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特開2015-150890くるいと割れの少ない乾燥材および乾燥方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-150890(P2015-150890A)
(43)【公開日】2015年8月24日
(54)【発明の名称】くるいと割れの少ない乾燥材および乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20150728BHJP
   F26B 25/00 20060101ALI20150728BHJP
【FI】
   B27K5/00 F
   F26B25/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-42107(P2014-42107)
(22)【出願日】2014年2月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成25年8月18日、地方独立行政法人北海道立総合研究機構が有限会社新濱建設の協力の下建設した、実証住宅「ここからはじまる森をつくる住まい:Square House」の見学会をもって報告
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(72)【発明者】
【氏名】清野 新一
(72)【発明者】
【氏名】土橋 英亮
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 厚
【テーマコード(参考)】
2B230
3L113
【Fターム(参考)】
2B230AA15
2B230AA16
2B230BA03
2B230EB06
2B230EB12
2B230EB38
3L113AA01
3L113AB02
3L113AC05
3L113AC67
3L113BA05
3L113CA02
3L113DA24
3L113DA25
(57)【要約】
【課題】 木材は水分を吸放出する性質があり、これに伴って木材の収縮や膨張が生じる。乾燥が適切でない場合、それがくるいや割れとなり、美観だけでなく、建物の不具合や使用箇所によっては強度に影響を及ぼす欠点となる。しかし、従来の乾燥法では含水率に偏りがあり、内部の含水率が高いため、くるい、内部割れ、表面割れが発生していた。そこで、居住環境に適合する、水分傾斜の少ない均一、安定な乾燥材が要望されていた。
【解決手段】 表面割れ、内部割れが少なく、入居後もくるいの生じない柱や梁材等は、平均含水率と内部含水率の関係を基に内部含水率を推定しながら、蒸煮、一次乾燥、二次乾燥を順次行って、所定の内部含水率に低減することで得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部含水率を低下させると乾燥後のくるいが少なくなることから、平均含水率と内部含水率の関係を基に内部含水率を推定して、蒸煮、一次乾燥と、二次乾燥を行って平均含水率を低下させて、くるい、表面割れと内部割れの発生を抑える木材の乾燥方法。
【請求項2】
内部含水率を低下させると乾燥後のくるいが少なくなることから、平均含水率と内部含水率の関係を基に内部含水率を推定して、蒸煮、110℃以上120℃以下の115℃前後での一次乾燥と、90℃以上95℃以下での二次乾燥を順次行って平均含水率を低下させて、くるい、表面割れと内部割れの発生を抑える木材の乾燥方法。
【請求項3】
内部含水率を15%以下にすると乾燥後のくるいが低下することから、平均含水率と内部含水率の関係を基に内部含水率を推定して、蒸煮、110℃以上120℃以下の115℃前後で12時間以上24時間以内の18時間前後での一次乾燥と、90℃以上95℃以下での二次乾燥を順次行って平均含水率を低下させて、くるい、表面割れと内部割れの発生を抑える木材の乾燥方法。
【請求項4】
木材の内部含水率を15%以下にすると乾燥後のくるいが1.5度/3m材長以下になることから、平均含水率と内部含水率の関係を基に内部含水率を推定して、蒸煮、110℃以上120℃以下の115℃前後で12時間以上24時間以内の18時間前後での一次乾燥と、90℃以上95℃以下での二次乾燥を順次行って平均含水率を低下させた、3m×105mm×105mmの正角材1本あたりの表面割れの平均面積が10cm以下で、材長中央部の断面あたりの内部割れの平均総長さが15mm以下であることを特徴とした乾燥材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材のくるいと割れの発生が少ない乾燥材およびその乾燥方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
