【解決手段】 本発明は、入力信号ペア間の位相差をコース時間分解能に従って変換した第1のコード値を出力するとともに、その時間残差に基づく2種類の残差信号ペアをそれぞれ出力する、コースTDCと、第1種類の残差信号ペア間の位相差をファイン時間分解能に従って変換した第2のコード値を出力する第1のファインTDCと、第2種類の残差信号ペア間の位相差を該ファイン時間分解能に従って変換した第3のコード値を出力する第2のファインTDCと、該第2のデジタルコード値及び該第3のデジタルコード値に基づいて、理想的な時間分解能比に対するずれ量に関する非理想因子を算出し、該算出した非理想因子に基づいて、変換出力されるコード値に対してキャリブレーションを行う、キャリブレーション部と、を備えるタイムデジタルコンバータ。
入力信号ペア間の位相差を第1の時間分解能に従って変換した第1のデジタルコード値を出力するとともに、前記第1のデジタルコードへの変換に伴う時間残差に基づく第1の残差信号ペア及び第2の残差信号ペアのそれぞれを出力する、コースTDCと、
前記第1の残差信号ペア間の位相差を前記第1の時間分解能よりも小さい第2の時間分解能に従って変換した第2のデジタルコード値を出力する第1のファインTDCと、
前記第2の残差信号ペア間の位相差を前記第2の時間分解能に従って変換した第3のデジタルコード値を出力する第2のファインTDCと、
前記第1のファインTDCから出力される前記第2のデジタルコード値及び前記第2のファインTDCから出力される前記第3のデジタルコード値に基づいて、前記第1の時間分解能と前記第2の時間分解能との間の理想的な時間分解能比に対するずれ量に関する非理想因子を算出し、該算出した非理想因子に基づいて、前記第1のデジタルコード値、前記第2のデジタルコード値、及び第3のデジタルコード値の少なくとも1つに対してキャリブレーションを行う、キャリブレーション部と、
を備えるタイムデジタルコンバータ。
前記コースTDCは、前記第1のデジタルコードへの変換に伴う時間残差の関係を示す前記第1の残差信号ペアを前記第1のファインTDCに出力するとともに、前記時間残差に前記第1の時間分解能に対応する最小単位時間を加えた時間差の関係を有する前記第2の残差信号ペアを前記第2のファインTDCに出力する、請求項1記載のタイムデジタルコンバータ。
前記キャリブレーション部は、前記第2のデジタルコード値と前記第3のデジタルコード値との差を算出することにより、前記非理想因子を算出する、請求項2記載のタイムデジタルコンバータ。
前記キャリブレーション部は、前記第2のデジタルコード値と前記第3のデジタルコード値との差を経時的に算出し、該経時的に算出される差の平均値を算出することにより、前記非理想因子を算出する、請求項2記載のタイムデジタルコンバータ。
前記キャリブレーション部は、前記第1のデジタルコード値に対して前記非理想因子を乗ずることによってキャリブレーションを行う、請求項3乃至5のいずれか記載のタイムデジタルコンバータ。
前記キャリブレーション部は、前記第2のデジタルコード値と前記第3のデジタルコード値との差を算出し、前記理想的な時間分解能比を該算出した差で除することにより、前記非理想因子を算出する、請求項2記載のタイムデジタルコンバータ。
前記キャリブレーション部は、経時的に算出される、前記第2のデジタルコード値と前記第3のデジタルコード値との差の平均値を算出し、前記理想的な時間分解能比を該算出した平均値で除することにより、前記非理想因子を算出する、請求項2記載のタイムデジタルコンバータ。
前記キャリブレーション部は、前記第2のデジタルコード値に対して前記非理想因子を乗ずることによってキャリブレーションを行う、請求項7乃至9のいずれか記載のタイムデジタルコンバータ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
[第1の実施形態]
(PLL回路の概略構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るタイムデジタルコンバータを用いたPLL回路の概略構成の一例を示す図である。同図に示すように、本実施形態のPLL回路100は、例えば、基準発振回路110と、タイムデジタルコンバータ(TDC)部120と、デジタルループフィルタ(DLF)130と、デジタル制御発振器(DCO)140と、分周器150を含んで構成される。このようなPLL回路100は、各コンポーネントがデジタル回路によって構成されるため、ADPLL(All Digital PLL)回路と呼ばれることもある。
【0030】
基準発振回路110は、例えば水晶振動子等の振動子を含み(図示せず)、該振動子に所定の電圧を印加することによって該振動子の固有振動数に応じた周波数を有する基準クロック信号REFCLKを生成し、出力する。
【0031】
TDC部120は、分周器150から出力される分周出力信号DIVCLKと基準クロック信号REFCLKとの間の正規化された位相差を検出し、これをコード値Tdiff_outとして出力する。ここで、正規化された位相差とは、TDC部120の最小時間分解能(即ち、ファインTDCブロック122の時間分解能)を用いて示される値をいう。
