【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】高負荷伝動用ベルトCは,エンドレスの張力帯10に複数のブロック20が係止されている。複数のブロック20のそれぞれは、プーリ接触面であるベルト幅方向の両側面を構成する部分が、粉状の窒化ホウ素がマトリクス樹脂に分散して含まれていると共に、繊維補強材が15質量%以上含まれた樹脂組成物で形成されている。
ベルト長さ方向に延びるように設けられたエンドレスの張力帯と、前記張力帯に沿って配設され、各々、前記張力帯に係止された複数のブロックと、を備え、前記複数のブロックのそれぞれのベルト幅方向の両側面がプーリ接触面を構成する高負荷伝動用ベルトであって、
前記複数のブロックのそれぞれは、プーリ接触面であるベルト幅方向の両側面を構成する部分が、粉状の窒化ホウ素がマトリクス樹脂に分散して含まれていると共に、繊維補強材が15質量%以上含まれた樹脂組成物で形成されている高負荷伝動用Vベルト。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
(高負荷伝動用Vベルト)
図1〜3は本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCを示す。この本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCは、例えば自動車、農業機械、汎用機械等のベルト式無段変速装置等におけるベルト式無段変速装置に用いられるものである。
【0011】
本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCは、一対のエンドレスの張力帯10と複数のブロック20とを備え、一対の張力帯10がベルト長さ方向に並行に延びるように設けられると共に、複数のブロック20がそれらの一対の張力帯10に沿って一定ピッチで相互に間隔をおいて配設され、そして、一対の張力帯10に各ブロック20が係止された構成を有する。本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCは、例えば、ベルト長さが480〜750mm、ベルトピッチ幅が20〜30mm、及びベルト最大厚さが9.0〜17.0mm、並びにブロック20の数が96〜375個、ブロック20の配設ピッチが2〜5mm、ブロック20間の間隔が0.01〜0.5mmである。
【0012】
図4(a)及び(b)は張力帯10を示す。
【0013】
張力帯10は、エンドレスの平帯状に形成されている。張力帯10は、一方の側面が上側及び下側のそれぞれで傾斜面に面取り加工されていると共に、他方の側面が傾斜面に形成されている。張力帯10は、上面にベルト幅方向に延びるように形成された断面略コの字溝からなる上側嵌合凹部11がベルト長さ方向に一定ピッチで配設されていると共に、各上側嵌合凹部11に対応するように、下面にベルト幅方向に延びるように形成された断面円弧溝からなる下側嵌合凹部12がベルト長さ方向に一定ピッチで配設されている。張力帯10は、例えば、長さが480〜750mm、幅が6〜13mm、及び厚さが1.0〜5.0mm(好ましくは1.5〜3.0mm)である。特に上側嵌合凹部11と下側嵌合凹部12との底部間の最も薄い部分の厚さt
1は例えば0.606〜3.0mm(好ましくは0.606〜1.5mm)である。
【0014】
張力帯10は、張力帯本体が保形ゴム層13で構成されている。保形ゴム層13には、ベルト厚さ方向の略中央に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線14が埋設されている。保形ゴム層13には、外周側表面を被覆するように上側補強布15が貼設されており、また、内周側表面を被覆するように下側補強布16が貼設されている。なお、張力帯10は、上側補強布15及び下側補強布16が設けられずに、保形ゴム層13及び心線14のみで構成されていてもよい。
【0015】
保形ゴム層13は、原料ゴムに種々のゴム配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたゴム組成物で形成されている。
【0016】
