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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-152052(P2015-152052A)
(43)【公開日】2015年8月24日
(54)【発明の名称】油圧緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20150728BHJP
   F16F 9/44 20060101ALI20150728BHJP
【FI】
   F16F9/32 L
   F16F9/32 C
   F16F9/32 J
   F16F9/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-24750(P2014-24750)
(22)【出願日】2014年2月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA46
3J069AA64
3J069CC10
3J069CC13
3J069EE27
3J069EE41
3J069EE73
(57)【要約】
【課題】減衰力の発生において減衰力不足を生じさせず、減衰力発生時の応答性を向上させる油圧緩衝器を提供する。
【解決手段】圧側減衰力発生部250と伸側減衰力発生部260との間から作動油Kの一部を流入出させて、作動油Kに発生する温度膨張を吸収する圧力調整用油溜室132を有する温度補償手段Qとを備えた油圧緩衝器であって、油圧緩衝器の動作における圧側行程及び伸側行程において圧力調整用油溜室132方向に流入する作動油Kの圧力に基づき、圧力調整用油溜室132方向に流入する作動油Kの流量を圧側行程及び伸側行程以外のピストン40の非動作時における作動油流出時よりも少量に制限する作動油流量制御手段Zをさらに備えた。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと、
前記車体側チューブと互いに摺動自在に嵌合する車軸側チューブと、
前記車軸側チューブの底部から立設された円筒状のシリンダチューブと、
前記シリンダチューブに設けられ、前記車軸側チューブの内周と液密状態で密着し、車軸側チューブの内部空間の車体側を空気室、車軸側を作動油室となるように区画する区画部材と、
前記車体側チューブと前記車軸側チューブの摺動動作において前記車体側チューブとともに移動可能に設けられ、前記シリンダチューブ内を前記作動油室の車体側を伸側油室、車軸側を圧側油室に区画するピストンと、
前記ピストンに取り付けられ、前記シリンダチューブの軸線方向に沿ってシリンダチューブの内外に移動可能に設けられたロッドと、
内周側が外気と連通するように前記車軸側チューブの底部から立設され、前記ピストンから前記車軸側チューブの底部に向けて延長する前記ロッドの外周を液密状態でガイドする円筒状のガイドチューブと、
前記車軸側チューブの内周とシリンダチューブの外周との間に形成された空間と前記伸側油室とに連通して作動油の相互の流通を許容する流通孔と、
前記圧側油室と前記伸側油室との間の作動油の流通を可能にする油室間流路と、
前記作動油室の外部に設けられ、前記油室間流路を流れる作動油に抵抗を生じさせて減衰力を発生させる圧側減衰力発生部及び伸側減衰力発生部が流れ方向に沿って直列に設けられた減衰力発生装置と、
前記圧側減衰力発生部と前記伸側減衰力発生部との間から作動油の一部を流入出させて、作動油に発生する温度膨張を吸収する圧力調整用油溜室を有する温度補償手段と、を備えた油圧緩衝器であって、
前記油圧緩衝器の動作における圧側行程及び伸側行程において前記圧力調整用油溜室方向に流入する作動油の圧力に基づき、前記圧力調整用油溜室方向に流入する作動油の流量を圧側行程及び伸側行程以外のピストンの非動作時における作動油流入時よりも少量に制限する作動油流量制御手段をさらに備えたことを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
前記作動油流量制御手段は、前記減衰力発生装置側と前記圧力調整用油溜室との間を連通する戻り流路と、
前記戻り流路より開口量が小さい圧力抑制流路と、
前記圧力抑制流路を開口するとともに、前記戻り流路を閉塞するチェックバルブ機構と、を有する流路切替装置により構成したことを特徴とする請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
前記戻り流路は、前記ピストンの非動作時に、前記圧力調整用油溜室からの作動油の流出圧力により開口することを特徴とする請求項2に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
前記圧力抑制流路は、前記戻り流路の開口時に閉塞されることを特徴とする請求項3に記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
前記減衰力発生装置は、
前記圧側減衰力発生部と前記伸側減衰力発生部との間に、
圧側行程において圧側油室流路側から伸側油室流路方向に流れる作動油と伸側行程において伸側油室流路側から圧側油室流路側方向に流れる作動油とが通過する中間室を有し、
前記戻り流路及び前記圧力抑制流路の一端が前記中間室側と連通することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の油圧緩衝器。
【請求項6】
前記チェックバルブ機構により開閉される前記圧力抑制流路の開口量は、前記減衰力発生装置内の作動油の温度上昇により膨張した分の作動油が前記中間室側より前記圧力調整用油溜室方向に流れることを許容するだけの開口量に設定されることを特徴とする請求項5に記載の油圧緩衝器。
【請求項7】
前記温度補償手段の圧力調整用油溜室は、作動油の案内管を介して中間室に接続され、前記案内管の作動油流路内にチェックバルブ機構を設けたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の油圧緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧緩衝器に関し、特に、減衰力発生時の応答性を良好にした油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車の油圧緩衝器には、特許文献1で開示されるように、シリンダ内に挿入したピストンロッドにピストンを取り付けて緩衝本体を構成し、ピストンによって区画された圧側油室と伸側油室との間を作動油が減衰力発生部位に流通可能なように構成されている油圧緩衝器がある。
この減衰力発生装置は、圧側行程で圧側油室から伸側油室へ、伸側行程で伸側油室から圧側油室へ移動する作動油に、減衰力を付与するように構成されている。すなわち、減衰力発生装置は、圧側行程で圧側油室の作動油を伸側油室に向けて流す圧側流路と、伸側行程で伸側油室の作動油を作動油室に向けて流す伸側流路とを備えており、圧側流路の上流側に圧側減衰バルブ、下流側に圧側チェック弁を設けて圧側行程の減衰力を発生させ、伸側流路の上流側に伸側減衰バルブ、下流側に伸側チェック弁を設けて伸側行程の減衰力を発生させるように構成されている。この場合、減衰力発生装置には、温度補償手段が付加されている。この温度補償手段は、圧力調整可能な油溜室が設けられており、この油溜室は、減衰力発生装置の減衰動作によって、ピストンロッドがシリンダ内へ進入することでシリンダ内の容積が減少したり、作動油の温度上昇により作動油の容積が膨張することで作動油の容積が増加したりするため、ピストンロッドの進入容積分を補う体積補償用や作動油の熱膨張分を吸収する温度補償用として設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−27255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成の油圧緩衝器では、減衰力発生装置の減衰動作時にも体積補償手段や温度補償手段の油溜室に不必要に作動油が流れてしまうため、減衰動作に稀に減衰不足状態が生じて減衰の応答性を悪化させてしまうという問題がある。すなわち、圧側行程では、作動油が伸側油室に十分に流れず流量不足となり、気泡が発生してキャビテーションが生じるため、次の伸側行程に悪影響を及ぼすとともに、所望の減衰力が得られず、減衰力の応答性の悪化を招くことがある。この問題は、圧側行程のみならず、伸側行程においても同様に生じ得る。
