特開2015-145461(P2015-145461A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-145461マスチック接着剤を用いた車体パネル構造体の製造方法及び車体パネル構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-145461(P2015-145461A)
(43)【公開日】2015年8月13日
(54)【発明の名称】マスチック接着剤を用いた車体パネル構造体の製造方法及び車体パネル構造体
(51)【国際特許分類】
   C09J 183/04 20060101AFI20150717BHJP
   C09J 183/06 20060101ALI20150717BHJP
   B62D 25/10 20060101ALI20150717BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20150717BHJP
   B62D 29/04 20060101ALI20150717BHJP
【FI】
   C09J183/04
   C09J183/06
   B62D25/10 D
   B60J5/04 R
   B62D29/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-18340(P2014-18340)
(22)【出願日】2014年2月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591084207
【氏名又は名称】サンライズ・エム・エス・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】堀部 泰正
(72)【発明者】
【氏名】横尾 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】森本 尚夫
【テーマコード(参考)】
3D004
3D203
4J040
【Fターム(参考)】
3D004AA03
3D004AA10
3D004BA02
3D004BA03
3D004CA02
3D203AA02
3D203BB59
3D203CA08
3D203CB07
4J040JB02
4J040KA14
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA16
(57)【要約】
【課題】異種材料と鋼板、又は異種材料同士を熱硬化型マスチック接着剤と同等の性能で接合して車体パネル構造体を得る。
【解決手段】鋼板以外の異種材料からなる外板と、鋼板又は鋼板以外の異種材料からなる内板との接合部にマスチック接着剤として0〜40℃の通常環境下で硬化可能な常温硬化型変成シリコーン接着剤を塗布し、その後、外板と内板の前記接合部を重ね合わせた状態で前記通常環境下において前記変成シリコーン接着剤を硬化させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)と(B)を含む外板と内板とからなる車体パネル構造体製造方法。
(A)鋼板以外の異種材料からなる外板と、鋼板又は鋼板以外の異種材料からなる内板との接合部にマスチック接着剤として0〜40℃の通常環境下で硬化可能な常温硬化型変成シリコーン接着剤を塗布する工程、及び
(B)その後、前記外板と内板の前記接合部を重ね合わせた状態で前記通常環境下において前記マスチック接着剤を硬化させる工程。
【請求項2】
前記変成シリコーン接着剤は、
(a)分子中に加水分解性シリル基を含有する変成シリコーンポリマー、並びに
(b)硬化触媒
を含む請求項1に記載の車体パネル構造体製造方法。
【請求項3】
前記変成シリコーンポリマーはアクリル骨格を有するポリマーである請求項1又は2に記載の車体パネル構造体製造方法。
【請求項4】
前記変成シリコーンポリマーがテレケリックポリアクリレートである請求項1から3のいずれか一項に記載の車体パネル構造体製造方法。
【請求項5】
前記外板が異種材料としての繊維強化プラスチックであり、前記内板が塗装ずみの塗装鋼板である請求項1から4のいずれか一項に記載の車体パネル構造体製造方法。
【請求項6】
鋼板以外の異種材料からなる外板と、鋼板又は鋼板以外の異種材料からなる内板との接合部に介在し、マスチック接着剤としての常温硬化型変成シリコーン接着剤が硬化したものからなるマスチック材とを備え、前記外板と内板が前記マスチック材により接合されている車体パネル構造体。
【請求項7】
前記外板が異種材料としての繊維強化プラスチックであり、前記内板が塗装ずみの塗装鋼板である請求項6に記載の車体パネル構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車製造ラインにおいて外板(アウター)と内板(インナー)をマスチック材を用いて接着して車体パネル構造体を組み立てる製造方法と、フード、トランクリッド、ドア又はルーフなどの車体パネル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
マスチック材とは、外板と内板を接着するものであり、その接着により組み立てられた構造体全体の剛性を増し、外板の振動や騒音を防止する緩衝材として作用する材料を意味する。
