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特開2015-151402酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体、およびこれを用いてなる二次電池電極、二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-151402(P2015-151402A)
(43)【公開日】2015年8月24日
(54)【発明の名称】酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体、およびこれを用いてなる二次電池電極、二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20150728BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150728BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20150728BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20150728BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20150728BHJP
【FI】
   C08L23/26
   H01M4/62 Z
   H01M4/131
   C08K3/22
   H01M4/1391
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-23374(P2014-23374)
(22)【出願日】2014年2月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】樋口 恵理
(72)【発明者】
【氏名】吉永 輝政
【テーマコード(参考)】
4J002
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BB211
4J002DE056
4J002FD036
4J002GQ00
4J002HA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA11
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】 接着性や耐薬品性(耐溶剤性)、pH安定性や金属イオン混合安定性に優れた酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を提供し、また、活物質、導電助剤、金属集電体等との優れた接着性を示し、電解液に対する耐膨潤性に優れ、優れた電極スラリー安定性を示す二次電池電極用バインダーを提供することを目的とする。
【解決手段】 不飽和カルボン酸成分が0.5〜20質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、塩基性化合物としてアルカリ金属水酸化物(B)とを含有することを特徴とする酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸成分が0.5〜20質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、塩基性化合物としてアルカリ金属水酸化物(B)とを含有することを特徴とする酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項2】
アルカリ金属水酸化物(B)が水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物(B)の含有量が、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜5.0倍当量であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を用いた二次電池電極用バインダー。
【請求項5】
請求項4記載の二次電池電極用バインダーを含むスラリー。
【請求項6】
請求項5記載のスラリーを用いて形成された二次電池用電極。
【請求項7】
請求項6記載の二次電池用電極であって、マンガンおよび/またはニッケルを含む化合物を活物質として用いたことを特徴とする二次電池用正極。
【請求項8】
請求項6または7に記載の二次電池用電極を用いた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアルカリ金属水酸化物(B)を含有する酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体、およびこれを用いてなる二次電池電極、二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体は、接着性、耐薬品性に優れるため、二次電池電極用バインダーとして用いることが知られている。二次電池の代表例であるリチウムイオン二次電池は、一般に正極と負極との間にセパレーターを介して作製された電極を電解液と共に容器内に収納した構造を有する。
リチウムイオン二次電池に用いる電極は、活物質と、主に炭素材料からなる導電助剤と、バインダーからなるスラリーをアルミニウム箔や銅箔などの金属集電体上に塗布して層形成されたものであり、前記バインダーには活物質と導電助剤、さらにこれらと金属集電体との優れた接着性や、電解液に対する耐膨潤性が要求される。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極用活物質としては、従来、コバルト酸リチウムが広く用いられていたが、安定供給を図る目的や、電池の高電位化、高出力化という電池性能向上のために、近年では、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等を基本構成とするリチウム含有遷移金属酸化物が提案されている。これらの正極用活物質とバインダーを混合してスラリーを調製する際には、活物質からのリチウム溶出によりpHの上昇が生じ、凝集物の発生やスラリーの粘度上昇が起こるため、酸成分を添加してpH調整を行う必要があった(特許文献1〜3)。
また、電極形成用のスラリーに用いるバインダーには、活物質であるリチウム酸化物から溶出した金属イオンによる凝集物の発生やスラリーの増粘・固化が生じないよう金属イオンに対する混合安定性が求められるほか、前記スラリーにおいても、活物質の一部や不純物の電離によるpH上昇や金属イオンの溶出の進行に対する経時的な安定性が求められていた。しかしながら、そのような要求を満足するバインダーはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1 特開2000−106186号公報
特許文献2 特開2002−141059号公報
特許文献3 特開2011−192644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、接着性や耐薬品性(耐溶剤性)、pH安定性や金属イオン混合安定性に優れた酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を提供することを目的とする。また、本発明は、活物質、導電助剤、金属集電体等との優れた接着性を示し、電解液に対する耐膨潤性に優れ、優れた電極スラリー安定性を示す二次電池電極用バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アルカリ金属水酸化物(B)を含有させた酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体が、前記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)不飽和カルボン酸成分が0.5〜20質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、塩基性化合物としてアルカリ金属水酸化物(B)とを含有することを特徴とする酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体。
