【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】第1のバネ10を介して固定支持部に連繋して支持される第1の可動部20と、第2のバネ12を介して第1の可動部20に連繋して支持される第2の可動部22と、第1の可動部20を往復駆動する、固定支持部に支持された駆動部30とを備え、第1の可動部20及び第2の可動部22、第1のバネ10及び第2のバネ12は、第2の可動部22の共振周波数f
前記第1の可動部は、複数のブロックに分割して設けられた可動部を、前記第2のバネを介して一体的に連結して構成されていることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項記載の電磁振動アクチュエータ。
前記第1の可動部及び第2の可動部と、前記第1のバネ及び第2のバネと、前記駆動部を支持する支持枠とが、弾性を備える平板材料からなる平面構造体を基材として形成され、
前記第1の可動部は、前記支持枠に連繋する第1の支持片部を支持軸として往復回転可能に設けられ、
前記第2の可動部は前記第1の可動部に連繋する第2の支持片部を支持軸として往復回転可能に設けられていることを特徴とする請求項8記載の電磁振動アクチュエータ。
【背景技術】
【0002】
図9は、電磁式リニア振動アクチュエータ(Linear Oscillatory Actuator:LOA)の基本構造を示す。この振動アクチュエータは、コイル2aと磁性ヨーク2bとを備える駆動部2と、バネ3により駆動部2に対して可動に支持された可動部4とを備える。可動部4には永久磁石5が固定され、エアギャップを介して永久磁石5と駆動部2のコイル2aとが対向して配置される。
駆動部2のコイル2aに交流電流を通電することにより、電磁力の作用によって可動部4がバネ3の伸縮方向に振動駆動され、駆動部2の駆動周波数を共振周波数に設定することにより、可動部4が振動駆動される。バネ3のばね定数K
1は共振周波数に関わり、減衰定数C
1は振幅に関わる。
【0003】
図9に示す電磁振動アクチュエータにおいては、可動部4が振動駆動される際に、駆動部2と可動部4とのエアギャップに磁束の変化が生じ、磁性ヨーク2bと永久磁石5に渦電流が発生し磁気減衰が発生する。この磁気減衰の作用は、機械バネの減衰と比較して非常に大きく、振動周波数と振幅の増加とともに顕著になる。
図10は、磁気減衰がある場合と無い場合の振動特性を示す。
図9に示す振動アクチュエータでは、この磁気減衰の作用により、通常10〜100Hz程度を駆動周波数として使用されており、数百または数千Hzでの高速かつ大振幅での駆動は困難である。
【0004】
本発明者は電磁式リニア振動アクチュエータに関わる技術として、共振周波数以外の周波数による高効率での駆動を可能にする制御方法(特許文献1)、振動アクチュエータを光走査装置に適用した例(特許文献2)について提案している。また、リニア振動アクチュエータにおける可動部の慣性力に起因する振動を抑制する例として、
図9に示した可動部4とは別に振幅を抑制する可動部を設け、2つの可動部を逆位相で駆動して慣性力による振動を抑制する例が報告されている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した2つの可動部をバネにより連繋した構成を備える電磁振動アクチュエータは従来から知られている。しかしながら、この2つの可動部を備える従来の電磁振動アクチュエータは、慣性力を相殺したりする目的から、2つの可動部の共振周波数を相互に近似した周波数になるようにして使用するものであって、駆動部における磁気減衰を抑制したり、大振幅で高速振動を可能とさせることを目的とするものではない。
