特開2015-149175(P2015-149175A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-149175(P2015-149175A)
(43)【公開日】2015年8月20日
(54)【発明の名称】シールド電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/17 20060101AFI20150724BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20150724BHJP
【FI】
   H01B7/18 D
   H05K9/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-21106(P2014-21106)
(22)【出願日】2014年2月6日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上柿 亮真
【テーマコード(参考)】
5E321
5G313
【Fターム(参考)】
5E321AA21
5E321GG05
5E321GG09
5G313AB05
5G313AC03
5G313AD06
5G313AE08
(57)【要約】
【課題】安価かつ軽量であり、優れたシールド性能を有するシールド電線を提供する。
【解決手段】シールド電線1は、コア部2と、コア部2の外周を覆う編組シールド層3とを有している。コア部2は、導体211と、導体211の周囲に被覆された絶縁材212とを有する被覆電線21を備えている。編組シールド層3は、複数の素線31を編み込んで構成されている。素線31は、Al線またはAl合金線を基材311として構成され、Alよりも酸化されにくい金属からなるめっき膜312を表面に有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と該導体の周囲に被覆された絶縁材とを有する被覆電線を備えたコア部と、
複数の素線を編み込んでなり、上記コア部の外周を覆う編組シールド層とを有し、
上記素線は、Al線またはAl合金線を基材として構成され、Alよりも酸化されにくい金属からなるめっき膜を表面に有していることを特徴とするシールド電線。
【請求項2】
上記めっき膜は、Snから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシールド電線。
【請求項3】
上記めっき膜の厚みは1μm以上であることを特徴とする請求項1また2に記載のシールド電線。
【請求項4】
1MHz以上の周波数領域における電磁ノイズを低減するために用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシールド電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド電線に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車や電気機器等において、電磁ノイズ対策が必要な箇所には、シールド電線が用いられている。シールド電線は、電気信号等を伝達するコア部と、コア部の外周を被覆するシールド層とを有しており、外部からコア部への電磁ノイズの侵入や、コア部から外部への電磁ノイズの放射をシールド層により抑制することができるよう構成されている。シールド層としては、例えば、金属素線を編み込んで形成した編組シールド層が知られている。
【0003】
従来、シールド層に用いられる金属素線には、導電性や加工性の観点から、CuやCu合金よりなる線材が用いられている。近年では、シールド電線全体を軽量化するため、より軽量な素線よりなるシールド層が望まれている。例えば特許文献1には、耐熱性繊維の外周に金属膜を形成してなる金属皮膜繊維を編組加工して構成されるシールド層を有するシールド電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−110053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように金属被覆繊維を用いたシールド層は、アース線との接続に当たって接続不良を起こしやすいという問題がある。
【0006】
一方、Cu(銅)に比べて軽量かつ安価である、Al(アルミニウム)やAl合金よりなる素線をシールド層に採用することが検討されている。AlやAl合金より構成された素線は、アース線との電気的な接続が容易であるため、上述のような接続不良の問題を回避することができる。しかしながら、Alは比較的酸化されやすい性質を有するため、不導体であるAl23の皮膜が表面に不可避的に形成される。このAl23皮膜の存在により、AlやAl合金より構成された素線は、表皮効果の影響が顕著となる高周波領域において交流抵抗が大きくなる。それ故、高周波領域の電磁ノイズに対するシールド性能が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、安価かつ軽量であり、優れたシールド性能を有するシールド電線を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、導体と該導体の周囲に被覆された絶縁材とを有する被覆電線を備えたコア部と、
複数の素線を編み込んでなり、上記コア部の外周を覆う編組シールド層とを有し、
上記素線は、Al線またはAl合金線を基材として構成され、Alよりも酸化されにくい金属からなるめっき膜を表面に有していることを特徴とするシールド電線にある。
【発明の効果】
【0009】
