【解決手段】Feを30〜50質量%含有するCu−Fe合金の基材10と、前記基材の表面にFeを実質的に含有しない多孔質のCu層30と、を備え、前記Cu層の厚さが1〜10μmであるコネクタ端子用銅合金材料。Feを30〜50質量%含有するCu−Fe合金の基材10を用意する準備工程と、基材10を酸化雰囲気中で酸化熱処理して、基材10の表層にFe酸化層20を形成すると共に、Fe酸化層20の内側にFeが欠乏して、空孔31が形成した多孔質のCu層30を形成する酸化工程と、Fe酸化層20を除去して、基材10の表面にCu層30を露出させる除去工程と、を備えるコネクタ端子用銅合金材料の製造方法。
前記除去工程の後、前記基材表面の前記Cu層上にSnメッキ層を形成するSnメッキ工程を備える請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載のコネクタ端子用銅合金材料の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、コネクタ端子用銅合金材料として、強度などの機械的特性に優れるCuとFeとの2相合金(Cu−Fe合金)を用い、Cu−Fe合金材において、耐食性を向上させると共に、接触抵抗を低減する技術について鋭意研究を重ねた。その結果、Cu−Fe合金材を酸化雰囲気中で酸化熱処理することで、Feの優先酸化によって、基材の表層にFe酸化層が形成されると共に、Fe酸化層の内側にFeが欠乏した多孔質のCu層が形成されることを見出した。その後、Fe酸化層を除去することで、表面にFeを実質的に含有しないCu層を有するCu−Fe合金材が得られることが分かった。そして、このCu−Fe合金材は、表面にFeが存在していないため、腐食電位差に起因する耐食性の低下を抑制できると共に、表面のCu層上にメッキを施すことで、高いメッキ密着性が得られるとの知見を得た。また、表面にCu層が存在することで、接触抵抗を低減でき、更にCu層が多孔質であることから、コネクタ端子接続時にCu層が塑性変形(塑性流動)することにより接触抵抗を下げることができ、高い接続信頼性が得られるとの知見を得た。以上の知見に基づいて、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の実施態様を列記して説明する。
【0015】
(1)実施形態に係るコネクタ端子用銅合金材料は、Feを30質量%以上50質量%以下含有するCu−Fe合金の基材と、基材の表面にFeを実質的に含有しない多孔質のCu層と、を備える。
【0016】
上記コネクタ端子用銅合金材料によれば、基材がCu−Fe合金で形成され、Feの含有量が30質量%以上50質量%以下であることで、Cuの使用量を大幅に削減できつつ、導電率と強度の両方を満足することができる。また、基材の表面にFeを実質的に含有しないCu層を備えることで、腐食電位差に起因する耐食性の低下を抑制できると共に、接触抵抗を低減することができる。更に、Cu層が多孔質であることから、コネクタ端子接続時に塑性変形(塑性流動)し易く、接触抵抗をより低減することができ、接続信頼性に優れる。よって、上記コネクタ端子用銅合金材料は、Cuの使用量を削減できつつ、高い耐食性を有し、接触抵抗を低減できる。
【0017】
(2)上記コネクタ端子用銅合金材料の一形態としては、Cu層の厚さが1μm以上10μm以下であることが挙げられる。
【0018】
上記形態によれば、Cu層の厚さが1μm以上10μm以下であることで、耐食性を向上させると共に、接触抵抗を効果的に低減することができる。
【0019】
(3)上記コネクタ端子用銅合金材料の一形態としては、Cu層の空孔率が9%以上15%以下であることが挙げられる。
【0020】
上記形態によれば、Cu層の空孔率が9%以上15%以下であることで、接触抵抗をより効果的に低減することができる。
【0021】
(4)上記コネクタ端子用銅合金材料の一形態としては、基材表面のCu層上にSnメッキ層が形成されていることが挙げられる。
【0022】