本発明は、従来の電磁振動アクチュエータとは異なる新たな駆動方式を提案するものであり、駆動時の磁気減衰による鉄損を抑制し、産業機器の省エネルギー化、高効率化及び高速振動を図ることを可能にする電磁振動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電磁振動アクチュエータは、第1のバネに連繋して支持される第1の可動部と、第2のバネを介して前記第1の可動部に連繋して支持される第2の可動部と、前記第1の可動部を往復駆動する駆動部とを備え、前記第1の可動部及び第2の可動部、前記第1のバネ及び第2のバネは、前記第2の可動部の共振周波数f
2が、前記第1の可動部の共振周波数f
1を上回る条件に設定され、前記駆動部は、前記第2の可動部の共振周波数f
2を駆動周波数として、前記第1の可動部を駆動し、前記第2の可動部を出力側として用いることを特徴とする。
なお、第1の可動部と第2の可動部は可動部として使用するから、通常は、バネの一端側と駆動部は装置のケースや機枠等の固定支持部に支持する。ただし、可動部と駆動部とは相互作用であるから、可動部を固定側とし、駆動部を可動側として使用することも可能である。
【0008】
第1の可動部を電磁的に振動駆動する際の磁気減衰をできるだけ抑えるには、振動駆動時(駆動周波数f
2)における第1の可動部の振幅をできるだけ抑える必要がある。そのためには、第1の可動部の共振周波数f
1と第2の可動部の共振周波数f
2が大きく離れていなければならない。ただし、第2の可動部は第1の可動部の振動が第2のバネを介して第2の可動部に伝達されて振動駆動されるから、第1の可動部もある程度の振幅で振動する必要がある。
実際は、用途に応じて、第1の可動部と第2の可動部の振幅を調節することになるが、磁気減衰を抑え、かつ効果的に第2の可動部を駆動する条件としては、可動部の振幅を規定する減衰定数に基づき、第1の可動部の減衰定数をC
1、第2の可動部の減衰定数をC
2とするとき、減衰定数C
1を減衰定数C
2よりも大きくすればよい。
【0009】
第1の可動部と駆動部との間で電磁力を作用させるため、第1の可動部は永久磁石を備え、駆動部は、永久磁石との間で電磁力を作用させるコイルとヨークとを備える構成とする。コイルに交流電流あるいは交流パルス電流を通電することにより、第1の可動部が往復振動し、第2のバネを介して第1の可動部に連繋する第2の可動部が往復振動する。
【0010】
第1の可動部と第2の可動部とは、第1の可動部と第2の可動部が、第1の可動部の振動方向に直列となる空間配置とすることもできるし、第2の可動部が、第1の可動部に設けられた収容部に収容され、第1の可動部と第2の可動部は、第1の可動部の振動方向に並列となる空間配置にすることもできる。第2の可動部が、第1の可動部に設けられた収容部に収容されるという意味は、第1の可動部と第2の可動部とが並列に配置されるように、第1の可動部に第2の可動部を収容するための空間が設けられ、この空間内に第2の可動部が、振動方向に可動に収容されるという意味である。
【0011】
第1の可動部と第2の可動部とを並列に配置する場合、第1の可動部に設ける第2の可動部を収容するための収容部は、第1の可動部の内部に設けることも可能であるし、第1の可動部を振動方向に貫通する空間として設けることも可能である。いずれの場合も、第2の可動部は第2のバネを介して第1の可動部に連繋して配置する。第2のバネにより第2の可動部を支持する方法は適宜設定できる。
また、第1の可動部は単体として形成するものとは限らない。たとえば、複数のブロックに分割した可動部を、第2のバネを介して一体的に連結して第2の可動部を収容する収容部を設け、第2のバネにより第2の可動部を支持する構成とすることもできる。
【0012】
前記電磁振動アクチュエータは、第2の可動部を、光を反射するミラー部として構成し、第2のバネが、バネ自体を回転支持軸としてミラー部を往復回転するねじりバネとして構成することにより光スキャナ用振動アクチュエータとして利用することができる。
