特開2015-153968(P2015-153968A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オートネットワーク技術研究所の特許一覧 ▶ 住友電装株式会社の特許一覧 ▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特開2015-153968リアクトルの製造方法およびリアクトル
<>
  • 特開2015153968-リアクトルの製造方法およびリアクトル 図000004
  • 特開2015153968-リアクトルの製造方法およびリアクトル 図000005
  • 特開2015153968-リアクトルの製造方法およびリアクトル 図000006
  • 特開2015153968-リアクトルの製造方法およびリアクトル 図000007
  • 特開2015153968-リアクトルの製造方法およびリアクトル 図000008
  • 特開2015153968-リアクトルの製造方法およびリアクトル 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-153968(P2015-153968A)
(43)【公開日】2015年8月24日
(54)【発明の名称】リアクトルの製造方法およびリアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/12 20060101AFI20150728BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20150728BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20150728BHJP
【FI】
   H01F41/12 Z
   H01F37/00 J
   H01F37/00 M
   H01F37/00 C
   H01F27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-28142(P2014-28142)
(22)【出願日】2014年2月18日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】高田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】吉川 浩平
【テーマコード(参考)】
5E044
【Fターム(参考)】
5E044AA08
5E044AB01
5E044CA01
5E044CA08
5E044CB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】注型樹脂を用いなくても、振動によるコイルターン間の絶縁破壊が抑制されるとともに、コイルの冷却を行うことができるリアクトルの製造方法、およびリアクトルを提供する。
【解決手段】導体線の表面が絶縁被覆層に覆われた素線11の表面の一部に、硬化性樹脂12’を未硬化の状態で塗布する工程と、塗布した前記硬化性樹脂12’を硬化させる工程と、前記硬化性樹脂12’を配置した部位を、隣接するコイルターンが相互に対向する部位に配置しながら、前記素線11を巻き回してコイルを形成する工程と、をこの順に連続的に実行する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線の表面が絶縁被覆層に覆われた素線の表面の一部に、硬化性樹脂を未硬化の状態で塗布する工程と、
塗布した前記硬化性樹脂を硬化させる工程と、
前記硬化性樹脂を配置した部位を、隣接するコイルターンが相互に対向する部位に配置しながら、前記素線を巻き回してコイルを形成する工程と、を
この順に連続的に実行することを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項2】
前記コイルは、角型コイルであり、少なくとも前記角型コイルの角部に前記硬化性樹脂を配置することを特徴とする請求項1に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項3】
前記硬化性樹脂を相対的に前記コイルの中心軸に近い領域に配置し、前記硬化性樹脂に被覆されずに前記素線が露出した部位を、前記硬化性樹脂を配置する領域よりも前記コイルの中心軸から遠い領域に配置することを特徴とする請求項1または2に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項4】
前記硬化性樹脂を、前記素線の軸線方向に沿って、不連続に配置することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項5】
前記硬化性樹脂を、前記素線の軸線方向全体にわたって連続的に配置することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項6】