上記形態によれば、基材表面のCu層上にSnメッキ層が形成されていることで、更なる耐食性の向上や接触抵抗の低減を図ることができる。また、基材表面に上記Cu層を備えることから、メッキの密着性が良好であり、Cu層上にSnメッキ層が形成されていることで、高いメッキ密着性が得られる。
【0023】
(5)実施形態に係るコネクタ端子用銅合金材料の製造方法は、以下の準備工程と、酸化工程と、除去工程と、を備える。
上記準備工程は、Feを30質量%以上50質量%以下含有するCu−Fe合金の基材を用意する。
上記酸化工程は、基材を酸化雰囲気中で酸化熱処理して、基材の表層にFe酸化層を形成すると共に、Fe酸化層の内側にFeが欠乏した多孔質のCu層を形成する。
上記除去工程は、Fe酸化層を除去して、基材の表面にCu層を露出させる。
【0024】
上記コネクタ端子用銅合金材料の製造方法によれば、Feを30質量%以上50質量%以下含有するCu−Fe合金の基材の表面にFeを実質的に含有しない多孔質のCu層を有する上記コネクタ端子用銅合金材料を製造することができる。酸化工程により、Cu−Fe合金の基材を酸化雰囲気中で酸化熱処理することで、Feの優先酸化によって、基材の表層にFe酸化層が形成されると共に、Fe酸化層の内側にFeが欠乏した多孔質のCu層が形成される。具体的には、基材の表面近傍において、Cu−Fe合金中のFe相が酸素と反応して表面側に抜け出し、実質的にFeの酸化物(酸化スケール)からなる酸化層が形成されると共に、Fe酸化層の内側ではFeが欠乏して、Feを実質的に含有しない(即ち、Cuからなる)多孔質のCu層が形成される。つまり、酸化工程により、基材の直上にCu層が形成され、そのCu層の上にFe酸化層が形成された基材が得られる。その後、除去工程により、Fe酸化層を除去することで、基材の表面にFeを実質的に含有しない多孔質のCu層を有するコネクタ端子用銅合金材料が得られる。
【0025】
(6)上記コネクタ端子用銅合金材料の製造方法の一形態としては、酸化工程において、酸化熱処理の温度を400℃以上900℃以下とすることが挙げられる。
【0026】
上記形態によれば、酸化熱処理の温度を400℃以上900℃以下とすることで、Cu層(Fe酸化層も含む)を形成し易く、Cu層の厚さを例えば1μm以上10μm以下に制御し易い。
【0027】
(7)上記コネクタ端子用銅合金材料の製造方法の一形態としては、除去工程において、酸洗によってFe酸化層を除去することが挙げられる。
【0028】
上記形態によれば、基材の表面を酸洗することで、Fe酸化層のみを容易に除去することができる。Fe酸化層を除去する方法としては、Fe酸化層を除去できればよく、酸洗といった化学的除去の他、研磨や研削といった機械的除去を採用することも可能である。機械的除去としては、例えば金属ブラシなどにより基材表面を研磨や研削して、Fe酸化層のみを除去することが挙げられる。
【0029】
(8)上記コネクタ端子用銅合金材料の製造方法の一形態としては、除去工程の後、基材表面のCu層上にSnメッキ層を形成するSnメッキ工程を備えることが挙げられる。
【0030】
上記形態によれば、基材表面のCu層上にSnメッキ層が形成されたコネクタ端子用銅合金材料を製造することができる。
【0031】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明に係るコネクタ端子用銅合金材料及びその製造方法の具体例を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
〈コネクタ端子用銅合金材料〉
コネクタ端子用銅合金材料は、Feを30質量%以上50質量%以下含有するCu−Fe合金の基材と、基材の表面にFeを実質的に含有しない多孔質のCu層と、を備える。
【0033】
(基材)