また、第1の可動部及び第2の可動部と、第1のバネ及び第2のバネと、駆動部を支持する支持枠とが、弾性を備える平板材料からなる平面構造体を基材として形成し、第1の可動部は、支持枠に連繋する第1の支持片部を支持軸として往復回転可能に設け、第2の可動部は第1の可動部に連繋する第2の支持片部を支持軸として往復回転可能に設けることにより、平板構造を備える光スキャナ用振動アクチュエータとなる。
また、第1の可動部を構成する基材に永久磁石を取り付け、支持枠に駆動部のコイルとヨークとを取り付けることにより、平板構造を維持した、高速振動が可能な電磁振動アクチュエータとして構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1の可動部を小振幅に抑えて、かつ第2の可動部を大振幅で高速振動させることができ、磁気減衰を効果的に抑制した、小電力で高速動作を可能にする電磁振動アクチュエータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(電磁振動アクチュエータの基本構造)
図1は、デュアル共振系を備える電磁リニア振動アクチュエータの基本構造を示す。
図1に示す電磁振動アクチュエータは、第1のバネ10を介して固定支持部に連繋して支持される第1の可動部20と、第2のバネ12を介して第1の可動部20に連繋支持される第2の可動部22と、第1の可動部20を往復駆動する駆動部30とを備える。
駆動部30は、第1の可動部20との電磁作用により第1の可動部20を往復駆動(振動駆動、リニア駆動)するものであり、駆動部30はコイル31とヨーク32とを備え、第1の駆動部20はコイル31に対向する位置に永久磁石21を備える。
【0016】
図1に示す実施形態の駆動部30は、リング状のコイル31の外周にヨーク32を配し、コイル31の内側領域にエアギャップを設けて第1の可動部20を配している。永久磁石21は第1の可動部20の外側面に固定し、永久磁石21とコイル31とが対向する配置となる。なお、駆動部30と第1の可動部20の平面形状及び寸法、第1の可動部20に設ける永久磁石21の平面配置、配置数等は適宜設定することができる。
図1に示す実施形態では、駆動部30の平面形状を円環状とし、第1の可動部20の平面形状を円形とし、円弧状に形成した一対の永久磁石21、21を第1の可動部20に埋設している。
なお、第1のバネ10の一端側と駆動部30は、アクチュエータを収容するケースあるいは機枠等の固定支持部に固定する。
【0017】
図1に示すように、第1のバネ10のばね定数をK
1、可動部の減衰定数をC
1とし、第2のバネ12のばね定数をK
2、可動部の減衰定数をC
2とする。ばね定数K
1、K
2は共振周波数に関わり、減衰定数C
1、C
2は振動時の振幅に関わる。なお、減衰定数C
1については、機械ばねの減衰成分以外に、永久磁石とヨークに磁気減衰が発生するため、C
1>C
2となる。
本実施形態においては、第1の可動部20と第2の可動部22は、第1のバネ10と第2のバネ12を介して空間的に直列に連結されている。第1の可動部20と第2の可動部22は直列に配置する他に、空間的に並列に配置する構成とすることも可能であり、
図1に示す配置に限定されるものではない。
【0018】
図1に示す電磁振動アクチュエータは、第2のバネ12を介して第1の可動部20と第2の可動部22が相互に連繋した構成を備える。したがって、駆動部30のコイル31に交流電流を流すと、駆動部30と第1の可動部20との間で生じる電磁力の作用により第1の可動部20が振動駆動され、この第1の可動部20の振動が第2のバネ12を介して第2の可動部22に伝達されて第2の可動部22が振動駆動される。
【0019】
この構成によれば、駆動部30によって第1の可動部20を振動駆動する周波数(駆動周波数)を、第2の可動部22の共振周波数f
2に設定すれば、機械的な共振により第2の可動部22を大振幅で振動駆動することができる。この場合に、第1の可動部20の共振周波数f
1が、第2の可動部22の共振周波数f
