【解決手段】(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)無機蛍光体0.1〜20質量部及び(C)脂肪酸アミド0.001〜3質量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)無機蛍光体0.1〜20質量部及び(C)脂肪酸アミド0.001〜3質量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、「部」とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく質量部を表す。
【0011】
[概要]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)無機蛍光体0.1〜20質量部及び(C)脂肪酸アミド0.001〜3質量部を含有することを特徴とする。
【0012】
[(A)透明熱可塑性樹脂]
本発明の熱可塑性樹脂組成物の主成分である(A)透明熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリレート等のアクリル系樹脂;ノルボルネン等を含む脂環式ポリオレフィン樹脂等の脂環式ポリオレフィン樹脂;エチレンとメチル−、エチル−、プロピル−、ブチル−の各アクリレートもしくはメタクリレートとの共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等のアイオノマー樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリイミド樹脂などが挙げられ、これらの1種または2種以上のブレンド品などが挙げられる。
これらのうち、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0013】
[(A1)ポリカーボネート樹脂]
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いる(A1)ポリカーボネート樹脂の種類に制限はない。また、(A1)ポリカーボネート樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、一般式:−(−O−X−O−C(=O)−)− で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは、一般には炭化水素基であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、本発明では、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することが好ましい。
【0014】
(A1)ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート樹脂が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしても良い。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いても良い。
また(A1)ポリカーボネート樹脂は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、(A1)ポリカーボネート樹脂は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0015】
(A1)ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例としては、
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0016】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0017】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0018】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0019】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0020】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0021】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0022】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
【0023】
これらの中でもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0024】
(A1)ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0025】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0026】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0027】
(A1)ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0028】
(A1)ポリカーボネート樹脂の分子量は、適宜選択して決定すればよいが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で、通常12,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは17,000以上、特には20,000以上であり、また、通常36,000以下、好ましくは34,000以下、より好ましくは32,000以下、さらに好ましくは30,000以下、特に好ましくは29,000以下である。粘度平均分子量を前記範囲の下限値以上とすることにより、熱可塑性樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を前記範囲の上限値以下とすることにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。
【0029】
なお、本発明において、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
−4Mv
0.83、から算出される値を意味する。また極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0030】
(A1)ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0031】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、(A1)ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
[(A2)アクリル系樹脂]
