【解決手段】軸11とスリーブ12との間に潤滑剤を封入した玉軸受(転がり軸受)13を備え、軸11やスリーブ12の軸方向端部にラビリンスシール(シール隙間)16a,16bを備えた構成において、ラビリンスシール16a,16bに磁極が近接するように永久磁石21aを配置した。ラビリンスシール16a,16bにおいて、蒸発油に作用する反磁性を利用した磁性シール効果を与える。
軸と、スリーブと、前記軸と前記スリーブとの間に配置されて該スリーブを前記軸に対して回転自在に支持する、潤滑剤を封入した転がり軸受と、前記軸または前記スリーブの軸方向の少なくとも一方の端部に前記軸または前記スリーブから半径方向に延在してスリーブ内周面または軸外周面との間にシール隙間を形成する環状部と、前記軸受の内部からの前記潤滑剤の油分の拡散経路上で前記軸受の内側に向かうに従って磁束線の間隔が拡大していくか、または磁束線が前記拡散経路と交差するように配置した永久磁石とを具備することを特徴とするピボットアッシー用軸受装置。
軸と、スリーブと、前記軸と前記スリーブとの間に配置されて該スリーブを前記軸に対して回転自在に支持する、潤滑剤を封入した転がり軸受と、前記軸または前記スリーブの軸方向の少なくとも一方の端部に前記軸または前記スリーブから半径方向に延在してスリーブ内周面または軸外周面との間にシール用隙間を形成する環状部と、前記シール用隙間に磁極が近接するように配置した永久磁石とを具備することを特徴とするピボットアッシー用軸受装置。
前記スリーブの端部側に配置した永久磁石は、一方の外径が他方の内径よりも小さい2つの環状永久磁石を磁性体からなる環状ヨークで同心状に連結したものであることを特徴とする請求項8に記載のピボットアッシー用軸受装置。
前記永久磁石は少なくとも前記スリーブまたは前記軸に嵌合されていることを特徴とする請求項1〜5、8、9のうちのいずれか1の項に記載のピボットアッシー用軸受装置。
磁気ヘッドを先端部に搭載したスイングアームを回転可能に支持するピボットアッシー用軸受装置が請求項1〜10のうちのいずれか1の項に記載のピボットアッシー用軸受装置であることを特徴とする磁気ヘッド駆動装置。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク装置等に用いる磁気ヘッド駆動装置において、信号を記録再生する磁気ヘッドを搭載するスイングアームは、一対の玉軸受を備えたピボットアッシー用軸受装置によって支持されている。このようなピボットアッシー用軸受装置においては、磁気ディスクを汚したり、損傷させたりしないように、玉軸受内部に封入されている潤滑剤の飛散や滲み出しあるいは蒸発(漏出)の防止が図られている。
ところで、近年のハードディスク装置の大容量化に伴い、その磁気ヘッド駆動装置の磁気ヘッドと磁気ディスクとの間のギャップが一層小さくなってきたため、ピボットアッシー用軸受装置の玉軸受に封入されている潤滑剤の漏出防止の要望は一層増してきている。
このような要望に鑑みなされた先行技術が記載された文献としては、以下の特許文献1、2が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、玉軸受2個使いの転がり軸受装置において、玉軸受の軸方向外側の少なくとも一方に潤滑剤の飛散や滲み出しを少なくするシールド板を設けたスイングアーム用転がり軸受装置(ピボットアッシー用軸受装置)が記載されている。
これによれば、潤滑剤の飛散や滲み出しが少ないスイングアーム用転がり軸受装置を提供できると記載されている。
【0004】
また特許文献2には、磁性流体シールにより形成される気密室に軸受を配置して、同軸受の内部からの蒸発潤滑油(蒸発油)が磁気ディスクに付着しないようにした磁気ヘッド駆動装置が記載されている。
すなわち、特許文献2の第3図、第4図に示すように、回転軸を取囲む磁性流体シールのシール本体が、軸受と回転体との間に配置されている。このシール本体は、中空円筒状の基体とその基体の両端面に取付けられた中空円板状の2枚の端板とからなる。端板の内周縁は回転軸の外周に近接され、両者間には強磁性微粉末を油性溶媒中に安定に分散させたコロイド状の磁性流体が流し込まれている。磁性流体は、端板の内周縁と回転軸の外周面との両方に付着し、両者間の隙間を完全に閉塞する、というものである。
