【実施例1】
【0015】
[吸着装置の構成]
図1は、実施例1に係る吸着装置の概略構成を示す断面図である。
【0016】
図1の吸着装置1は、板状の対象物Wを、搬送等のために吸着するものである。板状の対象物Wとしては、例えば、液晶パネルや半導体の基板であるガラス基板やシリコン基板等がある。ただし、対象物Wは、基板のような板状のものに限られず、他の形態のものであってもよい。
【0017】
吸着装置1は、本体部3と、複数対の電極5a,5bと、吸着部7とを備えている。
【0018】
本体部3は、電気絶縁媒体9に複数の電気レオロジー粒子11を分散させて、板状又はシート状に形成されている。
【0019】
電気絶縁媒体9は、例えば、フッ素系樹脂やシリコン樹脂等からなる。本実施例の電気絶縁媒体9は、粘着性や弾性が特に要求されない。
【0020】
電気レオロジー粒子11は、芯材11aの表面を表層11bで被覆して球状に形成されている(
図2参照)。なお、電気レオロジー粒子11は、球状に限られるものではない。芯材11aは、シリカゲルやカーボン等の固体粒子からなり、表層11bは、半導体性の無機酸化物からなっている。
【0021】
複数対の電極5a,5bは、本体部3の一側面3aに設けられている。なお、電極5a,5bの対の数は、電極5a,5bの大きさや本体部3の大きさ等に応じて適宜変更でき、少なくとも一対であればよい。
【0022】
本実施例の電極5a,5bは、本体部3に埋め込まれて取り付けられ、電極5a,5bの表面が一側面3a上に位置している。この電極5a,5bの表面は、本体部3の一側面3aに取り付けられた電気絶縁性を有するベース部13によって覆われている。なお、電極5a,5bは、本体部3の一側面3a上に位置していればよく、本体部3への取付方法は自由である。
【0023】
各対の電極5a,5bは、一側面3a上で並列に配置されている。電極5a,5bは、ベース部13を貫通する配線15によって電圧源17に接続され、スイッチ19により電圧の印加及びその解除が切り替えられる。
【0024】
吸着部7は、本体部3の他側面3b側に位置する電気レオロジー粒子11を、他側面3b上で外部に露出させて構成されている。吸着部7の電気レオロジー粒子11は、電極5a,5bを介した電圧の印加時及び非印加時の双方において、本体部3の他側面3b上で外部に露出して保持される。そして、電圧の印加時には、吸着部7の電気レオロジー粒子11が電気力によって対象物Wを吸着するようになっている。
【0025】
図2は、吸着部7の電気レオロジー粒子11を示し、
図2(A)は平面図、
図2(B)は斜視図である。
【0026】
本実施例では、吸着部7の電気レオロジー粒子11が吸着面21を有している。吸着面21は、吸着部7の電気レオロジー粒子11の一部が他側面3b上で除去されることで露出した断面からなる。この吸着面21は、本体部3の他側面3bに面一に形成されている。
【0027】
吸着面21は、電気レオロジー粒子11の芯材11aが露出した芯材領域21aと、該芯材領域21aの外周を囲む表層11bが露出した表層領域21bとからなる。吸着面21は、電圧の印加時にも本体部3の他側面3b上で外部に露出して保持され、表層領域21bで囲まれる全域により対象物Wに対する吸着力を発生する。
【0028】
図3は、吸着部7の成型工程を示す要部断面図である。なお、
図3は、各部の寸法や電気レオロジー粒子11の個数が
図1とは一致していないが、基本的に同一構成である。
【0029】
吸着部7を成型する際には、
図3(A)のように、本体部3の他側面3b側に位置する電気レオロジー粒子11の一部を、他側面3bから外部に突出させた状態としておく。この電気レオロジー粒子11の一部の突出は、電気レオロジー粒子11を電気絶縁媒体9に分散させる際に行えばよい。
【0030】
次いで、
図3(B)のように、本体部3の他側面3bから突出した電気レオロジー粒子11の一部を削って除去する。この削りは、グラインダー等による研削やフライス等による切削により行えばよい。一部が削られた電気レオロジー粒子11は、その断面が他側面3b上に露出して、他側面3bと面一の吸着面21を有することになる。
【0031】
このようにして吸着装置1の吸着部7を成型することができる。なお、電気レオロジー粒子11の一部を削る際は、本体部3の他側面3b全体の厚みを減少させるように削ってもよい。この場合は、電気絶縁媒体9の他側面3b側の表層部分が併せて削られ、吸着部7となる本体部3の他側面3bの平面度を向上することができる。また、本体部3の他側面3b全体を削る場合は、
図3(A)のように電気レオロジー粒子11の一部を本体部3の他側面3bから突出させておく必要はない。
[吸着動作]
図4は、
図1の要部を概念的に示す断面図であり、対象物Wの吸着時の電気力線を併せて示している。なお、
図4は、各部の寸法や電気レオロジー粒子11の個数が
