【課題】攪拌接合部の始端部又は終端部である継手端部を薄くせずに継手端部の疲労強度を改善して、疲労寿命を大幅に向上させることができるFSW重ね合わせ継手を提供すること。
【解決手段】FSW重ね合わせ継手1Xは、重ね合わされた外板10とフレーム20の平面部21との接合面40cに、摩擦攪拌接合装置50の攪拌軸52aを挿入して摩擦攪拌接合を行い、攪拌軸52aが一方向に移動した領域に攪拌接合部40が形成されている。フレーム20の平面部21の表面21aのうち、攪拌接合部40の終端部40b及び始端部40aから前記一方向で攪拌接合部40の内側へ少し離れた位置に、表面21aから窪んだ内側窪み穴42,44が形成されている。
重ね合わされた板状の接合部材と被接合部材との接合面に摩擦攪拌接合装置の攪拌軸を挿入して摩擦攪拌接合を行い、前記攪拌軸が一方向に移動した領域に攪拌接合部が形成されているFSW重ね合わせ継手において、
前記接合部材の表面のうち、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から前記一方向で前記攪拌接合部の内側へ少し離れた位置に、前記表面から窪んだ内側窪み穴が形成されていることを特徴とするFSW重ね合わせ継手。
重ね合わされた板状の接合部材と被接合部材との接合面に摩擦攪拌接合装置の攪拌軸を挿入して摩擦攪拌接合を行い、前記攪拌軸が一方向に移動した領域に攪拌接合部を形成したFSW重ね合わせ継手に対して、前記接合部材の表面を押圧して圧縮残留応力を付与するFSW重ね合わせ継手の疲労強度改善方法において、
前記接合部材の表面のうち、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から前記一方向で前記攪拌接合部の内側へ少し離れた位置を、前記摩擦攪拌接合装置に取付けられている押圧ツールで押圧して前記表面から窪んだ内側窪み穴を形成することを特徴とするFSW重ね合わせ継手の疲労強度改善方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された疲労強度改善方法には、以下の問題点がある。
すなわち、摩擦攪拌接合で形成された抜き穴245の深さは、攪拌軸252aが接合部材220の表面220aから挿入された長さであるため、接合部材220の厚さより大きい。その抜き穴245をしごいて更に深くしているため、攪拌接合部240の終端部240bは、FSW重ね合わせ継手200の中で非常に薄い部分になる。つまり、FSW重ね合わせ継手200は、軽量化のために、約数mmの非常に薄い板材同士が接合されたものであり、上記した疲労強度改善方法により、抜き穴245で薄くなっている攪拌接合部240の終端部240bが非常に薄くなってしまう。
【0008】
このため、応力集中部である攪拌接合部240の終端部240bが外力に対して変形し易い部分になり、しごかれた抜き穴245によって強度的な安全性を完全に保証できるか不明である。従って、安全上、上記した疲労強度改善方法を実際の構造物に用いることが難しい。こうして、上記した疲労強度改善方法以外によって、継手端部(攪拌接合部の始端部又は終端部)の疲労強度を改善できるFSW重ね合わせ継手が求められている。
【0009】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、攪拌接合部の始端部又は終端部である継手端部を薄くせずに継手端部の疲労強度を改善して、疲労寿命を大幅に向上させることができるFSW重ね合わせ継手、及びその疲労強度改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るFSW重ね合わせ継手は、重ね合わされた板状の接合部材と被接合部材との接合面に摩擦攪拌接合装置の攪拌軸を挿入して摩擦攪拌接合を行い、前記攪拌軸が一方向に移動した領域に攪拌接合部が形成されているものであって、前記接合部材の表面のうち、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から前記一方向で前記攪拌接合部の内側へ少し離れた位置に、前記表面から窪んだ内側窪み穴が形成されていることを特徴とする。
また、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、1mm以上離れていることを特徴とする。
