【課題】硬化性樹脂を併用することなく単独で接着成分として機能させることが可能であり、無機材料と有機材料との間を接着して一体化でき、耐熱性にも優れる粘着性組成物およびこれを用いた複合材料を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトを含有することを特徴とする粘着性組成物。P(=O)(−OR
下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトを含有することを特徴とする粘着性組成物。
(化1)
P(=O)(−OR1)(−OH)2 ・・・(1)
(化2)
P(=O)(−OR1)2(−OH) ・・・(2)
ただし、R1は炭素数4〜30の脂肪族炭化水素基であり、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有する。
前記2価以上の価数の金属イオンを形成する金属が、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性組成物。
請求項1から5のいずれか1項に記載の粘着性組成物が、無機材料と有機材料との間、無機材料間、または、有機材料間に配置されて、2つの材料間を接着することにより2つの材料が一体化されてなる複合材料。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る粘着性組成物(以下、本粘着性組成物ということがある。)は、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトを含有する。
(化1)
P(=O)(−OR
1)(−OH)
2 ・・・(1)
(化2)
P(=O)(−OR
1)
2(−OH) ・・・(2)
ただし、R
1は炭素数4〜30の脂肪族炭化水素基であり、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有する。
【0017】
本粘着性組成物における、酸性リン酸エステルとしては、一般式(1)で表される化合物のみで構成されるもの、一般式(2)で表される化合物のみで構成されるもの、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の両方で構成されるものなどが挙げられる。
【0018】
本粘着性組成物における、酸性リン酸エステルと2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトとしては、一般式(1)で表される化合物と2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトのみで構成されるもの、一般式(2)で表される化合物と2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトのみで構成されるもの、一般式(1)で表される化合物と2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトおよび一般式(2)で表される化合物と2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトの両方で構成されるものなどが挙げられる。
【0019】
本発明に係る粘着性組成物は、ファンデルワールス力による物理吸着を利用して無機材料から有機材料までの広範囲の材料に対して有効に接着するように設計しており、この物理吸着の作用を有効なものとするため、被接着面に対する濡れ性に優れるよう、一定の流動性を持つこととしている。つまり、被接着面で完全に固体化しないこととしている。材料が被接着面で完全に固体化すると、材料の応力で接触面が減少し、被接着面から剥離しやすくなる。また、一定の流動性を持つことにより接着面を確保するだけでは不十分であり、接着力を高くするため、高粘度としている。よって、本発明に係る粘着性組成物は、流動性と粘性のバランスに優れるものとなっている。
【0020】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトは、分子内にリン酸塩基(極性基)と非極性基(エステル部位の炭化水素基)を併せ持つことが可能であり、極性基同士、非極性基同士が会合した層状態で存在できるため、非重合体においても、高粘性の液体とすることが可能である。そして、本発明に係る粘着性組成物においては、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを用い、そのエステル部位に特定の脂肪族炭化水素基を有することで、流動性と高い粘度を確保している。
【0021】
酸性リン酸エステルにおいて、R
1は、炭素数4〜30の脂肪族炭化水素基であり、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有する。脂肪族炭化水素基は、鎖状アルキル基または鎖状アルケニル基であり、鎖状の分子鎖同士の絡まりが生じることにより粘性が得られるものと推察する。したがって、粘性を得る観点から、芳香族炭化水素基や脂環族炭化水素基ではなく脂肪族炭化水素基としている。しかし、鎖状アルキル基がn−ブチル基、n−オクチル基などの直鎖状のアルキル基であると、アルキル基同士が配向しやすく、結晶性が高くなり、固体化しやすくなって粘性が得られなくなる。この観点から、鎖状アルキル基は1以上の分岐鎖構造を有するものとしている。一方、鎖状アルケニル基は、1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することで、直鎖状であっても結晶性が高くないため、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0022】
R
1の炭素数が4未満では、酸性リン酸エステルが無機質となる。また、酸性リン酸エステルは結晶化の傾向が強くなる。つまり、固体化しやすくなり、粘着性(粘性)がなくなる。R