(A2)アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル単位を主成分とし、他のアクリル酸エステル単位を0〜5質量%まで含む(共)重合体が好ましい。また、アクリル系樹脂は、その質量平均分子量が30,000〜250,000の範囲のものが好ましい。質量平均分子量が30,000より低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械的強度の低いものとなりやすい。また250,000より高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化しやすい。なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の値をいう。
【0033】
メタクリル酸メチル単位と共重合させることができるアクリル酸エステル単位は、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−イソ−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸アダマンチルなどのアクリル酸シクロアルキルエステル類、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸芳香族エステル類、アクリル酸フルオロフェニル、アクリル酸クロロフェニル、アクリル酸フルオロベンジル、アクリル酸クロロベンジルなどのアクリル酸置換芳香族エステル類、アクリル酸フルオロメチル、アクリル酸フルオロエチルなどのアクリル酸ハロゲン化アルキルエステル類、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エチレングリコールエステル、アクリル酸ポリエチレングリコールエステルなどが挙げられる。これらのアクリル酸エステル単位は、1種または2種以上を使用することができる。これらの中では、アクリル酸メチルが好ましい。
【0034】
[(A3)脂環式ポリオレフィン樹脂]
(A3)脂環式ポリオレフィン樹脂としては、主鎖に脂環式構造を含有するポリオレフィン樹脂であり、脂環式構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲である。
脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性および耐熱性が向上する。
【0035】
(A3)脂環式ポリオレフィン樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0036】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。
【0037】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.1
2,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.1
2,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.1
2,5.1
7,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。
【0038】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0039】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0040】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0041】
(A3)脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサンを用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算の質量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。
【0042】
[(B)無機蛍光体]
本発明の熱可塑性樹脂組成物が含有する(B)無機蛍光体としては、各種の無機蛍光体が使用でき、赤色(橙色)、緑色、青色、黄色等の各種の蛍光体が挙げられる。
赤色蛍光体としては、例えば、CaAlSiN
3:Eu(「CASN」とも略称される。)、(Sr,Ca)AlSiN
3:Eu(「SCASN」とも略称される。)、Ca
1−xAl
1−xSi
1+xN
3−xO
x:Eu、CaAlSiN
3:Eu、(Sr,Ba,Ca)
3SiO
5:Eu等を好ましく挙げることができる。
緑色蛍光体としては、例えば、(Ba,Ca,Sr,Mg)
2SiO
4:Eu、Si
6−zAl
zN
8−zO
z:Eu、M
3Si
6O
12N
2:Eu(Mはアルカリ土類金属元素)等を好ましく挙げることができる。
青色蛍光体としては、(Sr,Ca,Ba)
10(PO
4)
6Cl
2:Eu
2+、BaMgAl
10O
17:Euを好ましく用いることができる。
黄色蛍光体としては、ガーネット系蛍光体が好ましく用いられ、特にY
3Al
5O
12:Ce(「YAG」とも称される。)が好ましく用いられる。
これらの蛍光体は1種類でも、もしくは2種類以上のものを任意の比率で組み合わせて使用することもできる。
【0043】
(B)無機蛍光体の大きさ、特に限定はないが、大きさは、通常は平均粒径で0.1〜100μmの範囲内であり、好ましくは1〜50μmである。平均粒径が0.1μm未満であると、波長変換効率が不十分となりやすい。また、100μmを超えると、本発明の色相改善効果が得られにくく、また、得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的強度が低下する場合があり、好ましくない。(B)無機蛍光体の形状も、特に限定はないが、通常は、不定形である。
【0044】
また、(B)無機蛍光体のモース硬度は、通常6以上であり、好ましくは7以上、より好ましくは8以上である。モース硬度が高い無機蛍光体ほど、変色の問題が発生しやすいため、(C)脂肪酸アミドを配合することによる色相改善効果が大きいと考えられる。
なお、モース硬度とは、物質の硬さを数値化して示した指標であるが、本発明においては、10段階に分類された指標を用いる。
【0045】
これらの無機蛍光体は、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、メチルハイドロジェンポリシロキサン、シリコーンオイル、脂肪酸含有炭化水素化合物等の各種表面処理剤で処理されたものであってもよい。これらの中で特にメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシランの様なアルキルトリメトキシシラン、動粘度が25℃で5〜1万mm
2/sの範囲のメチルハイドロジェンポリシロキサン、動粘度が25℃で5〜1万mm
2/sのジメチルシリコーンオイルやメチルフェニルシリコーンオイルが好ましく、25℃での動粘度が10〜1,000mm
2/sのメチルハイドロジェンポリシロキサンがさらに好ましい。
上記表面処理剤の量は、無機蛍光体100質量部対して0.001〜10質量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.1〜3質量部の範囲である。表面処理の方法は公知の手法を任意に用いることができる。
【0046】
