(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-147690(P2015-147690A)
(43)【公開日】2015年8月20日
(54)【発明の名称】コンクリート用多機能混和剤
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20150724BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20150724BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20150724BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20150724BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20150724BHJP
C08L 5/02 20060101ALI20150724BHJP
C08K 5/08 20060101ALI20150724BHJP
C04B 103/30 20060101ALN20150724BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B24/26 E
C04B24/26 F
C04B24/26 A
C04B24/38 Z
C04B24/02
C08L33/02
C08L5/02
C08K5/08
C04B103:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-19894(P2014-19894)
(22)【出願日】2014年2月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】木之下 光男
(72)【発明者】
【氏名】黒田 萌
【テーマコード(参考)】
4G112
4J002
【Fターム(参考)】
4G112MD02
4G112MD03
4G112MD04
4G112MD07
4G112PB15
4G112PB28
4G112PB31
4G112PB39
4J002AB05X
4J002BG01W
4J002BQ00W
4J002CH05W
4J002EE056
4J002FD036
4J002FD076
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】1)高炉スラグ微粉末を含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、調製後の経時的な流動保持性(スランプ保持性)が低い、2)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、得られる硬化体の圧縮強度が低い、3)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、調製したコンクリートが水和反応により硬化する過程で発熱により温度上昇する熱履歴を受けると、得られるコンクリート硬化体の圧縮強度が低下する、以上の1)〜3)の三つの課題を同時に且つ充分に低コストで解決できるコンクリート用多機能混和剤を提供する。
【解決手段】コンクリート用多機能混和剤として、特定の水溶性ビニル共重合体、特定の水溶性デキストリン化合物及び特定のハイドロキノン類を特定割合で含有して成るものを用いた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉セメントを用いて調製するコンクリート用の多機能混和剤であって、下記のA成分、下記のB成分及び下記のC成分の3成分からなり、且つA成分を20〜80質量%、B成分を19.99〜79質量%及びC成分を0.01〜1質量%(合計100%)の割合で含有してなることを特徴とするコンクリート用多機能混和剤。
A成分:分子中に下記の構成単位Dを35〜85モル%、下記の構成単位Eを15〜65モル%及び下記の構成単位Fを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量5000〜100000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位D:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
構成単位E:分子中に7〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位F:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
B成分:質量平均分子量が1000〜20000であり、且つ分散度が1.2〜6.0である水溶性デキストリン化合物。
C成分:ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノメチルハイドロキノン及びp−ベンゾキノンから選ばれる一つ又は二つ以上。
【請求項2】
A成分を20〜80質量%、B成分を19.95〜79.5質量%及びC成分を0.05〜0.5質量%(合計100%)の割合で含有してなる請求項1記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項3】
B成分が、質量平均分子量が1500〜15000であり、且つ分散度が3.0〜5.5である水溶性デキストリン化合物である請求項1又は2記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項4】
C成分が、ハイドロキノン及び/又はp−ベンゾキノンである請求項1〜3のいずれか一つの項記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項5】