原料ゴムとしては、例えば、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)、エチレン・プロピレンコポリマー(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン・オクテンコポリマー、エチレン・ブテンコポリマーなどのエチレン−α−オレフィンエラストマー等が挙げられる。原料ゴムは、ジメタクリル酸亜鉛やジアクリル酸亜鉛等の不飽和カルボン酸金属塩が添加されて強化された水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)であってもよい。原料ゴムは、単一種で構成されていてもよく、また、複数種がブレンドされて構成されていてもよい。配合剤としては、加硫促進剤、可塑剤、シリカやカーボンブラックなどの補強材、老化防止剤、共架橋剤、架橋剤、短繊維等が挙げられる。
【0017】
心線14は、アラミド繊維、PBO繊維、カーボン繊維等の高強度繊維の撚り糸或いは組紐に接着処理が施されたもので構成されている。心線14は、例えば、800〜1200dtexのフィラメント束で構成され、外径が0.5〜1.4mmである。
【0018】
心線14の接着処理は、例えば、エポキシ溶液又はイソシアネート溶液の処理液に浸漬した後に加熱する第1処理、及びRFL水溶液に浸漬した後に加熱する第2処理で構成される。第2処理の後、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させる第3処理を施してもよいが、この第3処理は施さないことが好ましい。
【0019】
上側及び下側補強布15,16のそれぞれは、アラミド繊維やナイロン繊維等の織布、編物、或いは不織布に、エポキシ溶液或いはイソシアネート溶液に浸漬した後に加熱する第1処理、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する第2処理、及び必要に応じてゴム糊に浸漬或いはゴム糊をコートした後に乾燥させる第3処理が施されたもので構成されている。上側及び下側補強布15,16のそれぞれは、厚さが例えば0.2〜0.4mmである。
【0020】
図5(a)及び(b)はブロック20を示す。
【0021】
ブロック20は、平面視で上底が下底よりも長い台形状の板状体であって、ベルト幅方向の両側面のそれぞれに開口したスリット状の嵌合部21を有する「H」の文字を横にしたような形状に構成されている。ブロック20は、側面視で嵌合部21より上側部分が均一厚さに形成されている一方、嵌合部21より下側部分が下方に向かうに従って厚さが薄くなるように形成されている。ブロック20の両側面のそれぞれは、嵌合部21よりも上側が上側プーリ接触面22及び下側が下側プーリ接触面23にそれぞれ構成されている。ブロック20の両側面のなす角度、つまり、V角度は例えば20〜28°である。
【0022】
ブロック20の各嵌合部21は、中央側の奥部から側部の開口に向かって均一な間隔で水平に延びるように形成されている。各嵌合部21は、上面にベルト幅方向に延びる断面略矩形状の突条からなる上側嵌合凸部24が形成されていると共に、下面にベルト幅方向に延びる断面円弧状の突条からなる下側嵌合凸部25が形成されている。各嵌合部21は、奥部が上面から連続して奥側に傾斜した面とその面に連続して外側に傾斜して下面に続く面とによって構成されている。各嵌合部21は、例えば、ベルト厚さ方向の隙間の隙間t
2が0.6〜2.8mm(好ましくは0.6〜1.4mm)、及びベルト幅方向の奥行き、つまり、張力帯10の挿入幅wが6〜13mmである。
【0023】
ブロック20は、正面中央の両嵌合部21の間に円錐台形状の係合凸部26が突設されていると共に、対応する背面中央の両嵌合部21の間に係合凹部27が設けられている。
【0024】
ブロック20は、マトリクス樹脂に粉状の窒化ホウ素を含む各種配合剤が配合された樹脂組成物で形成されている。従って、ブロック20の両側面の上側プーリ接触面22及び下側プーリ接触面23を構成する部分は、粉状の窒化ホウ素が配合された樹脂組成物で形成されている。
【0025】
マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であっても、どちらでもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂(PA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、液晶ポリマー樹脂(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)等が挙げられる。成形性を考慮すると、これらのうちポリアミド樹脂(PA)が好ましい。ポリアミド樹脂(PA)としては、脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂のマトリクス樹脂には、上記のうち1種又は2種以上が用いられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、熱硬化性ポリイミド樹脂(PI)等が挙げられる。熱硬化性樹脂のマトリクス樹脂には、これらのうち1種又は2種以上が用いられる。
【0026】
被覆層29を形成する樹脂組成物におけるマトリクス樹脂の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0027】
ブロック20を形成する樹脂組成物には、粉状の窒化ホウ素がマトリクス樹脂に分散して含まれている。粉状の窒化ホウ素における窒化ホウ素の含有量は、最も好ましくは100質量%であるが、好ましくは87質量%以上、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは99質量%以上である。粉状の窒化ホウ素には、窒化ホウ素以外に微量のB
2O
3やFe等の金属が含まれていてもよい。
【0028】
粉状の窒化ホウ素の比表面積は、高い放熱性を得る観点から、好ましくは2m
2/g以上、より好ましくは6m
2/g以上であり、また、好ましくは34m
2/g以下、より好ましくは10m
2/g以下である。
【0029】
粉状の窒化ホウ素のメジアン径(D
50)は、高い放熱性を得る観点から、好ましくは4.0μm以上、より好ましくは6.0μm以上であり、また、好ましくは18.0μm以下、より好ましくは11.0μm以下である。
【0030】
粉状の窒化ホウ素のタップ密度は、高い放熱性を得る観点から、好ましくは0.4g/cm
3以上、より好ましくは0.5g/cm
3以上であり、また、好ましくは0.8g/cm
3以下、より好ましくは0.7g/cm
3以下である。
【0031】
粉状の窒化ホウ素の結晶化度(GI値)は、高い放熱性を得る観点から、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上であり、また、好ましくは7.5以下、より好ましくは1.5以下である。
【0032】
市販の粉状の窒化ホウ素としては、例えば、電気化学工業社製の「デンカボロンナイトライド」が挙げられる。
【0033】
ブロック20を形成する樹脂組成物における粉状の窒化ホウ素の含有量は、高い放熱性を得る観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは65質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0034】
ブロック20を形成する樹脂組成物には、繊維補強材が15質量%以上含まれている。繊維補強材としては、例えば、マトリクス樹脂に分散して含まれた短繊維、マトリクス樹脂が含浸され規則正しく配向した織布等の長繊維等が挙げられる。これらのうち短繊維が好ましい。
【0035】
繊維補強材の短繊維としては、例えば、カーボン短繊維、ガラス短繊維、金属短繊維などの無機短繊維、アラミド短繊維、PBO短繊維、芳香族ポリエステル短繊維等の有機短繊維が挙げられる。これらのうち補強性及び放熱性の観点からは無機短繊維が好ましく、カーボン短繊維がより好ましい。カーボン短繊維としては、PAN系カーボン短繊維及びピッチ系カーボン短繊維が挙げられる。短繊維は、上記のうち1種又は2種以上が用いられる。
【0036】
ブロック20を形成する樹脂組成物中における短繊維の繊維長は、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。短繊維の繊維径は、例えば7〜20μmである。
