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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-155266(P2015-155266A)
(43)【公開日】2015年8月27日
(54)【発明の名称】船艇
(51)【国際特許分類】
   B63B 5/24 20060101AFI20150731BHJP
   B63H 11/02 20060101ALI20150731BHJP
【FI】
   B63B5/24 A
   B63B5/24 103
   B63H11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-31240(P2014-31240)
(22)【出願日】2014年2月21日
(71)【出願人】
【識別番号】398008099
【氏名又は名称】浜口ウレタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】浜口 弘睦
(57)【要約】
【課題】人や荷物などの積載物を安定的に載せることができるとともに浅瀬であっても円滑に航行することができる船艇を提供する。
【解決手段】船艇100は、船底101とフロート体104とを備えている。船底101は、船艇100の外側の底部を構成するとともに船艇100における人や荷物などの積載物を載せられる部分であり、硬質ウレタン発泡体で構成されている。フロート体104は、フロート体104は、船艇100の船首から舷側を構成するとともに船艇100に浮力を与える部分であり、平面視でU字状の円柱体で構成されている。このフロート体104は、袋状の外皮体105の内側に硬質ウレタン発泡体110が充填されて構成されている。また、フロート体104の内部は、隔壁108によって複数の区画109に仕切られている。この場合、互いに隣接する区画109間においては、一方の区画109が他方の区画109に入り込んで構成されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浸かる底面および同底面の反対側に人が載る床面がそれぞれ形成された硬質ウレタン発泡体製の船底と、
前記船底の周囲のうちの少なくとも一部に配置されて同船底に対して少なくとも上方に向かって設けられた硬質ウレタン発泡体製のフロート体とを備えることを特徴とする船艇。
【請求項2】
請求項1に記載した船艇において、
前記フロート体は、
シート材を袋状に形成した外皮体内に前記硬質ウレタン発泡体を収容して構成されていることを特徴とする船艇。
【請求項3】
請求項2に記載した船艇において、
前記外皮体は、
内部空間が少なくとも2個以上の区画を備えて構成されていることを特徴とする船艇。
【請求項4】
請求項3に記載した船艇において、
前記区画は、
前記外皮体の内部空間内を仕切るシート材からなる隔壁によって形成されていることを特徴とする船艇。
【請求項5】
請求項4に記載した船艇において、
前記隔壁は、
前記フロート体の横断面積よりも大きな面積で構成されていることを特徴とする船艇。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した船艇において、
前記区画は、
互いに隣接し合う前記区画間で一方の区画を構成する前記硬質ウレタン発泡体が他方の区画を構成する前記硬質ウレタン発泡体の内側に入り込んでいることを特徴とする船艇。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1つに記載した船艇において、
前記フロート体は、
前記船底の周囲における前記船艇の前進方向後ろ側以外の部分に設けられていることを特徴とする船艇。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載した船艇において、さらに、
前記船艇を推進させる推進装置を備え、
前記推進装置は、
水を噴射するジェットウォータ式であることを特徴とする船艇。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体が硬質ウレタン発泡体で構成された船艇に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船体の一部に硬質ウレタン発泡体を用いた船艇がある。例えば、下記特許文献1には、棒状に延びる2つの硬質ウレタン発泡体製のフロート本体間に人が載る部分となる前板(前部足のせ板)および後板(後部座板)をそれぞれ架設した組立式簡易ボートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−276890号公報