A成分が、分子中に構成単位Dを40〜80モル%、構成単位Eを20〜60モル%及び構成単位Fを0〜3モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量10000〜80000の水溶性ビニル共重合体である請求項1〜4のいずれか一つの項記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項6】
A成分の構成単位Eが、分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位である請求項1〜5のいずれか一つの項記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項7】
固形分濃度10〜50質量%の水溶液の形態とした請求項1〜6のいずれか一つの項記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項8】
高炉セメントが、高炉セメントB種又は高炉セメントC種である請求項1〜7のいずれか一つの項記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項9】
高炉セメントが、高炉セメントC種である請求項1〜7のいずれか一つの項記載のコンクリート用多機能混和剤。
【請求項10】
高炉セメントの単位量が280〜740kg/m3及び水/高炉セメント比が25〜60%のコンクリートに用いるものである請求項1〜9のいずれか一つの項記載のコンクリート用多機能混和剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート用多機能混和剤に関する。近年、副産物の有効利用、省資源・省エネルギー、地球温暖化対策のための炭酸ガス削減等の観点から、製鉄所から副産する高炉水砕スラグの微粉末等とポルトランドセメントを混合した高炉セメントの利用が、コンクリートを調製する上において益々重要になっている。本発明はかかる高炉セメントを用いて調製したコンクリートの性能を大きく向上することができるコンクリート用多機能混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高炉セメントを用いてコンクリートを調製すると、下記の1)〜3)のような問題があることが指摘されている。すなわち、1)調製後の経時的な流動保持性(スランプ保持性)が低い。2)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、高炉スラグ微粉末の分量が多いほど、ポルトランドセメントを用いて調製したコンクリートに比べて、得られる硬化体の圧縮強度が低い(標準水中養生供試体強度が低い)。3)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、調製したコンクリートが水和反応により硬化する過程で発熱により温度上昇する熱履歴を受けると、得られる硬化体の圧縮強度が低下する(高温履歴供試体の強度が低い)。かかる問題は、コンクリート調製時の温度が高いほど、また高炉スラグ微粉末の含有量が多い高炉セメントを用いて調製したコンクリートほど著しい。その一方で、高炉スラグ微粉末を含有する高炉セメントを用いてCO
2の発生を抑制した環境性能の高いコンクリートが知られており(例えば特許文献1参照)、またコンクリートの水和反応による発熱を抑える添加剤、例えばデキストリンやタンニン酸等を用いて調製したコンクリートも知られている(例えば特許文献2〜6参照)。しかし、これらの従来技術では、前記の1)〜3)の問題を同時に且つ充分に解決することができないという問題があり、実情はかかる問題を低コストでしかも簡便な方法で解決することが望まれているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−285291号公報
【特許文献2】特開昭59−30743号公報
【特許文献3】特開昭63−117941号公報
【特許文献4】特開平1−242447号公報
【特許文献5】特開平6−298560号公報
【特許文献6】特開2003−34564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、1)高炉スラグ微粉末を含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、調製後の経時的な流動保持性(スランプ保持性)が低い、2)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、得られる硬化体の圧縮強度が低い、3)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、調製したコンクリートが水和反応により硬化する過程で発熱により温度上昇する熱履歴を受けると、得られるコンクリート硬化体の圧縮強度が低下するという、以上の1)〜3)の問題を同時に且つ充分に低コストで解決できるコンクリート用多機能混和剤を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、高炉セメントを用いて調製するコンクリート用の多機能混和剤としては、特定の3成分を特定割合で含有して成るものが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、高炉セメントを用いて調製するコンクリート用の多機能混和剤であって、下記のA成分、下記のB成分及び下記のC成分の3成分からなり、且つA成分を20〜80質量%、B成分を19.99〜79質量%及びC成分を0.01〜1質量%(合計100%)の割合で含有してなることを特徴とするコンクリート用多機能混和剤に係る。
【0007】
