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特開2015-146795ノンアルコール飲料、原料液及びこれらに関する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-146795(P2015-146795A)
(43)【公開日】2015年8月20日
(54)【発明の名称】ノンアルコール飲料、原料液及びこれらに関する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20150724BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20150724BHJP
   A23L 2/42 20060101ALI20150724BHJP
【FI】
   A23L2/00 B
   A23L2/38 S
   A23L2/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-23107(P2014-23107)
(22)【出願日】2014年2月10日
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 隆之
(72)【発明者】
【氏名】仲田 創
【テーマコード(参考)】
4B017
【Fターム(参考)】
4B017LC02
4B017LG13
4B017LK12
(57)【要約】
【課題】香味が効果的に向上し、且つ微生物汚染が効果的に抑制されたノンアルコール飲料、原料液及びこれらに関する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るノンアルコール飲料は、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料であって、エキスが1.2w/v%以上であり、前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料であって、
エキスが1.2w/v%以上であり、
前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である
ことを特徴とするノンアルコール飲料。
【請求項2】
アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造に使用される原料液であって、
麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造され、
エキスが1.2w/v%以上であり、
前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である
ことを特徴とする原料液。
【請求項3】
アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造方法であって、
麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、エキスが1.2w/v%以上であり、前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である原料液を調製すること、及び
前記原料液を使用して前記ノンアルコール飲料を製造すること、
を含む
ことを特徴とするノンアルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造に使用される原料液の製造方法であって、
麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく、エキスが1.2w/v%以上であり、前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である原料液を製造すること
を含む
ことを特徴とする原料液の製造方法。
【請求項5】
麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料又は原料液のエキスを1.2w/v%以上に調節し、且つ前記エキス(w/v%)に対する前記ノンアルコール飲料又は前記原料液のフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合を30%〜58%に調節することにより、前記ノンアルコール飲料又は原料液の香味を向上させ、且つ前記ノンアルコール飲料又は原料液における微生物汚染を抑制する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアルコール飲料、原料液及びこれらに関する方法に関し、特に、ノンアルコール飲料の特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1には、ビールの脱アルコール濃縮液に、麦芽エキスと、単糖類及び二糖類が少なくマルトトリオース以上の多糖類が多い糖類を外的に添加することで、ノンアルコール炭酸飲料のビール様の風味を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−250503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、麦芽を使用し、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造において、糖類(特に、三糖類又はそれより大きい多糖類)を外的に添加しない場合には、ビール様の香味に乏しいノンアルコール飲料が製造されることとなっていた。
【0005】
