【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで送風装置等におけるモータの駆動において、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動することができれば、便利であると考えられる。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動すること(以下、風量一定制御と呼ぶ)を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ベクトル制御によりモータを駆動するモータ装置であって、送風機に用いられるモータ装置において、風量Qと回転速度ω
eとq軸駆動電流i
qとの関係に着目し、回転速度ω
eとq軸駆動電流i
qとが比例するように制御すれば、風量Qを一定に維持できるとの着想により、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1) ファンをモータにより駆動して流体の搬送に供するモータ装置において、
前記モータの現在の回転角度と回転速度とを取得する位置速度取得部と、
前記位置速度取得部で取得した回転速度を流量係数で乗算して流量一定目標駆動電流を計算する乗算部と、
前記流量一定目標駆動電流を制御目標に設定してモータの駆動電流を制御する電流制御部とを備えることにより、前記流体の流量を前記流量係数に応じた一定値に保持するように制御し、
前記電流制御部は、
前記モータの駆動電流を検出する電流センサと、
前記モータの駆動電流をクラーク変換するクラーク変換部と、
前記クラーク変換部の出力を前記位置速度取得部で取得した回転角度に基づいてパーク変換して出力するパーク変換部と、
前記流量一定目標駆動電流と前記パーク変換部の出力との差分値を計算する減算部と、
前記減算部の出力により制御値を生成するコントローラと、
前記制御値を前記位置速度取得部で取得した回転角度に基づいて逆パーク変換する逆パーク変換部と、
前記逆パーク変換部の出力を逆クラーク変換する逆クラーク変換部と、
前記逆クラーク変換部の出力により前記モータを駆動するインバータとを備える。
【0009】
(1)によれば、現在の回転速度を流量係数で乗算して流量一定目標駆動電流を設定することにより、流量一定制御によるベクトル制御によりモータを駆動することができ、その結果、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動することができる。
【0010】
(2) (1)において、前記位置速度取得部は、
位置センサを用いて回転角度及び回転速度を取得する。
【0011】
(2)によれば、具体的構成により回転角度及び回転速度を取得することができる。
【0012】
(3) (1)又は(2)において、前記流量係数の設定を受け付けて前記流量を切り替える。
【0013】
(3)によれば、上位のコントローラ等の制御により駆動の条件を可変することができる。
【0014】
(4) (1)、(2)又は(3)において、
前記モータの回転速度を判定基準値により判定する判定部を備え、
前記判定部の判定結果に基づいて、
前記モータの回転速度が上限の判定基準値を超えると、前記流量一定目標駆動電流に代えて、上限の回転速度と前記位置速度取得部で取得した回転速度との差分値により算出される速度一定目標駆動電流を制御目標に設定することにより、前記上限の回転速度で前記モータを駆動し、
前記モータの回転速度が下限の判定基準値を下回ると、前記流量一定目標駆動電流に代えて、下限の回転速度と前記位置速度取得部で取得した回転速度との差分値により算出される速度一定目標駆動電流を制御目標に設定することにより、前記下限の回転速度で前記モータを駆動する。
【0015】
(4)によれば、流量一定の条件によりモータを駆動して、回転速度が上限値、下限値を超えないようにモータを駆動することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
〔風量一定制御の原理〕
始めにこの実施形態に係る送風装置に関して、風量を一定値に保持するモータ制御の原理を説明する。ここで送風に係る風量(流量)をQ、送風に供するモータの回転数をN[r/min]、このモータの出力をP[W]とおくと、風量Q及び回転数Nと、出力Pとは比例関係により表され、次式の関係式により表される。
【0021】
これにより風量Qを一定に保持するためには、P/N
2が一定値となるように制御すれば良いことが判る。ここで風量Qに比例する係数(K
Q∝Q)を定義すると、(1)式は次式により示すように変形することができる。
【0023】
