(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-148313(P2015-148313A)
(43)【公開日】2015年8月20日
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/08 20060101AFI20150724BHJP
F16H 57/023 20120101ALI20150724BHJP
【FI】
F16H48/08
F16H57/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-22739(P2014-22739)
(22)【出願日】2014年2月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 陽一
(72)【発明者】
【氏名】新山 常文
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA18
3J027FB01
3J027HA01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC13
3J063AB13
3J063AC11
3J063BA01
3J063BA04
3J063BB01
3J063BB19
3J063CA05
3J063CB17
3J063CD04
3J063CD42
3J063XA12
(57)【要約】
【課題】組立中,圧接又は接着という特殊な工程を行わなくても,サイドギヤ及びスリーブ間からデフケース内の潤滑オイルがリークしないようにした,組立性が良好な差動装置を提供する。
【解決手段】サイドギヤ11及びスリーブ20の一方に外側筒部26を,他方に外側筒部26の内周に嵌合する内側筒部27をそれぞれ形成すると共に,これら外側及び内側筒部26,27間に,これら外側及び内側筒部26,27の軸方向相対移動を阻止する抜け止め手段40を設け,この抜け止め手段40とデフケース2内との連通を遮断するシール部材37を外側及び内側筒部26,27の嵌合部に介装した。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動ギヤ機構(3)を収容する一体型のデフケース(2)の一側部及び他側部に,同一軸線(X)上に並んでミッションケース(1)に回転自在に支承される第1及び第2軸受ボス(4 ,5 )を一体に形成し,また同デフケース(2)の周壁に,前記差動ギヤ機構(3)を挿入するための作業窓(18)を設け,前記第1及び第2軸受ボス(4,5)には,それらの外端側から一対のスリーブ(20)を嵌挿し,これらスリーブ(20)の前記第1及び第2軸受ボス(4,5)より突出する外端部と前記ミッションケース(1)との間にオイルシール(23)が介装され,前記差動ギヤ機構(3)の左右一対のサイドギヤ(11)には,前記スリーブ(20)に嵌挿される左右のドライブ軸(7,8)がスプライン嵌合され,前記スリーブ(20)は,前記サイドギヤ(11)又は前記ドライブ軸(7,8)に連結される差動装置において,
前記サイドギヤ(11)及び前記スリーブ(20)の一方に外側筒部(26)を,他方に前記外側筒部(26)の内周に嵌合する内側筒部(27)をそれぞれ形成すると共に,これら外側及び内側筒部(26,27)間に,これら外側及び内側筒部(26,27)の軸方向相対移動を阻止する抜け止め手段(40)を設け,この抜け止め手段(40)と前記デフケース(2)内との連通を遮断するシール部材(37)を前記外側及び内側筒部(26,27)の嵌合部に介装したことを特徴とする差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置において,