しかしながら、麦芽を使用し、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造において、糖類を外的に添加する場合には、当該糖類を外的に添加しない場合に比べて、微生物汚染のリスクが高まる。
【0006】
すなわち、アルコール発酵を行う場合には、麦汁に含まれる単糖類及び二糖類はビール酵母により消費される(ビール酵母は、麦汁に含まれる単糖類を最初に取り込み、その細胞周期のサイクルが動き、その後、二糖類を消費し、発酵を開始する。)が、アルコール発酵を行わない場合には、当該単糖類及び二糖類が消費されずに麦汁に残る。このため、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造に使用される麦汁は、微生物の増殖に適したものとなる。また、麦汁及びノンアルコール飲料がアルコールを実質的に含まないことも微生物の増殖に適している。
【0007】
さらに、糖類を外的に添加する場合、麦汁には、上述のとおり消費されていない麦芽由来の単糖類や二糖類に加えて、当該外的に添加された糖類も含まれるため、当該麦汁は、微生物の増殖にとって、より適したものとなり、微生物汚染のリスクがさらに高まる。また、例えば、ホップを使用する場合には、糖類の外的な添加によって、麦汁に含まれる、当該ホップに由来する抗菌作用を示す成分が希釈されるため、当該糖類を添加しない場合に比べて、微生物汚染のリスクが高まる。
【0008】
そして、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造において、糖類を外的に添加する場合には、当該糖類を添加する工程及び設備が追加されて、操作が煩雑になり、設備が複雑になるため、当該糖類を添加しない場合に比べて、微生物汚染のリスクが高まる。
【0009】
なお、例えば、ノンアルコール飲料の製造を、ビール酵母を使用するアルコール飲料の製造設備に隣接した設備で行う場合、当該ノンアルコール飲料の製造において、単糖類及び二糖類を豊富に含む麦汁に当該ビール酵母が混入すると、アルコール発酵が急激に進行し、アルコールが生成されてしまう。したがって、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造においては、ビール酵母の混入も微生物汚染の一種である。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、香味が効果的に向上し、且つ微生物汚染が効果的に抑制されたノンアルコール飲料、原料液及びこれらに関する方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るノンアルコール飲料は、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料であって、エキスが1.2w/v%以上であり、前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%であることを特徴とする。本発明によれば、香味が効果的に向上し、且つ微生物汚染が効果的に抑制されたノンアルコール飲料を提供することができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る原料液は、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造に使用される原料液であって、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造され、エキスが1.2w/v%以上であり、前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%であることを特徴とする。本発明によれば、香味が効果的に向上し、且つ微生物汚染が効果的に抑制された原料液を提供することができる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るノンアルコール飲料の製造方法は、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造方法であって、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、エキスが1.2w/v%以上であり、前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である原料液を調製すること、及び前記原料液を使用して前記ノンアルコール飲料を製造すること、を含むことを特徴とする。本発明によれば、香味が効果的に向上し、且つ微生物汚染が効果的に抑制されたノンアルコール飲料の製造方法を提供することができる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る原料液の製造方法は、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造に使用される原料液の製造方法であって、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく、エキスが1.2w/v%以上であり、前記エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である原料液を製造することを含むことを特徴とする。本発明によれば、香味が効果的に向上し、且つ微生物汚染が効果的に抑制された原料液の製造方法を提供することができる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料又は原料液のエキスを1.2w/v%以上に調節し、且つ前記エキス(w/v%)に対する前記ノンアルコール飲料又は前記原料液のフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合を30%〜58%に調節することにより、前記ノンアルコール飲料又は原料液の香味を向上させ、且つ前記ノンアルコール飲料又は原料液における微生物汚染を抑制することを特徴とする。