【0003】
外板と内板がともに鋼板からなる場合、マスチック材を使用して接着する工法は、室温でマスチック接着剤を鋼板素地に塗布し、鋼板塗装後の焼付炉による加熱を利用してマスチック接着剤を硬化させる。その焼付け温度は150〜210℃に設定されることが多い。そのような用途に使用されている自動車用加熱硬化型マスチック接着剤は、ニトリルゴム(NBR)など合成ゴムを主成分とした弾性接着剤である。しかし、このような高温での焼付け処理を伴う工法では、貼り合せる外板と内板の線熱膨張係数が異なる場合、加熱により膨張した状態でマスチック材が硬化するため、硬化後に室温まで冷却する過程でそれぞれの材料の収縮率が異なることに起因して接着部がずれ、そのためマスチック材が変形し、原形に回復しようとする応力が発生する。この応力が外板パネルの意匠面を歪ませ商品性を低下させる要因となる。
【0004】
その対策として幾つか提案がなされている。その第1の提案は、常温硬化型エポキシ系接着剤などの低温硬化型マスチック材料を使用することである(特許文献1参照。)。低温硬化型マスチック材料は、低温で硬化し高温時に大きな熱膨張差が生じる前に接着した状態で硬化しているので、冷却後の歪みの程度は低減するものの、やはり歪は残る。そのため、外板の剛性が低い場合には依然として課題が残る。
【0005】
第2の提案は、異常な応力が発生した場合に粘着層が剥離する複合型シートを使用することである(特許文献2参照。)。しかし、複合型シートは、マスチック材としてのコストが高くなるばかりか、一度剥離した面を再度圧締しなければマスチック材料としての機能が発揮できないという新たな課題が生じる。
【0006】
第3の提案は、外板と内板の間のヘミング部の変形や剥がれ対策のための接着剤としてシリコーン又はシリコーン変性合成接着剤を使用することである(特許文献3参照。)。この方法では、接着剤の柔軟性によりヘミング部の熱変形に対する追従性が改善されるものの、マスチック材として使用された場合、高温での焼付け処理から冷却した後の残留歪みまでは言及されていない。
【0007】
これらの問題は、マスチック接着剤を塗布した後に塗装し、高温で焼付け処理を施する工法に起因している。
【0008】
一方、近年の自動車の軽量化に基づき、車体パネルの外板と内板の両方、又は外板をプラスチックや複合材料などの鋼鈑以外の材料(異種材料という。)に変更していく動きがある。その中でもFRP(炭素繊維強化プラスチックは鉄よりも硬くまた軽いため、自動車用鋼板の代替材料として注目をされている。FRPの代表は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−140058号公報
【特許文献2】特開2010−094834号公報
【特許文献3】特開2009−178750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
車体パネルの少なくとも一部に異種材料を使用する上で幾つかの問題点がある。例えば、FRPは電着塗装の乾燥工程に使用するような高温(150〜210℃)では変形等の異常を起こしてしまう。
【0011】
FRPの線膨張係数は、繊維方向で小さく、その直交方向で大きい。そのため、金属の線膨張係数とは大きさにおいても方向においても異なる。例えば、FRPを塗装鋼板にマスチック接着剤で接合する場合を想定すると、接着剤を硬化させるためにFRPの耐熱温度以下であるが常温よりは高い80℃とか100℃程度で加熱したとしても、両者の接合部が加熱時と冷却時で変位し、冷却後にマスチック材に応力が発生して意匠面の歪みが発生することが考えられる。
【0012】
また、加熱硬化型マスチック接着剤には、加熱硬化工程で発泡させて柔軟性を付与するものがある。そのような加熱硬化型マスチック接着剤をたとえFRPの耐熱温度以下で硬化させるとしても、発泡不足や発泡過多によるマスチック接着剤の体積変化が車体表面を歪ませる危険性があるため、その発泡性に影響する塗布量、加熱温度、加熱時間の管理が必要となる。
【0013】
以上の問題により、FRPなどの異種材料を塗装鋼板などと接着する接着工法としては、従来の加熱硬化型マスチック接着剤を用いることは困難である。
【0014】
本発明は、自動車の軽量化を目的として車体材料に通常使用する鋼板以外の異種材料を使用する場合において、異種材料と鋼板、又は異種材料同士であっても、従来の熱硬化型マスチック接着剤と同等の性能を有しており、高温環境下でも長期にわたり必要物性を維持することが可能で、かつ、意匠面歪みの対策として効果的な常温硬化型マスチック接着剤を用いた車体パネル構造体製造方法と、そのような製造方法により組み立てられた車体パネル構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の製造方法は、以下の工程(A)と(B)を含んで、外板と内板とからなる車体パネル構造体の製造方法である。
(A)鋼板以外の異種材料からなる外板と、鋼板又は鋼板以外の異種材料からなる内板との接合部にマスチック接着剤として0〜40℃の通常環境下で硬化可能な常温硬化型変成シリコーン接着剤を塗布する工程、及び
(B)その後、前記外板と内板の前記接合部を重ね合わせた状態で前記通常環境下において前記マスチック接着剤を硬化させる工程。