基材は、Feを30質量%以上50質量%以下含有し、残部がCu及び不可避的不純物の組成を有するCu−Fe合金で形成されている。一般に、Cu−Fe合金では、Fe含有量が多いほど強度が向上し、Cu含有量が多いほど導電率が高くなる傾向がある。Feの含有量が30質量%以上であることで、Cuの使用量を大幅に削減できつつ、高い強度が得られる。例えば、引張強度が550MPa以上、コネクタ端子のばね性(耐応力緩和性)の指標となる0.2%耐力が500MPa以上を達成できる。また、Feの含有量が50質量%以下であることで、コネクタ端子に必要な導電率(例、30%IACS以上)を確保できる。Feの含有量が40質量%以上であれば、Cu使用量の削減効果が大きい。原料に安価なスクラップ鉄を用いれば、更なる低コスト化も可能である。基材の形状は、コネクタ端子の用途に応じて、例えば線状、板状、棒状などの種々の形状を選択できる。線材としては、代表的には、断面正方形状の角線や断面矩形状の平角線、断面円形状の丸線が挙げられる。例えば角線や平角線の場合、厚さ0.5mm〜1mm程度、幅0.5mm〜1.5mm程度とすることが挙げられる。
【0034】
Cu−Fe合金は、Fe以外に、添加元素として、例えばMg,Sn,P,Si,Al及びMnから選択される少なくとも1種の元素を含有してもよい。
【0035】
上記添加元素のうち、Mg及びSnは、Cu相中に固溶し、強度や耐応力緩和性を向上させる効果が期待できる。Mg及びSnの含有量は、少な過ぎると、強度の向上効果が得られ難く、多過ぎると、導電率や曲げ加工性などが低下することから、例えば合計で0.2質量%以上2.0質量%以下とすることが挙げられる。より好ましいMg及びSnの含有量は、合計で0.4質量%以上1.2質量%以下である。
【0036】
また、上記添加元素のうち、P,Si,Al及びMnは、合金の溶解鋳造時にCu相中にFe相を微細に晶出させ、Fe相の微細化に効果がある。また、これら元素は、合金の溶解鋳造時に脱酸剤として機能することから、Cu相中に不純物として含有する酸素を低減して導電率の低下を抑制したり、合金中に巣などの欠陥が発生することによる機械的特性の低下を抑止して製造性を向上させる効果が期待できる。P,Si,Al及びMnの含有量は、少な過ぎると、製造性の向上効果が得られ難く、多過ぎると、導電率が低下することから、例えば合計で0.01質量%以上0.5質量%以下とすることが挙げられる。より好ましいP,Si,Al及びMnの含有量は、合計で0.03質量%以上0.2質量%以下である。
【0037】
(Cu層)
Cu層は、基材の表面に形成され、Feを実質的に含有しない(Feの含有量が1質量%未満、特に、0以上0.1質量%未満である)多孔質の層である。このCu層(空孔を除く)は、実質的にFeを含有せず、実質的にCu相からなり、Cuを95質量%以上、好ましくは98質量%以上含有する。Feを実質的に含有しないCu層を基材の表面に備えることで、耐食性の低下を抑制できると共に、接触抵抗を低減することができる。特に、多孔質のCu層は塑性変形(塑性流動)し易く、接触抵抗をより低減することができ、接続信頼性を向上させる。更に、基材表面にCu層を備えることで、高いメッキ密着性が得られる。
【0038】
Cu層の厚さは、例えば1μm以上10μm以下とすることが挙げられる。Cu層の厚さが1μm以上であることで、耐食性を向上させると共に、接触抵抗を効果的に低減することができる。Cu層の厚さに比例して、耐食性が向上したり、接触抵抗が下がる傾向があるが、Cu層の厚さが10μm程度あれば、耐食性の向上効果や接触抵抗の低減効果が十分得られることから、Cu層の厚さの上限は10μmとする。より好ましいCu層の厚さは、1μm以上5μm以下である。Cu層の厚さは、基材の表面近傍の断面をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により組成分析し、実質的にFeを含有せず、実質的にCu相からなる領域の厚さを測定することで求めることができる。例えば、基材(Cu層)の表面から深さ方向(角線や平角線であれば厚さ方向、丸線であれば径方向)にライン分析して、Feの含有量が1質量%未満の領域の厚さをCu層の厚さとすることが挙げられる。
【0039】