前記硬化性樹脂は、光硬化性を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とするリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルの製造方法およびリアクトルに関し、さらに詳しくは、素線表面に硬化性樹脂よりなる層が形成されたリアクトルの製造方法、およびそのようなリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や、電気自動気車、燃料電池自動車等の車両に搭載されるDC−DCコンバータ等の電力変換装置には、コイルを備えてなるリアクトルが用いられる。リアクトルの構造は、例えば特許文献1に開示されている。図6に、特許文献1に記載されているような従来一般のリアクトル90について、断面図を示す。リアクトル90においては、磁心(コア)92を挿通されたコイル91が、側壁部93と底板部94よりなるケースの中に収容されている。そして、ケースの内部の空間には、注型樹脂(封止樹脂)95が充填されている。注型樹脂95は、コイル91の絶縁を維持する役割や、コイル91の冷却を促進する役割を有する。注型樹脂95は、コイル91のコイルターン間にも浸入し、コイル91全体の絶縁のみならず、コイルターン間の絶縁にも効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−253384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来一般のリアクトル90において、ケース内に充填された注型樹脂95は、温度変化などによって割れを生じる場合がある。すると、上記のような注型樹脂95の機能が十分に果たされなくなる。そこで、注型樹脂95を用いることなく、コイル91の絶縁と冷却を行えるリアクトルを製造することを検討する余地がある。
【0005】
しかし、注型樹脂95を用いない場合には、リアクトル90が搭載された車両の振動等によって、コイル91が振動を起こし、コイルターン間で摩擦が発生する。コイルターン間で摩擦が起こると、コイル91の素線の外周に形成されたエナメル等よりなる絶縁被覆が摩耗し、コイルターン間の絶縁が保てなくなる恐れがある。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、注型樹脂を用いなくても、振動によるコイルターン間の絶縁破壊が抑制されるとともに、コイルの冷却を行うことができるリアクトルを製造するための製造方法、およびそのようなリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明にかかるリアクトルの製造方法は、導体線の表面が絶縁被覆層に覆われた素線の表面の一部に、硬化性樹脂を未硬化の状態で塗布する工程と、塗布した前記硬化性樹脂を硬化させる工程と、前記硬化性樹脂を配置した部位を、隣接するコイルターンが相互に対向する部位に配置しながら、前記素線を巻き回してコイルを形成する工程と、をこの順に連続的に実行することを要旨とする。
【0008】
ここで、前記コイルは、角型コイルであり、少なくとも前記角型コイルの角部に前記硬化性樹脂を配置することが好ましい。
【0009】
また、前記硬化性樹脂を相対的に前記コイルの中心軸に近い領域に配置し、前記硬化性樹脂に被覆されずに前記素線が露出した部位を、前記硬化性樹脂を配置する領域よりも前記コイルの中心軸から遠い領域に配置することが好ましい。
【0010】
そして、前記硬化性樹脂を、前記素線の軸線方向に沿って、不連続に配置するとよい。
【0011】
あるいは、前記硬化性樹脂を、前記素線の軸線方向全体にわたって連続的に配置するとよい。
【0012】
また、前記硬化性樹脂は、光硬化性を有することが好ましい。
【0013】
本発明にかかるリアクトルは、上記のような本発明にかかる製造方法によって製造されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
上記発明にかかるリアクトルの製造方法を用いれば、隣接するコイルターンが相互に対向する部位の素線表面に硬化性樹脂を配置したコイルを製造し、リアクトルを構成することができる。これにより、コイル全体が振動を受け、コイルターン間で振動が発生した場合にも、少なくとも硬化性樹脂に被覆された部位において、各コイルターンを構成する素線同士が直接接触することがなく、コイルターン間の摩擦によって絶縁被覆層が摩耗するのが抑制される。従って、コイルが振動を受けた際にも、コイルターン間の絶縁性が維持されやすい。一方、コイルを構成する素線に、硬化性樹脂に被覆されずに露出した部位が存在することで、この部位をコイルの冷却に用いることができる。
【0015】
そして、上記製造方法においては、素線をコイル形状に巻き回す前に、素線表面の所定位置に硬化性樹脂を配置しておくので、硬化性樹脂をコイルターン間の部位に配置した構造を、簡便に形成することができる。また、硬化性樹脂を配置する部位を精度よく制御しやすく、また、硬化性樹脂に被覆されずに露出された部位を確実に残しやすい。さらに、未硬化の硬化性樹脂を素線に塗布する工程と、硬化させる工程、素線を巻き回してコイルを形成する工程を連続的に実行することで、簡便に上記のようなコイルを製造することができる。
【0016】
ここで、コイルが、角型コイルである場合に、少なくとも角型コイルの角部に硬化性樹脂を配置すれば、コイルの外周面と内周面の寸法の差によってコイルターン間の間隔が狭くなりやすく、従って振動による絶縁被覆層の摩耗が起こりやすい角型コイルの角部において、硬化性樹脂がコイルターン間に存在することで、振動によるコイルターン間の絶縁破壊を効果的に抑制することができる。
【0017】
また、硬化性樹脂を相対的に前記コイルの中心軸に近い領域に配置し、硬化性樹脂に被覆されずに素線が露出した部位を、硬化性樹脂を配置する領域よりもコイルの中心軸から遠い領域に配置する場合には、コイルターン間の間隔が狭くなりやすく、従って振動による絶縁被覆層の摩耗が起こりやすいコイルの中心軸側の領域に、硬化性樹脂が配置されることになるので、コイルターン間の絶縁破壊を一層効果的に抑制することができる。