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載した組立式簡易ボートにおいては、人や物が載る前板および後板が2つのフロート本体上に載置された構成であるため、前板上および後板上での安定性が欠けるという問題がある。また、上記組立式簡易ボートにおいては、人や物の重量に加えて前板および後板の重量によってもフロート本体が水面下に沈む量が増加するため、浅瀬の航行が困難となるとともに沈み量を抑えるためには前板および後板の大きさが制限されるという問題があった。
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、人や荷物などの積載物を安定的に載せることができるとともに浅瀬であっても円滑に航行することができる船艇を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、水面に浸かる底面および同底面の反対側に人が載る床面がそれぞれ形成された硬質ウレタン発泡体製の船底と、船底の周囲のうちの少なくとも一部に配置されて同船底に対して少なくとも上方に向かって設けられた硬質ウレタン発泡体製のフロート体とを備えることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、船艇は、人が載る床面が形成された船底が硬質ウレタン発泡体で構成されるとともに、この硬質ウレタン発泡体製の船底の周囲のうちの少なくとも一部に硬質ウレタン発泡体製のフロート体を備えて構成されている。これにより、船艇は、人や荷物などの積載物が載せられる部分が船底であるため、水上において積載物を安定的に載せることができるとともに、船底自体が浮力を有しているため水面下への沈み量を抑えることができ浅瀬であっても円滑に航行することができる。
【0008】
この場合、硬質ウレタン発泡体とは、NCO(イソシアネート)基を2個以上有するポリイソシアネートとOH(ヒドロキシル)基を2個以上有するポリオールとを、触媒(例えば、アミン化合物など)、発泡剤(例えば、水やフルオロカーボンなど等)および整泡剤(例えば、シリコーンオイル)など(以下、これらを「硬質ウレタン材料等」という)と混合して泡化反応と樹脂化反応とを同時に行わせることによって得られる均質なプラスチック発泡体である。また、本願発明における硬質ウレタン発泡体は、圧縮強さ(10%圧縮)が少なくとも2.0kgf/cm2以上である。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記船艇において、フロート体は、シート材を袋状に形成した外皮体内に硬質ウレタン発泡体を収容して構成されていることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、船艇は、フロート体がシート材を袋状に形成した外皮体内に硬質ウレタン発泡体を収容して構成されているため、フロート体の形状に形成した外皮体に硬質ウレタン材料等を注入することによって容易にフロート体を成形できるとともに成形したフロート体を外皮体で保護して損傷および劣化を抑えることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記船艇において、外皮体は、内部空間が少なくとも2個以上の区画を備えて構成されていることにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、船艇は、外皮体の内部空間が少なくとも2個以上の区画を備えて構成されているため、外皮体内の区画ごとに硬質ウレタン材料等を充填することによってフロート体が大型であっても精度よく成形することができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記船艇において、区画は、外皮体の内部空間内を仕切るシート材からなる隔壁によって形成されていることにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、船艇は、区画が外皮体の内部空間内を仕切るシート材からなる隔壁によって形成されているため、外皮体を小さく折り畳むことができフロート体を製造する前の外皮体単体での保管が容易となる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記船艇において、隔壁は、フロート体の横断面積よりも大きな面積で構成されていることにある。この場合、横断面積とは、フロート体の長手方向または中心線に対して直交する平面での断面積である。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、船艇は、隔壁がフロート体の横断面積よりも大きな面積で構成されているため、区画内への硬質ウレタン材料等の注入量および発泡時の体積膨張のバラツキを吸収することができ、フロート体を製作し易くすることができる。