Cu層の空孔率は、例えば9%以上15%以下とすることが挙げられる。Cu層の空孔率が9%以上であることで、塑性変形性(塑性流動性)を高め、接触抵抗をより効果的に低減することができる。Cu層の空孔率に比例して、コネクタ端子接続時に塑性変形し易く、接触抵抗が下がる傾向があるが、Cu層の空孔率が大きくなり過ぎると、Cu層において空孔の割合が増え、却って接触抵抗が増大する虞もあることから、Cu層の空孔率の上限は15%とする。より好ましいCu層の空孔率は、10%以上(更に11%以上)13%以下である。Cu層の空孔率は、基材の表面近傍の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により組織観察し、画像解析によりCu層における空孔の合計面積の割合(%)を測定することで求めることができる。
【0040】
(Snメッキ層)
Snメッキ層は、Sn又はSn合金をメッキすることで形成された層であり、基材表面のCu層上に形成され、更なる耐食性の向上や接触抵抗の低減を図ることができる。Sn合金の場合、Snを80質量%以上含有することが好ましく、Snを80質量%以上含有することで、良好な耐食性、接続信頼性を発揮し易い。Snメッキ層の厚さは、例えば0.5μm以上2.5μm以下とすることが挙げられる。Snメッキ層の厚さが0.5μm以上であることで、耐食性の向上効果や接触抵抗の低減効果が得られ易い。Snメッキ層を厚くし過ぎると、メッキの形成に時間を要し、製造性の低下を招くことから、Snメッキ層の厚さの上限は2.5μmとする。
【0041】
〈コネクタ端子用銅合金材料の製造方法〉
コネクタ端子用銅合金材料の製造方法は、Cu−Fe合金の基材を用意する準備工程と、基材を酸化雰囲気中で酸化熱処理する酸化工程と、基材表面に形成されたFe酸化層を除去する除去工程と、を備える。更に、除去工程の後、基材表面のCu層上にSnメッキ層を形成するSnメッキ工程を加えてもよい。以下、上記各工程について、詳しく説明する。
【0042】
(準備工程)
準備工程は、Feを30質量%以上50質量%以下含有するCu−Fe合金の基材を用意する。基材には、Cu−Fe合金の溶湯を鋳造した鋳造材、この鋳造材を伸線加工や圧延加工した加工材(線材、板材、棒材など)を用いることができる。
【0043】
Cu−Fe合金の鋳造材を加工して基材を作製する場合、加工前の段階や加工途中の段階で、加工性を向上させるために溶体化処理を行ってもよい。溶体化処理は、温度を800℃以上950℃以下とし、時間を0.5分以上60分以下とすることが挙げられる。更に、加工後の最終段階において、マトリクスのCu相中に固溶したFeを析出させるために時効熱処理を行ってもよく、これにより、導電率を向上させることができる。時効熱処理は、温度を450℃以上600℃以下とし、時間を0.5分以上30分以下とすることが挙げられる。
【0044】
(酸化工程)
酸化工程は、上記基材を酸化雰囲気中で酸化熱処理して、基材の表層にFe酸化層を形成すると共に、Fe酸化層の内側にFeが欠乏した多孔質のCu層を形成する。つまり、酸化工程により、基材の直上にCu層が形成され、そのCu層の上にFe酸化層が形成された基材が得られる。Cu−Fe合金の基材を酸化雰囲気中で酸化熱処理することで、Feの優先酸化によって、基材の表層にFe酸化層が形成されると共に、Fe酸化層の内側にFeが欠乏した多孔質のCu層が形成される。Cu−Fe合金の基材の表層にFe酸化層及びCu層が形成されるメカニズムを、
図1を参照しつつ説明する。まず、Cu−Fe合金の基材10を酸化雰囲気中で酸化熱処理すると、基材10の表面近傍において、Cu−Fe合金中のFe原子が酸化雰囲気中のO原子と反応して表面側に抜け出し(
図1の上段の図)、Feの酸化物からなるFe酸化層20が形成される。同時に、Fe酸化層20の内側には、Feが欠乏して、実質的にFeを含有しないCu層30が形成される(
図1の中段の図)。このとき、