A成分:分子中に下記の構成単位Dを35〜85モル%、下記の構成単位Eを15〜65モル%及び下記の構成単位Fを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量5000〜100000の水溶性ビニル共重合体。
【0008】
構成単位D:メタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0009】
構成単位E:分子中に7〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
【0010】
構成単位F:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル
(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0011】
B成分:質量平均分子量が1000〜20000であり、且つ分散度が1.2〜6.0である水溶性デキストリン化合物。
【0012】
C成分:ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノメチルハイドロキノン及びp−ベンゾキノンから選ばれる一つ又は二つ以上。
【0013】
本発明に係るコンクリート用多機能混和剤(以下、本発明の混和剤という)は、A成分、B成分及びC成分の3成分からなるものである。A成分は主に分散成分としての役割を担うものであって、分子中に構成単位Dを35〜85モル%、構成単位Eを15〜65モル%及び構成単位Fを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量5000〜100000の水溶性ビニル共重合体であり、好ましくは構成単位Dを40〜80モル%、構成単位Eを20〜60モル%及び構成単位Fを0〜3モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量10000〜80000の水溶性ビニル共重合体である。本発明において、A成分の水溶性ビニル共重合体の質量平均分子量はGPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法、以下同じ)で測定したポリエチレングリコール換算の質量平均分子量である。
【0014】
構成単位Dはメタクリル酸から形成された構成単位及びメタクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上である。具体的には、1)メタクリル酸から形成された構成単位、2)メタクリル酸塩から形成された構成単位、3)メタクリル酸から形成された構成単位とメタクリル酸塩から形成された構成単位の双方が挙げられる。ここで、メタクリル酸塩から形成された構成単位としては、イ)メタクリル酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩から形成された構成単位、ロ)メタクリル酸のジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩から形成された構成単位等が挙げられるが、なかでもメタクリル酸のアルカリ金属塩から形成された構成単位が好ましく、メタクリル酸のナトリウム塩から形成された構成単位がより好ましい。
【0015】
構成単位Eは分子中に7〜100個のオキシエチレン単位、好ましくは15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位である。
【0016】
構成単位Fは(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上である。(メタ)アリルスルホン酸塩にはアリルスルホン酸塩とメタリルスルホン酸塩が含まれ、その種類については構成単位Dのメタクリル酸塩について前記したことと同様であるが、なかでもメタリルスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。同様に、メチル(メタ)アクリレートにはメチルアクリレートとメチルメタクリレートが含まれる。
【0017】
以上説明したA成分の水溶性ビニル共重合体自体は公知の方法で合成できる。これには例えば、特開昭58−74552号公報や特開平1−226757号公報等に記載されている方法が挙げられる。
【0018】
B成分は主に強度増進成分としての役割を担うものであり、質量平均分子量が1000〜20000、好ましくは1500〜15000であって、且つ分散度が1.2〜6.0、好ましくは3.0〜5.5である水溶性デキストリン化合物である。本発明において、水溶性デキストリン化合物の質量平均分子量は水系のGPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法、以下同じ)で測定したポリエチレングリコール換算の質量平均分子量である。また本発明において、水溶性デキストリン化合物の分散度は水系のGPC法で測定した分子量分布曲線における分散度(質量平均分子量Mw/数平均分子量Mnの比)である。B成分として用いる分散度の小さい水溶性デキストリン化合物は公知の方法で製造できる。これには例えば、特開2008−222822号公報等に記載の方法が挙げられるが、食品添加物の分野では通常は粉末品として市販されているものを用いることもできる。本発明の特徴の一つは、前記したような特定の水溶性デキストリン化合物を、多機能混和剤の主に強度増進成分として用いたときに、所期の優れた特性が発揮されることを見出したことにある。かかる特性が発揮される理由は必ずしも明らかでないが、前記したような特定の水溶性デキストリン化合物が、コンクリートを調製するときに高炉セメントに吸着されて適度の分散性を付与する作用を示すと同時に、高炉セメントの初期の段階における水和反応速度をコントロールして中長期の水和反応率を高める作用を示すことにより、結果として高強度の硬化体が得られるものと推察される。