これによれば、軸受内部からの潤滑油蒸発による潤滑剤の漏出が防止され、軸受内部からの潤滑油蒸発による磁気ディスクへの蒸発油付着を防止でき、磁気ヘッドを常時良好に作動せることができると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載された技術では、シールド板とスリーブ内周面との間に隙間があるので、その隙間からの蒸発油の拡散を防止することは難しく、軸受内部からの蒸発油の拡散を有効に防止することは困難であった。
【0007】
また、特許文献2に記載された技術では、端板と回転軸との隙間を閉塞するために磁性流体が端板の内周縁と回転軸の外周面との両方に付着するので、軸受内部からの蒸発潤滑油(蒸発油)の拡散は防止できる。しかし、軸受外部にある上記磁性流体からの蒸発油の発生、拡散を有効に防止することは難しく、結局、磁気ディスクへの蒸発油の付着を防止することは困難であった。
特許文献2に記載の技術では、軸受の内部からの蒸発油の拡散を防止するために磁性流体を用いた気密室に軸受を配置するが、その磁性流体から蒸発油が発生、拡散してしまう。また、コロイド状の磁性流体により、軸受装置のトルクが大きくなって磁気ヘッドの応答性が低下する虞がある。このため、磁気ディスクへの蒸発油の付着を防止する技術としての有用性は低い。したがって、軸受の外部に磁性流体を用いることなく、つまり気密室に軸受を配置する構成を採ることなく、蒸発油の発生、拡散を防止できるスイングアーム用転がり軸受装置の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、気密室に軸受を配置する構成を採ることなく、玉軸受等の転がり軸受の内部からの蒸発油の拡散を有効に防止できるピボットアッシー用軸受装置を提供することを課題とする。
また、このようなピボットアッシー用軸受装置を用いて、転がり軸受の内部からの蒸発油の拡散を防止し、その蒸発油が磁気ディスクや磁気ヘッドに付着することを有効に防止できる磁気ヘッド駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、請求項1に記載のピボットアッシー用軸受装置は、軸と、スリーブと、前記軸と前記スリーブとの間に配置されて該スリーブを前記軸に対して回転自在に支持する、潤滑剤を封入した転がり軸受と、前記軸または前記スリーブの軸方向の少なくとも一方の端部に前記軸または前記スリーブから半径方向に延在してスリーブ内周面または軸外周面との間にシール隙間を形成する環状部と、前記軸受の内部からの前記潤滑剤の油分の拡散経路上で前記軸受の内側に向かうに従って磁束線の間隔が拡大していくか、または磁束線が前記拡散経路と交差するように配置した永久磁石とを具備することを特徴とする。
請求項2に記載のピボットアッシー用軸受装置は、軸と、スリーブと、前記軸と前記スリーブとの間に配置されて該スリーブを前記軸に対して回転自在に支持する、潤滑剤を封入した転がり軸受と、前記軸または前記スリーブの軸方向の少なくとも一方の端部に前記軸または前記スリーブから半径方向に延在してスリーブ内周面または軸外周面との間にシール隙間を形成する環状部と、前記シール隙間に磁極が近接するように配置した永久磁石とを具備することを特徴とする。
請求項3に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項1または2に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記永久磁石が軸方向に磁化されていることを特徴とする。
請求項4に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項1〜3のうちのいずれか1の項に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記永久磁石が前記スリーブの外周側に配置されていることを特徴とする。
請求項5に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項1〜4のうちのいずれか1の項に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記永久磁石は環状または円筒状であることを特徴とする。