また、船艇は、隔壁がフロート体の横断面積よりも大きな面積で構成されているため、この隔壁を介して互いに隣接する2つの区画のうちの一方に硬質ウレタン材料等を注入して硬化させた後に他方の区画に硬質ウレタン材料等を注入することによって一方の区画の硬質ウレタン発泡体を他方の区画の硬質ウレタン発泡体内に入り込ませることができる。すなわち、本発明によれば、区画の集合体であるフロート体を一体的に形成することができるため、フロート体の強度を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記船艇において、区画は、互いに隣接し合う区画間で一方の区画を構成する硬質ウレタン発泡体が他方の区画を構成する硬質ウレタン発泡体の内側に入り込んでいることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、船艇は、互いに隣接し合う区画間において、一方の区画の硬質ウレタン発泡体が他方の区画の硬質ウレタン発泡体の内側内に入り込んでいるため、区画の集合体であるフロート体を一体的に形成することができ、フロート体の強度を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、前記船艇において、フロート体は、船底の周囲における船艇の前進方向後ろ側以外の部分に設けられていることにある。
【0020】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、船艇は、フロート体が船底の周囲における船艇の前進方向後ろ側以外の部分に設けられているため、船艇に十分な浮力を確保しながら船底における船艇の進行方向前側から両側面に掛けてフロート体で保護することができ、水面上に障害物が散乱する水域での耐久性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明の他の特徴は、前記船艇において、さらに、船艇を推進させる推進装置を備え、推進装置は、水を噴射するジェットウォータ式であることにある。
【0022】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、船艇は、ジェットウォータ式の推進装置を備えているため、船艇の推進装置としてスクリュー型の推進装置を用いた場合に比べて浅瀬や水面上に障害物が散乱する水域で航行し易いとともに人命救助艇としても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る船艇の外観構成の概略を示す平面図である。
図2図1に示した船艇の外観構成の概略を示す側面図である。
図3図1に示した船艇の外観構成の概略を示す正面図である。
図4図1に示した船艇の外観構成の概略を示す背面図である。
図5図1に示した5−5線から見たフロート体の一部拡大断面図である。
図6】本発明の変形例に係る船艇の外観構成の概略を示す斜視図である。
図7】本発明の変形例に係る船艇の外観構成の概略を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る船艇の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る船艇100の外観構成の概略を示す平面図である。また、図2は、図1に示した船艇100の外観構成の概略を示す側面図である。また、図3は、図1に示した船艇100の外観構成の概略を示す正面図である。また、図4は、図1に示した船艇100の外観構成の概略を示す背面図である。この船艇100は、数名の人が載り込むことができる船外機付きのボートである。
【0025】
(船艇100の構成)
船艇100は、船底101を備えている。船底101は、船艇100における水に浸かる底面101aを有した底部を構成するとともに船艇100における人や荷物などの積載物(図示せず)を載せる床面101bを有した船上を構成する部分であり、硬質ウレタン発泡体で構成されている。より具体的には、船底101は、互いに対向する2つのポリ塩化ビニル樹脂製のシート材の間にポリエステル樹脂製やガラス繊維製の糸(図示せず)を縦方向に無数に配置してこれら2つのシート材を互いに引き合うようにした袋体内に硬質ウレタン材料等(図示せず)を注入して硬化させたボード材によって構成されている。
【0026】
ここで、硬質ウレタン発泡体は、硬質ウレタン材料等、具体的には、NCO(イソシアネート)基を2個以上有するポリイソシアネートとOH(ヒドロキシル)基を2個以上有するポリオールとを、触媒(例えば、アミン化合物など)、発泡剤(例えば、水やフルオロカーボンなど等)および整泡剤(例えば、シリコーンオイル)などと混合して泡化反応と樹脂化反応とを同時に行わせることによって得られる均質なプラスチック発泡体である。また、本願発明における硬質ウレタン発泡体は、圧縮強さ(10%圧縮)が少なくとも2.0kgf/cm2以上である。
