【解決手段】リアクトルは、導体線11aの表面が絶縁被覆層11bに覆われた素線11を巻き回してなるコイル10を有する。素線11の表面は、各コイルターンが隣接するコイルターンと対向する部位11c,11dにエンジニアリングプラスチック12が接着された領域を有するとともに、エンジニアリングプラスチック12が接着されずに露出した領域を有する。
前記エンジニアリングプラスチックは、隣接する2つのコイルターンの相互に対向する部位の双方に接着していることを特徴とする請求項1または2に記載のリアクトル。
前記コイルは、角型コイルであり、前記エンジニアリングプラスチックは、少なくとも前記角型コイルの角部に接着されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のリアクトル。
前記エンジニアリングプラスチックは、前記素線の軸線方向全体にわたって連続的に接着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のリアクトル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来一般のリアクトル90において、ケース内に充填された注型樹脂95は、温度変化などによって割れを生じる場合がある。すると、上記のような注型樹脂95の機能が十分に果たされなくなる。そこで、注型樹脂95を用いることなく、コイル91の絶縁と冷却を行えるリアクトルを製造することを検討する余地がある。
【0005】
しかし、注型樹脂95を用いない場合には、リアクトル90が搭載された車両の振動等によって、コイル91が振動を起こし、コイルターン間で摩擦が発生する。コイルターン間で摩擦が起こると、コイル91の素線の外周に形成されたエナメル等よりなる絶縁被覆が摩耗し、コイルターン間の絶縁が保てなくなる恐れがある。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、注型樹脂を用いなくても、振動によるコイルターン間の絶縁破壊が抑制されるとともに、コイルの冷却を行うことができるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明にかかるリアクトルは、導体線の表面が絶縁被覆層に覆われた素線を巻き回してなるコイルを有し、前記素線の表面は、各コイルターンが隣接するコイルターンと対向する部位にエンジニアリングプラスチックが接着された領域を有するとともに、前記エンジニアリングプラスチックが接着されずに露出した領域を有することを要旨とする。
【0008】
ここで、前記エンジニアリングプラスチックは、200℃以上かつ前記絶縁被覆層の融点よりも低い融点を有するとよい。
【0009】
また、前記エンジニアリングプラスチックは、隣接する2つのコイルターンの相互に対向する部位の双方に接着していることが好ましい。
【0010】
そして、前記コイルは、角型コイルであり、前記エンジニアリングプラスチックは、少なくとも前記角型コイルの角部に接着されていることが好ましい。
【0011】
また、エンジニアリングプラスチックは、前記素線の軸線方向全体にわたって連続的に接着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記発明にかかるリアクトルによれば、あるコイルターンが隣接するコイルターンと対向する部位の素線の表面に、エンジニアリングプラスチックが接着されている。これにより、コイル全体が振動を受け、コイルターン間で振動が発生した場合にも、エンジニアリングプラスチックの存在により、少なくともエンジニアリングプラスチックが接着された部位において、各コイルターンを構成する素線同士が直接接触することがなく、コイルターン間の摩擦によって絶縁被覆層が摩耗するのが抑制される。従って、コイルが振動を受けた際にも、コイルターン間の絶縁性が維持される。特に、エンジニアリングプラスチックは、汎用プラスチックに比べて、高い機械的強度を有することで、絶縁被覆層の摩耗を効果的に抑制することができ、さらに、高い耐熱性を有することで、そのような効果を高温環境でも保持することができる。一方、コイルを構成する素線に、エンジニアリングプラスチックが接着されずに露出した部位が存在することで、この部位をコイルの冷却に用いることができる。また、注型樹脂を用いる必要がないことで、リアクトル全体が簡素化、軽量化されるとともに、生産性が向上される。