請求項6に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項5に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記永久磁石は円筒状であって、前記スリーブの外周に嵌合されていることを特徴とする。
請求項7に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項5に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記永久磁石は環状であって、軸方向に複数個積み重ねられて前記スリーブの外周に嵌合されていることを特徴とする。
請求項8に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項1〜3のうちのいずれか1の項に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記永久磁石が前記スリーブの端部側に配置されていることを特徴とする。
請求項9に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項8に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記スリーブの端部側に配置した永久磁石は、一方の外径が他方の内径よりも小さい2つの環状永久磁石を磁性体からなる環状ヨークで同心状に連結したものであることを特徴とする。
請求項10に記載のピボットアッシー用軸受装置は、請求項1〜5、8、9のうちのいずれか1の項に記載のピボットアッシー用軸受装置において、前記永久磁石は少なくとも前記スリーブまたは前記軸に嵌合されていることを特徴とする。
請求項11に記載の磁気ヘッド駆動装置は、磁気ヘッドを先端部に搭載したスイングアームを回転可能に支持するピボットアッシー用軸受装置が請求項1〜10のうちのいずれか1の項に記載のピボットアッシー用軸受装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜10に記載の発明によれば、気密室に軸受を配置する構成を採ることなく、玉軸受等の転がり軸受の内部からの蒸発油の拡散を有効に防止できるピボットアッシー用軸受装置を提供できる。
請求項11に記載の発明によれば、転がり軸受の内部からの蒸発油の拡散を防止し、その蒸発油が磁気ディスクや磁気ヘッドに付着することを有効に防止できる磁気ヘッド駆動装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明するが、それに先立ち、まず本発明に至った経緯および本発明の原理について説明する。
ピボットアッシー用軸受装置の動作中にその軸受の温度が上がってくると、グリース等の潤滑剤の油分が蒸発し、蒸発油が玉軸受等の転がり軸受の内部から外部へ漏出して拡散する。したがって、このようなピボットアッシー用軸受装置が磁気ヘッド駆動装置に適用されている場合には、上記蒸発油が磁気ディスクや磁気ヘッドに付着し、信号の記録再生動作に障害を及ぼす問題が発生する。
従来、上記のようにシールド板や磁性流体シールを設けたり、低蒸発性に優れるエステル油を基油とするグリースを潤滑剤として採用することによって、潤滑剤に含まれる油分の拡散をある程度防止できた。しかし、蒸発した油分の拡散を防止することへの要求は依然として高い。
また、気密室に軸受を配置することで、軸受内部からの蒸発油の拡散を防止する構成では、軸受内部からの蒸発油の拡散を防止できても、軸受外部の磁性流体から蒸発油が発生、拡散するので、磁気ディスクへの蒸発油の付着を防止する技術としての有用性は低い。
したがって、気密室に軸受を配置する構成を採ることなく、転がり軸受の内部からの蒸発油の拡散を有効に防止できるピボットアッシー用軸受装置の開発が課題となっていた。
【0013】
本発明者らは、鋭意実験、検討の結果、ピボットアッシー用軸受装置の転がり軸受内部のグリース等の潤滑剤から発生する蒸発油の拡散を、磁場を用いることで有効に防止できることを見い出すに至った。