木材は水分を吸放出する性質があり、これに伴って木材の収縮や膨張が生じる。木材の幅・厚さ・長さ方向によって収縮量が異なるため、また、水分の吸放出により内部水分量と表面水分量に差が生じるなどのため、くるいや割れを生じることとなる。木材のくるいや割れは、美観だけでなく、建物の不具合や使用箇所によっては強度に影響を及ぼす欠点となる。
【0003】
割れは一般的に3種類に分類される。木口割れは、乾燥初期に水分の蒸発が、木材の材面よりも木口面から起こり、収縮が急速に進行して木口に発生するものである。これには、できるだけ木口が乾燥しないよう、シートで覆うなどの対策もあるが、その手間に課題があった。表面割れは、木口以外の材面に独立して発生する割れで、乾燥初期に表層に生じた引張り応力が材幅方向の引張り強さより大きくなり、組織的に弱い繊維に沿って現れるものである。心持ち正角材に発生しやすく、これを避けるためには、蒸煮後に高温低湿な条件で乾燥を長く続ける後述の高温セット法が有効であるとされている。しかし、内部割れが発生しやすかった。特に柱・梁材等の厚物の木材製品は、表面と内部との水分の違い(水分傾斜)が大きく、応力が生じて割れやすいことから、適切な乾燥技術が求められていた。また、内部割れは、表面に現れず、材を切断したときに現れるものである。乾燥後期などに繊維の収縮が増大し、内部に生じた引張り応力が木材組織の結合力を上回ることで発生する。このような割れが、プレカット加工での仕口や継手となる加工部位にあると、製品歩留まりが低下することから、その改善方法が求められていた。
【0004】
木造住宅のトラブルには、木材を十分に乾燥しないままに使用したことによるくるいや割れが原因となる場合が多い。木材は繊維飽和点(約30%)以下の含水率になると収縮が始まり、くるいや割れなどが発生し、床鳴りやクロスのしわ、ドア開閉の不具合等が生じることとなる。くるいは木材の繊維傾斜が主に原因しているため、適正に桟積みを行い、材を拘束しながら乾燥して軽減する方法も知られるところである。樹種によってその度合いが異なり、カラマツでは乾燥によって左旋回というねじれが生じることから、旋回圧締という方法が有効とされている。しかし、これらの方法では、表面割れと内部割れの発生を抑制できなかった。
【0005】
含水率とは、乾燥した木材重量に対する水分の割合をいう。なお、木材細胞や細胞壁に水分が充満している状態を飽水状態と呼び、生材は完全な飽水状態ではないが、水分をかなり多く含んでいる。そして水分は、木材との結びつき方で自由水と結合水に分けられ、細胞内や隙間に液体の状態で含まれる水を自由水、細胞壁に化学的な力で吸着されている水を結合水という。乾燥により、まずは自由水が蒸発する。自由水が無くなり、結合水のみが存在する状態を繊維飽和点という。繊維飽和点は概ね含水率30%で、これよりも乾燥が進むと繊維の収縮が起こり、くるいや割れが生じることとなる。
【0006】
木材を建築材とする際には、日本農林規格では含水率20%程度を目標としている。なお、これは建築材全体の平均含水率のことである。昨今、仕様や工法が改良された高断熱、高気密な住宅では、年中、暖かく安定であることで、外気の取り込みが少なく、結果として室内が恒常的に過乾燥となっている。そこで、平均含水率15%を目標にした建築材も見られることとなっている。しかし、入居後には木材の平均含水率が10%以下になることも多くなっている。含水率としては5〜10%の低下ではあるが、木材の収縮が繊維飽和点30%から始まり、10%以下の過乾燥にもなると、竣工時にはなかった大きなくるいや割れが入居後に発生してトラブルとなる。そのため、従来よりも低めの含水率に調整した木材を使う必要がある。
【0007】
従来の平均含水率15や20%を目標とした乾燥方法には、乾燥装置を使用する人工乾燥と使用しない天然乾燥がある。天然乾燥は、木材を桟積みして、自然に乾燥させる方法である。その進行具合は天候に左右され、長い期間が必要で、一般的に平均含水率15%が限界である。そのため、前述の過乾燥な室内環境では使用できないものであることは容易に理解される。
【0008】