上記シールド電線は、複数の素線を編み込んでなり、上記コア部の外周を覆う上記編組シールド層を有している。また、上記素線は、Al線またはAl合金線を基材として構成され、Alよりも酸化されにくい金属からなるめっき膜を表面に有している。そのため、上記基材の表面にAl23皮膜が形成されることを防止できる。また、上記めっき膜がAlよりも酸化されにくい金属から構成されているため、不導体である酸化皮膜が上記素線の表面に形成されることを抑制できる。これらの結果、上記素線は、めっき膜を有しない従来の素線に比べて高周波領域における交流抵抗を低減することができる。そして、上記編組シールド層は、上記素線を用いることにより高周波領域の電磁ノイズに対するシールド性能が向上し、優れたシールド性能を有する。
【0010】
また、上記素線は、上記基材にAl線またはAl合金線を用いているため、CuやCu合金よりなる素線に比べて安価かつ軽量である。
【0011】
以上のように、上記シールド電線は、安価かつ軽量であり、優れたシールド性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における、シールド電線の側面図。
図2図1のII−II線矢視断面図。
図3】実施例1における、素線の断面図。
図4】実施例1における、誘導ノイズ量の測定の説明図。
図5】2本の被覆電線を備えたコア部を有する2芯シールド電線の、図2に相当する断面図。
図6】3本の被覆電線を備えたコア部を有する3芯シールド電線の、図2に相当する断面図。
図7】4本の被覆電線を備えたコア部を有する4芯シールド電線の、図2に相当する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記シールド電線は、動作用電力等の比較的大きい電流を伝達する電力線として構成されていても良く、制御信号等の比較的小さい電流を伝達する信号線として構成されていても良い。また、上記シールド電線は、1本の上記被覆電線を有する単芯シールド電線として構成されていても良く、2本以上の上記被覆電線を有する多芯シールド電線として構成されていても良い。
【0014】
上記被覆電線に用いられる導体としては、例えば、Cu線、Cu合金線、Sn(スズ)めっきCu合金線、Al線及びAl合金線等の、優れた電気伝導性を有する金属線を用いることができる。また、上記導体は、1本の上記金属線から構成されていても良く、多数の上記金属線が撚り合わされた撚線から構成されていても良い。
【0015】
また、上記被覆電線に用いられる絶縁材としては、電線用の絶縁材として従来公知の材料を用いることができる。絶縁性や製造性等の観点からは、上記絶縁材として、架橋ポリエチレン系樹脂や架橋ポリ塩化ビニル樹脂が用いられることが多い。
【0016】
上記編組シールド層を構成する上記素線は、Al線またはAl合金線を基材として構成され、Alよりも酸化されにくい金属からなるめっき膜を表面に有している。上記めっき膜に用いられる金属としては、例えば、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Sn(スズ)等の、Alよりも標準酸化還元電位が高い金属を用いることができる。コスト及び導電性の観点から、上記めっき膜はSnから構成されていることが好ましい。
【0017】
また、上記めっき膜の厚みは1μm以上であることが好ましい。この場合には、高周波領域におけるシールド性能を十分に向上させることができる。上記めっき膜の厚みが1μm未満の場合には、用途によってはめっき膜の耐久性が不十分となるおそれがある。すなわち、例えば自動車用ワイヤーハーネスとして用いる場合は、振動や屈曲によって上記めっき膜の摩耗等が発生し、上記めっき膜が剥がれ易くなるおそれがある。上記めっき膜が上記基材から剥がれると、上記基材の表面にAl23皮膜が形成され、シールド性能の低下を招く。上記めっき膜の耐久性を高め、上述のような問題を抑制する観点から、上記めっき膜の厚みを1μm以上とすることが好ましい。
【0018】
また、上記めっき膜と上記基材との間に、必要に応じて中間膜を設けてもよい。中間膜としては、例えば、上記めっき膜と上記基材との密着性を向上させる作用を有するものを用いることができる。例えば、中間膜としては、Znめっき膜やNiめっき膜等を用いることができる。
【0019】
上記シールド電線は、上述の構成を有することにより、表面にめっき膜を有さない素線を用いたシールド電線に比べて、1MHz以上の周波数領域におけるシールド特性を向上させることができる。それ故、上記シールド電線は、1MHz以上の周波数領域における電磁ノイズを低減する必要がある用途に好適である。このような用途としては、例えば、自動車用ワイヤーハーネス等がある。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
上記シールド電線の実施例を、図1図4を用いて説明する。図1及び図2に示すように、シールド電線1は、コア部2と、コア部2の外周22を覆う編組シールド層3とを有している。コア部2は、導体211と、導体211の周囲に被覆された絶縁材212とを有する1本の被覆電線21より構成されている。編組シールド層3は、複数の素線31を編み込んで構成されている。図2及び図3に示すように、素線31は、Al線を基材311として構成され、Alよりも酸化されにくいSnからなるめっき膜312を表面に有している。以下、シールド電線1の構成を詳説する。
【0021】
被覆電線21は、断面積3mm2のCu線を導体211とし、その周囲に絶縁材212を押出成形して作製されている。
【0022】
編組シールド層3は、図2に示すように、3本の素線31を互いに並べてなる素線束32を単位として形成されている。本例の編組シールド層3は、24組の素線束32を有している。図には示さないが、各々の素線束32は、コア部2の外周22をらせん状に巻き回されながら編み込まれている。本例においては、素線束32の撚りピッチ、すなわち素線束32がコア部2の外周22をらせん状に一回転したときにコア部2の長手方向に進む距離は20mmである。
【0023】