すなわち本発明者らは、上記潤滑剤から蒸発する基油成分が反磁性を有することに着目し、磁石による斥力によって同潤滑剤から蒸発する油成分をピボットアッシー用軸受装置の転がり軸受の内部に封じ込め、外部への拡散を有効に防止する磁性シールを案出するに至った。なお、グリース等の潤滑剤から蒸発する基油成分としては、例えばPAO(ポリアルファオレフィン)やエステル油成分等が挙げられる。
【0014】
上記磁性シールの原理について、以下に説明する。
反磁性(Diamagnetism)とは、磁場空間において物質が磁場の逆向きに磁化され、磁場とその勾配の積に比例する力が、磁石に反発する方向に生ずる作用を指す。水、銅、木、および石油やプラスチックのような大半の有機物は反磁性を示す。潤滑油や潤滑剤中のグリースに用いられる基油等も反磁性を示す材料である。
【0015】
ここで、磁束密度Bの磁場において、反磁性材料mに対して作用する例えばx方向への反発力Fxは以下の式(1)で表される。
【数1】
ただし、
μ
0:真空中の透磁率(定数4π×10
-7 H/m)
χ
m:体積磁化率 (材料mの物性値)
B:磁束密度
∂B/∂x:x方向における磁束密度の勾配(磁場の勾配)
である。
なお、偏微分の項は、
∂B
2/∂x=2B(∂B/∂x)
に展開できるので、上式(1)は以下の式(2)のようにも表せる。
【数2】
上式(2)において、μ
0とχ
mは定数なので、反発力Fxは∂B
2/∂xに正比例することが分かる。y方向およびz方向へ作用する反発力も同様のことが言える。言い換えると、Fx、Fy、Fzは下式(3)で表せる。
Fx ∝ ∂B
2/∂x
Fy ∝ ∂B
2/∂y …(3)
Fz ∝ ∂B
2/∂z
したがって、反磁性による磁性シールを構成するためには、グリース等の潤滑剤から蒸発した有機分子の拡散経路上において磁束密度の2乗の勾配〔上式(2)では∂B
2/∂x〕の値が大きくなるように、言い換えれば、磁場の勾配がなるべく大きくなるように磁石(永久磁石)を配置することが好ましい。磁場の勾配は、磁束密度が高い領域ほど大きいので、磁束線の本数が多いほうが、すなわち、できるだけ磁束線の間隔が狭い磁場領域が拡散経路と重なるようにするほうがよい。
【0016】
以上の考察を模式図(
図1、
図2)を参照しつつ以下に説明する。
1)
図1に例示するように、空間1に磁場が作用してない状態で、同空間1に強磁性体の微粒子2を置いた場合、同微粒子2は、拡散経路1aをランダムに運動して拡散していく(
図1中、矢印3参照)。
すなわち、空間1に磁石がない場合、強磁性体である鉄微粒子等の微粒子2は、ランダムに拡散運動している(密度の低い矢印4に示す右側へ拡散していく)。
【0017】
2)
図2に例示するように、空間1に磁石5によって磁場が作用している状態で、同空間1に反磁性体の蒸発油7を置いた場合、蒸発油7には、磁石5から反発する方向に力が作用する。したがって蒸発油7は、
図2中の拡散経路1aにおいて、磁石5からの直線状の磁束線の左側または右側に反発される(
図2中、矢印8参照)。このとき、左側をピボットアッシー用軸受装置の転がり軸受の内側とすれば、左側へ向かった蒸発油7は拡散が防止されたことになる。万が一右側に到達した蒸発油7も反発されて拡散経路1aの壁面1bに付着するので拡散が防止される。したがって、反磁性による反発力を利用して上記転がり軸受内部のグリース等の潤滑剤からの蒸発油7の拡散を防止するためには、蒸発油7の拡散経路1aとなる隙間と磁石5の磁束線との位置関係が重要になる。具体的には、拡散経路1a上で転がり軸受の内側に向かうに従って磁束線の間隔が拡大していくか、または磁束線が拡散経路1aと交差するように磁石5を配置することが、反磁性による反発力を利用して蒸発油7の拡散を防止する上で好ましい。
【0018】
すなわち、空間1に磁石5がある場合、反磁性体である蒸発油7は、磁束線に沿うように磁極方向と反対の力が加わり磁極から遠ざかる。
そして、反磁性による反発力Fxは、上式(2)により、磁束密度の勾配を表す∂B
2/∂xが大きいほど、すなわち単位面積当たりの磁束線の本数が多いほど、大きくなる性質を有する。したがって、反磁性による反発力を利用して蒸発油7の拡散を防止するためには、蒸発油7の拡散経路1aとなる隙間において磁束線が密になっているほうが好ましく、本発明はこれらの考察に基づいている。