【0013】
ここで、エンジニアリングプラスチックが、200℃以上かつ絶縁被覆層の融点よりも低い融点を有する場合には、高い耐熱性を発揮することができるとともに、絶縁被覆層を溶融させることなく、エンジニアリングプラスチックを加熱して溶融させ、コイルの素線に接着することができる。
【0014】
また、エンジニアリングプラスチックが、隣接する2つのコイルターンの相互に対向する部位の双方に接着している場合には、エンジニアリングプラスチックが、隣接するコイルターンを相互に対して固定することになり、コイルターン間に起こる振動自体を低減するので、振動による絶縁破壊を効果的に抑制することができる。
【0015】
そして、コイルが、角型コイルであり、エンジニアリングプラスチックが、少なくとも角型コイルの角部に接着されている場合には、コイルの外周面と内周面の寸法の差によってコイルターン間の間隔が狭くなりやすく、従って振動による絶縁被覆層の摩耗が起こりやすい角部において、エンジニアリングプラスチックがコイルターン間に存在することで、効果的にコイルターン間の絶縁破壊を抑制することができる。
【0016】
また、エンジニアリングプラスチックが、素線の軸線方向全体にわたって連続的に接着されている場合には、コイルの巻き回し方向に沿って全域にエンジニアリングプラスチックが配置されることになるので、コイルターン間の絶縁破壊を抑制する効果が特に高くなる。また、コイルに沿って糸状または紐状のエンジニアリングプラスチックを巻き回してから加熱を行うことで、エンジニアリングプラスチックがコイル素線に接着した構造を簡便に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
図1〜3に、本発明の一実施形態にかかるリアクトルを構成するコイル10を示す。コイル10は、導体線11aの外周を絶縁被覆層11bによって被覆した素線11を、螺旋状に巻き回したものである。コイル10は、2本の直線部10a,10aを、巻き回し方向を揃えて2本並べた全体形状を有している。
【0020】
導体線11aは、例えば、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属よりなる。絶縁被覆層11bは、例えば、ポリアミドイミドに代表されるエナメル材よりなる。また、素線11の形状としては、コイル10の冷却性を上げ、また巻き回しの密度を高める観点から、平角線であることが好ましい。そして、コイル10は、固定の容易性等の観点から、角柱の角を丸めた形状を有する角型コイルとして形成されることが好ましい。
【0021】
コイル10の各直線部10aの中空部Vには、磁心20が挿入されている。磁心20は、公知の磁心と同様の構成を有し、例えば、
図5に示す、磁性材料よりなるコア部92aと非磁性材料よりなるギャップ部92bが交互に接続された磁心92と同様のものを適用することができる。
【0022】
磁心20を挿入されたコイル10は、適宜、底面板(不図示)等の取付面に固定され、入出力用の端子やセンサ等を取り付けられて、リアクトルとして組み上げられる。ここで、
図5に示す従来のリアクトル90においては、コイル91は底板部94と側壁部93よりなるケースに収容され、ケース内の空間に注型樹脂95が満たされるが、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、注型樹脂は使用されない。つまり、
図5における側壁部93に相当する部材は必要がなく、底板部94に相当する取付面に取り付けられたままの状態で、DC−DCコンバータ等に組み込まれる。
【0023】
本実施形態にかかるリアクトルは、コイル10を構成する素線11のコイルターン(螺旋の各ピッチ)間に、エンプラ層12が配置されている点に特徴を有する。つまり、各コイルターンにおいて、隣接するコイルターンと対向する部位の素線11の表面上に、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)よりなるエンプラ層12が形成されている。エンプラ層12は、素線11の表面に接触して溶着されることで、素線11の表面に接着されている。
