特開2015-145703(P2015-145703A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 武蔵精密工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2015145703-差動装置 図000003
  • 特開2015145703-差動装置 図000004
  • 特開2015145703-差動装置 図000005
  • 特開2015145703-差動装置 図000006
  • 特開2015145703-差動装置 図000007
  • 特開2015145703-差動装置 図000008
  • 特開2015145703-差動装置 図000009
  • 特開2015145703-差動装置 図000010
  • 特開2015145703-差動装置 図000011
  • 特開2015145703-差動装置 図000012
  • 特開2015145703-差動装置 図000013
  • 特開2015145703-差動装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-145703(P2015-145703A)
(43)【公開日】2015年8月13日
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/023 20120101AFI20150717BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20150717BHJP
   F16H 57/08 20060101ALI20150717BHJP
【FI】
   F16H57/023
   F16H48/08
   F16H57/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-18886(P2014-18886)
(22)【出願日】2014年2月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 陽一
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA18
3J027FA19
3J027FB02
3J027HA01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC02
3J027HC07
3J027HC13
3J027HC15
3J063AA02
3J063AB13
3J063AC03
3J063BA01
3J063BB19
3J063BB48
3J063CA05
3J063CA06
3J063CB03
3J063CB41
3J063CD44
3J063CD63
3J063XA12
(57)【要約】
【課題】組立て後でも,スリーブをサイドギヤから取り外して差動ギヤ機構の分解を可能し,ドライブ軸の装着状態では,スリーブをサイドギヤとの連結状態に確保し得るようにした差動装置を提供する。
【解決手段】サイドギヤ11及びスリーブ20の一方に外側筒部26を,他方に外側筒部26の内周に嵌合する内側筒部27をそれぞれ形成し,外側筒部26に係合部28,39を設け,内側筒部27には,係合部28から離脱してスリーブ20の引き抜きを許容する第1位置Aと,係合部28に係合してスリーブ20の抜け出しを阻止する第2位置Bとの間を移動し得るキー部材32を取り付け,このキー部材32は,ドライブ軸7,8をサイドギヤ11にスプライン嵌合すべくスリーブ20に嵌挿したとき,このドライブ軸7,8により第2位置Bに強制的に保持される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動ギヤ機構(3)を収容する一体型のデフケース(2)の一側部及び他側部に,同一軸線(X)上に並んでミッションケース(1)に回転自在に支承される第1及び第2軸受ボス(4 ,5 )を一体に形成し,また同デフケース(2)の周壁に,前記差動ギヤ機構(3)を挿入するための作業窓(18)を設け,前記差動ギヤ機構(3)の左右一対のサイドギヤ(11)に,前記第1及び第2軸受ボス(4,5)にその外端側から嵌挿される一対のスリーブ(20)を連結し,これらスリーブ(20)の前記第1及び第2軸受ボス(4,5)より突出する外端部と前記ミッションケース(1)との間にオイルシール(23)が介装され,前記一対のサイドギヤ(11)には,前記スリーブ(20)に嵌挿される左右のドライブ軸(7,8)がスプライン嵌合される差動装置において,