【0027】
本実施形態においては、船底101は、船艇100の右舷側半分の船底101を構成する右舷側ボード材102aと左舷側半分の船底101を構成する左舷側ボード材102bとが互いに接着剤によって接合されて平面視で船艇100の船尾から船首側に向かって延びる砲弾型に形成されている。この場合、右舷側ボード材102aおよび左舷側ボード材102bは、船艇100の船尾から船首側に向かって延びた後上方に反って形成されており、これらの右舷側ボード材102aと左舷側ボード材102bとは船底101の中央部となる接合部分が下方に凸状に張り出した断面がV字状になるように互いに接合されている。
【0028】
また、右舷側ボード材102aおよび左舷側ボード材102bには、図示しない積載物が載せられる床面101bに右舷側ボード材102aおよび左舷側ボード材102bの各内部に硬質ウレタン材料等を注入するための注入口(図示せず)および右舷側ボード材102aおよび左舷側ボード材102bの各内部に硬質ウレタン材料等を注入する際に右舷側ボード材102aおよび左舷側ボード材102bの各内部に内から空気を抜くための排出口(図示せず)がそれぞれ形成されている。そして、これらの各注入口および各排出口は、ポリ塩化ビニル樹脂製のシート材からなる蓋103がそれぞれ接着固定されて塞がれている。
【0029】
この船底101における船艇100の縁部には、フロート体104および艫(とも)板112が設けられている。これらのうち、フロート体104は、船艇100の船首から舷側を構成するとともに船艇100に浮力を与える部分であり、平面視でU字状の円柱体で構成されている。このフロート体104は、袋状の外皮体105の内側に硬質ウレタン発泡体110が充填されて構成されている。
【0030】
外皮体105は、硬質ウレタン材料等を収容してフロート体104を形作るととともに硬化した硬質ウレタン発泡体110を覆って保護する部材であり、ポリ塩化ビニル樹脂製のシート材を筒状に形成して構成されている。より具体的には、外皮体105は、図5に示すように、ポリ塩化ビニル樹脂製のシート材を筒状に形成した複数の小筒体106を互いに接着によって連結して1つのフロート体104を構成している。この場合、各小筒体106のうちの船艇100の船尾となる2つの小筒体106は、船艇100の後方に向かって外径が絞られるとともに後方側の先端部に外皮体105と同じ樹脂材製の円形のシート材が接着固定されて塞がれている。本実施形態においては、フロート体104は、11個の小筒体106を連結して一体的に構成されている。
【0031】
また、各小筒体106には、筒体の両端部における船艇100の上側に注入口107aおよび排出口107bがそれぞれ形成されている。注入口107aは、各小筒体106内に硬質ウレタン材料等を注入するための貫通孔である。また、排出口107bは、各小筒体106内に硬質ウレタン材料等を注入する際に各小筒体106内から空気を抜くための貫通孔である。これらの注入口107aおよび排出口107bは、外皮材105と同じ樹脂製のシート材からなる蓋107cがそれぞれ接着固定されて塞がれている。
【0032】
一方、各小筒体106の内部には、各小筒体106における排出口107b側の端部に隔壁108がそれぞれ設けられている。これらの隔壁108は、フロート体104の内部を仕切って複数の区画109を形成するための部材であり、外皮体105と同じ樹脂製のシート材で構成されている。より具体的には、各隔壁108は、各小筒体106の横断面積よりも大きな面積(接着代を除く)の円形に形成されており、その縁部が各小筒体106の内壁面に接着固定されている。これにより、フロート体104の内部は、互いに隣接する区画109の一方の一部が他方の一部に入り込んだ状態で複数の区画109に仕切られて構成されている。本実施形態においては、フロート体104は、11個の区画109に仕切られて構成されている。なお、図1においては、隔壁108を破線で示している。
【0033】
また、この場合、1つの区画109の容積は、好ましくは100リットル〜200リットル、より好ましくは130リットル〜170リットル、さらに好ましくは140リットル〜160リットルである。本実施形態においては、1つの区画109の容積は、150リットルに設定されている。なお、図1においては、11個の区画109のうちの1つの区画109をハッチングによって示している。
【0034】
硬質ウレタン発泡体110は、フロート体104内に充填されてフロート体104に浮力を与えるものであり、前記船底101内に充填した硬質ウレタン発泡体と同じもので構成されている。この硬質ウレタン発泡体110は、フロート体104内における各区画109毎に収容されている。また、フロート体104の外側面には、フロート体104の外側面を保護するために同外側面から突出した状態で硬質樹脂材からなる帯状のバンパー111が設けられている。