2と大きく隔たっていれば、第1の可動部20は共振せず、第1の可動部20は小さい振幅で振動することになる。すなわち、第1の可動部20の共振周波数f
1を、第2の可動部22の共振周波数f
2から大きく隔たった周波数に設定しておけば、第1の可動部20を小さい振幅で振動させ、かつ第2の可動部22を大振幅で振動させることができる。
【0020】
図2に、第1の可動部20と第2の可動部22の振幅−周波数特性を例示する。この振幅−周波数特性は、第1の可動部20の共振周波数f
1が第2の可動部22の共振周波数f
2よりも小さく、共振周波数f
1と共振周波数f
2が隔たった周波数となるように、第1のバネ10及び第2のバネ12のばね定数や減衰定数、第1の可動部20及び第2の可動部22の質量を設定した場合である。
第1の可動部20と第2の可動部22の振幅−周波数特性を
図2に示すような設定条件とすれば、上述したように、駆動部30の駆動周波数を第2の可動部22の共振周波数f
2に一致させることで、第1の可動部20をきわめて小さな振幅で振動させながら、第2の可動部22を共振周波数f
2で共振させることができる。共振周波数f
2における第1の可動部20の振幅は、共振周波数f
1の曲線が裾を引いた位置に相当し、十分に小さくなることがわかる。
【0021】
共振周波数f
2における第2の可動部22の振幅と、第1の可動部20の振幅は、減衰定数C
1とC
2の比に依存する。駆動時における第1の可動部20と第2の可動部22の振幅の比をどの程度とするかは、用途に応じて、適宜設定すればよいが、第1の可動部20の振幅を第2の可動部22の振幅の1/50程度とすれば、顕著な作用効果が得られる。可動部の振幅は減衰定数C
1とC
2に関わるから、この条件を減衰定数で表すと、C
1がC
2の10倍程度以上、となる。
【0022】
図2に示すグラフは、共振周波数f
2における第2の可動部22の振幅と、共振周波数f
1における第1の可動部20の振幅を比較すると、共振周波数f
2における第2の可動部22の振幅が、共振周波数f
1における第1の可動部20の振幅を大きく上回ることを示している。これは、第1の可動部20が共振周波数f
1において共振するときには、第1の可動部20の振幅が必然的に大きくなり、従来技術における課題である磁気減衰によって振幅を抑制する作用が避けられないのに対して、第2の可動部22の動作には磁気減衰による影響が排除されていることによる。
【0023】
本実施形態の電磁振動アクチュエータによれば、第1の可動部20については小振幅で振動駆動することにより、磁気減衰の影響を抑えて効率的に振動駆動することができ、第2の可動部22については、磁気減衰の影響を排除することにより、大振幅の高速振動を可能にすることができる。第2の可動部22を出力側とすることにより、本発明に係る電磁振動アクチュエータによれば、従来の電磁振動アクチュエータにおいては、100Hz程度が工業的に利用できる上限であった振動周波数を、数100Hz〜数kHzまで拡大することができ、大振幅の高速振動と、効率的な駆動が可能な電磁振動アクチュエータとして提供することができる。
【0024】
(電磁振動アクチュエータの他の構成例)
図3は、本発明に係る電磁振動アクチュエータの他の構成例を示す。
図3に示す電磁振動アクチュエータは、ブロック状に形成した2つの可動部20a、20bの上面と下面とにそれぞれ板バネ14を掛け渡すように固定して、可動部20a、20bを一体化して第1の可動部20とし、板バネ14に第2の可動部22を取り付けた構成としたものである。
第2の可動部22は、2つの可動部20a、20bに掛け渡した板バネ14の中央に、第1の可動部20の振動方向を長手方向とし、上端と下端とを板バネ14からそれぞれ突出させた配置として取り付けられている。
【0025】