前記抜け止め手段(40)を,前記外側筒部(26)の内周に形成される環状の第1係止溝(28)及びそれに隣接する環状の第1係止突起(29)と,前記内側筒部(27)の内端部に形成され,前記第1係止溝(28)及び第1係止突起(29)にそれぞれ係合し得る第2係止突起(30)及び第2係止溝(31)を有して半径方向内方に撓み得る弾性片(34)とで構成し,前記内側筒部(27)が前記外側筒部(26)に挿入されて前記第2係止突起(30)が前記第1係止突起(29)を通過するときは,その第1係止突起(29)により前記弾性片(34)が半径方向内方へ撓まされ,その通過後は,前記弾性片(34)の自由状態への復帰により前記第2係止突起(30)及び第2係止溝(31)が前記第1係止溝(28)及び第1係止突起(29)にそれぞれ係合するようにしたことを特徴とする差動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の差動装置において,
前記外側筒部(26)を前記サイドギヤ(11)に,前記内側筒部(27)を前記スリーブ(20)にそれぞれ形成し,前記弾性片(34)の先端部を前記サイドギヤ(11)にスプライン連結したことを特徴とする差動装置。
【請求項4】
請求項1に記載の差動装置において,
前記抜け止め手段(40)を,前記外側筒部(26)の内周に形成される固定係合部(41)と,前記内側筒部(27)に形成されて,前記固定係合部(41)から離脱して前記スリーブ(20)の引き抜きを許容する第1位置(A)と,前記固定係合部(41)に係合して前記スリーブ(20)の抜け出しを阻止する第2位置(B)との間を移動するように弾性変形し得ると共に第1位置(A)側への付勢力を有する可動係合部(42)とで構成し,その可動係合部(42)は,前記サイドギヤ(11)に前記ドライブ軸(7,8)をスプライン嵌合するとき,該ドライブ軸(7,8)により半径方向に拡張されて前記第2位置(B)に強制的に保持されることを特徴とする差動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の差動装置において,
前記外側筒部(26)を前記サイドギヤ(11)に,前記内側筒部(27)を前記スリーブ(20)にそれぞれ形成すると共に,前記内側筒部(27)の内周にスプライン孔(43)を設け,前記サイドギヤ(11)に前記ドライブ軸(7,8)をスプライン嵌合するとき,前記スプライン孔(43)に嵌合しながら前記可動係合部(42)を前記第2位置(B)に拡張するスプライン軸(38)を前記ドライブ軸(7,8)が有することを特徴とする差動装置。
【請求項6】
請求項1に記載の差動装置において,
前記外側筒部(26)を前記スリーブ(20)に,前記内側筒部(27)を前記サイドギヤ(11)にそれぞれ形成すると共に,外側筒部(26)の内周面に環状の外側係止溝(46)を,また内側筒部(27)の外周面に前記外側係止溝(46)と対向する環状の内側係止溝(45)をそれぞれ設け,これら外側及び内側係止溝(46,45)にわたり,拡径方向の弾発力を有する係止リング(49)を装着して,前記抜け止め手段(40)を構成し,前記内側係止溝(45)は,外側及び内側筒部(26,27)の嵌合時,外側筒部(26)の内周面による前記係止リング(49)の縮径を許容する深さを有し,前記外側及び内側筒部(26,27)の嵌合面に,互いに当接して外側及び内側筒部(26,27)を回転方向に連結する平坦部(47,48)を形成したことを特徴とする差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,差動ギヤ機構を収容する一体型のデフケースの一側部及び他側部に,同一軸線上に並んでミッションケースに回転自在に支承される第1及び第2軸受ボスを一体に形成し,また同デフケースの周壁に,前記差動ギヤ機構を挿入するための作業窓を設け,前記第1及び第2軸受ボスには,それらの外端側から一対のスリーブを嵌挿し,これらスリーブの前記第1及び第2軸受ボスより突出する外端部と前記ミッションケースとの間にオイルシールが介装され,前記差動ギヤ機構の左右一対のサイドギヤには,前記スリーブに嵌挿される左右のドライブ軸がスプライン嵌合され,前記スリーブは,前記サイドギヤ又は前記ドライブ軸に連結される差動装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる差動装置は,下記特許文献1及び2に開示されるように,既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3751488号公報
