である。
【0022】
抽出時間は、抽出原料から十分に可溶性成分が抽出される時間であればよく、抽出温度などに応じて適宜設定すればよい。好ましくは30分〜48時間である。例えば、抽出温度が50℃未満の場合は、6時間〜48時間であり得、50℃以上の場合は、30分〜24時間であり得る。
【0023】
得られた抽出液は、必要に応じて、減圧濃縮、凍結乾燥などの方法により濃縮または乾燥して、液状、ペースト状、または粉末(抽出物粉末)としてもよい。
【0024】
更に具体的に好ましい態様を挙げれば、葛花、葛花破砕物、葛花乾燥物、または葛花粉末(乾燥粉末)の100質量部(乾燥物換算)に対して、1〜10000質量部の熱水を添加して、熱水の温度を50〜130℃に維持しつつ0.5〜48時間加熱しながら可溶性成分の抽出を行い、遠心分離にて濾別した後、噴霧乾燥で乾燥して、粉末状の葛花抽出物を得ることが好ましい。
【0025】
このようにして得られた葛花処理物は、通常、イソフラボン類を乾燥物換算で0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜50質量%含有する組成物である。
【0026】
本発明においては、葛花処理物として、イソフラボン類の含有量を高める処理を施して得られたイソフラボン含有組成物を用いることもできる。その処理としては、含水有機溶媒等による抽出、カラムクロマト等による分画などで行えばよいが、上記葛花抽出物を、メタノール又は含水メタノール、好ましくは0.1〜99.9%メタノール含有の含水メタノールで抽出する処理を施すことにより、イソフラボン類の含有量を高めることが好ましい。このようにして、典型的には、イソフラボン類を乾燥物換算で20〜100質量%、好ましくは40〜100質量%含有するイソフラボン含有組成物を得ることができる。
【0027】
葛花には他の植物にあまり含まれない独特のイソフラボン類が多く含まれることが知られている。具体的はテクトリゲニン(Tectorigenin)、テクトリゲニン7‐O‐キシロシルグルコサイド(Tectorigenin 7-O-xylosylglucoside)、6-hydroxygenistein、6-hydroxygenistein-6,7-di-O-glucoside、テクトリジン(Tectoridin)等である。一方、大豆などの植物に多く含まれるゲニステインやダイゼインまたはそれらの配糖体については、葛花にはほとんど含まれないことが分かっている。なお、上述のイソフラボン類については、これらを標品に用いたHPLC分析などにより、定量的または定性的に確認することができる。
【0028】
また、葛花に含有されるイソフラボンである、下記式(1)で表わされる6-hydroxygenistein、又は、下記式(2)で表わされるテクトリゲニン(Tectorigenin)は、後述する実施例で示すように、それ自体でホスホジエステラーゼ3を阻害する活性を有することが確認されているので、本発明においては、有効成分としてこれらのイソフラボン又はその配糖体を用いてもよい。
【0029】
【化3】
【0030】
【化4】
【0031】
本発明のPDE3阻害剤は、上記に説明した葛花処理物又は葛花に含有されるイソフラボンを、ホスホジエステラーゼ3阻害(PDE3阻害)のための有効成分として含有するものである。
【0032】
本発明のPDE3阻害剤においては、上記有効成分以外に、他の素材を配合することに特に制限はなく、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、粉末剤、ゼリー状剤、飴状剤等の形態にして、これを経口剤として利用することができる。また、軟膏剤、クリーム剤、ジェル、ローション等の形態にして、これを皮膚外用剤として利用することができる。更に、葛花処理物をティーバッグ状に分包し、お湯に成分を浸出させてから飲むようにしてもよい。また、その服用形態としては、水、お湯、牛乳などに溶いて飲むようにしてもよい。
【0033】
本発明のPDE3阻害剤においては、上記有効成分以外に、他の素材として、食品原料を配合することもできる。食品原料としては、例えば、ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(A、C、D、E、K、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体など)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレンなど)、α−リポ酸、レシチン、ポリフェノール(フラボノイド類、これらの誘導体など)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテインなど)、キサンチン誘導体(カフェインなど)、脂肪酸、タンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸など)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩など)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、環状オリゴ糖など)、リン脂質およびその誘導体(フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、セラミドなど)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタンなど)、糖アルコール、リグナン類(セサミンなど)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガなど)などが挙げられる。また、本発明のPDE3阻害剤を食品等に添加して摂取してもよい。