1の炭素数が30超では、粘度が高くなりすぎて、流動性が確保できなくなる。R
1の炭素数としては、粘着性(粘性)などの観点から、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、R
1の炭素数としては、流動性などの観点から、より好ましくは26以下、さらに好ましくは22以下である。そして、R
1の炭素数が4以上であると、この部分が非極性化する傾向が高くなるため、例えば樹脂などの有機材料のような極性の低い材料、とりわけ、ポリエチレン・ポリプロピレン・エチレン−αオレフィン共重合体などのポリオレフィンや固形パラフィンといった極性基を含んでいないか極性基を含んでいてもその量が少ない材料の表面との親和性が高くなり、その材料表面への接着性が高まる。この観点から、R
1の炭素数としては、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。
【0023】
R
1としては、より具体的には、オレイル基、イソステアリル基、2−エチルヘキシル基、ブチルオクチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、イソベヘニル基などが挙げられる。一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との間で、R
1の種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。組成物の調製が簡便であるなどの観点からいえば、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との間で、R
1の種類は同じであるほうが好ましい。
【0024】
そして、具体的な酸性リン酸エステルとしては、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、イソブチルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ジ−ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ−イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−イソセチルアシッドホスフェイト、ジ−ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ−イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソブチルアシッドホスフェイト、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ−イソデシルアシッドホスフェイト、ジ−トリデシルアシッドホスフェイト、ジ−オレイルアシッドホスフェイト、ジ−ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−パルミチルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。これらのうちでは、粘度や粘着性などの観点から、オレイルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイトが好ましい。
【0025】
酸性リン酸エステルは、金属とのアダクトにする必要がある。金属とのアダクトにしていない酸性リン酸エステルそのものを用いた場合、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。また、アンモニアもしくはアミンとのアダクトにしても、リン酸塩基(アミン塩)の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸塩基(アミン塩)同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。
【0026】
そして、酸性リン酸エステルは、それ自体が酸性であるため、被接着材料が金属材料である場合には、腐食が生じやすい。この観点からいっても、金属とのアダクトにする必要がある。
【0027】
本粘着性組成物においては、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを含有し、所望の粘着性を有していれば、金属とのアダクトにしていない酸性リン酸エステルそのものを一部に含有していてもよい。ただし、本粘着性組成物において、酸性リン酸エステルそのものの割合が大きくなると、粘着性(粘性)の低下、腐食がしやすいものとなる、などから、酸性リン酸エステルそのものの割合は小さいほうが好ましい。
【0028】
酸性リン酸エステルそのものの割合を測る指標として、本粘着性組成物のpHを測る方法がある。酸性リン酸エステルの比率が高くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が多くなり、酸性度が高くなる(pHが下がる)。酸性リン酸エステルの比率が低くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が少なくなり、酸性度が低くなる(pHが上がる)。本粘着性組成物のpHとしては、4以上であることが好ましい。より好ましくは5.5以上である。
【0029】
また、特定の酸性リン酸エステルと金属の比率(モル比)は、酸性リン酸エステルの価数をx
−、金属の価数をy
+、酸性リン酸エステルのモル数をl、金属のモル数をm、f=l×x−m×yとしたときのfの値によって示すこともできる。f>0の範囲では、金属に対し酸性リン酸エステルが過剰であり、リン酸基(P−OH基)が残存する。f=0では、金属に対し酸性リン酸エステルが当量であり、リン酸基(P−OH基)は残存しない。また、f<0では、金属に対し酸性リン酸エステルが不足であり、リン酸基(P−OH基)が残存しない。本粘着性組成物の粘着性に優れる、pHを高くするには、f≦0であることが好ましい。