【0016】
好ましい実施形態では、変成シリコーン接着剤は、
(a)分子中に加水分解性シリル基を含有する変成シリコーンポリマー、並びに
(b)硬化触媒
を含むものである。
【0017】
本発明の車体パネル構造体は、鋼板以外の異種材料からなる外板と、鋼板又は鋼板以外の異種材料からなる内板と、前記外板と内板との接合部に介在し、マスチック接着剤としての常温硬化型変成シリコーン接着剤が硬化したものからなるマスチック材とを備え、前記外板と内板が前記マスチック材により接合されているものである。
【0018】
好ましい実施形態では、前記外板が異種材料としての繊維強化プラスチックであり、前記内板が塗装ずみの塗装鋼板である。
【0019】
繊維強化プラスチック(FRP)と塗装鋼板とを接合させた車体パネル構造体を製造する際に、その接合において変成シリコーンポリマーと硬化触媒を含む常温硬化型マスチック接着剤を用いて接着することにより、加熱時の線膨張係数の差が原因となる車体表面の歪みの発生を回避することができ、かつ長期の高温環境下でも接着性を失わない異種材料間の接着工法となる。
【0020】
常温硬化型接着剤をマスチック接着剤として用いることにより、意匠面の面歪みを回避する。
【0021】
また、特に、その常温硬化型接着剤として変成シリコーン接着剤を用いることにより、フードなど高温環境下での使用における耐熱耐久性があり、塗装の焼付け工程に左右されることのない接着工法となる。常温硬化型接着剤のうち、ウレタン接着剤は耐熱性に劣るため、高温環境とならない車体パネル構造体には適用できるが、高温環境となるフード部材への適用は困難である。シリコーン接着剤は、低分子シロキサンを含むため接点障害を引き起こしやすく、電装化が進む自動車に適応することには問題がある。変成シリコーン接着剤は、分子中に加水分解性シリル基を含有する変成シリコーンポリマーと硬化触媒からなる接着剤であり、この樹脂組成物を用いる接着工法により、加熱ではなく湿気で材料を硬化させFRPと塗装鋼板を接着することが可能となる。この接着工法を用いることによりFRPの変形や線膨張係数の差による歪みの発生を起こすことなく、従来の加熱硬化型マスチック接着剤を用いた接着工法によるマスチック材と同じ性能を有することができる。
【0022】
また、変成シリコーンポリマーとしてアクリル骨格を有するポリマーであることが好ましい。特に、変成シリコーンポリマーとしてテレケリックポリアクリレートを用いることにより、長期にわたり高い耐熱性を持たせることが可能であり、FRPによる大幅な車体の軽量と歪みの発生を抑制しつつ、マスチック接着剤としての特性を有することの2点を両立させることができる、画期的な接着工法となる。
【0023】
従来のマスチック接着剤を使用した接着工法は、接着剤を塗布後、車体を組み立て、車体全体を表面処理するため、マスチック接着剤塗布境界部で表面処理不足となり、電着塗装などの塗膜密着性が低くなる危険性があった。それに対し、本発明の製造方法は、変成シリコーン接着剤を使用する場合には、車体の鋼板が表面処理又は塗装された状態で接着できるため、表面処理不足による鋼板塗装の剥れ、又は塗装剥れによる鋼板の錆発生を防止できる。
【0024】
FRPの好ましい例は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。
【発明の効果】
【0025】
本発明により製造される車体パネル構造体は、車体の大幅な軽量化と同時に、従来のマスチック接着剤を用いた接着工法と同等の性能品質を実現することが可能である。また、加熱工程を含まない接着工法であるため、従来のマスチック接着剤を用いた接着工法に比べて、異種材料の変形や車体表面の歪みの発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明で使用する常温硬化型マスチック接着剤の好ましい実施形態は、分子中に加水分解性シリル基を含有する変成シリコーンポリマーと、硬化触媒を少なくとも含み、必要に応じて接着性付与剤、脱水剤、紫外線吸収剤、可塑剤、光安定剤、酸化防止剤、及び充填剤を配合して調製される。
【0027】
変成シリコーンポリマー:
変成シリコーンポリマーは、ポリオキシアルキレン又は/及びアクリル骨格を有し、加水分解性シリル基を1分子中に1個以上有する重合体である。
【0028】
アクリル骨格としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体の単量体単位であり、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸ビフェニル等が挙げられる。
【0029】