【0019】
以下、本発明によるピボットアッシー用軸受装置の実施例を比較例と共に説明する。
本実施例では、ピボットアッシー用軸受装置の転がり軸受(ここでは玉軸受)は、その全部品が磁性材からなり、玉軸受部品以外のピボットアッシー用軸受装置の部品、例えば軸、スリーブ、シール板等は非磁性材からなる。
【0020】
本発明が適用されるピボットアッシー用軸受装置(ピボットアッシー用軸受装置の基本構成)は、
図3に示すように、軸11、スリーブ12、一対の玉軸受13,13、スペーサ部15、およびラビリンスシール16(16a,16b)を備えてなる。
この場合、スリーブ12は、ほぼ円筒状に形成され、軸11の外周側に同軸的に配置される。
一対の玉軸受13は、各々内輪13a、外輪13b、および内,外輪13a,13b相互間に保持された玉13c等を備え、内部にグリース、潤滑油等の潤滑剤が封入されてなる。玉軸受13は、軸11の
図3中の上下端側に間隔を置いて配置され、各々内輪13aが軸11の外周に嵌め込み固定され、外輪13bがスリーブ12の内周に嵌め込み固定されて、スリーブ12を軸11の周りに回転自在に支持する。
スペーサ部15は、玉軸受13,13間におけるスリーブ12の内周側に形成されている。
ラビリンスシール16(16a,16b)は、玉軸受13,13に封入された潤滑剤の漏出を防止するために設けられるシール隙間であって、軸11の端部に設けられている。
【0021】
上記軸11の一方の端部、ここでは下端部にはフランジ部11aが形成されている。このフランジ部11aは、外周面がスリーブ12の内周面と隙間を有して対向するように外形寸法が設定されている。この隙間は第1ラビリンスシール(シール隙間)16aを形成する。
また、上記軸11の他方の端部、ここでは上端部には、環状の第1シール板17が嵌合されている。また、第1シール板17よりも軸方向外側には、環状の第2シール板18がスリーブ12内周面に嵌合されている。第1シール板17および第2シール板18は、第1シール板17の外周面とスリーブ12内周面との間、第1シール板17と第2シール板18との間、および第2シール板18と軸11との間に、各々隙間g1〜g3が形成されるように設定されている。これらの隙間は第2ラビリンスシール(シール隙間)16bを形成する。
なお、玉軸受13を構成する内輪13a、外輪13b、玉13c等の金属製軸受部品は磁性を有する鋼で作製されている。軸11、スリーブ12、スペーサ部15、シール板17,18等の玉軸受13構成部品以外のピボットアッシー用軸受装置の金属部品は非磁性材で作製されている。
【0022】
本発明者らは、上記のような基本構成(
図3)を有するピボットアッシー用軸受装置の異なる位置に後述するように永久磁石を配置して磁性シール効果を確認するシミュレーションを行った。同シミュレーションでは、軸方向をy方向と定め、原点を軸11下端側に置き、同上端側をプラス方向として計算を行った。
上記のような基本構成においては、蒸発油7(
図1、
図2参照)の拡散を防止する効果はy方向(軸方向)の反発力による寄与が大きい。したがって、本シミュレーションでは∂B
2/∂yが大きいほど、蒸発油7の拡散を防止する磁性シール効果が高いと評価した。
【0023】
<実施例1>
図4に示すように、円筒状永久磁石21aを、
図3に示す基本構成のスリーブ12の外周に同軸的に嵌め込み配置し、実施例1とした。この円筒状永久磁石21aは、軸方向(図中上下方向)に磁化されていて、軸方向一方側の端面がN極、他方側の端面がS極となっている。円筒状永久磁石21aは、その磁極がラビリンスシール16a,16bに近接して配置される。円筒状永久磁石21aの磁極(円筒状永久磁石21a端面)は、玉軸受13の軸方向中心からスリーブ12端面の間の軸方向位置に重なるようにラビリンスシール(シール隙間)16a,16bに近接していることが好ましい。
円筒状永久磁石21aは、単体で円筒状にした構造、または複数の環状永久磁石を軸方向に重ねて円筒状にした構造のどちらでもよい。
実施例1に対するシミュレーション結果(
図5参照):