【0037】
ブロック20を形成する樹脂組成物における短繊維の含有量は、15質量%以上であるが、好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。ブロック20を形成する樹脂組成物における短繊維の含有量は、ブロックの放熱性と曲げ強度とのバランスを考慮して、粉状の窒化ホウ素の含有量よりも多いことが好ましい。また、ブロック20を形成する樹脂組成物における短繊維の含有量の粉状の窒化ホウ素の含有量に対する質量比は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上である。
【0038】
ブロック20を形成する樹脂組成物には、その他の配合剤として、例えば、グラファイト粉末等が含まれていてもよい。
【0039】
ブロック20を形成する樹脂組成物について、JIS K 7074に基づいて、3点曲げ試験により測定される曲げ強度は、ブロック20の耐久性の観点から、好ましくは150MPa以上、より好ましくは200MPa以上である。
【0040】
ブロック20を形成する樹脂組成物について、JIS K 7218−1986に基づいて、鈴木式摩擦摩耗試験機を用い、100℃の温度雰囲気下、相手材をS45C(メッキ済)、面圧力を5.88MPa、及び摺動速度を50mm/秒として実施される摩擦摩耗試験から算出される動摩擦係数は、高効率で動力を伝達する観点から、好ましくは0.14以上、より好ましくは0.17以上であり、また、プーリへの巻き掛けからスムーズに抜けて円滑に変速する観点から、好ましくは0.32以下、より好ましくは0.25以下である。また、試験片の質量減少の経時変化を示す摩耗曲線から、質量減量の大きい初期摩耗域の後、質量減量が安定する定常摩耗域における比摩耗量は、好ましくは3.6×10
−6mm
3/N・m以下、より好ましくは2.0×10
−6mm
3/N・m以下である。
【0041】
ブロック20は、
図6に示すように、骨格をなす補強材28が中央に配され、その表面を被覆するように被覆層29が設けられた構成を有していてもよい。
【0042】
補強材28は、ブロック20と同様に「H」の文字を横にしたような形状に構成され、ベルト幅方向に延びる上側及び下側ビーム28a,28bの中央部間がセンターピラー28cで上下に連結されている。補強材28は、例えばアルミニウム等の金属材料で形成される。
【0043】
被覆層29は、上記と同様、マトリクス樹脂に粉状の窒化ホウ素を含む各種配合剤が配合された樹脂組成物で形成される。従って、この場合も、ブロック20の両側面の上側プーリ接触面22及び下側プーリ接触面23を構成する部分は、粉状の窒化ホウ素が配合された樹脂組成物で形成されたものとなる。
【0044】
なお、この場合、補強材28の全体が被覆層29で被覆されている必要はなく、少なくともプーリ接触面の両側面(上側及び下側プーリ接触面22,23)を構成する部分及び張力帯10との接触部分(上側及び下側嵌合凸部24,25)が被覆層29で被覆されていればよく、その他の部分では補強材28が露出していてもよい。
【0045】
本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCは、張力帯10が複数のブロック20の嵌合部21にそれらを連結するように嵌め入れられている。具体的には、張力帯10が、面取り加工された一方の側面の方から、各ブロック20の各嵌合部21に挿入され、張力帯10の上面の上側嵌合凹部11にブロック20の嵌合部21の上面の上側嵌合凸部24が嵌合すると共に、張力帯10の下面の下側嵌合凹部12にブロック20の嵌合部21の下面の下側嵌合凸部25が嵌合し、且つ張力帯10の一方の側面が嵌合部21の奥部に当接するように、張力帯10がブロック20の嵌合部21に嵌め入れられている。そして、これによってベルト長さ方向に並行に延びるように設けられた一対の張力帯10に、複数のブロック20が一定ピッチで相互に間隔をおいて配設され、そして、一対の張力帯10に各ブロック20が係止された構造が構成されていると共に、複数のブロック20の各側面の上側プーリ接触面22及び下側プーリ接触面23並びに外側に露出した張力帯10の他方の側面がプーリ接触面に構成されている。また、相互に隣接するブロック20間においては、一方のブロック20の係合凸部26が他方のブロック20の係合凹部27に係合している。