【0018】
そして、硬化性樹脂を、素線の軸線方向に沿って、不連続に配置する場合には、硬化性樹脂に被覆されずに露出する領域の割合が大きくなるので、コイルの冷却効率を高めることができる。また、特に絶縁被覆層の摩耗が起こりやすい部位を選択して硬化性樹脂を配置することで、コイルターン間の絶縁破壊抑制の効果とコイルの冷却効率を高度に両立することができる。
【0019】
あるいは、硬化性樹脂を、素線の軸線方向全体にわたって連続的に配置する場合には、コイルの巻き回し方向に沿って全域に硬化性樹脂が配置されることになるので、コイルターン間の絶縁破壊を抑制する効果が特に高くなる。また、素線の巻き回しに際し、角型コイルの角部の位置等、コイルの巻き回し構造と、素線上に硬化性樹脂を配置する位置との間の整合関係を考慮する必要がないので、製造工程を簡略にすることができる。
【0020】
また、硬化性樹脂が、光硬化性を有する場合には、未硬化の状態の硬化性樹脂を塗布した後、光照射によって硬化性樹脂を短時間で硬化させることができるので、未硬化のままの硬化性樹脂が、塗布した所定部位以外の部位に流出して硬化するのを防止できる。これにより、硬化性樹脂に被覆された部位と、被覆されずに露出した部位とを、設計どおりに共存させることが容易となり、所望されるとおりの絶縁破壊抑制効果と冷却効率を有するコイルを製造することができる。また、素線に未硬化の樹脂を塗布してからコイル形状への巻き回しを行うまでの時間が短くて済むので、コイルを高速で製造することができ、また製造装置の構成を簡略にすることができる。
【0021】
上記発明にかかるリアクトルは、隣接するコイルターンが相互に対向する部位の素線表面に、硬化性樹脂が配置されたコイルを有する。これにより、コイル全体が振動を受け、コイルターン間で振動が発生した場合にも、各コイルターンを構成する素線同士が直接接触することがなく、コイルターン間の摩擦によって絶縁被覆層が摩耗するのが抑制される。従って、コイルが振動を受けた際にも、コイルターン間の絶縁性が維持されやすい。一方、コイルを構成する素線に、硬化性樹脂に被覆されずに露出した部位が存在することで、この部位をコイルの冷却に用いることができる。そして、硬化性樹脂が、コイルを巻き回す前の長尺の状態で素線上に配置されることから、硬化性樹脂に被覆された部位と、硬化性樹脂に被覆されずに露出された部位が、精度よく配置されて共存している。これにより、絶縁破壊の抑制と冷却効率が、高度に両立される。また、注型樹脂を用いる必要がないことで、リアクトル全体が簡素化、軽量化される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態にかかるリアクトルを構成するコイルを示す斜視図である。
図2】上記コイルの中心軸方向に沿って、対角に配置された角部を通る断面図である。
図3】上記コイルのコイルターン1つを抽出した平面図である。
図4】別の例にかかるコイルにおいて、コイルターン1つを抽出した平面図であり、(a)〜(c)はそれぞれ異なる例を示している。
図5】本発明の一実施形態にかかるリアクトルの製造方法を示す模式図である。
図6】従来一般のリアクトルを示す断面図である(断面を示すハッチングは適宜省略している)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
[リアクトルの構造]
まず、本発明の一実施形態にかかるリアクトルについて説明する。図1〜3に、本発明の一実施形態にかかるリアクトルを構成するコイル10を示す。
【0025】
コイル10は、導体線11aの外周を絶縁被覆層11bによって被覆した素線11を、螺旋状に巻き回したものである。コイル10は、2本の直線部10a,10aを、巻き回し方向を揃えて2本並べた全体形状を有している。
【0026】
導体線11aは、例えば、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなる。絶縁被覆層11bは、例えば、ポリアミドイミドに代表されるエナメル材よりなる。また、素線11の形状としては、コイル10の冷却性を上げ、また巻き回しの密度を高める観点から、平角線であることが好ましい。そして、コイル10は、固定の容易性等の観点から、角柱の角を丸めた形状を有する角型コイルとして形成されることが好ましい。
【0027】
コイル10の各直線部10aの中空部Vには、磁心20が挿入されている。磁心20は、公知の磁心と同様の構成を有し、例えば、図6に示す、磁性材料よりなるコア部92aと非磁性材料よりなるギャップ部92bが交互に接続された磁心92と同様のものを適用することができる。
【0028】
磁心20を挿入されたコイル10は、適宜、底面板(不図示)等の取付面に固定され、入出力用の端子やセンサ等を取り付けられて、リアクトルとして組み上げられる。ここで、図6に示す従来のリアクトル90においては、コイル91は底板部94と側壁部93よりなるケースに収容され、ケース内の空間に注型樹脂95が満たされるが、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂は使用されない。つまり、図6における側壁部93に相当する部材は必要がなく、底板部94に相当する取付面に取り付けられたままの状態で、DC−DCコンバータ等に組み込まれる。
【0029】