2つの可動部20a、20bに板バネ14を掛け渡し、板バネ14によって第2の可動部22を支持する構成としている理由は、第1の可動部20と第2の可動部22を空間的に並列に配置し、可動部全体をコンパクトに構成するためである。2つの可動部20a、20bを板バネ14により連結することにより、第2の可動部22を収容する収容部(収容空間)を第1の可動部20に形成することができ、第1の可動部20と第2の可動部22が並列に配置される。
【0026】
図4に板バネ14の構成例を示す。この板バネ14は、第2の可動部22を支持するためのリング状の係止部14aと、係止部14aに一体に連結された取り付け部14b、14bとからなる。取り付け部14b、14bは平面形状がD字形に形成され、係止部14aを挟んで、対称配置に設けられている。実施形態の板バネ14に透孔を設けているのは、所要の弾性を確保するためであるが、板バネ14の形状が限定されるものではない。
取付け部14b、14bの端片部分が可動部20a、20bへの取り付け部である。第2の可動部22は、板バネ14とが交差する部位で第2の可動部22の外周側面と板バネ14とを係止させて固定する。
【0027】
可動部20a、20bはそれぞれバネ10a、10bを介して、ケースあるいは機枠等の支持体に支持する。本実施形態においては、2つのバネ10a、10bが
図1に示した第1のバネ10に相当する。
駆動部30は、第1の可動部20に取り付けた永久磁石21に対向してコイル31を配置し、アクチュエータのケースあるいは機枠に固定する。コイル31に交流電流を流すことにより、第1の可動部20が振動駆動され、第2のバネ12に相当する板バネ14を介して、第1の可動部20の振動が第2の可動部22に伝達され、第2の可動部22が振動駆動される。
【0028】
本実施形態の電磁振動アクチュエータにおいても、
図1に示した電磁振動アクチュエータと同様に、駆動部30の駆動周波数を第2の可動部22の共振周波数f
2に設定する一方、可動部20a、20bからなる第1の可動部20の共振周波数f
1を第2の可動部22の共振周波数f
2から大きく隔たった周波数に設定することにより、第1の可動部20については小振幅で振動させ、磁気減衰を十分に小さく抑えながら、第2の可動部22を大振幅で、高速振動させることができる。
【0029】
本実施形態の電磁振動アクチュエータでは、第1の可動部20と第2の可動部22とを空間的に並列配置にするため、第1の可動部20に第2の可動部22を収容する収容部(収容空間)を設けている。第2の可動部22を可動に収容する収容部を設ける方法としては、
図2に示した例に限らず、3個以上のブロック状に形成した可動部をバネで連結して第1の可動部20に収容空間を設ける方法、第1の可動部をリング状として振動方向に貫通する収容空間を設ける方法、第1の可動部20を厚い円板状として円板の内部に収容空間を設ける方法等が可能である。
本実施形態の電磁振動アクチュエータによれば、アクチュエータ全体を小型化することができ、各種装置に容易に組み込んで使用することが可能である。
【0030】
(光スキャナ用振動アクチュエータへの応用)
上述した電磁振動アクチュエータを光スキャナ用振動アクチュエータに利用する例について説明する。
光スキャナ用振動アクチュエータはレーザーディスプレイやレーザ式バーコードリーダなどのレーザ光源を走査する装置に利用されている。
図5は、光スキャナ用振動アクチュエータの従来の構成例である(特許文献2)。この光スキャナ用振動アクチュエータは、可動部40として、ミラー41、ねじりバネ42、永久磁石43を備え、可動部40を駆動する駆動部50としてコイル51とヨーク52とを備える。
可動部40はねじりバネ42を回転支持軸として、平面内において往復回転するように構成され、可動部40のコイル51に交流パルス電流を通電させることにより、永久磁石43に作用する電磁力と、ねじりバネ42のねじりにより生じる弾性力(復元力)とのバランスにより、ミラー41が所定の角度範囲にわたり往復回転駆動(振動駆動)される。
【0031】
レーザーディスプレイや高速バーコードリーダなどの光スキャナでは、周波数3kHz以上で、50度以上の走査角度が必要である。