【0024】
エンプラ層12は、コイルターン間の部位に加え、コイル10の外周面や内周面等、コイルターン間以外の部位にも形成されていてもよいが、コイル10を構成する素線11の表面全体を被覆することはなく、コイル10には、エンプラ層12に覆われず、素線11(の絶縁被覆層11b)が露出した領域が、エンプラ層12に被覆された領域と共存している。ここで、素線11が露出しているとは、大気等、リアクトルが設置される周辺環境に露出されていることを意味し、注型樹脂等、エンプラ層12以外の樹脂に覆われている状態は含まない。
【0025】
コイル10の隣接するコイルターン間に、エンプラ層12が形成されていることで、コイル10が振動を受け、隣接するコイルターンの間で振動、つまりコイルターン間の相対変位が起こっても、少なくともエンプラ層12が存在する部位においては、コイルターン間で素線11の表面同士が直接接触することが防止される。コイル10の振動は、リアクトルが搭載された車両の振動等によって引き起こされる。そして、この種の振動によって隣接するコイルターンが直接接触し、衝突し合うことで摩擦を起こすと、素線11表面の絶縁被覆層11bが摩耗する恐れがある。すると、コイルターン間の絶縁が破壊されて、短絡(レアショート)が発生し、リアクトルの出力特性が変化してしまう。また、短絡が生じた部位に、大電流が流れることにより、急速な発熱が起こる。発熱は、はんだ部の溶断や接着部の剥離等、コイル10周辺に配置された他の部材にも影響を及ぼし、走行中の車両の停止や、部材の不可逆的な損傷等にもつながる可能性がある。
【0026】
これに対し、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、コイルターン間にエンプラ層12が形成されており、コイルターン間で素線11が直接接触しないことで、振動を受けても、少なくともエンプラ層12に被覆された部位において、素線11の表面の絶縁被覆層11bが摩耗を受けにくくなっている。従って、コイルターン間の短絡やそれに伴う発熱が抑制されている。万一大きな衝撃がコイル10に印加された場合にも、エンプラ層12が変形または破壊されることで、素線11の絶縁被覆層11bが保護される。特に、エンジニアリングプラスチックは、一般的な熱可塑性樹脂(汎用プラスチック)と比較して、高い強度を有することから、絶縁被覆層11bを摩耗から保護する効果にとりわけ優れる。また、エンジニアリングプラスチックは、高い耐熱性を有するので、コイル10の通電に伴う発熱等により、高温となっても、溶融や軟化を起こしにくく、絶縁被覆層11bに対するその高い保護効果が維持されやすい。
【0027】
一方、コイル10を構成する素線11の全表面がエンプラ層12に覆われているのではなく、一部は露出されていることで、電流を印加されてコイル10が発熱した際にも、この露出部を介して、冷却(放熱)を行うことができる。つまり、コイルターン間の絶縁破壊の抑制と、冷却性の確保を、両立することができる。
【0028】
エンプラ層12は、隣接した2つのコイルターン間において、相互に対向する素線11の表面のうち、少なくとも一方の表面に形成されていれば、コイルターン間での絶縁被覆層11bの摩耗の抑制に寄与することができる。つまり、
図2(b)では、エンプラ層12を、2つのコイルターンの相互に対向する面である第一対向面11cと第二対向面11dの両方に接着させて、第一対向面11cと第二対向面11dを連結するようにして形成しているが、エンプラ層12を、第一対向面11cまたは第二対向面11dのいずれか一方の表面に接着させて形成するだけでもよい。あるいは、第一対向面11cと第二対向面11dの両方にエンプラ層12を形成する場合に、必ずしも、それら2面に形成されたエンプラ層12は、
図2(b)のように、一体に連続して第一対向面11cと第二対向面11dの間を連結している必要はなく、独立した2層の被覆層として形成されていてもよい。
【0029】
しかし、