【0030】
特定の酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属は、2価以上の価数の金属イオンを形成する金属である。例えば1価の価数の金属イオンを形成する金属であると、酸性リン酸エステルのリン酸基(P−OH基)とはモル比で1:1のアダクトを形成するにすぎない。2価以上の価数の金属イオンを形成する金属であれば、酸性リン酸エステルのリン酸基(P−OH基)とはモル比で2:1以上のアダクトを形成できる。そうすると、2分子以上の酸性リン酸エステルが1つの2価以上の金属イオンを介してアダクトを形成できるため、1価の金属イオンとのアダクトよりもアダクトとしての分子量が大きくなる。粘着性組成物の耐熱性が向上する理由はこのことによるものと推察する。
【0031】
粘着性組成物の耐熱性とは、加温された条件においても所望の粘着性が維持されることであり、常温における粘着性と比較して加温された条件においても粘着性が大きく低下しないことである。加温の温度としては、常温(25℃)以上であり、例えば40℃以上、50℃以上、80℃以上などの条件を挙げることができる。80℃以上の耐熱性を有する場合には、自動車用部品としての適性に優れる。
【0032】
2価以上の価数の金属イオンを形成する金属としては、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらのうちでは、粘着力や耐水性などの観点から、Ca、Mgが好ましい。
【0033】
本粘着性組成物においては、さらに、溶剤を含有していてもよい。溶剤は、本粘着性組成物を被接着材料の表面に塗布する際の塗布性を高める、常温などの低温下での塗布性を確保する、などの観点から用いるとよい。溶剤は、本粘着性組成物を被接着材料の表面に塗布したことにより形成される塗膜にそのまま残って被膜の一部となるような不揮発性溶剤であってもよいし、塗膜から揮発して残らないで被膜の一部にならないような揮発性溶剤であってもよい。不揮発性溶剤としては、流動パラフィン(合成油)、鉱物油などが挙げられる。揮発性溶剤としては、ヘキサンやイソオクタンなどの低分子アルカン、トルエンやキシレンなどの芳香系溶剤、ベンジルアルコールやラウリルアルコールなどの比較的低極性のアルコール、テトラヒドロフラン(THF)やエチレングリコールなどのエーテル系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)やメチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン系溶剤、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、クロロホルムやジクロロエタンなどのハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらのうちでは、分散性、溶解性などの観点から、合成油、イソオクタン、トルエン、ベンジルアルコール、MEKなどが好ましい。
【0034】
以上の構成の本粘着性組成物によれば、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを含有することで、硬化性樹脂を併用することなく単独で接着成分として機能させることが可能であり、無機材料と有機材料との間を接着して一体化できる。そして、硬化性樹脂を併用することなく単独で接着成分として機能させることが可能であることから、本粘着性組成物を塗布した後、熱・光・湿気等により本粘着性組成物を硬化させる硬化処理を必要としない。また、その金属を2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とすることで耐熱性にも優れ、例えば80℃以上などの高温環境下での使用にも耐えることができ、例えば自動車用部品としての適性に優れる。
【0035】
次に、本発明に係る複合材料について説明する。
【0036】
本発明に係る複合材料は、本発明に係る粘着性組成物が、無機材料と有機材料との間、無機材料間、または、有機材料間に配置されて、2つの材料間を接着することにより2つの材料が一体化されてなるものである。
【0037】
図1には、本発明の一実施形態に係る複合材料の断面図を示している。
図1に示すように、複合材料10は、一の材料12と、他の材料16と、これらの間に配置されてこれらの材料間を接着する粘着性組成物14と、を備え、粘着性組成物14により一の材料12と他の材料16とが一体化されてなるものである。粘着性組成物14は、本発明に係る粘着性組成物からなる。一の材料12および他の材料16は、いずれも成形体である。
【0038】
一の材料12は、金属・金属酸化物などの無機化合物で成形された無機材料、有機材料の表面に金属・金属酸化物などの無機化合物よりなる層が形成された無機材料、または、樹脂(プラスチック)・ゴムなどの有機重合体(ポリマー)や固形パラフィンで成形された有機材料からなる。他の材料16は、金属・金属酸化物などの無機化合物で成形された無機材料、有機材料の表面に金属・金属酸化物などの無機化合物よりなる層が形成された無機材料、または、樹脂(プラスチック)・ゴムなどの有機重合体(ポリマー)や固形パラフィンで成形された有機材料からなる。無機材料および有機材料は、いずれも成形体である。
【0039】
無機化合物の金属としては、特に限定されるものではないが、Cu、Sn、Fe、Zn、Ni、Al、Ag、Auなどが挙げられる。無機化合物の金属酸化物としては、上記金属の酸化物や、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化カルシウムなどが挙げられる。また、無機化合物としては、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、マイカ等の含金属または含ケイ素化合物などが挙げられる。