人工乾燥は、各種の乾燥装置でエネルギーを投入し、天然乾燥では到達できない含水率まで乾燥するものである。しかし、平均含水率15%を目標とした場合は、内部含水率が20%以上の高いままであるため、くるうなどして入居後にトラブル発生が避けられなかった。なお、従来方法で温度や時間を過酷にして含水率を下げただけでは、内部割れ、表面割れを生じるため、新たな乾燥方法が望まれていた。
【0009】
木材の主要成分であるリグニン、ヘミセルロース及びセルロースの熱軟化温度は、湿潤状態では77〜128℃、54〜142℃及び222〜250℃とされ、80℃以上になると曲げ木加工にも見られる木材組織の軟化が起こる。従って、100℃以上で乾燥を行うことは、表面割れを防止する手法として探究されるとともに、乾燥コストを低減することを優先したことから短期間で強い乾燥を行ってきており、慎重な乾燥温度の条件設定が為されていなかった。
【先行技術文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−86407
【特許文献2】特開2008−307790
【特許文献3】特開2009−241265
【特許文献4】特開2001−116453
【特許文献5】特開2001−105409
【特許文献6】特開2008−307790
【特許文献7】特開2012−51231
【特許文献8】特開2007−22077
【0011】
【非特許文献1】吉田孝久、橋爪丈夫、武田孝志、徳本守彦、印出 晃「スギ心持ち無背割り柱材の高温乾燥における高温セットの割れ防止効果について」材料、第53巻、第4号、p364−369(2004)
【非特許文献2】徳本守彦、武田孝志、吉田孝久「スギ心持ち無背割り柱材における高温セット処理後の乾燥スケジュールが内部応力に及ぼす影響」材料、第54巻、第4号、p365−370(2005)
【非特許文献3】小田久人、蛯原啓文、迫田忠芳、藤本登留、村瀬安英「宮崎産スギ心持ち柱材の高温低湿乾燥における乾燥性」木材工業、第59巻、第6号、p255−259(2004)
【非特許文献4】吉田孝久、橋爪丈夫、中嶋 康、武田孝志「カラマツ心持ち正角材の強度特性に及ぼす高温乾燥の影響」木材工業、第54巻、第3号、p122−125(1999)
【非特許文献5】齋藤周逸、吉田孝久、河崎弥生、信田 聡、西村勝美「木造住宅の構造材に現れた含水率分布」木材工業、第57巻、第10号、p438−443(2002)
【非特許文献6】徳本守彦、帆苅謙一、武田孝志、安江 恒、吉田孝久「高温セット法で乾燥したスギおよびヒノキ心持ち柱材内のドライングセットの分布」材料、第53巻、第4号、p370−375(2004)
【非特許文献7】Goring DAI;Thermal softening of lignin,hemicellulose and cellulose.,Pulp Paper Mag.Can.,64,T517−527(1963)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
昨今の室内環境は、恒常的に過乾燥傾向にあり、平均含水率15%を目標とした乾燥材や、不十分な乾燥材を使用すると、くるい、割れなどが発生し、床鳴りやクロスのしわ、ドア開閉の不具合等のトラブルが発生している。
【0013】
本発明は、木材が抱える特異な問題を解決しようとするもので、所定の乾燥条件で内部水分を適切にして、乾燥後のくるいや乾燥過程で発生する割れの少ない乾燥材およびその乾燥方法を提供するものである。すなわち、平均含水率と内部含水率の関係から乾燥後の木材の内部含水率を推定しながら、内部の含水率を室内環境に適したものにすることで、くるいの発生を解決するもので、さらに繊維や木材の収縮を抑える所定の蒸煮、一次乾燥と二次乾燥によって適正な内部含水率に乾燥することで、割れの少ない良質な乾燥材にするものである。また穏和な処理であるため、木材本来の色や香りも残すことが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
表面割れ、内部割れが少なく、入居後もくるいの生じない柱材や梁材等の乾燥材は、蒸煮により木材を膨潤し、短時間で高温低湿な一次乾燥で表面を固定化し、二次乾燥によって緩やかに乾燥して含水率を低下することで得られる。すなわち平均含水率と内部含水率の関係を基に、蒸煮、一次乾燥、二次乾燥を順次行って、所定の内部含水率以下に低減して乾燥材を得る。
【0015】