(B)無機蛍光体の含有量は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.1〜20質量部であり、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。含有量が0.1質量部より少ないと光の波長変換効率が不十分であり、20質量部よりも多いと、得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的強度が大きく低下するため、好ましくない。
【0047】
[(C)脂肪酸アミド]
本発明の熱可塑性樹脂組成物が含有する(C)脂肪酸アミドとしては、脂肪酸のアミド、脂肪酸のビスアミドであり、脂肪酸及び/又は多塩基酸とジアミンとの脱水反応によって得られる化合物が好ましい。
脂肪酸としては、好ましくは炭素数16以上、より好ましくは炭素数16〜30の飽和脂肪族モノカルボン酸であり、具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられる。
多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸類及びフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸並びにシクロヘキシルジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が例示できる。
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられ、中でも、炭素数2〜20の直鎖飽和脂肪族ジアミンが好ましい。
【0048】
(C)脂肪酸アミドとしては、具体的には、好ましくは、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、モンタン酸アミドなどが挙げられ、また、脂肪酸ビスアミドとしては、上記の脂肪酸と炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の脂肪族ジアミンとの反応により得られる脂肪酸ビスアミドが挙げられ、具体的には、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸アミド)、ヘキサメチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸アミド)等が挙げられる。これらのうち、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
これらの脂肪酸アミドは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0049】
(C)脂肪酸アミドが融点を有するものである場合、示差走査型熱量計(DSC)による融点は、40〜260℃であることが好ましく、100〜230℃がより好ましく、120〜200℃であることがさらに好ましい。融点が40℃未満である場合は、熱可塑性樹脂組成物製造時の取扱いが難しくなる傾向にあり、260℃を超える場合は、摩擦低減効果が小さくなりやすく、本発明の色相改善効果が低下する場合がある。
【0050】
なお、本明細書において、融点とは、示差走査型熱量測定(DSC)による融点をいい、融解のメインピークのピーク温度(℃)をいう。具体的には、窒素雰囲気下、30℃から予想される融点+40℃まで20℃/分で昇温した際に検出される発熱メインピークのピークトップの温度(℃)をいう。
【0051】
(C)脂肪酸アミドの含有量は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.001〜3質量部であり、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下である。含有量が0.001質量部より少ないと色相改善効果が小さく、3質量部よりも多いと加熱発生ガスの増加やモールドデポジットによる金型汚染等を生じるため、好ましくない。
【0052】
[(D)光拡散剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに(D)光拡散剤を含有することも好ましい。(D)光拡散剤を含有することで、照明用カバー等の用途における光拡散性や眩しさ低減機能を付与することができるだけではなく、(B)無機蛍光体の波長変換効率が高くなる為、無機蛍光体の含有量を削減することが可能となり好ましい。
(D)光拡散剤としては、微粒子状の無機又は有機粒子であり、例えば炭酸カルシウム微粒子、ガラス微粒子、ポリスチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等の有機微粒子が挙げられ、中でも透明有機微粒子が好ましい。また、光透過性及び光拡散効果の点から微粒子は球状であるものが好ましい。
微粒子状の光拡散剤の好ましい平均粒径は0.1〜50μmであり、より好ましくは0.5〜30μmであり、特には1〜10μmである。
【0053】
このような有機微粒子としては、透明熱可塑性樹脂の成形温度まで加熱しても樹脂中に溶融しない、架橋した有機微粒子が好ましく、具体的には架橋した、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂の有機微粒子である。具体例として、部分架橋したポリメタクリル酸メチルのポリマー微粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、シリコーンゴムをシリコーンレジンで被覆したシリコーンゴムパウダー等が挙げられる。
中でも、シリコーン樹脂有機微粒子が好ましく、ポリオルガノシルセスキオキサン粒子がより好ましく、熱安定性に優れる点から、ポリメチルシルセキスキオキサン粒子が特に好ましい。
【0054】
(D)光拡散剤の好ましい含有量は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部であり、0.1〜5質量部がより好ましい。光拡散剤の含有割合が0.01質量部より少ないと、光拡散性が不足し高輝度のLED光源が透けて見えやすく、眩しさ低減効果が不十分となり、また(B)無機蛍光体も多量に配合することが必要となる場合がある等、光拡散剤の配合効果が得難い。一方で、光拡散剤の含有量が多すぎると、透明性や流動性の低下を招く場合があり、好ましくない。
【0055】
[その他添加剤]
また、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)透明熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、(C)脂肪酸アミド以外の離型剤、難燃剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、強化充填材、エラストマーなどが挙げられる。
【0056】
・熱安定剤
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。
【0057】
なかでも、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の有機ホスファイトが好ましい。
【0058】
熱安定剤の配合量は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定剤の配合効果が不十分となり、高温での滞留によって色相が悪化する可能性があり、熱安定剤が多すぎると逆に熱安定性が低下し、色相が悪化する場合がある。