図1の中段の図に示すように、Feが抜け出して欠乏することによって空孔31が形成され、Cu層30は多数の微細な空孔31を有する多孔質の層となる。Cu層の空孔率は、基本的にCu−Fe合金中のFe相の量によってほぼ決まり、Fe含有量に比例して、空孔が増える傾向がある。
【0045】
酸化熱処理の温度は、例えば400℃以上900℃以下とすることが挙げられる。酸化熱処理の温度を400℃以上900℃以下とすることで、基材の表層にFe酸化層及びCu層を形成し易く、Cu層の厚さを1μm以上10μm以下に制御し易い。酸化熱処理の温度が高いほど、酸化が進行し易く、所定の厚さのCu層の形成に要する時間を短縮できる。より好ましい酸化熱処理温度は、600℃以上(更に800℃以上)900℃以下である。酸化熱処理の時間は、例えば0.5分以上60分以下とすることが挙げられる。例えば、酸化熱処理の温度を600℃以上とすれば、酸化熱処理の時間を30分以下としても、所定の厚さのCu層を形成することは十分に可能である。また、酸化雰囲気は、例えば酸素、水蒸気、空気のいずれかを含有する雰囲気とすることが挙げられる。なお、上記溶体化処理を酸化雰囲気中で行うことで、酸化熱処理を兼ねることも可能である。
【0046】
(除去工程)
除去工程は、上記Fe酸化層を除去して、上記基材の表面に上記Cu層を露出させる。これにより、基材の表面にFeを実質的に含有しない多孔質のCu層を有する銅合金材料が得られる。Fe酸化層を除去する方法としては、例えば酸洗や研磨、研削を用いることができる。酸洗には、例えば硫酸、硝酸、塩酸などの酸を単独で又は混合した酸洗液を用いることができる。
【0047】
上記各工程を備える製造方法により、Feを30質量%以上50質量%以下含有するCu−Fe合金の基材の表面にFeを実質的に含有しない多孔質のCu層を有する上記コネクタ端子用銅合金材料を製造することができる。
【0048】
(Snメッキ工程)
Snメッキ工程は、除去工程の後、上記基材表面の上記Cu層上にSnメッキ層を形成する。Snメッキ層を形成する方法としては、例えば電解メッキや無電解メッキを用いることができる。Snメッキ層の形成は、コネクタ端子に加工する前の段階、或いは、コネクタ端子に加工した後の段階のいずれであってもよい。更に、Snメッキ層を形成した後、リフロー処理してもよく、これにより、ウィスカの発生・成長を抑制できる。リフロー処理は、温度をSnメッキ層の融点以上、例えば230℃以上300℃以下とし、時間を0.2分以上10分以下とすることが挙げられる。リフロー処理の温度が高過ぎたり、時間が長過ぎたりすると、Cu層とSnメッキ層とが反応してCu−Sn合金層が形成される虞があり、これを回避するため、リフロー処理の温度は270℃以下、時間は2分以下とすることが好ましい。Cu層とSnメッキ層との間には、微小なCuとSnの合金層が形成されることがあるが、特性上問題とならない範囲である。
【0049】
ところで、Cu−Fe合金の基材の表面に上記Cu層を形成せずに、Cuを直接メッキしてCuメッキ層を形成することで、耐食性の向上や接触抵抗の低減を図ることも考えられる。しかし、Cu−Fe合金の基材の直上にCuをメッキした場合、基材表面に存在するFe相がメッキの密着性を阻害する虞がある。また、この場合、メッキ処理が必要であるため、手間とコストがかかる。更に、Cuメッキ層は、緻密で実質的に多孔質ではない(空孔率が1%未満である)ため、多孔質の上記Cu層に比較して塑性変形性(塑性流動性)が低く、接触抵抗の低減効果も小さい。
【0050】
[実施例1]
Cuに対するFeの配合量を変更して、直径φが20mmのCu−Fe合金の鋳造材を作製した。この例では、Feを20質量%,30質量%,50質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物の組成を有する3種類のCu−Fe合金をそれぞれ、試料No.1−1(Cu−20Fe),No.1−2(Cu−30Fe),No.1−3(Cu−50Fe)とした。作製した各試料の鋳造材を複数回に分けて伸線加工して、厚さ0.5mm×幅0.5mmの角線に加工し、各試料のCu−Fe合金の基材を作製した。また、各試料の鋳造材を加工する際、加工途中に酸化雰囲気中で850℃×1時間の溶体化処理(酸化熱処理)を実施し、基材の表層にFe酸化層及びCu層を形成した。その後、各試料のCu−Fe合金の基材を酸洗液に浸漬して酸洗し、基材表面に形成されたFe酸化層(酸化スケール)を除去して、基材表面にCu層を有する各試料のコネクタ端子用銅合金材料を作製した。酸洗条件は、酸洗液に濃度5質量%の硫酸水溶液を用い、酸洗液の温度を20℃、酸洗時間(浸漬時間)は30秒とした。
