特開2015-151421(P2015-151421A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-151421ポリアミドイミドの製造方法およびポリアミドイミド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-151421(P2015-151421A)
(43)【公開日】2015年8月24日
(54)【発明の名称】ポリアミドイミドの製造方法およびポリアミドイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20150728BHJP
【FI】
   C08G73/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-24426(P2014-24426)
(22)【出願日】2014年2月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】江口 寿史朗
(72)【発明者】
【氏名】細田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA02
4J043QB15
4J043QB21
4J043QB26
4J043QB37
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043TA13
4J043TA21
4J043UA042
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA261
4J043UB011
4J043UB121
4J043UB152
4J043UB301
4J043UB401
4J043UB402
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA31
4J043ZB11
4J043ZB52
(57)【要約】
【課題】貧溶媒を含む廃液が発生しない、環境適合性が良好なPAIの簡便な製造方法、およびこの製造方法により得られるPAIを提供する。
【解決手段】トリカルボン酸、その無水物もしくはトリカルボン酸モノエステルと、ジアミンとからなる塩を、この塩の質量に対し30質量%以下の溶媒の存在下、非溶融かつ非溶液状態で加熱して重合反応せしめることを特徴とするポリアミドイミドの製造方法。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリカルボン酸、その無水物もしくはトリカルボン酸モノエステルと、ジアミンとからなる塩を、この塩の質量に対し30質量%以下の溶媒の存在下、非溶融かつ非溶液状態で加熱して重合反応せしめることを特徴とするポリアミドイミドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法で得られたポリアミドイミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド(以下、「PAI」と略記することがある)の製造方法およびPAIに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PAIの製造方法としては、イソシアネート法(例えば、特許文献1)、酸クロライド法(例えば、特許文献2)等が知られている。この中で酸クロライド法は、低温溶液重合により直線性の優れた高重合度ポリアミドイミドの重合体が得られやすく、耐熱性、力学的特性に優れるので、射出成型材料、複写機用ベルト、リチウム二次電池等の電極のバインダ等として利用されている。
【0003】
前記酸クロライド法で得られたPAIは、例えば、特開平11−49858号公報 に記載されているように、副生する塩化水素の充分な除去が困難であるため、得られたPAIに腐食性の高い塩化水素が残留するという問題があった。この問題を解決する方法として、特許文献3には、溶液状態としたトリカルボン酸もしくはその誘導体とジアミン(以下、「DA」と略記することがある)とを200℃以上の高温で反応させて、PAI溶液とし、これをアルコール等の貧溶媒中で再沈殿後、洗浄、乾燥してPAI粉体を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭50−33120号公報
【特許文献2】特公昭42−15637号公報
【特許文献3】特公昭49−4077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した溶液重合法で得られたPAI溶液から固体状のPAIを、例えば粉体として回収するに際しては、貧溶媒や洗浄液を大量に使用するため大量の廃液が発生し、環境適合性の観点から問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するものであって、環境適合性が良好なPAIの簡便な製造方法およびこの製造法により得られるPAIを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特定の重合法を用いることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は下記を趣旨とするものである。
<1> トリカルボン酸、その無水物もしくはトリカルボン酸モノエステルと、DAとからなる塩を、この塩の質量に対し30質量%以下の溶媒の存在下、非溶融かつ非溶液状態で加熱して重合反応せしめることを特徴とするPAIの製造方法。
<2> <1>記載の製造方法で得られたPAI。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPAI製造方法は、貧溶媒を含む廃液が発生しないので環境適合性に優れる。また、得られたPAIは塩化水素が残留しないので、射出用、圧縮用、押出用等の成形材料、複写機用ベルト、リチウム二次電池等の電極のバインダ等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のPAI製造方法においては、先ず、トリカルボン酸(以下、「TCA」と略記することがある)、その無水物(以下、「TCAA」と略記することがある)もしくはトリカルボン酸モノエステル(以下、「TCAE」と略記することがある)と、DAとからなる塩(以下、「モノマ塩」と略記することがある)を形成させる。
【0012】
TAとしては、例えばトリメリット酸(TMA)、3,3,4′−ベンゾフェノントリカルボン酸、2,3,4′−ジフェニルトリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸等を挙げることができる。TCAAとしては、トリメリット酸無水物(TMAA)、3,3,4′−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、2,3,4′−ジフェニルトリカルボン酸無水物、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸無水物等を挙げることができる。TCAEとしては、トリメリット酸モノメチルエステル(TMAME)、トリメリット酸モノエチルエステル、トリメリット酸モノフェニルエステル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、TMA、TMAA、TMAMEが好ましい。
【0013】