【0005】
本発明は、こうした問題を鑑みてなされたものであり、減衰力の発生において減衰力不足を生じさせず、減衰力発生時の応答性を向上させる油圧緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明に係る油圧緩衝器の構成として、車体側チューブと、前記車体側チューブと互いに摺動自在に嵌合する車軸側チューブと、前記車軸側チューブの底部から立設された円筒状のシリンダチューブと、前記シリンダチューブに設けられ、前記車軸側チューブの内周と液密状態で密着し、車軸側チューブの内部空間の車体側を空気室、車軸側を作動油室となるように区画する区画部材と、前記車体側チューブと前記車軸側チューブの摺動動作において前記車体側チューブとともに移動可能に設けられ、前記シリンダチューブ内を前記作動油室の車体側を伸側油室、車軸側を圧側油室に区画するピストンと、前記ピストンに取り付けられ、前記シリンダチューブの軸線方向に沿ってシリンダチューブの内外に移動可能に設けられたロッドと、内周側が外気と連通するように前記車軸側チューブの底部から立設され、前記ピストンから前記車軸側チューブの底部に向けて延長する前記ロッドの外周を液密状態でガイドする円筒状のガイドチューブと、前記車軸側チューブの内周とシリンダチューブの外周との間に形成された空間と前記伸側油室とに連通して作動油の相互の流通を許容する流通孔と、前記圧側油室と前記伸側油室との間の作動油の流通を可能にする油室間流路と、前記作動油室の外部に設けられ、前記油室間流路を流れる作動油に抵抗を生じさせて減衰力を発生させる圧側減衰力発生部及び伸側減衰力発生部が流れ方向に沿って直列に設けられた減衰力発生装置と、前記圧側減衰力発生部と前記伸側減衰力発生部との間から作動油の一部を流入出させて、作動油に発生する温度膨張を吸収する圧力調整用油溜室を有する温度補償手段と、を備えた油圧緩衝器であって、前記油圧緩衝器の動作における圧側行程及び伸側行程において前記圧力調整用油溜室方向に流入する作動油の圧力に基づき、前記圧力調整用油溜室方向に流入する作動油の流量を圧側行程及び伸側行程以外のピストンの非動作時における作動油流入時よりも少量に制限する作動油流量制御手段をさらに備えたので、圧力調整用油溜室への作動油の流入が作動油流量制御手段により制限されるため、圧側行程での圧側油室流路側から伸側油室流路方向への作動油の流量や、伸側行程での上記方向とは反対方向の作動油の流量が不足しないので、減衰力発生装置による減衰力の発生において減衰力不足を生じさせず、減衰力発生時の応答性を向上させることができる。
【0007】
また、本発明に係る油圧緩衝器の他の構成として、前記作動油流量制御手段は、前記減衰力発生装置側と前記圧力調整用油溜室との間を連通する戻り流路と、前記戻り流路より開口量が小さい圧力抑制流路と、前記圧力抑制流路を開口するとともに、前記戻り流路を閉塞するチェックバルブ機構とを有する流路切替装置により構成したので、簡単な構成で圧力抑制流路と戻り流路とを切り替えできる。
【0008】
また、本発明に係る油圧緩衝器の他の構成として、前記戻り流路は、前記ピストンの非動作時に、前記圧力調整用油溜室からの作動油の流出圧力により開口するので、ピストンの非動作時には作動油を圧力調整用油溜室からスムーズに流出させることができる。
【0009】
また、本発明に係る油圧緩衝器の他の構成として、前記圧力抑制流路は、前記戻り流路の開口時に閉塞されるので、確実に作動油を戻り流路から流出させることができる。
【0010】
また、本発明に係る油圧緩衝器の他の構成として、減衰力発生装置は、前記圧側減衰力発生部と前記伸側減衰力発生部との間に、圧側行程において圧側油室流路側から伸側油室流路方向に流れる作動油と伸側行程において伸側油室流路側から圧側油室流路側方向に流れる作動油とが通過する中間室を有し、戻り流路及び前記圧力抑制流路の一端が前記中間室側と連通するので、圧側行程及び伸側行程のいずれの行程においても圧力調整用油溜室に作動油を流入出させることができる。
【0011】
また、本発明に係る油圧緩衝器の他の構成として、前記チェックバルブ機構により開閉される前記圧力抑制流路の開口量は、前記減衰力発生装置内の作動油の温度上昇により膨張した分の作動油が前記中間室側より前記圧力調整用油溜室方向に流れることを許容するだけの開口量に設定されるので、作動油に温度膨張が生じたときの膨張分の作動油が圧力調整用油溜室方向に流入するため、油圧緩衝器の動作に対する温度補償が確実に得られる。
【0012】
また、本発明に係る油圧緩衝器の他の構成として、前記温度補償手段の圧力調整用油溜室は、作動油の案内管を介して中間室に接続され、前記案内管の作動油流路内にチェックバルブ機構を設けたので、簡単な構成で作動油に温度膨張が生じたときに、圧側油室や伸側油室の内圧が上昇しないように確実に温度補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】フロントフォークの断面図である。
図2】減衰力発生装置の拡大図である。
図3】減衰力調整部の拡大図及び伸側減衰力調整部の部分拡大図である。
図4】流路切替装置を示す図である。
図5】流路切替装置の動作を示す図である。
図6】減衰力発生装置内の作動油の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係る油圧緩衝本体を構成するフロントフォークの一実施形態を示す断面図である。同図に示すように、フロントフォーク10は、車体側チューブとしてのアウターチューブ11、車軸側チューブとしてのインナーチューブ12が配置される倒立型フロントフォークであって、アウターチューブ11の内周において軸線方向に離間して嵌合された軸受12A,12Bに、インナーチューブ12の外周が摺動自在に設けられる。フロントフォーク10の内部上方には、懸架スプリング14が介装されて、アウターチューブ11とインナーチューブ12とが離間する方向に付勢される。
【0015】
アウターチューブ11の上端には、フロントフォーク10を封止するキャップ13が螺着される。キャップ13は、外周がアウターチューブ11の内周と気密状態で螺着されるベースナット24よりなり、このベースナット24の中央側の孔に気密状態でアジャストボルト21が介装される。アジャストボルト21は、当該アジャストボルト21を回転させても、ベースナット24に対して昇降しないように、図外の固定手段によりベースナット24に回転自在に取り付けられる。このアジャストボルト21は、下部に、インナーチューブ12に向けて延長する中空部21Bを有する小径軸部21Aを備える。小径軸部21Aの先端外周側は、アジャストボルト21の回転によりアジャストボルト21の軸線に沿って昇降する筒状の昇降ナット23の内周が螺入する。昇降ナット23は、外周に懸架スプリング14が着座するフランジからなる上ばね受部25を備える。
【0016】
アジャストボルト21の回転操作により昇降ナット23を上下動させることによって上ばね受部25を軸線方向に昇降させ、この上ばね受部25と後述の区画部材60との距離を変化させることで、懸架スプリング14の初期ばね長を調整し、懸架スプリング14のばね力を調整する。なお、アジャストボルト21の小径軸部21Aは、中空部21Bとアウターチューブ11の内部空間とに連通する空気抜き孔21Cが設けられている。また、この中空部21Bの上端側には、アウターチューブ11と外部との連通を遮断する封止ねじ22等が取り付けられる。
【0017】
上述のねじ切りされた筒状の昇降ナット23の下側内周には、アウターチューブ11と同軸となるようにピストンロッド15の上端側外周が螺合して固定される。ピストンロッド15は、インナーチューブ12に向けて延長し、インナーチューブ12に立設された後述するシリンダチューブ51の内部空間に到達する長さを有する。このピストンロッド15の下端には、シリンダチューブ51内を摺動するピストン40が取り付けられる。