図5に示される磁束線図をみると、その磁束線の分布からも、円筒状永久磁石21a端面(磁極)が、蒸発油7の拡散経路1a(
図2参照)となるラビリンスシール16a,16bに近接していることが分かる。したがって、実施例1の構成によれば、反磁性を利用した磁性シール効果が得られることが分かる。
【0024】
<実施例2>
図6に示すように、環状永久磁石21bを、
図3に示す基本構成のスリーブ12の端面に嵌め込み配置し、実施例2とした。この環状永久磁石21bは、軸方向に磁化されていて、磁極はラビリンスシール16a,16bに近接して配置される。
実施例2では、環状永久磁石21bは、直径の異なる2つの環状永久磁石mg1,mg2を、内径側と外径側とで磁極が逆向きになるように作製、配置し、強磁性体の環状ヨーク22で同心状に連結した構成とする。これにより、磁場が強くなって反磁性による磁性シール効果が高められる。
実施例2に対するシミュレーション結果(
図7参照):
図7に示される磁束線図をみると、玉軸受13,13の内部に向かう磁束線が、蒸発油7の拡散経路1a(
図2参照)となるラビリンスシール16a,16bと重なっていることが分かり、反磁性による磁性シールの効果が得られることが分かる。
【0025】
<比較例1>
比較例1では、
図8に示すように、円筒状永久磁石21aを
図3に示す基本構成のスリーブ12の外周に同軸的に配置するが、磁極はラビリンスシール16a,16bに近接していない構成とした。
比較例1に対するシミュレーション結果(
図9参照):
図9に示される磁束線図をみると、磁束線の密度が低い磁場の領域が、蒸発油7の拡散経路1a(
図2参照)となるラビリンスシール16a,16bと重なっていることが分かる。したがって、上記蒸発油7に作用する反磁性による反発力が小さく、有効な磁性シール効果が得られないことが分かる。
【0026】
<比較例2>
比較例2では、
図10に示すように、円筒状永久磁石21aを
図3に示す基本構成の軸11の両端部(図中、上下各端部)に形成した凹部19に配置するが、磁極はラビリンスシール16a,16bから離れている構成とした。
比較例2に対するシミュレーション結果(
図11参照):
図11に示される磁束線図をみると、蒸発油7の拡散経路1a(
図2参照)となるラビリンスシール16a,16bは、磁束線の密度が低い磁場の領域となっている。したがって、上記蒸発油7に作用する反磁性による反発力が小さく、有効な磁性シール効果が得られないことが分かる。
【0027】
<磁性シール効果の確認>
図12(表)に、上記シミュレーションによって得られた∂B
2/∂yの値を、上記実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2について示す。
上式(2)より、反発力Fyは∂B
2/∂yに正比例するので∂B
2/∂yの値が大きいほど上記蒸発油7の拡散を防止する磁性シール効果が大きくなる。
図12に示す表から分かるように、実施例1、実施例2における∂B
2/∂yの値は、いずれも比較例1、比較例2における∂B
2/∂yの値に比べて大きい。
実施例1では、後述するように、実際に試験を行って磁性シール効果が確認されているので、∂B
2/∂yの値が0.005以上であれば磁性シール効果があるとみなすことができる。したがって、∂B
2/∂yの値が0.010である実施例2についても磁性シール効果があるとみなせる。
しかし、比較例1と比較例2とは、∂B
2/∂yの値がいずれも0.005未満なので磁性シール効果は低いとみなせる。
【0028】
実施例1に係るピボットアッシー用軸受装置の磁性シール効果の確認試験は以下の要領で行った。
実施例1に係るピボットアッシー用軸受装置100の具体例としては、
図13に示すように、スリーブ12外周に、5個の環状永久磁石21cを軸方向に重ねて円筒状永久磁石21aとしたものを用いた。環状永久磁石21cの表面磁束密度は303mTである。
図13に示すようにカップ状に形成されたアルミニウム製のカバー31の上面板裏面中央に実施例1に係るピボットアッシー用軸受装置100をネジ32により固定し、同カバー31を、潤滑層が施されていない磁気ディスク33の表面(磁気ディスク表面33a)とピボットアッシー用軸受装置100が対向するように設置した。この際、ピボットアッシー用軸受装置100の最下部と磁気ディスク表面33aとの間隔は1.0mm程度である。