本発明によれば、ノンアルコール飲料又は原料液の香味が効果的に向上させ、且つ微生物汚染を効果的に抑制する方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、香味が効果的に向上し、且つ微生物汚染が効果的に抑制されたノンアルコール飲料、原料液及びこれらに関する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る実施例におけるノンアルコール飲料のエキス及び糖組成の分析結果の一例を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る実施例におけるノンアルコール飲料の官能検査の結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0019】
本実施形態に係るノンアルコール飲料は、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料であって、エキスが1.2w/v%以上であり、当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である。
【0020】
本実施形態に係るノンアルコール飲料の製造方法は、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造方法であって、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、エキスが1.2w/v%以上であり、当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である原料液を調製すること、及び当該原料液を使用して当該ノンアルコール飲料を製造すること、を含む。
【0021】
本実施形態に係る原料液は、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造に使用される原料液であって、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造され、エキスが1.2w/v%以上であり、当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である。
【0022】
本実施形態に係る原料液の製造方法は、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造に使用される原料液の製造方法であって、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく、エキスが1.2w/v%以上であり、当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が30%〜58%である原料液を製造することを含む。
【0023】
本実施形態に係るノンアルコール飲料又は原料液の特性を向上させる方法は、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料又は原料液のエキスを1.2w/v%以上に調節し、且つ当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合を30%〜58%に調節することにより、当該ノンアルコール飲料又は原料液の香味を向上させ、且つ当該ノンアルコール飲料又は原料液における微生物汚染を抑制する方法である。
【0024】
ノンアルコール飲料は、エタノールの含有量が1体積%未満の飲料である。ノンアルコール飲料のエタノール含有量は、1体積%未満であれば特に限られないが、例えば、0.5体積%未満であることとしてもよく、0.05体積%未満であることとしてもよく、0.005体積%未満であることとしてもよい。
【0025】
ノンアルコール飲料は、発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよい。発泡性ノンアルコール飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有するノンアルコール飲料である。すなわち、発泡性ノンアルコール飲料は、例えば、炭酸ガスを含有するノンアルコール飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有するノンアルコール飲料である。ノンアルコール飲料に発泡性を付与する方法は、特に限られず、例えば、炭酸水の添加及び/又は炭酸ガスの吹き込みを使用することとしてもよい。
【0026】
ノンアルコール飲料は、原料液を使用して製造される。すなわち、ノンアルコール飲料は、原料液そのものであることとしてもよく、また、原料液と他の成分とを混合することにより製造されることとしてもよい。他の成分は、糖類以外の成分、例えば、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0027】
ノンアルコール飲料又は原料液のエキスは、1.2w/v%以上であれば、特に限られないが、例えば、1.5w/v%以上であることとしてもよく、2.0w/v%以上であることとしてもよく、2.1w/v%以上であることとしてもよい。
【0028】