【0018】
ピストン40は、ピストンロッド15に取り付けられることで、アウターチューブ11と、インナーチューブ12の摺動動作において、シリンダチューブ51内をアウターチューブ11とともに移動可能に構成される。
ピストン40は、壁部40Eにより上下に仕切られた筒体よりなり、上部内周には、ピストンロッド15の下端側外周が螺着する上側ロッド取付部40Aを、下部内周にはピストンロッド15を延長するための、延長ロッド16の上端側外周が螺着する下側ロッド取付部40Bを備える。延長ロッド16は、ピストンロッド15と同一の外径を有し、インナーチューブ12内に設けられたガイドチューブ52の内部に挿入される。このピストン40の下部外周にはシリンダチューブ51の内周との液密状態を維持するピストンリング40Cを備える。本実施形態におけるピストン40は、従来のようにシリンダチューブ51内での摺動に伴って、作動油Kを上下方向に流通させる流路孔を備えていないものとして説明する。
なお、ピストンロッド15と延長ロッド16は、上述したようにピストンロッド15と延長ロッド16とに分割せずに、一本のピストンロッドで構成しても良い。この場合、ピストンロッドが貫通可能となるようにピストンを構成し、ピストンロッドの外周にピストンを固定するための固定手段を設ければ良い。
【0019】
以下、インナーチューブ12について説明する。
インナーチューブ12は、上端から下端にかけて一定の外径で形成された所定長さの筒体であって、当該インナーチューブ12の底部を形成する車軸ホルダ50と、ピストン40の外周が摺動する円筒状のシリンダチューブ51と、ピストン40から延長された延長ロッド16をガイドするガイドチューブ52と、フロントフォーク10における減衰力を発生させる減衰力発生装置140とを備える。
【0020】
車軸ホルダ50は、下側が矩形状に成形され、上側が円筒状に成形された軸体であって、下側に車軸を支持する車軸支持部50Aと、インナーチューブ12に組み付けられる組付部50Bとを備える。
車軸支持部50Aは、車軸ホルダ50の軸線に対して直交方向に貫通する車軸貫通孔50aが形成される。車軸貫通孔50aには、内周から車軸ホルダ50の下端面に向けて切割部50bが延長する。切割部50bは、車軸貫通孔50aの下側において、この切割部50bの延長方向と直交するように形成されたねじ孔50cに螺合させた図外のボルトを締め付けて車軸を挟持固定する。
【0021】
組付部50Bは、ほぼ円筒状に形成され、外周に上述のインナーチューブ12の下端側内周と螺着するためのねじ部53aと、このねじ部53aの下側に車軸ホルダ50とインナーチューブ12とを組み付けたときの液密状態を維持するためのOリングなどのシール部材53bと、車軸ホルダ50にインナーチューブ12を螺着するときに、インナーチューブ12の先端を突き当てる環状の突当部53cを備える。
したがって、車軸ホルダ50は、インナーチューブ12の下端が突当部53cに突き当たるまで、ねじ部53aにインナーチューブ12を螺合させることで、インナーチューブ12の内周と車軸ホルダ50の外周とが上述のシール部材53bによりシールされて液密状態で車軸ホルダ50に固定される。
【0022】
組付部50Bの内周側には、シリンダチューブ51の下端側及びガイドチューブ52の下端側を固定するシリンダチューブ固定部54a及びガイドチューブ固定部54bが設けられる。
上部側のシリンダチューブ固定部54a及び下部側のガイドチューブ固定部54bは、インナーチューブ12の軸心と同心円状に底部方向に縮径する階段状の穴として形成される。
シリンダチューブ固定部54aは、車軸ホルダ50の組付部50Bの内周面53dとシリンダチューブ51の外周51aとの間に隙間e1を有するように、車軸ホルダ50の内径よりも小さな寸法のねじ穴として形成される。
このねじ穴にシリンダチューブ51の一端側外周を螺着し、シリンダチューブ固定部54aとガイドチューブ固定部54bとの間において環状に形成された環状突当部54cに、下端を突き当てて車軸ホルダ50内に立設される。環状突当部54cは、上述した車軸ホルダ50の突当部53cよりも下側に位置するように形成される。
【0023】
ガイドチューブ固定部54bは、シリンダチューブ51の内周面とガイドチューブ52の外周との間に隙間e2を有するように、シリンダチューブ51の内径よりも小さな寸法のねじ穴として形成される。このねじ穴にガイドチューブ52の一端側外周を螺着し、端部を最下底部54dに突き当てて車軸ホルダ50内に立設される。最下底部54dは、上述した環状突当部54cよりも下側に位置するように形成される。
【0024】
ガイドチューブ52の上端側には、延長ロッド16の貫通を許容するガイドカラー52Aが取り付けられる。ガイドカラー52Aの内周には、延長ロッド16の外周との液密状態での摺動を可能にする封止部材52aを備える。封止部材52aは、Oリング等のゴム製のシール部材よりなる。ガイドカラー52Aの外周は、断面視において花弁状をなし、シリンダチューブ51の内周に支持される。なお、上述の延長ロッド16は、シリンダチューブ51よりも短く、フロントフォーク10の最伸長時においてもガイドチューブ52から抜け出ない長さに設定される。
【0025】
ガイドチューブ52の下端が突き当たる最下底部54d側には、ガイドチューブ52の内周側に開口する貫通孔55が形成される。この貫通孔55により、ガイドチューブ52の内周側は、フロントフォーク10外の外気と連通し、ガイドチューブ52内の圧力が、大気圧と同じ圧力となる。
すなわち、ガイドチューブ52に挿入された延長ロッド16がシリンダチューブ51の内外に貫通しているため、ピストン40がシリンダチューブ51内を移動しても、ピストンロッド15のシリンダチューブ51の内外への移動分だけ延長ロッド16もシリンダチューブ51の外内に移動するので、ピストン40の減衰動作に関わらずシリンダチューブ51内の容積が一定となり、作動油室内Aの圧力が変化しないことにより、減衰動作を安定させることができる。
【0026】
シリンダチューブ51の上端には、インナーチューブ12の内部を上側の空気室SAと下側の作動油室Aに区画する区画部材60が、シリンダチューブ51に対して不動に取り付けられる。区画部材60は、ベース部60Dと筒部60Cよりなり、ベース部60Dの中央孔の内周に上述のピストンロッド15が貫通するガイド部60Aを有し、ベース部60Dの外周にインナーチューブ12の内周面に沿って密着し、液密に封止する封止部60Bとを備える環状体を呈する。ガイド部60Aには、ピストンロッド15の外周と液密状態で摺動を許容するシール部材60aが設けられ、封止部60Bには、インナーチューブ12の内周との液密を維持するシール部材60bが設けられる。筒部60Cの上部側には、流通孔61が形成される。流通孔61は、区画部材60のベース部60D及びシリンダチューブ51で囲まれた空間からインナーチューブ12の内周及びシリンダチューブ51の外周で囲まれた空間に連通して作動油Kの相互の流通を許容する。なお、流通孔61は、ピストン40がシリンダチューブ51内を移動する移動範囲外、すなわちピストン40のストローク範囲よりも上側であれば、シリンダチューブ51に設けても良い。また、インナーチューブ12には、区画部材60よりも上側においてアウターチューブ11との隙間に開口する潤滑孔12aが設けられる。この潤滑孔12aは、上述の作動油Kとは別途空気室SA内に貯留される潤滑用油をアウターチューブ11とインナーチューブ12との間に流入出可能にする。
【0027】
区画部材60は、筒部60Cの内周をシリンダチューブ51の上端側外周に螺着させることでシリンダチューブ51に固定される。この筒部60Cのベース部60Dの底面と、上述したピストン40との間には、フロントフォーク10の最伸長時に、ピストン40と区画部材60との衝突を緩衝するための緩衝材、例えば、リバウンドスプリング等が介挿される。
【0028】