本実施形態にかかるリアクトルは、コイル10を構成する素線11のコイルターン(螺旋の各ピッチ)間の部位に、ターン間樹脂層12が配置されている点に特徴を有する。つまり、図2,3に示すように、各コイルターンが隣接するコイルターンと対向する部位において、素線11の表面に、絶縁性の硬化性樹脂(反応性樹脂)よりなるターン間樹脂層12が形成されている。ターン間樹脂層12は、コイル10を構成する素線11の表面全体を被覆することはなく、コイル10には、ターン間樹脂層12に覆われず、素線11(の絶縁被覆層11b)が露出した領域が、ターン間樹脂層12に被覆された領域と共存している。ここで、素線11が露出しているとは、大気等、リアクトルが設置される周辺環境に露出されていることを意味し、注型樹脂等、ターン間樹脂層12以外の樹脂に覆われている状態は含まない。図2では、ターン間樹脂層12は、素線11の一方面のみに形成されているが、両面に形成されていてもよい。あるいは、ターン間樹脂層12は、隣接するコイルターン間で相互に対向する素線11の両方に接触し、両素線11を連結するように配置されてもよい。
【0030】
コイル10のコイルターン間に面する部位に、ターン間樹脂層12が形成されていることで、コイル10が振動を受け、隣接するコイルターンの間で振動、つまりコイルターン間の相対変位が起こっても、少なくともターン間樹脂層12が存在する部位においては、コイルターン間で素線11の表面同士が直接接触することが防止される。
【0031】
コイル10の振動は、リアクトルが搭載された車両の振動等によって引き起こされる。そして、この種の振動によって隣接するコイルターンが直接接触し、衝突し合うことで摩擦を起こすと、素線11表面の絶縁被覆層11bが摩耗する恐れがある。すると、コイルターン間の絶縁が破壊されて、短絡(レアショート)が発生し、リアクトルの出力特性が変化してしまう。また、短絡が生じた部位に、大電流が流れることにより、急速な発熱が起こる。発熱は、はんだ部の溶断や接着部の剥離等、コイル10周辺に配置された他の部材にも影響を及ぼし、走行中の車両の停止や、部材の不可逆的な損傷等にもつながる可能性がある。
【0032】
これに対し、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、コイルターン間にターン間樹脂層12が形成されており、コイルターン間で素線11どうしが直接接触しないことで、振動を受けても、少なくともターン間樹脂層12に被覆された部位において、素線11の表面の絶縁被覆層11bが摩耗を受けにくくなっている。従って、コイルターン間の短絡やそれに伴う発熱の発生が抑制されている。万一大きな衝撃がコイル10に印加された場合にも、ターン間樹脂層12が変形または破壊されることで、素線11の絶縁被覆層11bが保護される。さらに、特に、隣接するコイルターン間で相互に対向する素線11の両方に接触し、両コイルターンを連結するように、ターン間樹脂層12配置されている場合には、隣接するコイルターンがターン間樹脂層12を介して相互に対して固定された状態となり、コイルターン間の相対運動自体が制限されるので、コイルターン間の絶縁破壊を抑制する効果が大きくなる。
【0033】
一方、コイル10を構成する素線11の全表面がコイルターン間樹脂層12に覆われているのではなく、一部は露出されていることで、電流を印加されてコイル10が発熱した際にも、この露出部を介して、冷却(放熱)を行うことができる。つまり、コイルターン間の絶縁破壊の抑制と、冷却性の確保を、両立することができる。
【0034】
ターン間樹脂層12は、いかなる硬化性樹脂(反応性樹脂)よりなってもよい。ここで、硬化性樹脂を採用しているのは、硬化性樹脂は一般に、熱を受けても軟化や溶融を起こしにくく、コイル10が発熱しても、コイルターン間における絶縁被覆層11bの摩耗を抑制するターン間樹脂層12の機能が高度に維持されるからである。また、未硬化の状態で素線11の所定の部位に塗布し、硬化させることで、所望される部位にターン間樹脂層12が形成され、他の部位は露出された構造を作製しやすいからである。硬化方式としては、光硬化、熱硬化、湿気硬化、二液反応硬化等を挙げることができる。複数の硬化方式が併用されてもよい。コイル10の製造方法の説明において後述するように、製造工程の簡便性とターン間樹脂層12の配置の精度の観点からは、硬化性樹脂が光硬化性(特に紫外線硬化性)を有することが好ましい。
【0035】
また、ターン間樹脂層12を構成する硬化性樹脂は、いかなる樹脂種よりなってもよく、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレア系樹脂などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、硬化性樹脂には、着色用顔料、粘度調整剤、老化防止剤、無機充填材、保存安定剤、分散剤など、添加剤が加えられていても良い。
【0036】
上記のように、ターン間樹脂層12が、隣接するコイルターンが対向する部位の素線11の表面に形成され、かつ、ターン間樹脂層12に被覆されない露出部が素線11の表面に残されてさえいれば、ターン間樹脂層12は、隣接するコイルターンが対向する部位において、素線11の幅方向、つまりコイル10の中心軸Cに直交する方向、そして素線11の軸線方向(長手方向)、つまりコイル10の巻き回し方向に沿って、どのような位置に形成されていてもよい。しかし、図2および図3に示すような配置をとっていることが好ましい。
【0037】