さらに、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、前記内側窪み穴の半径以上離れていることを特徴とする。例えば本実施例では、ツール半径が2mmなので、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、2mm以上離れていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るFSW重ね合わせ継手によれば、内側窪み穴によって、継手端部(攪拌接合部の始端部又は終端部)から一方向で攪拌接合部の内側へ少し離れた位置に、前記表面から窪んだ内側窪み穴が形成されているので、内側窪み穴を形成するときに、その穴内にあった肉部分が流動されて継手端部に圧縮応力を付与する。そして、付与された圧縮残留応力が継手端部に機能して、継手端部で疲労による亀裂の発生及び進展を抑制することができる。
通常は、応力を与える部分に直接変形を加えれば良いのであるが、本発明の場合には、継手端部付近に直接内側窪み穴を形成すると、継手端部付近の厚みが薄くなり、強度が弱くなる問題があり、その問題を回避するために、内側へ少し離れた位置に内側窪み穴を形成し、その穴内にあった肉部分の流動を利用して、継手端部に圧縮応力を付与しているのである。
この継手によれば、内側窪み穴のみを形成すればよいので、工程数を減少することができる。
特に、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、1mm以上離れていることを特徴とするので、継手端部が、内側窪み穴の形成により薄くされることがなく、強度を低下させることがない。
さらに、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、前記内側窪み穴の半径以上離れていることを特徴とするので、継手端部が、内側窪み穴の形成により薄くされることがなく、強度を低下させることがない。
【0012】
また、本発明に係るFSW重ね合わせ継手において、前記接合部材の表面のうち、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から前記一方向で前記攪拌接合部より外側へ少し離れた位置に、前記表面から窪んだ外側窪み穴が形成されていることが好ましい。
この場合には、外側窪み穴及び内側窪み穴によって、継手端部では、一方向の両側から圧縮残留応力が効果的に機能する。このため、継手端部の疲労強度を大きく改善できて、疲労強度をより向上させることができる。2点押し込みは、圧入位置が離れていても効果を得ることができるため、施工に余裕度を与えることができる。
【0013】
また、外側窪み穴及び内側窪み穴の両方によって圧縮残留応力を付与するため、一つの窪み穴によって圧縮残留応力を付与する場合に比べて、外側窪み穴及び内側窪み穴の深さをそれぞれ小さくすることができる。即ち、外側窪み穴及び内側窪み穴の両方を形成するため、一つの深くて且つ大きい窪み穴を形成する必要がない。これにより、外側窪み穴が形成された部分と内側窪み穴が形成された部分では、薄くて変形し易くなることを抑制できる。
【0014】
また、本発明に係るFSW重ね合わせ継手において、前記被接合部材は、鉄道車両の応力外皮構造を構成するアルミニウム合金の外板であり、前記接合部材は、前記外板を補強するアルミニウム合金のフレームであると良い。
この場合には、気密圧を繰り返し受ける鉄道車両において、軽量化を達成しつつ、気密圧に対する疲労強度が十分確保された信頼性が高い応力外皮構造を構成することができる。
【0015】
本発明に係るFSW重ね合わせ継手の疲労強度改善方法は、重ね合わされた板状の接合部材と被接合部材との接合面に摩擦攪拌接合装置の攪拌軸を挿入して摩擦攪拌接合を行い、前記攪拌軸が一方向に移動した領域に攪拌接合部を形成したFSW重ね合わせ継手に対して、前記接合部材の表面を押圧して圧縮残留応力を付与する方法であって、前記接合部材の表面のうち、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から前記一方向で前記攪拌接合部の内側へ少し離れた位置を、前記摩擦攪拌接合装置に取付けられている押圧ツールで押圧して前記表面から窪んだ内側窪み穴を形成することを特徴とする。
また、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、1mm以上離れていることを特徴とする。
さらに、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、前記内側窪み穴の半径以上離れていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るFSW重ね合わせ継手の疲労強度改善方法によれば、上述した本発明に係るFSW重ね合わせ継手の作用効果で説明したように、継手端部において疲労強度が改善されて、疲労強度を大幅に向上させることができる。更に、摩擦攪拌接合装置に取付けられた押圧ツールで押圧して内側窪み穴を形成するため、押圧ツールを押圧させる機構及び押圧ツールを水平移動させる機構を別途設ける必要がない。つまり、摩擦攪拌接合装置は、攪拌軸を押圧する上下移動機構及び攪拌軸を水平方向に移動させる水平移動機構を予め備えているため、これら上下移動機構及び水平移動機構を利用することで内側窪み穴を簡易に形成することができる。従って、大きな設備変更をする必要がなくて、コスト及び作業労力を低減できる。