前記サイドギヤ(11)及び前記スリーブ(20)の一方に外側筒部(26)を,他方に前記外側筒部(26)の内周に嵌合する内側筒部(27)をそれぞれ形成し,前記外側筒部(26)に係合部(28,39)を設け,前記内側筒部(27)には,前記係合部(28,39)から離脱して前記スリーブ(20)の引き抜きを許容する第1位置(A)と,前記係合部(28,39)に係合して前記スリーブ(20)の抜け出しを阻止する第2位置(B)との間を移動し得るキー部材(32)を取り付け,このキー部材(32)は,前記ドライブ軸(7,8)を前記サイドギヤ(11)にスプライン嵌合すべく前記スリーブ(20)に嵌挿したとき,このドライブ軸(7,8)により前記第2位置(B)に強制的に保持されることを特徴とする差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置において,
前記係合部を,前記外側筒部(26)の内周面に形成される環状のキー溝(28)で構成して,前記キー部材(32)が前記第2位置を占めるとき,その半径方向外端部が前記キー溝(28)に係合するようにし,前記スリーブ(20)にドライブ軸(7,8)をスプライン嵌合することを特徴とする差動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の差動装置において,
前記係合部を,前記外側筒部(26)の内周面に形成されるキー孔(39)で構成して,前記キー部材(32)が前記第2位置を占めるとき,その半径方向外端部が前記キー孔(39)に係合してキー部材(32)と外側筒部(26)とが回転方向においても連結するようにしたことを特徴とする差動装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の差動装置において,
前記外側筒部(26)と内側筒部(27)との嵌合部に,前記キー部材(32)の周囲と前記デフケース(2)内部との連通を遮断するシール部材(37)を介装したことを特徴とする差動装置。
【請求項5】
差動ギヤ機構(3)を収容する一体型のデフケース(2)の一側部及び他側部に,同一軸線(X)上に並んでミッションケース(1)に回転自在に支承される第1及び第2軸受ボス(4 ,5 )を一体に形成し,また同デフケース(2)の周壁に,前記差動ギヤ機構(3)を挿入するための作業窓(18)を設け,前記差動ギヤ機構(3)の左右一対のサイドギヤ(11)に,前記第1及び第2軸受ボス(4,5)にその外端側から嵌挿される一対のスリーブ(20)を連結し,これらスリーブ(20)の前記第1及び第2軸受ボス(4,5)より突出する外端部と前記ミッションケース(1)との間にオイルシール(23)が介装され,前記一対のサイドギヤ(11)には,前記スリーブ(20)に嵌挿される左右のドライブ軸(8,9)がスプライン嵌合される差動装置において,
前記サイドギヤ(11)及び前記スリーブ(20)の一方に外側筒部(26)を,他方に前記外側筒部(26)の内周に嵌合する内側筒部(27)をそれぞれ形成し,前記外側筒部(26)の内周に固定係合部(41)を形成する一方,前記内側筒部(27)には,前記固定係合部(41)から離脱して前記スリーブ(20)の引き抜きを許容する第1位置(A)と,前記固定係合部(41)に係合して前記スリーブ(20)の抜け出しを阻止する第2位置(B)との間を移動するように弾性変形し得ると共に第1位置(A)側への付勢力を有する可動係合部(42)を形成し,この可動係合部(42)は,前記サイドギヤ(11)に前記ドライブ軸(7,8)をスプライン嵌合するとき,該ドライブ軸(7,8)により半径方向に拡張されて前記第2位置(B)に強制的に保持されることを特徴とする差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,差動ギヤ機構を収容する一体型のデフケースの一側部及び他側部に,同一軸線上に並んでミッションケースに回転自在に支承される第1及び第2軸受ボスを一体に形成し,また同デフケースの周壁に,前記差動ギヤ機構を挿入するための作業窓を設け,前記差動ギヤ機構の左右一対のサイドギヤに,前記第1及び第2軸受ボスにその外端側から嵌挿される一対のスリーブを連結し,これらスリーブの前記第1及び第2軸受ボスより突出する外端部と前記ミッションケースとの間にオイルシールが介装され,前記一対のサイドギヤには,前記スリーブに嵌挿される左右のドライブ軸がスプライン嵌合される差動装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる差動装置は,下記特許文献1及び2に開示されるように,既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3751488号公報