具体的には、素線11の幅方向、つまりコイル10の中心軸Cに直交する方向に着目すれば、ターン間樹脂層12は、コイル10の中心軸Cに近い、内側の部位に形成されていることが望ましい。コイル10においては、内周面が外周面よりも小さい断面形状を有しているという構造上、各コイルターンを形成する素線11は、図2において模式的に示すように、相対的に外側が細く(薄く)、内側が太く(厚く)なっている(巻き太り)。つまり、コイルターン間の距離は、コイル10の外側よりも内側で狭くなっており、コイル10が振動を受けた際、コイル10の外側よりも内側で、コイルターン間の接触と、それによる絶縁被覆層11bの摩耗が起こりやすくなっている。そこで、コイル10の内側部分のコイルターン間にターン間樹脂層12を配置することで、外側部分に配置する場合よりも、効果的に絶縁被覆層11bの摩耗による絶縁破壊を抑制することができる。特に、素線11が平角線である場合には、巻き太りが大きくなりやすいので、内側部分にターン間樹脂層12を配置することの効果が大きい。また、ターン間樹脂層12をコイル10の内側部分に配置すると、ターン間樹脂層12に被覆されない露出部が相対的に外側に配置されることになり、これは、コイル10の冷却(放熱)の効率を高めるうえで、有利である。なお、図3(および図4,5)では、分かりやすいように、ターン間樹脂層12をコイル10の内周縁から少し外側に配置して示しているが、内周縁に接するように配置してもよい。
【0038】
一方、素線11の軸線方向、つまりコイル10の巻き回し方向に沿った方向に着目すれば、ターン間樹脂層12は、角型のコイル10において、角部Bを含む領域に形成することが有利である。これは、角型コイルにおいては、巻き太りが角部Bで集中して起こるからである。つまり、図2に、対角上に配置された2つの角部Bを通る断面図として示すように、角部Bの内側部分において、コイルターン間の間隔が狭くなっており、振動による絶縁被覆層11bの摩耗が発生しやすい。そこで、角部Bにターン間樹脂層12を配置することで、絶縁破壊を特に効果的に抑制することができる。図3に示した例では、ターン間樹脂層12は、4つの角部Bを含み、素線11の軸線方向の全領域にわたって形成されている。
【0039】
ターン間樹脂層12を形成する部位と、形成せず露出させる部位の割合は、予想される振動の程度と、コイル10の発熱の程度を勘案して適宜選択すればよい。ターン間樹脂層12に被覆された領域の割合を大きくするほど、振動によるコイルターン間の絶縁破壊を抑制する効果が高められ、ターン間樹脂層12に被覆された領域の割合を小さくするほど、冷却(放熱)の効率が高められる。
【0040】
上記のように、図3に示したコイル10においては、ターン間樹脂層12が、素線11の軸線方向の全領域にわたって連続して形成されている。これにより、振動によるコイルターン間の絶縁破壊を抑制する効果を大きく得ることができる。
【0041】
一方、図4(a)〜(c)に示す変形例にかかるコイル10a〜10cにおいては、ターン間樹脂層12は、素線11の軸線方向に沿って、不連続に(間欠的に)形成されている。これらの場合には、図3のようにターン間樹脂層12が素線11の軸線方向に沿って連続的に形成されている場合よりも、ターン間樹脂層12に被覆されずに素線11が露出した領域の割合が大きく、コイルの冷却効率を高めることができる。図4(a)〜(c)のコイル10a〜10cのうち、角部Bにターン間樹脂12を選択的に配置されてなる図4(a)のコイル10aが、上記したように、角部Bにおいて起こりやすい絶縁被覆の摩耗を効果的に防ぐことができる点において、特に好ましい。
【0042】
以上のように、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、コイル10(10a〜10c)を形成する素線11表面の、コイルターン間に配置された部位を含む領域に、ターン間樹脂層12が形成され、残りの部位が露出されていることにより、コイル10が振動を受けた時にコイルターン間で絶縁破壊が起こるのが抑制されるとともに、コイル10の冷却(放熱)を高効率で行うことができる。従来一般のリアクトル90においては、コイル91を収容するケースの内側に注型樹脂95を充填し、コイルターン間の空隙に浸入した注型樹脂95によって、コイルターン間の絶縁を確保してきた。また注型樹脂95を介して、適宜冷却機構を備えたケースの底面板94に熱を逃がすことで、コイル91の冷却を行ってきた。しかし、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、上記の構成により、注型樹脂を用いなくても、コイルターン間の絶縁とコイル10の冷却を行うことができる。そして、注型樹脂を用いないことにより、側壁部を備えるケースを用いる必要がない。これにより、従来に比べ、リアクトル全体を簡素化、軽量化できる。
【0043】
[リアクトルの製造方法]
次に、本発明の一実施形態にかかるリアクトルの製造方法について説明する。本製造方法は、上記で説明したコイル10を製造する工程に特徴を有する。図5に、コイル10の製造方法を模式的に示す。図5に示した製造方法は、図3に示した、素線11の軸線方向に沿って連続的にターン間樹脂層12が形成されたコイル10を製造するものである。また、ターン間樹脂層12が光線硬化性樹脂よりなる場合を想定している。
【0044】
コイル10の製造工程においては、塗布部51における素線11への未硬化状態の硬化性樹脂12’の塗布と、硬化部52における硬化性樹脂12’の硬化と、巻き回し部53における素線11の巻き回しを、この順に、連続して行う。