【0017】
また、本発明に係るFSW重ね合わせ継手の疲労強度改善方法において、前記接合部材の表面のうち、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から前記一方向で前記攪拌接合部より外側へ少し離れた位置を、前記押圧ツールで押圧して前記表面から窪んだ外側窪み穴を形成することで、内側窪み穴の押し込み位置や深さの施工上の余裕度を大きく取ることができる。すなわち、内側窪み穴をある条件位置まで持ってくると、外側窪み穴の効果を包括できる。
この場合には、継手端部では、外側窪み穴及び内側窪み穴によって一方向の両側から圧縮残留応力が効果的に機能するため、継手端部の疲労強度を大きく改善できて、疲労寿命をより向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係るFSW重ね合わせ継手の疲労強度改善方法において、前記押圧ツールは、前記攪拌軸を有する攪拌ツールであっても良い。
この場合には、攪拌軸を有する攪拌ツールと窪み穴を形成する押圧ツールとが兼用されるため、摩擦攪拌接合後に、攪拌ツールを押圧ツールに取り換える必要がない。従って、作業効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のFSW重ね合わせ継手、及びその疲労強度改善方法によれば、攪拌接合部の始端部又は終端部である継手端部を薄くせずに継手端部の疲労強度を改善して、疲労寿命を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るFSW重ね合わせ継手及びその疲労強度改善方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態のFSW重ね合わせ継手は、鉄道車両の車体の応力外皮構造に適用されている。
図1は、その応力外皮構造1を示した斜視図である。
図1に示すように、応力外皮構造1は、1枚の外板10と、車両周方向に延びる各フレーム20と、車両長手方向に延びる縦通材30とを備えて構成されている。この応力外皮構造1は、車体のうち側構体、屋根構体、妻構体に用いられている。
【0022】
外板10は、車体の外周面を構成するものであり、車両全長に渡って約20〜25m車両長手方向に延びている。そして、外板10は、アルミニウム合金の押出成形によって形成された押出形材であり、車両内側に起立する縦通材30が一体的に形成されている。この外板10は、軽量化のため、厚さが約2mmになっている。
【0023】
各フレーム20は、外板10の車両内側に摩擦攪拌接合によって接合されていて、アルミニウム合金の押出成形によって形成された押出形材である。各フレーム20は、外板10を補強する部材であり、厚さが約3mmになっている。そして、各フレーム20は、断面がL字状になっていて、平面部21と起立部22とを有している。なお、フレーム20は、断面がL字状に形成されたものに限られず、外板10と重なり合う平面部21を有するものであれば断面がZ字状に形成されたものでも良く、その形状は適宜変更可能である。
【0024】
縦通材30は、車両長手方向に連続的に延びていて、図示していないが、車両周方向に約200mmの間隔を空けて複数配置されている。この縦通材30は、主に車両長手方向の圧縮荷重を外板10の車両長手方向に沿って分散させて、外板10の撓み及び座屈を防止するものである。こうして、縦通材30が車両長手方向に優先的に延びていて、各フレーム20が車両周方向の一方側と他方側に分かれている。
【0025】
この応力外皮構造1において、鉄道車両がトンネルを通過する際に、外板10が外圧と内圧との差である気密圧を受ける。この気密圧は、鉄道車両の走行速度が大きくなる程大きくなり、外板10に接合された各フレーム20が、気密荷重を耐えるようになっている。従って、鉄道車両の応力外皮構造1は、繰り返し受ける気密荷重に耐えることができるように、外板10と各フレーム20の平面部21とが強固に接合されている。
【0026】
本実施形態では、外板10と各フレーム20の平面部21とが、摩擦攪拌接合によって接合されたFSW重ね合わせ継手1Xになっている。このため、外板10と各フレーム20には、車両周方向に沿って攪拌接合部40が形成されている。この外板10が本発明の「被接合部材」に相当し、各フレーム20が本発明の「接合部材」に相当する。FSW重ね合わせ継手1Xでは、リベット接合やスポット溶接と異なり、外板10の外周面にリベットの頭部やスポット溶接による圧痕が表れないというメリットがある。しかし、摩擦攪拌接合を用いることで、母材より疲労強度が低下して、疲労破壊が生じ易くなるというデメリットがある。