ノンアルコール飲料又は原料液のエキスの上限値は、麦芽を使用して達成される範囲であれば特に限られない。すなわち、ノンアルコール飲料のエキスは、例えば、1.2w/v%〜6.0w/v%であることとしてもよく、1.2w/v%〜5.5w/v%であることとしてもよく、1.2w/v%〜5.0w/v%であることとしてもよい。また、ノンアルコール飲料のエキスは、例えば、1.5w/v%〜6.0w/v%であることとしてもよく、1.5w/v%〜5.5w/v%であることとしてもよく、1.5w/v%〜5.0w/v%であることとしてもよい。また、ノンアルコール飲料のエキスは、例えば、2.0w/v%〜6.0w/v%であることとしてもよく、2.0w/v%〜5.5w/v%であることとしてもよく、2.0w/v%〜5.0w/v%であることとしてもよい。また、ノンアルコール飲料のエキスは、例えば、2.1w/v%〜6.0w/v%であることとしてもよく、2.1w/v%〜5.5w/v%であることとしてもよく、2.1w/v%〜5.0w/v%であることとしてもよい。
【0029】
また、原料液のエキス(当該原料液のエキスは、例えば、後述のとおり糖化を行って原料液を製造する場合には、当該糖化後の原料液のエキス、また、例えば、原料液と他の成分(例えば、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1種以上)とを混合してノンアルコール飲料を製造する場合には、当該他の成分と混合する直前の原料液のエキス、また、例えば、糖化を行って製造された原料液と他の成分とを混合してノンアルコール飲料を製造する場合には、当該糖化後であって当該他の成分と混合する直前の原料液のエキスであることとしてもよい。)は、例えば、1.2w/v%〜25.0w/v%であることとしてもよく、1.2w/v%〜22.0w/v%であることとしてもよい。また、原料液のエキスは、例えば、1.5w/v%〜25.0w/v%であることとしてもよく、1.5w/v%〜22.0w/v%であることとしてもよい。また、原料液のエキスは、例えば、2.0w/v%〜25.0w/v%であることとしてもよく、2.0w/v%〜22.0w/v%であることとしてもよい。また、原料液のエキスは、例えば、2.1w/v%〜25.0w/v%であることとしてもよく、2.1w/v%〜22.0w/v%であることとしてもよい。
【0030】
なお、ノンアルコール飲料又は原料液のエタノール含有量が0.005体積%未満である場合、当該ノンアルコール飲料又は原料液のエキス(w/v%)は、文献「改訂BCOJビール分析法(2013年増補改訂)、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編」の「7.2 エキス」に記載の方法に従い測定される。また、ノンアルコール飲料又は原料液のエタノール含有量が0.005体積%以上である場合、当該ノンアルコール飲料又は原料液のエキス(w/v%)は、例えば、日本国の酒税法に規定されるエキス分、すなわち、温度15℃において原容量100立方センチメートル中に含有される不揮発性成分のグラム数として測定される。また、ノンアルコール飲料又は原料液のエタノール含有量が0.5体積%以上であり、且つ当該ノンアルコール飲料又は原料液のエキス(w/v%)が10.0w/v%以下である場合、当該ノンアルコール飲料又は原料液のエキス(w/v%)は、文献「改訂BCOJビール分析法(2013年増補改訂)、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編」の「8.4.3 アルコライザー法」に記載の方法に従い測定される。
【0031】
ノンアルコール飲料又は原料液のエキスに対する、当該ノンアルコール飲料又は原料液のフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合は、30%〜58%であれば特に限られないが、例えば、30%〜56%であることとしてもよく、30%〜52%であることとしてもよく、30%〜50%であることとしてもよい。また、上記割合は、例えば、35%〜58%であることとしてもよく、35%〜56%であることとしてもよく、35%〜52%であることとしてもよく、35%〜50%であることとしてもよい。また、上記割合は、例えば、37%〜58%であることとしてもよく、37%〜56%であることとしてもよく、37%〜52%であることとしてもよく、37%〜50%であることとしてもよい。
【0032】
また、ノンアルコール飲料又は原料液のエキスに対するフルクトース及びグルコースの含有量(w/v%)の合計値の割合は、特に限られないが、例えば、0.5%〜20%であることとしてもよく、1%〜15%であることとしてもよい。
【0033】
また、ノンアルコール飲料又は原料液のエキスに対するスクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合は、特に限られないが、例えば、20%〜60%であることとしてもよく、30%〜50%であることとしてもよい。
【0034】
また、ノンアルコール飲料又は原料液のエキスに対するスクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合は、当該ノンアルコール飲料又は原料液のエキスに対するフルクトース及びグルコースの含有量(w/v%)の合計値の割合より大きいこととしてもよい。
【0035】
すなわち、例えば、ノンアルコール飲料又は原料液のエキスに対するスクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合は、当該ノンアルコール飲料又は原料液のエキスに対するフルクトース及びグルコースの含有量(w/v%)の合計値の割合の2倍以上(例えば、2〜20倍)であることとしてもよく、3倍以上(例えば、3〜20倍)であることとしてもよい。