【0046】
本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCでは、ベルト幅方向において、心線埋設位置中心におけるベルト幅(ベルトピッチ幅)Wが例えば20〜30mmである。
【0047】
また、本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCでは、張力帯10の上側及び下側嵌合凹部11,12間の厚さt
1よりもブロック20の嵌合部21の隙間t
2が若干小さい。従って、張力帯10は圧縮状態でブロック20の嵌合部21に嵌め入れられている。ここで、その締め代t
1−t
2は例えば0.006〜0.150mmであり、ブロック20の嵌合部21の隙間の隙間t
2に対する締め代t
1−t
2の割合である締め代率をα={(t
1−t
2)/t
2}×100で表すとするとα=1〜5%であることが好ましい。
【0048】
さらに、本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCでは、張力帯10はブロック20からはみ出して突出した状態に設けられており、これによって高負荷伝動用VベルトCがプーリに進入する際の衝撃を張力帯10により緩和することができる。ここで、その突出量の出代Δdは例えば0.02〜0.25mmであり、一方、既述の通り心線埋設位置中心における張力帯10の挿入幅wが例えば6〜13mmであり、心線埋設位置中心におけるブロック20の張力帯噛合位置での張力帯10の挿入幅wに対する出代Δdの割合である出代率をβ=(Δd/w)×100で表すとするとβ=0.3〜1.5%であることが好ましい。なお、この出代Δdは、高負荷伝動用VベルトCの側面をコントレーサ(輪郭形状測定器)で走査すれば容易に測定することができる。
【0049】
以上の構成の本実施形態に係る高負荷伝動用Vベルトによれば、ブロック20のプーリ接触面であるベルト幅方向の両側面(上側及び下側プーリ接触面22,23)を構成する部分が、粉状の窒化ホウ素がマトリクス樹脂に分散して含まれていると共に、繊維補強材が15質量%以上含まれた樹脂組成物で形成されているので、繊維補強材による補強効果を得ながら、窒化ホウ素によってブロック20の成形加工性の低下を抑制しつつ熱伝導性を高めることができ、従って、高負荷伝動用VベルトCの高い放熱性を得ることができる。
【0050】
図7(a)及び(b)は本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCを用いたベルト式無段変速装置30を示す。
【0051】
このベルト式無段変速装置30は、駆動軸31とそれに平行に配置された従動軸33とを備え、駆動軸31上に駆動プーリ32が、また、従動軸33上に駆動プーリ32と略同径の従動プーリ34が、それぞれ設けられている。駆動プーリ32は、駆動軸31上に回転一体に且つ摺動不能に固定された固定シーブとそれに対向するように回転一体に且つ摺動可能に支持された可動シーブとを備えている。同様に、従動プーリ34は、従動軸33上に回転一体に且つ摺動不能に固定された固定シーブとそれに対向するように回転一体に且つ摺動可能に支持された可動シーブとを備えている。駆動プーリ32及び従動プーリ34のそれぞれは、固定シーブと可動シーブとの間にV溝が構成され、これらの駆動プーリ32及び従動プーリ34のV溝間に高負荷伝動用VベルトCが巻き掛けられている。駆動プーリ32及び従動プーリ34のそれぞれは、プーリピッチ径が40〜150mmの範囲で可変に構成されている。
【0052】
そして、このベルト式無段変速装置30では、ベルト伝動に要する動力が駆動軸31側で供給されて従動軸33側で消費され、また、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径及び従動プーリ34の巻き掛け径が変化することにより高負荷伝動用VベルトCの走行速度が変化するように構成されている。具体的には、駆動プーリ32の可動シーブを固定シーブに接近させ、且つ従動プーリ34の可動シーブを固定シーブから遠ざけると、