【0034】
本発明のPDE3阻害剤において、上記葛花処理物又は葛花に含有されるイソフラボンの含有量は、各種の形態とした場合に、それが使用される量と有効投与量との関係を勘案して適宜定めればよく、特に制限されるものではないが、通常、固形状の形態の場合には、上記葛花処理物の乾燥物換算で0.01〜100質量%であり、また、イソフラボン量換算で0.000001〜100質量%である。また、液状又はゼリー状の形態の場合には、上記葛花処理物の乾燥物換算で0.001〜100質量%であり、また、イソフラボン量換算で0.0000001〜100質量%である。
【0035】
本発明のPDE3阻害剤の投与形態としては、体の中から作用させるため経口的に摂取してもよく、あるいは皮膚に塗布して用いてもよい。また吸引して呼吸器系に適用してもよく、その投与形態が特に制限されるものではない。
【0036】
本発明のPDE3阻害剤の投与量は、特に制限はないが、典型的に経口的に摂取する場合には、上記葛花処理物の乾燥物換算で、成人1日当りおよそ0.001〜100gである。また、イソフラボン量換算で、成人1日当りおよそ0.00001〜50gである。
【0037】
本発明のPDE3阻害剤は、前述した従来技術に示されるPDE3阻害剤と同様な作用を有しているので、例えば、急性心不全治療薬、慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善薬、非インスリン依存性糖尿病の治療剤、抗リウマチ薬、抗関節炎薬、抗癌剤などに利用することが期待される。
【0038】
また、本発明のPDE3阻害剤は、後述する実施例で示すように、PDE3のアイソザイムであるホスホジエステラーゼ3B(PDE3B)に対する阻害活性が高いので、ホスホジエステラーゼ3Bの阻害剤として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
<調製例1>(葛花抽出物)
葛(Pueraria thomsonii)の花部を熱水で抽出して抽出液を得、それを乾燥して粉末状の葛花抽出物を得た。この抽出物は、下記試験例1に同定したイソフラボン類を組成物中に10質量%含有し、その他の炭水化物約38質量%、タンパク質約19質量%、灰分約14質量%、水分約6質量%、脂質約5質量%を含有する組成物であった。
【0041】
<調製例2>(イソフラボン含有組成物)
上記葛花抽出物を含水メタノールを用いたカラムクロマトグラフィーにより分離し、それを乾燥して粉末状のイソフラボン含有組成物を得た。この組成物は、組成物中のイソフラボン類含量が約61質量%にまで高められていた。
【0042】
<試験例1>(イソフラボンの同定・定量)
常法に従い、上記葛花抽出物及びイソフラボン含有組成物に含まれるイソフラボン類を、各イソフラボン標準品を濃度標準としたHPLC法等により、同定・定量した。
【0043】
その結果、葛花にはイソフラボンとしてテクトリゲニン(Tectorigenin)、テクトリゲニン7‐O‐キシロシルグルコサイド(Tectorigenin 7-O-xylosylglucoside)、6-hydroxygenistein、6-hydroxygenistein-6,7-di-O-glucoside、テクトリジン(Tectoridin)等が含まれることが確認された。また、熱水で抽出した葛花抽出物と、更に含水メタノールを用いたカラムクロマトグラフィーにより分離したイソフラボン含有組成物とで、イソフラボン類の組成比は、ほとんど相違がみられなかった。
【0044】
<試験例2>(PDE3B阻害実験)
上記葛花抽出物及びイソフラボン含有組成物について、それらを用いたPDE3B阻害実験を行った。また、下記に示す化合物についても、これらを用いたPDE3B阻害実験を行った。
・シロスタゾール(PDE3選択的阻害剤)
・6-hydroxygenistein(葛花イソフラボン)
・IBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine)(PDE阻害剤)
・ケルセチン(Quercetin)(植物フラボノイド;PDE阻害剤)
・テクトリゲニン(Tectorigenin)(葛花イソフラボン)
・ゲニステイン(Genistein)(大豆イソフラボン)
・ダイゼイン(Daidzein)(大豆イソフラボン)
・カフェイン
【0045】
PDE3B阻害実験は、PBS Bioscience社製キット「PDE3B Assay Kit」を使用して行った。まず上記各サンプルの10mMストック試料(葛花抽出物の場合は2mMストック試料)をキット付属のバッファーを使用して段階希釈して希釈サンプルを作成した。具体的には、葛花抽出物、イソフラボン含有組成物、シロスタゾール、6-hydroxygenisteinの場合には、0.5, 1, 5, 10, 25, 50, 100, 250μMの希釈シリーズを作成し、IBMX、ケルセチンの場合には、1, 10, 25, 50, 100, 200, 300, 600μMの希釈シリーズを作成し、テクトリゲニン、ゲニステインの場合には、10, 100, 250, 500, 1000, 2000, 3000, 6000μMの希釈シリーズを作成し、ダイゼインの場合には、500, 1000, 2000, 3000, 4000, 5000, 6000μMの希釈シリーズを作成し、カフェインの場合には、10, 33, 66, 100, 333, 666, 1000, 3333, 6666μMの希釈シリーズを作成した。
【0046】
