【課題】コンデンサケースに成形することができる良好な成形性、ならびに、コンデンサケースとして成形した後の高電圧に対する絶縁性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液性、耐食性、印刷性に優れ、更にコスト面や安全性・環境面にも優れたコンデンサケース用アルミニウム塗装材を提供する。
【解決手段】コンデンサケース用アルミニウム塗装材は、アルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の表面に形成された化成皮膜と、当該化成皮膜上に形成された塗膜とを含むアルミニウム塗装材であって、前記塗膜は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリイソシアネートおよびメラミン樹脂を主成分とし、メチルエチルケトンによる膨潤度が1.5未満、表面自由エネルギーが36mN/m〜50mN/m、かつ、ガラス転移温度が100℃〜150℃である。
前記塗膜は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、メラミン樹脂およびポリイソシアネートを含有する塗料組成物の硬化物であって、前記ビスフェノールAエポキシ樹脂、前記ポリイソシアネートおよび前記メラミン樹脂の総量に対する前記ビスフェノールAエポキシ樹脂の含有量は50〜90mass%、前記ポリイソシアネートの含有量は7〜50mass%、前記メラミン樹脂の含有量は0.5〜10mass%であることを特徴とする、請求項1に記載のコンデンサケース用アルミニウム塗装材。
【背景技術】
【0002】
近時、成形後の絶縁用樹脂被覆が不要な樹脂被覆アルミニウム合金板材が、コンデンサケース材として使用されるようになってきている。このコンデンサケースは円筒形であり、様々な高さ/直径比を有する。板材を円筒形に形成するため、深絞り成形やしごき成形を組み合わせた厳しい条件での成形が施される。そのため、建材などに用いられる一般的な樹脂被覆アルミニウム合金板材を適用すると、樹脂層に亀裂や剥離などが発生して十分な絶縁性が得られない。特に、高さ/直径比の大きいケースの成形において、この傾向が顕著である。
【0003】
特許文献1には、コンデンサケース等に利用され、成形性に優れ、耐熱変色性及び高温高湿耐久性を有する樹脂被覆アルミニウム材料が開示されている。この樹脂被覆アルミニウム材料は、純アルミニウム又はアルミニウム合金表面に有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜を形成し、その上層に数平均分子量が2000〜100000のエポキシ系樹脂をシランカップリング剤を介して被覆した構造を有する。また、上記無孔質陽極酸化皮膜の膜厚が30〜200nm、上記シランカップリング剤の無孔質陽極酸化皮膜上への塗布量が0.5〜10mg/m
2、ならびに、上記エポキシ系樹脂の数平均分子量が5000〜80000でその被覆厚さが2〜20μmであることが好ましいことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、(A)水酸基含有樹脂とブロックイソシアネート硬化剤を含有する皮膜形成樹脂組成物、(B)アルデヒド化合物吸着能を有する窒素含有化合物で表面処理された無機化合物、及び(C)リン酸チタニウム系化合物を、(A)成分100重量部に対して(B)成分0.1〜10重量部及び(C)成分0.1〜10重量部の割合で含有することを特徴とするプレコート用熱硬化型塗料組成物と、それを金属板に塗装して得られるプレコート金属板とが開示されている。また、(A)成分に含まれる水酸基含有樹脂として、水酸基価5〜200mgKOH/g、数平均分子量が1000〜20000である水酸基含有ポリエステル樹脂が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ポリエチレンワックス及び/又はカルナバワックスを含み、樹脂層厚さが2μm以上22μm以下であり、樹脂層表面における長さ100μmの一の直線が切断するワックス粒子長さの和が10μm以上であり、かつ、樹脂層厚さの80%以下であって、0.1μm以上である長径部分を備える断面形状のワックス粒子が、3個以上50個以下存在し、樹脂層厚さの80%を超える長さの長径部分を備えるワックス粒子が10個未満であるアルミニウム電解コンデンサケース用樹脂被覆アルミニウム合金板材が開示されている。
【0006】
特許文献4には、アルミニウム板の表面に、プレコート皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、プレコート皮膜は、エポキシ系樹脂と無黄変タイプのイソシアネート系硬化剤とが分子間架橋された熱硬化性樹脂からなり、プレコート皮膜のゲル分率が、70%以上92%以下であるプレコートアルミニウム板が開示されている。
