【課題を解決するための手段】
【0014】
表面割れ、内部割れが少なく、入居後もくるいの生じない柱材や梁材等の乾燥材は、蒸煮により木材を膨潤し、短時間で高温低湿な一次乾燥で表面を固定化し、二次乾燥によって緩やかに乾燥して含水率を低下することで得られる。すなわち平均含水率と内部含水率の関係を基に、蒸煮、一次乾燥、二次乾燥を順次行って、所定の内部含水率以下に低減して乾燥材を得る。
【0015】
平均含水率は、木材全体に対する平均の含水率を指す。一方、内部含水率は105mm角材では、木材の中心部分から半径3cm以内の部分、120mm角材では4cm以内の含水率を指す。105mm角材の場合、平均含水率は材長方向の中央付近から厚さ20×105×105mmの部材を採取してその重量を測定後、105℃のオーブンで48時間加熱して水分を蒸発させた後に重量を測定して、部材の乾燥前後の重量差を水分量として求める。そして、乾燥部材の重量に対する水分量の百分率を平均含水率とする。一方、内部含水率は、材長方向の中央付近から厚さ20×105×105mmの部材を採取した後、その断面中央部から半径30mmの円盤を採取し、平均含水率と同様に乾燥部材の重量に対する水分量の百分率を求め、内部含水率とする。そして、これらの平均含水率(X)と
平均含水率は、非破壊的に、木材の電気抵抗や誘電率に基づいた含水率計で測定する方法が汎用され、その含水率との関係から内部含水率を推定することとなる。
【0016】
内部含水率15%と平均含水率15%にした乾燥材を、冬季暖房室内に放置してねじれの変化を調べたところ、
図2のように平均含水率15%ではねじれが大きく、プレカット工場等の受け入れ基準(1.5度/3m材長よりも小さいもの)を満たさなかった。一方で、内部含水率15%にしたものは、一般的に使用されている輸入集成材よりも小さなくるいに留まった。すなわち、居住環境に配慮して含水率を低下することが必要で、
図1から明らかなように内部含水率は15%以下が良好である。
【0017】
最初に行う蒸煮は、元来は針葉樹材の乾燥の際に、針葉樹材がヤニを多く含むため、その除去を目的に乾燥の前工程としたものである。本発明では、蒸煮による高温飽和の蒸気下に曝すことで、木材中のセルロースを水膨潤して軟化し、くるいの原因となる応力を緩和するために行うものである。蒸煮温度は90℃以上が望ましく、95℃前後が良好である。なお、蒸煮の効果は、1時間あたり表面から1cm程度進行することから、10.5cm角の柱材では6時間以上が良好である。
【0018】
次に一次乾燥を行う。平均含水率が30%以下になると、結合水の蒸発が始まることで繊維の収縮が起こり、応力が発生する。従来の乾燥方法では、その乾燥時に内部と表層部との含水率に差が生じ、これは水分傾斜と呼ばれ、これが大きくなると表面割れが生じていた。これを解決するため開発されたのが高温セット法である。この方法により表面割れが抑制される理由は、表層部の固定化、内部収縮の拘束、表層部応力の逆転により為される。すなわち、温度100℃以上の低湿度で乾燥すると、材内の水分は蒸気化し、内部圧力が高まり、表面に向かって圧力が急速に高くなる。一方で、表面からの蒸発に対して内部水分の移動は遅いため、表面近くの含水率が急速に低下して内部との含水率の差が大きくなる。この時、表層部は急激な乾燥で収縮しようとするが、含水率の高い内部によって抑制されて小さな収縮に留まる。さらに、高温であることで木材の粘弾性が大きいため、引っ張られた状態で固定される。しかし、内部がある程度乾燥した後は、表層の引張り応力は圧縮応力に転じるため、表面割れが抑えられる反面、表面の拘束が強すぎる場合、内部繊維の収縮が応力を過大に発生させて内部破壊、すなわち内部割れをおこすこととなっていた。
【0019】