【0059】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0060】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0061】
酸化防止剤の含有量は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となり、高温での滞留によって色相が悪化したり、熱老化物性の改善が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0062】
・離型剤
(C)脂肪酸アミド以外の離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0063】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0064】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0065】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0066】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルは、フルエステルであることが好ましい。
【0067】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
【0068】
離型剤の含有量は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001〜3質量部であり、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0069】
・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オキサニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらのうち、有機紫外線吸収剤が好ましく、中でもベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、透明性や機械物性が良好なものになる。
【0070】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0071】
紫外線吸収剤の含有量は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、その上限は好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0072】
・難燃剤
難燃剤としては、例えば、ハロゲン系、リン系、シリコーン系、窒素系、金属塩系難燃剤等が挙げられ、公知のものを任意に必要量配合することができる。
例えば、透明熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いる場合では、縮合リン酸エステル、ホスファゼン、シリコーン化合物、スルホン酸金属塩、ポリテトラフルオロエチレンなどが好ましく使用される。これらを単独又は複数種組み合わせて用いることで、所望の難燃性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0073】
難燃剤の含有量は、難燃剤がスルホン酸金属塩、シリコーン化合物、ポリテトラフルオロエチレンである場合は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、その上限は好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。難燃剤が縮合リン酸エステル、ホスファゼンの場合は、(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、その上限は好ましくは30質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。難燃剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、難燃性の改良効果が得難く、上限値を超える場合は、機械的強度、耐湿熱性、熱安定性などが低下する可能性がある。なお、難燃剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0074】
[樹脂組成物の製造]
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法に特に制限はなく、例えば、
(i)(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)無機蛍光体を0.1〜20質量部及び(C)脂肪酸アミド0.001〜3質量部、さらには必要により、所望の添加剤等を配合し、これを溶融混練して熱可塑性樹脂組成物(ペレット)を得る方法、或いは、(ii)(A)透明熱可塑性樹脂100質量部に対し、(B)無機蛍光体を0.1〜20質量部、さらには必要により、所望の添加剤等を配合して溶融混練して得た熱可塑性樹脂組成物ペレットに、(C)脂肪酸アミドを外部添加する方法、
を採用することが好ましい。(C)脂肪酸アミドを外部添加するとは、樹脂ペレットを成形機のホッパーに投入する前、或いは投入時に、ブレンダーミキサー、タンブラーミキサー等の装置を用いて、(C)脂肪酸アミドを樹脂ペレットと混合することである。
【0075】
溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を製造する方法に制限はなく、熱可塑性樹脂組成物(ペレット)を製造する公知の方法を広く採用でき、上記各成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。中でも単軸混練押出機、二軸混練押出機を使用することが、生産性に優れ好ましい。スクリューやシリンダーの材質、構造は適宜選択することができ、また原料の投入は混練押出機の根元から投入しても、一部または全部の原料を混練押出機の途中から投入しても良い。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、ポリカーボネート樹脂組成物の場合、通常240〜320℃の範囲である。
【0076】
本発明においては、特に、上記(ii)の方法を採用し、熱可塑性樹脂組成物を製造することが、変色、外観不良を低減した成形品を提供することがより容易となるので好ましい。また、上記(ii)の方法において、(C)脂肪酸アミドを外部添加する際には、流動パラフィン等の室温で液状の物質を展着剤として用いると、外部添加した(C)脂肪酸アミドがペレットから脱離、分級しにくくなり、より好ましい。
なお、溶融混練においては、極力、過度な剪断力がかからない様に溶融させることが好ましく、その為に、装置、条件を選択することが好ましい。過度な剪断力の負荷は、樹脂組成物を暗色系に変色させる場合があり好ましくない。
【0077】
(C)脂肪酸アミドを外部添加すると、成形の際に熱可塑性樹脂ペレットがせん断を受け溶融する過程で成形機のシリンダー内壁やスクリュー表面等を濡らすこととなり、またこれが円滑な可塑化を可能にするものと考えられる。