また、DAとしては、例えば、m−フェニレンジアミン(MDA)、p−フェニレンジアミン、4,4′−ジフェニルメタンジアミン(DMA)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)、ジフェニルスルホン−4,4′−ジアミン、ジフェニルー4,4′−ジアミン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)、p−キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、MDA、DADE、DMA、MXDAが好ましい。
【0014】
前記モノマ塩は、TCA、TCAAもしくはTCAEと、DAとの略等モルに、溶媒を加えて均一に混練して粉砕するか、TCA、TCAAもしくはTCAEと、DAとの略等モルを溶融混合して粉砕することにより、次の重合反応に供することができる。
【0015】
重合反応は、このモノマ塩を加熱することにより行う。この重合反応を行うに際して、モノマ塩の質量に対し、30質量%以下、好ましくは、5〜25質量%の溶媒を共存させることが、本発明では必須要件である。このようにすることにより、溶媒のモノマ塩もしくはPAIに対する可塑化効果が発現し、非溶融かつ非溶液状態で重合反応が円滑に進行する。ここで用いられる溶媒としてはアミド系溶媒、エーテル系溶媒、水等を挙げることができ、アミド系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等を用いることができ、これらの中で、NMPが好ましい。
【0016】
また、この重合反応を行うに際しては、重合触媒となるリン化合物を配合することが好ましい。リン化合物の具体例としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩(リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等)またはそのエステル(2,2−メチレンビス(ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、亜リン酸トリフェニル等)等を挙げることができる。これらの中で、亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸トリフェニルが好ましい。リン系触媒の添加量としては、モノマ塩の質量に対し、0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜2質量%がより好ましい。
【0017】
本発明では、前記のようにして得られた溶媒が共存したモノマ塩を加熱して、非溶融かつ非溶液状態で重合反応を行う。 加熱温度としては、160〜320℃の範囲が好ましく、200〜300℃がより好ましい。加熱の際の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0018】
加熱に際しては、溶媒を揮発させないように、耐圧反応器中で重合反応させることが好ましい。また、重合の際、モノマ塩や生成するPAIにブロッキングが生じないように、撹拌下で重合反応を行うことが好ましい。重合反応終了後、放圧することにより反応容器中に残留している溶媒や重合反応の副生成物である水を除去して、PAIの粉体を得ることができる。
【0019】
前記のようにして得られたPAIの粉体は、これを窒素ガス気流中や減圧下でさらに加熱することにより、固相で重合反応をさらに進め、PAIの分子量をさらに高めることができる。この際の加熱温度としては、200〜300℃が好ましい。
【0020】
重合反応に際しては、無水フタル酸やアニリン等の末端封止剤を適宜用いることにより生成するPAIの重合度を調整することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
TMAA0.1モル(19.21g)とDAM0.1モル(19.83g)の混合物に、NMP7.9gと亜リン酸トリフェニル0.2gを加え、良く混錬後、粉砕して、NMPが20質量%配合されたモノマ塩の湿潤粉体を得た。このモノマ塩を、窒素ガスで置換した、撹拌翼付き耐圧反応器中で、180℃で2時間、250℃で6時間重合反応させた。反応に際しては、モノマ塩および重合生成物であるPAIのブロッキングを防ぎつつ、熱が均一に伝わるよう、充分な撹拌をして行った。反応終了後、放圧して、冷却することにより、体積基準の平均粒径が0.5mmのPAI粉体を得た。これをさらに窒素ガス気流中、250℃で2時間処理した。得られたPAI粉体の固有粘度[η]は0.73dL/gであった。ここで、 固有粘度[η]はNMP0.5質量%溶液、30℃で測定した。また、この粉体を300℃で圧縮成形して厚み2mmの成形体を得た。 この成形品の曲げ強度は115N/mmであり、PAI成形体として充分な強度を有していた。
【0023】
[実施例2]
NMPの配合量を10質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして重合反応を行い、固有粘度[η]が0.65dL/gのPAI粉体(体積基準の平均粒径0.4mm)を得た。
【0024】
[実施例3]
DAとしてDADE0.05モル(10.01g)とMDA0.05モル(5.31g)の混合物を用い、NMPの添加量を5.18gとしたこと以外は、実施例1と同様にしてNMPが15質量%配合されたモノマ塩の湿潤粉体を得た。このモノマ塩を、窒素ガスで置換した撹拌翼付き耐圧反応器中で、160℃で2時間、230℃で6時間重合反応させた。反応に際しては、モノマ塩および重合生成物であるPAIのブロッキングを防ぎつつ、熱が均一に伝わるよう、充分な撹拌をして行った。反応終了後、放圧して、冷却することにより、体積基準の平均粒径が0.6mmのPAI粉体を得た。これをさらに窒素ガス気流中、240℃で2時間処理した。得られたPAI粉体の固有粘度[η]は0.65dL/gであった。また、この粉体を300℃で圧縮成形して厚み2mmの成形体を得た。 この成形品の曲げ強度は108N/mmであり、PAI成形体として充分な強度を有していた。
【0025】
[実施例4]
TMAAをTMAとしたこと以外は、実施例1と同様にしてNMPが20質量%配合されたモノマ塩の湿潤粉体を得た。この粉体を、実施例1と同様にして重合反応を行い、固有粘度[η]が0.59dL/gのPAI粉体(体積基準の平均粒径0.7mm)を得た。
【0026】
[実施例5]
TMAAをTMAMEとしたこと以外は、実施例1と同様にしてNMPが20質量%配合されたモノマ塩の湿潤粉体を得た。 この粉体を、実施例1と同様にして重合反応を行い、固有粘度[η]が0.59dL/gのPAI粉体(体積基準の平均粒径0.7mm)を得た。
【0027】
[比較例1]
実施例1で得たNMPが20質量%配合されたモノマ塩の粉体に更にNMP15gを加え溶液状態とした。この状態で実施例1と同様の条件で重合反応を行ったが、生成物は溶液状であり、PAIを粉体として得ることはできなかった。
【0028】
実施例で示した様に、本発明の製造法によれば、簡単なプロセスで容易に高重合度のPAIを、粉体として得ることができる。このプロセスでは、再沈殿用の貧溶媒を使用しないので、貧溶媒を含む廃液が発生せず、環境適合性に優れる。また、得られたPAI粉体は、塩化水素が残留していないので、射出用、圧縮用、押出用等の成形材料、複写機用ベルト、リチウム二次電池等の電極のバインダ等として好適に用いることができる。