【0032】
本実施形態のTDC部120は、粒度(即ち、時間分解能)の異なる2つのTDC回路、即ち、粗い位相差検出を行うコースTDC121と、より細かな位相差検出を行う一対のファインTDC122a及び122bを含むファインTDCブロック122とから構成される(
図3A等参照)。コースTDC121並びにファインTDC122a及び122bはそれぞれ既知のものを用いることができる。また、本実施形態のTDC部120は、コースTDC121の出力と、ファインTDCブロック122の出力との間のゲイン(時間分解能)のミスマッチを校正するためのキャリブレーション部123を備える。ここで、ゲインミスマッチとは、コースTDC121及びファインTDCブロック122の出力における時間分解能の比が理想値から所定量だけずれることをいう。TDC部120の詳細については後述する。
【0033】
デジタルループフィルタ130は、TDC部120の出力に従ってデジタル制御発振器140に対する発振周波数を制御するためのループゲイン信号を生成する。即ち、デジタルループフィルタ130は、TDC部120から入力された信号に対して、ループフィルタリング及びゲインの正規化を行う。
【0034】
デジタル制御発振器(DCO:Digitally Controlled Oscillator)140は、デジタルループフィルタ130から入力されるOTW(Oscillator Tuning Word)信号に基づいて、その値に応じた発振周波数の信号を出力する。デジタル制御発振器140から出力される信号が、PLL回路100の出力、即ち、クロック信号CLKとなる。デジタル制御発振器140は、図示はしないが、典型的には、インダクタL及び容量Cから構成されるLC発振回路又はリング発信器が用いられる。
【0035】
分周器150は、デジタル制御発振器140から出力されたクロック信号CLKを所定の分周比で分周する回路である。分周比は、任意の値とすることができる。分周器150は、所定の分周比で分周した信号を、分周出力信号DIVCLKとしてTDC部120に出力する。分周出力信号DIVCLKは、TDC部120に入力されるフィードバック信号である。
【0036】
以上のような構成により、PLL回路100は、基準クロック信号REFCLKに基づいて生成されるクロック信号CLKの周波数を、フィードバック制御しながら、所定の周波数にロックさせることができる。
【0037】
上記の例では、デジタル制御発振器140から出力される信号を分周器150により所定の分周比で分周し、これによって得られた分周出力信号DIVCLKをTDC部120への入力に用いているが、これに限られるものではなく、例えば、デジタル制御発振器140から出力されるクロック信号CLKをそのままTDC部120への入力に用いるようにしても良い。また、TDC部120の構成によっては、別途、カウンタ回路が用いられ得る。
【0038】
(2段構成TDCの基本概念)
次に、本実施形態のTDC部120で採用される、コース及びファインからなる2段構成TDC(以下、「2段構成TDC」という。)の基本概念について説明する。
【0039】
かかる2段構成TDCにおいては、コースTDCに入力された2つの信号間の時間差(入力時間差)を第1の時間分解能で量子化し、該量子化により余った信号成分がファインTDCに送られる。ファインTDCは、該信号成分をさらに該第1の時間分解能よりも小さい第2の時間分解能で量子化する。これにより、2段構成TDCは、最終的な時間分解能をファインTDCの時間分解能まで向上させることができる。この場合、2段構成TDCへの入力時間差Tdiff_inとそこからの出力Tdiff_outとの理想的な関係は、以下のように示される。
【数1】
…<1>
ただし、cfratio=tresc/tresf
cfratio:理想時間分解能比
tresc:コース時間分解能
tresf:ファイン時間分解能
【0040】
このことから明らかなように、2段構成TDCからの最終出力Tdiff_outは、入力時間差Tdiff_inに比例する。即ち、
図2Aに示すように、理想状態では、コースTDCによるコース時間分解能tresc1スケールに対して常に所定スケールのファインTDCによるファイン時間分解能tresfが対応する(本例では、コース時間分解能tresc1スケール対してファイン時間分解能tresfが6スケールとしている)。
【0041】
例えば、コースTDCの時間分解能trescを30[ps]、ファインTDCの時間分解能tresfを5[ps]とし、2段構成TDCへの入力時間差Tdiff_inが74[ps]であったとすると、コースTDCが出力する量子化値(デジタルコード)は2、ファインTDCに送られる余り成分は、74−2×30=14[ps]となり、従って、ファインTDCの量子化値は2となる。このように、2段構成TDCの入力Tdiff_inと出力Tdiff_outとが理想的な関係にあれば、該2段構成TDCは、全体として、線形性を有することとなる。
【0042】