したがって、シリンダチューブ51に区画部材60を取付け、シリンダチューブ51の内部空間を閉塞したことにより、作動油室Aは、シリンダチューブ51内部のピストン40よりも下側部分の圧側油室127Aと、インナーチューブ12の内周とシリンダチューブ51の外周で区画された部分、及びシリンダチューブ51内部のピストン40よりも上側部分からなる伸側油室127Bとに分けられる。
車軸ホルダ50の側部には、上記圧側油室127Aからの作動油Kを流通させる圧側油室流路57Aと、伸側油室127Bからの作動油Kを流通させる伸側油室流路57Bとが開口している。
圧側油室流路57A及び伸側油室流路57Bは、上述のシリンダチューブ51の外部において作動油の流通を可能にする外部流路の一部を構成する。
なお、本実施形態のフロントフォーク10では、作動油室A及び圧側油室流路57A、伸側油室流路57B間において作動油Kが封入されている。
【0029】
減衰力発生装置140は、図2に示すように、圧側油室流路57Aに対応して車軸ホルダ50の側部から突出するように車軸ホルダ50と一体に形成された筒体Maと、伸側油室流路57Bに対応して車軸ホルダ50と一体に形成された連通路Mbと、減衰力発生ユニット140Aとよりなる。筒体Maには、一端開口の筒状のバルブ収容孔114Aが形成される。バルブ収容孔114Aは、底部114bにおいて圧側油室流路57Aと連通し、底部114bと反対側の開口端側の側部上側において伸側油室流路57Bを有する連通路Mbと接続される。つまり、圧側油室流路57Aと、バルブ収容孔114Aと、伸側油室流路57Bとで、圧側油室127Aと伸側油室127Bとを連通する油室間流路を構成する。
【0030】
減衰力発生ユニット140Aは、フロントフォーク10の圧縮時及び伸長時に減衰力を発生するために、圧側油室127A側に設けられた圧側減衰力発生部250と、伸側油室127B側に設けられた伸側減衰力発生部260とが直列に配置され、圧縮時及び伸長時の減衰力の調整を可能にする減衰力調整部270とを備える。
【0031】
減衰力発生ユニット140Aは、円筒状のバルブピース141を基体として、圧側減衰力発生部250及び伸側減衰力発生部260と、減衰力調整部270とが小組みされて構成される。
バルブピース141は、大径の筒体よりなる大径部142と、この大径部142の一端から同軸に突出する小径の筒体よりなる小径部143とを有する。なお、以下の説明において、バルブピース141の軸方向における大径部側を一端側、小径部143の先端側を他端側として説明する。
バルブピース141は、小径部143の先端から大径部142に至る貫通孔を備える。貫通孔は、小径部143の外周に設けられる後述の圧側減衰力発生部250及び伸側減衰力発生部260を迂回するバイパス流路141Aである。バルブピース141の大径部142には、円筒壁部の肉厚方向に貫通し、壁部を通した作動油Kの内外への流通を許容する複数の流路孔142Aが設けられ、小径部143には、軸方向の中途部に内外に貫通する複数の流路孔143Aと、内周側に後述の減衰力調整部270を構成するニードル孔143Bと、先端側外周にねじ部143Cとが設けられる。
【0032】
小径部143の外周には、一端側に伸側減衰力発生部260、他端側に圧側減衰力発生部250が設けられる。なお、説明の便宜上、伸側減衰力発生部260から説明する。
伸側減衰力発生部260は、圧側行程や伸側行程での流量を規制する伸側流路160Aと圧側流路160Bとを有する円板状の伸側流量規制体160と、圧側行程において伸側流路160Aを塞ぎ、伸側行程において伸側流路160Aから流出する作動油Kの流量を制御して減衰力を発生する伸側減衰バルブ161と、伸側行程において圧側流路160Bを塞ぎ、圧側行程において圧側流路160Bから流出する作動油Kの流量を制御して圧側行程における減衰力を発生する圧側チェック弁152とを備える。
伸側流量規制体160、伸側減衰バルブ161、圧側チェック弁152は、バルブピース141の大径部142側から順に、圧側チェック弁152、伸側流量規制体160、伸側減衰バルブ161が小径部143の外周に装着される。
【0033】
伸側流量規制体160とバルブピース141の一端側の段差面141Cとの間には、カラー163と、スプリング164と、スプリングシート165とが設けられる。
カラー163は、円筒状の筒体からなり小径部143の外周に介挿され、圧側チェック弁152を貫通して、一端側が段差面141Cに当接し、他端側が伸側流量規制体160に当接することで、伸側流量規制体160の小径部143における位置を位置決めする。スプリング164は、一端側が圧側チェック弁152に着座し、他端がカラー163の外周に設けられたスプリングシート165を介して段差面141Cに着座して、圧側チェック弁152を伸側流量規制体160に向けて付勢する。
このスプリング164による圧側チェック弁152への付勢力は、圧側行程において伸側流量規制体160の圧側流路160Bを流れる作動油Kの抵抗となって、フロントフォーク10の動作における減衰力を発生させる。
【0034】
伸側減衰バルブ161のバルブピース141の他端側に隣接してシム166が設けられる。シム166は、伸側減衰力発生部260に隣接して設けられるセンタープレート145が、伸側減衰バルブ161の動作を妨げないように撓みしろを確保する。シム166のバルブピース141の他端側には、センタープレート145が隣接して介挿される。
【0035】
センタープレート145は、小径部143の外周に介挿される環状部材であって、内周の厚さ方向中央部分に、外径方向に窪む環状凹部145Aと、環状凹部145Aから外周に連通する複数の流路孔145Bとを備える。このセンタープレート145は、内周側の環状凹部145Aが小径部143の複数の流路孔143Aを囲むように組み付けられる。この組み付け位置は、例えばシム166によって調整される。
【0036】
センタープレート145のバルブピース141の他端側には、センタープレート145に隣接してシム167が小径部143に介挿される。シム167は、圧側減衰力発生部250の圧側減衰バルブ151に対して、センタープレート145が圧側減衰バルブ151の動作を妨げないように圧側減衰バルブ151の撓みしろを確保する。このシム167のバルブピース141の他端側に隣接して圧側減衰力発生部250が設けられる。
【0037】
圧側減衰力発生部250は、圧側行程や伸側行程での流量を規制する圧側流路150Aと伸側流路150Bとを有する円板状の圧側流量規制体150と、伸側行程において圧側流路150Aを塞ぎ、圧側行程において圧側流路150Aから流出する作動油Kの流量を制御して減衰力を発生する圧側減衰バルブ151と、圧側行程において伸側流路150Bを塞ぎ、伸側行程において伸側流路150Bから流出する作動油Kの流量を制御して伸側行程における減衰力を発生する伸側チェック弁162とを備える。
圧側減衰力発生部250は、センタープレート145の側から順に、シム167、圧側減衰バルブ151、圧側流量規制体150、伸側チェック弁162が装着される。
【0038】
小径部143の圧側流量規制体150よりも先端側には、伸側チェック弁162を貫通する円筒状のカラー153が介挿され、カラー153の外周に被せるように設けられ、伸側チェック弁162に一端側が着座するスプリング154と、スプリング154の他端側が着座するスプリングシート155とが設けられる。そして、ねじ部143Cにナット200を螺合させ、ナット200をカラー153に当接するまで締め付けることで、圧側減衰力発生部250と伸側減衰力発生部260とがバルブピース141の外周側に一体に組み付けられる。このナット200の締付により、スプリング154が伸側チェック弁162を圧側流量規制体150に向けて付勢する付勢力が作用する。スプリング154による伸側チェック弁162への付勢力は、伸側行程において圧側流量規制体150の伸側流路150Bを流れる作動油Kの抵抗となって、フロントフォーク10の動作における減衰力を発生させる。
【0039】