【特許文献2】特開2013−72524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝる差動装置では,サイドギヤを含む差動ギヤ機構を前記作業窓から一体型のデフケースに組み込み,その後,第1,第2軸受ボスに,その外方からスリーブを嵌挿してサイドギヤにスプライン嵌合するようになっている。即ち,サイドギヤ及びスリーブが一体化していると,その全長が一体型のデフケースの内径より長くなり,サイドギヤ及びスリーブのデフケースへの組み込みができなくなる。
【0005】
ところで,従来のかゝる差動装置では,組立て時,サイドギヤにスリーブを圧接又は接着により固着しているので,組立て後,検査等により部品交換を必要とした場合に,差動ギヤ機構の分解が困難となる。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,組立て後でも,スリーブをサイドギヤから取り外して差動ギヤ機構の分解を可能し,ドライブ軸の装着状態では,スリーブをサイドギヤとの連結状態に確保し得るようにした前記差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,差動ギヤ機構を収容する一体型のデフケースの一側部及び他側部に,同一軸線上に並んでミッションケースに回転自在に支承される第1及び第2軸受ボスを一体に形成し,また同デフケースの周壁に,前記差動ギヤ機構を挿入するための作業窓を設け,前記差動ギヤ機構の左右一対のサイドギヤに,前記第1及び第2軸受ボスにその外端側から嵌挿される一対のスリーブを連結し,これらスリーブの前記第1及び第2軸受ボスより突出する外端部と前記ミッションケースとの間にオイルシールが介装され,前記一対のサイドギヤには,前記スリーブに嵌挿される左右のドライブ軸がスプライン嵌合される差動装置において,前記サイドギヤ及び前記スリーブの一方に外側筒部を,他方に前記外側筒部の内周に嵌合する内側筒部をそれぞれ形成し,前記外側筒部に係合部を設け,前記内側筒部には,前記係合部から離脱して前記スリーブの引き抜きを許容する第1位置と,前記係合部に係合して前記スリーブの抜け出しを阻止する第2位置との間を移動し得るキー部材を取り付け,このキー部材は,前記ドライブ軸を前記サイドギヤにスプライン嵌合すべく前記スリーブに嵌挿したとき,このドライブ軸により前記第2位置に強制的に保持されることを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記係合部を,前記外側筒部の内周面に形成される環状のキー溝で構成して,前記キー部材が前記第2位置を占めるとき,その半径方向外端部が前記キー溝に係合するようにし,前記スリーブにドライブ軸をスプライン嵌合することを第2の特徴とする。
【0009】
さらに本発明は,第1の特徴に加えて,前記係合部を,前記外側筒部の内周面に形成されるキー孔で構成して,前記キー部材が前記第2位置を占めるとき,その半径方向外端部が前記キー孔に係合してキー部材と外側筒部とが回転方向においても連結するようにしたことを第3の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第1〜第3の特徴の何れかに加えて,前記外側筒部と内側筒部との嵌合部に,前記キー部材の周囲と前記デフケース内部との連通を遮断するシール部材を介装したことを第4の特徴とする。
【0011】