平均含水率は、木材全体に対する平均の含水率を指す。一方、内部含水率は105mm角材では、木材の中心部分から半径3cm以内の部分、120mm角材では4cm以内の含水率を指す。105mm角材の場合、平均含水率は材長方向の中央付近から厚さ20×105×105mmの部材を採取してその重量を測定後、105℃のオーブンで48時間加熱して水分を蒸発させた後に重量を測定して、部材の乾燥前後の重量差を水分量として求める。そして、乾燥部材の重量に対する水分量の百分率を平均含水率とする。一方、内部含水率は、材長方向の中央付近から厚さ20×105×105mmの部材を採取した後、その断面中央部から半径30mmの円盤を採取し、平均含水率と同様に乾燥部材の重量に対する水分量の百分率を求め、内部含水率とする。そして、これらの平均含水率(X)と
平均含水率は、非破壊的に、木材の電気抵抗や誘電率に基づいた含水率計で測定する方法が汎用され、その含水率との関係から内部含水率を推定することとなる。
【0016】
内部含水率15%と平均含水率15%にした乾燥材を、冬季暖房室内に放置してねじれの変化を調べたところ、図2のように平均含水率15%ではねじれが大きく、プレカット工場等の受け入れ基準(1.5度/3m材長よりも小さいもの)を満たさなかった。一方で、内部含水率15%にしたものは、一般的に使用されている輸入集成材よりも小さなくるいに留まった。すなわち、居住環境に配慮して含水率を低下することが必要で、図1から明らかなように内部含水率は15%以下が良好である。
【0017】
最初に行う蒸煮は、元来は針葉樹材の乾燥の際に、針葉樹材がヤニを多く含むため、その除去を目的に乾燥の前工程としたものである。本発明では、蒸煮による高温飽和の蒸気下に曝すことで、木材中のセルロースを水膨潤して軟化し、くるいの原因となる応力を緩和するために行うものである。蒸煮温度は90℃以上が望ましく、95℃前後が良好である。なお、蒸煮の効果は、1時間あたり表面から1cm程度進行することから、10.5cm角の柱材では6時間以上が良好である。
【0018】
次に一次乾燥を行う。平均含水率が30%以下になると、結合水の蒸発が始まることで繊維の収縮が起こり、応力が発生する。従来の乾燥方法では、その乾燥時に内部と表層部との含水率に差が生じ、これは水分傾斜と呼ばれ、これが大きくなると表面割れが生じていた。これを解決するため開発されたのが高温セット法である。この方法により表面割れが抑制される理由は、表層部の固定化、内部収縮の拘束、表層部応力の逆転により為される。すなわち、温度100℃以上の低湿度で乾燥すると、材内の水分は蒸気化し、内部圧力が高まり、表面に向かって圧力が急速に高くなる。一方で、表面からの蒸発に対して内部水分の移動は遅いため、表面近くの含水率が急速に低下して内部との含水率の差が大きくなる。この時、表層部は急激な乾燥で収縮しようとするが、含水率の高い内部によって抑制されて小さな収縮に留まる。さらに、高温であることで木材の粘弾性が大きいため、引っ張られた状態で固定される。しかし、内部がある程度乾燥した後は、表層の引張り応力は圧縮応力に転じるため、表面割れが抑えられる反面、表面の拘束が強すぎる場合、内部繊維の収縮が応力を過大に発生させて内部破壊、すなわち内部割れをおこすこととなっていた。
【0019】
そこで、本発明では、内部割れの発生を抑えるため、表層部と内部との含水率に大きな差をもたらさないよう、また、木材成分の変化を抑えるため、温度や時間の影響を鋭意調査して適正な条件を見出したものである。温度(表1)は110以上120℃以下の115℃前後、時間(表2)は12時間以上24時間以内の18時間前後が良好である。すなわち、一般的な高温セット法の120℃から115℃(湿度30%)前後に低下して、時間は同じく24時間から18時間前後に短縮することが良好である。これにより、表面を固定化しつつ、穏和な乾燥により表面には更なる収縮の余地が残り、二次乾燥による応力を適正に受け入れながら内部水分の蒸発が可能となる。
【0020】
一次乾燥の温度と乾燥材の性状との関係を表1に示した。ここでは、カラマツ20cm径級の原木から、製品仕上げ寸法105mm角を想定して125mm角に製材し、これを乾燥したものである。蒸煮は95℃で10時間、一次乾燥は所定温度(湿度25〜30%)で18時間乾燥した。また、二次乾燥は温度90℃(湿度25%)で14日行った。そして、くるいは冬季暖房室内に80日放置した後に1.5度/3m材長よりも小さいねじれを○、1.5度前後でバラツキがあるものを△、1.5度以上のものを×とした。表面割れは3m×105mm×105mmの正角材1本あたりの平均面積が5cm以下を○、5以上10cm以下を△、10cm以上を×とした。内部割れは材長中央部の断面あたりの平均総長さが5mm以下を○、5mm以上15mm以下を△、15mm以上を×とした。色・香りは乾燥後に変化のないものを○、どちらかに変化が感じられるものを△、両者、もしくはいずれかが大きく変化したものを×とした。