【0019】
C成分は主に保存安定成分としての役割を担うものであり、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノメチルハイドロキノン及びp−ベンゾキノンから選ばれる一つ又は二つ以上である。これらは、水に中性からアルカリ性の領域で溶解する重合禁止剤又は酸化防止剤として知られている公知の化合物である。混和剤を一液型混和剤として使用するためには、混和剤を構成する各成分が長期間経過に亘って化学的に安定であることが必要である。特に前記したB成分が共存すると、加熱、pHの変化、雑菌等の影響を受けて混和剤の混合液が変質したり、腐敗が生じたりするという問題があり、この問題を改善するためにはC成分が不可欠なのである。C成分としては、なかでもハイドロキノン及び/又はp−ベンゾキノンが好ましく、これらを用いると、混和剤の混合液を長期間保存しても化学的に安定な品質を保つことができる。
【0020】
本発明の混和剤は、以上説明したA成分、B成分及びC成分の3成分からなり、且つA成分を20〜80質量%、B成分を19.99〜79質量%及びC成分を0.01〜1質量%(合計100%)の割合で含有してなるものであるが、好ましくはA成分を20〜80質量%、B成分を19.95〜79.5質量%及びC成分を0.05〜0.5質量%(合計100%)の割合で含有してなるものである。A成分、B成分及びC成分の割合がかかる範囲から外れると、混和剤の安定性が低下するのみならず、それを用いて調製したコンクリートのスランプロスが大きくなって作業性が低下し、同時に得られる硬化体の圧縮強度が低くなり、しかも硬化する過程での発熱により温度上昇する熱履歴を受けると、得られる硬化体の圧縮強度が更に低下する。かかる発熱による問題は、コンクリートを調製するときの温度が高い場合に、例えば夏期において20℃〜40℃の温度でコンクリートを調製する場合に顕著となる。
【0021】
以上説明した本発明の混和剤の使用量は、高炉セメント100質量部当たり、通常は0.1〜1.5質量部の割合となるようにするが、好ましくは0.15〜0.8質量部の割合となるようにする。
【0022】
本発明の混和剤は、結合材であるセメントとして高炉セメントを用いたコンクリートの調製に用いるものである。コンクリートの調製に用いる高炉セメントは、普通ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末等を混合したものである。かかる高炉セメントとして具体的には、JIS−R5211に高炉スラグ微粉末の分量によって分類されている高炉セメントA種(5%超〜30%)、高炉セメントB種(30%超〜60%)、高炉セメントC種(60%超〜70%)等を使用でき、またかかる高炉セメントの一部として高炉スラグ微粉末の分量が70%を超えるような特殊高炉セメントも使用できる。本発明において、用いる高炉セメントの種類は特に限定されないが、高炉スラグ微粉末の分量が多い高炉セメントB種又は高炉セメントC種を使用するのが好ましく、高炉スラグ微粉末の分量が最も多い環境性能の優れた高炉セメントC種を使用するのがより好ましい。
【0023】
本発明の混和剤を用いてコンクリートを調製するとき、本発明の混和剤及び高炉セメントのほかに、練り混ぜ水、細骨材及び粗骨材を用いる。練り混ぜ水としては水道水を使用でき、細骨材としては公知の川砂、砕砂、山砂等を使用でき、粗骨材としては公知の川砂利、砕石、軽量骨材等を使用できる。
【0024】
本発明の混和剤は、高炉セメントの単位量が280〜740kg/m
3、好ましくは300〜720kg/m
3、且つ水/高炉セメントの質量比が25〜60%、好ましくは30〜55%のコンクリートに対して適用できる。水/高炉セメントの質量比が60%より大きいと、得られる硬化体の中性化速度が速くなり、また圧縮強度が著しく低下する。逆に、かかる質量比が25%より小さいと、調製したコンクリートの流動性低下が大きくなり、施工性が低下する。
【0025】
本発明の混和剤を用いてコンクリートを調製するに際しては、本発明の効果を損なわない範囲内で、AE(空気連行)剤、消泡剤、防水剤、防腐剤、防錆剤等の他の混和剤を併用することができる。
【0026】
コンクリートは、以上説明した本発明の混和剤、高炉セメント、水、細骨材及び粗骨材等を公知の方法で練り混ぜることにより調製することができる。具体的には、高炉セメント、水の一部、細骨材及び粗骨材をミキサーで混練する一方で、本発明の混和剤と必要に応じてAE調節剤等を水の残部で希釈し、しかる後に双方を練り混ぜる方法で調製できる。コンクリートを調製するに際して、本発明の混和剤は、予め固形分濃度(A成分、B成分及びC成分の合計濃度)が10〜50質量%の水溶液の形態に調整しておくのが取扱い上の簡便性及び練り混ぜの均一性を図る点で好ましく、特に生コンクリートプラントにおいて混和剤の貯蔵や計量を効率的に行なう上で好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した本発明には、1)高炉スラグ微粉末を含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、調製後の経時的な流動保持性(スランプ保持性)が低い、2)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、得られる硬化体の圧縮強度が低い、3)高炉スラグ微粉末を多く含有する高炉セメントを用いて調製したコンクリートは、調製したコンクリートが水和反応により硬化する過程で発熱により温度上昇する熱履歴を受けると、得られるコンクリート硬化体の圧縮強度が低下する、以上の三つの課題を同時に且つ充分に低コストで解決できるという効果がある。
【0028】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0029】