図2(b)に示すように、エンプラ層12が、隣接するコイルターン間で相互に対向する第一対向面11cと第二対向面11dの両方に接着され、両者を連結するように配置されていれば、振動による絶縁被覆層11bの摩耗を効果的に防止することができる。これは、1つには、エンプラ層12が厚く形成されることにより、振動によって第一対向面11cおよび第二対向面11dに加えられる衝撃を効果的に緩和できることによる。加えて、エンプラ層12が第一対向面11cと第二対向面11dの間の距離全体にわたって形成され、第一対向面11cと第二対向面11dの両方に接着されることにより、隣接するコイルターンがエンプラ層12を介して相互に対して固定された状態となり、コイル10全体が振動を受けても、隣接するコイルターンが相対的に変位を起こしにくくなる。そのように、コイルターン間での振動自体が制限されることの効果によっても、コイル10が振動を受けた際の絶縁被覆層11bの摩耗が抑制される。
【0030】
上記のように、エンプラ層12は、コイルターン間で対向する部位(第一対向面11cおよび第二対向面11d)を含む、素線11の表面の一部に形成されていれば、どのような位置に形成されていてもよい。しかし、
図2(b)に示すように、コイル10の中心軸Cに近い、内側の部位に形成されていることが望ましい。コイル10においては、内周面が外周面よりも小さい断面サイズを有しているという構造上、各コイルターンを形成する素線11は、
図2(b)において模式的に示すように、相対的に外側が細く(薄く)、内側が太く(厚く)なっている(巻き太り)。つまり、コイルターン間の距離は、コイル10の外側よりも内側で狭くなっており、コイル10が振動を受けた際、コイル10の外側よりも内側で、コイルターン間での素線11の接触と、それによる絶縁被覆層11bの摩耗が起こりやすくなっている。そこで、コイル10の内側部分のコイルターン間にエンプラ層12を配置することで、外側部分に配置する場合よりも、効果的に絶縁被覆層11bの摩耗による絶縁破壊を抑制することができる。特に、素線11が平角線である場合には、巻き太りが大きくなりやすいので、内側部分にエンプラ層12を配置することの効果が大きい。また、エンプラ層12をコイル10の内側部分に配置すると、エンプラ層12に被覆されない露出部が相対的に外側に配置されることになり、これは、コイル10の冷却(放熱)の効率を高めるうえで、有利である。
【0031】
さらに、エンプラ層12は、角型のコイル10において、少なくとも、
図2(a)で領域Bとして示す角部に形成することが有利である。これは、角型コイルにおいては、巻き太りが角部Bで集中して起こるからである。つまり、角部Bの内側部分において、コイルターン間の間隔が狭くなっており、振動による絶縁被覆層11bの摩耗が発生しやすいので、この部位にエンプラ層12を配置することで、絶縁破壊を特に効果的に抑制することができる。
【0032】
エンプラ層12を形成する部位と、形成せず露出させる部位の割合は、予想される振動の程度と、コイル10の発熱の程度を勘案して適宜選択すればよい。エンプラ層12に被覆される領域の割合を大きくするほど、振動によるコイルターン間の絶縁破壊を抑制する効果が高められ、エンプラ層12に被覆される領域の割合を小さくするほど、冷却(放熱)の効率が高められる。
【0033】
このような観点から、エンプラ層12は、
図3に示すように、素線11の軸線方向(コイル10の巻き回し方向)の全体にわたって連続的に形成されていても、例えば角部Bのみのように、必要な部位にのみ不連続的に形成されていても、いずれでもかまわない。ただし、
図3のように連続的に形成する方が、コイル10の全域にわたって、絶縁被覆層11bの摩耗を効果的に抑制することができる。また、素線11の軸線方向に沿って連続したエンプラ層12は、後述するように、エンプラヤーン12aをコイル10に沿って巻き回してから加熱することで、簡便に形成することができる。
【0034】
エンプラ層12は、いかなるエンジニアリングプラスチックよりなってもよい。例えば、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリオキシベンジレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテルなどを例示することができる。これらは2種以上併用してもよい。さらに、エンジニアリングプラスチックには、着色用顔料、粘度調整剤、老化防止剤、無機充填材(フィラー)、保存安定剤、分散剤など、添加剤が適宜加えられていても良い。