【0027】
ここで、鉄道車両は、トンネルを何度も通過するため、航空機に比べて気密圧を受ける回数が非常に多い。そして、外板10と各フレーム20は軽量化のためにアルミニウム合金で構成されていて、アルミニウム合金は鋼鉄と異なり疲労限界が存在しない。即ち、繰り返し受ける気密荷重の回数が多ければ多いほど、より小さい応力で疲労破壊を起こすことになる。FSW重ね合わせ継手1Xにおいては、攪拌接合部40の始端部40a及び終端部40bが応力集中部になり、気密荷重を一番大きく受ける部分になる。このため、従来から、攪拌接合部40の始端部40a及び終端部40bで、疲労による亀裂を発生及び進展させないように、疲労強度改善方法が考案されている。
【0028】
従来の疲労強度改善方法として、フレーム20の平面部21と外板10の表面に、約0.05〜1.0mmの鋼球を衝突させるショットピーニングを施す方法がある。この方法では、フレーム20の平面部21の表面21aに圧縮残留応力が付与されるため、亀裂の発生及び進展を抑制することができる。しかし、この方法では、表面21aにのみ圧縮残留応力が付与されて、その表面21aから深い位置まで圧縮残留応力が付与されない。
【0029】
また、従来の別の疲労強度改善方法として、
図14(B)に示すように、攪拌接合部240の終端部240bで攪拌軸252aを抜き取るときに形成された抜き穴245に、攪拌軸252aを再び回転させながら押し付けて、抜き穴245をより深く且つ拡大するようにしごく方法がある。しかし、この方法では、攪拌接合部240の終端部240bが抜き穴245によって薄くなっているにも拘わらず、その抜き穴245をしごくことによって更に薄くなってしまう。このため、応力集中部である攪拌接合部240の終端部240bが気密荷重に対して変形し易い部分になり、強度的な安全性を完全に保証できるか不明である。
【0030】
そこで、本実施形態では、攪拌接合部40の始端部40a及び終端部40bを薄くせずに疲労強度を改善して、疲労寿命を大幅に向上させるようになっている。以下、本実施形態のFSW重ね合わせ継手1Xの構成について詳細に説明する。
図2は、
図1に示したFSW重ね合わせ継手1Xの縦断面図である。なお、
図1に示した車両周方向の一方側のFSW重ね合わせ継手1Xと他方側のFSW重ね合わせ継手1Xは同様の構成であるため、一方側のFSW重ね合わせ継手1Xについてのみ説明する。
【0031】
図2に示すように、攪拌接合部40は、後述する摩擦攪拌接合装置50の攪拌軸52a(
図3参照)が、フレーム20の平面部21の表面21aから下方に挿入された状態で、
図2の右側から
図2の左側(車両周方向)に向かって移動した領域に形成されている。上述したように、フレーム20の平面部21の厚さは約3mmであり、外板10の厚さは約2mmである。攪拌軸52aが平面部21の表面21aから挿入された長さ、即ち攪拌接合部40の厚さは約3.5mmである。このFSW重ね合わせ継手1Xで疲労破壊が生じる場合、通常、攪拌接合部40の始端部40a及び終端部40bの下側で、外板10が
図2の二点鎖線L1,L2で示したように破断することになる。
【0032】
本実施形態のFSW重ね合わせ継手1Xでは、攪拌接合部40の終端部40bから車両周方向(
図2の左右方向)で攪拌接合部40から外側(
図2の左側)へ少し離れた位置に、表面21aから窪んだ外側窪み穴41が形成されている。また、攪拌接合部40の終端部40bから車両周方向で攪拌接合部40の内側(
図2の右側)へ少し離れた位置に、表面21aから窪んだ内側窪み穴42が形成されている。これら外側窪み穴41及び内側窪み穴42は、応力集中部である攪拌接合部40の終端部40bに圧縮残留応力を付与するものである。
【0033】
そして、外側窪み穴41及び内側窪み穴42は略円筒状の穴であり、直径が約4.0mmで深さが約1.5mmになっている。攪拌接合部40の終端部40bから外側窪み穴41までの距離は約4.0mmであり、攪拌接合部40の終端部40bから内側窪み穴42までの距離は約4.0mmである。また、内側窪み穴42から攪拌接合部40の内側(
図2の右側)に離れた位置に、攪拌軸52aを抜き取るときに形成された抜き穴45が形成されている。なお、上記した寸法は、あくまで本実施形態の一例として示した寸法であって、適宜変更可能である。
【0034】