【0051】
作製した各試料のコネクタ端子用銅合金材料(0.5mm角の角線)について、基材の表面近傍の横断面(線の長手方向に直交する断面)をEDX付きSEMにより観察したところ、いずれも基材表面に純度99質量%以上の純Cuで形成された多孔質のCu層が形成されていた。試料No.1−3(Cu−50Fe)のコネクタ端子用銅合金材料のSEMによる断面顕微鏡写真を
図2に示す。つまり、Cu層は、Feが欠乏しており、実質的にFeを含有していない。また、各試料について、Cu層の厚さ及び空孔率を測定した。Cu層の厚さは、基材(Cu層)の表面から深さ方向にライン分析し、Feの含有量が1質量%未満の領域の厚さを測定して求めた。具体的には、4000倍で3視野(1視野:38μm×30μm)観察し、1視野につき5点分析して、その平均値を求めた。Cu層の空孔率は、4000倍で3視野(1視野:38μm×30μm)観察し、画像解析により各視野内のCu層における空孔の合計面積の割合を測定して、その平均値を求めた。また、空孔の数も測定し、空孔の平均面積(空孔の合計面積/空孔の数)も併せて算出した。その結果を表1に示す。
【0053】
(材料特性)
次に、各試料のコネクタ端子用銅合金材料について、材料特性を評価した。材料特性の評価は、機械的特性(引張強さ及び0.2%耐力)、並びに導電率を評価した。引張強さ及び0.2%耐力の測定は、JIS Z 2241:2011「金属材料引張試験方法」に準じて行い、導電率の測定は、JIS H 0505:1975「非鉄金属材料の体積抵抗率及び導電率測定方法」に準じて行った。その結果を表2に示す。
【0054】
比較として、Znを30質量%含有するCu−Zn合金(黄銅)からなる0.5mm角の角線を用意し、これを試料No.100(Cu−30Zn)のコネクタ端子用銅合金材料とした。この試料No.100のコネクタ端子用銅合金材料についても、上記試料No.1−1〜No.1−3と同様にして、機械的特性(引張強さ及び0.2%耐力)、並びに導電率を評価した。その結果を表2に併せて示す。
【0056】
表2に示すように、試料No.1−1〜No.1−3のコネクタ端子用銅合金材料は、試料No.100と同等以上の機械的特性(引張強さ及び0.2%耐力)と導電率を有しており、優れた強度と高い導電率を兼ね備えることが分かる。中でも、試料No.1−2,No.1−3は、Cuの使用量を削減できつつ、特に、引張強度が550MPa以上、0.2%耐力が500MPa以上であることから、コネクタ端子として、優れた強度と高いばね性(耐応力緩和性)を発揮できる。
【0057】
(メッキ密着性)
上記試料No.1−1〜No.1−3のコネクタ端子用銅合金材料に対し、基材表面のCu層上にSnを電解メッキした後、260℃×30秒のリフロー処理して、厚さ1μmのSnメッキ層を形成した。そして、各試料のコネクタ端子用銅合金材料について、0.5mmのRで90°曲げる曲げ試験を行い、曲げ部の縦断面(線の長手方向に平行な断面)をSEMにより観察し、メッキ密着性を評価した。メッキ密着性の評価は、Snメッキ層の亀裂又は剥離の有無で判断した。その結果、試料No.1−1〜No.1−3のコネクタ端子用銅合金材料は、Snメッキ層の亀裂及び剥離が認められず、高いメッキ密着性を有していた。
【0058】