(2)アルカリ金属水酸化物(B)が水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(1)に記載の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体。
(3)アルカリ金属水酸化物(B)の含有量が、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5〜5.0倍当量であることを特徴とする(1)または(2)に記載の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を用いた二次電池電極用バインダー。
(5)(4)記載の二次電池電極用バインダーを含むスラリー。
(6)(5)記載のスラリーを用いて形成された二次電池用電極。
(7)(6)記載の二次電池用電極であって、マンガンおよび/またはニッケルを含む化合物を活物質として用いたことを特徴とする二次電池用正極。
(8)(6)または(7)に記載の二次電池用電極を用いた二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体は、pH安定性や金属イオン混合安定性に優れており、これを用いて各種基材との接着性や、耐薬品性(耐溶剤性)に優れた、接着層を形成することができる。
また、本発明の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を二次電池電極用バインダーとして用いた場合には、活物質、導電助剤、金属集電体との接着性に優れ、得られる接着層は電解液に対する耐膨潤性に優れる。さらに、本発明の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体は、金属イオン混合安定性に優れるため、リチウム酸化物を用いた活物質を使用した場合に、凝集物や増粘の生じない安定性に優れた電極スラリーを得ることができ、この電極スラリーを用いることで良好な電極を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(以下、水性分散体と略記することがある)は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とアルカリ金属水酸化物(B)を含有する。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のポリオレフィン成分は特に限定されることなく、プロピレン、エチレン、イソブチレン、2−ブテン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンや、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン化合物を重合後、二重結合に水素添加したものなどを含有していてもよく、電極用バインダーとして用いる場合には、正極での高電位による酸化を防ぐために二重結合に水素添加したものを用いるほうが好ましい。プロピレン成分は耐電解液性に特に優れ、また、エチレン成分、ブテン成分は柔軟性や接着性に特に優れるため、プロピレン成分、エチレン成分、ブテン成分のいずれか、あるいは2種以上を組み合わせて含有していることが好ましく、プロピレン成分、エチレン成分、ブテン成分の3種を含んでいることがより好ましい。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分を0.5〜20質量%含有していることが必要であり、0.5〜10質量%含有していることが好ましく、接着性と耐溶剤性、耐電解液性のバランスが良好であることから1〜8質量%含有していることが特に好ましい。不飽和カルボン酸成分の含有量が0.5質量%未満であると、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が水性媒体中で安定に分散することが困難となり、分散体が得られたとしても、塗膜の極性が低くなるために良好な接着性が得られない。一方、不飽和カルボン酸成分の含有量が20質量%を超えると、耐溶剤性や耐電解液性が低下してしまう。
【0014】
不飽和カルボン酸成分は、不飽和カルボン酸やその無水物により導入され、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂に共重合されていればよく、その形態は特に限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。なお、酸無水物を導入した場合には、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造をとる場合がある
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)には、次のような成分が25質量%を上限として含有されていてもよい。すなわち、1−オクテン、ノルボルネン類等の炭素数6を超えるアルケン類や、ジエン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン等のジエン化合物、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、一酸化炭素、二酸化硫黄などであり、これらの混合物でもよい。含有量が25質量%を超える場合は、樹脂の耐溶剤性、耐電解液性が損なわれるため好ましくない。これらの成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)に共重合されていればよく、その形態は特に限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0016】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、親水化処理して使用しても差し支えない。親水処理としては、例えば、水酸基変性処理、スルホン化処理、フッ素ガス処理、グラフト重合処理、又は放電処理等を挙げることができ、これら1 種類以上の親水化処理を実施することができる。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)に親水化処理を行うことで、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の樹脂水性分散体を二次電池電極用バインダーとして用いた電極は電解液の浸込性に優れ、電池を作製する際の生産性が良好になるばかりでなく、電極と電解液の親和性を向上させ、安定なサイクル特性を得られる。
【0017】
水酸基変性処理としては、例えば、ヒドロペルオキシ基を有する過酸化物の存在下に加熱処理することが挙げられる。
また、スルホン化処理としては、例えば、発煙硫酸、硫酸、クロロ硫酸、又は塩化スルフリルなどの溶液中に浸漬する処理、SOガスと接触させる処理、あるいは、SOガス及び/ 又はSOガス存在下で放電を作用させる処理を挙げることができる。これらの中でも、発煙硫酸によるスルホン化処理は、反応性が高く、比較的容易にスルホン化することができるため好適である。この場合、主としてスルホン酸基が導入される。