試験区分1(A成分としての水溶性ビニル共重合体の合成)
・A成分としての水溶性ビニル共重合体(a−1)の合成
メタクリル酸60g、メトキシポリ(オキシエチレン単位が23個、以下n=23)エチレングリコールメタクリレート300g及びメタリルスルホン酸ナトリウム5g、3−メルカプトプロピオン酸3g及び水490gを反応容器に仕込んだ後、48%水酸化ナトリウム水溶液58gを加え、攪拌しながら部分中和して均一に溶解した。反応容器内の雰囲気を窒素置換した後、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液25gを加えてラジカル重合反応を開始し、5時間反応を継続して反応を終了した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液23gを加えて反応物を完全中和し、水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(a−1)を分析したところ、メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位/メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位/メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位=70/27/3(モル%)の割合で有する質量平均分子量34200(GPC法、ポリエチレングリコール換算)の水溶性ビニル共重合体であった。
【0030】
水溶性ビニル共重合体(a−2)〜(a−3)及び(ar−1)〜(ar−3)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−1)と同様にして、水溶性ビニル共重合体(a−2)〜(a−3)及び(ar−1)〜(ar−3)を合成した。以上で合成した各水溶性ビニル共重合体の内容を表1にまとめて示した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1において、
*1:GPC法、ポリエチレングリコール換算
D−1:メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位
D−2:メタクリル酸から形成された構成単位
E−1:メトキシポリ(23モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
E−2:メトキシポリ(70モル)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
F−1:メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位
F−2:アリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位
F−3:メチルアクリレートから形成された構成単位
【0033】
試験区分2(B成分としての水溶性デキストリン化合物の水溶液の調製)
食品添加物として市販されている多くの水溶性デキストリン化合物についてGPC法による分子量及び分散度の測定を行ない、これらのなかから分子量及び分散度が異なる複数の水溶性デキストリン化合物を用意し、それらの固形分濃度40%の水溶液(室温で完全溶解)を調製した。用意した複数の水溶性デキストリン化合物(b−1)〜(b−4)及び(br−1)〜(br−3)の内容を表2にまとめて示した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2において、
分子量:GPC法によるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量又は数平均分子量
分散度:質量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した数値(Mw/Mn)
【0036】
試験区分3(多機能混和剤の30%水溶液の調製及び評価)
・実施例1の多機能混和剤(P−1)の30%水溶液の調製
A成分として前記の水溶性ビニル共重合体(a−1)の水溶液(固形濃度40%)600部、B成分として前記の水溶性デキストリン化合物(b−1)の水溶液(固形濃度40%)490部、C成分としてハイドロキノン0.5部及び水364部をフラスコ容器に投入して混合し、A成分、B成分及びC成分の3成分からなる実施例1の多機能混和剤(P−1)の30%水溶液を調製した。
【0037】
・実施例2〜12の多機能混和剤(P−2)〜(P−12)及び比較例1〜13の多機能混和剤(R−1)〜(R−13)の各30%水溶液の調製
実施例1の多機能混和剤(P−1)の30%水溶液の調製と同様にして、実施例2〜12の多機能混和剤(P−2)〜(P−12)及び比較例1〜13の多機能混和剤(R−1)〜(R−13)の各30%水溶液を調製した。調製した各多機能混和剤の内容を表3にまとめて示した。
【0038】
・多機能混和剤の水溶液の安定性の評価
調製した多機能混和剤(P−1)〜(P−12)及び(R−1)〜(R−13)の各30%水溶液を、100ml容量のメスシリンダーに入れ、室温で2ヶ月間放置した後に目視判定し、下記の基準で評価した。結果を表3にまとめて示した。
評価基準
○:均一透明である。
×:分離又は濁りが認められる。
【0039】
【表3】
【0040】
表3において、
a−1〜a−3,ar−1〜ar−3:表1に記載の水溶性ビニル共重合体
b−1〜b−4,br−1〜br−3:表2に記載のデキストリン化合物
*1:タンニン酸
*2:デンプン
*3:ブドウ糖
*4:グルコン酸
c−1:ハイドロキノン
c−2:ハイドロキノンモノメチルエーテル
c−3:モノメチルハイドロキノン
c−4:p−ベンゾキノン
【0041】
試験区分4(高炉セメントを用いたコンクリートの調製及び評価)