しかしながら、実際上は、回路設計の段階で、時間分解能比cfratioを理想的な値に設定したとしても、例えばPVTの変動よりその値は保証されず、従って、
図2B及び
図2Cに示すようなコースTDCの出力とファインTDCの出力との間のゲインミスマッチが生じ得る。即ち、同
図Bは、実際のファイン時間分解能tresfが理想値よりも大きく、従って、時間分解能比cfratioが理想値よりも小さい場合を示し、また、同
図Cは、実際のファイン時間分解能tresfが理想値よりも小さく、従って、時間分解能比cfratioが理想値よりも大きい場合を示している。
【0043】
(2段構成TDCにおけるキャリブレーション方法)
ここで、上記式1を、コースTDC及びファインTDCのそれぞれの出力に着目し、さらに詳細に記述すると、以下のようになる。なお、以下では、理想的なコース及びファイン時間分解能はそれぞれ、tresc_ideal及びtresf_idealと再定義する。
【数2】
…<2>
ただし、Tdiff_in_coarse:コースTDCにより量子化される成分(アナログ値)
Tdiff_in_fine:ファインTDCにより量子化される成分(量子化雑音を除く。)(アナログ値)
【0044】
従って、式2は、
【数3】
…<3>
となり、ゆえに、
【数4】
…<4>
となる。
【0045】
一方、非理想的なコース時間分解能及び非理想的なファイン時間分解能をそれぞれ、tresc_nieal及びtresf_nidealとし、非理想状態について考えると、
【数5】
…<5>
【数6】
…<6>
となり、2段構成TDCの線形性を確保できない。そこで、2段階TDCの線形性を確保するために、理想的な時間分解能比cfratioに代えて、非理想状態における時間分解能比(非理想時間分解能比)cfratio_nidealを導入し、その解を見つけ出すために、
【数7】
…<7>
【数8】
…<8>
を計算する(第1のキャリブレーション方法)。
【0046】
また、式6中、[(1/cfratio)×(tresc_nideal/tresf_nideal)]が非理想因子であることから、
【数9】
…<9>
を見つけ出し、式9の右辺の値を校正値としてファインTDCの出力に重畳する(第2のキャリブレーション方法)。
【0047】
以下では、第1及び第2のキャリブレーション方法を実現する本発明に係るTDC部120について説明する。
【0048】
(TDC部の概略構成)
図3Aは、本発明の一実施形態に係るTDC部の概略構成の一例を示す図である。同図に示すように、TDC部120は、コースTDC121と、ファインTDCブロック122と、キャリブレーション部123Aと、増幅器124と、加算器125を含んで構成される。同図に示すキャリブレーション部123Aは、上記第1のキャリブレーション方法を実現するために適合されている。
【0049】
コースTDC121は、分周出力信号DIVCLKと基準クロック信号REFCLKとの間の時間差(即ち、入力時間差Tdiff_in)を検出し、該入力時間差Tdiff_inに基づくコード値Tdiff_out_coarseを出力するとともに、相互に所定の時間的関係を有する2組の出力Tdiff_out_coarse_a及びTdiff_out_coarse_bを出力する。ここで、第1の出力Tdiff_out_coarse_a及び第2の出力Tdiff_out_coarse_bは、以下のように定義される。
【数10】
…<10>
【数11】
…<11>
つまり、コースTDC121からの第2の出力Tdiff_out_coarse_bは、第1の出力Tdiff_out_coarse_aに対して、コースTDC121の最小時間分解能tresc(正確には、tresc_nideal)だけ延長した値を有する。コースTDC121の出力Tdiff_out_coarse_a及びTdiff_out_coarse_bについては、第4の実施形態で説明する。
【0050】
ファインTDCブロック122は、一対のファインTDC122a及び122bを含んで構成される。PLL回路100は、キャリブレーション時は、ファインTDC122a及び122bの双方を動作させ、通常時は、ファインTDC122a及び122bのいずれか一方を動作させるように構成されても良い。或いは、PLL回路100は、バックグラウンドでキャリブレーションが行われるよう、通常時においても、ファインTDC122a及び122bの双方を動作させるように構成されても良い。
【0051】
ファインTDC122aは、コースTDC121からの出力Tdiff_out_coarse_aに基づいてコード値Tdiff_out_fine_aを出力する。出力信号Tdiff_out_fine_aは、キャリブレーション部123の非理想因子検出器1231A及び加算器125に入力される。また、ファインTDC122bは、コースTDC121からの出力Tdiff_out_coarse_bに基づいてコード値Tdiff_out_fine_bを出力する。出力信号Tdiff_out_fine_bは、キャリブレーション部123の非理想因子検出器1231Aに入力される。一対のファインTDC122a及び122bは、コースTDC121の時間分解能よりも小さな時間分解能を持つものであれば良く、両者は同じ回路構成のものを用いることができる。