【0018】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の分子量は、特に限定されないが、質量平均分子量は10000以上であることが好ましく、10000〜150000であることがより好ましく、12000〜120000であることがさらに好ましく、15000〜100000であることが特に好ましく、20000〜90000であることが最も好ましい。質量平均分子量が10000未満の場合は、電極が脆くなり、活物質同士の接着性、活物質と集電体の接着性が低下するおそれがある。質量平均分子量が150000を超える場合は、樹脂の水性化が困難になる傾向がある。
なお、樹脂の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン樹脂を標準として求めることができる。
【0019】
次にアルカリ金属水酸化物(B)について説明する。
【0020】
アルカリ金属水酸化物(B)を用いることで、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のカルボキシル基の一部または全部が中和され、中和によって生成したアニオン間の電気反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。また、カルボキシルアニオンの対イオンがアルカリ金属イオンとなることで、金属イオン混合による水性分散体の不安定化を抑制することができる。アルカリ金属水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムが好ましく、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の粒径が小さく凝集物など存在しない良好な分散体を得ることができ、金属イオン混合安定性に優れることから水酸化リチウムが特に好ましい。
【0021】
水性分散体に添加されるアルカリ金属水酸化物(B)の他に、アンモニアまたは各種の有機アミン化合物を併せて用いてもよい。有機アミン化合物の沸点は250℃以下であることが好ましい。250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、残存する有機アミン化合物によって被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0022】
アンモニアまたは有機アミンを用いる場合の添加量は、添加するアルカリ金属水酸化物の100質量部に対して、100質量部未満であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。100質量部を超えると被膜形成時の乾燥時間が長くなったり、樹脂水性分散体が着色したりする場合があり好ましくない。
【0023】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0024】
アルカリ金属水酸化物(B)の添加量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基に対して0.5〜5.0倍当量であることが好ましく、粒子径が小さい酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体が得られ、接着性や電極抵抗値が向上するため0.5〜2.0倍当量が特に好ましい。アルカリ金属水酸化物(B)の配合量が0.5倍当量未満であると、アルカリ金属水酸化物(B)の添加効果が認められず、一方、配合量が5.0倍当量を超えると、分散性が低下し未分散物が生じるため水性分散体の安定性が低下することがある。
【0025】
次に、本発明の水性分散体について説明する。
【0026】
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とアルカリ金属水酸化物(B)を後述する方法で水性化することによって得られる。
【0027】
本発明の水性分散体における樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂層の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、樹脂水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜形成能を発現させる点で、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0028】
本発明の水性分散体は、乳化剤あるいは保護コロイド作用を有する化合物などの界面活性剤を含有しないことが好ましいが、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部以下程度の界面活性剤を含有していても差支えない。本発明の水性分散体は、これら界面活性剤を用いなくても、小粒子径で安定な水性分散体を得ることができる。界面活性剤は一般的に不揮発性であるので、被膜形成後にも樹脂被膜中に残存し、被膜を可塑化する作用を有し接着性の低下や、耐薬品性(耐溶剤性)の悪化が問題となる。また、後述の二次電池電極用バインダーとして用いる場合、界面活性剤が活物質や電極の界面に移行し、接着性の低下や耐電解液性の悪化が問題となる。また、耐溶剤性が低下するため、溶剤系の電解液では使用できないことや、電池用スラリー作製時の強いせん断により凝集物を発生しやすいという問題がある。
【0029】
本発明でいう界面活性剤としては、例えば、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0030】
本発明の水性分散体には、他の重合体の水性分散体を添加してもよい。他の重合体の水性分散体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用してもよい。他の重合体の水性分散体添加量は、特に限定されないが、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対し、他の重合体の固形分が1〜80質量部の範囲で好適に使用される。
【0031】
耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して0.01〜100質量部、好ましくは0.1〜60質量部添加することができる。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明の水性分散体には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、帯電防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を添加してもよい。また、水性分散体の安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を添加することもできる。
【0033】
本発明においては、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を水性化する場合には、水性化の際に有機溶剤を添加することが好ましい。水性化の際に用いる有機溶剤の添加量は樹脂水性分散体100質量部に対して1〜40質量部であることが好ましく、2〜30質量部がより好ましく、3〜20質量部が特に好ましい。有機溶剤の添加量が20質量部を超える場合には、後述するストリッピングにより有機溶剤の含有量を低減させることが好ましい。水性化の際に用いる有機溶剤の添加量が40質量部を超える場合は、ストリッピングの時間が長くなる等の問題を生じる。有機溶剤の添加量が1質量部未満の場合は、樹脂の水性化が困難になったり、樹脂を水性化するために系内の温度を上げたりする必要があり、樹脂の主鎖が分解して分子量が低下する恐れがある。
【0034】