また、アクリル骨格の主鎖である(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体は、これらの単量体単位のほかに、これらと共重合性を有する単量体単位を含んでいてもよく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシ基を含有する単量体単位;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を含有する単量体単位;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を含有する単量体単位;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ基を含有する単量体単位;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートなどの単量体単位;アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチレンなどに起因する単量体単位;等が挙げられる。
【0030】
アクリル骨格を有する変成シリコーンポリマーにおいて、加水分解シリル基は分子内の末端に存在してもよく、側鎖に存在してもよく両方に存在してもよい。特に加水分解シリル基が両末端に存在するテレケリックポリアクリレートが好ましい。
具体的にテレケリックポリアクリレートとしては特開2004−59782に開示されている樹脂並びに、日本シーリング材工業会の建築用シーリング材平成24年10月1日第3版の207ページに記載されているものが挙げられる。
【0031】
変成シリコーンポリマーにおいて、加水分解性シリル基の数は、組成物の硬化速度と硬化物の機械物性(特に伸び)とのバランスに優れ、また、貯蔵安定性がより優れるという理由から、1分子あたり、1〜4個であるのが好ましい。
【0032】
変成シリコーンポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、変成シリコーンポリマーは、公知のものを用いることができる。また、市販品を用いることができ、その具体例としては、S203、S303等が挙げられる。アクリル骨格を有する変成シリコーンポリマーとしては、S943、MA903(カネカ社製)等が挙げられる。また、加水分解性シリル基含有テレケリックポリアクリレートとしては、SA100S、SA310S、SB802S(カネカ社製)等が挙げられる。
【0033】
硬化触媒:
架橋性シリル基を有するビニル系重合体は、各種縮合触媒の存在下、又は非存在下にシロキサン結合を形成することにより架橋し硬化することから、ビニル系重合体の縮合触媒を硬化触媒として添加することができる。このような縮合触媒としては、例えば、ジアルキル錫ジカルボキシレート類、ジアルキル錫アルコキシド類、ジアルキル錫の分子内配位性誘導体類、ジアルキル錫オキシドとエステル化合物との反応物、ジアルキル錫オキシドとシリケート化合物との反応物、およびこれらジアルキル錫化合物のオキシ誘導体(スタノキサン化合物)等の4価のスズ化合物類、2価のスズ化合物類、あるいはこれらと後述のアミン系化合物との反応物および混合物、モノアルキル錫類、チタン酸エステル類やチタンキレート化合物、有機アルミニウム化合物類、錫、チタン、アルミニウム以外のカルボン酸金属塩、あるいはこれらと後述のアミン系化合物との反応物および混合物、脂肪族アミン類、脂肪族不飽和アミン類、芳香族アミン類、その他有機アミン化合物、あるいはこれらのアミン系化合物のカルボン酸等との塩、有機酸性リン酸エステル化合物等他の酸性触媒、塩基性触媒等の公知のシラノール縮合触媒等が例示できる。これらは、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0034】
これらの縮合触媒の中でも、得られる硬化性組成物の硬化性に優れる点から、錫系触媒が好ましく、さらに得られる硬化物の透明性や非着色性に優れる点から、ジブチル錫オキサイドやジオクチル錫オキサイド等のジアルキル錫オキサイドと、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、メチルマレエート等のエステル化合物との反応物(例えば、MSCAT−01、MSCAT−02、以上日本化学産業社製)や、ジブチル錫オキシラウレート(例えば、ネオスタンU−130、日東化成社製)等がより好ましい。
【0035】
接着性付与剤:
接着性付与剤の具体例としては、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシラン、アミノ基を有するシラン、エポキシ基を有するシラン、カルボキシル基を有するシラン等の有機シランカップリング剤;イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、3−メルカプトプロピルトリメトキチタネート等の有機金属カップリング剤;エポキシ樹脂が挙げられる。これらの接着性付与剤は、硬化性の改良としての効果もある。
【0036】
脱水剤:
貯蔵安定性を改良するために、硬化性や柔軟性に悪影響を及ぼさない範囲で少量の脱水剤を添加することできる。脱水剤としては、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル等のオルトギ酸アルキル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等のオルト酢酸アルキル、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の加水分解性有機シリコン化合物、加水分解性有機チタン化合物等が挙げられる。これらの中でも、ビニルトリメトキシシランまたはテトラエトキシシランがコストおよび効果の点から特に好ましい。特に、硬化性組成物が、硬化促進剤を含有した状態で防湿容器に充填された1液配合タイプとして知られる製品として取り扱われる場合、この脱水剤を用いることが有効である。