【0021】
【表1】
【0022】
次に、一次乾燥の時間と乾燥材の性状との関係を表2に示した。なお、蒸煮は95℃で10時間、一次乾燥は乾球温度115℃(湿度30%)で所定時間乾燥した。また、二次乾燥は温度90℃(湿度25%)で14日行った。表1と同様の製材を用い、くるい、表面割れ、内部割れ、色・香りも同様に評価した。
【0023】
【表2】
【0024】
引き続き二次乾燥を行う。100℃を超える条件での乾燥は、割れの発生に加えて強度の低下をもたらす。その原因は後述するが、強固な水素結合の発生と大きな水分傾斜である。そこで、二次乾燥は90℃以上95℃(湿度25%)以下で、ゆっくりと含水率を低下させることが良好である。すなわち、前述の製材を用いて、蒸煮は95℃で10時間、一次乾燥は115℃(湿度30%)で18時間乾燥し、二次乾燥を表3では所定温度(湿度25〜30%)で14日行い、表4では温度90℃(湿度25%)で所定時間行って、くるい、表面割れ、内部割れ、色・香りを表1と同様に評価した。
【0025】
なお、木材の幅や樹種により、二次乾燥に必要となる時間は異なるが、1週間から1ヶ月間以上をかけてゆっくり乾燥しながら内部含水率を低下させるのが望ましく、105mm角材では2週間が良好である。これよりも薄い木材は1週間でも良好である。なお、所定の内部含水率には、平均含水率(X)と内部含水率(Y)の関係Y=1.6X−2.6を基に、平均含水率を測定しながら内部含水率を推定して乾燥する。本発明により、表層部と内部の含水率が均一になることで(図3)、水分傾斜が小さく、くるいや割れの発生が抑えられる。なお美観や欠損への影響から、表面割れは3m×105mm×105mmの正角材1本あたり平均面積10cm以下が望ましく、5cm以下が良好である。また、内部割れは材長中央部の断面あたりの平均総長さ15mm以下が望ましく、5mm以下が良好である。
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
一次乾燥後は表面割れの発生が抑えられることから、後日、二次乾燥を行うことも可能である。なお天然乾燥により養生することで、二次乾燥の時間や乾燥経費低減を図ることも可能である。
【0029】
最後に、乾燥過程で生じたくるいは、修正して取り除く。そのため、製材工場が保有する鉋盤や製材機を使用して仕上げ加工を行う。
【0030】
割れは、繊維の収縮によりもたらされる。自由水を有する状態では、木材や繊維あるいは水との間に水素結合ができて、水分子が木材や繊維間を橋渡しした状態となる。それが、乾燥により自由水が無い状態になると、木材や繊維同士が近づき、遂には木材や繊維間に水素結合が生じて収縮を生じ、割れを生じる。結合水が少なくなる30%以下の平均含水率から水素結合が発生するため、一次乾燥は115℃前後の温度が良好で注意しながら行う。
【0031】
強固な結合を生じた木材も、湿度の高い状態に放置されると、次第に吸湿しながら平衡含水率に近づく。なお、生材からの乾燥材と、一旦乾燥後に吸湿させた材とでは、同一の室内環境下でも平衡含水率に2〜3%程度の差が生じる。この経過に依存する現象を、水分のヒステリシスという。本発明は、内部まで低めの含水率に乾燥することで、ヒステリシスにより吸湿後も低めの含水率で安定となり、形状変化が少なく、くるいや割れの発生を低減させるものである。そのため、内部含水率は15%以下が良好である。また、くるいは過乾燥状態の空間に使用されることで内部の乾燥が引き起こり生じるもので、図3のように十分な乾燥かつ、表面と内部との含水率に差が少ない、いわゆる水分傾斜が小さくなることで、その度合いはより少なくなる。
【0032】
乾燥装置は、蒸気式乾燥装置、除湿式乾燥装置、蒸気加熱式減圧乾燥装置、高周波加熱式減圧乾燥装置、蒸気・高周波加熱式乾燥装置などが挙げられる。現在、最も普及しているのが蒸気式乾燥装置である。これは、ボイラーで発生させた蒸気を加熱管に送って室温を上げる方式で、湿度の調節は加湿管からの生蒸気噴射と、吸排気筒のダンパー開閉と吸排気用ファンの作動によって行なわれる。温湿度の調節が容易で、乾燥温度範囲が広く、生蒸気の噴射ができるので調湿処理や蒸煮処理も可能であり、所定温度を維持することが容易なことから、本発明においても適当な乾燥装置である。
【0033】