【0036】
ノンアルコール飲料又は原料液のフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)は、例えば、当該フルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの標準液を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定される。
【0037】
ノンアルコール飲料又は原料液のpHは、特に限られないが、例えば、3.5〜4.5であることとしてもよく、3.6〜4.4であることとしてもよく、3.7〜4.2であることとしてもよい。さらに、ノンアルコール飲料のpHは、例えば、3.5〜4.1であることとしてもよく、3.5〜4.0であることとしてもよく、3.5以上、4.0未満であることとしてもよい。これらの場合、ノンアルコール飲料のpHの下限値は、例えば、3.6であることとしてもよく、3.7であることとしてもよい。
【0038】
本実施形態においては、麦芽を使用する。麦芽は、例えば、大麦麦芽及び/又は小麦麦芽である。大麦麦芽及び小麦麦芽は、それぞれ大麦及び小麦を発芽させることにより得られる。麦芽の使用は、麦芽エキスの使用であることとしてもよい。麦芽エキスは、麦芽を抽出することにより得られる組成物である。
【0039】
麦芽の使用量は、上述のとおり、ノンアルコール飲料又は原料液のエキス(w/v%)が上記下限値以上となり、且つ当該エキス(w/v%)に対する、当該ノンアルコール飲料又は原料液のフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合(%)が上記範囲となる量であれば、特に限られないが、例えば、ノンアルコール飲料又は原料液の原料(水を除く)に対して10重量%〜100重量%、好ましくは50重量%〜100重量%の麦芽を使用することとしてもよい。
【0040】
本実施形態においては、麦芽を使用し、糖化を行って、ノンアルコール飲料又は原料液が製造されることとしてもよい。すなわち、例えば、麦芽を含む原料と水(好ましくは湯)との混合により調製された混合液の糖化を行うこととしてもよい。糖化は、麦芽及び水を含む混合液を、当該麦芽に含まれる消化酵素(例えば、デンプン分解酵素、タンパク質分解酵素)が働く温度(例えば、30℃〜90℃)に維持することにより行う。
【0041】
糖化は、例えば、原料液のエキス(w/v%)が上記下限値以上となり、当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合(%)が上記範囲となるような条件で行うこととしてもよい。
【0042】
すなわち、本実施形態においては、例えば、通常のビールの製造における糖化条件に比べて、酵素反応が抑制された条件で糖化を行うこととしてもよい。具体的に、例えば、比較的高い糖化温度(例えば、65℃〜90℃)、比較的短い糖化時間(例えば、10分以下)及び比較的低いpH(例えば、3.0〜5.0)からなる群より選択される1つ以上の条件で糖化を行うこととしてもよい。このように酵素反応が抑制された条件で糖化を行うことにより、原料液のエキス、及び当該エキスに対する、当該原料液の単糖類及び二糖類の含有量の割合を上述したような特定の範囲に効果的に調節することができる。
【0043】
本実施形態においては、麦芽に加えて他の原料を使用することとしてもよい。すなわち、例えば、麦芽及びホップを使用することとしてもよい。ホップとしては、例えば、ホップをエタノールまたは炭酸ガスで抽出して得られるホップエキス、乾燥させたホップの球果を圧縮して得られるプレスホップ、乾燥させたホップの球果を粉砕して得られるホップパウダー、及び当該ホップパウダーをペレット状に圧縮成形して得られるホップペレットからなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよい。
【0044】
本実施形態においては、糖類を外的に添加しない。すなわち、糖類を外的に添加することなく(外的に添加される糖類を使用することなく)ノンアルコール飲料又は原料液が製造される。具体的に、本実施形態においては、単糖類、二糖類、三糖類及びこれより大きい多糖類のいずれも外的に添加しない。糖類は、例えば、液糖、果糖ブドウ糖液糖、水あめ、砂糖及びグルコオリゴ糖である。
【0045】
本実施形態においては、糖類を外的に添加しないため、糖類として、実質的に、麦芽に由来する糖類のみを使用してノンアルコール飲料又は原料液が製造される。すなわち、ノンアルコール飲料又は原料液に含まれる糖類の総重量に対する、麦芽に由来する糖類の重量の割合は、例えば、90%〜100%であることとしてもよく、95%〜100%であることとしてもよい。
【0046】
また、本実施形態においては、例えば、高甘味度甘味料を使用しないこととしてもよい。すなわち、例えば、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、スクラロース及びステビアを使用しないこととしてもよい。また、本実施形態においては、ビールの副原料を使用しないこととしてもよい。すなわち、例えば、米、コーン、スターチ及び馬鈴薯を使用しないこととしてもよい。
【0047】
本実施形態においては、アルコール発酵を行わない。すなわち、ノンアルコール飲料及び原料液は、アルコール発酵を行うことなく製造される。アルコール発酵は、例えば、酵母を添加して行うアルコール発酵である。
【0048】