【0037】
充填剤:
充填剤の具体例としては、平均粒径1〜20μmの重質炭酸カルシウム、沈降法により製造した平均粒径1〜3μmの軽質炭酸カルシウム、表面を脂肪酸や樹脂酸系有機物で表面処理した膠質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム;フュームドシリカ;沈降性シリカ;表面シリコーン処理シリカ微粉体;無水ケイ酸;含水ケイ酸;カーボンブラック;炭酸マグネシウム;ケイソウ土;焼成クレー;クレー;タルク;酸化チタン;ベントナイト;酸化第二鉄;酸化亜鉛;活性亜鉛華;シラスバルーン、パーライト、ガラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、カーボンバルーン等の無機質の中空体;フェノール樹脂バルーン、エポキシ樹脂バルーン、尿素樹脂バルーン、ポリ塩化ビニリデン樹脂バルーン、ポリ塩化ビニリデン−アクリル樹脂バルーン、ポリスチレンバルーン、ポリメタクリレートバルーン、ポリビニルアルコールバルーン、スチレン−アクリル系樹脂バルーン、ポリアクリロニトリルバルーン等の有機樹脂中空体;樹脂ビーズ、木粉、パルプ、木綿チップ、マイカ、くるみ穀粉、もみ穀粉、グラファイト、アルミニウム微粉末、フリント粉末等の粉体状充填剤;ガラス繊維、ガラスフィラメント、炭素繊維、ケブラー繊維、ポリエチレンファイバー等の繊維状充填剤が挙げられる。これらの充填剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
その他、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等の薬剤並びに可塑剤を添加してもよい。
【0039】
(実施例1)
次に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0040】
変成シリコーンポリマーとして、主鎖がポリオキシプロピレンで、分子末端にジメトキシシリル基をもつ重合体であるMSポリマーS−303(株式会社カネカ製)を100重量部とし、硬化触媒としてMSCAT−01を2重量部、接着付与剤としてKBM−603(信越化学工業株式会社製:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)を3重量部、脱水剤としてKBM−1003(信越化学工業株式会社製:ビニルトリメトキシシラン)を2重量部、充填剤としてカルファイン500(丸尾カルシウム株式会社製:膠質炭酸カルシウム)を120重量部、可塑剤としてエクセノール3020(旭硝子製:ポリプロピレングリコール)を50重量部、紫外線吸収剤としてチヌビン326(BASF社製)を1重量部、光安定剤としてサノールLS770(三共ライフテック株式会社製)を1重量部配合してマスチック接着剤とした。
【0041】
(実施例2)
変成シリコーンポリマーとして、実施例1におけるMSポリマーS−303に代えてMSポリマーS−943(株式会社カネカ製:アクリル骨格を有する変成シリコーン樹脂)を用いた。
【0042】
(実施例3)
変成シリコーンポリマーとして、実施例1におけるMSポリマーS−303に代えてSB802S(株式会社カネカ製:加水分解シリル基含有テレケリックポリアクリレート)を用いた。
【0043】
(比較例)
比較例として、市販品の加熱硬化型ゴム系マスチック接着剤であるSRシールK40(サンライズMSI株式会社製)を用いた。
【0044】
実施例と比較例について、せん断接着性と歪みを測定した結果を表1にまとめて示す。表1には加熱の要否についても示した。
【0045】
【表1】
【0046】
(せん断接着性)
せん断接着性は、寸法25mm×100mm、厚さ0.8mmの塗装鋼板に接着剤を塗布し、もう片側には寸法25mm×100mm、厚さ2.0mmのCFRP板を貼り合わせ、接着面積は25mm×10mmとし厚みは3mmとなるようにクリップで固定する。実施例1〜3の硬化条件としては温度20℃、相対湿度55%で14日間放置した。比較例の硬化条件としては温度170℃±2℃の乾燥炉で30分間加熱した。接着剤を硬化させた後、引っ張り速度50±5mm/分として試験片の破壊する時の最大荷重(kPa)を計測した。
【0047】
せん断接着性は、硬化直後と、120℃で480時間、1080時間の耐熱処理を経過した後でそれぞれ測定した。
【0048】
(歪み測定)
寸法25mm×300mm、厚さ2.0mmのCFRP板の中央に接着剤を1.0g塗布した後、CFRPの両端に2mmのスペーサーを置き、寸法25mm×300mm、
厚さ0.8mmの塗装鋼板を重ね、接着剤の厚みが2mmになるように調整し、両側をクリップで固定する。実施例1〜3の硬化条件としては温度20℃、相対湿度55%で14日間放置した。比較例の硬化条件としては温度170℃±2℃の乾燥炉で30分間加熱し常温になるまで静置した。歪みが発生しているかどうか目視で確認した。
<評価方法>
歪み発生有り:×
歪発生無し:○