こうして、攪拌接合部40の終端部40bでは、外側窪み穴41及び内側窪み穴42によって、表面21aから深い位置で且つ車両周方向の両側から圧縮残留応力が付与されていて、疲労強度が効果的に改善されている。このため、攪拌接合部40の終端部40bで、疲労による亀裂が発生及び進展し難くなっている。そして、外側窪み穴41、内側窪み穴42、抜き穴45が攪拌接合部40の終端部40bから離れた位置に形成されているため、攪拌接合部40の終端部40bの位置ではFSW重ね合わせ継手1Xが薄くなっていない。
【0035】
同様に、攪拌接合部40の始端部40aから車両周方向で攪拌接合部40より外側(
図2の右側)へ少し離れた位置に、外側窪み穴43が形成されている。また、攪拌接合部40の始端部40aから車両周方向で攪拌接合部40の内側(
図2の左側)へ少し離れた位置に、内側窪み穴44が形成されている。これら外側窪み穴43及び内側窪み穴44は、応力集中部である攪拌接合部40の始端部40aに圧縮残留応力を付与するものである。
【0036】
そして、外側窪み穴43及び内側窪み穴44は略円筒状の穴であり、直径が約4.0mmで深さが約1.5mmになっている。攪拌接合部40の始端部40aから外側窪み穴43までの距離は約4.0mmであり、攪拌接合部40の始端部40aから内側窪み穴44までの距離は約4.0mmである。なお、上記した寸法は、あくまで本実施形態の一例として示した寸法であって、適宜変更可能である。
【0037】
図2では、攪拌接合部40の両端部40a、40bの各々に、内側窪み穴42、44、及び外側窪み穴41、43を形成しているが、外側窪み穴41、43がなくても破断寿命を十分延ばせることを確認している。
【0038】
内側窪み穴42、44のみを形成した場合と、内側窪み穴42、44と外側窪み穴41、43を共に形成した場合の破断寿命に関する実験結果を
図15に示す。横軸は、継手端部から窪み穴の中心線までの距離を示し、縦軸は、破断寿命(単位サイクル数)を示す。
図13に、継手端部から内側窪み穴142の中心線までの距離をMで示す。
図15中Mは、内側窪み穴42、44のみを設けた場合のデータを示し、Nは、内側窪み穴42、44と共に外側窪み穴41、43を設けた場合のデータを示す。mは、内側窪み穴の実験データのばらつきを示している。Mは、その平均値を結ぶ線である。
図15に示すように、継手端部からの距離が1mm以上6mm以下の範囲では、内側窪み穴42、44のみを設けたもので実用上十分な破断寿命(10数万サイクル)を得ることができる。
【0039】
さらに、内側窪み穴42、44の位置は、内側窪み穴42、44の中心位置が、攪拌接合部の始端部又は終端部から、内側窪み穴42、44の半径(本実施例では2mm)以上離れていると、平均寿命が安定して長くなることがわかる。その理由は、内側窪み穴42、44の中心位置が、攪拌接合部の始端部又は終端部から、内側窪み穴42、44の半径(本実施例では、2mm)以内であると、継手端部付近の板厚が薄くなり強度が低下し、押し込みの効果が弱められるためである。また、6mmを越えて遠ざかると、肉部分の流動が接合部付近まで届かず、圧縮応力を付与することができない。したがって、内側窪み穴42、44の中心位置が、攪拌接合部の始端部又は終端部から、内側窪み穴42、44の半径(本実施例では、2mm)以上、6mm以下が望ましい。
通常は、応力を与える部分に直接変形を加えれば良いのであるが、本実施例の場合には、継手端部付近に直接内側窪み穴を形成すると、継手端部付近の厚みが薄くなり、強度が弱くなる問題があり、その問題を回避するために、内側へ少し離れた位置に内側窪み穴を形成し、その穴内にあった肉部分の流動を利用して、継手端部に圧縮応力を付与しているのである。
【0040】
こうして、攪拌接合部40の始端部40aでも、外側窪み穴43及び内側窪み穴44によって、表面21aから深い位置で且つ車両周方向の両側から圧縮残留応力が付与されていて、疲労強度が効果的に改善されている。このため、攪拌接合部40の始端部40aで、疲労による亀裂が発生及び進展し難くなっている。そして、外側窪み穴43及び内側窪み穴44が攪拌接合部40の始端部40aから離れた位置に形成されているため、攪拌接合部40の始端部40aの位置ではFSW重ね合わせ継手1Xが薄くなっていない。
【0041】
次に、本実施形態のFSW重ね合わせ継手の疲労強度改善方法について、
図3〜
図7を参照して説明する。
図3は、外板10とフレーム20の平面部21とを摩擦攪拌接合する状態を示した図である。
図3に示すように、摩擦攪拌接合装置50は、回転体51に取付けられている攪拌ツール52の攪拌軸52aを、高速で回転している状態で、重ね合わされた外板10とフレーム20の平面部21との接合面40c(
図2参照)に挿入して摩擦攪拌接合を行う。なお、摩擦攪拌接合装置50は従来の構成と同様であり、回転体51を回転させる回転機構と、回転体51が取付けられた本体部を上下方向に移動させる上下移動機構と、その本体部を水平方向に移動させる水平移動機構とを備えている。