試験例1〜12
試験区分3で調製した表3に記載の多機能混和剤の30%水溶液を用いて、表4に記載の配合条件1で、50リットルのパン型強制練りミキサーに、高炉セメントC種、細骨材、水(水道水)、多機能混和剤(P−1)及び空気量調整剤(竹本油脂社製のAE剤、製品名AE300)の各所定量を順次投入して均一となるまで練り混ぜた。多機能混和剤の使用量は表5に記載した。次に、粗骨材の所定量を投入して30秒間練り混ぜ、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±0.5%の試験例1のコンクリートを調製した。同様にして、試験例2〜12のコンクリートを調製した。各試験例のコンクリートの練り混ぜ時の温度はいずれの場合も30℃であった。
【0042】
試験例13〜28
試験例1〜12と同様にして、但し表4に記載の配合条件2で、試験例13〜24のコンクリートを調製し、また表4に記載の配合条件3で、試験例25〜28のコンクリートを調製した。各試験例のコンクリート練り混ぜ時の温度はいずれの場合も30℃であった。
【0043】
試験例29及び30
試験例1〜12と同様にして、表4に記載の配合条件1で実施例29及び30のコンクリートを調製した。各試験例のコンクリートの練り混ぜ時の温度は共に20℃であった。試験例1〜30で調製したコンクリートの内容を表5にまとめて示した。
【0044】
試験例31〜57
試験例1〜28と同様にして、表4に記載の配合条件1〜3で、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±0.5%の試験例31〜57のコンクリートを調製した。各試験例のコンクリートの練り混ぜ時の温度は30℃であった。
【0045】
試験例58
試験例29及び30と同様にして、表4に記載の配合条件1で、目標スランプが18±1cm、目標空気量が4.5±0.5%の試験例58のコンクリートを調製した。コンクリートの練り混ぜ時の温度は20℃であった。試験例31〜58で調製したコンクリートの内容を表7にまとめて示した。
【0046】
【表4】
【0047】
表4において、
*5:高炉セメントC種(密度=3.01g/cm
3、ブレーン値4180cm
2/g)(デイ・シー社製)
*6:高炉セメントB種(密度=3.04g/cm
3、ブレーン値3850cm
2/g)
細骨材:大井川水系砂(密度=2.58g/cm
3)
粗骨材:岡崎産砕石粗骨材(密度=2.68g/cm
3)
【0048】
・コンクリートの物性評価
調製した各試験例のコンクリートについて、練り混ぜ直後と60分間静置後のスランプ及び空気量を、またスランプについては残存率を、更に得られた硬化体について、標準水中養生供試体の圧縮強度、高温履歴供試体の圧縮強度を下記のように求め、結果を表5〜表8にまとめて示した。
【0049】
・スランプ(cm):練り混ぜ直後及びそれから60分間練り舟に静置したコンクリートについて、JIS−A1101に準拠して測定した。
・空気量(容量%):練り混ぜ直後及びそれから60分間練り舟に静置したコンクリートについて、JIS−A1128に準拠して測定した。
・スランプ残存率(%):(60分間静置後のスランプ値/練り混ぜ直後のスランプ値)×100で求めた。
・標準水中養生供試体の圧縮強度(N/mm
2):練り混ぜて調製した各試験例のコンクリートを直径10cm×高さ20cmの円柱モールドに充填し、20℃の水中で所定の材齢まで水中養生した供試体について、JIS−A1108に準拠し、材齢7日と28日で測定した。
・高温履歴供試体の圧縮強度(N/mm
2):練り混ぜて調製した各試験例のコンクリートを直径10cm×高さ20cmの円柱モールドに充填し、内寸が500mm×500mm×400mmの周囲6面を断熱材(厚さ約30cmの発砲スチレン)で覆った簡易断熱箱に前記の円柱モールド9本を静置した。中心位置の円柱モールドに熱電対を設置して内部の温度上昇履歴を測定しつつ、所定の材齢まで高温履歴(最高温度は40〜60℃)の負荷を継続した高温履歴供試体について、JIS−A1108に準拠し、材齢28日で測定した。
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】
【表8】
【0054】
表5〜表8において、
配合条件:表4に記載の配合条件
多機能混和剤:表3に記載の多機能混和剤(試験区分3で調製した多機能混和剤の30%水溶液を用いた)
多機能混和剤の使用量:高炉セメント100質量部当たりの多機能混和剤の添加質量部(固形分換算の添加質量部)
*7:各実施例の標準水中養生供試体の圧縮強度(材齢7日又は28日)から相当する配合条件の混和剤を用いなかった比較例(表3の混和剤R−1を用いた比較例1、14、27又は28)の標準水中養生供試体の圧縮強度(材齢7日又は28日)を差し引いた値。
*8:各実施例の高温履歴供試体の圧縮強度(材齢28日)から相当する配合条件の混和剤を用いなかった比較例(表3の混和剤R−1を用いた比較例1、14、27又は28)の高温履歴供試体の圧縮強度(材齢28日)を差し引いた値。
*9:目標とする流動性のコンクリートが得られなかったので測定しなかった。
*10:多機能混和剤の水溶液に沈殿又は濁りが生じていたので使用せず、測定しなかった。
【0055】
表5〜表8の結果からも明らかなように、本発明の多機能混和剤を、高炉セメントを用いたコンクリートの調製に使用すると、練り混ぜ後の経時的な流動性の低下や空気量の低下が抑えられ、同時に得られる硬化体は標準水中養生試験体では材齢7日及び材齢28日において圧縮強度が高く、顕著な強度増進効果が得られていて、更に高温履歴供試体においても優れた強度増進効果が得られている。かかる効果は高炉セメントB種及び高炉セメントC種を用いた場合に顕著であり、高炉スラグ微粉末の含有量が多い高炉セメントC種を用いた場合により顕著になっている。