図1とは一致していないが、基本的に同一構成である。
【0032】
本実施例の吸着装置1は、対象物Wを吸着する際に、電極5a,5bを介して電圧を印可した状態で吸着部7を対象物Wに接触又は近接させる。なお、対象物Wに吸着部7を接触又は近接させた状態で、電極5a,5bを介した電圧の印加を行ってもよい。
【0033】
このとき、吸着部7の電気レオロジー粒子11の吸着面21は、本体部3の他側面3b上での外部への露出状態が保持される。すなわち、吸着部7の電気レオロジー粒子11は、電気レオロジー効果により電気絶縁媒体9の内部に没入しようとしても、没入方向へ移動しないか或いは移動しても吸着面21の外部への露出状態が維持される。これは、電気絶縁媒体9の剛性や電気レオロジー粒子11の粒径の設定等によって実現することができる。
【0034】
こうして露出状態が維持された吸着面21には、各対の電極5a,5b間で生じる電気力線Sによって、表層領域21bで囲まれる全域に電気力に基づく対象物Wに対する吸着力が生じる。
【0035】
かかる吸着力は、マクスウェル応力によって生じていると考えられる。具体的には、対象物W及び電気レオロジー粒子11に電気力線Sによる誘電分極が生じ、対象物W及び電気レオロジー粒子11の電荷がマクスウェル応力によって引き合うと考えられる。なお、対象物Wが導体である場合は、誘電分極ではなく静電誘導が生じる。この場合も、対象物Wが誘電体のときと同様に、吸着面21の吸着力を生じさせることができる。
【0036】
こうして吸着装置1では、対象物Wを吸着部7によって吸着することができ、対象物Wの搬送等を可能とする。
【0037】
対象物Wの吸着を解除するには、各対の電極5a,5bへの電圧の印加を解除すればよい。これにより、吸着部7の電気レオロジー粒子11の吸着面21に生じていた電気力による吸着力が消失し、対象物Wの吸着を解除することができる。
[実験結果]
図5は、
図1の吸着装置1によるガラス板の吸着及び解除を示す写真であり、
図5(A)は吸着時、
図5(B)は吸着解除時である。なお、
図5の写真は、吸着装置1の吸着部7上に透明なガラス板Wを載置して、これを上方から撮影したものである。
【0038】
ガラス板Wの吸着時には、
図5(A)のように、吸着部7の電気レオロジー粒子11の吸着面21がガラス板Wを吸着し、このときのガラスWへの密着によって吸着面21が相対的に濃く見えている。
【0039】
一方、ガラス板Wの吸着解除時には、全体が
図5(A)の吸着していない部分と同様に相対的に薄く見えており、吸着部7の電気レオロジー粒子11の吸着面21にガラス板Wが吸着していないのが分かる。
[実施例1の効果]
本実施例の吸着装置1は、電気絶縁媒体9に電気レオロジー粒子11を分散させた本体部3と、本体部3の一側面3aに設けられた少なくとも一対の電極5a,5bと、本体部3の他側面3b側に位置する電気レオロジー粒子11を他側面3b上で外部に露出させて構成された吸着部7とを備える。
【0040】
吸着部7の電気レオロジー粒子11は、電極5a,5bを介した電圧の印加時及び非印加時の双方において本体部3の他側面3b上で外部に露出して保持され、電圧の印加時に電気力によって対象物Wを吸着する。
【0041】
従って、本実施例では、常に外部に露出するように保持された吸着部7の電気レオロジー粒子11が、電圧の印加時の電気力によって対象物Wを吸着し、電圧の印加解除時の電気力の消失によって対象物Wの吸着を解除(対象物Wを解放)することができる。
【0042】
このため、本実施例では、対象物Wの吸着及び解除動作が電気レオロジー粒子11を分散した電気絶縁媒体9の弾性力や粘着力等の特性に依存することがなく、対象物Wの吸着及び解除動作の確実性、円滑性、安定性、耐久性、耐環境性等を向上することができる。
【0043】
また、本実施例では、吸着部7の電気レオロジー粒子11が本体部3の他側面3b上で一部が除去されて露出する断面で構成された吸着面21を有するから、対象物Wの吸着の確実性及び安定性を更に向上することができる。
【0044】
また、吸着面21は、本体部3の他側面3bと面一に形成されている。
【0045】
従って、本実施例では、対象物Wを吸着した際に他側面3b全体が対象物Wに突き当たり、対象物Wの吸着時の安定性を向上することができる。
【0046】
また、電気レオロジー粒子11は、固体粒子の芯材11aの表面を無機酸化物の表層11bで被覆して形成されたので、吸着面21の電気力による吸着力を確実に発生させることができる。
【0047】
また、吸着面21は、芯材11aが露出した芯材領域21aと、芯材領域21aの外周を囲む表層11bが露出した表層領域21bとからなる。
【0048】
従って、本実施例では、表層領域21bで囲まれる吸着面21の全域により対象物Wに対する吸着力を発生することができ、より安定した対象物Wの吸着を行うことができる。