【0007】
特許文献5には、溶融アルミニウムめっき鋼板上にクロメート皮膜を形成させた後、(A)メタクリル酸メチルと、一般式CH
2 =CR
1−COOR
2OH(式中R
1 はHまたはCH
3 であり、R
2はアルキル基である)で示される単量体の1種または2種以上と、必要に応じてこれらの単量体に共重合可能な単量体(スチレンを除く)からなる共重合体であるアクリル樹脂が全固形分濃度の50〜85wt%、(B)エポキシ樹脂を全固形分濃度の5〜20wt%、(C)メラミン樹脂を全固形分濃度の10〜30wt%、(D)耐候性添加剤を全固形分濃度の0.5〜5wt%,からなる組成の樹脂皮膜を2〜4.5μm被覆してなる樹脂被覆処理溶融アルミニウムめっき鋼板が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るコンデンサケース用アルミニウム塗装材は、アルミニウム又はアルミニウム合金の基材と、当該基材の少なくとも一方の表面に形成した化成皮膜と、当該化成皮膜上に形成した塗膜とを備える。
【0020】
本発明で用いる基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材である。以下において、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる基材を、単に「アルミニウム基材」と記す。なお、アルミニウム以外の金属を基材に用いることもできる。
【0021】
本発明で用いる化成皮膜は、塗布型であっても反応型であってもよいが、アルミニウム基材および塗膜への密着性の観点から、反応型が好ましい。具体的には、リン酸クロメート、クロム酸クロメート、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウムなどの処理液で形成される皮膜である。耐食性、2次密着性、経済性の観点から、リン酸クロメートがより好ましい。リン酸クロメート皮膜の付着量は金属Cr元素換算で2mg/m
2〜50mg/m
2であることが好ましい。付着量がCr元素換算で2mg/m
2未満では、十分な耐食性が得られず、さらに塗膜との2次密着性が得られない。また、付着量がCr元素換算で50mg/m
2を超えても、耐食性や塗膜との2次密着性の効果が飽和し経済性に欠ける。好ましい付着量はCr元素換算で5mg/m
2〜40mg/m
2である。
【0022】
本発明で用いる塗膜は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリイソシアネートおよびメラミン樹脂を主成分とし、メチルエチルケトン(以下、MEKと記す)による膨潤度が1.5未満、表面自由エネルギーが36mN/m〜50mN/m、ガラス転移温度が100℃〜150℃である。
【0023】
アルミニウム基材に、ビスフェノールAエポキシ樹脂を塗装することにより、高い絶縁性、耐湿性、密着性、耐高温水性、耐食性等において優れた塗膜が得られる。しかし、化成皮膜が強固なため、塗膜が変形すると塗膜中に歪が残存しやすく、2次密着性が低下する傾向があった。
【0024】
そこで、本発明では、塗膜の主成分をビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリイソシアネートおよびメラミン樹脂とし、塗膜のガラス転移温度を100℃〜150℃にすることにより、加工後の歪を抑制することができ、2次密着性の低下を抑制することが可能となった。塗膜のガラス転移温度が100℃未満であると、高い電圧を印加すると塗膜が破壊されてしまい、コンデンサの機能が果たせなくなる。一方、塗膜のガラス転移温度が150℃を超えると、塗膜自体の流動性が低くなるため、塗膜の柔軟性が不十分となり、加工時に塗膜割れが顕著になる。
【0025】
また、本発明では、塗膜の表面自由エネルギーを36mN/m〜50mN/mとすることにより、印刷性を十分に確保することができる。さらに、成形性を良好にする方法のひとつとして、ワックス等の潤滑剤を添加することが挙げられるが、添加したワックスが表面に露出し、表面自由エネルギーが36mN/m未満に低下してしまうことがある。塗膜の表面自由エネルギーが36mN/m未満であると、印刷時にインクが弾かれたり、印刷部が剥離してしまうことがある。また、塗膜の表面自由エネルギーが50mN/mを超えると、インクの有する表面張力と化成皮膜の表面自由エネルギーとの差が大きくなり、インクが弾かれ印刷しにくくなる。なお、塗膜の表面自由エネルギーは、表面自由エネルギーが既知の液体にて測定した接触角を基に拡張Fowkesの式より算出することができる。
【0026】
また、本発明では、塗膜のMEKによる膨潤度を1.5未満とすることにより、成形時の成形油や成形後の洗浄液等による塗膜の溶解を抑制することができ、耐洗浄液性を付与することができる。MEKによる膨潤度は、1.2以下であることがより好ましい。MEKによる膨潤度が1.5以上であると、成形時の成形油や成形後の洗浄液によって、塗膜の膨潤、溶解および変色等が生じ、絶縁性が劣る。また、高温に曝した際、塗膜の変色や溶解等が生じ、耐食性が劣る。