図7(a)に示すように、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径の方が従動プーリ34のベルト巻き掛け径よりも大きくなり、その結果、高負荷伝動用VベルトCは高速で走行することとなる。逆に、駆動プーリ32の可動シーブを固定シーブから遠ざけ、且つ従動プーリ34の可動シーブを固定シーブに接近させると、
図7(b)に示すように、駆動プーリ32のベルト巻き掛け径の方が従動プーリ34のベルト巻き掛け径よりも小さくなり、その結果、高負荷伝動用VベルトCは低速で走行することとなる。
【0053】
(高負荷伝動用VベルトCの製造方法)
本実施形態に係る高負荷伝動用VベルトCの製造方法について説明する。
【0054】
<張力帯成形工程>
バンバリーミキサー等のゴム練り加工機に原料ゴム素練りした後、これにゴム配合剤を投入して混練りする。そして、練り上がった未架橋ゴム組成物をカレンダロールによりシート状に加工する。また、撚り糸又は組紐に接着処理を施したものを心線14とする。さらに、織布、編物、或いは不織布に接着処理を施したものを上側及び下側補強布15,16とする。
【0055】
張力帯10の下側嵌合凹部12形状の金型軸方向に延びる突条が周方向に等ピッチで設けられた円筒金型を筒状に形成した下側補強布16で被覆し、その上にシート状に加工した未架橋ゴム組成物を所定層設ける。このとき、シート状の未架橋ゴム組成物の列理方向をベルト長さ方向に対応させてもよく、また、反列理方向をベルト長さ方向に対応させてもよいが、前者とすることが好ましい。
【0056】
次いで、加熱加圧装置の中に円筒金型を入れ、未架橋ゴム組成物の架橋が半分程度進行するように、装置内を所定の温度及び圧力に設定して所定時間その状態を保持する。このとき、未架橋ゴム組成物の架橋が半分程度進行して保形ゴム層13の下側半分の形状が成形されると共に、未架橋ゴム組成物が流動して円筒金型に設けられた突条が下側補強布16を押圧し、下側嵌合凹部12が形成される。
【0057】
続いて、加熱加圧装置の中から円筒金型を取り出し、半架橋したゴム組成物の上から心線14を等ピッチで螺旋状に巻き付け、その上に再びシート状に加工した未架橋ゴム組成物を所定層設け、その上から筒状に形成した上側補強布15を被せる。このとき、未架橋ゴム組成物は、列理方向をベルト長さ方向に対応させてもよく、また、反列理方向をベルト長さ方向に対応させてもよい。
【0058】
次いで、内周面に上側嵌合凹部11形状の軸方向に延びる突条が周方向に等ピッチで設けられた筒状のスリーブを最外層に被せる。
【0059】
そして、加熱加圧装置の中に材料をセットした円筒金型を入れ、装置内を所定の温度及び圧力に設定して所定時間その状態を保持する。このとき、未架橋ゴム組成物が流動してスリーブに設けられた突条が上側補強布15を押圧し、上側嵌合凹部11が形成され、また、半架橋及び未架橋ゴム組成物の架橋が進行して保形ゴム層13が形成される。また、心線14表面の接着剤と保形ゴム層13とが相互拡散することにより、心線14が保形ゴム層13に一体に接着すると共に、上側及び下側補強布15,16に付着した接着剤と保形ゴム層13とが相互拡散することにより、上側及び下側補強布15,16がそれぞれ保形ゴム層13に一体に接着する。以上のようにして、円筒金型表面に円筒状のスラブが成形される。
【0060】
最後に、加熱加圧装置から円筒金型を取り出し、その周面上に形成された円筒状のスラブを脱型し、これを所定幅の帯状に輪切りし、それに面取り加工等を施すことにより張力帯10を成形する。
【0061】
<ブロック成形工程>
オープンロールや密閉式の一軸又は二軸混練機等の樹脂混練機にマトリクス樹脂、粉状の窒化ホウ素、及び繊維補強材を含む各種配合剤を投入して混練する。そして、得られた混練物の樹脂組成物をペレット状に粉砕する。
【0062】
ペレット状の樹脂組成物をブロック成型機に投入してブロック20を成形する。
【0063】