さらにまた本発明は,差動ギヤ機構を収容する一体型のデフケースの一側部及び他側部に,同一軸線上に並んでミッションケースに回転自在に支承される第1及び第2軸受ボスを一体に形成し,また同デフケースの周壁に,前記差動ギヤ機構を挿入するための作業窓を設け,前記差動ギヤ機構の左右一対のサイドギヤに,前記第1及び第2軸受ボスにその外端側から嵌挿される一対のスリーブを連結し,これらスリーブの前記第1及び第2軸受ボスより突出する外端部と前記ミッションケースとの間にオイルシールが介装され,前記一対のサイドギヤには,前記スリーブに嵌挿される左右のドライブ軸がスプライン嵌合される差動装置において,前記サイドギヤ及び前記スリーブの一方に外側筒部を,他方に前記外側筒部の内周に嵌合する内側筒部をそれぞれ形成し,前記外側筒部の内周に固定係合部を形成する一方,前記内側筒部には,前記固定係合部から離脱して前記スリーブの引き抜きを許容する第1位置と,前記固定係合部に係合して前記スリーブの抜け出しを阻止する第2位置との間を移動するように弾性変形し得ると共に第1位置側への付勢力を有する可動係合部を形成し,この可動係合部には,前記サイドギヤは,前記ドライブ軸をスプライン嵌合するとき,該ドライブ軸により半径方向に拡張されて前記第2位置に強制的に保持されることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば,組立後でも,ドライブ軸の装着前であれば,キー部材を第1位置に移動させることにより,スリーブをサイドギヤとの連結から解除してスリーブを引き抜くことができ,したがって差動ギヤ機構の分解が可能となり,その部品交換を行うことができる。またドライブ軸の装着状態では,そのドライブ軸によりキー部材は第2位置に強制的に保持されるので,スリーブをサイドギヤに連結することができる。
【0013】
本発明の第2の特徴によれば,係合部を,外側筒部の内周面に形成される環状のキー溝で構成して,キー部材が第2位置を占めるとき,その半径方向外端部がキー溝に係合するようにしたことで,キー部材の第2位置への移行をスムーズに行うことができる。しかもサイドギヤにスプライン嵌合するドライブ軸をスリーブにもスプライン嵌合するので,スリーブをサイドギヤと共に回転させることができる。
【0014】
本発明の第3の特徴によれば,キー部材が第2位置に移行すると,キー孔に係合してキー部材と外側筒部とが回転方向においても連結することで,スリーブをサイドギヤに回転方向においても連結することができ,ドライブ軸をスリーブにスプライン嵌合する必要がなくなる。
【0015】
本発明の第4の特徴によれば,デフケース内の潤滑オイルがキー部材の周囲から外部に流出することを上記シール部材により防ぐことができる。
【0016】
本発明の第5の特徴によれば,組立後でも,ドライブ軸の装着前であれば,可動係合部を,その弾性付勢力により第1位置に保持することにより,スリーブをサイドギヤとの連結から解除してスリーブを引き抜くことができ,したがって差動ギヤ機構の分解が可能となり,その部品交換を行うことができる。またドライブ軸の装着状態では,可動係合部は,ドライブ軸により第2位置に強制的に移行保持されるので,スリーブをサイドギヤに連結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る差動装置の縦断正面図。
図2】上記差動装置のデフケースの正面図。
図3図2の3−3線断面図。
図4図1の4部拡大図でスリーブのサイドギヤとの連結状態を示す。
図5図4に対応する作用説明図でスリーブのサイドギヤとの非連結状態を示す。
図6図4の6−6線断面図。
図7】本発明の第2実施形態に係る差動装置を示す,図4との対応図。
図8】本発明の第3実施形態に係る差動装置を示す,図4との対応図。
図9図8の9−9線断面図。
図10】本発明の第4実施形態に係る差動装置を示す,図4との対応図。
図11】第4実施形態のスリーブの斜視図。
図12】そのスリーブとサイドギヤとの非連結状態を示す,図10との対応図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0019】
先ず,図1図6に示す本発明の第1実施形態の説明より始める。図1において,自動車のミッションケース1内に差動装置Dが収容される。この差動装置Dは,一体型のデフケース2と,このデフケース2内に収容される差動ギヤ機構3とよりなっている。デフケース2の右側部及び左側部には,同一軸線X上に並ぶ第1軸受ボス4及び第2軸受ボス5が一体に形成され,これら第1及び第2軸受ボス4,5は,軸受6,6′を介してミッションケース1に支承される。
【0020】