また、非酸化雰囲気中で溶体化処理を行って、Cu層を形成しなかった以外は、上記試料No.1−2及びNo.1−3と同様にして、試料No.102及びNo.103のコネクタ端子用銅合金材料(0.5mm角の角線)を作製した(試料No.102:Cu−30Fe、No.103:Cu−50Fe)。作製した各試料のコネクタ端子用銅合金材料について、基材の表面近傍の横断面をEDX付きSEMにより観察したところ、基材表面にCu層が形成されていなかった。更に、上記試料No.1−2やNo.1−3と同様にして、試料No.102及びNo.103のコネクタ端子用銅合金材料に対し、基材表面に厚さ1μmのSnメッキ層を形成した。そして、これら各試料のコネクタ端子用銅合金材料についても、上記試料No.1−2やNo.1−3と同様の曲げ試験を実施し、メッキ密着性を評価した。その結果、試料No.102及びNo.103のコネクタ端子用銅合金材料では、Snメッキ層の剥離が一部に認められ、上記試料No.1−2及びNo.1−3に比較してメッキ密着性が劣っていた。これは、Cu−Fe合金の基材表面にCu層を形成せずに、Snを直接メッキしてSnメッキ層を形成した場合、基材表面に存在するFe相がSnメッキ層の密着性を阻害することが原因と考えられる。
【0059】
(耐食性)
上記Snメッキ層を形成した試料No.1−1〜No.1−3のコネクタ端子用銅合金材料について、35℃で100時間、濃度5質量%の塩化ナトリウム水容液を噴霧する塩水噴霧試験を行い、試験前後の質量差から腐食減量を測定し、耐食性を評価した。その結果を表3に示す。
【0060】
比較として、上記試料No.100(Cu−30Zn)のコネクタ端子用銅合金材料に対し、上記試料No.1−1〜No.1−3と同様にして、基材表面に厚さ1μmのSnメッキ層を形成した。そして、Snメッキ層を形成した試料No.100のコネクタ端子用銅合金材料についても、上記塩水噴霧試験を実施し、耐食性を評価した。その結果を表3に併せて示す。
【0061】
また、非酸化雰囲気中で溶体化処理を行って、Cu層を形成しなかった以外は、上記試料No.1−1〜No.1−3と同様にして、試料No.101〜No.103のコネクタ端子用銅合金材料(0.5mm角の角線)を作製した。作製した各試料のコネクタ端子用銅合金材料について、基材の表面近傍の横断面をEDX付きSEMにより観察したところ、基材表面にCu層が形成されていなかった。更に、試料No.101〜No.103のコネクタ端子用銅合金材料に対し、上記試料No.1−1〜No.1−3と同様にして、基材表面に厚さ1μmのSnメッキ層を形成した。そして、Snメッキ層を形成した各試料のコネクタ端子用銅合金材料についても、上記塩水噴霧試験を実施し、耐食性を評価した。その結果を表3に併せて示す。
【0063】
表3に示すように、試料No.1−1〜No.1−3のコネクタ端子用銅合金材料は、腐食減量が0.10mg/mm
2未満であり、試料No.100と同等程度以上の耐食性を有することが分かる。また、試料No.1−1〜No.1−3と試料No.101〜No.103との基材が同じ組成同士の比較から、基材表面にCu層を有する試料No.1−1〜No.1−3の方が、Cu層を有しない試料No.101〜No.103に比して、高い耐食性を有することが分かる。試料No.102やNo.103の耐食性が試料No.1−2やNo.1−3より低下した理由は、上述したように、試料No.102やNo.103ではSnメッキ層の密着性が低下したことによるところが大きいと考えられる。
【0064】
(接触抵抗)
上述の試料No.1−1〜No.1−3と同じ組成のCu−Fe合金の鋳造材(直径φ20mm)を複数回に分けて圧延加工して、厚さ0.5mmの平板に加工し、試料No.1−11〜No.1−13のCu−Fe合金の基材を作製した。また、上述の試料No.1−1〜No.1−3と同じように、加工途中に酸化雰囲気中で850℃×1時間の溶体化処理(酸化熱処理)を実施すると共に、酸洗によって基材表面に形成されたFe酸化層(酸化スケール)を除去した。
【0065】