【0042】
図4(A)に示す状態から
図4(B)に示すように、攪拌軸52aが、一方向(
図4の左側)に移動し、攪拌軸52aの高速回転による摩擦熱で母材が固相状態で攪拌して、攪拌接合部40が形成される。なお、
図4(B)に示すように、平面部21の一端21b及び他端21cにまで、攪拌接合部40は形成されていない。これは、摩擦攪拌接合する際に、平面部21の一端21b及び他端21cでは、攪拌できる母材が十分存在しないためである。従って、平面部21の一端21bと攪拌接合部40の始端部40aとの間、及び平面部21の他端21cと攪拌接合部40の終端部40bとの間には、必ず摩擦攪拌接合されていない部分が存在することになる。そこで、後述するように、この摩擦攪拌接合されていない部分に上述した外側窪み穴41,43を形成することになる。
【0043】
本実施形態の摩擦攪拌接合では、
図4(B)に示す状態から
図4(C)に示すように、攪拌接合部40の終端部40bまで移動した攪拌軸52aが、逆方向に所定量戻って、平面部21から上方へ抜き取られている。これにより、終端部40bと離れた位置に抜き穴45が形成されている。こうして、攪拌接合部40の終端部40bは、FSW重ね合わせ継手1Xのうち薄い部分になっていない。
【0044】
その後、
図4(D)に示すように、摩擦攪拌接合装置50の回転体51から攪拌ツール52を取り外して、回転体51に押圧ツール60を取付ける。ここで、
図5は、押圧ツール60を示した正面図であり、
図6は、
図5のZ部分を拡大した斜視図である。押圧ツール60は、
図5に示すように、回転体51に取付けられる頭部とこの頭部から延びる軸部とを有し、
図6に示すように、軸部の先端に円筒状の突起61が形成されている。この突起61が、上述した外側窪み穴41,43及び内側窪み穴42,44を形成する部分である。
図5では、押圧ツール60の回転体51との取付部を頭部としているが、円筒の円周の一部に溝を形成し、それにより動力を伝えるようにしても良い。
【0045】
こうして、回転体51に押圧ツール60を取付けた後、
図7(A)に示すように、摩擦攪拌接合装置50は、突起61が攪拌接合部40の終端部40bより外側へ少し離れた位置になるように、水平移動機構によって回転体51を移動させる。そして、摩擦攪拌接合装置50は、上下移動機構によって回転体51を下方へ移動させて、突起61で平面部21の表面21aを押圧する。これにより、上述した外側窪み穴41を形成することができる。なお、突起61は、回転していない状態で平面部21の表面21aを押圧している。
【0046】
次に、摩擦攪拌接合装置50は、回転体51を上方へ移動させた後に、
図7(B)に示すように、突起61が攪拌接合部40の終端部40bより内側に少し離れた位置になるように、水平移動機構によって回転体51を移動させる。そして、摩擦攪拌接合装置50は、上下移動機構によって回転体51を下方へ移動させて、回転していない突起61で平面部21の表面21aを押圧する。これにより、上述した内側窪み穴42を形成することができる。
【0047】
続いて、摩擦攪拌接合装置50は、回転体51を上方へ移動させた後に、
図7(C)に示すように、突起61が攪拌接合部40の始端部40aより外側に少し離れた位置になるように、水平移動機構によって回転体51を移動させる。そして、摩擦攪拌接合装置50は、上下移動機構によって回転体51を下方へ移動させて、回転していない突起61で平面部21の表面21aを押圧する。これにより、上述した外側窪み穴43を形成することができる。
【0048】
最後に、摩擦攪拌接合装置50は、回転体51を上方へ移動させた後に、
図7(D)に示すように、突起61が攪拌接合部40の始端部40aより内側に少し離れた位置になるように、水平移動機構によって回転体51を移動させる。そして、摩擦攪拌接合装置50は、上下移動機構によって回転体51を下方へ移動させて、回転していない突起61で平面部21の表面21aを押圧する。これにより、上述した内側窪み穴44を形成することができる。こうして、本実施形態の疲労強度改善方法が完了する。なお、本実施形態では、外側窪み穴41、内側窪み穴42、外側窪み穴43、内側窪み穴44の順番に形成したが、各窪み穴を形成する順番は適宜変更可能である。
【0049】
次に、本実施形態のFSW重ね合わせ継手1Xの有効性を、疲労試験による試験結果に基づいて説明する。ここでは、
図1に示すFSW重ね合わせ継手1Xの仮想モデルとして、
図8に示す試験用FSW重ね合わせ継手100を用いている。試験用FSW重ね合わせ継手100は、
図8(A)(B)(C)に示すように、長尺状の平板であるプレート110の両側に、長尺状の平板である各継手プレート120A,120Bを摩擦攪拌接合したものである。
【0050】