【0045】
塗布部51は、例えばディスペンサノズル51aよりなり、長尺状の素線11の所定の部位に未硬化で流動性の高い状態にある硬化性樹脂12’を塗布する。つまり、図3のような、ターン間樹脂層12が連続的に形成されたコイル10を製造する場合は、図5に示したとおり、平角線11の一方面(あるいは両面)に硬化性樹脂12’を連続的に塗布する。
【0046】
硬化部52は、用いる硬化性樹脂12’の硬化方法に応じて、塗布部51において塗布された硬化性樹脂12’を硬化させることで、ターン間樹脂層12を素線11上に形成する工程である。硬化性樹脂12’として光硬化性樹脂を使用している場合には、硬化部52は、ランプ、レーザー等、(紫外)光源52aよりなり、塗布部51で硬化性樹脂12’を塗布した部位を含む素線11の表面に光Lの照射を行う。
【0047】
巻き回し部53においては、上記のように所定の部位に硬化性樹脂12’を塗布して硬化させた長尺状の素線11を巻き回し、コイルとして成形する。巻き回し部53には、公知の自動巻線機等を用いることができる。この際、素線11上にターン間樹脂層12が形成された部位が、コイル10の中心軸Cに対して内側になるように、巻き回しを行う。これにより、完成されたコイル10において、ターン間樹脂層12が、隣接するコイルターンが対向する部位に配置され、かつコイル10の中心軸Cに近い内側部分に配置された状態となる。
【0048】
本製造方法においては、素線11への硬化性樹脂12’の塗布と硬化を行った後に、素線11の巻き回しを行うことで、素線11の一部にターン間樹脂層12が形成され、他の部分が露出されたコイル10を、簡便に製造することができる。他に、同様のコイル10を製造できる可能性がある方法として、素線11をコイル形状に巻き回した後に、所望の部位に未硬化の硬化性樹脂12’を塗布または流し込んだ後、硬化させる方法が考えられる。しかし、この方法の場合、未硬化の硬化性樹脂12’の流動性のために、塗布された硬化性樹脂12’がコイル10の所望の場所に留まりにくく、ターン間樹脂層12の形成を望まない部位にまで広がってしまい、露出部が残せない可能性がある。つまり、ターン間樹脂層12に被覆された部位と、ターン間樹脂層12に被覆されずに素線11が露出した部位とを、所望するとおりに、コイル10内で精度よく作り分けられなくなってしまう。その結果、得られたコイル10において、コイルターン間の絶縁破壊を抑制する効果と、コイル10の冷却効率を高める効果を両立するのが困難になってしまう。これに対し、本製造方法においては、立体的にコイル10を成形した後ではなく、単純な平面の形状を有する長尺状の素線11の段階で、硬化性樹脂12’の塗布と硬化を行うので、素線11表面において、ターン間樹脂層12に被覆されない露出された部位を確実に残しながら、ターン間樹脂層12に被覆された部位と、露出された部位とを、精度よく作り分けることができる。その結果、製造されるコイル10において、設計通りの部位にターン間樹脂層12を配置しやすく、コイルターン間の絶縁破壊抑制の効果と、冷却効率とを高度に両立させることが可能となる。また、硬化性樹脂12’の塗布と硬化の工程およびそれに要する装置も簡素なもので済む。
【0049】
さらに、本製造方法においては、塗布工程と硬化工程、巻き回し工程が連続的に実行されることで、コイル10の製造工程が特に簡略なものとなっている。つまり、長尺状の素線11を巻き回してコイル10を製造する際に、巻き回し部53の上流に塗布部51と硬化部52を設けることで、硬化性樹脂12’を塗布、硬化させた素線11を、そのまま巻き回しに用い、コイル10を完成させることができる。具体的には、従来一般に用いられているような自動巻線機において、素線11の供給源と素線11を巻き回す部位の間に、ディスペンサノズル51a等よりなる塗布部51と、光源52a等よりなる硬化部52を設ければよい。
【0050】
上記のように、ターン間樹脂層12を構成する硬化性樹脂12’は、製造されたコイル10に要求される特性の観点からは、いかなる硬化方法をとるものであってもよいが、製造方法の観点からは、光硬化性または熱硬化性を有する硬化性樹脂12’を用いることが好適である。これらの硬化方式を有する樹脂の場合は、硬化部52の構成を簡素にすることができるからである。硬化性樹脂12’が光硬化性を有する場合には、上記のように、硬化部52としてランプやレーザー等の光源52aを用いればよく、硬化性樹脂12’が熱硬化性を有する場合には、硬化部52として、ヒータ、温風発生装置等の熱源を用いればよい。中でも、硬化性樹脂12’が光硬化性を有する場合が好適である。光硬化性樹脂は、光を照射すると短時間で硬化するものが多く、熱硬化性樹脂を用いる場合と比較して、塗布部51にて塗布された後、硬化部52にて硬化するまでの間に、意図しない部位へ硬化性樹脂12’が流出する事態が発生しにくい。つまり、コイル10において、ターン間樹脂層12に被覆された部位と、ターン間樹脂層12に被覆されずに露出した部位を、精度よく作り分け、コイルターン間の絶縁破壊抑制の効果とコイル10の冷却効率とを両立しやすい。また、製造工程において、塗布部51と硬化部52の間の距離を短くすることがき、また素線11を高速でコイル形状に巻き回すことができるので、コイル10を高速で製造できるとともに、製造装置の構成を簡略にすることができる。
【0051】