差動ギヤ機構3は,前記軸線Xと直交しながらデフケース2の中心Cを通るようにしてデフケース2に保持されるピニオン軸9と,このピニオン軸9に支持される一対のピニオンギヤ10と,ピニオンギヤ10と噛合する一対のサイドギヤ11と,これらサイドギヤ11のハブ11aに連結されて第1及び第2軸受ボス4,5にそれぞれ回転自在に支承される一対のスリーブ20とより構成され,各ギヤの背面は,デフケース2の球状内面で回転自在に支承される。第1及び第2軸受ボス4,5の内周面には,螺旋状の潤滑溝21が形成される。サイドギヤ11とスリーブ20との連結構造については後述する。
【0021】
スリーブ20は,それぞれの外端部を対応する軸受ボス4,5より外方へ突出するように構成されており,それらの外端部と,ミッションケース1との間にオイルシール23がそれぞれ介装される。
【0022】
ピニオン軸9は,デフケース2の外周部の一対の支孔12により保持される。デフケース2の外周部には,一方の支孔12と直交してその外周部を左右方向に貫通するピン孔13が設けられており,このピン孔13に圧入嵌合される抜け止めピン14がピニオン軸9を貫通することで,ピニオン軸9の支孔12からの抜け止めが果たされる。
【0023】
またデフケース2には,その中心Cから第2軸受ボス5側にオフセットした中間部に環状のフランジ15が一体に形成され,このフランジ15に,変速装置の出力ギヤ16と噛合するリングギヤ17がボルト22により締結される。
【0024】
図2及び図3に示すように,デフケース2の,前記軸線Xと直交する一直径線上で対向する周壁には,デフケース2の球状内面を加工するため,並びに前記差動ギヤ機構3のデフケース2への組み込みを行うための一対の作業窓18が設けられる。
【0025】
さて,サイドギヤ11とスリーブ20との連結構造について図4図6を参照しながら説明する。
【0026】
サイドギヤ11のハブ11aは,底部11a1 をピニオン軸9側に向けた有底円筒状をなしており,その内周には第1スプライン孔25が形成される。またサイドギヤ11の背面には,対応する軸受ボス7,8の内周面に回転自在に支承される外側筒部26が一体に突設され,この外側筒部26の内周面には環状のキー溝28が設けられる。
【0027】
一方,スリーブ20の内端部は,上記外側筒部26の内周面に嵌合する内側筒部27に形成される。また内側筒部27の内周には,前記第1スプライン孔25と同軸上で並ぶ,それと同径の第2スプライン孔30が形成される。これら第1及び第2スプライン孔25,30に,スリーブ20にその外方から嵌挿されるドライブ軸7,8のスプライン軸31が同時に嵌合されるようになっている。
【0028】
内側筒部27には,その周方向に等間隔に並んで半径方向に沿って第1及び第2位置A,B間を移動する複数のキー部材32が次のように取り付けられる。即ち,内側筒部27の外周には,前記キー溝28と対向する環状溝33と,内側筒部27の周方向に等間隔に並んで上記環状溝33を第2スプライン孔30の歯底に連通する複数のガイド孔34とが設けられる。
【0029】
キー部材32は,中間部にフランジ32aを有するピン状をなしていて,ガイド孔34に沿って第1及び第2位置A,B間を移動するものであり,その第1位置A(図5参照)では,フランジ32aを環状溝33の溝底に当接させてキー部材32の内端部を第2スプライン孔30の歯底から突出させると共に,キー部材32の外端部をキー溝28から退去させてスリーブ20の引き抜きを許容し,また第2位置B(図4及び図6参照)では,キー部材32の内端面を第2スプライン孔30の歯底と面一にすると共に,キー部材32の外端部をキー溝28に係合させてスリーブ20の抜け出しを阻止するようになっている。環状溝33には,フランジ32aを半径方向内方に押圧してキー部材32を第1位置A側に付勢する環状スプリング35が装着される。キー部材32の内端部は半球状に形成されており,ドライブ軸7,8のスプライン軸31を第2スプライン孔30に嵌合すると,スプライン軸31の歯先がキー部材32の内端部を押圧してキー部材32を第1位置Aから第2位置Bへと移行させるようになっている。
【0030】
外側筒部26及び内側筒部27の嵌合部には,キー部材32の周囲とデフケース2内部との連通を遮断するOリング37が介装される。具体的には,環状溝33より軸方向外側の内側筒部27の外周面に環状のシール溝36が設けられ,このシール溝36に,外側筒部26の内周面に密接するOリング37が装着される。