作製した各試料のコネクタ端子用銅合金材料(0.5mm厚の平板)について、基材の表面近傍の横断面をEDX付きSEMにより観察したところ、いずれも基材表面に純度99質量%以上の純Cuで形成された多孔質のCu層が形成されていた。また、各試料について、Cu層の厚さ及び空孔率を測定したところ、表1に示す結果と同等であった。
【0066】
各試料のコネクタ端子用銅合金材料(0.5mm厚の平板)を加工して、接触抵抗を測定するための試験片を作製した。試験片は、一般的なコネクタ端子対のモデルとなるように、一方を20mm四方の平板とし、他方を10mm四方の平板に頂部の曲率半径が1mmの凸部(エンボス)を形成したエンボス板とした。また、試験片の平板及びエンボス板には、上述の試料No.1−1〜No.1−3と同様にして、基材表面のCu層上に厚さ1μmのSnメッキ層を形成した。そして、この試験片を用いて、各試料の接触抵抗を評価した。具体的には、
図3に示すように、一方の平板110を水平に保持し、エンボス121の頂部が平板110の表面に接触するように平板110の上にエンボス板120を重ね合わせ、鉛直方向から接触荷重を負荷した状態で、四端子法によって接触抵抗を測定した。
【0067】
接触抵抗の評価は、各試料について、試験片(平板及びエンボス板)のセットを作製し、接触荷重を0から40Nまで負荷した後、接触荷重を0まで除荷する操作を行い、接触荷重に対する接触抵抗の変化を調べた。そして、各試料について、接触荷重を5Nまで負荷したときに測定した接触抵抗と、5Nまで除荷したときに測定した接触抵抗との平均値を求め、これを5N負荷時の接触抵抗とした。各試料について、上記操作を5回繰り返し行い、各操作での5N負荷時の接触抵抗を求め、その平均値を求めた。その結果を表4に示す。なお、5Nは、一般的なコネクタ端子接続時に負荷される想定荷重である。
【0068】
比較として、上記試料No.100と同じ組成のCu−Zn合金からなる0.5mm厚の平板を用意し、これを試料No.110(Cu−30Zn)のコネクタ端子用銅合金材料とした。そして、この試料No.110のコネクタ端子用銅合金材料についても、上記試料No.1−11〜No.1−13と同じように、Snメッキを施した試験片を作製して接触抵抗を評価した。その結果を表4に併せて示す。
【0069】
また、非酸化雰囲気中で溶体化処理を行って、Cu層を形成しなかった以外は、上記試料No.1−11〜No.1−13と同様にして、試料No.111〜No.113のコネクタ端子用銅合金材料(0.5mm厚の平板)を作製した。そして、作製した各試料のコネクタ端子用銅合金材料について、上記試料No.1−11〜No.1−13と同じように、Snメッキを施した試験片を作製して接触抵抗を評価した。その結果を表4に併せて示す。
【0070】
更に、上記試料No.113のコネクタ端子用銅合金材料(0.5mm厚の平板)に対し、基材の表面にCuを電解メッキして厚さ10μmのCuメッキ層を形成することにより、試料No.123のコネクタ端子用銅合金材料を作製した。作製した試料No.123のコネクタ端子用銅合金材料について、基材の表面近傍の横断面をEDX付きSEMにより観察したところ、Cuメッキ層は、空孔率が1%未満の緻密な層であった。そして、基材表面にCuメッキ層を形成した試料No.123のコネクタ端子用銅合金材料についても、上記試料No.1−11〜No.1−13と同じように、Snメッキを施した試験片を作製して接触抵抗を評価した。その結果を表4に併せて示す。
【0072】
表4に示すように、試料No.1−11〜No.1−13のコネクタ端子用銅合金材料は、接触抵抗が0.9mΩ未満であり、試料No.110と比較して接触抵抗が低いことが分かる。また、試料No.1−11〜No.1−13と試料No.111〜No.113との基材が同じ組成同士の比較から、基材表面にCu層を有する試料No.1−11〜No.1−13の方が、Cu層を有しない試料No.111〜No.113に比して、接触抵抗を低減できていることが分かる。更に、試料No.1−13と試料No.123との比較から、多孔質のCu層の方が、緻密なCuメッキ層よりも接触抵抗の低減効果が大きいことが分かる。