本実施形態においては、上述のとおり、麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく製造されるノンアルコール飲料及び原料液のエキスが上記下限値(例えば、1.2w/v%)以上であり、当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が上記範囲(例えば、30%〜58%)であることにより、当該ノンアルコール飲料及び原料液の香味を効果的に向上させ、且つ当該ノンアルコール飲料及び原料液における微生物汚染を効果的に抑制することができる。
【0049】
すなわち、上述のとおり、従来、麦芽を使用し、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造において、糖類を外的に添加する場合には、微生物汚染のリスクが高まることとなっていた。
【0050】
これに対し、本実施形態においては、糖類を外的に添加せず、且つ当該エキスに対する、微生物の栄養源となるフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量の合計値の割合を、上述した比較的低い特定の範囲に調節することにより、微生物汚染のリスクが効果的に低減される。
【0051】
また、上述のとおり、従来、麦芽を使用し、アルコール発酵を行わないノンアルコール飲料の製造において、糖類を外的に添加しない場合には、ビール様の香味に乏しいノンアルコール飲料が製造されることとなっていた。
【0052】
これに対し、本実施形態においては、糖類を外的に添加せず、エキスを上記下限値以上に調節し、且つ当該エキスに対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量の合計値の割合を、上述した比較的低い特定の範囲に調節すること(すなわち、当該エキスに対する三糖類及びこれより大きな多糖類の含有量の割合を比較的高い特定の範囲に調節すること)により、ビール様の香味に優れたノンアルコール飲料が製造される。
【0053】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0054】
[原料液の製造]
麦芽を使用し、糖類を外的に添加せず、アルコール発酵を行うことなく、原料液を製造した。具体的に、まず、粉砕した大麦麦芽(水を除く原料に対する大麦麦芽の使用量は100重量%)に50℃の湯を加え、得られた混合液を比較的高い糖化温度(72℃)で10分維持することにより、糖化を行った。次いで、糖化後の混合液から大麦麦芽の穀皮を除去した。その後、混合液にホップを添加して煮沸を行った。煮沸後の混合液(麦汁)を、「糖化抑制原料液」として得た。また、通常の糖化温度(65℃)で糖化を行った以外は上記の例と同一条件にて、「通常原料液」を得た。
【0055】
また、上述のようにして得られた糖化抑制原料液と通常原料液とを所定の比率で混合し又は水で希釈することにより、そのエキス及び糖組成が当該糖化抑制原料液及び通常原料液と異なる複数の原料液を得た。さらに、上記糖化抑制原料液と上記通常原料液とを所定の比率で混合し、さらに糖類を外的に添加することにより、「糖類原料液」を得た。なお、上述のようにして製造された原料液のエタノール含有量は、いずれも0.005体積%未満であり、エキスは、18〜22w/v%であった。
【0056】
[ノンアルコール飲料の製造]
上述のようにして製造された原料液を使用して、アルコール発酵を行うことなく、ノンアルコール飲料を製造した。すなわち、上述のようにして得られた原料液に、炭酸水、苦味料及び酸味料を添加することにより、発泡性ノンアルコール飲料を製造した。なお、上述のようにして製造されたノンアルコール飲料のエタノール含有量は、いずれも0.005体積%未満であった。
【0057】
[エキス及び糖組成の分析]
上述のようにして製造されたノンアルコール飲料のエキス及び糖組成を分析した。ノンアルコール飲料のエキスは、文献「改訂BCOJビール分析法(2013年増補改訂)、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編」の「7.2 エキス」に記載の方法に従い測定した。
【0058】
ノンアルコール飲料の糖組成は、HPLCにより測定した。すなわち、HPLC本体(Waters 2795 Separations Module)、HPLC検出器(Waters 2420 ELS Detector)及びカラム(Asahipak NH2P−50+Asahipak NH2P−50G)を備えたHPLC分析装置を使用した。
【0059】
ノンアルコール飲料の一部を採取して三角フラスコに入れ、当該三角フラスコを軽く振ることにより脱気した。次いで、脱気後の飲料を超純水で10倍希釈した。希釈後の飲料500μLに、アセトニトリル500μL、及び内部標準液100μL(2500ppm イノシトール(50%アセトニトリル))を添加して混合し、0.45μm親水性PTFEフィルターでろ過して、測定用サンプルを得た。そして、この測定用サンプルに含まれるフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースを定量した。
【0060】
移動相Aとして超純水を使用し、移動相Bとしてアセトニトリルを使用し、グラジエント:B 75%(15min)−40%(30min)−75%(30.1min)−75%(40min)を採用した。オーブン温度は40℃とし、サンプル注入量は20μLとし、流量は1mL/分とした。フルクトース、グルコース及びスクロースについては、50mg/L、100mg/L、200mg/L、400mg/L及び800mg/Lの標準液を使用した。マルトースについては、250mg/L、500mg/L、1000mg/L、2000mg/L及び4000mg/Lの標準液を使用した。
【0061】