上述のように小組みされた減衰力発生ユニット140Aは、ナット200をバルブ収容孔114Aの軸方向の底部114bに向けて収容される。バルブ収容孔114Aに減衰力発生ユニット140Aが収容されると、伸側流量規制体160の外周、及び圧側流量規制体150の外周に設けられたシール部材160C;150Cが、バルブ収容孔114Aの内周に密着する。したがって、圧側油室流路57A及び伸側油室流路57Bからバルブ収容孔114Aに流れた作動油Kのすべてが、伸側流量規制体160の伸側流路160A若しくは圧側流路160B、圧側流量規制体150の伸側流路150B若しくは圧側流路150A、及び後述のバイパス流路141Aを流通する。
【0040】
本実施形態では、バルブ収容孔114Aにおける圧側流量規制体150と圧側油室流路57A側との空間を圧側油室127Aに連通する伸圧共用流路146Aとし、バルブ収容孔114Aにおける伸側流量規制体160と伸側油室流路57B側との空間を伸側油室127Bに連通する伸圧共用流路146Bとし、センタープレート145の周囲の環状空間を中間室149とする。この中間室149は、圧側減衰バルブ151と圧側チェック弁152との間の中間部と、伸側減衰バルブ161と伸側チェック弁162との間の中間部とに共通の空間である。中間室149には、作動油室Aの圧力を調整するための圧力調整用油溜室(以下、油溜室という)132と連通する作動油流路115mの一端側が開口する。この減衰力発生装置140内に形成された中間室149に圧側行程での圧側油室流路57A側から伸側油室流路57B方向への作動油Kと、伸側行程での上記方向とは反対方向の作動油Kとが共通に通過し、戻り流路T及び圧力抑制流路Sの一端が連通する。
【0041】
したがって、バルブ収容孔114A内には、圧側減衰力発生部250と伸側減衰力発生部260とによって圧側行程及び伸側行程で作動油Kが流れる外部流路としての圧側流路と伸側流路とが形成される。圧側行程で圧側油室127Aから伸側油室127Bに作動油Kを移動させるための圧側流路が伸圧共用流路146A、中間室149、圧側流路150A、圧側流路160B、伸圧共用流路146Bで形成され、伸側行程で伸側油室127Bから圧側油室127Aに作動油Kを移動させるための伸側流路が伸圧共用流路146B、伸側流路160A、中間室149、伸側流路150B、伸圧共用流路146Aで形成される。
【0042】
図3(a),(b)は、減衰力発生装置140を構成する減衰力調整部の拡大図及び伸側減衰力調整部の部分拡大図を示す。同図に示すように、減衰力調整部270は、筒体よりなるバルブピース141の内周側に設けられる。バルブピース141は、大径部142に円筒状の中空部(大径中空部)142aと、小径部143に円筒状の中空部(小径中空部)143aとを備える。大径中空部142aには、小径部143側に形成された段部143Dに小径中空部143aの開口部144Bが形成される。このバルブピース141の大径中空部142a及び小径中空部143aは、圧側減衰力発生部250及び伸側減衰力発生部260を迂回して、圧側油室127Aと伸側油室127Bとに作動油Kを流通可能にするバイパス流路141Aを形成する。このバイパス流路141Aには、減衰力調整手段が設けられる。
【0043】
減衰力調整部270は、小径中空部143a内に形成されるニードル孔143Bと、ニードル孔143Bに対して進退自在に設けられるニードル軸272とからなるニードルバルブ機構、及び大径中空部142a側に小径中空部143aが開口する開口部144Bと、開口部144Bに対して進退自在に設けられる流量調整体279とからなるニードルバルブ機構で構成される。ニードル孔143Bは、小径中空部143a内の中途部分から先端にかけて内径が小径中空部143aの内径よりも縮径する貫通孔として形成され、小径中空部143a内に開口部144Aが形成される。この開口部144Aとニードルバルブ機構を構成するニードル軸272が、大径部142側から小径中空部143a内に挿通される。ニードル軸272は、先端側にテーパー状に形成されたニードル弁272Aと、後端側にニードル軸272を支持するニードル軸支持体277とを備える。ニードル軸支持体277は、中央側に形成されたニードル軸貫通孔277Aにニードル軸272を貫通させ、ニードル軸272の一端に形成されたフランジ部274と係合溝275に嵌着された係合部材276との間で保持される。ニードル軸支持体277には、軸方向に貫通するねじ孔277B及びガイド孔277Cが形成される。このニードル軸272には、開口部144Bとニードルバルブ機構を構成する流量調整体279が介装される。流量調整体279は、封止部材280により液密状態を維持するとともに、摺動自在な隙間xをもってニードル軸272が貫通するニードル軸摺動孔279Aと、先端方向が細径となるテーパーよりなるテーパー面279Bとを外周に備え、開口部144Bとテーパー面279Bとの隙間n2を調整することで、大径部142側から小径中空部143a内に流入する流量が調整される。流量調整体279の後端側には、軸方向に貫通するねじ孔278B、及びガイド孔278Cを有する円板状の基部278が一体に設けられる。基部278のねじ孔278Bとニードル軸支持体277のガイド孔277Cの軸心、及び基部278のガイド孔278Cとニードル軸支持体277のねじ孔277Bの軸心とを一致させた状態で、圧側の減衰力の調整を可能にする圧側減衰力調整ボルト170及び伸側の減衰力の調整を可能にする伸側減衰力調整ボルト180が装着される。
【0044】
圧側減衰力調整ボルト170は、先端側に形成されたガイド軸171が基部278のガイド孔278Cに挿通され、ヘッド部170A側に形成されたねじ軸172がニードル軸支持体277のねじ孔277Bに螺入される。
伸側減衰力調整ボルト180は、先端側に形成されたねじ軸181が基部のねじ孔278Bに螺入され、ヘッド部180A側に形成されたガイド軸182がニードル軸支持体277のガイド孔278Cに挿通される。これにより、圧側減衰力調整ボルト170及び伸側減衰力調整ボルト180が、ニードル軸272及び流量調整体279と一体にされ、圧側減衰力調整ボルト170を回転させることでニードル軸272が軸方向に進退可能となり、伸側減衰力調整ボルト180を回転させることで流量調整体279がニードル軸272に沿って進退可能に構成される。
【0045】
圧側減衰力調整ボルト170及び伸側減衰力調整ボルト180は、内側キャップ210及び外側キャップ220からなるキャップ205により保持される。内側キャップ210には圧側減衰力調整ボルト170のヘッド部170A及び伸側減衰力調整ボルト180のヘッド部180Aを個別に収容する収容孔211A;211Bとが形成される。内側キャップ210の収容孔211A;211Bは、中心軸を含む断面視において同一平面上に設けられている。圧側減衰力調整ボルト170のヘッド部170A及び伸側減衰力調整ボルト180のヘッド部180Aには、収容孔211A;211Bとの液密状態を維持する封止部材173;183がそれぞれ設けられる。この収容孔211A;211Bには、軸線方向に対して直交方向に内側キャップ210の外周から貫通する貫通孔212A乃至212Cが形成される。貫通孔212A乃至212Cには、それぞれスプリング213と、チェックボール214とが収容され、チェックボール214が収容孔211A;211Bの開口側に位置するようにそれぞれ設けられる。チェックボール214は、スプリング213の付勢力によって、圧側減衰力調整ボルト170のヘッド部170Aの外周及び伸側減衰力調整ボルト180のヘッド部180Aの外周に、円周方向に沿って形成された複数の凹部174;184のいずれかに嵌ることで、圧側減衰力調整ボルト170及び伸側減衰力調整ボルト180を支持するとともに、減衰力を調整するために圧側減衰力調整ボルト170や伸側減衰力調整ボルト180を回転させたときに、圧側減衰力調整ボルト170や伸側減衰力調整ボルト180の調整位置を維持するディテント機構を構成する。
このキャップ205と一体となった減衰力調整部270は、バルブピース141の小径中空部143aにニードル軸272を挿入しながら、内側キャップ210の内周をバルブピースの大径部142の外周ねじ部に螺合させてバルブピース141と一体に組みつけられる。このとき、ニードル軸272のニードル弁272Aがニードル孔143Bの開口部144Aに対し、流量調整体279のテーパー面279Bがバイパス流路141Aの開口部144Bに対して所定の隙間n1;n2が生じるように調整される。