【特許文献2】特開2013−72524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かゝる差動装置では,サイドギヤを含む差動ギヤ機構を前記作業窓から一体型のデフケースに組み込み,その後,第1,第2軸受ボスに,その外方からスリーブを嵌挿してサイドギヤにスプライン嵌合するようになっている。即ち,サイドギヤ及びスリーブが一体化していると,その全長が一体型のデフケースの内径より長くなり,サイドギヤ及びスリーブのデフケースへの組み込みができなくなる。
【0005】
ところで,従来のかゝる差動装置では,サイドギヤにスリーブを圧接又は接着して,サイドギヤ及びスリーブ間からデフケース内の潤滑オイルがリークしないようにしているが,組立て中,圧接又は接着という特殊な工程を行うことは,組立て能率を上げる上で障害となる。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,組立中,圧接又は接着という特殊な工程を行わなくても,サイドギヤ及びスリーブ間からデフケース内の潤滑オイルがリークしないようにした,組立性が良好な前記差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,差動ギヤ機構を収容する一体型のデフケースの一側部及び他側部に,同一軸線上に並んでミッションケースに回転自在に支承される第1及び第2軸受ボスを一体に形成し,また同デフケースの周壁に,前記差動ギヤ機構を挿入するための作業窓を設け,前記第1及び第2軸受ボスには,それらの外端側から一対のスリーブを嵌挿し,これらスリーブの前記第1及び第2軸受ボスより突出する外端部と前記ミッションケースとの間にオイルシールが介装され,前記差動ギヤ機構の左右一対のサイドギヤには,前記スリーブに嵌挿される左右のドライブ軸がスプライン嵌合され,前記スリーブは,前記サイドギヤ又は前記ドライブ軸に連結される差動装置において,前記サイドギヤ及び前記スリーブの一方に外側筒部を,他方に前記外側筒部の内周に嵌合する内側筒部をそれぞれ形成すると共に,これら外側及び内側筒部間に,これら外側及び内側筒部の軸方向相対移動を阻止する抜け止め手段を設け,この抜け止め手段と前記デフケース内との連通を遮断するシール部材を前記外側及び内側筒部の嵌合部に介装したことを第1の特徴とする。尚,前記シール部材は,後述する本発明の実施形態中のOリング37に対応する。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記抜け止め手段を,前記外側筒部の内周に形成される環状の第1係止溝及びそれに隣接する環状の第1係止突起と,前記内側筒部の内端部に形成され,前記第1係止溝及び第1係止突起にそれぞれ係合し得る第2係止突起及び第2係止溝を有して半径方向内方に撓み得る弾性片とで構成し,前記内側筒部が前記外側筒部に挿入されて前記第2係止突起が前記第1係止突起を通過するときは,その第1係止突起により前記弾性片が半径方向内方へ撓まされ,その通過後は,前記弾性片の自由状態への復帰により前記第2係止突起及び第2係止溝が前記第1係止溝及び第1係止突起にそれぞれ係合するようにしたことを第2の特徴とする。
【0009】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,前記外側筒部を前記サイドギヤに,前記内側筒部を前記スリーブにそれぞれ形成し,前記弾性片の先端部を前記サイドギヤにスプライン連結したことを第3の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第1の特徴に加えて,前記抜け止め手段を,前記外側筒部の内周に形成される固定係合部と,前記内側筒部に形成されて,前記固定係合部から離脱して前記スリーブの引き抜きを許容する第1位置と,前記固定係合部に係合して前記スリーブの抜け出しを阻止する第2位置との間を移動するように弾性変形し得ると共に第1位置側への付勢力を有する可動係合部とで構成し,その可動係合部は,前記サイドギヤに前記ドライブ軸をスプライン嵌合するとき,該ドライブ軸により半径方向に拡張されて前記第2位置に強制的に保持されることを第4の特徴とする。
【0011】