【0031】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0032】
差動装置Dの組立てに当たっては,先ず,サイドギヤ11を作業窓18からデフケース2内に挿入して,外側筒部26を対応する軸受ボス7,8の内周面に嵌合し,次いでピニオンギヤ10を同じく作業窓18からデフケース2内に挿入して所定位置にセットし,ピニオン軸9をデフケース2に装着する。
【0033】
その後,キー部材32及び環状スプリング35を内側筒部27に取り付けたスリーブ20を各軸受ボス4,5にその外方から嵌挿して,内側筒部27をサイドギヤ11の外側筒部26の内周面に嵌合する。その際,キー部材32は,環状スプリング35により第1位置Aに保持されているので,内側筒部27の外側筒部26への嵌合を妨げない。同時に,内側筒部27の外周に装着されたOリング37が外側筒部26の内周面に密接する。このOリング37と外側筒部26との摩擦力によれば,差動装置Dの単体状態での運搬時でも,スリーブ20の軸受ボス4,5からの脱落を防ぐことができる。
【0034】
次いで,図示しない変速装置と共にこの差動装置Dをミッションケース1に組み込み,第1及び第2軸受ボス4,5とミッションケース1との間に軸受6,6′を介装し,またスリーブ20とミッションケース1間にオイルシール23を介装する。このミッションケース1を自動車に搭載後,ドライブ軸7,8をスリーブ20に嵌挿して,ドライブ軸7,8のスプライン軸31を第2スプライン孔30及び第1スプライン孔25へと順次嵌合する。
【0035】
而して,スプライン軸31が第2スプライン孔30に嵌合するとき,スプライン軸31の歯先がキー部材32の内端部を押圧するので,キー部材32は,環状スプリング35の付勢力に抗して第1位置Aから第2位置Bへと移行し,その外端部を外側筒部26のキー溝28に係合させる。その結果,内側筒部27,即ちスリーブ20は,キー部材32を介して外側筒部26,即ちサイドギヤ11と軸方向で連結され,スリーブ20の抜け出しを防ぐことができる。
【0036】
このような組立後,検査等により,差動ギヤ機構3の構成部品を交換する必要が生じた場合には,ドライブ軸7,8をスリーブ20から引き抜けば,スプライン軸31が第2スプライン孔30から離脱することで,キー部材32は,環状スプリング35の付勢力により第2位置Bから第1位置Aへと戻り,キー溝28から退去することになる。したがって,キー部材32による外側筒部26及び内側筒部27の連結が解除され,スリーブ20を外側筒部26及び軸受ボス4,5から引き抜くことで,作業窓18から差動ギヤ機構3を分解し,その部品交換を行うことができる。
【0037】
また組立後,ミッションケース1内に潤滑オイルを注入すると,その潤滑オイルは,作業窓18からデフケース2内を満たし,差動ギヤ機構3各部の潤滑に供される。その際,ミッションケース1内の潤滑オイルは,オイルシール23によって,スリーブ20外周から外部への流出が阻止され,またデフケース2内の潤滑オイルは,Oリング37によって,キー部材32の周囲から外部への流出が阻止される。したがって,自動車の組立完成後,メンテナンス等のためにドライブ軸7,8を離脱したときでも,ミッションケース1及びデフケース2内の潤滑オイルが外部に流出しないので,その都度,潤滑オイルの抜き取りを行う必要がなく,メンテナンス性が良好である。
【0038】
次に,図7に示す本発明の第2実施形態について説明する。
【0039】
この第2実施形態は,外側筒部26をスリーブ20に,内側筒部27をサイドギヤ11にそれぞれ形成した点で第1実施形態と相違している。これに関連して,内側筒部27の内周には,サイドギヤ11の第1スプライン孔25が延長して形成され,この第1スプライン孔25にドライブ軸7,8のスプライン軸31が嵌合することで,キー部材32が第1位置Aから第2位置Bへと移行するようになっている。スリーブ20の内周には,スプライン軸31が嵌合する第2スプライン孔30が形成される。Oリング37は,キー部材32の周囲とデフケース2内部との連通を遮断するように,キー部材32より軸方向内方の内側筒部27の外周に環状のシール溝36が設けられ,このシール溝36に,外側筒部26の内周面に密接するOリング37が装着される。その他の構成は,第1実施形態と同様であるので,図7中,第1実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0040】