この減衰力発生ユニット140Aは、上述したようにバルブ収容孔114Aに収容される。
【0046】
したがって、減衰力発生ユニット140Aは、フロントフォーク10の伸長行程時にシリンダ内でピストン40により加圧された伸側油室127Bから圧側油室127Aに向かう流量は、ニードル軸272に介挿された流量調整体279のテーパー面279Bの開口部144Bに対する進退量を伸側減衰力調整ボルト180で調整することにより、テーパー面279Bと開口部144Bとの隙間n2を変化させて調整される。すなわち、流量調整体279のテーパー面279Bが小径部143の開口部144Bに近接することで両者の隙間が小さくなってバイパス流路141Aを流通する流量が少なくなり大きな減衰力が得られる。また、その逆に、流量調整体279のテーパー面279Bが小径部143の開口部144Bから離間することで両者の隙間が大きくなってバイパス流路141Aを流通する流量が多くなり、小さな減衰力が得られることになる。
【0047】
減衰力発生ユニット140Aを収容したバルブ収容孔114Aの中間室149には、図2に示すように、
減衰力発生装置140側より下方に突出する作動油案内管115の一端が接続され、この作動油案内管115の作動油流路115mを介して中間室149と油溜室132とが連通される。
油溜室132は、作動油室Aやバルブ収容孔114Aとは別体に車軸ホルダ50に設けられたサブタンク130内に形成される。
【0048】
すなわち、サブタンク130は、作動油Kの作動油案内管115を介して中間室149と接続される。作動油案内管115は、中間室149から油溜室132方向への作動油Kの流入出を可能にする作動油流路115mを備える。作動油流路115mは、横孔115nを介して油溜室132に連通する。このサブタンク130により、温度補償手段Qが構成され、これは例えば円筒体よりなり、内部空間がシリンダ状に形成され、図外のキャップにより封止可能に構成される。サブタンク130の内部には、サブタンク130の内周面との液密状態を維持したまま、軸線方向に沿って移動可能なフリーピストン133が設けられる。フリーピストン133は、横孔115n側に油溜室132を、キャップ135側に加圧室134となるように円筒状のサブタンク130内を区画する。サブタンク130は、作動油Kの温度上昇にともなう膨張を吸収する。なお、作動油案内管115の下端は開口され、後述の流路切替装置300のシール部材306で封止される。
加圧室134は、フリーピストン133とキャップとの間で形成される閉空間であって、内部に所定圧のガスが封入される。
加圧室134に封入されたガスの圧力と、中間室149の圧力との圧力バランスによって変位する圧力調整用のフリーピストン133の位置によりサブタンク130における油溜室132の容積が変化する。この油溜室132は、容積変化による圧力調整機能を有するもので、フリーピストン133を介して加圧室134から加圧される圧力によって内部の圧力が正圧に維持される。これにより、油溜室132と連通する中間室149、作動油室A等も正圧が維持されるため、圧側行程や伸側行程での減衰動作時のキャビテーションが防止される。また、フロントフォーク10の動作時には、中間室149及び作動油室A内の作動油Kが温度上昇して作動油Kの容積が膨張する。この作動油Kの膨張による圧力が、加圧室134の圧力よりも高くなると、油溜室132に流れてフリーピストン133を押動して油溜室132の容積を増加させ、膨張分の作動油Kを吸収することで、動作時の温度補償がなされる。
また、フロントフォーク10の非動作時には、中間室149及び作動油室A内の作動油Kが温度下降して作動油Kの容積が収縮する。この作動油Kの収縮による圧力が、加圧室134の圧力よりも低くなると、フリーピストン133が油溜室132を加圧して油溜室132から中間室149へと作動油Kを流出することで、油溜室132の容積が減少する。作動油室A内の圧力が加圧室134の圧力よりも低圧となるが、フリーピストン133が、油溜室132の作動油Kを加圧しているため、中間室149、作動油室A内の作動油Kは、正圧状態を維持したまま、油溜室132の作動油Kが中間室149や作動油室Aに流れるので、作動油Kのキャビテーションの発生が常に抑制される。
【0049】
作動油流路115mの内部には、中間室149から油溜室132への作動油Kの流れを許容する圧力抑制流路Sと、油溜室132から中間室149との間に連通して、作動油Kの流れを許容する戻り流路Tと、圧力抑制流路Sと戻り流路Tとの流れの方向を切り替える流路切替装置300が設けられる。この流路切替装置300は、圧側行程、伸側行程において、油溜室132方向に流入する作動油Kの圧力にもとづき、この作動油Kの流量を上記、圧側行程及び伸側行程以外のフロントフォークの非動作時における作動油流出時よりも少量に制限する作動油流量制御手段Zとして機能する。
作動油流量制御手段Zとしての流路切替装置300は、車軸ホルダ50の外部から作動油流路115mの途中において連通するように延長する流路切替装置収容孔116に設けられる。流路切替装置収容孔116の内周には、流路切替装置300を固定するためのねじ部116Aが形成される。
【0050】
図4(a),(b)は、作動油流量制御手段Zとしての流路切替装置300の一実施形態の分解斜視図及び組み立て断面図である。
流路切替装置300は、圧力抑制流路Sと戻り流路Tとを切り替えるチェックバルブ機構を備える。チェックバルブ機構は、中間室149の圧力と油溜室132の圧力差に応じて、中間室149から油溜室132に向かう圧力抑制流路Sを介した作動油Kの流れと、油溜室132から中間室149に向かう戻り流路Tを介した作動油Kの流れとを切り替える。
流路切替装置300は、チェックバルブ機構を収容するバルブケース301と、チェックバルブ機構を構成するスプリング302、チェックバルブ303、チェックバルブ303の動作をガイドするガイドピン304、バルブケース301とともにスプリング302、チェックバルブ303、ガイドピン304を内部に収容するとともに当該流路切替装置300を流路切替装置収容孔116に取り付ける取付部材として機能するバルブボルト305とを備える。
【0051】
バルブケース301は、バルブケース301の天孔301Cを中間室149方向を向くように上下方向に延長する作動油Kの作動油案内管115内に嵌着された円筒状の筒体であって、開口端側の内周に雌ねじ部301Aを、天部301Bの中央側に内外に貫通する天孔301Cを備える。スプリング302は、上端が天部301Bに着座し、下端側は、チェックバルブ303の鍔部303Bに着座する。
【0052】
チェックバルブ303は、スプリング302の内周側に収容可能な外径を有する円筒状の筒部303Aの下端から外方に突出する鍔部303Bを設けたものである。
天部303Dの中央側には、ガイドピン304が通過不能の径の孔303Cが設けられる。
鍔部303Bの下端は、チェックバルブ機構のシール面303bとして形成される。シール面303bは、テーパー状、若しくは球面状に形成される。鍔部303Bの外周面303dは、円周方向に沿って周期的に凹凸を繰り返す花弁状に形成され、凹部により戻り流路Tが形成される。図4(a),(c)に示すように、この鍔部303Bの凹部の戻り流路Tは、ピストン40の非動作時に、油溜室132から中間室149に流出する作動油Kの流出圧力により開口し、油溜室132から中間室149に向かう作動油Kが流れる絞り流路として形成される。上述のように鍔部303Bを軸線方向視したときの外周面303dの輪郭を花弁状に形成しておくことで、ガイドピン304の外周とチェックバルブ303の内周面303aとの間の微小隙間Jにより形成される、圧力抑制流路Sを流れる作動油Kの流量よりも、戻り流路Tに流れる作動油Kを多くすることができる。上記シール面303bは、着座筒319の上部内周縁319Aに着座する。
【0053】