【0052】
キャリブレーション部123Aは、コースTDC121とファインTDC122a及び122bとの間のゲインミスマッチを検出し、これを校正するように構成される。本実施形態のキャリブレーション部123Aは、例えば、非理想因子検出器1231Aを含んで構成される。非理想因子検出器1231Aは、後述するように、ファインTDC122aによる出力Tdiff_out_fine_aとファインTDC122bによる出力Tdiff_out_fine_bとに基づいて、非理想因子(非理想時間分解能比)cfratio_nidealを算出する。
【0053】
増幅器124、コースTDC121から出力されるコード値Tdiff_out_coarseを非理想因子検出器1231Aから出力される非理想因子cfratio_nidealで増幅(乗算)、即ち校正し、これを校正値Tdiff_out_coarse_gとして出力する。乗算値Tdiff_out_coarse_gは、加算器125により、ファインTDC122aからのコード値Tdiff_out_fine_aと加算され、その結果はTDC部120の出力Tdiff_outとなる。
【0054】
なお、同図中、増幅器124は、キャリブレーション部123Aとは別体に構成されているが、キャリブレーション部123の機能の一部としてそこに組み込まれるように構成されても良い。
【0055】
次に、このように構成されたTDC部120におけるキャリブレーション方法について説明する。今、コースTDC121からの出力Tdiff_out_coarse_a及びTdiff_out_coarse_bを、ファインTDC122a及び122bへの入力Tdiff_in_fine_a+Q及びTdiff_in_fine_b+Qと再定義する。ここで、Tdiff_in_fine_a及びTdiff_in_fine_bは、ファインTDC122a及び122bによりそれぞれ量子化される成分であり、Qは量子化されない成分(余り成分)である。上述したように、入力Tdiff_in_fine_b+Qは、Tdiff_in_fine_a+Qに対してコースTDC121の最小時間分解能分だけ大きい遅延量を有する。
【0056】
従って、コースTDC121の時間分解能もまた、実際上は、不定であることから、
【数12】
…<12>
となる。
【0057】
これより、ファインTDC122a及び122bの出力はそれぞれ、
【数13】
…<13>
【数14】
…<14>
となる。従って、式14から式13を引くと、
【数15】
…<15>
となる。つまり、非理想因子検出部1231Aは、ファインTDC122bによる出力Tdiff_out_fine_bとファインTDC122aによる出力Tdiff_out_fine_aとの差に基づいて、非理想因子cfratio_nidealを算出する。
【0058】
以上より、TDC部120の出力Tdiff_outは、
【数16】
…<16>
となる。ここで、Tdiff_out_fineは、コースTDCに対するファインTDCの出力として記述されており、本実施形態では、Tdiff_out_fine_aとなる。これにより、コースTDC121とファインTDC122a及び122bとのゲインミスマッチが解消されることになる。
【0059】
図3Bは、本発明の一の実施形態に係るTDC部の概略構成の他の一例を示す図である。同図に示すように、TDC部120は、コースTDC121と、ファインTDC122と、キャリブレーション部123Bと、増幅器124’と、加算器125とを含んで構成される。同図に示すキャリブレーション部123Bは、上記第2のキャリブレーション方法を実現するように適合されている。なお、コースTDC121及びファインTDC122a及び122bは、
図3Aを参照して説明したものと同じであるので、ここでは説明を省略する。
【0060】
本例のキャリブレーション部123は、非理想因子検出部1231B及び乗算器1232を含む。非理想因子検出部1231Bもまた、後述するように、ファインTDC122bによる出力Tdiff_out_fine_bとファインTDC122aによる出力Tdiff_out_fine_aとに基づいて、非理想因子cfratio_nidealを求める。
【0061】
増幅器124’は、コースTDC121から出力されるコード値Tdiff_out_coarseを理想的な時間分解能比cfratioで増幅(乗算)し、これを乗算値Tdiff_out_coarse_gとして出力する。即ち、
図3Aに示す増幅器124は、増幅率が非理想因子によって変化する増幅器であるのに対し、本例の増幅器124’は、設計上の時間分解能比cfratio(即ち、定数)で増幅する増幅器である。校正値Tdiff_out_coarse_gは、加算器125により乗算器1232からの出力と加算され、その結果はTDC部120の最終的なコード値Tdiff_outとして出力される。
【0062】