さらにまた本発明は,第4の特徴に加えて,前記外側筒部を前記サイドギヤに,前記内側筒部を前記スリーブにそれぞれ形成すると共に,前記内側筒部の内周にスプライン孔を設け,前記サイドギヤに前記ドライブ軸をスプライン嵌合するとき,前記スプライン孔に嵌合しながら前記可動係合部を前記第2位置に拡張するスプライン軸を前記ドライブ軸が有することを第5の特徴とする。
【0012】
さらにまた本発明は,第1の特徴に加えて,前記外側筒部を前記スリーブに,前記内側筒部を前記サイドギヤにそれぞれ形成すると共に,外側筒部の内周面に環状の外側係止溝を,また内側筒部の外周面に前記外側係止溝と対向する環状の内周係止溝をそれぞれ設け,これら外側及び内側係止溝にわたり,拡径方向の弾発力を有する係止リングを装着して,前記抜け止め手段を構成し,前記内側係止溝は,外側及び内側筒部の嵌合時,外側筒部の内周面による前記係止リングの縮径を許容する深さを有し,前記外側及び内側筒部の嵌合面に,互いに当接して外側及び内側筒部を回転方向に連結する平坦部を形成したことを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の特徴によれば,抜け止め手段によってスリーブの軸受ボスからの離脱を阻止することができると共に,シール部材によって,デフケース内の潤滑オイルが抜け止め手段から外部へリークすることを防ぐことができ,その組立て性が良好である。
【0014】
本発明の第2の特徴によれば,抜け止め手段を,外側筒部の内周に形成される環状の第1係止溝及びそれに隣接する環状の第1係止突起と,内側筒部の内端部に形成され,第1係止溝及び第1係止突起にそれぞれ係合し得る第2係止突起及び第2係止溝を有して半径方向内方に撓み得る弾性片とで構成し,内側筒部が外側筒部に挿入されて第2係止突起が第1係止突起を通過するときは,その第1係止突起により弾性片が半径方向内方へ撓まされ,その通過後は,弾性片の自由状態への復帰により第2係止突起及び第2係止溝が第1係止溝及び第1係止突起にそれぞれ係合するようにしたことで,スリーブの軸受ボスからの離脱を簡単に阻止することができる。
【0015】
本発明の第3の特徴によれば,動力伝達時,スリーブは,スプラインを介してサイドギヤと共に回転することができる。
【0016】
本発明の第4の特徴によれば,差動装置の組立後でも,ドライブ軸の装着前であれば,可動係合部がそれ自体の弾性力により第1位置を保持することにより,スリーブをサイドギヤとの連結から解除してスリーブを引き抜くことができ,したがって差動ギヤ機構の分解が可能となり,その部品交換を行うことができる。またドライブ軸の装着状態では,そのドライブ軸により可動係合部は第2位置に強制的に保持されるので,スリーブをサイドギヤに連結することができる。
【0017】
本発明の第5の特徴によれば,ドライブ軸のスプライン軸によって,可動係合部の第2位置への拡張と,スリーブへの回転伝達とを行うことができる。
【0018】
本発明の第6の特徴によれば,外側筒部をスリーブに,内側筒部をサイドギヤにそれぞれ形成すると共に,外側筒部の内周面に環状の外側係止溝を,また内側筒部の外周面に外側係止溝と対向する環状の内周係止溝をそれぞれ設け,これら外側及び内側係止溝にわたり,拡径方向の弾発力を有する係止リングを装着して,抜け止め手段を構成し,内側係止溝は,外側及び内側筒部の嵌合時,外側筒部の内周面による係止リングの縮径を許容する深さを有し,外側及び内側筒部の嵌合面に,互いに当接して外側及び内側筒部を回転方向に連結する平坦部を形成したことで,スリーブをプレス成形可能の構造としながら,組立て性を良好にして,スリーブの軸受ボスからの離脱防止と,サイドギヤからスリーブへの回転伝達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る差動装置の縦断正面図。
【
図4】
図1の4部拡大図でスリーブのサイドギヤとの連結状態を示す。
【
図6】本発明の第2実施形態を示す,
図4との対応図。
【
図7】
図6に対応する作用説明図でスリーブのサイドギヤとの非連結状態を示す。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る差動装置を示す,
図4との対応図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0021】