有機溶剤は、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去することでその一部または全てを系外へ除去(ストリッピング)することができるが、その量は最終的には水性分散体100質量部に対して30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下が特に好ましい。有機溶剤の含有率が30質量部を超える場合には、水性化の本来の目的から外れてしまうだけでなく、水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。有機溶剤の含有率は0.01質量部(本発明の測定に使用した分析機器の検出限界)未満とすることは可能であるが、溶剤を留去する装置の減圧度を高めたり、操業時間を長くしたりなどの処置が必要となるので、生産性を考慮すると、有機溶剤の含有率は0.01質量%以上であってもよい。
【0035】
本発明において使用される有機溶剤としては、20℃における水に対する溶解性が5g/L以上のものが好ましく用いられ、さらに好ましくは10g/L以上である。溶解性が5g/L未満のものは相分離がおこるなどの安定性に問題があるので好ましくない。中でも、沸点が30〜250℃のものが好ましく、50〜200℃のものが特に好ましい。有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶剤は接着層から乾燥によって飛散することが困難であり、接着層の耐水性が悪化する場合がある。
【0036】
本発明において使用される有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられ、上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化がし易く、しかも樹脂水性媒体中から有機溶剤を除去し易いという点から、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。これらの有機溶剤は2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
本発明の水性分散体を得る方法は特に限定されないが、例えば、(1)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を有機溶剤に溶解させた後、水、アルカリ金属水酸化物(B)を加えて乳化する方法、(2)密閉できる容器に酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、アルカリ金属水酸化物(B)、水、好ましくは後述する有機溶剤を仕込み、加熱、攪拌して乳化する方法等が挙げられる。
【0038】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された水性媒体と樹脂粉末ないしは粒状物との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。
【0039】
本発明の水性分散体の数平均粒子径と体積平均粒子径は、後述する二次電池用バインダーとして用いた場合、活物質、導電助剤の分散性を高める観点、活物質同士、または活物質と導電助剤を密に結着させ、電極の内部抵抗を低下させる観点、二次電池用バインダーの保存安定性の観点から、0.001〜1μmであることが好ましい。さらには、0.001〜0.4μmが好ましく、0.001〜0.03μmが特に好ましい。粒子径が1μmを超えると、活物質や導電助剤を結着させる際に抵抗値が高くなったり、低温造膜性が著しく悪化したり、水性分散体の保存安定性が低下したりする。前述のような組成の樹脂を用いることで、粒子径の小さい水性分散体を得ることができる。水性分散体の数平均粒子径および体積平均粒子径は、微粒物質の粒子径を測定するために一般的に使用されている動的光散乱法によって測定される。
【0040】
本発明の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体は、プライマー、接着剤、塗料の各用途に好適である。
【0041】
本発明の水性分散体は、被膜形成能に優れているので、公知の成膜方法により製膜することができる。例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に接着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。加熱温度や加熱時間は、基材の特性や添加剤の種類、配合量等により適宜選択されるものであるが、通常、30℃〜基材の融点、好ましくは60℃〜基材の融点、乾燥時間は1秒〜5分程度である。なお、架橋剤を添加した場合は、樹脂と架橋剤との反応が十分進行するような条件を適宜選定すればよい。必要に応じてさらにエージング処理を行ってもよい。
【0042】
本発明の水性分散体の塗布量は、その用途に応じて適宜選択されるものであるが、乾燥後の塗布量として0.001〜100g/mの範囲であれば、均一性に優れた樹脂塗膜が得られる。接着剤として使用する際には、乾燥後の塗布量として1〜100g/mが好ましく、経済的には1〜30g/mがより好ましい。プライマーとしての使用に際しては、必ずしも高い塗布量は必要ではなく、0.001〜5g/m程度で十分な効果が得られる。経済的には、0.005〜1g/mがより好ましい。
【0043】
本発明の水性分散体は、各種の基材上に塗布し、水性媒体を除去することにより、積層体を得ることができる。適用可能な基材としては、紙、合成紙、熱可塑性樹脂、鋼板、アルミ箔、木材、織布、編布、不織布、石膏ボード、木質ボード等が挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリグリコール酸やポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル樹脂に代表される生分解性樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、PP、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、アイオノマー等のポリオレフィン樹脂、ゴム系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物が挙げられ、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、アイオノマー、PP、ゴム系樹脂が好ましく、PP、ゴム系樹脂への使用が特に好ましい。なお、ゴム系樹脂としては、ポリオレフィンゴム(ポリオレフィンエラストマー)、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、天然ゴム、スチレン−アクリロニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等が挙げられる。ポリオレフィンゴム(ポリオレフィンエラストマー)としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、およびこれらの変性体(酸変性、塩素化物)などが挙げられる。
【0045】
熱可塑性樹脂の形態としては、成形体やフィルム(シートも含むものとする。)などが挙げられる。フィルムは未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、その製法も特に限定されない。また、フィルムは、複数の層からなる積層体であってもよい。厚さも特に限定されるものではないが、通常は1〜500μmの範囲であればよい。さらに、未延伸フィルムに樹脂水性分散体を塗布した後、フィルムを延伸する、いわゆるインラインコートを行ってもよい。
【0046】