即ち、このように構成されたTDC部120によるキャリブレーション方法では、上記式15に示されるように、ファインTDC122aによる出力Tdiff_out_fine_aとファインTDC122bによる出力Tdiff_out_fine_bとの差に基づいて、非理想コース時間分解能tresc_nidealと非理想ファイン時間分解能tresf_nidealとの比が求められる。これにより、TDC部120の出力Tdiff_outは、
【数17】
…<17>
となる。これにより、コースTDC121とファインTDC122a及び122bとのゲインミスマッチが解消されることになる。
【0063】
[第2の実施形態]
本実施形態は、上記第1の実施形態の改良技術を開示する。即ち、上記第1の実施形態において、キャリブレーション部123A及び123Bは、ファインTDC122aによる出力Tdiff_out_fine_aとファインTDC122bによる出力Tdiff_out_fine_bとの時間差を求めている。しかしながら、実用上は、TDC部120(特にファインTDC122)における量子化雑音を無視できないため、これを考慮することが、TDC部120の線形性のさらなる向上に寄与することになる。即ち、上記式13及び式14は、より正確には、
【数18】
…<18>
【数19】
…<19>
ただし、qna:ファインTDC122aにおける量子化雑音成分
qnb:ファインTDC122bにおける量子化雑音成分
と表され得る。
【0064】
一般に、TDC部120内の量子化雑音は、白色雑音であるとみなし得る。従って、量子化雑音成分の影響は、出力差Tdiff_out_fine_b−Tdiff_out_fine_aを経時的に求め、求めた値を平均化することによって、より小さくすることができる。即ち、非理想因子cfratio_nidealは、
【数20】
…<20>
と表すことができる。
【0065】
図4A及び
図4Bは、本発明の一実施形態に係るキャリブレーション部の概略構成の一例を示すブロックダイアグラムである。具体的には、同
図Aは、第1のキャリブレーション方法を実行する本実施形態のキャリブレーション部123Aの概略構成の一例を示し、同
図Bは、第2のキャリブレーション方法を実行する本実施形態のキャリブレーション部123Bの概略構成の一例を示している。
【0066】
同
図Aに示すように、本実施形態のキャリブレーション部123Aの非理想因子検出部1231Aは、減算器SB1と平均化処理部1233とを含んで構成される。減算器SB1は、出力差Tdiff_out_fine_b(i)−Tdiff_out_fine_a(i)を算出する。平均化処理部1233は、式20の右辺、即ち、ファインTDC122aとファインTDC122bとの出力差Tdiff_out_fine_b(i)−Tdiff_out_fine_a(i)の総和の平均を求めるように構成される。平均化処理部1233は、既知のものを用いることができ、システム構成や要件に応じ、周波数や収束の速さ等を考慮して、適宜に設計される。
【0067】
一方、同
図Bに示す非理想因子検出部1231Bは、減算器SB1と、平均化処理部1233と、除算器DVとを含んで構成される。同
図Bに示す平均化処理部1233の機能及び構成は、同
図Aに示したものと同じである。
【0068】
以上のように、本実施形態によれば、特にファインTDC122の量子化雑音を考慮し、ファインTDC122aとファインTDC122bとの出力差Tdiff_out_fine_b−Tdiff_out_fine_aを経時的に求め、求めた値を平均化しているので、該量子化雑音を小さくすることができるようになる。
【0069】
[第3の実施形態]
本実施形態は、上記第2の実施形態のさらなる変形例を開示する。即ち、本実施形態のキャリブレーション部は、より高精度かつ安定的なキャリブレーションを実現するため、逐次近似法を用いて繰り返し演算することにより、非理想因子(非理想時間分解能比)を算出する。
【0070】
図5Aは、本発明の一実施形態に係るキャリブレーション部の概略構成の一例を示すブロックダイアグラムである。同図に示すキャリブレーション部123A’は、第1のキャリブレーション方法を実現するように適合されている。
【0071】
即ち、本実施形態のキャリブレーション部123A’における非理想因子検出部1231A’は、減算器SB1と、平均化処理部1233と、減算器SB2、加算器AD1と、増幅器APと、レジスタ部1234とを含んで構成される。増幅器APは、予め定められた係数kの値に従って逐次近似法における演算回数、即ち、演算精度を決定するために用いられる。本例では、増幅器APは、入力値に対して2
−kを乗じるように構成される。レジスタ部1234は、例えば、フリップフロップ回路を含んで構成され(図示せず)、現在の非理想因子cfratio_nideal(i)の値を保持する。レジスタ部1234の初期値には、例えば、理想的な時間分解能比cfratioが設定される。
【0072】
非理想因子検出部1231A’は、減算器SB2により、平均化処理部1233から出力される出力差の平均値とレジスタ部1234に保持された現在の非理想因子cfratio_nideal(i)との差を算出し、その結果を増幅器APにより2