この回転数Nと出力Pとをベクトル制御で使用される物理量に変換する。ここで回転数Nは、電気角速度ω
e[rad/sec]、モータの極対数P
Pを使用して次式により表すことができる。
【0025】
またモータ出力Pは、モータが発生するトルクτと機械角速度ω
m[rad/sec]とにより、次式により表すことができる。
【0027】
またこのトルクτは、一般的なブラシレスDCモータ(表面磁石型の永久磁石型同期モータ)では、次式により示すように、極対数P
P、回転子磁束強度Φ[Vs/rad]、q軸駆動電流i
qの積により表すことができる。
【0029】
また機械角速度ω
mと電気角速度ω
eとの関係は、次式により表すことができる。
【0031】
ここで(5)式及び(6)式を(4)式に代入すると、次式の関係式を得ることができる。
【0033】
この(7)式と(3)式とを(2)式に代入すると、次式の関係式を得ることができ、風量Qを一定に保持するための電気角速度ω
eとq軸駆動電流i
qとの関係式を得ることができる。
【0035】
ここで(8)式は、流量係数K´
Qを使用して次式により表すことができる。
【0037】
但し、流量係数K´
Qは、次式により表される。
【0039】
これにより電気角速度ω
eとq軸駆動電流i
qとが比例関係を維持するように保持すれば、風量一定によりモータを駆動することができる。
【0040】
〔モータ装置の基本構成〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ装置の基本的な構成を示すブロック図である。モータ装置1は、3相のブラシレス直流モータ2によりファンを駆動して送風する送風装置に適用される。モータ装置1は、ダイオードD1〜D4を使用した全波整流回路による整流回路3により交流電源4を整流した後、平滑コンデンサCにより平滑化し、これにより直流電源(バス電圧)V
BUSを生成してインバータ5に供給する。ここでインバータ5は、トランジスタ、FET(Field effect transistor)等の駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wによる3組の直列回路が、電流センサ11により駆動電流をそれぞれ検出可能に設定されて、直流電源V
BUS及び電流センサ11間に配置され、各直列回路の接続中点がそれぞれモータ2のU相、V相、W相の巻き線に接続される。なお電流センサ11は、アースラインに接続される。またインバータ5は、各駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wのベース(ゲート)が図示しない駆動回路により駆動され、これにより駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wの出力電圧によりモータ2を駆動する。しかして電流センサ11はインバータ5及びアースライン間に設置され、モータ2の各相の駆動電流を検出する。なお各駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wには、それぞれ保護用のダイオードが設けられている。
【0041】
またモータ装置1は、図示しない電源回路により交流電源から低電圧の直流電源を生成してマイクロコンピュータ(マイコン)による制御回路9に入力する。制御回路9は、電流センサ11を介して、モータ2の駆動電流等を取得し、この電流情報に基づくベクトル制御計算によりモータ2の駆動電圧を決定し、インバータ5の動作を制御する。
【0042】
図2は、この制御回路9の処理手順の実行により構成される機能ブロックを、周辺構成と共に示すブロック図である。制御回路9は、この機能ブロックの構成によりセンサレスベクトル制御の手法を適用してモータ2を駆動する。
【0043】
すなわちモータ装置1は、電流センサ11により検出される各相の駆動電流i
uvをクラーク変換部12に入力し、クラーク変換部12は、この電流センサ11による検出結果をクラーク変換することにより、2相固定座標系の駆動電流ベクトルi
αβを出力する。位置速度推定部13は、この2相固定座標系の駆動電流ベクトルi
αβと対応する2相固定座標系の駆動電圧ベクトルV
αβとから、回転子の回転角度θ
c、電気角速度ω
eを推定算出して出力することにより、モータの現在の回転角度と回転速度とを取得する。演算部15は、この位置速度推定部13で算出された回転角度θ
cの正弦値及び余弦値を算出して出力し、パーク変換部14は、この演算部15の算出結果を使用して2相固定座標系の駆動電流ベクトルi
αβをパーク変換することにより、駆動電流ベクトルi
αβを回転座標系のq軸駆動電流i