ガイドピン304は、外周面304aとチェックバルブ303の内周面303aとの間で所定厚さの環状の微小隙間Jを形成する。この微小隙間Jは、戻り流路Tの流路断面よりも開口量が小さく設定され、ピストン40の動作によって中間室149に発生した圧力が油溜室132にあまり伝達されないように流量を制限して、圧力の伝達を抑制する圧力抑制流路Sを構成する。この微小隙間Jからなる圧力抑制流路Sは、チェックバルブ303の開閉により、静的な圧力では中間室149から油溜室132に向けて流れ、動的な圧力では中間室149から油溜室132に向けて流れないように微小隙間Jの断面積や微小隙間Jの軸線方向の長さが設定される。静的な圧力とは、例えば、作動油室Aや中間室149の作動油Kが温度上昇し、作動油Kの容積膨張分の圧力をいう。また、動的な圧力差とは、ピストン40の動作により中間室149に伝達された圧力をいう。よって、中間室149側は作動油Kの温度変化による体積変化が、この微小隙間J内の作動油Kを介して油溜室132に伝達されることになる。
【0054】
上記着座筒319は、外周上部の雄ねじ部312が、バルブケース301の雌ねじ部301Aに螺入され、この着座筒319の外周中段にバルブケース301の下端に当接する当接部317が形成され、着座筒319の当接部317よりも下部側に半径方向に貫通するとともに、前述の横孔115nに対向する貫通孔318が形成される。この着座筒319の底部316は、バルブボルト305の先端に固定される。バルブボルト305は、作動油案内管115の下部開口側のねじ部116Aに螺入され、かつ着座筒319を支持する取付ねじ部315と、シール溝314と、フランジ部313と、シール部材306とナット部311とを全体として作動油案内管115の中心軸方向に突出する如く形成される。
この場合、底部316の内部上面は、錘状に窪んでおり、その中心側にガイドピン304の下端が当接して保持される。着座筒319の円形穴の内周は、ガイドピン304の外周との間で十分な間隙をもって挿入可能な寸法に形成される。
着座筒319の上部内周縁319A(図4(b))は、円形形状を有し、チェックバルブ303のシール面303bが密着可能となっている。
なお、着座筒319の円形穴の奥行き方向の断面形状は、例えば円形や花弁状などいずれの形状で合っても良く、少なくとも着座筒319の上部内周縁319Aがチェックバルブ303のシール面303bとシール可能なように円形に形成されていれば良い。
【0055】
作動油流量制御手段Zとしての流路切替装置300は一例として次のように組立てられる。
まず、バルブケース301の天部301Bにスプリング302の上端側を着座させて収容する。次に、バルブケース301に収容されたスプリング302の下端側に筒部303Aをスプリング302の内周側に内挿して、スプリング302の他端をチェックバルブ303の鍔部303Bを着座させる。次に、チェックバルブ303の内周にガイドピン304を挿入し、チェックバルブ303から突き出たガイドピン304をバルブボルト305の着座筒319に挿入しつつ、バルブボルト305の雄ねじ部312をバルブケース301の雌ねじ部301Aに螺入することで、流路切替装置300として一体に組立てられる。このように流路切替装置300として一体に組立てられた状態において、チェックバルブ303は、スプリング302の付勢力によりシール面303bがバルブボルト305の先端の上部内周縁319Aに押し付けられてチェックバルブ機構が閉じた状態となる。また、ガイドピン304は、チェックバルブ303の内部及びバルブボルト305の内部空間内において、チェックバルブ303の軸線方向に所定の遊びを有する。
【0056】
図5(a),(b)は、流路切替装置300の動作図である。以下、同図を用いて流路切替装置300の動作を説明する。
流路切替装置収容孔116に収容された流路切替装置300は、先端側が作動油案内管115内に進入し、バルブケース301の外周が作動油案内管115内の内周に密着する。このとき作動油案内管115内において、作動油案内管115の中間室149側にバルブケース301の天孔301Cが開口し、作動油案内管115の油溜室132側にバルブボルト305の貫通孔318が開口し、中間室149と油溜室132との間を流れる作動油Kのすべてが流路切替装置300の内部の圧力抑制流路S又は戻り流路Tを流れることになる。
【0057】
圧側行程や伸側行程において、中間室149の圧力が油溜室132の圧力よりも高いとき、すなわち、中間室149から油溜室132に作動油Kが流れるときについて説明する。
図5(a)に示すように、圧側行程や伸側行程におけるピストン40の動作により押し出された圧側油室127Aや伸側油室127Bから流れた作動油Kは、圧側減衰バルブ151や伸側減衰バルブ161を押し開いて中間室149に流れる。圧側行程や伸側行程における圧側減衰バルブ151や伸側減衰バルブ161の下流側に位置する圧側チェック弁152や伸側チェック弁162が開くまでの間、中間室149の圧力が上昇して油溜室132に向かう流れが生じる。中間室149から油溜室132に向かう一部の作動油Kは、中間室149側の作動油案内管115へ流れ、流路切替装置300のチェックバルブ機構に到達する。
流路切替装置300のチェックバルブ機構に到達した作動油Kは、図中矢印u1に示すように、バルブケース301の天孔301Cから流路切替装置300内に流入することで、スプリング302の付勢力とともにチェックバルブ303をバルブボルト305方向に押し付ける。つまり、チェック弁が閉じた状態(戻り流路Tを閉塞した状態)となり、圧力抑制流路Sのみを開口した状態となる。すなわち、チェックバルブ303の孔303Cから流入した作動油Kは、図中矢印u2に示すように、チェックバルブ303の内周面303aと、ガイドピン304の外周面304aとの隙間で形成された圧力抑制流路Sのみを介して温度補償手段Qの油溜室132方向に流入しようとする。この圧力抑制流路Sは、流入部分の開口が後述するように小さく設定されているため流入抵抗が高い。このため圧力抑制流路Sには、中間室149の高い圧力を維持したまま流れることができず、わずかな作動油Kしか流れ込むことができない。この圧力抑制流路Sの流出側からは、油溜室132の圧力が負荷されているため、実際に圧力抑制流路Sを流れることができる作動油Kは、油溜室132及び作動油室Aや中間室149の圧力を一定に保つ分が流れることになる。すなわち、作動油室Aや中間室149側の作動油Kの温度上昇により膨張した分の作動油Kが、油溜室132との均衡を保つために図中矢印u2で示すように圧力抑制流路Sを流れることになり、減衰動作時の作動油室A内の圧力を一定に維持するための温度補償がなされる。このように作動油Kに対し、油溜室132に流入する作動湯量が少量に制限されて、温度補償がなされる。
この圧力抑制流路Sの流入量制限機能により、温度膨張を吸収しつつピストン40の動作により生じたままの圧力がほとんど中間室149に維持されるため、この圧力により圧側チェック弁152や伸側チェック弁162がスムーズに押し開かれて、圧側行程や伸側行程の中間室149よりも下流側に位置する圧側油室127Aや伸側油室127Bに移動することになる。
【0058】
一方、圧側行程や伸側行程以外でのフロントフォーク10の非動作時における中間室149の圧力が油溜室132の圧力よりも低いときについて、すなわち、油溜室132から中間室149に作動油Kが流れるときについて説明する。
図5(b)に示すように、圧側行程や伸側行程の動作がないフロントフォーク10の非動作状態、すなわち、車両が停止した場合には、減衰力発生装置140の作動油Kの温度が低下して作動油Kの容積が収縮することになる。作動油室Aや中間室149では圧力が低下して負圧状態となる一方で、油溜室132ではフリーピストン133の加圧によって常に正圧が維持されている。このように油溜室132の圧力が中間室149の圧力よりも高くなると、油溜室132と中間室149との圧力差により、流路切替装置300のチェックバルブ303が、押し上げられて、シール面303bが、上部内周縁319Aより離れ、このときガイドピン304の上端面が孔303Cを塞ぐので、圧力抑制流路Sが閉塞され、戻り流路Tが開口されて、流路が圧力抑制流路Sから戻り流路Tに切り替えられる。すなわち、この流路の切り替えは、油溜室132の作動油Kが横孔115nから流路切替装置300の貫通孔318を経て着座筒319に流れることで行なわれる。すなわち、図中矢印v1のように着座筒319に流れた作動油Kは、スプリング302の付勢力により着座筒319側に押し付けられていたチェックバルブ303を、図中矢印v3で示すように着座筒319の内周とガイドピン304の外周との隙間を流れてチェックバルブ303を押し開き、矢印v4で示すように鍔部303Bの外周を流れる。矢印v3;v4で示す作動油Kの流れにともない図中矢印v2で示す流れが生じて、ガイドピン304をチェックバルブ303方向に押し付け、チェックバルブ303の孔303Cを閉塞した状態を維持しつつチェックバルブ303をバルブケース301の天部301B側に押動する。これによりガイドピン304がチェックバルブ303の孔303Cを塞いで圧力抑制流路Sを閉塞するとともにチェックバルブ303が開放された状態となって、油溜室132と中間室149とを連通する作動油流路115mが、圧力抑制流路Sから油溜室132から中間室149に向かう戻り流路Tに切り替えられる。