先ず,
図1〜
図5に示す本発明の第1実施形態の説明より始める。
図1において,自動車のミッションケース1内に差動装置Dが収容される。この差動装置Dは,一体型のデフケース2と,このデフケース2内に収容される差動ギヤ機構3とよりなっている。デフケース2の右側部及び左側部には,同一軸線X上に並ぶ第1軸受ボス4及び第2軸受ボス5が一体に形成され,これら第1及び第2軸受ボス4,5は,軸受6,6′を介してミッションケース1に支承される。
【0022】
差動ギヤ機構3は,前記軸線Xと直交しながらデフケース2の中心Cを通るようにしてデフケース2に保持されるピニオン軸9と,このピニオン軸9に支持される一対のピニオンギヤ10と,ピニオンギヤ10と噛合する一対のサイドギヤ11と,これらサイドギヤ11のハブ11aに連結されて第1及び第2軸受ボス4,5にそれぞれ回転自在に支承される一対のスリーブ20とより構成され,各ギヤの背面は,デフケース2の球状内面で回転自在に支承される。第1及び第2軸受ボス4,5の内周面には,螺旋状の潤滑溝21が形成される。サイドギヤ11とスリーブ20との連結構造については後述する。
【0023】
スリーブ20は,それぞれの外端部を対応する軸受ボス4,5より外方へ突出するように構成されており,それらの外端部と,ミッションケース1との間にオイルシール23がそれぞれ介装される。
【0024】
ピニオン軸9は,デフケース2の外周部の一対の支孔12により保持される。デフケース2の外周部には,一方の支孔12と直交してその外周部を左右方向に貫通するピン孔13が設けられており,このピン孔13に圧入嵌合される抜け止めピン14がピニオン軸9を貫通することで,ピニオン軸9の支孔12からの抜け止めが果たされる。
【0025】
またデフケース2には,その中心Cから第2軸受ボス5側にオフセットした中間部に環状のフランジ15が一体に形成され,このフランジ15に,変速装置の出力ギヤ16と噛合するリングギヤ17がボルト22により締結される。
【0026】
図2及び
図3に示すように,デフケース2の,前記軸線Xと直交する一直径線上で対向する周壁には,デフケース2の球状内面を加工するため,並びに前記差動ギヤ機構3のデフケース2への組み込みを行うための一対の作業窓18が設けられる。
【0027】
さて,サイドギヤ11とスリーブ20との連結構造について
図1,
図4及び
図5を参照しながら説明する。
【0028】
サイドギヤ11のハブ11aは,底部11a
1 をピニオン軸9側に向けた有底円筒状をなしており,その内周にはスプライン孔25が形成される。またサイドギヤ11の背面には,対応する軸受ボス4,5の内周面に回転自在に支承される外側筒部26が一体に突設され,この外側筒部26の内周面には環状の第1係止溝28と,この第1係止溝28の外側に隣接する環状の第1係止突起29とが設けられる。
【0029】
一方,スリーブ20の内端部は,上記外側筒部26の内周面に嵌合する内側筒部27に形成される。この内側筒部27の内周には,前記第1係止溝28及び第1係止突起29とそれぞれ係合し得る環状の第2係止突起30及び第2係止溝31が設けられる。またこの内側筒部27には,その端面より第2係止溝31に達する複数(図示例では4つ)の切欠き33が設けられ,これによって内側筒部27の先端部は,その周方向に並んで半径方向内向きに撓み得る複数の弾性片34で構成されることになる。各弾性片34の先端部外周には,テーパ面35が形成される。各弾性片34とサイドギヤ11とは,スプライン39を介して連結される。
【0030】
而して,第1係止溝28及び第1係止突起29と,第2係止突起30及び第2係止溝31とで,スリーブ20の対応する軸受ボス4,5からの抜け出しを阻止する抜け止め手段40が構成される。
【0031】
また内側筒部27の外周面には,第2係止溝31よりも外側に位置する環状のシール溝36が設けられ,このシール溝36には,外側筒部26の内周面に密接するOリング37が装着される。
【0032】
左右のスリーブ20には,それぞれの外方から左右のドライブ軸7,8が嵌挿される。これらドライブ軸7,8は,サイドギヤ11のハブ11aのスプライン孔25に嵌合するスプライン軸38を一体に有している。
【0033】
次に,この第1実施形態の作用について説明する。