【0027】
また、本発明において、塗膜は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリイソシアネートおよびメラミン樹脂を含有する塗料組成物の硬化物であることが好ましい。ビスフェノールAエポキシ樹脂は、工業的汎用性及び良好な耐食性等の点から好ましく用いられる。ビスフェノールAエポキシ系樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、例えば、20000〜100000である。また、エポキシ当量は特に制限されないが、例えば、100〜1000である。ビスフェノールAエポキシ系樹脂を1種用いてもよく、又は、異なる種類のビスフェノールAエポキシ系樹脂を2種以上用いてもよい。
【0028】
本発明者らは、ビスフェノールAエポキシ系塗料組成物にポリイソシアネートを含有させ、さらにメラミン樹脂を含有させ、ビスフェノールAエポキシ樹脂が網目構造をとる塗膜を形成することにより、高電圧での絶縁性、成形性、2次密着性、耐洗浄液性、耐食性を向上できることを見出した。
【0029】
ビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリイソシアネートおよびメラミン樹脂の総量に対するビスフェノールAエポキシ樹脂の含有量は50〜90mass%、ポリイソシアネートの含有量は7〜50mass%、メラミン樹脂の含有量は0.5〜10mass%であることが好ましい。
【0030】
ビスフェノールAエポキシ樹脂の含有量が50〜90mass%であることによって、2次密着性、耐洗浄液性を満足することができる。ビスフェノールAエポキシ樹脂の含有量が50mass%未満では、塗膜自体のガラス転移温度が低くなり、絶縁性を満足することができない。また、ビスフェノールAエポキシ樹脂の含有量が90mass%を超えると、塗膜強度が不十分となり、塗膜が破断し、成形性、密着性や2次密着性を満足することができない。
【0031】
本発明におけるポリイソシアネートとしては、炭素、水素、酸素及び窒素原子等で構成されるものが挙げられ、そのポリイソシアネートの炭素数が10以上のジイソシアネートであることが好ましい。ポリイソシアネートとしては、特にポリエーテル骨格を有するジイソシアネートが好ましい。ポリエーテル骨格を有するジイソシアネートとは、ポリエーテル化合物にジイソシアネートを誘導した化合物である。ポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリネオペンチルグリコール等のグリコール類、これらのグリコール類同士を反応させて得られる化合物、アクリルポリオール、ポリエステルポリエーテル、アクリルポリエーテル等が挙げられる。
【0032】
ポリエーテル骨格としては、特にネオペンチルグリコール骨格が好ましい。ネオペンチルグリコール骨格を有するジイソシアネートを含有させると、2次密着性が優れる。
【0033】
ポリイソシアネートは、ビュレット体、アダクト体、イソシアヌレート体などの3官能以上のポリイソシアネートを使用することも可能である。また、イソシアネート基の反応性を抑制するために、イソシアネート基をブロック剤によってマスクしたブロック型ポリイソシアネートを使用するのが好ましい。ブロック剤は、例えば、フェノール、アルコール、マロン酸ジメチル、アセト酢酸エチル等の活性メチレンである。ブロック型ポリイソシアネートは、加熱によりブロック剤が解離することで架橋が開始するため、取り扱いや保管が容易である。
【0034】
ビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリイソシアネートおよびメラミン樹脂の総量に対しするポリイソシアネート、特にポリエーテル骨格を有するジイソシアネートの含有量が7〜50mass%であることが好ましく、塗膜の柔軟性が増加し、2次密着性、耐洗浄液性を満足することができる。ポリエーテル骨格を有するジイソシアネートの含有量が7mass%未満では、塗膜のガラス転移温度が高く、塗膜が強固となり、成形性や2次密着性が劣る傾向がある。また、表面自由エネルギーが低くなり、印刷性が劣る傾向がある。一方、ポリエーテル骨格を有するジイソシアネートの含有量が50mass%を超えると、塗膜のMEKによる膨潤度や表面自由エネルギーが高くなり、耐洗浄液性や印刷性が劣る傾向がある。
【0035】