【0078】
このようにして得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットは、その大きさや形状には特に限定はなく何れであってもよいが、通常は、ペレット長さが0.01〜10mm、好ましくは1〜7mmの範囲である。これより長さが小さくても大きくても、成形時のスクリューへの食い込み性が低下する場合があり好ましくない。また、ペレット断面の形状は、円形であってもよいし、楕円形、長円形等の扁平形状であってもよい。
【0079】
[成形品]
得られた本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種の成形方法が適用されて各種の成形品とされる。成形方法は、好ましくは、射出成形法、押出成形法、中空成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形法などの成形法が挙げられる。中でも、射出成形法が特に好ましい。なお、成形加工においては、極力、過度な剪断力がかからない様に溶融させることが好ましく、その為に、装置、条件を選択することが好ましい。過度な剪断力の負荷は、成形品を暗色系に変色させる場合があり好ましくない。
【0080】
射出成形法を用いる場合、成形機としては、例えば、未溶融樹脂に急激な剪断をかけないようにスクリュー構成がより緩圧縮なタイプのスクリューを採用する方法も、好ましく使用できる。
【0081】
成形条件の調整においては、特に、高剪断速度での可塑化や射出を回避することが好ましい。可塑化、計量、射出時の条件として、例えば、シリンダー温度、背圧、スクリュー回転数等を調整することが好ましい。使用する(A)透明熱可塑性樹脂の種類によって適宜調整することが必要であるが、例えば、(A)透明熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である場合は、以下のような条件を採用することが好ましい。
シリンダー温度は好ましくは240〜320℃、より好ましくは260〜300℃に設定する。背圧を調整する場合は、好ましくは1〜20kg/cm
2、より好ましくは3〜15kg/cm
2に設定する。スクリュー回転数を調整する場合は、好ましくは30〜200rpm、より好ましくは50〜150rpmに設定する。
【0082】
成形機の条件、シリンダー温度、背圧、スクリュー回転数等の成形条件のいずれかを上記好適な範囲内に調整することにより、または、これら好適な範囲内の2以上の条件を組み合わせることにより、着色や変色の問題のない、外観に優れた成形品を得ることがより容易となる。本発明においては、これらの条件のうち、背圧を調整する方法が特に好ましい。
【0083】
このようにして得られた成形品は、各種の用途に適用でき、電気・電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品に適用することができる。これらの中でも、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の部品に好適であり、特には、リモートフォスファー方式の照明装置におけるLED素子を覆う光透過性カバー(グローブ)に好適である。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0085】
以下の実施例及び比較例に使用した原料成分は、以下の表1に記載のとおりである。
【表1】
【0086】
[実施例1〜3および比較例1〜6]
1.溶融混練の為のブレンド
(実施例1〜3)
後記表2に記した各成分の中(C)エチレンビスステアリン酸アミド以外を、後記表2に記載の所定量(質量部)を計量して、タンブラーミキサーで混合した。
(比較例1〜5)
実施例1において、(C)エチレンビスステアリン酸アミド0.01質量部に代えて、比較例1では熱安定剤、比較例2では離型剤−1、比較例3ではステアリン酸カルシウム、比較例4ではポリエチレンワックス、比較例5では酸化ポリエチレンワックスをそれぞれ0.03質量部用いた。(C)エチレンビスステアリン酸アミドの代わりに用いたこれらの成分以外を、後記表2に記載の所定量(質量部)を計量して、タンブラーミキサーで混合した。
(比較例6)
後記表2に記した各成分を、後記表2に記載の所定量(質量部)を計量して、タンブラーミキサーで混合した。
【0087】
2.溶融混練(ペレット製造条件)
(実施例1〜3および比較例1〜6)
前記1.の方法で得られた混合物を、いすゞ加工機社製の単軸押出機「VS40」(スクリューパターン:フルフライト)の根元から供給し、スクリュー回転数75rpm、溶融混練温度280℃で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂組成物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
【0088】
3.ペレットへの(C)成分の外部添加
(実施例1〜3)
前記2.の方法で得られた熱可塑性樹脂ペレットに対して、(C)エチレンビスステアリン酸アミドを、表2に記載の割合で配合し、タンブラーミキサーで混合した。
(比較例1〜5)
実施例1の(C)エチレンビスステアリン酸アミドにかえて用いた、比較例1の熱安定剤、比較例2の離型剤−1、比較例3のステアリン酸カルシウム、比較例4のポリエチレンワックス、比較例5の酸化ポリエチレンワックスをそれぞれ0.03質量部の割合で、前記2.の方法で得られた熱可塑性樹脂ペレットに配合し、タンブラーミキサーで混合した。
【0089】
4.射出成形
上記1〜3の方法を経て得られた熱可塑性樹脂ペレットを、以下の条件で、乾燥及び射出成形して、下記の平板形状の成形品を作製した。
・材料乾燥:120℃熱風乾燥で5時間
・成形機:日精樹脂工業社製射出成形機「NS40」
・成形品:1mm厚み×30mm長さ×50mm幅の平板形状の成形品
・成形温度:280℃
・金型温度:80℃
・スクリュー回転数:120rpm
・背圧(ゲージ圧力):5kg/cm
2
・射出時間:12sec
・冷却時間:15sec
【0090】
5.特性評価
得られた成形品につき、以下の方法で、全光線透過率及び外観を測定評価した。
・全光線透過率:
日本電色社製のHAZEメーター「NDH−4000」を使用し、D65光源で、全光線透過率(単位:%)を測定した。
・外観:
成形品の色相を目視で評価して、色相に暗味があるかどうか、色相の鮮やかさを以下の判定基準で判定し、評価した。
判定基準:
〇:色相に暗味がなく、鮮やかである。
△:僅かに暗味がある。
×:かなり暗味があり、黒っぽい。
以上の評価結果を以下の表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、暗味がなく、いずれも色相が改善されており外観に優れ、また、全光線透過率も高いことがわかる(実施例1〜3)。
一方、(C)脂肪酸アミドを含有しない比較例6は、かなり暗味があり、黒っぽい色相の外観となり、全光線透過率も大きく低下した。また、(C)脂肪酸アミドを外部添加するかわりに、熱安定剤、離型剤−1、ステアリン酸カルシウム、(酸化)ポリエチレンワックスを外部添加した比較例1〜5は、全光線透過率が低下し、外観は僅かに暗味があり、比較例6よりも色相は良いものの、その改善効果は不十分であった。