具体的には、ブロック成形型に形成されたキャビティ内に、溶融した樹脂組成物を流入させて冷却後に型開きし、成形品であるブロック20を取り出す。このとき、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂の場合には、生産性の観点から、射出成形によりブロック20を成形することが好ましい。マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、トランスファー成形によりブロック20を成形することが好ましい。なお、マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、成形したブロック20に強度を高めるための熱処理を施すことが好ましい。
【0064】
また、補強材28を有するブロック20を成形する場合には、ブロック成形型に形成されたキャビティ内に補強材28を予めセットして型締めした後、そこに溶融した樹脂組成物を流入させて冷却後に型開きし、補強材28が樹脂組成物の被覆層29内にインサートされた成形品であるブロック20を取り出す。
【0065】
<組立工程>
一方の張力帯10の上側及び下側嵌合凹部11,12にブロック20の上側及び下側嵌合凸部24,25を対応させ、上側及び下側嵌合凹部11,12に上側及び下側嵌合凸部24,25がそれぞれ嵌め入れられるように、ブロック20の一方の嵌合部21に張力帯10を挿入し、ブロック20を張力帯10に係止させる。この操作を、相互に隣接するブロック20間において係合凸部26を係合凹部に係合させつつ、張力帯10の全周について行う。同様に、他方の張力帯10をブロック20の他方の嵌合部21に挿入し、それによって高負荷伝動用VベルトCを得ることができる。
【実施例】
【0066】
(樹脂組成物)
以下の実施例1〜5並びに比較例1及び2の樹脂組成物を調製した。それぞれの構成については表1にも示す。
【0067】
<実施例1>
密閉式の二軸混練機等の樹脂混練機に、マトリクス樹脂として半芳香族ポリアミド樹脂PA9T(クラレ社製 商品名:ジェネスター N1000A)、粉状の窒化ホウ素(電気化学社製 商品名:デンカボロンナイトライド グレードGP、純度:99%、比表面積:8m
2/g、D
50:8.0μm、タップ密度:0.5g/cm
3、結晶化度(G.I.値):1.0)、及び短繊維としてPAN系のカーボン短繊維(三菱レイヨン社製 商品名:TR06NE、繊維長:6mm、繊維径:7μm)を、それぞれ40質量%、10質量%、及び50質量%の含有量となるように投入して混練した。そして、得られた混練物の樹脂組成物をペレット状に粉砕し、これを実施例1とした。
【0068】
<実施例2>
短繊維としてガラス短繊維(セントラルグラスファイバー社製 商品名:ECS03−615、繊維長:3mm、繊維径:9μm)を用い、半芳香族ポリアミド樹脂PA9T、粉状の窒化ホウ素、及びガラス短繊維の含有量を、それぞれ20質量%、10質量%、及び70質量%としたことを除いて実施例1と同様にペレット状の樹脂組成物を作製し、これを実施例2とした。
【0069】
<実施例3>
半芳香族ポリアミド樹脂PA9T、粉状の窒化ホウ素、及びカーボン短繊維の含有量を、それぞれ70質量%、10質量%、及び20質量%としたことを除いて実施例1と同様にペレット状の樹脂組成物を作製し、これを実施例3とした。
【0070】
<実施例4>
マトリクス樹脂としてポリフェニレンサルファイド樹脂(東ソー社製 商品名:SUSTEEL B−385)を用いたことを除いて実施例1と同様にペレット状の樹脂組成物を作製し、これを実施例4とした。
【0071】
<実施例5>
短繊維としてアラミド短繊維(帝人社製 商品名:テクノーラ(CHF1050)、繊維長:3mm、繊維径:12μm)を用い、半芳香族ポリアミド樹脂PA9T、粉状の窒化ホウ素、及びアラミド短繊維の含有量を、それぞれ50質量%、10質量%、及び35質量%としたことを除いて実施例1と同様にペレット状の樹脂組成物を作製し、これを実施例5とした。
【0072】
<比較例1>
粉状の窒化ホウ素を配合せず、半芳香族ポリアミド樹脂PA9T及びカーボン短繊維の含有量を、それぞれ30質量%及び70質量%としたことを除いて実施例1と同様にペレット状の樹脂組成物を作製し、これを比較例1とした。
【0073】
<比較例2>