メラミン樹脂としてはアミノ化合物とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化メラミン樹脂や、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の少なくとも一部を炭素原子数1〜4の一価アルコールでエーテル化してなるアルキル化メラミン樹脂等が挙げられる。その中でもアルキル化メラミン樹脂が好ましく、アルキル化メラミン樹脂としては、一般の市販品はすべて使用可能であるがメチル化メラミン樹脂(メチルエーテル化メラミン樹脂)、ブチル化メラミン樹脂(ブチルエーテル化メラミン樹脂)、イソブチル化メラミン樹脂(イソブチルエーテル化メラミン樹脂)が望ましい。
【0036】
ビスフェノールAエポキシ樹脂、ポリイソシアネートおよびメラミン樹脂の総量に対して、メラミン樹脂の含有量が0.5〜10mass%であることが好ましく、塗膜が網目構造をとり、高い電圧にて塗膜破壊を生じない絶縁性を満足することができる。メラミン樹脂の含有量が0.5mass%未満では、十分な網目構造を構成することができず、絶縁性が劣る傾向がある。一方、メラミン樹脂の含有量が10mass%を超えると、過度に架橋した塗膜となるため、塗膜の流動性を損ない、成形時に塗膜割れ等を生じる傾向がある。
【0037】
(その他添加剤)
本発明における塗膜を形成する塗料組成物には、必要に応じて、防錆剤、レベリング剤、界面活性剤等を含有させてもよい。また、相溶性を損なわない範囲で着色剤を含有させてもよい。防錆剤としては、例えば、タンニン酸、没食子酸、フイチン酸、ホスフィン酸等が挙げられる。レベリング剤としては、例えば、ポリアルコールのアルキルエステル類等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、シリコーンオイル系、脂肪酸等が挙げられる。着色剤としては、例えば、フタロシアニン化合物等が挙げられる。
【0038】
(塗膜の形成)
本発明のアルミニウム基材表面に塗膜用の液状の塗料組成物を塗装(塗布)し、それを焼付けることにより、塗膜を形成しうる。
【0039】
本発明における塗膜を形成する塗料組成物は、溶媒を含有する。各成分は、溶媒に溶解、分散させて調製される。溶媒は、各成分を溶解又は分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水等の水性溶媒、アセトン、エチルエチルケトン、シクロケキサノン等のケトン系溶剤、エタノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤、プロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤、及び一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化合物等が挙げられる。塗料組成物におけるビスフェノールAエポキシ樹脂、およびポリイソシアネートの総含有量は、5〜50mass%であることが好ましい。総含有量が5mass%未満であると、焼付け時に発泡等が生じ、塗膜が均一に形成できない。一方、総含有量が50mass%を超えると、塗料組成物の粘度が高くなり、取り扱いが難しい上、塗料組成物を均一に塗布することが難しい。
【0040】
塗料組成物の塗布方法としては、ロールコータ法、スプレー法、静電塗装法等の方法が用いられるが、塗膜の均一性に優れ、生産性が良好なロールコータ法が好ましい。ロールコータ法としては、塗布量管理が容易なグラビアロール方式や、厚塗りに適したナチュラルコート方式や、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。また、塗膜の乾燥には一般的な加熱法、誘電加熱法等が用いられる。
【0041】
塗膜を形成する際の焼付けは、焼付け温度(到達板表面温度)が150℃〜320℃で行うのが好ましい。焼付け温度が150℃未満である場合には、塗膜が十分に形成されず化成皮膜との密着性が低下する。焼付け温度が320℃を超える場合には、塗膜が変性し、塗膜の強度・伸び等を著しく低下させ、成形性を低下させることになる。焼付け時間は1〜120秒の条件で行うのが好ましい。
【0042】
塗膜の厚さは、例えばコンデンサケース用のアルミニウム塗装材に塗膜を形成する場合には、1μm〜20μm、好ましくは5μm〜15μmとする必要がある。塗膜の厚さが1μm未満では、所望の耐食性、絶縁性が得られない。一方、塗膜の厚さが20μmより厚いと、耐食性、絶縁性の効果が飽和して不経済となる。
【0043】
このようにして作製されるアルミニウム塗装板は、その表面にプレス成形加工用のプレス油を塗布してからスリット加工や深絞り加工等の成形加工を施すことにより、所望の円筒形状からなるコンデンサケースが作製される。このようなコンデンサケースは、例えば電解コンデンサとして好適に用いられるが、高い加工性、絶縁性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液性、耐食性、印刷性が必要とされるものであれば使用可能であり、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