そこで、本発明では、内部割れの発生を抑えるため、表層部と内部との含水率に大きな差をもたらさないよう、また、木材成分の変化を抑えるため、温度や時間の影響を鋭意調査して適正な条件を見出したものである。温度(表1)は110以上120℃以下の115℃前後、時間(表2)は12時間以上24時間以内の18時間前後が良好である。すなわち、一般的な高温セット法の120℃から115℃(湿度30%)前後に低下して、時間は同じく24時間から18時間前後に短縮することが良好である。これにより、表面を固定化しつつ、穏和な乾燥により表面には更なる収縮の余地が残り、二次乾燥による応力を適正に受け入れながら内部水分の蒸発が可能となる。
【0020】
一次乾燥の温度と乾燥材の性状との関係を表1に示した。ここでは、カラマツ20cm径級の原木から、製品仕上げ寸法105mm角を想定して125mm角に製材し、これを乾燥したものである。蒸煮は95℃で10時間、一次乾燥は所定温度(湿度25〜30%)で18時間乾燥した。また、二次乾燥は温度90℃(湿度25%)で14日行った。そして、くるいは冬季暖房室内に80日放置した後に1.5度/3m材長よりも小さいねじれを○、1.5度前後でバラツキがあるものを△、1.5度以上のものを×とした。表面割れは3m×105mm×105mmの正角材1本あたりの平均面積が5cm
2以下を○、5以上10cm
2以下を△、10cm
2以上を×とした。内部割れは材長中央部の断面あたりの平均総長さが5mm以下を○、5mm以上15mm以下を△、15mm以上を×とした。色・香りは乾燥後に変化のないものを○、どちらかに変化が感じられるものを△、両者、もしくはいずれかが大きく変化したものを×とした。
【0021】
【表1】
【0022】
次に、一次乾燥の時間と乾燥材の性状との関係を表2に示した。なお、蒸煮は95℃で10時間、一次乾燥は乾球温度115℃(湿度30%)で所定時間乾燥した。また、二次乾燥は温度90℃(湿度25%)で14日行った。表1と同様の製材を用い、くるい、表面割れ、内部割れ、色・香りも同様に評価した。
【0023】
【表2】
【0024】
引き続き二次乾燥を行う。100℃を超える条件での乾燥は、割れの発生に加えて強度の低下をもたらす。その原因は後述するが、強固な水素結合の発生と大きな水分傾斜である。そこで、二次乾燥は90℃以上95℃(湿度25%)以下で、ゆっくりと含水率を低下させることが良好である。すなわち、前述の製材を用いて、蒸煮は95℃で10時間、一次乾燥は115℃(湿度30%)で18時間乾燥し、二次乾燥を表3では所定温度(湿度25〜30%)で14日行い、表4では温度90℃(湿度25%)で所定時間行って、くるい、表面割れ、内部割れ、色・香りを表1と同様に評価した。
【0025】
なお、木材の幅や樹種により、二次乾燥に必要となる時間は異なるが、1週間から1ヶ月間以上をかけてゆっくり乾燥しながら内部含水率を低下させるのが望ましく、105mm角材では2週間が良好である。これよりも薄い木材は1週間でも良好である。なお、所定の内部含水率には、平均含水率(X)と内部含水率(Y)の関係Y=1.6X−2.6を基に、平均含水率を測定しながら内部含水率を推定して乾燥する。本発明により、表層部と内部の含水率が均一になることで(
図3)、水分傾斜が小さく、くるいや割れの発生が抑えられる。なお美観や欠損への影響から、表面割れは3m×105mm×105mmの正角材1本あたり平均面積10cm
2以下が望ましく、5cm
2以下が良好である。また、内部割れは材長中央部の断面あたりの平均総長さ15mm以下が望ましく、5mm以下が良好である。
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