−k倍し、さらに、加算器AD1により現在の非理想因子cfratio_nideal(i)の値を加算し、そして、得られた結果でレジスタ部1234の内容を更新する。このような処理が繰り返されることにより、非理想因子cfratio_nideal(i)の値は、実際の値に徐々に近づいていくことになり、従って、ゲインミスマッチが校正されることになる。
【0073】
図5Bは、本発明の一実施形態に係るキャリブレーション部の概略構成の他の例を示すブロックダイアグラムである。同図に示すキャリブレーション部123B’は、第2のキャリブレーション方法を実現するように適合されている。
【0074】
即ち、本例の非理想因子検出部1231B’は、減算器SB1と、平均化処理部1233と、除算器DVと、減算器SB2と、加算器AD1と、増幅器APと、レジスタ部1234とを含んで構成される。
図5Aに示したコンポーネントと同じものは同じ符号が付されている。
【0075】
本例の非理想因子検出部1231B’もまた、平均化処理部1233から出力される出力差の平均値とレジスタ部1234に保持された現在の非理想因子cfratio_nideal(i)との差に従って演算を繰り返し行うことによって、非理想因子cfratio_nideal(i)を実際の値に徐々に近づいていくことになる。従って、ファインTDC122aの出力Tdiff_out_fine_a(又はファインTDC122bの出力Tdiff_out_fine_b)は、乗算器APにより、現在の非理想因子cfratio_nideal(i)と乗算されることで、ゲインミスマッチを校正することができるようになる。
【0076】
図5Cは、本発明の一実施形態に係るキャリブレーション部の概略構成の変形例を示すブロックダイアグラムである。即ち、上述した同
図Bに示すキャリブレーション部123B’では、除算器DVが用いられているが、実際の設計上は、このような除算器を用いない方が、消費電力及びチップ面積の観点で有利と考えられる。そこで、本変形例では、除算器DVを用いない構成が採用されている。併せて、同
図Cでは、レジスタ部1234の具体的構成の一例が示されている。本変形例では、レジスタ部1234は、フリップフロップFF1及びFF2と加算器AD2とを含んで構成される。
【0077】
同図を参照して、フリップフロップFF1及びFF2の初期値は“0”である。キャリブレーション部123B’’において、動作開始直後は、平均化処理部1233から出力される出力差の平均値とレジスタ部1234の初期値“1”とが乗算され、減算器SB2で理想時間分解能比cfratioとの差を求め、これに増幅器APで2
−kを乗じた値がフリップフロップFF1に格納されるとともに、加算器AD2に出力され、加算器AD2により“1”を加算された値がフリップフロップFF2に格納される。フリップフロップFF2に格納された値は、所定のタイミングで乗算器MPに出力される。従って、次の平均化処理で得られた値に対しては、フリップフロップFF1に格納された値に“1”が加算された値が乗じられることになる。以降、このような処理を繰り返し行うことにより、校正値cfratio/cfratio_nidealの値は徐々に収束していくことになり、ゲインミスマッチを小さくしていくことができるようになる。
【0078】
図5Dは、本発明の一実施形態に係るキャリブレーション部の概略構成の他の変形例を示すブロックダイアグラムである。同図は、
図5Cに示したキャリブレーション部123’のさらなる変形例を示している。
【0079】
即ち、同図に示すように、本実施形態のキャリブレーション部123B’’’では、2つの乗算器1232a及び1232bが非理想因子検出器1231B’’’の前段に設けられている。つまり、キャリブレーション部123B’’’は、ファインTDC122aとファインTDC122bとの出力差を求める前に、出力Tdiff_out_fine_a及び出力Tdiff_out_fine_bのそれぞれに対して現在の非理想因子cfratio_niealを乗ずるように構成される。
【0080】
例えば、TDC部120において、理想的な時間分解能比cfratioが“6”、レジスタ部1234の初期値が1、動作開始直後の非理想因子cfratio_nidealが“3”であるとする。この時点で、平均化処理部1233により得られる値は“3”であるから、キャリブレーション部123B’’’は、“3×2
−k”に“1”を加算した後、次の平均化処理に入ることになる。従って、このようなキャリブレーション処理を繰り返していくことにより、cfratio/cfratio_nidealの値は“2”に収束し、平均化処理部1233により得られる値、即ち、非理想因子cfratio_nidealは“6”になる。このようにして、本変形例においても同様に、コースTDC121とファインTDC122a及び122bとのゲインのミスマッチを校正することができるようになる。
【0081】
[第4の実施形態]