【0034】
差動装置Dの組立てに当たっては,先ず,サイドギヤ11を作業窓18からデフケース2内に挿入して,外側筒部26を対応する軸受ボス4,5の内周面に嵌合し,次いでピニオンギヤ10を同じく作業窓18からデフケース2内に挿入して所定位置にセットし,ピニオン軸9をデフケース2に装着する。
【0035】
その後,スリーブ20を各軸受ボス4,5にその外方から嵌挿して,内側筒部27をサイドギヤ11の外側筒部26の内周面に嵌合しながら押し込むと,内側筒部27の各弾性片34のテーパ面35が外側筒部26の第1係止突起29により半径方向内方に押圧されることで,各弾性片34が半径内方に撓みながら,第2係止突起30は第1係止突起29を通過することができる。その通過後は,各弾性片34がそれ自体の弾性復元力により原位置に復帰するので,第2係止突起30が第1係止溝28に,第2係止溝31が第1係止突起29にそれぞれ係合し,これにより内側筒部27の外側筒部26からの離脱が阻止される。これと同時に,各弾性片34は,スプライン39を介してサイドギヤ11と連結される。
【0036】
また内側筒部27が外側筒部26に嵌合した際,内側筒部27のシール溝36に装着されたOリング37が,外側筒部26の内周面に密接することにより,上記抜け止め手段40とデフケース2内との連通が遮断される。
【0037】
次いで,図示しない変速装置と共にこの差動装置Dをミッションケース1に組み込み,第1及び第2軸受ボス4,5とミッションケース1との間に軸受6,6′を介装し,またスリーブ20とミッションケース1間にオイルシール23を介装する。このミッションケース1を自動車に搭載後,ドライブ軸7,8をスリーブ20に嵌挿して,ドライブ軸7,8のスプライン軸38をスプライン孔25に嵌合する。その際,各ドライブ軸7,8は,各弾性片34の内周面に嵌合して,その半径方向内方への撓みを阻止するので,スリーブ20に何らかの理由で抜け方向の荷重が作用しても,抜け止め手段40が外れることはない。
【0038】
差動装置Dのミッションケース1への収容後,ミッションケース1内に潤滑オイルを注入すると,その潤滑オイルは,作業窓18からデフケース2内を満たし,差動ギヤ機構3各部の潤滑に供される。その際,ミッションケース1内の潤滑オイルは,オイルシール23によって,スリーブ20外周から外部へのリークが阻止され,またデフケース2内の潤滑オイルは,Oリング37によって,抜け止め手段40から外部へのリークが阻止される。したがって,自動車の組立完成後,メンテナンス等のためにドライブ軸7,8を離脱したときでも,ミッションケース1及びデフケース2内の潤滑オイルが外部にリークしないので,その都度,潤滑オイルの抜き取りを行う必要がなく,メンテナンス性が良好である。
【0039】
このように,抜け止め手段40によってスリーブ20のサイドギヤ11及び軸受ボス4,5からの離脱を阻止することができると共に,Oリング37によって,デフケース2内の潤滑オイルが抜け止め手段40から外部へリークすることを防ぐことができ,その組立て性が良好である。
【0040】
動力伝達時,サイドギヤ11の回転は,スプライン孔25及びスプライン軸38を介してドライブ軸7,8に,またスプライン39を介してスリーブ20にそれぞれ伝達される。
【0041】
次に,
図6〜
図8に示す本発明の第2実施形態について説明する。
【0042】
この第2実施形態では,サイドギヤ11及びスリーブ20の一方に外側筒部26が,他方に内側筒部27がそれぞれ形成される。そして外側筒部26の内周には環状突起よりなる固定係合部41が形成され,内側筒部27には,その周方向に並ぶ複数の可動係合部42が形成される。これら可動係合部42は,固定係合部41から離脱した第1位置Aと,固定係合部41に係合した第2位置Bとの間を移動するように撓み得るようになっており,これら可動係合部42には,これを第1位置A側に付勢する弾性付勢力が付与されている。上記固定係合部41及び可動係合部42により抜け止め手段40が構成される。
【0043】
外側筒部26及び内側筒部27の嵌合部には,固定係合部41の周囲とデフケース2内部との連通を遮断するOリング37が介装される。具体的には,固定係合部41より軸方向外方の外側筒部26の内周面に環状のシール溝36が設けられ,このシール溝36に,内側筒部27の外周面に密接するOリング37が装着される。