以下、発明例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
まず、表1〜4に示す各成分を含有する塗料組成物を調製した。塗料組成物の溶媒にはシクロヘキサノンとキシレン(シクロヘキサノン20mass%)の混合液を用いた。
【0046】
アルミニウム材表面には、塗膜を以下のようにして形成した。アルミニウム合金板(1100−H24材、0.30mm厚さ)を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。次いで、このように処理したアルミニウム合金板表面に、市販のリン酸クロメート処理液を用いて化成処理を施した。なお、比較例20は、化成処理を施していない。このアルミニウム合金板に、各々の塗料組成物をロールコータにて塗布した。到達板表面温度(PMT)は270℃、焼付け時間は42秒となるように焼付けして、アルミニウム塗装材の供試材を得た。膜厚は、渦電流式膜厚計にて測定した。
【0047】
(塗料組成物における各成分)
ビスフェノールAエポキシ樹脂(A1):重量平均分子量28000のビスフェノールAエポキシ樹脂
ビスフェノールAエポキシ樹脂(A2):重量平均分子量50000のビスフェノールAエポキシ樹脂
ビスフェノールAエポキシ樹脂(A3):重量平均分子量25000のビスフェノールAエポキシ樹脂
ポリイソシアネート(B1):ポリエチレングリコールジイソシアネート
ポリイソシアネート(B2):ポリプロピレングリコールジイソシアネート
ポリイソシアネート(B3):ポリネオペンチルグリコールジイソシアネート
ポリイソシアネート(B4):ヘキサメチレンジイソシアネート
メラミン樹脂(C1):メチロール化メラミン樹脂(部分メチルエーテル化メラミン樹脂)
メラミン樹脂(C2):メチルエーテル化メラミン樹脂
メラミン樹脂(C2):ブチルエーテル化メラミン樹脂
【0048】
得られた供試材について、MEKによる膨潤度、表面自由エネルギー、ガラス転移温度を測定した。また、それぞれの供試材について、成形性、皮膜密着性、絶縁性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液性、耐食性、印刷性を後述の方法で測定した。結果を、あわせて表1〜4に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
(MEKによる膨潤度)
供試材をMEKに24時間浸漬し、表面に付着しているMEKを拭き取り、重量を測定した。その後供試材を十分乾燥し、塗膜中のMEKを蒸発させ、脱膜し、塗膜量を測定した。
膨潤度=(MEKにて膨潤した塗膜量)/(乾燥した塗膜量)
【0054】
(表面自由エネルギー)
表面自由エネルギーの各成分が既知の液体として、蒸留水、ジヨードメタン及びエチレングリコールを各供試材に滴下した。各液体の接触角を測定し、表面自由エネルギーを算出した。なお、水の分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、29.1mN/m、1.3mN/m、42.4mN/mとし、ジヨードメタンの分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、46.8mN/m、4mN/m、0mN/mとし、エチレングリコールの分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、30.1mN/m、0mN/m、17.6mN/mとした。
【0055】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、周波数10Hz、温度上昇速度5.0℃/min、サンプル長5cm、振幅0.01mmの条件で動的粘弾性を測定することにより評価した。tanδを計算しそのピークをガラス転移温度とした。
【0056】
(成形性)
成形性は、5段の絞りしごき成形方式にて、塗膜が形成されている側を外面にして絞り比1.6のコンデンサケースに成形し、成形後の塗膜を目視観察することにより評価した。成形の際、動粘度1.6mm
2/sの揮発性プレス油を使用した。下記評価基準に基づいて評価した。
○:目視にて表面の変化がない。
△:表面が荒れており、目視でも塗膜の亀裂が確認できる。
×:表面が荒れて更に筋が観察され、目視でも塗膜の亀裂が確認できる。
○または△を合格とした。
【0057】
(皮膜密着性)
成形品の側壁部におけるテープ剥離試験を実施し、塗膜の残存状況目視で観察した。下記評価基準に基づいて評価した。
○:塗膜の剥離が確認されなかった。
×:塗膜が剥離した。
○を合格とした。
【0058】
(絶縁性)
試料を10cm×10cmの大きさに切断し、JIS C2110−1に準じて、交流50Hz、空気中で、絶縁破壊電圧を測定した。絶縁性試験は、供試材の通常の状態での測定と、供試材に対して耐湿性試験500H(JIS K5600−7−2)を実施した後の乾燥状態での測定とを実施した。