この状態でオーブン内で100℃まで加熱し、そのまま100℃の定温で24時間放置する確認試験を行った。比較のため、同条件で同様の確認試験を、上記円筒状永久磁石21aを取り付けていないピボットアッシー用軸受装置(
図3に示す基本構成のピボットアッシー用軸受装置)101についても行った。
【0029】
上記磁性シール効果の確認試験の結果(実験結果)を以下に示す。
図14(a),(b)は、磁気ディスク33の回転角度0°〜180°における磁気ディスク表面33aの付着物の膜厚を、表面分析装置(Optical Surface Analyzer、Candela社製)で測定し、マッピングした図である。この表面分析装置では、偏光した光を斜め入射させて、反射光の反射率を測定することで、反射率に対応した磁気ディスク表面33aの薄膜の膜厚分布を、色分けやグレースケールで表示させることができる。表示された色が濃いほど、または濃度が高いほど膜厚が大きい、すなわち上記蒸発油7に起因する付着物が多いことを示す。
図14(a),(b)では、グレースケールで表示しているので、濃度が高いほど、つまり黒に近くなるほど付着物が多いことを示す。
図14(a)が、
図3に示す基本構成のピボットアッシー用軸受装置101に対応したマッピング図、
図14(b)が、実施例1に係るピボットアッシー用軸受装置100に対応したマッピング図である。
これら、
図14(a),(b)に示すマッピング図を比較対照すれば、
図14(b)に示す実施例1に係るピボットアッシー用軸受装置100のほうに付着物が少ないことが確認できる。
【0030】
図15は、上記磁性シール効果の確認試験の結果を示す図である。詳しくは、磁気ディスク33の半径方向中央付近の所定位置におけるトラック半周(回転角度0°〜180°)について、磁気ディスク表面33aの上記反射率の変化を百分率(%)で表したグラフである。
図15中、曲線αが円筒状永久磁石21aを配置していないピボットアッシー用軸受装置101の反射率変化を示し、曲線βが円筒状永久磁石21aを配置してあるピボットアッシー用軸受装置100(実施例1)の反射率変化を示す。
図15において、磁気ディスク表面33aに付着物がない場合は反射率が変化しないので、変化率の値が0%に近いほど蒸発油7に起因する付着物が少ないことを意味する。
曲線βのほうが曲線αよりも全般的に反射率変化が小さい。したがって、ここからも、実施例1に係るピボットアッシー用軸受装置100のほうに付着物が少ないことが確認できる。
【0031】
以上述べたように、本発明によるピボットアッシー用軸受装置の実施例1,2によれば、軸11とスリーブ12との間に潤滑剤を封入した玉軸受13を備え、軸11、スリーブ12の軸方向端部にラビリンスシール(シール隙間)16a,16bを備えた構成において、ラビリンスシール16a,16bに磁極が近接するように永久磁石21aまたは21bを配置した。
これによれば、ラビリンスシール16a,16bによる玉軸受13内部の潤滑剤の漏出防止効果に加えて、上記磁性シール効果が与えられるので、気密室に軸受を配置する構成を採ることなく、玉軸受13の内部からの蒸発油の拡散を有効に防止できる。
【0032】
特に実施例2によれば、直径の異なる2つの環状永久磁石mg1,mg2を、内径側と外径側とで磁極が逆向きになるように作製、配置し、強磁性体の環状ヨーク22で同心状に連結して環状永久磁石21bを構成したので、小型でありながら、磁場が強くなって反磁性による上記磁性シール効果を高めることができる。
【0033】
上記実施例1,2では、転がり軸受として玉軸受を用いた場合について説明したが、他の転がり軸受、例えばころ軸受を用いてもよい。
また、本発明によるピボットアッシー用軸受装置は、ハードディスク装置等に用いる磁気ヘッド駆動装置において、信号を記録再生する磁気ヘッドを搭載するスイングアームを支持するピボットアッシー用軸受装置に適用できる。
このような磁気ヘッド駆動装置によれば、玉軸受(転がり軸受)の内部からの蒸発油の拡散を防止し、その蒸発油が磁気ディスクや磁気ヘッドに付着することを有効に防止できる。