この第2実施形態によっても,第1実施形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0041】
次に,図8及び図9に示す本発明の第3実施形態について説明する。
【0042】
この第3実施形態では,外側筒部26の内周面に,第2実施形態の環状のキー溝28に代えて,複数のキー孔39を形成し,複数のキー部材32が第2位置Bを占めるとき,それらの外端部が複数のキー孔39にそれぞれ係合して,スリーブ20の外側筒部26と回転方向においても連結するようにしたものである。したがって,スリーブ20には,ドライブ軸7,8のスプライン軸31と嵌合するスプライン孔は不要である。その他の構成は第2実施形態と同様であるので,図8及び図9中,第2実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0043】
この第3実施形態によっても,第1実施形態と同様の作用効果を達成することができる。
【0044】
次に,図10図12に示す本発明の第4実施形態について説明する。
【0045】
この第4実施形態では,サイドギヤ11及びスリーブ20の一方に外側筒部26が,他方に内側筒部27がそれぞれ形成される。そして外側筒部26の内周には環状突起よりなる固定係合部41が形成され,内側筒部27には,その周方向に並ぶ複数の可動係合部42が形成される。これら可動係合部42は,固定係合部41から離脱した第1位置Aと,固定係合部41に係合した第2位置Bとの間を移動するように撓み得るようになっており,これら可動係合部42には,これを第1位置A側に付勢する弾性付勢力が付与されている。
【0046】
外側筒部26及び内側筒部27の嵌合部には,固定係合部41の周囲とデフケース2内部との連通を遮断するOリング37が介装される。具体的には,固定係合部41より軸方向外方の外側筒部26の内周面に環状のシール溝36が設けられ,このシール溝36に,内側筒部27の外周面に密接するOリング37が装着される。
【0047】
また可動係合部42群の内周には,サイドギヤ11の第1スプライン孔25と同軸上に並び且つドライブ軸7,8のスプライン軸31よりも小径の第3スプライン孔43が形成される。
【0048】
而して,スリーブ20にドライブ軸7,8が存在しない状態では,可動係合部42は,それ自体の弾性付勢力により第1位置Aに保持され,固定係合部41から離脱しているので,スリーブ20の軸受ボス4,5からの引き抜きができ,したがって前実施形態と同様にデフケース2からの差動ギヤ機構3の分解が可能となる。
【0049】
ドライブ軸7,8をスリーブ20に嵌挿して,スプライン軸31を第3スプライン孔43,第1スプライン孔25へと順次嵌合していくと,第3スプライン孔43は,スプライン軸31より小径に形成されているため,スプライン軸31の圧入により各可動係合部42が第2位置Bへと半径方向に拡張され,固定係合部41と係合することになり,スリーブ20の軸受ボス4,5からの離脱を防ぐことができる。
【0050】
本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,上記実施形態では,リングギヤ17及びフランジ15のボルト締結に代えて,溶接による結合を採用することもできる。またデフケース2内の潤滑オイルのサイドギヤ11のハブ11a内への流出を防ぐべく,ハブ11aの底部11a1 に代えて,プラグをハブ11aの内周に液密に圧入することもできる。またピン状のキー部材32に代えて,ボール状その他の形状のキー部材を用いることもできる。
【符号の説明】
【0051】
D・・・・差動装置
X・・・・軸線
1・・・・ミッションケース
2・・・・デフケース
3・・・・差動ギヤ機構
4・・・・第1軸受ボス
5・・・・第2軸受ボス
7,8・・ドライブ軸
11・・・・サイドギヤ
18・・・・作業窓
20・・・・スリーブ
23・・・・オイルシール
25・・・・第1スプライン孔
26・・・・外側筒部
27・・・・内側筒部
28・・・・キー溝
30・・・・第2スプライン孔
31・・・・スプライン軸
32・・・・キー部材
37・・・・シール部材(Oリング)
41・・・・固定係合部
42・・・・可動係合部
43・・・・第3スプライン孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12