【0035】
コイル10の通電時の発熱による温度上昇を考慮すると、エンプラ層12を構成するエンジニアリングプラスチックは、200℃以上の融点を有することが好ましい。すると、エンプラ層12が高い耐熱性を示し、高温環境でも、素線11の絶縁被覆層11bを摩耗から保護する機能に優れたものとなる。一方、エンプラ層12を構成するエンジニアリングプラスチックは、絶縁保護層11bの融点よりも低い融点を有することが好ましい。これにより、次に述べるように、コイル10のコイルターン間にエンジニアリングプラスチック材料を配置し、加熱することで、絶縁被覆層11bを溶融させることなくエンジニアリングプラスチックを溶融させ、コイル10の素線11に溶着することができる。具体的には、絶縁被覆層11bがポリアミドイミドのようなエナメル材よりなる場合、エンジニアリングプラスチックの融点は350℃以下であることが好ましい。200℃以上350℃以下の融点を有し、エンプラ層12を構成するのに好適に用いられるエンジニアリングプラスチックとして、ポリフェニレンスルフィド(PPS)を挙げることができる。
【0036】
リアクトルの製造工程において、コイル10の素線11の表面にエンプラ層12を接着する方法としては、コイル10のコイルターン間の所定部位に、エンジニアリングプラスチックを配置したうえで、加熱によって溶融させてから冷却するという方法をとることができる。コイルターン間にエンジニアリングプラスチックを配置する方法としては、エンジニアリングプラスチックを糸状または紐状にしたエンプラヤーン12aを用いる方法を挙げることができる。
【0037】
具体的には、
図4に示すように、巻き回し形状に成形しておいたコイル10のコイルターン間に、素線11に沿わせるようにして、エンプラヤーン12aを巻き込めばよい。これを加熱してエンプラヤーンを溶融させれば、
図3に示すように、素線11の軸線方向に沿って連続的にエンプラ層12を形成することができる。上記のように、角型コイルの角部Bでは、巻き太りが大きく生じており、コイルターン間の間隔が狭くなっているので、コイルターン間にエンプラヤーン12aを巻き込んだ際、エンプラヤーンは、角部Bに特に引掛りやすい。これにより、高確度に角部Bを含む領域にエンプラ層12を形成することができる。また、コイルターン間の間隔と同じかそれよりも大きい径を有するエンプラヤーン12aを用い、押し込むようにしてコイルターン間に配置すれば、
図2(b)に示すように、隣接する2つのコイルターンの双方にエンプラ層12が接着した状態を形成しやすい。
【0038】
図4のように既に巻き回し形状としたコイル10のコイルターン間にエンプラヤーン12aを配置する以外に、巻き回し前の長尺状の素線11にエンプラヤーン12aを沿わせ、素線11とエンプラヤーン12をともに巻き回し形状に成形する方法が考えられる。ただし、
図4のように成形したコイル10のコイルターン間にエンプラヤーン12aを巻き込む方法の方が、コイルターン間の部位、特に角部Bに、エンプラヤーン12aを確実に配置しやすい。
【0039】
コイル10のコイルターン間にエンジニアリングプラスチックを配置する方法として、上記のようにエンプラヤーン12aを用いる方法以外に、コイルターンの間隔に合わせて櫛歯状に成形したエンジニアリングプラスチックをコイルターン間に差し込む方法が考えられる。エンプラヤーン12aを用いる方法は、エンプラ層12を素線の軸線方向に沿って連続的に形成するのに特に適しているのに対し、櫛歯を用いる方法は、角部Bのみ等、エンプラ層12を素線の軸線方向に沿って不連続に形成するのに適している。
【0040】