【0040】
有機重合体(ポリマー)の樹脂(プラスチック)としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・エチレン−αオレフィン共重合体などのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。有機重合体(ポリマー)のゴムとしては、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
【0041】
一の材料12と他の材料16の組み合わせとしては、一の材料12が無機材料で他の材料16が無機材料、一の材料12が無機材料で他の材料16が有機材料、一の材料12が有機材料で他の材料16が無機材料、一の材料12が有機材料で他の材料16が有機材料、などが挙げられる。一の材料12が無機材料で他の材料16が無機材料の場合には、無機材料同士が同じ無機化合物で成形された無機材料同士であってもよいし、互いに異なる無機化合物で成形された無機材料同士であってもよい。また、一の材料12が有機材料で他の材料16が有機材料の場合には、有機材料同士が同じ有機重合体(ポリマー)や固形パラフィンで成形された有機材料同士であってもよいし、互いに異なる有機重合体(ポリマー)や固形パラフィンで成形された有機材料同士であってもよい。
【0042】
これらのうちでは、一の材料12が無機材料で他の材料16が有機材料の組み合わせや、一の材料12が有機材料で他の材料16が無機材料の組み合わせが好適である。この場合において、無機材料の無機化合物としては、金属が挙げられ、有機材料としては、樹脂(プラスチック)・ゴムなどの有機重合体(ポリマー)や固形パラフィンが挙げられる。金属としては、Cu、Sn、Fe、Zn、Ni、Al、Ag、Auなどが挙げられる。有機重合体(ポリマー)としては、本発明に係る粘着性組成物が、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを含有し、リン酸塩基(極性基)の凝集相が無機材料表面との粘着接着性を高め、非極性基(エステル部位の炭化水素基)の凝集相が有機材料表面との粘着接着性を高めることから、極性基を有していないか、有していても少量である、比較的極性の低い有機重合体(ポリマー)であることが好ましい。このような有機重合体(ポリマー)としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・エチレン−αオレフィン共重合体などのポリオレフィンや固形パラフィンなどが好適なものとして挙げられる。
【0043】
そして、一の材料12が有機材料で他の材料16が有機材料の場合には、一方の有機材料が比較的極性の高い有機重合体(ポリマー)であり、他方の有機材料が比較的極性の低い有機重合体(ポリマー)か固形パラフィンであることが好ましい。極性の高い有機重合体(ポリマー)としては、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0044】
複合材料10の具体的な例としては、電気・電子部品や小型機器の各種接合部、止水パッキン部、表面コーティング部などが挙げられる。
【0045】
複合材料10は、例えば、一の材料12と他の材料16のいずれか一方の貼り合わせ面に本発明に係る粘着性組成物を塗布した後、その粘着性組成物を挟んで一の材料12と他の材料16とを貼り合わせることにより得ることができる。また、一の材料12の表面に本発明に係る粘着性組成物を塗布した後、その粘着性組成物の表面に他の材料16の有機重合体(ポリマー)を塗布して有機重合体(ポリマー)の層を成膜することにより得ることができる。前者の形態は、本発明に係る粘着性組成物が、(予め成形された)一の材料12と(予め成形された)他の材料16の間を接着する接着剤(粘着剤)として機能するものである。後者の形態は、本発明に係る粘着性組成物が、(予め成形された)一の材料12の面上に他の材料16の有機重合体(ポリマー)を塗布成形するためのプライマーとして機能するものである。
【0046】
本発明に係る粘着性組成物は、常温下でそのまま塗布してもよいし、塗布前に適度な粘度となるように加温して塗布してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0048】
(本粘着性組成物の合成)
<合成例1> OL−Ca
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、室温で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化カルシウム6.04g(0.0815mol)を加え、懸濁液を室温のまま24時間攪拌し、水酸化カルシウムの沈殿物が無くなったことを確認した後ろ過し、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0049】
<合成例2> IS−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)50g(酸価0.159mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を5.89g(0.0795mol)とした以外は合成例1と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0050】
<合成例3> EH−Ca
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を5.67g(0.076mol)とした以外は合成例2と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0051】
<合成例4> IS−Mg