一次乾燥後は表面割れの発生が抑えられることから、後日、二次乾燥を行うことも可能である。なお天然乾燥により養生することで、二次乾燥の時間や乾燥経費低減を図ることも可能である。
【0029】
最後に、乾燥過程で生じたくるいは、修正して取り除く。そのため、製材工場が保有する鉋盤や製材機を使用して仕上げ加工を行う。
【0030】
割れは、繊維の収縮によりもたらされる。自由水を有する状態では、木材や繊維あるいは水との間に水素結合ができて、水分子が木材や繊維間を橋渡しした状態となる。それが、乾燥により自由水が無い状態になると、木材や繊維同士が近づき、遂には木材や繊維間に水素結合が生じて収縮を生じ、割れを生じる。結合水が少なくなる30%以下の平均含水率から水素結合が発生するため、一次乾燥は115℃前後の温度が良好で注意しながら行う。
【0031】
強固な結合を生じた木材も、湿度の高い状態に放置されると、次第に吸湿しながら平衡含水率に近づく。なお、生材からの乾燥材と、一旦乾燥後に吸湿させた材とでは、同一の室内環境下でも平衡含水率に2〜3%程度の差が生じる。この経過に依存する現象を、水分のヒステリシスという。本発明は、内部まで低めの含水率に乾燥することで、ヒステリシスにより吸湿後も低めの含水率で安定となり、形状変化が少なく、くるいや割れの発生を低減させるものである。そのため、内部含水率は15%以下が良好である。また、くるいは過乾燥状態の空間に使用されることで内部の乾燥が引き起こり生じるもので、
図3のように十分な乾燥かつ、表面と内部との含水率に差が少ない、いわゆる水分傾斜が小さくなることで、その度合いはより少なくなる。
【0032】
乾燥装置は、蒸気式乾燥装置、除湿式乾燥装置、蒸気加熱式減圧乾燥装置、高周波加熱式減圧乾燥装置、蒸気・高周波加熱式乾燥装置などが挙げられる。現在、最も普及しているのが蒸気式乾燥装置である。これは、ボイラーで発生させた蒸気を加熱管に送って室温を上げる方式で、湿度の調節は加湿管からの生蒸気噴射と、吸排気筒のダンパー開閉と吸排気用ファンの作動によって行なわれる。温湿度の調節が容易で、乾燥温度範囲が広く、生蒸気の噴射ができるので調湿処理や蒸煮処理も可能であり、所定温度を維持することが容易なことから、本発明においても適当な乾燥装置である。
【0033】
含水率の測定は含水率計を使用する。なお、含水率計には携帯型と設置型があり、携帯型で押し当て式の高周波含水率計が広く使われている。携帯型は測定深度が浅いため、水分傾斜は測定されないので注意が必要である。一方、設置型含水率計は高周波あるいはマイクロ波式で、生産ライン上における連続測定に用いられる。いずれも、平均含水率を測定するものなので、予め木材の内部から所定部分を取り出し、前述のように全乾して含水率を測定し、内部含水率と平均含水率との関係を確認しながら補正して、平均含水率計として使用することが良好である。
【0034】
その他、乾燥における桟積みには、あらかじめ乾燥した厚さ3cm程度の曲がりやくるいのない桟木や桟木パレットの使用が良好である。桟木は垂直方向(高さ方向)に積み重ね、できるだけ短い間隔で桟木を均等に配置する。また桟積みの最上段には荷重物を置き、桟積み上部から材長1mあたり1トン程度の荷重が良好である。重量物には鉄材・鋼材、コンクリートなどが良好である。
【0035】
本発明は、いずれの樹種にも可能であるが、密度が針葉樹では高く、強度に優れたカラマツが良好である。特に、樹心近くに大きな繊維傾斜を持つ樹種に有効で、グイマツ等も良好である。
【0036】
対象とする木材は、心持ちの有無にかかわらず、90、105、120、135mmの正角材や105×240mmの平角材、羽柄材等も良好である。なお、材厚さの薄いものほど一次乾燥あるいは二次乾燥の時間は、105mm角材よりも短縮でき、平均含水率と内部含水率との相関は部材寸法ごとに求めることが望ましい。