また、熱可塑性樹脂フィルムには、通常、濡れ性や接着性を向上させるためにコロナ処理が施されるが、本発明の樹脂水性分散体から得られる塗膜は上記熱可塑性樹脂フィルムの非コロナ処理面、特に接着し難い材料であるPPの非コロナ処理面への優れた接着性を有している。従って、コロナ処理の工程を省くこともできるため経済的にも有利である。
【0047】
熱可塑性樹脂フィルムには、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、酸素ガスバリア層等のガスバリアコート層が積層されていてもよい。
【0048】
接着剤として使用する場合、本発明の水性分散体をそのまま、あるいはこれに前述した架橋剤、粘着付与成分、他の重合体の水性分散体等の化合物を配合して接着剤とする。本発明の水性分散体をフィルム等に塗布・乾燥して接着剤層を形成した後、この接着剤層の上にさらに他の基材を載せ、加熱して接着する、いわゆるヒートシール接着剤としての使用形態が好適であるが、紙や布などを基材とする場合には、基材に樹脂水性分散体を塗布し、ウエットな状態で他の基材を載せ、自然乾燥、または加熱乾燥により接着することもできる。
【0049】
プライマーとして使用する場合、基材表面に本発明の水性分散体を塗布後、乾燥させて塗膜を形成させる。こうして得た塗膜上に他の材料(インキ、フィルムなど)を容易に積層することができる。
【0050】
塗料として使用する場合、本発明の水性分散体に顔料や染料を配合して塗料とする。
【0051】
さらに、本発明の水性分散体は、基材との接着性や耐電解液性にも優れ、さらには金属イオン混合安定性に優れるため、リチウム酸化物を用いた活物質を使用した場合に安定性の優れた凝集物や増粘の生じないスラリーを得られ、良好な電極を形成することができることから、二次電池電極用バインダーとして好適に用いられる。
【0052】
リチウムイオン電池は、一般に正極と負極との間にセパレーターを介して作製された電極を電解液(リチウムイオンポリマー電池の場合は、液状電解液の代わりにゲル状もしくは全固体型の電解質)と共に容器内に収納した構造を有するものである。リチウムイオン電池用電極は、活物質と、必要に応じて主に炭素材料からなる導電助剤とが、バインダーを用いてアルミニウム箔や銅箔などの金属集電体上に層形成されたものである。
【0053】
セパレーターとしては、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、ガラス繊維などが挙げられる。電解液としては、エチレンカーボネートやジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどの非水溶媒を1種類および2種類以上混合した混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウムなどの支持電解塩が添加されたものが挙げられる。
【0054】
上記セパレーターに代えて固体電解質あるいはゲル電解質を用いてもよい。固体電解質やゲル電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、イオン性液体、硫酸水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。電解質を溶解させる溶媒(電解液溶媒)も、一般的に電解液溶媒として用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;スルホラン類;アセトニトリルなどのニトリル類;イオン性液体などが挙げられる。これらは単独または二種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0055】
二次電池電極は、本発明の二次電池電極用バインダーを用いて製造したスラリーを集電体上に塗布・乾燥することにより形成することができる。集電体としては、導電性を有する物質であればよく、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅等の金属が挙げられる。集電体の厚みに特に制限はないが、通常5〜50μmの薄膜が用いられる。
【0056】
スラリーを集電体上に塗布する方法としては、例えばドクターブレードを用いる方法が挙げられる。スラリーの塗布後、水性媒体を除去する方法としては、例えば、60〜150℃、好ましくは70〜130℃で5〜120分間乾燥する方法が挙げられる。さらに、例えば、120℃で12時間減圧乾燥させてもよい。塗布、乾燥後の電極の厚みは、電極の生産性や電池特性の観点から、30〜150μmが好ましい。電極の厚みや密度を制御するために、例えばロールプレス機によってプレスすることが好ましい。
【0057】
スラリーは本発明の二次電池電極用バインダーと、電極用活物質と、必要に応じて導電助剤とを含有させることによりを調製することができる。活物質としては、リチウムイオンを可逆的に放出、吸蔵でき、電子伝導度が高い材料が好ましく、正極用活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの遷移金属酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。負極用活物質としては、例えばグラファイトなどの炭素材や、チタン酸リチウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
正極用活物質として、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、負極活物質としてチタン酸リチウムなどのリチウム酸化物を用いた場合、酸成分の添加によりpH調整をしてから用いられている。使用する酸成分は特に限定はされないが、例えば酢酸、硫酸、シュウ酸、ギ酸などの有機酸や炭酸ガス、塩酸などの無機酸などが用いられる。
【0059】
本発明の酸変性ポリオレフィン樹脂分散体を二次電池電極用バインダーとして用いた場合、金属イオン混合安定性に優れることから、上記のようなリチウム酸化物を活物質に用いた場合でも優れたスラリー安定性を有する二次電池電極用バインダーを提供することができる。
【0060】
導電助剤としては、炭素材または金属もしくはその化合物を用いることができる。炭素材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維等を挙げることができ、金属もしくはその化合物としては、ニッケル、コバルト、チタン、酸化コバルト、酸化チタン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
二次電池電極スラリー中の酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、電極用活物質と導電助剤の合計質量に対して、0.01〜8質量%であることが好ましい。樹脂(B)の含有量が8質量%を超えると、得られる電極における電気抵抗値が高くなる傾向がある。また0.01質量%未満であると、活物質と導電助剤および集電体との十分な接着性を得ることができない。
【0062】
本発明において二次電池電極用スラリーを製造する条件や方法は特に限定されず、二次電池電極用バインダーと、電極用活物質と、導電助剤とを常温もしくは適当に制御された温度で混合した後、機械的分散処理、超音波分散処理する方法等が挙げられる。その場合の混合順序については特に限定されない。
【0063】
そして、本発明の二次電池電極用スラリーは、水性分散体に加えて、他のポリマーとして、水溶性ポリマーを添加することが好ましい。水溶性ポリマーの具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸などが例示される。中でも、電極用スラリーの安定性の観点から、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体が好ましい。これらの水溶性ポリマーは、集電体、活物質および導電材料の各材料間の濡れ性を向上させるとともに、いわゆる増粘剤としての役割を担う。これによって、活物質と導電材、さらにこれらと金属集電体との接着性が向上し、得られる電池はサイクル特性に優れたものとなる。