【0035】
艫板112は、フロート体104とともに船艇100の船尾を構成する部品であり、金属製の板状体で構成されている。この艫板112は、船底101の床面101b上における後端部分およびフロート体104の後端部側の内側面に対してそれぞれ接着剤によって固定されている。艫板112には、推進装置113が設けられている。本実施形態においては、艫板112は、船底101の後端部から所定の幅(船底101の後端部に人が足を掛けたりまたは腰掛けたりできる程度の幅)だけ前方の位置に取り付けられている。
【0036】
推進装置113は、船艇100を前進または後進させるための推進力を発生させる機械装置である。本実施形態においては、推進装置113は、図示しない原動機(例えば、エンジンや電動モータ)が発生させる回転駆動力を用いて船底101下の水中から給水口113aを介して水を吸引して噴射口113bから噴出させる所謂ウォータジェット式の船外機である。この推進装置113は、艫板112に対して推進装置113の向きを変えて噴射口113bの向きを変更するための舵棒113cが設けられている。なお、船艇100における船底101の床面101b上には、推進装置113を駆動させるための図示しないエネルギ源(例えば、燃料タンクやバッテリ)が設けられている。
【0037】
(船艇100の製造)
次に、船艇100の製造過程について説明する。船艇100を製造する作業者は、まず、船底101を製造する。具体的には、作業者は、硬質ウレタン発泡体が収容されていない右舷側ボード体102aおよび左舷側ボード体102bをそれぞれ用意した後、図示しない硬質ウレタン注入装置を用いて右舷側ボード体102aおよび左舷側ボード体102bの各注入口から硬質ウレタン材料等を注入する。次いで、作業者は、右舷側ボード体102aおよび左舷側ボード体102bの各注入口および各排出口に蓋103を接着固定して塞いだ後、右舷側ボード体102aおよび左舷側ボード体102bとを接着固定することにより船底102を製作する。
【0038】
次に、作業者は、フロート体104を製造する。具体的には、作業者は、フロート体104を構成する小筒体106を用意する。この場合、小筒体106には、筒体内に隔壁108が予め接着固定されているとともに、船底100の船尾を構成する小筒体106は一方の端部が有底筒状に塞がれている。本実施形態においては、作業者は、11個の小筒体106を用意する。次いで、作業者は、各小筒体106を接着固定により互いに連結する。これにより、硬質ウレタン発泡体110が収容されていない状態のフロート体104の半製品が得られる。
【0039】
次いで、作業者は、図示しない硬質ウレタン注入装置を用いて各小筒体106ごとに硬質ウレタン材料等を注入する。この場合、作業者は、互いに隣接する小筒体106間で時間差を設けて硬質ウレタン材料等を注入する。すなわち、作業者は、互いに隣接する小筒体106間において一方の小筒体106内に注入した硬質ウレタン材料等が少なくとも半硬化した後に他方の小筒体106内に硬質ウレタン材料等を注入する。
【0040】
これにより、互いに隣接する2つの区画109間においては、隔壁108が小筒体106の横断面積よりも大きく形成されているため、一方の区画109に注入された硬質ウレタン材料等が他方の区画109内に進入した状態で硬化する。この場合、小筒体106は、隔壁108に隣接して排出口107bが設けられているとともにこの排出口107bとは反対側に注入口107aが設けられているため、小筒体106内の空気、特に、長手方向に凸状に膨らんだ隔壁108と小筒体106の内壁面との間の空気を効果的に排気することができる。これらの結果、フロート体104は、互いに隣接する区画109の一方の一部が他方の一部に入り込んだ状態で形成される。本実施形態においては、互いに隣接する区画109の一方の中央部が他方の一中央部に最も深く入り込んで構成されている。
【0041】
次いで、作業者は、各小筒体106の各注入口107aおよび各排出口107bに蓋107cを被せて接着固定することにより各注入口107aおよび各排出口107bを塞ぐ。次いで、作業者は、バンパー111を用意した後、フロート体104の外側面の中央部にフロート体1034の長手方向に沿って接着固定する。これにより、フロート体104が製作される。
【0042】
次に、作業者は、船底101とフロート体104とを組み付ける。具体的には、作業者は、艫板112を用意した後、船底101、フロート体104および艫板112を互いに接着固定する。この場合、作業者は、船底101の外縁部における船艇100の船首側および舷側を囲むようにフロート体104を配置するとともに、船底101の上方にフロート体104の側面(好ましくは、フロート体104の高さの1/3以上)が位置するようにフロート体104を船底101に接着固定する。