◎:3000V以上
○:1000V以上3000V未満
△:100V以上1000V未満
×:100V未満
絶縁部材として要求される電圧が100V以上であることから、◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。
【0059】
(耐高温水性)
上記の成形品を、121℃の水蒸気に5日間暴露した。樹脂塗膜の変色状況を目視で観察した。下記評価基準に基づいて評価した。
◎:塗膜の変色が確認されなかった。
○:塗膜の一部が変色したものの、製品の使用に耐えうる。
×:塗膜全体が変色した。
◎、○を合格とした。
【0060】
(2次密着性)
上記の成形品を、121℃の水蒸気に5日間暴露した。成形品の側壁部におけるテープ剥離試験を実施し、塗膜の残存状況にて評価した。下記評価基準に基づいて評価した。
○:塗膜の剥離が確認されなかった。
×:塗膜が剥離した。
○を合格とした。
【0061】
(耐洗浄液性)
洗浄液として使用されるアクアソルベントG(炭化水素系洗浄剤:アクア化学株式会社製、登録商標)に浸漬(常温にて1時間浸漬)し、塗膜の変色状況を目視で観察した。下記評価基準に基づいて評価した。
◎:塗膜の溶解、変色が確認されなかった。
○:塗膜の一部が変色するものの、製品の使用に耐えうる。
△:塗膜は溶解しないものの、変色が確認された。
×:塗膜が溶解した。
◎、○又は△を合格とした。
【0062】
(耐食性)
JIS Z2371に基づき、塩水噴霧試験を1000時間行い、レイティングナンバー(R.N.)により耐食性を測定した。
R.N 9.0以上を合格とした。
【0063】
(印刷性)
シルクスクリーンインキで供試材に印刷を行った。UV硬化後のインクとの密着性を碁盤目テープ剥離により碁盤目の非剥離率で評価した。シルクスクリーンインキはRIG(商品名、セイコーアドバンス社製、UV硬化性金属用インキ)を使用した。
○:剥離なし 100/100
△:一部剥離 1/100〜99/100
×:全面剥離 0/100、又は印刷後インクが滲んで使用に耐えられなかった。
○を合格とした。
【0064】
表1、2に示すように発明例1〜19はいずれも、成形性、皮膜密着性、絶縁性、耐高温水性、2次密着性、耐洗浄液性、耐食性及び印刷性が良好であった。また、発明例4〜7、15〜16は成形性、絶縁性、耐高温水性、耐洗浄液性、耐食性、印刷性に際立って優れている。
【0065】
これに対し、表3、4に示すように、比較例1では、ベース樹脂としてポリエステル樹脂を用いたため、絶縁性や耐高温水性を満足することはできなかった。比較例2は、ベース樹脂としてポリエステル樹脂とポリアクリル酸を用いたため、絶縁性や耐高温水性を満足することはできなかった。比較例3は、ベース樹脂としてポリプロピレンを用いたため、絶縁性や印刷性を満足することはできなかった。比較例4は、ビスフェノールAエポキシ樹脂のみを用い、ポリイソシアネート及びメラミン樹脂を用いなかったため、2次密着性を満足することができなかった。比較例5は、ビスフェノールAエポキシ樹脂とメラミン樹脂のみを用い、ポリイソシアネートを用いなかったため、成形性、2次密着性を満足することができなかった。比較例6は、ビスフェノールAエポキシ樹脂の代わりにベース樹脂としてポリエステル樹脂を用いたため、絶縁性を満足することはできなかった。比較例7は、メラミン樹脂を含有しなかったため、絶縁性を満足することができなかった。比較例8は、ビスフェノールAエポキシ樹脂のほかにポリビニルアルコールを含有したため、絶縁性や印刷性を満足することができなかった。比較例9は、塗膜のMEKによる膨潤度が高すぎ、ガラス転移温度が低かったため、絶縁性や耐洗浄性を満足することができなかった。比較例10は、塗膜のガラス転移温度が低かったため、絶縁性を満足することはできなかった。比較例11は、ビスフェノールAエポキシ樹脂の含有量が多かったため、ガラス転移温度が高くなり、成形性を満足することはできなかった。比較例12は、塗膜のガラス転移温度が高かったため、成形性や2次密着性を満足することができなかった。比較例13は、塗膜のMEKによる膨潤度が高かったため、耐洗浄液性やUV印刷性を満足することができなかった。比較例14、16は、塗膜のガラス転移温度が低かったため、絶縁性を満足することができなかった。比較例15、17は、塗膜のガラス転移温度が高かったため、成形性を満足することができなかった。比較例18は、塗膜のMEK膨潤度が高かったため、耐洗浄液性を満足することができなかった。比較例19は、塗膜中にポリエチレンワックスを含有させたため、塗膜の表面自由エネルギーが低くなり、印刷性を満足することはできなかった。比較例20は、化成処理を施していなかったため、耐食性、2次密着性を満足することができなかった。比較例21は、ガラス転移温度が高かったため、成形性を満足することができなかった。