【0064】
上記水溶性ポリマーの配合量としては、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、導電助剤及び電極用活物質の合計100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜3質量部、さらに好ましくは0.01〜1.5質量部である。上記配合量が0.01質量部未満であると、二次電池電極用スラリーの安定性や塗工性が悪化する場合があり、一方、3質量部を超えると、電池特性が悪化する場合がある。
【0065】
本発明の水性分散体を用いることにより、少量添加での優れた接着性や良好な耐電解液性、金属イオン混合安定性に優れることから優れた電極スラリー安定性を有する二次電池電極用バインダーを提供することができる。また、正極、負極いずれの電極にも適応でき、この二次電池電極用バインダーを用いることにより、特にサイクル特性に優れた二次電池電極および二次電池を提供することができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0067】
1.樹脂特性
(1)樹脂中の酸変性成分の含有量
樹脂の酸価、水酸基価をJIS K0070に記載の方法に従って測定し、その値から酸変性成分の含有量を求めた。
(2)樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d)中で、120℃にてH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を用いて求めた。
【0068】
2.酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体特性
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の固形分濃度
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
(5)酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の有機溶剤の含有率
島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−8A〔FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n−ブタノール〕を用い、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体または酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
(6)pH安定性
水性分散体5ml中にトリエチルアミン1mlを徐々に滴下し、凝集物の発生の有無で塩基性領域におけるpH安定性を評価した。凝集物が発生したpH値が高いほど塩基性領域でのpH安定性が良好であることを示し、すべてのトリエチルアミンを滴下しても凝集物が発生しないこと(表中、「無」と表示。)が最も安定性が高いことを示す。
(7)金属イオン混合安定性
水酸化リチウム水溶液(5質量%)5ml中に、水性分散体を25ml滴下し、凝集物の発生の有無で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体のリチウムイオンとの混合安定性を評価した。○:凝集物が発生しない、×:凝集物が発生する
【0069】
3.接着層特性
(8)接着性
水性分散体をアルミニウム/PETフィルム(基材層1)のアルミニウム面に乾燥後の接着層の厚みが3μmになるように塗布し、120℃で60秒間乾燥させた後で、アルミニウム/PETフィルム(基材層2)のアルミニウム面と張り合わせ、ヒートプレス機(シール圧0.3MPa)にて120℃で10秒間プレスし、積層体を得た。この積層体を15mm幅で切り出し、アルミニウムとアルミニウムの層間を、25℃の雰囲気下で引張試験機(インテスコ社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、180度剥離での剥離強度をn=5で測定することで接着層特性の接着性を評価した。
(9)耐溶剤性
PETフィルムのコロナ面に水性分散体を乾燥後の塗膜の厚みが3μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で60秒間乾燥させた。得られた塗膜を40℃のメチルエチルケトンにそれぞれ24時間浸漬し、表面を軽くふき取り重量と厚みを測定し、重量変化率、厚み変化率を算出した。
重量変化率〔%〕=((浸漬後重量〔g〕−浸漬前重量〔g〕)/浸漬前重量〔g〕)×100
厚み変化率〔%〕=((浸漬後厚み〔μm〕−浸漬前厚み〔μm〕)/浸漬前厚み〔μm〕)×100
【0070】
4.電極特性
(10)電極接着性
アルミニウム箔上に形成した電極から、幅2.5cm、長さ10cmの測定サンプルを切り出し、アルミニウム側を十分な厚みを有する鋼板に両面テープで貼り合わせた。試験サンプルの電極層側にセロハンテープ(ニチバン社製、CT−18、18mm幅)を貼り付け、その一辺から180°の方向に50mm/分の速度で引き剥がしたときの応力を測定した。なお測定は各サンプル3回実施し、その平均値を剥離強度とし電極接着性を評価した。
(11)耐電解液性
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を80℃、100℃、120℃でそれぞれ2時間ずつ徐々に温度を上げて乾燥し、500mgのシート状乾燥物を作製した。乾燥物を電解液(エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート(1/1/1 重量比))に浸漬し、60℃で2週間保存し、電解液から取り出し後、表面の電解液を軽くふき取り重量と厚みを測定し、重量変化率、厚み変化率を算出した。
重量変化率〔%〕=((電解液浸漬後重量〔g〕−電解液浸漬前重量〔g〕)/電解液浸漬前重量〔g〕)×100
厚み変化率〔%〕=((電解液浸漬後厚み〔μm〕−電解液浸漬前厚み〔μm〕)/電解液浸漬前厚み〔μm〕)×100
(12)スラリー安定性
後述の電極用スラリーの作製直後、150時間保存後の粘度をBrookfield社製、B型粘度計を用いて測定した。作製直後の粘度を100%とし、25℃で一週間保存し、保存後の粘度変化を算出した。測定は25℃で実施した。
粘度変化率〔%〕=(保存後粘度〔mPa・s〕)/作製直後粘度〔mPa・s〕)×100
(13)電極抵抗率
後述の電極用スラリーをガラス板に塗布した以外は後述の「二次電池電極の製造」と同様にして模擬電極を得た。この模擬電極の体積抵抗率をロレスタ−GP(ダイヤインスツルメンツ社製)で測定した。模擬電極の体積抵抗率が低いほど、内部抵抗が低いことを示す。つまり、電気容量が大きく、電池特性が良好であることを示す。
【0071】
5.電池特性
(14)サイクル特性
実施例12〜22、比較例11〜18は二次電池正極用電極と黒鉛電極と組み合わせて作製したコイン型電池を使用し、実施例23、24、比較例19、20は二次電池負極用電極と金属リチウムを用いて、充放電試験を行った。50℃環境下、0.75C−4.0V定電流定電圧充電後、0.75C−2.5V定電流放電を繰り返し行うことにより、サイクル特性の評価を行った。初期容量を100%とし、500サイクル後の電池容量を求め、維持率を算出した。
【0072】
(参考例1)酸変性ポリオレフィン樹脂「A−1」の製造