【0043】
次に、作業者は、推進装置113を用意して艫板112に取り付ける。これにより、船艇100が完成する。なお、推進装置113は、必ずしも船艇100の製造過程で取り付ける必要はなく、船艇100を使用する際に現地で取り付けることもできる。
【0044】
(船艇100の作動)
次に、上記のように構成した船艇100の作動について説明する。船艇100を使用する使用者は、船艇100を用意して水上に配置する。この場合、使用者は、船底101およびフロート体104が主として硬質ウレタン発泡体で構成されているため、船艇100の定員が6名以下であれば、推進装置113を船艇100から取り外した状態で人手によって持ち運びすることができる。
【0045】
次に、使用者は、船艇100内、具体的には、船底101の床面101b上に乗り込んで推進装置113の作動を開始させて船艇100を航行させることができる。この場合、船艇100は、人や荷物などの積載物(図示せず)が直接載せられる部分が船底101であるため、水上において積載物を安定的に載せることができる。また、船艇100は、積載物が直接載せられる船底101が硬質ウレタン発泡体で構成されて船底101自体が浮力を有しているため、船底101およびフロート体104の水面下への沈み量を抑えることができる。これにより、船底100は、浅瀬や水面上に障害物が浮遊する水域であっても円滑に航行することができる。
【0046】
また、船艇100は、船底101が硬質ウレタン発泡体で構成されており、積載物が載せられる床面が空気を利用したゴムボートなどに比べて剛性が高いため、船上での安定性が向上するとともに車椅子などの特に安定性が必要な機器も積むことができる。また、船艇100は、船底101およびフロート体104がそれぞれ硬質ウレタン発泡体110で構成されているため、船底101やフロート体104が損傷を受けた場合であっても直ちに浮力を失うことはない。また、船艇100は、フロート体104内の各区画109が隣接する区画109の一部に入り込んで構成されているため、フロート体104全体の剛性が高く高速での航行も可能である。
【0047】
また、船艇100は、推進装置113がジェットウォータ式であるため、船艇100の推進装置113としてスクリュー型の推進装置を用いた場合に比べて浅瀬や水面上に障害物が散乱する水域で航行し易いほか、人命救助艇としても用いることができる。すなわち、船艇100は、推進装置113を作動させた状態で水難者に近づくことができるとともに、水難者は推進装置113に掴まって船上に上がることもできる。また、船艇100は、船底101やフロート体104にキズ、凹みまたは欠けなどの損傷が生じた場合には、これらの損傷個所に樹脂製のパテを埋めて補修することもできる。
【0048】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下で説明する各変形例においては、上記実施形態と同様の構成部分に同じ符号を付して説明は適宜省略する。
【0049】
例えば、上記実施形態においては、船底101は、右舷側ボード体102aと左舷側ボード体102bとを接合部分が凸状に張り出すように接合して構成した。これにより、船底101の上面、すなわち、船上の床面は中央部が凹状に凹んだV字形状となる。しかし、船底101は、水面に浸かる底面101aおよび同底面101aの反対側に人が載る床面101bがそれぞれ形成された硬質ウレタン発泡体で構成されていれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。したがって、例えば、船底101は、1つまたは複数の硬質ウレタン発泡体を収容した1つのボード材で構成することができるとともに、2つまたは3つ以上のボード材を互いに接合して構成することができる。また、船底101は、底面101aおよび船上の床面101bを平坦な形状で構成することもできる。なお、船艇101の床面101bを中央部が凹状に凹んだV字形状にすることにより、船内に進入した水を中央部に集め易くなるため進入した水の汲み出しが容易となる。また、艫板112にドレン孔を設けることによって船内に進入した水を容易に排出することができる。
【0050】
また、上記実施形態においては、フロート体104を構成する硬質ウレタン発泡体119を外皮体105で覆って構成した。しかし、フロート体104は、外皮体105を省略して硬質ウレタン発泡体110を露出させた状態で構成することもできる。また、外皮体105を使用する場合においても、外皮体105はポリ塩化ビニル樹脂材以外の樹脂材、布材または金属製シート材を用いることができる。なお、船底101についてもフロート体104と同様に樹脂製シート材を省略して硬質ウレタン発泡体を露出させた状態で構成することもできる。