光硬化性樹脂の中でも、特に光硬化性と熱可塑性を合わせ持つ、いわゆる反応性ホットメルト(光硬化性ホットメルト)を硬化性樹脂12’として用いることが好ましい。この場合、加熱して流動化した反応性ホットメルトを塗布部51にて所定部位に塗布し、その後硬化部52で光照射を行うことで、ターン間樹脂層12を形成することができる。反応性ホットメルトは、塗布部51において素線11表面に塗布されると、ほぼ瞬時に冷却されて流動性を失い、塗布された以外の部位に流れ出さなくなるので、ターン間樹脂層12が形成される位置が定められる。そして、その状態で光照射を受けることで、位置決めされた反応性ホットメルトが硬化され、最終的にターン間樹脂層12が形成される。このように、硬化性樹脂12’として反応性ホットメルトを用いることで、塗布後の流出を一層抑制することができ、ターン間樹脂層12に被覆された部位と、被覆されずに露出された部位を、一層高精度に作り分けることができる。
【0052】
以上で説明した図5の製造方法は、ターン間樹脂層12が素線11の軸線方向に連続して形成された図3に示したコイル10を形成するものであった。図4(a)〜(c)に示したようなターン間樹脂層12が素線11の軸線方向に不連続に形成されたコイル10a〜10cを製造する場合には、塗布部51において、硬化性樹脂12’を連続的に塗布する代わりに、不連続に塗布すればよい。この際、次の巻き回し工程においてコイル10a〜10cを形成した時に、硬化性樹脂12’を塗布した部位がコイル10a〜10cの中で所望の部位になるように、硬化性樹脂12’を塗布する部位を制御する必要がある。例えば、図4(a)のように、ターン間樹脂層12を角部Bに配置したコイル10aを形成する場合には、巻き回した後にコイル10aの角部Bとなる位置に、硬化性樹脂12’を巻き回し前に塗布しておく必要がある。
【0053】
上記のように、ターン間樹脂層12が素線11の軸線方向に沿って不連続に形成されている図4(a)〜(c)に示したコイル10a〜10cは、冷却効率を高めやすいという点において優れているが、硬化性樹脂12’を塗布する部位とコイル10a〜10cの巻き回し構造の位置関係を整合させなければ、設計どおりのコイル10a〜10cを得られない。その反面、図3のようにターン間樹脂層12が素線11の軸線方向に沿って連続的に形成されているコイル10は、冷却効率においては劣るものの、製造時に、硬化性樹脂12’を塗布する部位とコイル10の巻き回し構造の位置関係に特に注意を払う必要がなく、製造の簡便性においては優れている。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0055】
<試験試料の作製>
[実施例1]
図5に示すように、自動巻線機の上流に紫外線硬化性アクリル樹脂のディスペンサノズルと紫外光源を配置した装置を使用し、エナメル被覆を有する平角線を素線として用いて、コイルを製造した。紫外線硬化性アクリル樹脂の塗布は、素線の片側の表面に行い、素線の幅方向に関しては一部を占めるように、軸線方向に関しては連続的に全域を占めるように塗布を行った。塗布の直後、紫外線硬化性樹脂を塗布した部位に、紫外線照射を行い、次いで、紫外線硬化性樹脂を塗布した部位が中心軸Cに対して内側となるように、素線を巻き回して角型コイルを形成した。そして、図1に示した形状を有するコイルとコアの組合体を形成して、底面板に固定し、さらに端子接続等を行って、リアクトルとして組み上げた。
【0056】
[実施例2]
実施例1の紫外線硬化性アクリル樹脂を紫外線硬化性ホットメルト樹脂に変更して、同様のリアクトルを作製し、実施例2にかかるリアクトルとした。
【0057】
[実施例3]
実施例1の紫外線硬化性アクリル樹脂を熱硬化性エポキシ樹脂に変更し、加熱によって硬化させて、同様のリアクトルを作製し、実施例3にかかるリアクトルとした。ただし、熱硬化性樹脂の硬化に要する時間を考慮し、コイルの巻き回しの速度は、実施例1および2の場合よりも遅くした。
【0058】
[実施例4〜6]
樹脂を素線の軸線方向全域に連続的に塗布する代わりに、不連続に塗布し、塗布した部位がコイルの4つの角部に配置されるようにしてコイルを形成して、実施例1〜3と同様のリアクトルを製造し、それぞれ実施例4〜6にかかるリアクトルとした。
【0059】
[比較例1]
実施例1と同様のリアクトルを、硬化性樹脂の塗布を行わずに(コイルターン間樹脂層を形成せずに)作製し、比較例1にかかるリアクトルとした。
【0060】
[比較例2,3]
紫外線硬化性アクリル樹脂の代わりに、熱可塑性樹脂(ポリオレフィン系非架橋型ホットメルト樹脂)を用いて、実施例1(連続塗布)および実施例4(不連続塗布)と同様のリアクトルを形成し、それぞれ、比較例2および比較例3にかかるリアクトルとした。熱可塑性樹脂は、加熱して可塑化した状態で素線に塗布し、放冷することで固化させた。
【0061】
[比較例4]
実施例2と同じ紫外線硬化性ホットメルトを使用し、比較例4にかかるリアクトルを作製した。ただし、実施例2とは異なり、紫外線硬化性ホットメルトは巻き回し前のコイル素線に塗布するのでははく、代わりに、コイル成形後に、コイルを構成する素線の表面全体に広がるように塗布した。
【0062】
[比較例5]
実施例1と同様の形状を有するリアクトルを、溶着巻線(絶縁被覆の外層に熱で溶融可能な樹脂よりなる溶着層を形成した巻線)をコイルの素線として用いて作製した。そして、コイルを加熱してコイルターン間を溶着させた状態で、リアクトル中に組み込み、比較例5にかかるリアクトルとした。溶着巻線の外側には、樹脂の塗布を行っていない。