図5に示した振動アクチュエータでは、ミラー41と永久磁石43が可動部40にあるため、ミラー41の回転角度が大きくなると、永久磁石43の振幅も大きくなる。そのため、永久磁石43とヨーク52との間に渦電流に起因する磁気減衰が発生し、この磁気減衰の作用は振動周波数が増大するとともに顕著となり、3kHz以上の高周波数での駆動は、消費電力が極めて増加するため、駆動が困難となる。永久磁石とヨークに生じる渦電流の作用による磁気減衰の作用は、
図10に示した磁気減衰の作用と同一である。
【0032】
図6、7は、3kHz以上の高周波数での駆動を可能にする光スキャナ用振動アクチュエータの構成例を示す。
図6は光スキャナ用振動アクチュエータの平面図、
図7は
図6におけるA-A線断面図である。
本実施形態の光スキャナ用振動アクチュエータは、
図1に示した電磁振動アクチュエータと同様の構成を備え、バネを介して相互に連繋支持された第1の可動部20及び第2の可動部22と、第1の可動部20を介して第2の可動部22を振動駆動する駆動部30を備える。
【0033】
駆動部30は、平面形状が矩形枠状に形成された支持枠15と、支持枠15の内周に沿って巻回して設けたコイル31と、支持枠15の対向する2つの枠部15a、15b上にそれぞれ固定したヨーク32、32からなる。駆動部30は、支持枠15をアクチュエータのケースあるいは機枠等の固定支持部に取り付けることにより固定される。
【0034】
駆動部30により振動駆動される第1の可動部20は、支持枠15によって囲まれた内側領域に配置された平面形状がリング状の環状支持片部16と、環状支持片部16上でヨーク32、32と対向する位置に取り付けられた永久磁石21、21からなる。
環状支持片部16は、支持枠15のヨーク32、32が取り付けられていない側の対向する2つの枠部15c、15dから延出する2つの第1の支持片部17a、17bを介して支持される。第1の支持片部17a、17bは所要の弾性を備えるように設計され、環状支持片部16自体が備える弾性と合わせて、第1の可動部20は支持枠15に弾性的に支持される。この場合、支持枠15は駆動部30と第1の可動部20の共通の固定支持部となっている。
【0035】
第2の可動部22は、環状支持片部16のさらに内側領域に配置された円形のミラー部18である。ミラー部18は、環状支持片部16から延出する第2の支持片部19a、19bを介して連結されている。
第2の支持片部19a、19bも弾性を備えるように設計され、ミラー部18は第2の支持片部19a、19bを介して弾性的に可動に支持される。第2の支持片部19a、19bは、
図1における第2のバネ12に相当する。
ミラー部18は、レーザ光を反射する作用をなす部位である。ミラー部18は、基材表面にめっき等を施して鏡面とすることができ、別部材のミラーを基材上に装着してミラー部18とすることもできる。
【0036】
ステンレス等の平板状の素材に機械加工あるいは化学的加工(エッチング加工)を施して、支持枠15、環状支持片部16、第1の支持片部17a、17b、第2の支持片部19a、19b、ミラー部18の各部を形成することができる。また、基材の所要位置にコイル31、ヨーク32、永久磁石21を配置して、第1の可動部20、第2の可動部22、駆動部30を構成することにより、全体を平面構造体として形成することができる。
第1の支持片部17a、17b、及び第2の支持片部19a、19bは、第1の可動部20(環状支持片部16、永久磁石21)と第2の可動部22(ミラー部18)を弾性的に支持するバネの機能を付与したものであり、ねじりバネとして作用する。これらのバネ性を備える支持片部は基材の材質や厚さによって、ばね定数等が適宜設定される。
【0037】