図1には、エキス及び糖組成の分析結果を示す。図1において、実施例1は、上記糖化抑制原料液を使用した例であり、実施例2及び実施例3は、当該糖化抑制原料液と上記通常原料液とを混合して調製された原料液を使用した例であり、実施例4は、当該実施例2の原料液を炭酸水で2倍に希釈して調製された原料液を使用した例であり、比較例1は、上記糖化抑制原料液と上記通常原料液とを混合し、さらに糖類を外的に添加して調製された糖類原料液を使用した例であり、比較例2は、上記糖化抑制原料液と上記通常原料液とを混合し、さらに当該比較例1とは異なる糖類を外的に添加して調製された糖類原料液を使用した例であり、比較例3は、上記通常原料液を使用した例であり、比較例4は、上記実施例2の原料液を炭酸水で4倍に希釈して調製された原料液を使用した例である。
【0062】
また、図1において、「糖類の外的添加」欄の「なし」は、糖類を外的に添加しなかったことを示し、「あり」は、糖類を外的に添加したことを示し、「エキス(w/v%)」は、測定されたエキス値を示し、「単糖類(%)」は、エキス(w/v%)に対するフルクトース及びグルコースの含有量(w/v%)の合計値の割合を示し、「二糖類(%)」は、エキス(w/v%)に対するスクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合を示し、「単糖類+二糖類(%)」は、エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合を示す。
【0063】
図1に示すように、実施例1〜4において、エキスは2.2w/v%〜4.4w/v%であり、当該エキスに対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量の合計値の割合は、38.2%〜53.8%であった。
【0064】
これに対し、比較例1〜3において、エキスは4.4w/v%であり、当該エキスに対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量の合計値の割合は、36.3%、56.4%及び58.6%であった。また、比較例4において、エキスは1.1w/v%であり、当該エキスに対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量の合計値の割合は、43.1%であった。
【0065】
なお、実施例1〜4において、エキスに対するフルクトース及びグルコースの含有量の合計値の割合は、2.9%〜9.5%であり、当該エキスに対するスクロース及びマルトースの含有量の合計値の割合は、35.3%〜44.3%であった。
【0066】
[官能検査−1]
上述のようにして実施例1〜3及び比較例1〜3で製造されたノンアルコール飲料の官能検査を行った。すなわち、6人の熟練したパネリストにより、ノンアルコール飲料の「コク」、「キレ」及び「総合評価(ビール様の香味を有するノンアルコール飲料としての好ましさ)」の項目を評価し、各ノンアルコール飲料の各項目に点数を付与した。
【0067】
図2には、官能検査の結果を示す。図2において、縦軸は、付与された点数(平均値)を示し、黒塗り棒グラフは「コク」の点数を示し、ハッチングが付された棒グラフは「キレ」の点数を示し、白抜き棒グラフは「総合評価」の点数を示す。図2において、点数が高いほど、ノンアルコール飲料が優れた特性を有すると評価されたことになる。
【0068】
図2に示すように、実施例1〜3においては、比較例1〜3に比べて顕著に高い点数が付与された。特に、コク及びキレについては、実施例1〜3のノンアルコール飲料は、比較例1〜3のノンアルコール飲料に比べて顕著に優れていると評価された。
【0069】
すなわち、そのエキス(w/v%)が本発明の上記特定範囲であり、且つ当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が上記特定範囲である実施例1〜3のノンアルコール飲料は、極めて優れたコク及びキレを有する飲料であった。
【0070】
なお、糖類を外的に添加して製造された比較例1,2のノンアルコール飲料は、そのエキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が、糖類を外的に添加することなく製造された実施例1〜3のノンアルコール飲料にそれに比較的近いにもかかわらず(図1参照)、官能検査においては、当該実施例1〜3のノンアルコール飲料は、当該比較例1,2のノンアルコール飲料に比べて顕著に優れた香味を有すると評価された(図2参照)。
【0071】
この理由は明らかではないが、例えば、エキス(w/v%)及び当該エキス(w/v%)に対するフルクトース、グルコース、スクロース及びマルトースの含有量(w/v%)の合計値の割合が上述した本発明の特定範囲内となるように、糖化条件を調節して調製された原料液(糖化抑制原料液)を使用することにより、実施例1〜3のノンアルコール飲料に含まれる麦芽由来の糖類及び他の成分の組成が、ビール様の香味に適したものとなったことが考えられる。
【0072】
[官能検査−2]
また、実施例2のノンアルコール飲料を炭酸水でそれぞれ2倍及び4倍に希釈して調製された実施例4及び比較例4のノンアルコール飲料についても、5人の熟練したパネリストにより、当該ノンアルコール飲料の「コク」、「キレ」及び「総合評価」の項目を評価した。
【0073】
その結果、実施例4のノンアルコール飲料は、十分な「コク」及び「キレ」を有し、ビール様の香味を有するノンアルコール飲料として適切であるとする「総合評価」を得ることができた。これに対し、比較例4のノンアルコール飲料は、特に「コク」に乏しいと評価され、「総合評価」においても、ビール様の香味を有するノンアルコール飲料として不適な香味を有すると評価された。
図1
図2