【0051】
また、上記実施形態においては、フロート体104は、内部を11個の区画109で仕切って構成した。しかし。フロート体104は、10個以下または12個以上の区画109で仕切って構成してもよい。このようにフロート体104の内部に複数の区画109で仕切ることによって硬質ウレタン材料等をムラなく高精度かつ効率的に効果させることができる。なお、フロート体104は、内部を仕切らず1個の空間で構成できることは当然である。すなわち、フロート体104は、隔壁108を省略して構成することもできる。この場合、フロート体104は、複数の小筒体106を連結して1つのフロート体104を形成してもよいし、1つの外皮体105で1個のフロート体104を形成することもできる。
【0052】
また、上記実施形態においては、フロート体104の内部に設けた隔壁108は、各小筒体106の横断面積よりも大きな面積に形成した。しかし、隔壁108は、各小筒体106の横断面積と同じ面積(接着代を除く)または各小筒体106の横断面積よりも小さな面積(接着代を除く)に形成することもできる。この場合、隔壁108の面積を各小筒体106の横断面積と同じ面積に形成することによってフロート体104の外表面の凹凸を抑えて滑らかな表面に形成することができる。また、隔壁108の面積を各小筒体106の横断面積よりも小さな面積に形成することによってフロート体104の外表面における隔壁108に対応する位置に凹状に凹んだ凹部を形成することができ、水上からフロート体104を介した船上へのアクセス、また船上からフロート体104を介した水上へのアクセスが容易となる。
【0053】
また、上記実施形態においては、フロート体104は、船底101の外縁部における船艇100の船首側および舷側を囲むように配置した。すなわち、フロート体104は、船底101の周囲における船艇100の前進方向後ろ側以外の部分に設けられている。しかし、フロート体104は、船底101の周囲のうちの少なくとも一部に配置されて船艇100の浮力を確保できればよい。したがって、フロート体104は、例えば、図6に示すように、船底101の全周を囲むように設けてもよい。この場合、図6に示した船艇100においては、船底101が1つの硬質ウレタン発泡体を樹脂シートで覆った一体形成体で構成されるとともに、この船底101の外縁部に平面視で五角形に組んだフロート体104を2段重ねで接合して構成されている。また、フロート体104は、五角形の一辺が1個の小筒体106で構成されている。なお、図6においては、蓋体103,107a,107bを省略している。また、船艇100は、平面視で五角形状以外の形状、例えば、平面視で五角形以外の多角形や円形に形成することもできる。
【0054】
また、上記実施形態においては、船艇100は、推進装置113をウォータジェット式の船外機で構成した。しかし、推進装置113は、船艇100を前進または後進させることができる推進力を発生させる装置であれば、必ずしも上記実施形態に限定されるものではない。したがって、船艇100は、原動機(例えば、エンジン(燃料タンク含む)や電動モータ(バッテリ含む))が発生させる回転駆動力を用いて船艇100下の水中でスクリューを回転させて推進力を得るスクリュー式の船外機を推進装置113として用いてもよい。また、推進装置113は、船外機だけではなく、船艇100に固定的に設けられた原動機で水流を発生させたりスクリューを回転させたりするものであってもよい。
【0055】
さらに、船艇100は、例えば、図6に示すように、推進装置113を省略して構成することもできる。この場合、船艇100は、図示しないオールなどの櫂(かい)を用いて人力で推進力を得るように構成することもできる。
【0056】
なお、船艇100は、推進装置113としてウォータジェット式の船外機を用いた場合には、例えば、図7に示すように、船艇100の船尾部分の高さを低くして水面との高低差を少なくしたアクセス部114を設けることができる。これによれば、船艇100は、推進装置113によって人が傷付けられる危険性が少ないとともに推進装置113によって沈み気味となる船尾部分に形成したアクセス部114を用いて水上に対するアクセスまたは水上からのアクセスが安全かつ容易となる。
【符号の説明】
【0057】
100…船艇、
101…船底、101a…底面、101b…床面、102a…右舷側ボード体、102b…左舷側ボード体、103…蓋、104…フロート体、105…外皮体、106…小筒体、107a…注入口、107b…排出口、107c…蓋、108…隔壁、109…区画、110…硬質ウレタン発泡体、111…バンパー、112…艫(とも)板、113…推進装置、113a…吸水口、113b…噴出口、113c…舵棒、114…アクセス部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7