本実施形態では、TDC部120におけるコースTDC121及びファインTDC122の一例を詳述する。なお、上述したように、本発明においては、コースTDC121及びファインTDC122のそれぞれは、既知のさまざまな構成のものを用いることができ、ここに示すものに限定されるものではない。
【0082】
(コースTDCの構成)
図6は、本発明の一実施形態に係るTDC部におけるコースTDCの構成の一例を示す図である。本実施形態のコースTDC121は、2系統からなる複数段の遅延バッファ群を含んで構成される。
【0083】
コースTDC121は、入力信号ペア、即ち、分周出力信号DIVCLKと基準クロック信号REFCLKとの間の時間差(即ち、入力時間差Tdiff_in)を検出し、該時間差を示すサーモメータコードtdc_coarse<0:N>を出力するとともに、相互に所定の時間的関係(即ち、量子化に伴う残差の関係)を有する2種類の残差信号ペア、即ち、第1のスタート/ストップ信号“start_fine_a/stop_fine_a”及び第2のスタート/ストップ信号“start_fine_b/stop_fine_b”を出力する(
図7参照)。なお、コード値tdc_coarse<0:N>は、図示しないエンコーダによってバイナリコード値Tdiff_out_coarseに変換され、出力される。つまり、2種類の残差信号ペアのそれぞれは、上述したコースTDC121の出力Tdiff_out_coarse_a及びTdiff_out_coarse_b(即ち、Tdiff_in_fine_a及びTdiff_in_fine_b)に対応する。
【0084】
より具体的には、同図に示すように、コースTDC121は、分周出力信号DIVCLKに対して遅延線を構成するように複数段に接続された第1の遅延バッファ群1211と、該第1の遅延バッファ群1211のそれぞれの遅延バッファ間の中間タップにD端子が接続され、基準クロック信号REFCLKをクロック入力とする第1のフリップフロップ群1212とを含んで構成される。遅延バッファ一段分の遅延時間が、コースTDC121の時間分解能となる。従って、第1のフリップフロップ群1212のそれぞれから出力される値が、最終的に、時間差を示すコード値Tdiff_out_coarseとなる。また、第1の遅延バッファ群1211の特定の遅延バッファ間の中間タップには、ファインTDC122ブロック(即ち、ファインTDC122a及び122b)に対するスタート信号startfine_a及びstart_fine_bを供給するための引き出し線が設けられる。また、本例では、任意の中間タップからの出力を選択できるように、ゲート回路1213a〜1213cが設けられている。なお、同図から明らかなように、スタート信号start_fine_a及びstart_fine_bは、同一の遅延時間を持っており、同一の信号として扱うことができる。第1の遅延バッファ群1211の段数がコースTDC121の入力レンジである。
【0085】
また、コースTDC121は、基準クロック信号REFLCLKに対して遅延線を構成するように複数段に接続された第2の遅延バッファ群1214と、該第2の遅延バッファ群1214のそれぞれの遅延バッファ間の中間タップにデータ端子が接続された第2のフリップフロップ群1215とを含んで構成される。第2のフリップフロップ群1215のクロック入力はグランドに接続されている。また、第2の遅延バッファ群1214の所定の遅延バッファ間の中間タップには、ファインTDC122に対してストップ信号stop_fine_a及びstop_fine_bを供給するための引き出し線が設けられる。また、本例では、任意の中間タップからの出力を選択できるように、ゲート回路1216a及び1216bが設けられている。同図から明らかなように、ストップ信号stop_fine_a及びstop_fine_bが遅延バッファ1個分の遅延時間を持つように、各引き出し線は、隣接する中間タップに接続される。
【0086】
なお、同図中、ゲート回路のいくつかは、コースTDC121の線形性を確保するためにダミー回路として設けられている。
【0087】
以上のように構成されたコースTDC121は、分周出力信号DIVCLKを第1のフリップフロップ群1212のデータ端子に、基準クロック信号REFCLKをクロック端子に入力することにより、第1のフリップフロップ群1212の出力列に現れる“1”及び“0”の境界を検出し、その“1”の個数から位相差を求める。このとき、“1”及び“0”の境界までの遅延バッファM個が、コースTDC120による量子化出力(バイナリコード値Tdiff_out_coarse)となる。よって、遅延バッファ群1211と、遅延バッファ群1214の遅延バッファの段数の差がM個となるように、ゲート回路群1213を制御することにより、量子化に伴う残差を有する残差信号ペア、即ち、第1のスタート/ストップ信号start_fine_a/stop_fine_aが出力される。同様に、遅延バッファ群1211と、遅延バッファ群1214の遅延バッファの段数の差がM+1個となるように、ゲート回路群1213を制御することにより、量子化に伴う残差に、量子化の時間分解能を加えた値を有する残差信号ペア、即ち、第2のスタート/ストップ信号start_fine_b/stop_fine_bが出力される。