図3に示すように、素線31は、直径0.18mmのAl線を基材311とし、表面にSnよりなるめっき膜312を有している。また、基材311とめっき膜312との間には、めっき処理により形成されたNiよりなる中間膜313が設けられている。本例のシールド電線1におけるめっき膜312の厚みは1μmである。なお、めっき膜312及び中間膜313は、従来公知の方法により形成されている。
【0024】
本例においては、上述のように構成したシールド電線1を用いて、シールド性能の評価を行った。以下に、評価方法を説明する。
【0025】
<シールド性能評価>
図4に示すように、シールド電線1をまっすぐに伸ばして配置し、その一端11をネットワークアナライザ4の出力端子41に接続すると共に、他端12を50Ωの終端抵抗5に接続した。また、シールド電線1と平行にノイズ誘導線6を配置し、その一端61をネットワークアナライザ4の入力端子42に接続した。なお、ノイズ誘導線6の他端62は開放とした。
【0026】
次いで、ネットワークアナライザ4から発生させた交流信号をノイズ誘導線6に入力し、交流信号の周波数を300kHz〜3GHzの間で掃引した。これにより、交流信号に由来する誘導ノイズをシールド電線1に発生させると共に、シールド電線1から出力端子41側に反射した反射信号の強度をネットワークアナライザ4により測定した。得られた反射信号の強度及びノイズ誘導線6に入力した交流信号の強度を用いて交流信号に対する反射信号の強度比を算出し、その値を誘導ノイズ量とした。
【0027】
また、編組シールド層3を設けず、コア部2のみからなる比較用電線を別途準備し、上記と同様の方法により比較用電線の誘導ノイズ量を算出した。そして、交流信号の周波数が10MHzであるときに得られた、シールド電線1の誘導ノイズ量と比較用電線の誘導ノイズ量との差を求めた。以上の結果、シールド電線1は、比較用電線に比べて、10MHzの交流信号に対する誘導ノイズ量を50dB低減することができた。
【0028】
(実施例2)
本例は、めっき膜312の膜厚を1μmから2μmに変更した素線31を用いたシールド電線1の例である。本例においては、めっき膜312の膜厚を変更した以外は、実施例1と同様にシールド電線1を作製した。
【0029】
また、実施例1と同様に、シールド電線1及び比較用電線を用いて、誘導ノイズ量の測定を行い、両者の差を求めた。以上の結果、本例のシールド電線1は、比較用電線に比べて、10MHzの交流信号に対する誘導ノイズ量を51dB低減することができた。
【0030】
(比較例1)
本例は、直径0.18mmの軟銅線を用いたシールド電線1の例である。本例においては、上記軟銅線を素線31として用いた以外は、実施例1と同様にシールド電線1を作製した。
【0031】
また、実施例1と同様に、シールド電線1及び比較用電線を用いて、誘導ノイズ量の測定を行い、両者の差を求めた。以上の結果、本例のシールド電線1は、比較用電線に比べて、10MHzの交流信号に対する誘導ノイズ量を55dB低減することができた。
【0032】
(比較例2)
本例は、直径0.18mmのAl線を用いたシールド電線1の例である。すなわち、本例のシールド電線1は、表面にめっき膜312が形成される前の状態の基材311そのものを素線31とする編組シールド層3を有している。その他は実施例1と同様である。
【0033】
また、実施例1と同様に、シールド電線1及び比較用電線を用いて、誘導ノイズ量の測定を行い、両者の差を求めた。以上の結果、本例のシールド電線1は、比較用電線に比べて、10MHzの交流信号に対する誘導ノイズ量を38dB低減することができた。
【0034】
実施例1〜2及び比較例1〜2より知られるように、表面にSnよりなるめっき膜312を有する素線31を用いたシールド電線1は、編組シールド層3を有さない比較用電線に比べて、10MHzの交流信号に対する誘導ノイズ量を50〜51dB低減することができた。この値は、従来の軟銅線を用いたシールド電線1(比較例1)と同等の値であり、実施例1及び実施例2のシールド電線1が高周波領域において優れたシールド性能を有することがわかる。
【0035】
一方、比較例2のように、表面にめっき膜312を形成しないAl線を素線31として用いた場合には、編組シールド層3を有さない比較用電線に比べて、10MHzの交流信号に対する誘導ノイズ量が38dB小さくなった。以上の結果から、表面にめっき膜312を形成しないAl線を素線31として用いた比較例2のシールド電線1は、実施例1〜2のシールド電線1に比べて高周波領域におけるシールド性能が劣ることがわかる。
【0036】
なお、実施例1及び実施例2には、コア部2に1本の被覆電線21を有する単芯シールド電線1の例を示したが、コア部2の被覆電線21は、用途に応じて適宜数を増やしても良い。例えば図5には、2本の被覆電線21を有する2芯シールド電線102の例を示す。また、図6には、3本の被覆電線21を有する3芯シールド電線103の例を示す。また、図7には、4本の被覆電線21を有する4芯シールド電線104の例を示す。なお、図5図7において用いた符号のうち、図1及び図2において用いた符号と同一の符号は、実施例1と同様の構成要素等を表す。
【0037】
また、実施例1及び実施例2には編組シールド層3が表面に露出したシールド電線1の例を示したが、必要に応じて編組シールド層3の外周33(図2参照)を被覆するシース部を設けてもよい。シース部は、例えば、架橋ポリエチレン樹脂や架橋塩化ビニル樹脂等の、絶縁性を有する材料より構成することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 シールド電線
2 コア部
21 被覆電線
211 導体
212 絶縁材
3 編組シールド層
31 素線
311 基材
312 めっき膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7