この試験用FSW重ね合わせ継手100(プレート110及び各継手プレート120A,120B)は、アルミニウム合金で構成されていて、攪拌接合部140と抜き穴145が形成されている。各攪拌接合部140は、摩擦攪拌接合装置の攪拌軸が
図8(A)の右側から左側へ移動することによって、形成されている。
図8(A)(B)(C)では、応力集中部になる攪拌接合部140の始端部140a及び終端部140bが示されていて、寸法s1が300mmであり、寸法s2が20mmであり、寸法u1が40mmであり、寸法t1が2mmであり、寸法t2が3mmである。これらの数値は、一例であり、t1=1.8mm、t2=2.5mm等でも良い。
【0051】
この試験用FSW重ね合わせ継手100に対して上述した疲労強度改善方法を行い、
図9に示すように、外側窪み穴141,143及び内側窪み穴142,144が形成されている。寸法v1は、約35mmである。なお、継手プレート120A側に形成された攪拌接合部140の始端部140aの近傍には、窪み穴が形成されておらず、継手プレート120B側に形成された攪拌接合部140の終端部140bにも、窪み穴が形成されていない。これは、疲労試験を行う際に、試験用FSW重ね合わせ継手100の両端部を把持するためである。
【0052】
こうして、
図9に示した各窪み穴141,142,143,144を有する試験用FSW重ね合わせ継手100に対して疲労試験を行った試験結果が、
図10に示されている。疲労試験では、試験装置が試験用FSW重ね合わせ継手100の両端部を把持して、ピストンの上下動を繰り返し行って、試験用FSW重ね合わせ継手100が破断するまで繰り返し所定の引張荷重を付与している。
図10では、各窪み穴141,142,143,144を有する試験用FSW重ね合わせ継手100が、186万回所定の引張荷重が付与されたときに破断したことが示されている。試験結果の図において上側の太い線は、ピストンの変位の上限値を示していて、下側の標準太さの実線は、ピストンの変位の下限値を示している。
【0053】
これに対して、各窪み穴141,142,143,144を形成する前の3つの試験用FSW重ね合わせ継手100に対して疲労試験を行った試験結果が、
図11に示されている。
図11では、約15万回所定の引張荷重が付与されたときに破断した結果と、約12万回所定の引張荷重が付与されたときに破断した結果と、約7万回所定の引張荷重が付与されたときに破断した結果が示されている。この疲労試験によれば、破断までの繰り返し回数に大きなばらつきがあることがわかる。特に、必要とする10万回をクリアできないものがあることが問題となる。
【0054】
ここで、
図12には、摩擦攪拌接合されていない母材であるアルミニウム合金に対して疲労試験を行った試験結果が示されている。
図12に示すように、摩擦攪拌接合されていない母材は応力集中部が無い為、約1000万回近く所定の引張荷重を付与しても破断しない。つまり、
図11と
図12との比較から、摩擦攪拌接合を行うことによって如何に疲労強度が低減するかが分かる。このことから、本実施形態の疲労強度改善方法は、摩擦攪拌接合によって低下した疲労強度を効果的に改善していると言える。
【0055】
本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態のFSW重ね合わせ継手1Xによれば、外側窪み穴41,43及び内側窪み穴42,44によって、継手端部(攪拌接合部40の始端部40a及び終端部40b)から一方向で外側及び内側へ少し離れた位置に、圧縮残留応力が付与されている。このため、継手端部では、一方向の両側から圧縮残留応力が効果的に機能していて、疲労による亀裂の発生及び進展を抑制することができる。こうして、上記特許文献1のように継手端部を薄くしなくても、継手端部において疲労強度が改善されて、疲労寿命を大幅に向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態のFSW重ね合わせ継手1Xによれば、外側窪み穴41,43及び内側窪み穴42,44の2点押し込みであるため、圧入位置が離れていても効果を得ることができるため、施工に余裕度を与えることができる。
一方、内側窪み穴42、44のみの場合には、1点のみを形成すればよいので、工程数を減少することができる。
【0057】
そして、本実施形態のFSW重ね合わせ継手1Xは、鉄道車両の応力外皮構造1に相応しいものである。即ち、一般的に、FSW重ね合わせ継手はアルミニウム合金の接合部材がアルミニウム合金の被接合部材に摩擦攪拌接合されたものであり、軽量であるものの、疲労寿命が短いことが懸念されている。特に、鉄道車両は、トンネルを何度も通過するため、航空機に比べて気密圧を受ける回数が非常に多くて、繰り返し受ける気密圧に対する疲労強度対策が重要な課題になっている。従って、本実施形態のFSW重ね合わせ継手1Xによれば、軽量化を達成しつつ、上述した疲労強度改善方法によって、気密圧に対する疲労強度を十分確保でき、信頼性が高い応力外皮構造1を構成することができる。