水酸化カルシウム5.89g(0.0795mol)に代えて水酸化マグネシウム4.64g(0.0795mol)を加えた以外は合成例2と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0052】
<合成例5> IS−Zn
水酸化カルシウム5.89g(0.0795mol)に代えて塩基性炭酸亜鉛8.73g(Znとして0.0795mol)を加えた以外は合成例2と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0053】
<合成例6> IS−Al
水酸化カルシウム5.89g(0.0795mol)に代えてアルミニウムイソプロポキシド10.83g(0.053mol)を加えた以外は合成例2と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0054】
<合成例7> EH−Mg
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える水酸化マグネシウムの量を4.46g(0.076mol)とした以外は合成例4と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0055】
<合成例8> EH−Zn
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える塩基性炭酸亜鉛の量を8.34g(Znとして0.076mol)とした以外は合成例5と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0056】
(比較組成物の合成)
<合成例9> OL−Li
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、50℃で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化リチウム一水塩6.84g(0.163mol)/メタノール50mL溶液を少しずつ加えた。加え終わった澄明溶液を50℃のまま30分間撹拌した後、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0057】
<合成例10> IS−Li
オレイルアシッドホスフェイトに代えてイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)50g(酸価0.159mol)とし、そこに加える水酸化リチウム一水塩を6.67g(0.159mol)とした以外は合成例9と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0058】
<合成例12> EH−Li
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える水酸化リチウム一水塩の量を6.42g(0.153mol)とした以外は合成例10と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0059】
<合成例11> IS−K
水酸化リチウム一水塩6.67g(0.159mol)に代えて水酸化カリウム8.92g(0.159mol)とした以外は合成例10と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0060】
<合成例13> MT−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてメチルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−1」、分子量119(平均)、酸価707mgKOH/g)25g(酸価0.315mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を11.67g(0.157mol)とした以外は合成例1と同様にして、目的物を得た。
【0061】
<合成例14> ST−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてn−ステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18」、分子量437(平均)、酸価228 mgKOH/g)50g(酸価0.203mol)とし、そこに加えるメタノールの量を200mLとし、水酸化カルシウムの量を7.53g(0.1015mol)とした以外は合成例1と同様にして、目的物を得た。
【0062】
<合成例15> IS−TEA
水酸化カルシウムに代えてトリエチルアミンを16.09g(0.159mol)とした以外は合成例2と同様にして、目的物を得た。
【0063】
<複合材料の作製および粘着性評価>
(実施例1〜8)
合成例1〜8の各粘着性組成物にそれぞれトルエンを添加して各2質量%トルエン溶液を調製し、いずれか1つのトルエン溶液中に各金属板(15mm×80mm×1mmt、Cu製)を浸漬してすぐに引き上げ、3時間かけて風乾することにより、
図2(a)に示すように、金属板1上に粘着性組成物2を塗布した。次いで、
図2(b)に示すように、粘着性組成物2の上に銅製パイプ3(φ6mm)をその開口端が粘着面に向くように載置し、次いで、
図2(c)に示すように、銅製パイプ3内に樹脂の溶融物を流し込んだ(接触面積28.3mm
2)。次いで、室温まで自然冷却し、銅製パイプ3内の樹脂を固化させた。これにより、複合材料を作製した。その後、金属板1を固定し、常温下(25℃)で、
図2(c)に示すように銅製パイプ3ごと、粘着面で固化した樹脂4を水平方向に引っ張ることにより、せん断引張試験を行い、このときのせん断力(N)から粘着性組成物2の25℃粘着性を評価した。また、作製した複合材料を80℃の恒温槽で2時間放置した後、80℃の環境下で同様のせん断引張試験を行い、このときのせん断力(N)から粘着性組成物2の80℃粘着性を評価した。