【0088】
例えば、第1のフリップフロップ群1212のうちの2個によって“1”が出力された場合、位相差は、第1のフリップフロップ群1212の2個目と3個目の間にある。即ち、
2×tresc<位相差<3×tresc …<21>
である。従って、コースTDC121による量子化値は、“2”となる。また、位相差−2×trescが残差residueであり、コースTDC121は、これをstart_fine_a及びstop_fine_aのエッジ立ち上がりの時間差として出力する。
【0089】
即ち、コースTDC121において、第1種類の信号start_fine_aとstop_fine_aとの間のエッジ立ち上がりの時間差が量子化余り成分(時間残差)となり、ファインTDC122aに入力されることになる。また、第2種類の信号start_fine_bとstop_fine_bは、第1の信号組start_fine_a及びstop_fine_aに対して遅延バッファ1個分の位相差が加えられており、これらの間のエッジ立ち上がりの時間残差として、ファインTDC122bに入力されることになる。
【0090】
図8は、本発明の一実施形態に係るTDC部におけるコースTDCによる入出力信号を示す図である。同図を参照して、コースTDC121は、上述したように、分周出力信号DIVCLKに第1のバッファ群1211により遅延させた遅延量DIVCLK_delayedを加算することで、第1のフリップフロップ群1212の出力列に現れる“1”及び“0”の境界を検出する。同図中、符号Xで示す鎖線の部分が、
図10を参照して後述される。
【0091】
図9は、本発明の一実施形態に係るTDC部におけるファインTDCブロックを構成するファインTDCの構成の一例を示している。以下では、ファインTDC122aについて説明するが、上述したように、ファインTDC122a及び122bは同一の構成であるため、ファインTDC122bについても同様に当てはまる。本実施形態のファインTDC122aは、入力される信号(即ち、スタート/ストップ信号)の遅延量をランダムに制御するように構成される。
【0092】
ファインTDC122aは、コースTDC121と比較して、時間分解能が高くなるように構成され、一般に、その入力レンジは狭くなる。ただし、本実施形態のファインTDC122aの入力レンジは、少なくともコース時間分解能tresc×2を有するものとする。
【0093】
即ち、同図に示すように、本実施形態のファインTDC122aは、スタート信号start_fine_aを遅延バッファ群1221を経て、N個の容量素子を持つ負荷容量群PDL_outに入力し、接続する容量素子の数をランダム変えることによりファイン時間分解能tresf間隔で遅延させ、フリックフロップ群1222のデータ端子にそれぞれ入力する。このとき、負荷容量群PDL_outによる遅延量は、乱数回路1223から出力される乱数値に基づいて0〜Nの間でランダムに制御される。これにより、各容量素子の非線形性に起因した周期性をランダム化することができ、スプリアスを低減させることができるようになる。一方、フリップフロップ群1222のクロック端子には、ストップ信号stop_fine_aが入力される。これにより、ファインTDC122aは、フリップフロップ群1222からの出力を加算器1224に入力し、“1”の数をカウントすることで入力された信号start_fine_aとstop_fine_aとの間の位相差の量子化値を求めることができる。
【0094】
図10は、本発明の一実施形態に係るTDC部におけるファインTDCによる入力信号を示す図であり、より具体的には、同図(a)はファイン時間分解能tresfが理想値である場合の信号間の関係を示し、同図(b)はファイン時間分解能tresfが非理想的値である場合の信号間の関係を示している。同図(a)に示すように、ファイン時間分解能が理想値tresf_idealであれば、コース時間分解能trescとファイン時間分解能tresfとの比は、理想的な時間分解能比cfratio(本例によれば“6”)に一致する。
【0095】
例えば、フリップフロップ群1222のうちの2個によって“1”が出力された場合、位相差は、
2×tresf<位相差<3×tresf …<22>
となる。従って、ファインTDC122aによる量子化値は、“2”となる。
【0096】
以上のように、本実施形態によれば、粒度(時間分解能)の異なるコースTDC121とファインTDC122a及び122bとを用いた2段構成TDCを構成することができ、上述した各実施形態のキャリブレーション部123,…に適用することができるようになる。特に、本実施形態のコースTDC121は、2つのファインTDC122a及び122bに対して、最小コース時間分解能tresc分ずらしたストップ信号stop_fine_a及びstop_fine_bを入力することができ、これにより、キャリブレーション部123,…において非理想因子(非理想時間分解能cfratio_nideal)を求めることができるようになる。