プロピレン−ブテン−エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、ベストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)280gを、攪拌機、冷却管、滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を165℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gのヘプタン20g溶液をそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して酸変性ポリオレフィン樹脂「A−1」を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。
【0073】
(参考例2)酸変性ポリオレフィン樹脂「A−2」の製造
不飽和カルボン酸として無水マレイン酸76.0gと、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド14.3gのヘプタン20g溶液を用いた以外は参考例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂「A−2」を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。
【0074】
(参考例3)酸変性ポリオレフィン樹脂「H−1」の製造
不飽和カルボン酸として無水マレイン酸1.5gと、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド0.3gのヘプタン20g溶液を用いた以外は参考例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂「H−1」を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。
【0075】
(参考例4)酸変性ポリオレフィン樹脂「H−2」の製造
不飽和カルボン酸として無水マレイン酸53.3gと、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド10.0gのヘプタン20g溶液を用いた以外は参考例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂「H−2」を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例1)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として「A−1」100.0g、n−プロパノール75.0g(和光純薬社製)、アルカリ金属水酸化物(B)として水酸化リチウム一水和物2.7g(和光純薬社製、「A−1」中のカルボキシル基に対して0.5倍当量分)を325gの蒸留水に溶解した水溶液をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、さらに、ロータリーエバポレーターで水性分散体中の溶剤を除去し、固形分が25%となるように水を添加して乳白色の水性分散体「E−1」を得た。
(実施例2、3)
水酸化リチウム一水和物の量を「A−1」中のカルボキシル基に対してそれぞれ1.0、2.5倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−2」、「E−3」を得た。
(実施例4〜6)
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を「A−2」に変更し、水酸化リチウム一水和物の量を「A−2」中のカルボキシル基に対してそれぞれ1.0、1.5、5.0倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−4〜E−6」を得た。
(実施例7)
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を「A−2」に変更し、塩基性化合物を水酸化ナトリウムとし、その量を「A−2」中のカルボキシル基に対して1.0倍当量分とする以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−7」を得た。
(実施例8)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として、三洋化成社製ユーメックス1001(無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂)100.0g、テトラヒドロフラン200g、アルカリ金属水酸化物(B)として水酸化リチウム一水和物2.1g(「ユーメックス1001」中のカルボキシル基に対して1.0倍当量分)を300gの蒸留水に溶解した水溶液をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、さらに、ロータリーエバポレーターで水性分散体中の溶剤を除去し、固形分が25%となるように水を添加して乳白色の水性分散体「E−8」を得た。
(実施例9)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として、アルケマ社製ボンダインTX−8030を100.0g、イソプロパノール80g、アルカリ金属水酸化物(B)として水酸化リチウム一水和物0.8g(「TX−8030」中のカルボキシル基に対して1.0倍当量分)を220gの蒸留水に溶解した水溶液をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、さらに、ロータリーエバポレーターで水性分散体中の溶剤を除去し、固形分が25%となるように水を添加して乳白色の樹脂水性分散体「E−9」を得た。
(実施例10)
塩基性化合物として、水酸化リチウム一水和物に加えて、トリエチルアミン3.9g(和光純薬社製、「A−1」中のカルボキシル基に対して0.3倍当量分)を添加したて以外は、実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−10」を得た。
(実施例11)
塩基性化合物として、水酸化リチウム一水和物に加えて、ジメチルアミノエタノール3.4g(和光純薬社製、「A−1」中のカルボキシル基に対して0.3倍当量分)を添加した以外は、実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−11」を得た。
(比較例1)
塩基性化合物として、水酸化リチウム一水和物の代わりにトリエチルアミン26.0g(「A−1」中のカルボキシル基に対して2.0倍当量分)を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−1」を得た。
(比較例2)
塩基性化合物として、水酸化リチウム一水和物の代わりにジメチルアミノエタノール22.8g(「A−1」中のカルボキシル基に対して2.0倍当量分)を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−2」を得た。
(比較例3)
塩基性化合物を用いず、1.5gの界面活性剤(ニューポールPE−75、三洋化成社製)、を用いる以外は、実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−3」を得た。
(比較例4)
水酸化リチウム一水和物の量を「A−1」中のカルボキシル基に対して0.3倍当量分に変更し、さらにトリエチルアミン2.6g(「A−1」中のカルボキシル基に対して0.2倍当量分)を用いる以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−4」を得た。
(比較例5)
水酸化リチウム一水和物の量を「A−1」中のカルボキシル基に対して0.3倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−5」を得た。