q、d軸駆動電流i
dに変換して出力する。
【0044】
モータ装置1は、上位のコントローラ等から(9)式に係る流量係数K´
Qを風量の制御目標値として入力し、乗算部16は、この流量係数K´
Qと位置速度推定部13で算出された電気角速度ω
eとを乗算する。これによりモータ装置1は、(9)式の左辺の乗算処理を実行して制御目標の駆動電流である風量一定目標駆動電流値i1
qを計算し、スイッチ部17を介して減算回路18に出力する。減算回路18は、パーク変換部14で算出されたq軸駆動電流i
qをスイッチ部17の出力値から減算して出力し、PIコントローラ(PI)19は、この減算回路18の出力値を所定利得により増幅すると共に、この減算回路18の出力値の移動積分値を算出した後、所定利得により増幅して加算し、これにより比例積分制御に係る制御値となるq軸駆動電圧V
qを計算する。減算回路20は、パーク変換部14で算出されたd軸駆動電流i
dと対応する制御目標値i1
d(この例では値0である)の減算値を算出して出力し、PIコントローラ(PI)21は、この減算回路20に係る比例積分制御に係る制御値となるd軸駆動電圧V
dを計算して出力する。
【0045】
逆パーク変換部22は、演算部15の計算結果を利用して、PIコントローラ19、21より出力されるq軸駆動電圧V
qとd軸駆動電圧V
dとを逆パーク変換処理して2相固定座標系の駆動電圧ベクトルV
αβを出力し、逆クラーク変換部23は、この逆パーク変換部22から出力される2相固定座標系の駆動電圧ベクトルV
αβを逆クラーク変換処理し、3相固定座標系の駆動電圧ベクトルV
UVWを出力する。モータ装置1は、この逆クラーク変換部23から出力される3相固定座標系の駆動電圧ベクトルV
UVWをパルス幅変調してモータ2のコイルに印加し、モータ2を駆動する。
【0046】
これによりモータ装置1は、
図3により
図2の構成を簡略化して示すように、上位のコントローラ等から入力される流量係数K´
Qと電気角速度ω
eとの乗算値が、風量一定q軸目標駆動電流i1
qとなり、この風量一定q軸目標駆動電流i1
qに駆動電流i
qが一致するようにフィードバック制御し、(9)式の関係式を保持するように、モータ2を駆動し、これにより風量一定制御によりモータを駆動する。
【0047】
ところでモータ2の駆動においては、回転速度の下限値及び上限値を設定することが必要である。すなわち低速回転時、軽負荷時、モータ2では、駆動電流及び駆動電圧が低いことにより位置、速度の推定精度が劣化し、安定な駆動が困難になる。これにより下限値を設定することが必要になる。また高速回転時のモータ発熱や振動から回路やモータを保護するために、上限値を設定することが必要である。
【0048】
そこでモータ装置1では(
図2)、速度上限値ω
maxと速度下限値ω
minとを切り替えて速度制御目標値を減算回路26に入力し、ここで位置速度推定部13で推定される電気角速度ω
eとの減算値を計算する。またこの計算した減算値をPIコントローラ27に入力して比例積分制御に係る速度一定q軸目標駆動電流i1
qを計算し、計算結果をスイッチ部17に出力する。モータ装置1は、図示しない判定部により位置速度推定部13で推定される電気角速度ωeを判定し、この判定結果によりスイッチ部17の動作、速度制御目標値を切り替え、これにより風量一定制御と速度一定制御の間とでモータ2の制御を切り替え、モータ2の回転速度が上限値、下限値を超えないようにモータ2を駆動する。
【0049】
具体的に、判定部は、スイッチ部17を介して乗算部16からの乗算値を減算回路18に出力して風量一定制御によりモータ2を駆動している状態で、位置速度推定部13で推定される電気角速度ω
eが上限値ω
maxを超えると、速度制御目標値を上限値ω
maxに設定すると共に、スイッチ部17の動作を切り替えてPIコントローラ27の出力値を減算回路18に出力する。これにより風量一定制御から速度一定制御にモータ2の制御を切り替え、モータ2の回転速度を上限値ω
maxに保持する。
【0050】
またこのように速度一定制御によりモータ2の回転速度を上限値ω
maxに保持するように駆動している状態で、PIコントローラ27から出力される速度一定q軸目標電流i1
qが、位置速度推定部13で推定される電気角速度ω
eと流量係数K´
Qとの乗算値K´
Q・ω
e以上に立ち上がると、スイッチ部17を介して乗算部16からの乗算値を減算回路18に出力して風量一定制御によりモータ2を駆動する。すなわちスイッチ部17により速度一定制御から風量一定制御にモータ2の制御に切り替える。
【0051】
また風量一定制御によりモータ2を駆動している状態で、位置速度推定部13で推定される電気角速度ω