次に、酵素液として4pg/μLのホスホジエステラーゼ3B(PDE3B)を20μLと、基質液として200nMのFAM-Cyclic-3’,5’-AMP(蛍光標識cAMP)を25μLと、上記希釈シリーズ各5μLとを、96穴マイクロプレートの各ウェルに入れ混合し1時間室温でインキュベートした。その後キット付属の結合試薬(「Binding Agent」)を100倍に希釈した溶液100μLを添加し、1時間振とうさせながらインキュベートした。
【0047】
蛍光偏光度測定装置(「Flex Station3」Molecular Devices社製)を使用し、上記反応後の各ウェル中のサンプルに、励起波長 485nmの偏光をあて、それによる蛍光波長538nmの蛍光を測定して、下記式(1)に示す偏光度Pを求めた。
【0048】
【数1】
【0049】
ここでPDE3Bにより酵素分解されたFAM-Cyclic-3’,5’-AMP(蛍光標識cAMP)の酵素分解産物は、上記結合試薬に結合して、蛍光の偏光度が増加する。一方、PDE3Bの活性が阻害剤により低下すれば、その酵素分解産物の量も少なくなる。そのため、上記結合試薬に結合する酵素分解産物の量も少なくなり、結果として、蛍光の偏光度は阻害剤を入れない場合に比較して低下することになる。したがって、このキットでは偏光度を反応進行の指標とでき、その低下を反応阻害の指標とできる。そこで縦軸にこの偏光度をとり、横軸に阻害物質濃度をとり、上記被検物質ごとの希釈シリーズの結果をプロットして、常法に従いIC50値を求めた。その結果を表1にまとめて示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、葛の花部から熱水抽出して得られた葛花抽出物は、PDE3の選択的阻害剤であるシロスタゾールよりも高いPDE3B阻害活性を示した。また、葛花抽出物からイソフラボン画分を抽出したイソフラボン含有組成物も、シロスタゾールに匹敵するPDE3B阻害活性を示した。その阻害活性は、一般的なPDE阻害剤として知られているIBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine)やケルセチン(Quercetin)よりも高かった。更に、葛花に含有されるイソフラボンである、6-hydroxygenistein やテクトリゲニン(Tectorigenin)は、それ自体でPDE3B阻害活性を示すことが明らかとなった。特に、6-hydroxygenistein のPDE3B阻害活性は、顕著に高かった。
【0052】
一方、大豆イソフラボンであるゲニステイン(Genistein)やダイゼイン(Daidzein)は、PDE3B阻害活性を検出できなかった。よって、上記葛花抽出物やイソフラボン含有組成物によるPDE3B阻害活性には、葛花に特有のイソフラボンが寄与していることが示唆された。
【0053】
<製造例1>
下記表2の配合にて、調製例1で得られた葛花抽出物を含有する粉末飲料を製造した。
【0054】
【表2】
【0055】
<製造例2>
下記表3の配合にて、調製例2で得られたイソフラボン含有組成物を含有する粉末飲料を製造した。
【0056】
【表3】
【0057】
<製造例3>
下記表4の配合にて、調製例1で得られた葛花抽出物を含有するソフトカプセルを製造した。
【0058】
【表4】
【0059】
<製造例4>
下記表5の配合にて、調製例2で得られたイソフラボン含有組成物を含有するソフトカプセルを製造した。
【0060】
【表5】
【0061】
<製造例5>
下記表6の配合にて、調製例1で得られた葛花抽出物を含有する錠剤を製造した。
【0062】
【表6】
【0063】
<製造例6>
下記表7の配合にて、調製例2で得られたイソフラボン含有組成物を含有する錠剤を製造した。
【0064】
【表7】
【0065】
<製造例7>
下記表8の配合にて、調製例1で得られた葛花抽出物を含有するドリンク剤を製造した。
【0066】
【表8】
【0067】
<製造例8>
下記表9の配合にて、調製例2で得られたイソフラボン含有組成物を含有するドリンク剤を製造した。
【0068】
【表9】
【0069】
<製造例9>
下記表10の配合にて、6-hydroxygenistein(葛花イソフラボン;アグリコン)を含有する粉末飲料を製造した。なお、6-hydroxygenisteinとしては、葛花抽出物からカラムクロマトグラフィーを用いて分離・精製することにより得られたものを用いた。
【0070】
【表10】
【0071】
<製造例10>
下記表11の配合にて、テクトリゲニン(Tectorigenin)(葛花イソフラボン;アグリコン)を含有するソフトカプセルを製造した。なお、テクトリゲニンとしては、葛花抽出物からカラムクロマトグラフィーを用いて分離・精製することにより得られたものを用いた。
【0072】
【表11】
【0073】
<製造例11>
下記表12の配合にて、6-hydroxygenistein-6,7-di-O-glucoside(葛花イソフラボン;配糖体)を含有する錠剤を製造した。なお、6-hydroxygenistein-6,7-di-O-glucosideとしては、葛花抽出物からカラムクロマトグラフィーを用いて分離・精製することにより得られたものを用いた。
【0074】
【表12】
【0075】
<製造例12>
下記表13の配合にて、テクトリゲニン7‐O‐キシロシルグルコサイド(Tectorigenin 7-O-xylosylglucoside)(葛花イソフラボン;配糖体)を含有するドリンク剤を製造した。なお、テクトリゲニン7‐O‐キシロシルグルコサイドとしては、葛花抽出物からカラムクロマトグラフィーを用いて分離・精製することにより得られたものを用いた。
【0076】
【表13】