なお、第1の支持片部17a、17bと、第2の支持片部19a、19bは、2つの枠部15c、15dのそれぞれの中点位置を結ぶ一直線上に、それぞれの長手方向を一致させて配置する。このように、第1の支持片部17a、17bと第2の支持片部19a、19bを直列に配置したことにより、環状支持片部16とミラー部18は、第1の支持片部17a、17bと第2の支持片部19a、19bが支持軸となって振動駆動される。すなわち、第1の支持片部17a、17bと第2の支持片部19a、19bは、振動駆動時にねじりバネとして作用し、駆動部30により可動部に電磁力が作用した際に、ねじりバネの釣合位置まで第1の可動部20と第2の可動部22が回転する。
【0038】
図7は、駆動部30のコイル31に交流パルス電流を作用させることにより、第1の可動部20の永久磁石31に電磁力が作用し、第1の可動部20が第1のバネ10に相当する第1の支持片部17a、17bを支持軸として往復回転し、第2の可動部22であるミラー部18が、第2のバネ12に相当する第2の支持片部19a、19bを支持軸として往復回転することを示している。
【0039】
図6、7に示す光スキャナ用振動アクチュエータの基本的な構造は、
図1に示した電磁振動アクチュエータの構成とまったく同様である。すなわち、
図6、7に示す電磁振動アクチュエータを使用すれば、第2の可動部22に相当するミラー部18は、磁気減衰の作用をまったく受けることなく往復回転(振動)することができる。この光スキャナ用振動アクチュエータによれば、
図5に示した従来の光スキャナ用振動アクチュエータとくらべて、はるかに高速の往復回転(振動)と、大振幅の往復回転が可能になる。
【0040】
図8は、
図6に示す構成を備える光スキャナ用振動アクチュエータを試作し、駆動周波数に対する走査角振幅について測定した例を示す。走査角振幅θ
1は、第1の可動部20が振動するときの振幅、走査角振幅θ
2は第2の可動部22(ミラー部18)が振動するときの振幅に相当する。第2の可動部22の共振周波数f
02=4634Hzでは、θ
1=0.04度、θ
2=2.2度となり、振幅の比は55倍となった。すなわち、第2の可動部22の共振周波数において、第1の可動部20はきわめて小振幅で駆動されることが確認できた。
【0041】
上述した説明においては、説明上、第1の支持片部17a、17bが
図1の電磁振動アクチュエータの第1のバネ10に相当し、第2の支持片部19a、19bが第2のバネ12に相当するとしたが、第1の支持片部17a、17b、環状支持片部16、第2の支持片部19a、19b、ミラー部18は相互に弾性的に連結され、各部位自体も弾性を有している。したがって、
図1の電磁振動アクチュエータにおける第1のバネ10に相当する部位と第2のバネ12に相当する部位を、支持片部の部位ごとに分離して規定することは実際には正確でない。
しかしながら、本実施形態の光スキャナ用振動アクチュエータが、
図1に示した電磁振動アクチュエータと同様に、弾性的に連繋して支持された第1の可動部20と、弾性的に相互に連繋して支持された第1の可動部20と第2の可動部22とを備えることは明らかであり、本実施形態の光スキャナ用振動アクチュエータは、
図1に示した電磁振動アクチュエータと同様の作用をなす。
【0042】
本実施形態の光スキャナ用振動アクチュエータは、第1の支持片部17a、17bや第2の支持片部19a、19b等の弾性を適宜設計することにより、振動周波数や回転角といった、光スキャナ用振動アクチュエータに求められる特性に応じて設計することが可能である。
また、本実施形態の光スキャナ用振動アクチュエータは、薄型の平板部材を使用して形成することにより、薄型でかつ小型のアクチュエータとして形成することができ、支持片部等の各部を任意の形状および寸法に形成することができるから、用途に応じた設計が容易に可能であり、量産も容易である等の種々の利点を有する。
また、本実施形態は、光スキャナ用振動アクチュエータとして構成した例であるが、本実施形態のアクチュエータは、光スキャナ用とする他に、大きな角度範囲での高速振動が求められるアクチュエータとして利用することが可能である。