樹脂:ポリエチレン(PE)、シグマアルドリッチ社製「ポリエチレン Mw=〜4000」
【0064】
(実施例9〜12)
金属板の材質をCuからSnに変更した以外は実施例1〜3、5と同様にして、複合材料の作製および粘着性評価を行った。
【0065】
(比較例1〜4)
合成例1〜4の各粘着性組成物に代えて合成例9〜12の各粘着性組成物を用いた以外は実施例1〜4と同様にして、複合材料の作製および粘着性評価を行った。
【0066】
(比較例5〜6)
粘着性組成物2を塗布しないで金属板1をそのまま用いた以外は実施例1、9と同様にして、複合材料の作製および粘着性評価を行った。
【0067】
(比較例7)
金属塩にしないで、酸性リン酸エステルそのものを用いた以外は実施例2と同様にして、複合材料の作製および粘着性評価を行った。表中、ISPは、イソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)そのものを示す。
【0068】
(比較例8、9)
合成例2の粘着性組成物に代えて合成例13、14の比較組成物を用いた以外は実施例2と同様にして、複合材料の作製および粘着性評価を行った。
【0069】
(比較例10)
金属塩にしないで、酸性リン酸エステルのアミン塩(合成例15)を用いた以外は実施例2と同様にして、複合材料の作製および粘着性評価を行った。
【0070】
(比較例11)
本粘着性組成物に代えて水素化ロジン(荒川化学製「エステルガムH」、EGH)を用いた以外は実施例2と同様にして、複合材料の作製および粘着性評価を行った。
【0071】
(pHの測定)
各組成物について、pHを測定した。各組成物を約3%(w/v)の割合で純水に超音波照射により懸濁させ、その懸濁液についてガラス電極pH計にてpHの測定を行った。
【0072】
<粘弾性評価>
粘着性組成物の耐熱性に関連して、酸性リン酸エステルとしてイソステアリルアシッドホスフェイトを例に挙げ、イソステアリルアシッドホスフェイトと各金属との各アダクトについての貯蔵弾性率の温度依存性を調べた。その結果を
図3に示す。なお、貯蔵弾性率の測定は、回転式レオメータを用いて行った。測定条件は、ふり幅γ:1%、周波数:1Hzであり、合成例2(IS−Ca)、合成例4(IS−Mg)、合成例5(IS−Zn)、合成例6(IS−Al)、合成例10(IS−Li)、合成例11(IS−K)にて合成した各アダクトを用い、各サンプル0.5gを200℃から5℃/分の速さで降温させながら、その貯蔵粘弾性を測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1に示すように、実施例1〜12は、特定の酸性リン酸エステルと2価以上の価数の金属イオンを形成する金属とのアダクトを含有しており、樹脂と金属の各組み合わせの接触界面において、常温(25℃)下、加温下(80℃)のいずれでも10N以上の十分なせん断力を有し、常温(25℃)下と比べて加温下(80℃)でもせん断力の大きな低下は見られず、各粘着性組成物が粘着剤(接着剤)として十分に機能し、耐熱性も良好であることがわかる。
【0076】
これに対し、比較例1〜4では、特定の酸性リン酸エステルとアダクトを形成している金属が1価の価数の金属イオンを形成する金属であり、常温(25℃)下では十分なせん断力を有するものの、加温下(80℃)ではせん断力が大きく低下し(3N以下)、耐熱性に劣ることがわかる。そして、比較例5〜6では、本発明に係る粘着性組成物が樹脂と金属の接触界面に存在しないため、この接触界面におけるせん断力が常温(25℃)においても低い。また、比較例7では、酸性リン酸エステルそのものを用い、金属塩としていないため、極性部分同士の凝集性が低く、粘着剤としての十分な粘度を有していないため、この接触界面におけるせん断力が常温(25℃)においても低い(3N以下である)。また、比較例8では、酸性リン酸エステルのアルキル基が短すぎて、組成物が結晶化の傾向を示し、粘着性を持たないため、この接触界面におけるせん断力が常温(25℃)においても低い(3N以下である)。また、比較例9では、酸性リン酸エステルのアルキル基が分岐鎖構造あるいは炭素−炭素二重結合構造を持たないため、組成物が結晶化の傾向を示し、粘着性を持たないため、この接触界面におけるせん断力が常温(25℃)においても低い(3N以下である)。比較例10では特定の酸性リン酸エステルとアミン成分(トリエチルアミン)がアダクトを形成しているものであるが、酸性リン酸エステルのアミン塩はそれ自体の凝集力が低く、粘着性を持たないため、この接触界面におけるせん断力が常温(25℃)においても低い(3N以下である)。また、比較例11では、粘着成分である水素化ロジンが非極性成分であり、常温(25℃)において金属に対する粘着性が低い。そして、軟化点が80℃以下であり、耐熱性にも劣る。
【0077】
そして、
図3に示すように、同じアルキル鎖を持つ同じ酸性リン酸エステルでありながら、アダクトを形成する金属の種類によって高温(50〜200℃)における粘弾性に大きな違いが見られた。具体的には、アダクトを形成する金属が1価の金属イオンを形成するLi,Kであると、60℃付近からより高温になるにつれて貯蔵粘弾性の低下が著しく、100℃付近では100Paを下回る結果となった。これに対し、アダクトを形成する金属が2価以上の金属イオンを形成するCa,Mg,Zn,Alであると、60℃付近からより高温(200℃まで)になっても貯蔵粘弾性の低下は小さく、100℃付近でも10
7Pa程度の貯蔵粘弾性を示し、200℃付近でも10
6Pa程度の貯蔵粘弾性を示すことがわかった。これらの結果からも、アダクトを形成する金属が2価以上の金属イオンを形成する金属であると、その酸性リン酸エステルとのアダクトを含有する粘着性組成物の耐熱性が高いことがわかる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。