流量の多い戻り流路Tに切り替えられたことで、図中矢印v4で示すように、バルブボルト305の着座筒319の内周とガイドピン304の外周との隙間を油溜室132から中間室149に向かって作動油Kが流れ、バルブケース301の天孔301Cから作動油流路115mを介して中間室149に流れることにより、作動油室Aや中間室149の圧力が油溜室132の圧力と同圧となる。
したがって、フロントフォーク10が動作していない状態(非動作状態)では、作動油室Aを構成する圧側油室127A及び伸側油室127B、圧側油室127Aと伸側油室127Bとを連通する外部流路、及び中間室149、油溜室132の圧力が一定となる。
【0059】
図6(a),(b)は、フロントフォーク10の圧側行程及び伸側行程における減衰力発生装置140内の作動油Kの流れを示す図である。以下、同図を用いて、フロントフォーク10の圧側行程及び伸側行程における動作について説明する。
[圧側行程]
フロントフォーク10が収縮する圧側行程では、ピストン40の圧側動作により加圧された圧側油室127Aの作動油Kが、圧側油室流路57Aを介して減衰力発生装置140内の伸圧共用流路146Aに押し出され、図6(a)の実線矢印f1及び破線矢印f4で示すように、伸圧共用流路146Aから圧側減衰力発生部250とバイパス流路141Aに向けて流れる。
圧側減衰力発生部250に流れた作動油Kは、圧側流量規制体150の圧側流路150A側に、圧側流量規制体150と伸側チェック弁162との間にあらかじめ設けた隙間から圧側流路150Aに流れ込み、圧側減衰バルブ151を押し開いて中間室149に流出する。
また、バルブピース141の先端からバイパス流路141Aに流入した作動油Kは、ニードル孔143B及びニードル弁272Aで形成された隙間n1を経てニードル軸272に沿って流れ、主としてバルブピース141の小径部143の中途に設けられた流路孔143Aからセンタープレート145の流路孔145Bを経て破線矢印f5で示すように中間室149に流出して圧側流路150Aを経由した作動油Kと合流する。中間室149において合流した作動油Kは、センタープレート145の外周を回り込み、図中実線矢印f2,f3で示すように作動油流路115mと伸側流量規制体160の圧側流路160Bとに流れる。
一方の作動油流路115mに流れた作動油Kは、流路切替装置300の機能によって、温度膨張分だけが流路切替装置300の圧力抑制流路Sを通じて油溜室132に流れる。
他方の伸側流量規制体160の圧側流路160Bに流れた作動油Kは、圧力抑制流路Sによって流れが規制され、ピストン40により加圧された分が流れることで、圧側流路160Bの圧側チェック弁152を押し開いて伸圧共用流路146B、伸側油室流路57Bを経て伸側油室127Bに流出する。この圧側行程において圧側油室127Aから伸側油室127Bに移動した作動油Kは、ピストン40の移動分の容積とほぼ等しくなり、ピストン40の移動に伴なった応答遅れのない圧側行程の減衰力が得られる。
【0060】
[伸側行程]
フロントフォーク10が伸長する伸側行程では、ピストン40の伸側動作により加圧された伸側油室127Bの作動油Kが、伸側油室流路57Bを介して減衰力発生装置140の伸圧共用流路146Bに押し出され、図6(b)の実線矢印g1及び破線矢印g4で示すように、伸圧共用流路146Bから伸側減衰力発生部260とバイパス流路141Aに向けて流れる。
伸圧共用流路146Bから伸側減衰力発生部260に流れた作動油Kは、伸側流量規制体160の伸側流路160Aと圧側チェック弁152との間にあらかじめ設けた隙間から伸側流路160Aに流れ込み、伸側減衰バルブ161を押し開いて中間室149に流出する。
また、伸圧共用流路146Bからバルブピース141の大径部142の流路孔142Aを経ての大径部142側からバイパス流路141Aに流入した作動油Kは、流量調整体279のテーパー面279Bと、小径部143の内周側の開口部144Bとの隙間n2を経てニードル軸272に沿って流れる。この隙間n2を経てニードル軸272に沿って流れた作動油Kは、主としてバルブピース141の中途に設けられた流路孔143Aからセンタープレート145の流路孔145Bを経て破線矢印g5で示すように中間室149に流出して、伸側減衰力発生部260の伸側流路160Aを経由した作動油Kと合流する。中間室149において合流した作動油Kは、センタープレート145の周りを回り込み、図中実線矢印g2,g3で示すように、作動油流路115mと圧側流量規制体150の伸側流路150Bとに流れる。
一方の作動油流路115mに流れた作動油Kは、流路切替装置300の機能によって、温度膨張分の作動油Kだけが流路切替装置300の圧力抑制流路Sを通じて油溜室132に流れる。
他方の伸側流量規制体160の圧側流路160Bに流れた作動油Kは、圧力抑制流路Sによって流れが規制され、ピストン40により加圧された分が流れることで、圧側流路160Bの圧側チェック弁152を押し開いて伸圧共用流路146B、伸側油室流路57Bを経て伸側油室127Bに流出する。この伸側行程において伸側油室127Bから圧側油室127Aに移動した作動油Kは、ピストン40の移動分の容積とほぼ等しい。
【0061】
以上説明したように、中間室149から油溜室132への作動油Kの流れを許容するとともに、ピストン40の動作によって中間室149に発生した圧力を油溜室132に伝達しないように、作動油Kの作動油案内管115を流通する作動油Kの圧力を抑制する圧力抑制流路Sを備えたことにより、作動油室Aや中間室149における作動油Kの温度膨張分の作動油Kだけが圧力抑制流路Sを通じて中間室149から油溜室132へと流れるため、ピストン40の動作によって圧側油室127Aから伸側油室127Bに、又は伸側油室127Bから圧側油室127Aに移動すべき作動油Kが遅滞無く移動するので、圧側行程や伸側行程において応答遅れを生じさせることなく減衰力が発生するので、減衰動作時の応答性を向上させることができる。
【0062】
なお、上記実施形態では、フロントフォーク10を用いて本発明にかかる油圧緩衝器について説明したが、フロントフォーク10に限定されず、二輪車のリアクッションに用いても良い。
また、圧力抑制流路Sは、戻り流路Tの開口時に閉塞するとして説明したが、開口したままとしても良い。
また、中間室149と油溜室132とを連通する作動油流路115mを作動油案内管115により接続するとして説明したが、車軸ホルダ50内において中間室149と油溜室132とに連通する孔として形成しても良い。
【符号の説明】
【0063】
10 フロントフォーク、11 アウターチューブ、15 ピストンロッド、
40 ピストン、51 シリンダチューブ、52 ガイドチューブ、
60 区画部材、115 作動油案内管、115m 作動油流路、115n 横孔、
116 流路切替装置収容孔、
127A 圧側油室、127B 伸側油室、
140 減衰力発生装置、250 圧側減衰力発生部、260 伸側減衰力発生部、
300 流路切替装置、303 チェックバルブ、S 圧力抑制流路、T 戻り流路、
Q 温度補償手段、Z 作動油流量制御手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6