【0058】
また、本実施形態の疲労強度改善方法によれば、上述したFSW重ね合わせ継手1Xの作用効果に加えて、摩擦攪拌接合装置50に取付けられた押圧ツール60で押圧して外側窪み穴41,43及び内側窪み穴42,44を形成するため、押圧ツール60を押圧させる機構及び水平移動させる機構を別途設ける必要がない。つまり、摩擦攪拌接合装置50は、攪拌軸52aを押圧する上下移動機構及び攪拌軸を水平方向に移動させる水平移動機構を予め備えているため、これら上下移動機構及び水平移動機構を利用することで外側窪み穴41,43及び内側窪み穴42,44を簡易に形成することができる。従って、大きな設備変更をする必要がなくて、コスト及び作業労力を低減できる。
【0059】
ここで、
図13は、疲労試験で破断した
図9に示す試験用FSW重ね合わせ継手100において、破断側である攪拌接合部140の終端部140bの近傍を示した拡大縦断面図である。
図13に示すように、攪拌接合部140の終端部140bから二点鎖線L3の下側110a部で、プレート110が破断する。
【0060】
内側窪み穴42、44のみが形成される継手によれば、内側窪み穴のみを形成すればよいので、工程数を減少することができる。
特に、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、1mm以上離れていることを特徴とするので、継手端部が、内側窪み穴の形成により薄くされることがなく、強度を低下させることがない。
さらに、前記内側窪み穴の中心位置が、前記攪拌接合部の始端部又は終端部から、前記内側窪み穴の半径以上離れていることを特徴とするので、継手端部が、内側窪み穴の形成により薄くされることがなく、強度を低下させることがない。
【0061】
図15に示すように、継手端部からの距離が1mm以上6mm以下の範囲では、内側窪み穴42、44のみを設けたもので実用上十分な破断寿命(10数万サイクル)を得ることができる。
図11のように、窪みを設けなかった場合には、疲労試験結果に大きなばらつきがあり、10万回をクリアできないものがあって問題であった。しかし、
図15のように、窪みを形成した場合には、疲労試験の結果が安定し、いずれの場合でも、10万回以上の繰り返しに耐えることが確認されている。また、
図10、
図11、
図12の疲労強度試験は、試験荷重が6.4kNであるのに対し、
図15では、試験荷重が8kNであり、
図15の結果は、
図10〜12の試験の数倍の効果を表している。
さらに、内側窪み穴42、44の位置は、内側窪み穴42、44の中心位置が、攪拌接合部の始端部又は終端部から、内側窪み穴42、44の半径(本実施例では2mm)以上離れていると、平均寿命が安定して長くなることがわかる。その理由は、内側窪み穴42、44の中心位置が、継手端部の始端部又は終端部から、内側窪み穴42、44の半径(本実施例では、2mm)以内であると、継手端部付近の板厚が薄くなり強度が低下し、押し込みの効果が弱められるためである。また、5mmを越えて遠ざかると、肉部分の流動が接合部付近まで届かず、圧縮応力を付与することができない。したがって、内側窪み穴42、44の中心位置が、攪拌接合部の始端部又は終端部から、内側窪み穴42、44の半径(本実施例では、2mm)以上、5mm以下が望ましい。
【0062】
以上、本発明に係るFSW重ね合わせ継手及びその疲労強度改善方法の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、本実施形態において、押圧ツール60を用いて各窪み穴41,42,43,44を形成したが、攪拌ツール52を用いて各窪み穴41,42,43,44を形成しても良い。この場合には、攪拌ツール52と押圧ツール60とが兼用されるため、摩擦攪拌接合後に、摩擦攪拌接合装置50の攪拌ツール52を押圧ツール60に取り換える必要がない。従って、作業効率を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態において、攪拌接合部40の始端部40a及び終端部40bの疲労強度を改善するために、それぞれ2個ずつ窪み穴(外側窪み穴41,43及び内側窪み穴42,44)を形成したが、1つの継手端部の疲労強度を改善するための窪み穴の数は、3個以上であっても良く、適宜変更可能である。
また、本実施形態において、押圧ツール60の突起61の形状、及び各窪み穴41,42,43,44の形状は円筒状であるが、これらの形状は適宜変更可能であり、例えば円錐状であっても良い。