半芳香族ポリアミド樹脂PA9T、粉状の窒化ホウ素、及びカーボン短繊維の含有量を、それぞれ80質量%、10質量%、及び10質量%としたことを除いて実施例1と同様にペレット状の樹脂組成物を作製し、これを比較例2とした。
【0074】
【表1】
【0075】
(試験評価方法)
<曲げ強度>
実施例1〜5並びに比較例1及び2のそれぞれの樹脂組成物について、JIS K 7074に基づいて、3点曲げ試験により曲げ強度を測定した。
【0076】
<動摩擦係数・被摩耗量>
実施例1〜5並びに比較例1及び2のそれぞれの樹脂組成物について、JIS K 7218−1986に基づいて、鈴木式摩擦摩耗試験機を用い、100℃の温度雰囲気下、相手材をS45C(メッキ済)、面圧力を5.88MPa、及び摺動速度は50mm/秒として摩擦摩耗試験を実施し、そして、そのときの動摩擦係数を算出した。
【0077】
また、試験片の質量減少を1時間ごとに測定して摩耗曲線を得て、その摩耗曲線から、傾きが大きい初期摩耗域の後の傾きが安定する定常摩耗域における比摩耗量を算出した。
【0078】
<ベルト走行耐久性>
図8はベルト走行試験機80を示す。
このベルト走行試験機80は、プーリ径が50.0mmの駆動プーリ81及びプーリ径が123.0mmの従動プーリ82を備え、それらがチャンバー83内に配置されている。
【0079】
実施例1〜5並びに比較例1及び2のそれぞれの樹脂組成物で射出成形した補強材を有さないブロックを用いた高負荷伝動用VベルトCを作製し、それを駆動プーリ81及び従動プーリ82に巻き掛けると共に、従動プーリ82に側方に1961Nのデッドウエイトを負荷してベルト張力を付与し、チャンバー83内を90℃の温度雰囲気として、駆動プーリ81を駆動トルク40.0N・m及び回転数5500rpmで回転駆動させることによりベルト走行させた。そして、ベルト走行時間が160時間以上であったものをA評価、ベルト走行時間が160時間に満たなかったものをB評価とした。
【0080】
<スリップによる溶融の有無>
実施例1〜5並びに比較例1及び2のそれぞれの樹脂組成物で射出成形した補強材を有さないブロックを用いた高負荷伝動用VベルトCを、
図8に示すベルト走行試験機80の駆動プーリ81及び従動プーリ82に巻き掛けると共に、従動プーリ82に側方に1961Nのデッドウエイトを負荷してベルト張力を付与し、駆動プーリ81の駆動トルク及び回転数を徐々に高めていくことなく急激に所定値まで上昇させ、高負荷伝動用VベルトCを駆動プーリ81上でスライディングスリップさせる操作を1分間隔で6回繰り返した。そして、スライディングスリップ後の高負荷伝動用VベルトCのブロックの上側及び下側プーリ接触面の溶融の有無を目視で観察した。
【0081】
(試験評価結果)
試験結果を表1に示す。
【0082】
曲げ強度は、実施例1が320MPa、実施例2が300MPa、実施例3が190MPa、実施例4が310MPa、実施例5が200MPa、比較例1が280MPa、及び比較例2が120MPaであった。
【0083】
動摩擦係数は、実施例1が0.18、実施例2が0.22、実施例3が0.16、実施例4が0.18、実施例5が0.25、比較例1が0.38、及び比較例2が0.24であった。
【0084】
被摩耗量は、実施例1が1.5×10
−6mm
3/N・m、実施例2が1.2×10
−6mm
3/N・m、実施例3が1.8×10
−6mm
3/N・m、実施例4が1.2×10
−6mm
3/N・m、実施例5が2.1×10
−6mm
3/N・m、比較例1が11.7×10
−6mm
3/N・m、及び比較例2が3.1×10
−6mm
3/N・mであった。
【0085】
ベルト走行耐久性は、実施例1〜5及び比較例1の樹脂組成物でブロックが形成された高負荷伝動用VベルトもA評価であり、比較例2の樹脂組成物でブロックが形成された高負荷伝動用VベルトもB評価であった。これより、粉状の窒化ホウ素が分散して含まれた実施例1〜5の樹脂組成物でブロックが形成された高負荷伝動用Vベルトにおいて、ベルト走行耐久性には支障がないことが分かる。
【0086】
スリップによる溶融は、実施例1〜5及び比較例2では認められなかったが、比較例1では認められた。これより、粉状の窒化ホウ素が分散して含まれた実施例1〜5の樹脂組成物で形成したブロックは高い放熱性を有することが推測される。