eが下限値ω
minを下回ると、速度制御目標値を下限値ω
minに設定すると共に、スイッチ部17の動作を切り替えてPIコントローラ27の出力値を減算回路18に出力する。これにより風量一定制御から速度一定制御にモータ2の制御を切り替え、モータ2の回転速度を下限値ω
minに保持する。
【0052】
またこのように速度一定制御によりモータ2の回転速度を下限値ω
minに保持するようにして、PIコントローラ27から出力される速度一定q軸目標電流i1
qが、位置速度推定部13で推定される電気角速度ω
eと流量係数K´
Qとの乗算値K´
Q・ω
e未満に立ち下がると、スイッチ部17を介して乗算部16からの乗算値を減算回路18に出力して風量一定制御によりモータ2を駆動する。すなわちスイッチ部17により速度一定制御から風量一定制御にモータの制御を切り替える。
【0053】
なおこのように風量一定制御による駆動と、回転速度の上限値及び下限値による速度一定制御による駆動との切り替えにおいて、ヒステリシス特性を設けるようにしてもよい。
【0054】
図4は、このような駆動の切り替えに係るモータ装置1の特性を示す特性曲線図である。風量一定制御によりモータ2を駆動している状態では、流量係数K´
Qに応じた比例係数による駆動電流及び回転速度の特性によりモータ2を駆動し(実線により示す範囲である)、この状態で例えば流路の静圧が大きくなると風量一定を維持するためにモータ2の回転速度が上昇する。ここでモータ2の回転速度が上限値を超えると、速度一定制御による駆動に切り替わり、上限値でモータ2を駆動する(破線により示す範囲である)。また速度一定制御により回転速度の上限値によりモータ2を駆動している状態で流路の静圧が小さくなるとモータ2の負荷が大きくなり駆動電流が上昇する。ここで駆動電流の大きさが流量係数と回転速度の乗算値を超えると、元の風量一定制御による駆動に切り替える。
【0055】
また風量一定制御による駆動において、流路の静圧が小さくなると風量一定を維持するためにモータ2の回転速度が低下する。ここでモータ2の回転速度が下限値を下回ると、速度一定制御による駆動に切り替わり、この下限値によりモータ2を駆動する。また速度一定制御により回転速度の下限値でモータ2を駆動している状態で、流路の静圧が大きくなると、モータ2の負荷が小さくなり駆動電流が低下する。ここで駆動電流の大きさが流量係数と回転速度の乗算値を下回ると、元の風量一定制御による駆動に切り替える(破線により示す範囲である)。
【0056】
この実施形態によれば、ベクトル制御によりモータを駆動するようにして、現在の回転速度を流量係数で乗算して目標駆動電流を計算し、この目標駆動電流と実際の駆動電流を一致させるようにフィードバック制御することにより、従来に比して一段と簡易な処理により風量を一定に維持するようにモータを駆動することができる。
【0057】
また流量係数の調整により、風量を所望の大きさに設定することができる。なお流量係数を調整する方法は、例えばモータ装置内にボリウム等を設置して、それらを操作することで調整する方法でも良いし、上位コントローラ等から風量の大きさを指示する方法でも良い。
【0058】
また判定部により回転速度の上限値及び下限値を判定してモータの制御を切り替えることにより、回転速度が上限値、下限値を超えないようにモータを駆動することができる。
【0059】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更することができる。
【0060】
例えば上述の実施形態では、モータの回転角度及び回転速度を取得する手段として位置速度推定部を設け、駆動電流と駆動電圧からの推定計算により回転角度及び回転速度を取得する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、回転角度及び回転速度を取得する手段としてエンコーダ、レゾルバ等の位置センサを設けるようにし、これら位置センサの検出結果を処理して回転角度及び回転速度を取得しても良い。
【0061】
また上述の実施形態では、ファンを駆動して気体を搬送する送風装置に本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ファン(羽根車)を駆動して液体を搬送する場合にも広く適用して流量一定制御により駆動することができる。
【0062】
さらに上述の実施形態では、3相のブラシレスモータによるファンモータを駆動する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、各種のモータを駆動する場合に広く適用することができる。