含水率の測定は含水率計を使用する。なお、含水率計には携帯型と設置型があり、携帯型で押し当て式の高周波含水率計が広く使われている。携帯型は測定深度が浅いため、水分傾斜は測定されないので注意が必要である。一方、設置型含水率計は高周波あるいはマイクロ波式で、生産ライン上における連続測定に用いられる。いずれも、平均含水率を測定するものなので、予め木材の内部から所定部分を取り出し、前述のように全乾して含水率を測定し、内部含水率と平均含水率との関係を確認しながら補正して、平均含水率計として使用することが良好である。
【0034】
その他、乾燥における桟積みには、あらかじめ乾燥した厚さ3cm程度の曲がりやくるいのない桟木や桟木パレットの使用が良好である。桟木は垂直方向(高さ方向)に積み重ね、できるだけ短い間隔で桟木を均等に配置する。また桟積みの最上段には荷重物を置き、桟積み上部から材長1mあたり1トン程度の荷重が良好である。重量物には鉄材・鋼材、コンクリートなどが良好である。
【0035】
本発明は、いずれの樹種にも可能であるが、密度が針葉樹では高く、強度に優れたカラマツが良好である。特に、樹心近くに大きな繊維傾斜を持つ樹種に有効で、グイマツ等も良好である。
【0036】
対象とする木材は、心持ちの有無にかかわらず、90、105、120、135mmの正角材や105×240mmの平角材、羽柄材等も良好である。なお、材厚さの薄いものほど一次乾燥あるいは二次乾燥の時間は、105mm角材よりも短縮でき、平均含水率と内部含水率との相関は部材寸法ごとに求めることが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、従来の乾燥法では為し得なかったくるい、内部割れ、表面割れの少ない乾燥材とその乾燥方法を提供するものである。これまでは、平均含水率を目標の含水率として乾燥したために、入居後の居住環境に適合できず、くるいや割れが生じてトラブルを引き起こしていた。本発明では、内部も適正に乾燥することで、居住環境に適合するばかりか、水分傾斜が低減することで安定な乾燥材となるものである。高断熱や高気密で冷暖房の使用が激しい昨今の居住環境等に適応できる乾燥材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0038】
カラマツ20cm径級の原木から、製品仕上げ寸法105mm角を想定して125mm角に製材した。そして、乾燥スケジュールは図1から内部含水率15%を目標に、一次乾燥は95℃で10時間の蒸煮後、乾球温度115℃(湿度30%)で18時間行った。そして、二次乾燥は乾球温度90℃(湿度25%)で、設置型含水率計を用いて平均含水率11%になるまで14日間乾燥した。修正加工した後、冬季暖房室に80日間放置したがねじれは1.5度/3m材長以内で、プレカット工場の受け入れ基準を満たし、内部割れ、表面割れや変色が少なかった。また、内部の含水率ムラも小さかった(図3:△)。
【比較例】
【0039】
カラマツ20cm径級の原木から、製品仕上げ寸法105mm角を想定して125mm角に製材した。乾燥スケジュールは平均含水率15%を目標に、一次乾燥は95℃で10時間の蒸煮後、乾球温度120℃(湿度30%)で24時間行った。二次乾燥は、乾球温度90℃(湿度25%)で設置型含水率計を用いて平均含水率15%になるまで8日間乾燥した。修正加工した後、冬季暖房室に80日間放置したが、表面と内部に含水率に大きな差があり(図3:○)、ねじれは1.5度/3m材長以上でプレカット工場の受け入れ基準を満たさなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、正角材、平角材などの構造材をはじめとした品質・性能の確かな乾燥材を提供するもので、成熟期を迎えたカラマツ、トドマツ、スギ、ヒノキといった針葉樹資源の付加価値向上と、需給の安定、それによる産業振興と資源の循環利用を推進するものである。
【図面の簡単な説明】
図1】木材の平均含水率(X)と内部含水率(Y)との関係を示した図で、Y=1.6X―2.6の相関がある。
図2】冬季暖房室内を想定した空間に放置した木材のねじれを調べた図である。破線はプレカット工場のねじれ(くるい)の受け入れ基準を示し、それを下回るものが良好である。
図3】本発明の乾燥材と従来の乾燥材との含水率分布を示した図である。120mm正角材の中央60mm周辺における表面から中心を経て反対表面まで、それぞれの位置の含水率を示す。
【符号の説明】
1・・・従来の乾燥材
2・・・輸入(ホワイトウッド)の集成材
3・・・本発明の乾燥材
図1
図2
図3