【0044】
また可動係合部42群の内周には,サイドギヤ11のスプライン孔25と同軸上に並び且つドライブ軸7,8のスプライン軸38よりも小径のスプライン孔43が形成される。
【0045】
而して,スリーブ20にドライブ軸7,8が存在しない状態では,可動係合部42は,それ自体の弾性力により第1位置Aに保持され,固定係合部41から離脱しているので,スリーブ20の軸受ボス4,5からの引き抜きができ,したがってデフケース2からの差動ギヤ機構3の分解が可能となる。
【0046】
ドライブ軸7,8をスリーブ20に嵌挿して,スプライン軸38をスプライン孔43,スプライン孔25へと順次嵌合していくと,スプライン孔43は,スプライン軸38より小径に形成されているため,スプライン軸38の圧入により各可動係合部42が第2位置Bへと半径方向に拡張され,固定係合部41と係合することになり,スリーブ20の軸受ボス4,5からの離脱を防ぐことができる。
【0047】
次に,
図9〜
図11に示す本発明の第3実施形態について説明する。
【0048】
サイドギヤ11の背面には内側筒部27が一体に突設され,この内側筒部27の外周面には,環状の内側係止溝45と,この内側係止溝45よりも内側に位置する環状のシール溝36とが設けられ,シール溝36にはOリング37が装着される。また内側筒部27の外端部の外周には,1又は複数の内側平坦部47が設けられる。
【0049】
第1及び第2軸受ボス4,5の内周面に嵌合する各スリーブ20はプレス製で,その内端部は,上記内側筒部27の外周面に嵌合する外側筒部26に形成され,この外側筒部26の内周面に上記Oリング37が密接するようになっている。また外側筒部26には,上記内側係止溝45と対向する環状の外側係止溝46が設けられる。これら内側及び外側係止溝45,46にわたり,拡径方向の弾発力を有する係止リング49が装着される。上記内側係止溝45は,外側及び内側筒部26,27の嵌合時,外側筒部26の内周面による係止リング49の縮径を許容する深さを有する。而して,上記内側係止溝45,外側係止溝46及び係止リング49は,スリーブ20の軸受ボス4,5からの離脱を阻止する抜け止め手段40を構成する。
【0050】
また外側筒部26には,前記内側平坦部47に当接する外側平坦部48が形成される。
【0051】
その他の構成は,前記第1実施形態と同様であるので,
図9〜
図11中,第1実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0052】
この第3実施形態によれば,スリーブ20をプレス成形可能の構造としながら,組立て性を良好にして,スリーブ20の軸受ボス4,5からの離脱防止と,デフケース2内の潤滑オイルの抜け止め手段40からのリーク防止と,サイドギヤ11からスリーブ20への回転伝達とを行うことができる。
【0053】
本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,リングギヤ17及びフランジ15のボルト締結に代えて,溶接による結合を採用することもできる。またデフケース2内の潤滑オイルのサイドギヤ11のハブ11a内への流出を防ぐべく,ハブ11aの底部11a
1 に代えて,プラグをハブ11aの内周に液密に圧入することもできる。
【符号の説明】
【0054】
A・・・・第1位置
B・・・・第2位置
D・・・・差動装置
X・・・・軸線
1・・・・ミッションケース
2・・・・デフケース
3・・・・差動ギヤ機構
4・・・・第1軸受ボス
5・・・・第2軸受ボス
7,8・・ドライブ軸
11・・・・サイドギヤ
18・・・・作業窓
20・・・・スリーブ
23・・・・オイルシール
26・・・・外側筒部
27・・・・内側筒部
28・・・・第1係止溝
29・・・・第1係止突起
30・・・・第2係止突起
31・・・・第2係止溝
34・・・・弾性片
37・・・・シール部材(Oリング)
38・・・・スプライン軸
39・・・・スプライン
40・・・・抜け止め手段
43・・・・スプライン孔
45・・・・内側係止溝
46・・・・外側係止溝
47,48・・・平坦部 49・・・・係止リング