以上のように、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、コイル10を形成する素線11の、コイルターン間に配置された表面を含む部位に、エンプラ層12が形成され、残りの部位が露出されていることにより、コイル10が振動を受けた時にコイルターン間で絶縁破壊が起こるのが抑制されるとともに、コイル10の冷却(放熱)を高効率で行うことができる。従来一般のリアクトル90においては、コイル91を収容するケースの内側に注型樹脂95を充填し、コイルターン間の空隙に浸入した注型樹脂95によって、コイルターン間の絶縁を確保してきた。また注型樹脂95を介して、適宜冷却機構を備えたケースの底面板94に熱を逃がすことで、コイル91の冷却を行ってきた。しかし、本実施形態にかかるリアクトルにおいては、上記の構成により、注型樹脂を用いなくても、コイルターン間の絶縁とコイル10の冷却を行うことができる。そして、注型樹脂を用いないことにより、側壁部を備えるケースを用いる必要がない。これにより、従来に比べ、リアクトル全体を簡素化、軽量化できるとともに、生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0042】
<試験試料の作製>
[実施例1]
図1〜3に示した形状を有するコイルとコアを作製し、それらの組合体を形成した。コイルの作製にあたり、エナメル被覆線を所定の角型の形状に巻き回した後、コイルターン間にPPSヤーンを巻き込み、PPSの融点までコイルを加熱し、コイル素線にPPSを溶着させた。その後、コイルを底面板に固定し、端子接続等を行って、リアクトルとして組み上げた。
【0043】
[比較例1]
実施例1のPPSヤーンの代わりにポリエチレンヤーンを用いて、同様のリアクトルを作製し、比較例1にかかるリアクトルとした。
【0044】
<試験方法>
[被覆状態の評価]
各リアクトルに対して、JIS D1601に規定される自動車部品振動試験方法に準拠して、振動試験を行った。そして、振動試験後に、コイルターン間の部位に配置された素線の表面の絶縁被覆層(エナメル被覆層)に、剥離等、被覆状態の異常が発生していないかどうか、目視にて確認を行った。絶縁被覆層に剥離等の異常が見られなかったものを、合格「○」とし、剥離等の異常が認められたものを、不合格「×」とした。
【0045】
[リアクトルの特性評価]
上記振動試験の前後で、リアクトルの電気特性を評価し、振動試験によって特性が低下していないかどうかを確認した。特性が低下しなかったものを、合格「○」とし、特性が低下したもの、あるいは電気特性の評価を実施できなかったものを、不合格「×」とした。また、特性評価中にコイルの発熱によって特性が経時的に低下しないことを、実施例1のリアクトルに対して確認した。
【0046】
<試験結果>
表1に、各実施例および比較例にかかるリアクトルについて、振動試験後の被覆状態の評価とリアクトルの特性評価の結果を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示したとおり、ポリエチレンを用いた比較例1のリアクトルにおいては、振動試験を経ても、絶縁被覆層の剥離等、目視されるような被覆状態の異常は観察されなかった。しかし、特性評価中に、コイルの発熱によって、ポリエチレン樹脂が溶融してしまい、特性評価を実施できなかった。このことは、ポリエチレンをコイルターン間に配置することで、振動による絶縁被覆を防止する役割を得ることはできるが、耐熱性が低いため、高温になるコイルのターン間に配置して使用するには適さないことを示している。
【0049】
一方、PPSを用いたリアクトルにおいては、振動試験を経ても、素線の絶縁被覆層に摩耗等の異常が発生せず、特性が初期の状態から低下することもなかった。つまり、エンジニアリングプラスチックであるPPSがコイルターン間に配置されることで、振動によって絶縁被覆層に損傷が生じることが防止されている。また、PPSが高い耐熱性を有することにより、コイルが発熱しても溶融することがなく、コイルターン間で絶縁被覆層を保護する役割を維持できることが分かった。PPSに被覆されない露出部において、発熱したコイルが冷却を受けることで、発熱によるリアクトル特性の経時低下が見られないことと合わせて、コイルの発熱に対して高い耐性を有するリアクトルが得られていることが示された。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。