【0063】
<試験方法>
[被覆状態の評価]
各リアクトルに対して、JIS D1601に規定される自動車部品振動試験方法に準拠して、振動試験を行った。そして、振動試験後に、コイルターン間の部位に配置された素線の表面の絶縁被覆層(エナメル被覆層)に、剥離等、被覆状態の異常が発生していないかどうか、目視にて確認を行った。絶縁被覆層に剥離等の異常が見られなかったものを、合格「○」とし、剥離等の異常が認められたものを、不合格「×」とした。
【0064】
[リアクトルの特性評価]
上記振動試験の前後で、リアクトルの電気特性を評価し、振動試験によって特性が低下していないかどうかを確認した。特性が低下しなかったものを、合格「○」とし、特性が低下したものを、不合格「×」とした。
【0065】
<試験結果>
表1に、各実施例および比較例にかかるリアクトルについて、振動試験後の被覆状態の評価とリアクトルの特性評価の結果を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1にまとめたとおり、硬化性樹脂の塗布、硬化、素線の巻き回しを連続的に行って、素線表面の一部に硬化性樹脂を配置した実施例1〜6にかかるリアクトルにおいては、硬化性樹脂がコイルの内側部分に連続的に配置されている場合(実施例1〜3)にも、不連続に配置されている場合(実施例4〜6)にも、振動試験を経た後に、素線の絶縁被覆層に摩耗等の異常が見られず、特性が初期の状態から低下することもなかった。
【0068】
これに対し、ターン間樹脂層を形成しなかった比較例1のリアクトルにおいては、振動試験において、コイルターン間で摩擦が起こることで、絶縁被覆層に剥離が発生した。また、これに対応して、コイルターン間の絶縁破壊のために、リアクトルの特性が低下した。
【0069】
硬化性樹脂の代わりに熱可塑性樹脂を用いた比較例2,3にかかるリアクトルにおいては、振動試験を経ても、絶縁被覆層に摩耗等の異常は見られなかった。しかし、コイルに通電して特性試験を行うと、コイルからの発熱により、試験中に、コイルターン間に配置した熱可塑性樹脂が溶融した。
【0070】
硬化性樹脂を素線の状態で表面の一部に塗布するのではなく、コイル形成後に全体に塗布した比較例4にかかるリアクトルにおいても、振動試験を経た際、絶縁被覆層に摩耗等の異常は見られなかった。しかし、特性評価においては、振動試験を経ることで、当初の状態よりも、特性が低下しているのが観測された。これは、通電中のコイルの冷却不足のためであると考えられる。
【0071】
比較例5にかかる、溶着巻線を用いた場合には、振動試験を経た際に、絶縁被覆層に被覆状態の異常が生じているのが確認された。さらに、振動試験後の特性評価において、コイルターン間に絶縁破壊が起こることで、特性が低下していた。これは、振動試験によって、絶縁被覆層と導体線の間の密着性が低下し、特性評価時の通電によって、絶縁破壊に至ったものと考えられる。つまり、溶着層では、コイルの振動による絶縁被覆層の摩耗を十分には防ぐことができていない。
【0072】
<結果の考察>
実施例1〜6および比較例4のように、リアクトルのコイルターン間に、熱硬化性樹脂を配置することで、リアクトルに振動を与えた際にも、コイルターン間の接触によって、絶縁被覆層が剥離等の損傷を受けることが防止される。また、熱可塑性樹脂を使用した場合(比較例2,3)とは異なり、コイルへの通電によってコイルが発熱しても、コイルターン間に配置した硬化性樹脂は溶融することがなく、コイルターン間の絶縁破壊を抑制するという硬化性樹脂の機能が維持されやすい。
【0073】
しかし、比較例4のように、硬化性樹脂をコイル全体に塗布した場合には、コイルを構成する素線の表面が全て硬化性樹脂に覆われることにより、コイルの冷却を十分に行うことができない。これに対し、実施例1〜6のように、熱可塑性樹脂を素線表面の一部にのみに配置した場合には、硬化性樹脂に被覆されていない素線の表面を介してコイルが冷却される。この冷却の効果と、絶縁が維持されることの効果とによって、振動試験を経た後に当初と同じ特性が発揮されている。つまり、絶縁被覆層の保護と、冷却性の維持が両立されている。この点において、実施例1〜3のように硬化性樹脂を素線上に連続的に配置した場合にも、実施例3,4のように不連続に配置した場合にも同様の結果となっている。これは、硬化性樹脂を連続的に配置する場合にも、不連続に配置する場合にも、素線の状態で硬化性樹脂の塗布と硬化を行うことで、硬化性樹脂に被覆された部位と被覆されずに露出した部位とを、素線上に作り分けられていることによると解釈される。
【0074】
熱硬化性樹脂を用いている実施例3,6においても、紫外線硬化性を有する樹脂を用いている実施例1,2,4,5の場合と同様に、振動試験において、絶縁被覆の剥離等の防止と特性の維持を達成できている。しかし、熱硬化性樹脂の硬化に要する時間を確保するために、紫外線硬化性を有する樹脂の場合よりも、コイルをも巻き回す速度を遅くしている。このことから、素線に塗布する硬化性樹脂として、紫外線硬化性を有する樹脂を用いることが、特に好適であると言える。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10(10a〜10c) コイル
11 素線
11a 導体線
11b 絶縁被覆層
12 ターン間樹脂層
12’ (未硬化の)硬化性樹脂
20 磁心
51 塗布部
51a ディスペンサノズル
52 硬化部
52a 光源
53 巻き回し部
図1
図2
図3
図4
図5
図6