(比較例6)
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を「A−2」に変更し、水酸化リチウム一水和物の量を「A−2」中のカルボキシル基に対して0.3倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−6」を得た。
(比較例7)
水酸化リチウム一水和物の量を「A−1」中のカルボキシル基に対して7.0倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−7」を得た。
(比較例8)
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を「A−2」に変更し、水酸化リチウム一水和物の量を「A−2」中のカルボキシル基に対して7.0倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−8」を得た。
(比較例9)
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を「H−1」に変更し、水酸化リチウム一水和物の量を「H−1」中のカルボキシル基に対して1.0倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−9」を得た。
(比較例10)
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を「H−2」に変更し、水酸化リチウム一水和物の量を「H−2」中のカルボキシル基に対して1.0倍当量分に変更する以外は実施例1と同様の方法で、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「R−10」を得た。
【0078】
得られた酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−1」〜「E−11」、「R−1」〜「R−10」について、pH安定性、金属イオン混合安定性、接着層特性の接着性、耐溶剤性の評価を実施し、これらの評価結果をそれぞれ表2、3に示した。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
(実施例12)電極用スラリーと二次電池正極用電極の作製
正極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードNMC111)96部と、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)1部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬社製、セロゲンBSH−6)1部の水溶液を十分に混練しスラリー状にした。スラリーのpHが9.5となるように中和剤である硫酸を加えることで調整し、その後、二次電池電極用バインダーとして実施例1で得られた「E−1」2部を添加して、十分に混練することにより電極用スラリーを得た。
得られた電極用スラリーを厚さ18μmのアルミ箔の片面に、乾燥後の厚さが約80μmになるようフィルムアプリケーターを用いて塗布し、80℃で30分熱風乾燥させた後、さらに水分を除去するために120℃で15時間真空乾燥して、アルミ箔上に活物質層を形成して二次電池正極電極を得た。
【0082】
(実施例13〜22、比較例11〜20)
二次電池用電極用バインダー、中和剤の種類を表3に記載のものに変更した以外は、実施例12記載と同様の方法で電極用スラリーを作製し、得られた電極用スラリーを塗工、乾燥することで得られた二次電池用電極を得た。
【0083】
実施例12〜22、比較例11〜20で得られた電極用スラリーのスラリー安定性と、正極電極について電極特性である電極接着性、耐電解液性、電極抵抗値を評価し、さらに電池特性であるサイクル特性の評価を実施し、これらの結果を表4、5に示した。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
表2から明らかなように、実施例1〜11で得られた酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体は、pH安定性、金属イオン混合安定性、接着性、さらには耐溶剤性に優れるものであった。さらに、表4から明らかなように、実施例12〜22で得られた電極用スラリーは優れたスラリー安定性を示し、二次電池用電極は良好な接着性、耐電解液性、電極抵抗値を示し、優れたサイクル特性を示すものであった。
【0087】
一方、表3、5から明らかなように、比較例1、2で得られるR−1、R−2は接着性に優れるが、有機アミンのみを用いて酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体であるため、pH安定性や金属イオン混合安定性に劣っていた。この水性分散体R−1、R−2を二次電池電極用バインダーとして用いた比較例11、12は金属イオン混合安定性に劣っている水性分散体を用いているため、活物質からの金属イオン溶出によりスラリー安定性に劣り、凝集物が発生することで接着性に劣り、電池特性が劣っていた。
比較例3で得られるR−3は金属イオン混合安定性に優れるが、界面活性剤を含有するため、接着層表面に界面活性剤がブリードアウトすることにより接着性に劣り、耐溶剤性が不十分であった。この水性分散体R−3を二次電池用電極用バインダーとして用いた比較例13は電極接着性と耐電解液性に劣り、サイクル特性に劣っていた。さらに界面活性剤を用いた樹脂水性分散体は粒子系が大きく、電極抵抗も劣っていた。
比較例4で得られるR−4は、アルカリ金属水酸化物(B)である水酸化リチウムの添加量が少ないものの有機アミンを用いることで、粒子系が小さく接着性に優れているが、pH安定性や金属イオン混合安定性に劣った結果しか示さなかった。この水性分散体R−4を二次電池用電極用バインダーとして用いた比較例14はスラリー安定性に劣った結果しか示さず、凝集物の発生による接着性の低下で、電池特性に劣っていた。
比較例5、6で得られるR−5、6は、アルカリ金属水酸化物(B)が少なく、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の作製が困難であり、粒子径が大きく接着性に劣った結果しか示さなかった。これら水性分散体R−5、6を二次電池用電極用バインダーとして用いた比較例15、16は電極接着性に劣り、サイクル特性に劣っていた。また、粒子径が大きく、電極抵抗も劣っていた。さらにスラリー安定性も劣っていた。
比較例7、8で得られる水性分散体R−7、8は、アルカリ金属水酸化物(B)である水酸化リチウムの添加量が多く、酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の作製が困難であり、粒子径が大きく、接着性に劣っていた。これら水性分散体R−7、8を二次電池用電極用バインダーとして用いた比較例17、18はスラリー安定性に優れるが、電極抵抗に劣り、電極接着性、電池特性に劣っていた。
比較例9で得られるR−9は、pH安定性や金属イオン混合安定性、耐溶剤性に優れるが、樹脂中の不飽和カルボン酸成分の含有量が小さく、接着性に劣っていた。この水性分散体R−9を二次電池用電極用バインダーとして用いた比較例19は、スラリー安定性、耐電解液性に優れるが、電極接着性に劣り、電池特性に劣っていた。
比較例10で得られるR−10は、pH安定性や金属イオン混合安定性、接着性に優れるが、樹脂中の不飽和カルボン酸成分の含有量が大きく、耐溶剤性に劣っていた。この水性分散体R−10を二次電池用電極用バインダーとして用いた比較例20は、スラリー安定性に優れるが、耐電解液性に劣り、電池特性に劣っていた。